自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

048 第40話 魔法の砲弾

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第40話 魔法の砲弾

1482年 8月30日 ノーフォーク沖10マイル地点 午前8時

その日、レイリー・グリンゲルとルィール・スレンティは、ノーフォーク沖を航行中の
軽巡洋艦クリーブランドの後部甲板にいた。

「魔法の砲弾、ですか。」

レイリーは、やや怪訝な表情でレイトン中佐に語りかけた。

「レイトン中佐から聞いた話では、命中率が格段に向上する砲弾、いわば魔法の砲弾の試射が、
このクリーブランドという艦で行われると聞いたんですが。」
「そう。時代を一新する新型砲弾だよ。これまで、高射砲弾というのは弾頭に時限式の信管を
取り付けて発射していたが、このクリーブランドが積んでいる砲弾は、ちょっと特殊な作りに
なっているんだ。」

レイトン中佐はどこか誇らしげな表情でレイリーに言った。


レイトン中佐に、新型砲弾の試射を見学しないかと言われたのは8月の12日である。
レイリーとルィールは、それまで新型無線機の開発に従事していた。
開発は依然難航していたが、ここ最近は徐々に先が見えつつあった。
レイリー達はようやく、袋小路から抜け出たと、やや安心していた。
2人はアインシュタイン博士の勧めで、気分転換も兼ねてこの試射に立ち会うことにした。

3人のもとに、クリーブランドの艦長であるトレンク・ブラロック大佐と、
砲術長のジョシュア・ラルカイル中佐が現れた。

「やあレイトン!久しぶりだな。」
「君こそ。すっかり偉くなったな。同期としては嬉しい限りだよ。」

レイトン中佐とブラロック大佐は互いに満面の笑みを浮かべながら握手を交わした。

「お知り合いで?」

ルィールがどこか呆けたような表情で聞いて来る。

「レイトンとはアナポリスの同期でね。おっと、自己紹介がまだでしたな。
私はクリーブランド艦長のトレンク・ブラロック大佐です。南大陸の使者に会えて光栄です。」
「同じく、砲術長のジョシュア・ラルカイル中佐であります。」

豪胆そうな艦長と比べて、砲術長のほうはどこか歯切れの悪い口調で自己紹介した。
レイリーとルィールは、冷静な顔つきで自己紹介を行った。

「前部甲板にいる技術者の紹介でも言った言葉だが、とりあえず言っておこう。
本日は新型砲弾の試射にご出席いただきありがとうございます。今回、この艦で試射を行う砲弾は、
VT信管と呼ばれる新型砲弾です。試射は舷側に装備されている5インチ連装両用砲を用いて行います。
発砲の際は両用砲塔に近付かぬよう、お願いします。と、こんなものかな。」
「ハハハ、上手いな。退官後は大手会社のセールスマンになれるな。」
「ああ、俺もそう思っとるよ。」

と、2人は声を上げて笑った。

「しかし、新鋭軽巡の艦長に選ばれるとは、貴様も出世街道を順調に進んでるな。」
「なあに、おれはまだ小物だよ。同期の中には海軍省に栄転した奴もいる。そいつに比べればまだまださ。」

と、ブラロック大佐は謙遜するが、まんざらでもないようだ。
彼が艦長を務める軽巡洋艦クリーブランドは、対空、対艦能力のバランスが取れた軽巡である。
基準排水量10000トン、全長186メートル、全長20・3メートル、速力は33ノット。
主砲は新式の54口径6インチ3連装砲4基12門に、5インチ連装両用砲6基12門。
機銃は40ミリ連装機銃8基16丁、20ミリ機銃20丁を搭載し、水偵4機を積める。
ブルックリン級軽巡の拡大発展型の意味合いが強いが、砲戦力、対空火力はブルックリン級より強力である。
主砲はこれまでの47口径6インチ砲に変わって、射程、貫徹力の向上した54口径6インチ砲が新たに採用されている。
ブルックリン級に比べると、主砲1基が少なく、砲戦力が低下しているが、その分、対空火力が向上している。
新装備の54口径砲は威力、射程は申し分なく、砲が少なくなった穴を埋められると上層部は見込んでいる。
両用砲も12門に増え、高高度から低高度の敵に対応しやすくなり、甲板各所に配備された40ミリ機銃、
20ミリ機銃もブルックリン級に比べて増えている。
このクリーブランド級は、今年から順次建造、就役する予定であり、最終的には30隻が竣工する見込みだ。
性能面からして、上層部はクリーブランド級を使い勝手の良い軽巡であると評価しており、今後の活躍に期待されている。

