自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

112 第89話 蹂躙の空

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第89話 蹂躙の空

1483年10月22日 午前10時 カレアント公国ネリジラ

「前方にアメリカ軍機!機種はフライングフォートレス及びマスタング!」

この日、アメリカ軍機の迎撃のため、急遽飛び立った第10空中騎士隊の戦闘ワイバーン20騎は、
他の空中騎士隊のワイバーンと共にアメリカ軍機に向かいつつあった。
現在は高度2500グレル。前方には、今しも爆撃地点に向かいつつあるアメリカ軍機がいる。
敵機の種類は2つだ。
小さいほうは、護衛戦闘機のマスタングだ。
機動性はワイバーンより無いが、速度性能や武装等はワイバーンに勝っているため、かなりの難敵だ。
大きいほうは既に馴染みとなっているフライングフォートレスだ。
数は約40~50機ほどで、大きく3つの編隊に分かれている。
このフライングフォートレスの編隊は、3つの編隊が階段状に違う高度に布陣しており、それぞれの編隊は
互いに緊密な距離を保っている。

「畜生、相変わらずコンバットボックスとやらでがっちり固めてやがる。」

第10空中騎士隊の指揮官である、ネブラ・ダバングド少佐は忌々しそうな口調で呟いた。
捕虜から聞き出された情報では、あのフライングフォートレスが組み上げている編隊は、コンバットボックスと呼ばれる物であり、
相互支援を目的として考案されたようだ。
その効果は絶大であり、本格的に取り入れられた3月頃から、フライングフォートレス攻撃を担当するワイバーン隊には
必ずと言っていいほど犠牲が出ている。
(今日は、俺達の空中騎士隊があの化け物と戦わねばならん。今日こそは、大戦果を得られるといいが・・・・)
ダバングド少佐は心中でそう祈った。
敵戦闘機を引き付ける役をになう他の空中騎士隊が、フランイグフォートレスの周囲に張り付いているマスタングに襲い掛かっていく。
マスタングが待ってましたと言わんばかりにフライングフォートレスから離れ、ワイバーンに向かっていく。
護衛に付いていたマスタングは32機、向かっていったワイバーンは38騎と、ほぼ互角に近い数だ。

距離が縮まった所で、マスタングがワイバーンの正面に向けて両翼の12.7ミリ機銃6丁をワイバーンに向けて撃ちまくる。
ワイバーンもまた、口から光弾を連射する。
ワイバーンとマスタングが互いに通り過ぎると、いくつかの影が墜落し始める。
1機のマスタングが、無残に操縦席を砕かれた状態で真ッ逆さまに落ちていく。
一方、2騎のワイバーンがマスタングの後を追うように、絶命して脱力しきった体を自然落下に任せていく。
最初の儀式とも言える正面戦闘が終わるや、後は彼我入り乱れての乱戦となる。

「行くぞ!目標、一番下段の敵爆撃機編隊!いつもの通り正面から突っ込む!」

ダバングド少佐は部下のワイバーンにそう命じる。
彼が目標に選んだ編隊、コンバットボックスの最下段を飛行するフライングフォートレスの群れが、彼が指揮する隊の獲物だ。
他の空中騎士隊もそろそろ、目標に食いつこうとしている頃だろう。

「突撃!」

ダバングド少佐は、気合いを入れるように命じながら、相棒に合図を送る。
指示を受け取った相棒が増速し始める。
第10空中騎士隊の20騎のワイバーンが、255グレルの最高速度で目標に急速接近する。
近付けば近付くほど、フライングフォートレスの姿が鮮明になってくる。
左右の主翼に取り付けた4基の発動機に胴体上面及び下面に装備された機銃。
無骨ながらも、洗練されたデザインの機首と、その下に配備された連装機銃。
そして、巨大な機体と、異常とも思えるほどの防御力。
(何度見ても圧倒される物だ)
ダバングド少佐は、すっかり馴染みとなったフライングフォートレスに対してそう思った。
この巨大な空の怪物が、シホールアンルの目の前に現れて早1年以上が経つが、幾度見てもフライングフォートレスの発する
威圧感は並々ならぬ物がある。
ダバングド少佐自身、3機のフライングフォートレスを単独撃墜しているが、この怪物はいつ戦っても容易に落とせぬ物だ。
やがて、フライングフォートレスの銃火が彼らに向けて開かれる。
B-17は、正面上方から突っ込みつつあるワイバーンに向けて、胴体上面と機首下面の12.7ミリ機銃を撃ちまくるが、
ダバングド隊のワイバーンは、最初の射弾を自慢の超機動でひらりとかわす。

