自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

079 第69話 ルベンゲーブ精錬工場

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第69話 ルベンゲーブ精錬工場

1483年(1943年)6月22日 ウェンステル領ルベンゲーブ

「司令官、おはようございます。」

ルベンゲーブ西部の高台にあるルベンゲーブ防空司令部。その建物内にある執務室に、従兵が入って来た。

「おはよう。今日もいい天気だな。」

執務室に座って書類に目を通していた、防空司令官であるデムラ・ラルムガブト中将は上機嫌で返事した。
顔は少しばかり皺があるが、顔つきは精悍そのもので、一見すると実戦を渡り歩いてきた猛者に見える。
短く刈り上げられた髪が、その雰囲気を際立たせていた。
実際、彼は生粋のワイバーン乗りであり、去年の10月までは1個空中騎士隊を指揮して、アメリカ軍と戦っていた。
年は今年で44歳になり、まだまだ働き盛りである。
従兵は、いつも通りラルムガブト中将の机に香茶を置くと、一礼してから退出した。
彼はカップを持って、椅子から立ち上がり、後ろの窓に体を向ける。

「魔法石精錬工場か・・・・・・いつ見ても壮大な物だ。」

ラルムガブト中将は、そう呟いた。着任してから、何度と無く吐いた言葉だ。
窓の外には、このルベンゲーブを特徴付ける広大な精錬工場が並んでいる。
ルベンゲーブは、ウェンステル公国の中で最大規模の精錬工場を保有しており、この地域には、1.2ゼルドほど
北に離れた標高1480グレルの高さを持つ山々から、無尽蔵に魔法石の原石が採れる。
その魔法石鉱山から取られた原石は、この精錬工場に運ばれて加工される。
精錬工場は、大きく7つの区画にわかれている。
北側には、それぞれ300グレルほど間隔を開けて2つの工場群が並び、その南には3つの工場群、そして更に
南には2つの工場群が整然と並んでいる。

広大な平原を埋め尽くさんばかりに立てられた精錬工場郡は、まさにウェンステル公国の誇りとも言える物だ。

「この精錬工場から作られる魔法石が、俺達を支えている。占領される前は俺たちを殺すために作られていたのに。
時の流れとは、実に皮肉な物だ。」

ラルムガブト中将は苦笑しながらそう呟いた。
この精錬工場群が、シホールアンル軍の手に落ちたのは1481年1月の事だ。
ウェンステル軍は、シホールアンル軍にこの工場群を渡すまいと、工場の一斉爆破を企てた。
だが、事前にシホールアンル軍特殊部隊の妨害や、シホールアンル軍主力の急進撃によって一部が爆破されたに過ぎなかった。
この工場群を接収したシホールアンル軍は、本国にいる労働者や専門家、それに職を失った現地人計3万人を雇い、再び工場を稼動させた。
7月には破壊された工場も復旧され、全ての工場がフル稼働し始めた。
今では、シホールアンル軍に引き渡される魔法石のうち、2割はこのルベンゲーブの工場群から生産されており、
シホールアンルにとっては重要な魔法石生産拠点となっていた。
最近では、陸軍の陸上装甲艦に搭載される新しい魔法石もここで生産され、ルベンゲーブの戦略的価値はますます高まって来ている。
そのルベンゲーブを守るのが、ラルムガブト中将が指揮する防空軍団である。
唐突に、ドアがノックされた。