「こいつはいい艦だよ。お前の活躍次第では、クリーブランド級の増産も考えられるかも知れんぞ。」
「そいつはいい。造船所が喜ぶな。おっと、ショーが始まるまでもう時間が無いな。
ジョシュア、君の腕前、お客さん方に見せてもらえ。」
「はっ、微力を尽くしますよ。」

砲術長は少し引きつった笑顔を浮かべると、ブラロック大佐と共に艦内に戻っていった。

「本当なら、この新型砲弾の試射は8月12日から行われる予定だったが、輸送中の事故があって
今日に延期になったようだ。ちなみにこの砲弾の試射は本当は国家機密で、あまり知らされていない。
だから、君たちがこの試射に立ち会える事は、ある意味幸運かもしれない。」

「幸運ですか。」

ルィールが納得したように頷いた。
レイリーは前方を航行する空母を見ながらレイトンに聞いた。

「レイトン中佐。試射をやるからには、目標が必要になるはずですが、その目標はあの艦に乗っているのですか?」
「そうだ。目標はこの艦の前を行くワスプが用意してある。今回は小型のリモコン飛行機を飛ばして、
それに向けて砲弾を撃つ。用意してあるリモコン飛行機は3機だ。」
「「3機?」」

レイリーとルィールは素っ頓狂な声を上げた。
アメリカ海軍の対空射撃は、空一面に砲弾をぶちまけるかの如く撃ちまくると聞いている。
訓練では実戦のように、狂ったようには撃ちまくらないが、それでも100発か200発程度は撃つと思っていた。
なのに、目標役はたった3機のラジコン飛行機である。拍子抜けしないほうがおかしい。

「それって、少なすぎなんじゃ・・・・」

ルィールが理解できぬと言った表情で、レイトンに言った。

「君達もそう思うか。確かに、傍目から見れば少ないだろう。実を言うとね、高角砲の試射は実戦のように
無闇やたらに撃たないのだ。最初は単発発砲、次は連続斉射、最後に高高度の目標を単発発砲と、
この順番でやるのだ。でもね、本当なら3機も用意する必要なかった。理由は簡単、撃ち落されないからさ。」
「へっ?撃ち落されない?」

レイリーが気の抜けた口調で言う。

「そうだ。これまで、時限式の高角砲弾で何度かテストしているんだが、成績は最悪。
タイミングは合わないわ、発砲した砲弾が作動しないわで、試射でラジコン飛行機が撃ち落されたのは
見た事がないようだ。本来なら、どうせ当たらんのだから3機中2機のみでやってしまえと言う輩も
いたようだ。まっ、運が良ければ、ラジコン飛行機が落ちる瞬間を見られるかも知れんな。」

レイトン中佐はそう言いながら、自分達からやや離れた場所に陣取る撮影班を見た。
先ほど彼らに話を聞いたところ、彼らもラジコン飛行機が落ちるのを見た事がないという。

「8時30分に試射開始だから・・・・あと4・5分と言う所だな。」

レイトン中佐はほぼ無表情でそう呟いた。

やがて、8時30分になった。射撃を行うのは、左舷の1番両用砲である。
ワスプからラジコン飛行機が発艦し、時速150キロほどのスピードでクリーブランドの周囲を一周した。
クリーブランドは18ノットのスピードで航行し、艦体も安定している。

「さて、ショータイムだ。」

レイトン中佐が期待したような口調で呟く。
1分後に、ラジコン飛行機が高度500メートルほどで、クリーブランドと平行するように通り過ぎようとした。
その直後、1番両用砲の連装砲のうち、1つが火を噴いた。
ドォン!という発砲音が響いてから1秒後、ラジコン飛行機の至近距離に黒い花が咲いたと思った瞬間、
破片によってバラバラに打ち砕かれてしまった。
優雅に飛行していたラジコン飛行機の姿はなく、小さな破片が、紙ふぶきのようにパラパラと海面に撒かれた。
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」