ダバングド少佐は、相棒を巧みに操りながら、先頭を行くフライングフォートレスに向けて光弾を放った。
1連射、2連射と、ワイバーンの口から緑色の光弾が放たれる。
1連射目はフライングフォートレスの右に逸れたが、2連射の幾つかかが、機体の胴体部分に命中する。
そこまで確認した直後に、目標のフライングフォートレスの下方に抜けていく。
フライングフォートレスの尾部機銃座が猛烈な追いかけ射撃を行うが、この射弾はダバングド少佐を捉えるに至らない。
先頭機には、ダバングドが直率する小隊のワイバーンが次々に襲い掛かる。
2番騎の光弾は全て外れたが、3番、4番騎の光弾がそれぞれ右主翼及び胴体に突き刺さる。
一方、B-17も猛烈に反撃する。
先頭騎よりすぐ右後ろのフライングフォートレスは、別のワイバーン編隊に襲われたが、初っ端からワイバーンの1番騎を叩き落した。
2番騎、3番騎がB-17の反撃に怯んだかのように、やや遠目の位置で光弾を放ってから右下方に抜けようとする。
3番騎が、別のB-17の胴体側方機銃が放った射弾をまともに喰らう。
瞬時に魔法防御が働いて、12.7ミリ弾の幾発かが弾け飛ばされるが、魔法防御が作用したのはごく僅かの時間であった。
3秒ほどで魔法防御は叩き割られ、12.7ミリ弾の十字砲火が御者とワイバーンを引き裂いた。
ダバングド少佐は高度1800グレルまで降下した後、視線をフライングフォートレスの編隊に向ける。
フライングフォートレスに幾つものワイバーンが突っ掛かっている。
大半は正面からの攻撃だ。今しも、1騎のワイバーンが敵の機銃弾に撃ち抜かれ、墜落していく。
第20空中騎士隊のほとんどが、最初の正面攻撃を終えつつあるが、目だった戦果は無い。
フライングフォートレスの編隊のうち、1機だけが右主翼から白煙を噴いている。
その1機はよほど重傷を負ったのか、速度を緩めている。
やがて、そのフライングフォートレスは編隊から脱落し始めた。

「第3小隊、あの爆撃機にとどめを刺せ!残りは引き続き、敵の編隊に攻撃を仕掛ける!」

ダバングド少佐は脱落機の処理を他に任せると、残ったワイバーンで再度攻撃を仕掛けた。

この日、ネリジラ近郊の物資集積所の爆撃を担当する事になった第36爆撃航空師団は、第55爆撃航空群のB-17を出撃させた。
55BG(爆撃航空群)から出撃した48機のB-17に、第39戦闘航空群から出撃したP-51マスタング32機が護衛に付いた。
総計80機の戦爆連合編隊に、シホールアンル側は多数のワイバーンを上げて迎撃してきた。

「畜生、ウォルトン・ボーイが落伍していきます!」

第3中隊長であるロバート・スタンク大尉の耳に、下面旋回機銃手の悲鳴じみた声が聞こえた。

「IP(爆撃地点)までもう少しと言うのに・・・・・・」

スタンク大尉の横に居る副操縦士のキム・ランス中尉が悔しそうな口調で言う。

「落伍しているだけだ。何も撃墜されるとは決まらんさ。」

スタンク大尉はランス中尉にそう言って、落ち着かせようとする。
現在、55BGは高度5000メートルから4500メートルの上空を飛行している。
3つの編隊に分かれてコンバットボックスを作り上げているのだが、敵のワイバーンを完全に食い止めるには
まだ至らないようだ。