「失礼します。」

ドアの向こう側から声がした。
ドアが開かれると、1人の将校が小脇に書類の入ったファイルを携えながら執務室に入室して来た。

「司令官、おはようございます。」
「おはよう、主任参謀。」

ラルムガブト中将は、主任参謀であるウランル・ルヒャット大佐に返事をした。

「早速ですが、報告に参りました。」

面長のルヒャット大佐は機械的な口調でそう言うと、ファイルの中から紙を取り出した。

「本日、本国から増援のワイバーン38騎が、午後1時頃にルベンゲーブに到達するとの情報です。」
「ふむ。予定通りだな。」

ラルムガブト中将は報告を聞くと、満足そうに頷いた。

「これで、ワイバーンの予定数は揃いますな。」
「そうだな。これで、アメリカ軍機がいつ来ても怖くないぞ。」

そう言ってから、ラルムガブト中将は香茶を一気に飲み干した。
ラルムガブト中将の指揮する防空軍団は陸軍の第97空中騎士軍を中心に編成されている。
第97空中騎士軍は、第82空中騎士隊、第102空中騎士隊、第109空中騎士隊の計282騎の戦闘ワイバーンで編成されている。
本来は第82空中騎士隊と、第102空中騎士隊のみがルベンゲーブの防空を担当していた。
元々はこの2個空中騎士隊で充分なはずであったが、3月18日に突然起きた、アメリカ機動部隊による空襲で事態は一変した。
このルベンゲーブには120機以上の艦載機が飛来し、主にワイバーンの基地を狙ったが、一部は工場にも投弾し、若干の被害を与えた。
シホールアンル側はワイバーンと、対空砲火によって戦闘機12機と、攻撃機14機を撃墜したが、自らもワイバーン23騎を失った。
当初、アメリカ軍の攻撃部隊はまだ、北大陸に来るはずが無いと思われていたが、この空襲によってルベンゲーブは後方という意識が薄れた。

「今回は小規模な空襲で終わったが、いずれは今回以上の大編隊か、大型爆撃機を用いてやってくるに違いない。」

そう確信したラルムガブト中将は、直接本国に戻って上層部と直談判を行い、ルベンゲーブ駐屯のワイバーン部隊並びに
高射砲部隊の増援を確約させた。
その結果、ワイバーン隊は新たに1個空中騎士隊が補充と共に増強された。
工場群を守る対空砲郡も大幅に増やされ、今では高射砲170門、対空魔道銃520丁が配備されるに至った。
問題があるとすれば、いつやって来る敵を見つけるかであった。
シホールアンル軍は、アメリカ軍のようにレーダーを持たない。(未だにレーダーの存在を知らない)
敵に対しては、いつもながらの見張りでしか対応できないが、ここ最近は周辺の山岳地帯や海岸線に監視小屋を設け、
24時間交代で見張りを行っている。

「つい最近までは、いつアメリカ軍の空襲部隊が襲って来るか、常に不安でまたらなかったが、これだけの兵力があれば、
どんな飛空挺が来ようが目に物を見せてやれる。」
「備えは万全でありますな。」
「そうだ。敵がこのルベンゲーブに来るまでは、高空から来るしかない。低空飛行を行えば、周囲の山脈に激突する
可能性がある。低空で来るとしたら、周囲の山々の間を抜けて来るしかないであろうが、そんな神懸り的な事は敵には
到底出来まい。」
「今後の敵の空襲では、充分な爆弾搭載量を誇る大型爆撃機が来襲するかもしれません。特にフライングフォートレスの
大群に来られたら、ちと厄介な話になりますな。」
「確かに、フライングフォートレスは恐ろしい奴だ。だが、そのフライングフォートレスの恐ろしさも、敵の戦闘機が
護衛についていなければ、ただの空飛ぶ棺だ。」

そう言って、ラルムガブト中将は不敵な笑みを浮かべた。
現在、アメリカ軍はミスリアル王国の北西部に新たな飛行場を作り、そこからヴェリンス領やカレアント領に猛爆を加えている。
一番北にあるミスリアル西部から、直線距離で400ゼルドは下らない。
その一方で、アメリカ軍戦闘機の平均航続距離は600ゼルド未満。これでは、到底往復できるはずも無い。
戦闘機の援護の無い爆撃機は悲惨な末路を辿っている。
今から1ヶ月前の5月10日。
カレアント北部を爆撃していたB-17爆撃機24機が、68機のワイバーンに護衛戦闘機の居ない隙を衝かれてしまった。
B-17郡は必死に迎撃したが、18機が奮戦空しく撃墜されてしまった。
このように、戦闘機のいない丸裸の爆撃機など、ワイバーンにとっては単なるでかい的に過ぎないのである。
その爆撃機が、戦闘機の護衛なしに来よう物ならば、それこそワイバーン郡の格好の餌食となる。