鮮やかに決まったラジコン飛行機撃墜の反応は、沈黙であった。
しばらく沈黙が続いた後、撮影班から、

「おい、初めてラジコン機が落ちたぜ!」

と、何故か興奮気味な言葉が流れてきた。

「レイトン中佐。鮮やかに落とされましたね。」

ルィールの涼しげな言葉に、レイトン中佐ははっとなって答えた。

「あ、ああ。初回の初打席から見事なホームランだね。」

彼は今の状況を野球に例えながら答えた。
2分後に、ワスプから別のラジコン飛行機が発艦した。
そのラジコン飛行機は、左舷側に飛び去っていくと、やがて高度70メートル辺りで、雷撃機を模した格好で接近し始めた。
姿がハッキリし始めた直後、1番両用砲が再び発砲した。
今度は2本の砲身を用いての斉射だ。

「さて、今度は」

レイリーが言い終わる前にラジコン機の前方、後方で砲弾が炸裂した。
破片をもろに受けたラジコン機はこれまたバラバラに砕け散ってしまった。

「・・・・当たりでしたね。」

レイリーもまた、務めて平静な口調で言った。

続いて、3機目もワスプから発艦する。
この3機目は、水平爆撃機に擬して、クリーブランドの左舷側から上空に覆い被さって来た。
これに対し、クリーブランドの1番両用砲が発砲する。1回目と同じように、やはり砲1つのみの射撃である。
黒い粒のようなラジコン機のすぐ後ろ側で、砲弾が炸裂した。
その刹那、ラジコン機は全身火達磨になって墜落していった。

「あっ、当たった。」

どこか腑抜けたような声が聞こえた。
この日の試射はわずか20分ほどで終わってしまった。

「ショーはこれにて終了のようだが、何か感想はあるかな?」

レイトン中佐は少しばかり引きつった表情で2人に聞いた。

「率直に言って当たりすぎです。4発撃って全てが有効弾なんてはじめて見ましたよ。」

レイリーが控え目な笑みを浮かべながら言う。

「・・・・・私も同感ですが・・・・・もしかして、この新型砲弾には・・・・・」

ルィールが、声のトーンを徐々に小さくしたと思うと、突然考え事を始めた。
レイリーも彼女同様黙考を始めている。
その間に、先ほど顔を合わせた艦長と砲術長が彼らの下にやって来た。

「やあブラロック。君んとこの砲手は大した腕前だな。」
「いや、それほどでもないんだが。」
「砲手の腕は悪くはありませんが、全ての仕掛けは、あの砲弾ですよ。ところで」

ラルカイル砲術長が怪訝な表情で2人を見た後、レイトン中佐に聞いた。

「この特使の方々は、難しい顔をして何を考えているのです?」
「私に聞かれてもね。」

レイトン中佐は肩を竦めたが、2人は考えをやめて彼らに顔を向ける。

「大体見当が付きました。」

ルィールがまず喋りだした。

「あの新型砲弾は、もしかして探査魔法系の類が仕込まれていますね?」
「あなた方で言うなら、レーダーと呼ばれるものです。」

2人の言葉に、ラルカイル中佐とブラロック大佐はぎょっとなった。

「こいつはたまげた。VT信管のからくりを見破るとは。」
「か、艦長!」
「大丈夫です。口外はしませんよ。元々、機密事項というものには慣れていますから。」

レイリーは笑みを浮かべながら、やんわりとした口調で言う。

「頼みますよ、特使さん。でも、細かく教える事はできんから、大雑把に言う。
あの新型砲弾には、あんたらが言っていたように、小さなレーダーが付いている。砲弾に付けられた
レーダーは、発射直後に作動する。」

ブラロック大佐は、片方の手を高角砲弾に、もう片方を飛行物体に似せた。

「砲弾は、打ち上げられた後にレーダー作動させ、音波によって飛行物体の位置を常に掴んでいる。
そして、砲弾は飛行物体に近付く。すると、レーダーが一定の反応を捉え」

彼は近づけた手を、大きく左右に開いた。

「ドン!破片を飛び散らして相手に致命傷を与える。要するに、VT信管は目の付いた弾だな。」
「目の付いた・・・・弾。」

レイリーとルィールは、驚いた表情で互いの顔を見合わせた。
実を言うと、ミスリアルでも似たような研究があったのだ。
打ち出す砲弾サイズの光弾を、相手の至近で爆発させ、その威力で敵の軍を混乱させる。
という名目で、研究が行われていた。
だが、砲弾と同等の威力を持つ光弾に、自発的、それも自由意志で爆発させると言う事は困難であり、
結局、開発困難と言う事で研究は打ち切られた。
魔法で世界一と言われるミスリアルが出来なかった事を、アメリカはやってのけたのだ。