「5時方向から敵ワイバーン!下方から迫ります!」

見張っていた乗員が、迫りつつあるワイバーンの姿を見るや、スタンク大尉に報告する。

「了解。しっかり狙って撃てよ!」

ワイバーンが距離900メートル迫ったところで、12.7ミリ機銃が吼える。
曳光弾がワイバーンに向かっていく。
ワイバーンは機銃弾をひらり、ひらりと交わそうとするが、機銃手が逃さぬとばかりに狙いを修正し、曳光弾の線が鞭のようにしなる。
1騎のワイバーンが12.7ミリ機銃弾に絡め取られる。瞬く間に背面をずたずたに引き裂かれ、ワイバーンは絶命する。
先頭のワイバーンがお返しと言わんばかりに口から光弾を放つ。
機体の右や左に緑色の光弾が通り過ぎていく。唐突に、ガガン!と機体が音と共に振動する。
機体の左横をワイバーンが上に飛び抜けていく。

「野朗、なめるな!!」

胴体上方機銃手が罵りながら、12.7ミリ機銃をぶっ放す。だが、射弾はワイバーンを捉えるには至らない。
ワイバーンの2番騎、3番騎が機体の後ろ下方から襲い掛かってくる。
2番騎に右斜めを飛行していた僚機が横合いから機銃を撃ちまくる。その射弾は過たず、ワイバーンの横腹に突き刺さった。
一瞬にして複数の機銃弾を浴びたワイバーンが急速に力を失う。
御者は必死に相棒を励まそうとするが、相棒はそれに答える事無く、御者もろとも地上に落下していった。
3番騎が至近距離から光弾を放つ。胴体下面にまたもや光弾が突き刺さる。

「くそ、また喰らった!」

胴体下面機銃手が忌々しい口調でそう叫んだ。

「・・・・・今の所、機体には異常は無いな。」

スタンク大尉は計器を見ながら、少しばかり安堵した。
ワイバーンの光弾は機体の所々を抉ってはいるが、いずれも致命弾ではない。

「流石は空の要塞。ちょっとやそっとではへこたれませんな。」

ランス中尉が余裕めいた口調で言う。

「喜ぶのはまだ早いぞ。問題はこれからだ。」

その時、

「あっ!第1中隊3番機被弾!ブレスを喰らったようです!!」

胴体上方機銃手から悲鳴のような声が上がる。

ワイバーンは、スタング大尉の率いる第3中隊のみならず、上の第1、第2中隊にも襲い掛かっている。
交戦開始から10分ほど経ち、今度は第1中隊にも被撃墜機が出た。

「うわああああ!助けてくれ!火が!火が!」
「落ち着け、ミス・リュンヒャン!脱出だ、すぐに脱出しろ!」

被弾した3番機・・・・ミス・リュンヒャン号と第1中隊長機との無線交信が流れて来るが、ミス・リュンヒャンからの
断末魔の声は聞くに耐えぬものであった。
この短い交信の後、ミス・リュンヒャンからの通信は途絶えた。
胴体上方機銃手であるデイビット・バートン軍曹は、一番上の編隊から、1機のB-17が墜落していく様子を見ていた。
右主翼を根元から叩き折られたそのB-17は、切断部分から猛火を発しつつ、急速に落下していった。
ミス・リュンヒャンの機長はコリアン系アメリカ人の中尉で、機体の名称は自分の彼女の名前から取った様だ。
バートン軍曹はその機長と会った事はなかったが、噂ではよく自分の彼女の事を他の仲間に自慢にしていたという。
その機長の操縦するB-17は、10回目の出撃にしてついに未帰還となった。
(戦死公報を受け取る恋人は、恐らく悲しみに暮れる事だろう・・・・・全く、酷い物だ)