「当分は、大型爆撃機が出張って来る事はないでしょうな。」
「そうだな。アメリカ軍は意外に慎重だからな。一見無謀のような攻撃を仕掛けても、実は後方に予備が控えている事は
よくあるからな。最近ではそのような事しかない。だから、アメリカ軍の大型爆撃機は、無闇やたらに犠牲の多そうな
攻撃はして来ないだろう。」
「陸軍機の攻撃よりも、海からの襲撃に気を付けねばなりませんな。」
「そうだ。アメリカ海軍の空母部隊は、気を抜いた時に襲って来るからな。ここ最近は新鋭空母も含めて攻撃して
来るようだから、被害は馬鹿にならんようだ。敵が来ないうちに、もっと防衛戦力を集めたほうが良いかも知れん。」

そう言って、ラルムガブト中将は舌打ちした。
ルベンゲーブの備えは万全ではあるが、不安要素が全く無くなった訳ではない。
アメリカ海軍は、今年の初旬から機動部隊によるゲリラ戦法を繰り返しており、5月から6月にかけては、
エセックス級やインディペンデンス級と呼ばれる新鋭空母が派遣されたためか、後方に対する空襲が多くなっている。
特に6月に入ってからは、南大陸地域で東西両海岸で計7回、北大陸南部の東西両海岸では4回。
計11回に渡って空襲が繰り返されている。
それのみならず、アメリカ潜水艦による輸送船襲撃も頻繁に行われている。
5月、6月中に米潜水艦の雷撃で撃沈された輸送船は、既に19隻を数えている。
このため、カレアントの前線に届く物資の量は、定数を割り込み始めており、前線部隊からは充分な補給を求む、
と言う言葉が繰り返し発せられていると言う。
幸い、ルベンゲーブには、3月の空襲以来、時折偵察機らしき物が来るだけで敵の攻撃は全く無い。
今の所、ルベンゲーブは平和そのものだが、ラルムガブト中将は、アメリカ軍がこの広大な精錬工場を
虎視眈々と狙っているのでは?と、常に思っている。

「攻撃は無いが、敵の偵察機が何度も現れている事からして、この精錬工場も攻撃のリストに入っているかも
しれない。攻撃されるのが今か、それとも数ヵ月後かは全く分からん。だが、敵が今すぐ、この工場を叩く事は出来る。」

ラルムガブト中将は、視線を窓の外の精錬工場群に移した。

「アメリカ人の指揮官がヤケを起こして、護衛無しの爆撃機を大量に向かわせるか、あるいは、空母を3、4隻のみ
じゃなく、7、8隻を集めて襲って来ればここはあっという間に蹂躙される。要するに、俺達はアメリカ軍が人命を
大事にしているお陰で、こうして余裕な表情で会話をしている。」
「逆に言えば、敵が犠牲をいとわぬ方法で攻撃すれば、ルベンゲーブは持たないと言われるのですな?」
「その通りだ。」

ラルムガブトは、ルヒャット大佐の言葉に深く頷いた。

「先ほど口から出た言葉を一部訂正しよう。備えは万全と言ったが、相手が未知数の戦力を持つアメリカ相手には、万全ではあるまい。」

彼はそう言いながら、カップを机に置いた。

「例えどれだけ戦力を配備しようと、敵は来るだろう。我々と同等か、」

ラルムガブト中将は、冷たい目つきでルヒャット大佐を見つめた。

「もしくは倍以上の戦力を押し立てて・・・か。まあ、後者のほうはあり得んだろうが、前者のほうはあり得るだろう。」
「司令官は以前、前線にいたようですが、閣下はアメリカ軍を過大評価しすぎではありませんか?」

ルヒャット大佐は棘のある口調でラルムガブト中将に言った。

「確かにそう思うだろうな。去年の10月まで、俺はカレアント中部で空中騎士隊の司令官をやっていた。そこから、
このルベンゲーブの防空司令官に任命されるまでは、大してアメリカ軍を評価していなかった。だがな、主任参謀。
私は最近、少し気付いたのだよ。」