「魔法で出来なかった事を、アメリカは・・・いや、科学は出来た。」

ルィールは小さく呟いた後、どこか落胆したような表情を見せた。

「ん?何か悪い事言って・・・しまったかな?」

ブラロック大佐は、彼女がいきなり落ち込んでいる事に驚く。

「あっ、いえ。別に。」

ルィールがすぐに否定するが、いつもと違って歯切れが悪い。

「しかし、この砲弾さえあれば、艦隊の防空能力は飛躍的に向上するでしょう。
いやはや、アメリカは凄いものを開発したものです。」

レイリーは感嘆してそう言ったが、

「お気持ちは分かりますが、このVT信管はまだ製作中のものなので、問題点は色々あります。」
砲術長のラルカイル中佐が戒めるような口調で言った。
「この信管の精度は、先ほども見た通りピカ一です。しかし、未だに故障は多く、砲弾の特性故の問題は
残ったまま。それに、今さっきの試射で上げた好成績ですが、あれはたかだか100~200キロしか
出せぬ低速機。実際の戦場では、敵機はその2倍以上の300~400キロ以上、良ければ500キロ以上の
猛速で突っ込んで来ます。優秀な新型砲弾といえど、状況が違えば、今日のような好成績が出る事は非常に
難しいでしょう。」
「砲術長の言う通り。今やったのは訓練に過ぎない。実戦で百発百中とは、どんなベテランでも出来ん代物だ。
だから、今の訓練も、頭の中では話半分として理解した方が良い。」
「なるほど。」

レイリーは納得して大きく頷く。

「だが、このVT信管が実用化されれば、シホット共のワイバーンは急激に数を減らすだろう。
それだけは確かだな。」

と、ブラロック大佐は自慢げに言い放った。

ノーフォーク港に入港したのは午前10時であった。
クリーブランドから降りたレイリーとルィールは、レイトン中佐に早速感想を聞かれた。

「今日はどうだったかね?見応えは充分にあったと思うが。」

彼の問いにまず、ルィールが答えた。

「その通りですね。シホールアンルの防空部隊は北大陸、南大陸の中で一番の命中精度を持つと
言われていますけど、今日の試射はそれ以上です。あの試射だけを見るなら、神業ですね。」

普段冷静な彼女にしては珍しく、興奮と悔しさの混じった口調である。

「正直言って、やられたなあと思いましたね。あたしは今まで、魔法に敵う物は無いと思ってましたが、
今日の試射で、いや、この国に来てから色々思い知らされました。」
「私としても、彼女と同感です。今日は本当に勉強になりました。」

2人はいつになく、感嘆した口調で感想を述べた。

「そうか。なら連れて来た甲斐があったな。しかし、VT信管の特性に早々と気付いたところは驚かされたよ。
流石は世界一の魔法使いだ。頭の回転が速い。」

逆にレイトン自身も、2人の反応には驚かされている。
あの時点で、VT信管を初めて見、その原理を素早く見抜いたのはこの2人だけである。

「その天才達を手を組めた我が合衆国は幸運だったな。」

レイトン中佐はうんうん頷きながら呟いた。それを聞いた2人も、
(このような国を敵に回さなくて良かった)
と心の底から思っていた。

その後、3人は軽い休息を取った後、ロスアラモスに戻って行った。

1482年 8月31日 午前10時 エンデルド

第24竜母機動艦隊の旗艦である竜母モルクドの司令官室で、リリスティ・モルクンレル中将は
乱暴な仕草でドアを開き、思い切り閉めた。

「何が目標達成よ!石頭っ!!」

そう言いながら、彼女は制帽をベッドに叩き付けた。
気を落ち着けるために、水の入ったビンを取り出してコップに水を入れる。
半分ほどまで入れると、彼女はぐっと一息に飲み干した。
荒立っていた息が次第に収まり始め、頭もようやく冷めてくる。

「はぁっ・・・・」

彼女はため息をつきながら、ちらりと舷窓に視線を送る。
昨日までは、彼女の旗艦であったクァーラルドがモルクドの右舷に停泊しており、この窓から見えたのだが、
今日はその勇姿を見ることが出来ない。
クァーラルドは、25日のバゼット海海戦で米艦載機の攻撃を受けた。
爆弾2発、魚雷1本を浴びた結果、中破の判定を受け、修理のため本国に回航されたのだ。