「ミス・リュンヒャン、墜落します。」
「パラシュートは確認できたか?」
「・・・・・いえ、確認できません。」
「IPまであと6マイル。」

悲報と共に、爆撃予定地点までの距離が報告される。

「敵ワイバーン編隊、離れて行きます。」

しつこく付き纏っていた敵のワイバーンが、さっと退いて行く。
敵のワイバーンがこのように退いた時は、次の敵が待ち構えていると言う証拠だ。

「これで第1関門を突破か。あとは、シホットの高射砲だけだな。」

スタンク大尉は、見透かしているような口調で呟く。彼の言葉通り、前方に幾つもの黒煙が沸いた。

「IPまであと5マイル。」
「敵高射砲、発砲してきます!」

胴体の爆弾倉の扉が開かれ、中にある500ポンド爆弾が地上を眺める。
目標の物資集積所は、ネリジラの郊外の森林地帯にある。
その周囲には、やはり高射砲陣地が配備されており、B-17の群れが近付くや発砲を開始した。
高射砲の弾幕は、最初は見当外れの位置で炸裂しているが、次第に機体の至近で炸裂するようになる。
機体の右側でドン!という炸裂音が鳴り、破片が機体の胴体を掠る。
先導機を務めるのは、第3中隊のスタング大尉機だ。
機首の爆撃手席では、爆撃手のドムンク・フラーバ曹長がノルデン照準機を覗きながら、照準を目標に合わそうとする。

「機長、このままでOKです。後は任せてください。」
「よし、頼んだぞ。」

スタンク大尉はそう言って、操縦をノルデン照準機が導くままに任せる。
周囲では、シホールアンル側の高射砲弾がひっきりなしに炸裂している。
時折、至近で炸裂する砲弾が機体を揺さぶるが、幸いにも破片は機体の主要部を逸れていた。

「IPまであと1マイル、もうすぐです。」

フラーバ曹長は、目標までの距離を正確に報告する。目標の物資集積所は、森の風景と重なるように作られている。
だが、余りにも時間が無かったのか、カモフラージュは中途半端になっている。
(あれじゃあかえって目立つぜ、シホットさんよ)
フラーバ曹長は、心中で敵に忠告した。
物資集積所の規模はなかなかに大きい。
今までは規模の小さい集積所が殆どで、このような規模の大きい集積所はたまにしか見なかった。
(久しぶりの大物だな)
フラーバ曹長はそう思った。その時、乗機は爆弾投下地点に到達した。

「目標地点到達、爆弾投下!」

胴体から、12発の500ポンド爆弾が次々に投下される。
それが合図となり、他の僚機や、上の第1、第2中隊も一斉に爆弾を投下する。
敵ワイバーンの迎撃や、高射砲の迎撃から生き残った45機のB-17が、総計540発の500ポンド爆弾を
カモフラージュされた物資集積所にばら撒いた。
やがて、地上に次々と爆弾炸裂後の煙が吹き上がる。
ほぼ緑一色の下界に、不似合いな茶色や、灰色の炸裂煙が沸き起こる。
やや間を置いて、カモフラージュされた部分からオレンジ色の火炎が吹き上がった。

「ベリーグッド!敵の弾薬庫を吹っ飛ばしたぜ!」
「ざまあ見ろシホット!ミス・リュンヒャンの仇だ!」

無線機からの僚機の歓声が次々と入って来る。その後に、攻撃隊指揮官機の司令部宛の報告が流れる。

「こちら第1次攻撃隊指揮官機、我、敵物資集積所を爆撃、効果甚大、これより帰投する」

ひとまず、55BGの目的は達成されたのである。
だが、スタンク大尉は気を緩めなかった。

「あとは帰りだな。この高射砲弾幕と、予想される敵ワイバーンの再攻撃に、1機もやられなければいいが。」

カレアント北部に対する爆撃行は常に危険と隣り合わせだ。
行きは待ち受けていた大量のワイバーンと高射砲の迎撃、そして、爆撃後はまた、ワイバーンの攻撃と高射砲の追い撃ちである。
ここ最近は、リトルフレンド達(P-51やP-47)も強力なため、敵のワイバーンにやられる爆撃機は少ないが、
それでも1日に5、6機が撃墜される事はザラだ。
全機無事に帰還できた日は、ここ2ヶ月全くない。最低でも必ず1機は犠牲になる。

「フライングフォートレスもいい機体だが、俺としてはもっと強い爆撃機が欲しい。」

スタンク大尉は、心底からそう願ってた。

「3番機被弾!左主翼から火を噴いています!」

そのような事を考えている間にも、また1機、味方機がやられた。

「これ以上は、味方に損害は出ないで欲しい物だ。」

スタンク大尉は、表情を硬くしながら、愛機の操縦に専念し続けた。


午後5時 ネリジラ

「しかし、また手酷くやられた物だ。」

シホールアンル陸軍第20軍司令官である、ムラウク・ライバスツ中将は、司令部のある建物の屋上から、猛爆撃で耕された防衛線を見ていた。
ネリジラの南1ゼルドには、第202歩兵師団が守る防御線が築かれており、敵がいつ来ても対応できるようになっていたが、
その防衛線もアメリカ軍機の空襲によってめちゃめちゃにされた。
この空襲で、第202歩兵師団は戦死者79名、負傷者198名を出した。