彼はニヤリと笑みを浮かべた。

「アメリカ軍を相手にする時は、過大評価したほうがちょうどいいかも知れぬ、とな。いやはや、こんな話は
なるべくしたくなかったものだが。」

彼は微笑みながら、置いてあったカップを手に取った。

「それはともかく、まずは香茶でも飲まんかね?」

6月23日 午前8時30分 ミスリアル王国ミンス・イレナ

その日、山の麓で料理屋を営んでいるダークエルフのミルロ・ランガードは、3人の息子達を連れて料理に使う
山菜を採るために、イレナ山脈の中腹辺りまで登っていた。

「ふう、山登りはいつやっても疲れるなぁ。」

ミルロはぼやきながら、白い布で汗を拭きつつ、後ろに振り向いた。
背後には、彼が住んでいるミンス・イレナの町並みが広がっている。
とある旅人は、ルベンゲーブの町並みに似ていると言っていたが、生まれてからずっとミンス・イレナに住み
続けたミルロは、そのルベンゲーブとやらの町は見た事が無い。
それでも、彼はイレナ山脈を登る度に、この光景を見ては、目の前に広がる大自然に感動していた。

「父さん。相変わらず歩くの早いね。ちょっとここで休もうよ。」

息子の1人が、息を切らせながら彼に休憩を要求してきた。
5人いる娘や息子達の中では、一番年長である。
年は既に19を迎えており、先のシホールアンル軍の一大攻勢では、この息子も義勇軍に参加して敵と戦っている。

「軍隊に入隊したくせに、体力の無い奴だなあ。」
「俺は別にいいんだよ。でも、あいつらが。」

長男は後ろに顎をしゃくった。
長男の後ろから続いて来る14歳と12歳の息子が、体全体で息をしながらゆっくりと歩いてくる。
長男はこれまでにも何度か、ミルロと共に山菜取りに出かけているからある程度慣れているが、
後ろから続く息子2人に関しては、今回が登山初参加である。

「あいつら、無茶しやがって。」

ミルロは深くため息をついた。

「あいつらの目的は山菜取りじゃなくて、見物だよ。」
「見物か。全く、憧れるのも大いに結構だが、後々あいつらが足手まといにならんければいいが。」
「なんとかなるんじゃない?ああ見えても、結構頑張り屋だし・・・・おっ?」

唐突に、長男が何かに気が付いた。長い耳を、山脈が途切れた所に向ける。

「父さん、今日も来たみたいだ。」
「ほう、今日もアメリカの飛行機が来るのか。」

ミルロは、その場にあった岩に、ゆっくり腰を下ろした。

「いつもは町でしか見る事が出来なかったが、今日は特等席で見学しようか。」

彼はそう言いながら、山脈が途切れた所をじっと見続けた。
音が山脈の途切れた箇所から聞こえて来る。
ここからでは分かりにくいが、イレナ山脈には、5箇所ほど山が切れている所がある。
言い伝えでは、遥か2000年前にこの地を襲った魔物と勇者が激闘を行った末に、この大山脈の所々が
戦いの際に出された大魔法で切り裂かれたと言われている。
神話にも、このイレナ山脈に穿たれた切れ目をモデルにした物語がある。
音が大きくなり、音の発信源がすぐ近くに来ていると思われた瞬間、山脈と山脈の間から1機の大きな飛空挺が飛び出して来た。
荒削りのような太い胴体に、やや高めに配置された翼に、左右2つずつ、計4つのエンジン。
極め付きは、後ろに取り付けられている変てこな形をした2枚の尾翼が見えた。