「疲れた。」

リリスティはか細い声音でそう呟くと、ベッドに仰向けに倒れこんだ。

この日の8時、彼女は経過報告のため、西艦隊司令部に赴いた。
そこで、海戦の報告を終えた後、西艦隊司令長官であるカランク・ラカテルグ大将から褒めの言葉を貰った。

「よくやった、モルクンレル。バルランドの護送艦隊を全滅させ、アメリカの小型空母を2隻撃沈。
そして、この間の海戦では、こっちもやられたが、敵正規空母2隻を大破させた。これで、目的は達成できたな。」

丸顔のラカテルグ大将は、満面の笑みを浮かべながらそう言った。

「ありがとうございます。しかし、私としては少々理解しかねぬ部分があります。」
「ほう・・・・言ってみたまえ。」

一瞬、ラカテルグ大将の目が冷たいものを帯びたが、リリスティは気にせずに説明した。
「私は、25日の海戦の途中報告の際、アメリカ正規空母2隻を大破、うち1隻は大火災、速力低下との
文を付け加えています。あの時、わが方の損害は無視できぬものでしたが、後一撃を加えれば、
敵の正規空母を最低でも1隻、仕留められました。長官」

リリスティは、執務机に手を置き、ずいと前のめりになる形でラカテルグ大将に近付いた。
傍目から見れば、威圧するような感じである。

「なぜ、作戦終了、反転せよと命じたのですか?」
「君。答えは簡単では無いか。」

ラカテルグ大将は、どこか嘲るような眼つきでリリスティを見た。
お前は馬鹿か?と言っているような眼つきだ。

「元々、バルランドの護送艦隊を全滅させ、後から出てきたアメリカ空母を撃沈、もしくは当分
しゃしゃり出て来れないようにすることが目的だったのだ。小型とは言えライル・エグ級に相当する
空母を2隻撃沈し、敵の精鋭機動部隊の一部である、正規空母2隻も大破できた。
見たまえ、君の言った通りの結果では無いか。」
「足りません!」

リリスティはラカテルグに叩きつけるように言う。

「確かに小型空母は沈めましたが、私の本当の目的は、敵精鋭機動部隊を一部でもいいから
“沈めるか、悪くても大破”させる、と言うことだったのです。あの時はあと一歩で、最低でも
一番傷ついたレキシントン級は撃沈できました。雑魚を沈めても、本命を沈めなければ意味がありません!」
「その雑魚を沈めるのにワイバーン40騎喪失。足腰叩きのめそうとしただけで自軍の竜母3隻、戦艦1隻損傷、
ワイバーン89騎喪失・・・・犠牲が大きいのにまだ続けるというのかね?」
「う・・・・・ですが、あと一押しで、敵空母は撃沈できました。ワイバーン隊の指揮官も
私と同様の意見を述べていました。」
「対空砲火はグンリーラ海戦やガルクレルフ沖海戦の時と比べて向上している。
確かに米空母を撃沈できたかもしれない。だがね、モルクンレル中将。ワイバーンを失ったら、
竜母部隊としての以降の作戦行動は出来なくなってしまうぞ。」

リリスティは、次第に頭が熱くなるような感じに見舞われた。
あの時、彼女が帰投命令を出した時、ワイバーン隊の指揮官や、第2部隊、各艦の艦長までもが
戦闘を続けて欲しいと言い募ってきた。
リリスティは部下達の言葉に打たれ、再度反転して敵機動部隊に向かおうとした。
第24竜母機動艦隊は、その時点での犠牲は大きかった。
それでも戦闘ワイバーン74騎、攻撃ワイバーン53騎が出撃可能であった。

竜騎士達も早く米空母に止めを刺したいと思っていた。
だが、西艦隊司令部は執拗に反転命令を繰り返した。
命令に逆らえば、いくら名門貴族出の軍人。皇帝と親しいリリスティと言えど、今のポストから
解任されるのは確実である。
リリスティは断腸の思いで、この恥ずべき命令を遵守したのだ。

「現場には現場の状況と言うものがあります!犠牲は大きかったですが、余力を残している内は
戦果拡大を狙うのは当然」
「くどい!」

ラカテルグ大将は、顔を真っ赤にして怒鳴った。

「いくらワイバーンの予備が控えておるからとは言え、戦果充分の上に犠牲を増やす事は無い。
貴様はあたらに部下を殺すために機動部隊を任されたのか!?」
「・・・・・!!」