「敵は4回に渡って空襲を行ってきましたね。」
「最初は、森に隠してあった物資集積所を狙ってきたな。全く、アメリカ人共は徹底しているよ。
奴らのお陰で、貴重な補給品がまた失われてしまった。」

ライバスツ中将は忌々しげに呟いた。
今日1日だけで、アメリカ軍は4次に渡る空襲を行った。
最初の第1次攻撃隊がやって来たのは、午前10時過ぎで、この攻撃隊はフライングフォートレスとマスタングの混成編隊である。
この時の数は計80機以上であった。
シホールアンル側はフライングフォートレス4機とマスタング7機を撃墜したが、迎撃側もワイバーン18騎を失い、
隠匿していた物資集積所は大量の爆弾によって隙間無く耕された。

第2次攻撃隊は午前11時に現れ、フライングフォートレスとは別の大型爆撃機であるリベレーターと、護衛のサンダーボルト計120機が、
ネリジラの南にある防衛線を叩いた。
ここでもワイバーンと、高射砲が迎撃を行ったが、防衛線の投弾は阻止できなかった。
シホールアンル側はサンダーボルト6機とリベレーター3機を撃墜したが、ワイバーンも14機を失った。
ライバスツ中将が、物資集積所の壊滅の次に大きな痛手を被ったと感じたのは、敵の第3次空襲であった。
敵の第3次空襲は、第2次攻撃隊が去ってから僅か30分ほどで来襲した。
この第3次攻撃隊は、エアコブラとハボック、計80機で編成されており、これらはネリジラの北方にあるワイバーン基地に襲い掛かった。
このワイバーン基地には第10空中騎士隊と第11空中騎士隊が配属されており、第3次攻撃隊がやって来た時には、大半が先の戦闘の疲れを
癒している最中であった。
そこに80機のアメリカ軍機襲いかかったのだからたまったものではない。
敵ワイバーンの迎撃を全く受けなかったエアコブラとハボックは、高射砲や魔道銃の反撃をあっさりと突き抜け、ワイバーン基地を銃爆撃した。
エアコブラとハボックは縦横無尽に暴れ回り、攻撃を開始して僅か20分ほどで引き上げていった。
この第3次空襲で戦闘ワイバーン49騎と、待機していた攻撃ワイバーン39騎、計88騎が地上で無為に失われ、基地施設も壊滅状態に陥った。
午後4時頃、最後の第4次空襲がアメリカ軍機によって行われた。
迎撃するワイバーンは第1次空襲の120騎に対し、第4次空襲では40騎に激減していた。
第4次空襲はライトニングとフライングフォートレスの混成編隊、計80機によって行われた。
この第4次空襲は、第2次空襲が狙った防衛線に爆撃を加えた。
そして4時40分頃、アメリカ軍機は引き返していった。
アメリカ軍機の投下した爆弾は、一部がネリジラ市内に落下し、民家7棟を破壊した物の、この誤爆による死傷者は皆無であった。

「しかし、第4空中騎士軍はこれで壊滅したも同然になってしまいましたな。」

作戦参謀が険しい表情でライバスツに行った。

「全滅した第10、第11空中騎士隊は戦力の低下した第4空中騎士軍において主力とも言える部隊でしたが、
これが無くなった今、第4空中騎士軍が使える空中騎士隊は第12空中騎士隊のみとなりました。」
「第4空中騎士軍だけじゃない。第5空中騎士軍も無視できん被害を受けている。」

ライバスツ中将は、ふと空を見上げた。

1年前のこの日、カレアントの空には多数のワイバーンが飛んでいた。
ひとたびアメリカ軍機侵入の報が入れば、戦闘ワイバーンが大編隊を成してアメリカ軍機に向かっていった物だ。
だが、頼りにしていたワイバーンは、既に姿を見せなくなりつつある。
他の前線では、ワイバーンの姿は見えないが、アメリカ軍機や連合軍のワイバーンならそこら中にいるという、皮肉めいた報告がいくつもあると言う。