「リベレーターだ!すげえ!」
「こんな近くで見るのは初めてだぜ!親父、リベレーターだ!こんなにでかいぜ!!」

2人の息子達は、興奮しながら長男とミルロに言って来た。

「ハハハ、あいつら興奮してやがる。」
「去年の10月に、アメリカ軍の飛行機を見て以来根っからの飛行機ファンだからなあ。」

長男とミルロはそう言いながらも、自分たちもまた、次々と飛来して来るアメリカ軍機に見入っていた。


「山脈を抜けました。もうすぐでミンス・イレナの市街地上空です。」

航法士官の言葉に、機長であるラシャルド・ベリヤ中尉はほっと一息ついた。

「OK。これで神経衰弱は終わり、と。このまま高度を上げつつ、800メートルで市街地上空を抜ける。」
「イエスサー。」

ベリヤ中尉指示に、コ・パイのレスト・ガントナー少尉はそう返事した。
ベリヤ中尉機の前方には12機のB-24が先行し、後方には13機のB-24が、狭い峡谷を巧みな操縦で飛行している。
このB-24爆撃機34機は、第69航空団第689爆撃航空郡に属している。
いや、イレナ山脈の狭い峡谷を抜けるのは、この36機のB-24だけではない。
今年の3月から編成された第5航空軍の新たな戦力である第145爆撃航空師団は、2つの航空団から編成されている。
1つの航空団には、B-24のみで編成された3つの爆撃航空郡で成っており、計6つの爆撃航空郡には総計で300機の
B-24が配備されている。
6月19日に、ルイシ・リアンに到着した第145爆撃航空師団は、近々開始される秘密作戦のために、ミンス・イレナの
西に走るイレナ山脈で、山と山の間を飛行する訓練を行ってきた。
ルイシ・リアンに来る前は、バルランド王国内で低空飛行訓練や、イレナ山脈でやった物と同様な訓練も行われていた。
この血を吐くような猛訓練の前に、上層部は事故機が出るのではないかと危惧していた。
実際、事故になりそうな場面は何度かあったが、飛行中の墜落事故は、今の所奇跡的に起きていない。
唯一、着陸時の不運なオーバーラン事故でB-24が1機失われたのみに留まった。
(ちなみに、負傷者は出たが、不幸中の幸いで死者は出ていない)
その1機の喪失も、翌日には補充機がやって来て、穴は埋められた。

こうして、血の滲むような猛訓練に耐え切り、最後の仕上げ段階ともいえる訓練に従事している彼らであるが、
上層部はB-24のクルーに対して、どこを爆撃するのか教えていない。

「あの狭い山脈を、今日だけであと2回抜けなきゃならん。上の連中も厳しい訓練を押し付けやがるなあ。」

ベリヤ中尉はやや不満げな口調でぼやいた。

「珍しいですね、機長。いつもはさっさと訓練をやってしまおうとか言ってますのに。」
「どうもな、俺は気に入らんのだ。」
「え?何が気に入らないんですか?」
「馬鹿野朗。貴様は分からんのか?どうしてお偉いさんは俺達の本当の攻撃目標を教えないと思う?」
「と、言いますと?」
「ったく、鈍い奴だなあ。」

ベリヤ中尉は頭を振りながら呟いた。

「俺達は今まで、低空飛行訓練や、山の間を飛び抜けるとか、危ない事を色々やって来た。もしかしたら、
俺達の攻撃目標は、天然の要害を利用した重要な戦略拠点かもしれんぞ。それも、防御の手厚い所だ。」
「えっ?でも飛行隊長はいずれ近場でシホット共に爆弾の雨を降らせられるぞ、とか言っとりましたが。」
「確かにそうなるだろうよ。未知の作戦が終わってからな。それでだが、レスト。行き先を予想しよう。
お前は300機のB-24がどこに行くと思う?」
「どこに行く・・・・ですか・・・・」

ガントナー少尉は2、3分考えた後に答えた。

「エンデルドか、その少し北辺りでしょうか。」

「なるほど。しかし、ちょっと近場だな。」
「機長はどこだと思います?」
「俺か?まあ、俺としては・・・・・北大陸あたりかなと思っている。それも被占領国内にある
重要拠点を爆撃するかもしれん。まあ、俺の大雑把な予想だがね。」

ベリヤ中尉はそう言いながら、高度計に視線を移す。
高度計の針は700を指していた。

「確実に言える事は1つだけだ。それは、攻撃予定の敵の拠点を完膚なきまでに叩き潰す事だ。今までの訓練からして、
敵の目を欺くために、こんな大型爆撃機からは難しい訓練ばかりをやらせているんだろう。」
「でもB-24は、重爆にしては運動性能は良好ですからね。もしかして、シホットの重要拠点は、イレナ山脈の
ように山の近くにあるのかもしれませんね。」
「多分そうだろう。恐らく、シホット共の歓迎も盛大に行われるだろうが、望む所だ。」

そう言って、ベリヤ中尉は獰猛な笑みを浮かべた。

「今度の作戦では、リベレーター乗りの真髄をシホット共に教えてやろう。夢に出てくるほどにな。」


6月23日 午後1時 ニュージャージー州カムデン

この日、ニューヨーク造船所の桟橋から離れた巡洋戦艦アラスカCB-2は、この世に初めて、その巨体に火を入れた。
全長246メートル、幅32・5メートルの巨体に載せられた3基の55口径14インチ砲は砲身が真新しく光り、
舷側には新鋭戦艦と同様に配置された片舷4基、計8基配備された5インチ連装砲が空を睨んでいる。
艦橋は、大型巡洋艦案とは大きく違うアイオワ級と同様の箱型艦橋が採用されたためか、艦橋後部に屹立する尖塔型の艦橋と
合間って、全体の美しさを一層際立たせている。
その艦橋内で、初代艦長に就任したリューエンリ・アイツベルン大佐は、桟橋に立っている数人の人影を見て、思わず苦笑していた。