リリスティはこの男を殴り倒してやろうかと思った。
彼女自身、剣術、格闘術の使い手だ。皇帝のオールフェスとも、模擬戦闘を何度もやった事はある。
ラガテルグのように、陸上勤務中心で昇進して来た中年男など、あっという間に叩きのめす事が出来る。
だが、軍に入って培った自制心が、暴発しかけた心を抑えた。
「いいえ。私は味方を勝利させるために艦隊を任されました。部下をあたら殺すために任された訳」
「とにかく議論は終わりだ。」

ラカテルグ大将は興味を無くした、と言わんばかりの表情で彼女を見つめた。

「犠牲は大きいが、戦果は充分だ。これで、奢り高ぶる南大陸の馬鹿共も、アメリカ軍の不甲斐なさに
やる気をなくしているに違いない。君の案は実に素晴らしいものだった。」

彼はそう言い終えると、先ほどまで読みかけていた書類に視線を移した。

「後は戦力回復に努めたまえ。戦争はこれからだ。」

大将はそう付け加えながら、出口の方向に顎をしゃくった。


それが、今朝の出来事。

「実に素晴らしい・・・・ふん。現場の声が分からないくせに、よく言う。」

リリスティはそうぼやくと、姿勢を起こした。

「あたらに部下を殺す訳ではないのに・・・・・・」

呟いてから、彼女は頭を掻いた。

「今度は、いつ奴らと会えるのかなぁ。」

彼女はベッドから立ち上がり、自分の机にへと進む。机まで歩くと、引き出しから数枚の紙を出した。

紙には、アメリカ軍正規空母のイラストが描かれている。
イラストの片隅には、それぞれの名前が記されていた。

「あの海戦で出て来た正規空母は、レキシントン級とヨークタウン級。レキシントン級は爆弾10発程度、
ヨークタウン級には5、6発当てている。少なくとも、2ヶ月かそこらかは修理が必要ね。
と、なると、残りはあと3、4隻。」

ふと、彼女はカレンダーに目を向けた。
カレンダーには、会議の日は黒いサイン、訓練期間は緑のサイン、作戦期間は赤いサインと、
3種類のサインで埋められている。
カレンダーは、10月の下旬辺りに赤いサインが記されていた。



858 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/05/31(木) 20:42:05 ID:4CUjn9IY0
852氏 元の世界ですが、まずはヨーロッパ戦線からです。
ヨーロッパ戦線は、8月にフランスのパリが無血開城されますが、ドイツ軍はこれまでの消耗がたたって
更なる攻勢を企図することが出来ず、今は英仏軍との航空戦のみが盛んに行われています。
一方で大西洋方面ではドイツ海軍Uボート部隊は、一時は英国を干上がらせる勢いで連合国輸送船を沈め
まくりましたが、6月から8月にかけては逆にUボート部隊のほうが大損害を被り、優位は連合国側に
奪われました。

一方、日ソ戦争ですが、42年の4月から、蘭印や英国からの物資補給が定数に届き始め、燃料事情は
改善されつつあります。
6月には、再びソ連軍が大攻勢を開始しましたが、攻勢軍が逆に日本軍に逆包囲されてわずか1週間で
攻撃は終了しました。
あっけない攻勢失敗によって、ソ連軍は再び満州国境まで押し戻されました。
8月には帝國海軍機動部隊がサハリンやカムチャッカを襲撃し、ソ連軍に多大な損害を与えています。
結果的に、日ソ戦は陸では日本が少しばかり優勢、海では日本が圧倒的優勢となっています。


864 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/06/03(日) 14:43:35 ID:4CUjn9IY0
862氏 前線の指揮官と後方の指揮官では視点が違いますからね。
その場で見れば、どちらも正しく、どちらも間違っていると言う事になりますが、全体的には
やはりラカテルグの判断が正しいです。
シホールアンル側の情報網強化ですが、当然アメリカ本国に潜入、と言う事も企てております。
しかし、アメリカ潜入の手段は限られており、一番近いアリューシャン列島に潜入しようとしても
当方面の警戒は厳重ですし、有効とも思えるバルランド留学生に混じっての潜入も、それを警戒する
アメリカ側によって厳正な審査が行われていますから、現状では難しいです。

1482年は西暦に直すと、いつになるのでしょうか
このF世界の世界暦では1482年となっておりますが、アメリカ側の感覚、つまり西暦では1942年です。

それでは、SS投下いたします。
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