「艦長、どうかされましたか?」

副長のロイド・リムソン中佐が聞いてきた。

「あそこの桟橋に、5人ほどの男女が経っているだろう?あれは私の家族なんだ。恐らく、妹達が親父やお袋を焚き付けたんだろう。」

彼はそう言いつつも、笑みを浮かべたまま手を振った。

「艦長、外海に出たら本艦の公試を始めます。」

ニューヨーク造船所の技師が、リューエンリに言って来た。

「分かりました。しかし、この艦は当初の計画より重くなっているようですな。」
「はい。新型主砲の搭載や、装甲の強化等によって、予定の排水量を超えてしまいました。予定排水量は31500トン
だったのですが、完成した後の排水量は32900トンにまで増えているようです。」
「う~む。これはちと問題ですなあ。」
「その代わり、本艦の安定性や運動性能においてはかなりの自身があります。大型巡洋艦案よりもかなりゆとりを
持たせて作っているので、高速性能は勿論のこと、旋回性能においてもヨークタウン級空母のそれに近い物になると
見込まれています。」
「なるほど。これは楽しみですな。」

リューエンリは頷きながらそう呟いた。

「艦長、準備が出来ました。」

航海士官のジョン・ケネディ中尉がリューエンリに報告して来た。

「分かった。」

リューエンリは僅かに頷くと、姿勢を真正面に向け、艦橋に仁王立ちとなった。
艦首は港の外に向いており、アラスカの周囲に張り付いていたタグボートは、既に艦から離れつつあった。

「両舷前進微速。」
「両舷前進微速アイアイサー。」

復唱の声が聞こえて数秒後、アラスカの深部にあるバブコックス・ウィルコックス缶8基のボイラーと、
ジェネラルエレクトリック社製のタービンが本格的な動きをはじめる。
180000馬力の機関が本格始動したアラスカの艦体が、微かに揺れた。
(・・・・武者震いをしているのか?)
ふと、リューエンリはそう思ったが、その思いに答える者はいなかった。
やがて、アラスカはゆっくりと、港の外に向けて出港し始めた。

この数ヵ月後に、獅子奮迅の活躍をする事になるアラスカの第一歩は、こうして始まった。

ミスリアル王国駐屯第5航空軍編成表

第292戦闘航空師団
第29航空団

第117戦闘航空郡 P-40ウォーホーク36機
第118戦闘航空郡 P-47サンダーボルト56機
第119戦闘航空郡 P-38ライトニング48機

第38航空団
第222戦闘航空郡 P-39エアコブラ48機
第223戦闘航空郡 P-39エアコブラ33機
第224戦闘航空郡 P-47サンダーボルト36機

第151爆撃航空師団
第102航空団

第84爆撃航空郡 B-17フライングフォートレス60機
第85爆撃航空郡 B-17フライングフォートレス48機
第86爆撃航空郡 B-24リベレーター36機

第92航空団
第68爆撃航空郡 B-25ミッチェル48機
第69爆撃航空郡 B-26マローダー41機
第70爆撃航空郡 A-20ハボック52機
第71爆撃航空郡 B-25ミッチェル32機

第293戦闘航空師団
第100航空団

第131戦闘航空郡 P-38ライトニング48機
第132戦闘航空郡 P-38ライトニング48機
第133戦闘航空郡 P-51マスタング36機

第103航空団
第191戦闘航空郡 P-47サンダーボルト60機
第192戦闘航空郡 P-39エアコブラ36機

第145爆撃航空師団
第74航空団

第771爆撃航空郡 B-24リベレーター48機
第772爆撃航空郡 B-24リベレーター48機
第773爆撃航空郡 B-24リベレーター60機

第69航空団
第689爆撃航空郡 B-24リベレーター36機
第690爆撃航空郡 B-24リベレーター60機
第691爆撃航空郡 B-24リベレーター48機
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