「一昔前までは、我が無敵のワイバーン隊は敵のワイバーンや地上軍を蹴散らしまくっていたと言うのに、今では蹴散らされているのは我々のほうだな。」
「唯一の救いとしては、我が20軍の撤退行動は一応順調の範囲内、と言う事でしょうか。」
「そうだろうな。」

(最も、この調子では、その救いとなっている要素も早々と失われかねんだろうが・・・・・・)
ライバスツ中将は、最後の部分だけは言葉に出さなかった。

「気掛かりとしては、急激に突き上げられつつある左翼戦線の事だが・・・・我々ではどうする事もできんからなぁ。」

左翼戦線では、アメリカ軍の進撃が猛烈な物となっている。
左翼戦線の友軍は、なんとか逃げ切れている状態だが、撤退作戦が少しでも躓けば、左翼戦線は崩壊するであろう。

「手助けしようにも、我々は我々で精一杯だからな。心苦しい事だが、左翼戦線の友軍がうまく立ち回ることを期待する以外無いだろう。」

ライバスツ中将は、ため息交じりにそう言い放った。
(予定では、12月初旬までには北大陸に逃れられるようだが・・・・・とにかく予定通り行って欲しい物だ。)
彼は屋上から建物の中に入る時に、心中でそう願っていた。

1483年(1943年)10月27日 午前10時 バルランド王国ヴィルフレイング

この日の早朝、第58任務部隊は久しぶりにヴィルフレイングへと帰ってきた。
TF58に属する艦艇は、午前8時までに割り当てられた区域に停泊した。
スプルーアンスがTF58をヴィルフレイングに帰港させる間、カレアントの地上戦闘では大きな動きがあった。
10月25日、第1軍と並んで進撃を続けていたアメリカ第5軍に突如として、中央戦線のシホールアンル軍が反撃してきた。
中央戦線のシホールアンル軍は、温存していた第14軍所属の2個石甲師団を主力に反撃に転じた。
だが、その反撃も僅か1日で頓挫した。
その反撃を退けるきっかけとなったのは、マリキラの東にある小都市、リバンミダの戦闘だった。
この戦闘で、アメリカ第5軍所属の第7軍団は、新式の76ミリ砲を装備した新生シャーマン戦車を主軸に敵石甲師団のキリラルブス
と激突した。持てるだけのシャーマン戦車を投入した第7軍団は、自身も112両のシャーマン戦車を失いながら、敵キリラルブスを
280体以上を破壊し、戦闘の終盤には、第7軍団は自ら敵陣に切り込み、見事敵の反撃を頓挫させた。
このリバンミダ地方の大戦車戦は、米シ双方が死力を尽くした激戦として知られる。
だが、順調に進撃を続けていた第5軍はこの反撃で受けた損害を回復するために、しばらくは進撃速度を緩める事を決定した。
それは左翼戦線軍を追い詰める第1軍の歩調も緩める事になり、後年、アメリカ軍は、左翼戦線軍を逃げる切らせる策略に
嵌ったと言われる事になる。
そんな大きな動きがあったカレアント戦線も、海軍の将兵にとってはやや関心の薄い話題でしかなかった。
船の将兵達が、久しぶりの休息に胸を躍らせている中、第5艦隊司令長官であるレイモンド・スプルーアンス中将は、
インディアナポリスから降りて、一路、南太平洋部隊司令部へと向かった。
午前10時頃、待合室で待っていたスプルーアンスのもとに、南太平洋部隊司令官のニミッツ中将と、もう1人見慣れた男が現れた。

「レイ、久しぶりだね。」
「ニミッツ司令官。こちらこそお久しぶりです。それにラウス君も。」
「はあ、どもっす。」

名前を呼ばれた男、ラウス・クレーゲル魔道士はやや照れ笑いを浮かべながらスプルーアンスに言った。

「どうかね?元の職場で客人として来る気分は?」
「まあ、少し微妙な気持ちですな。以前は私があなたのように、待合人のところへ赴いた物ですが。」

「まあそれはそうとして、久しぶりの海はどうかな?」
「楽しくやっております。最初は、少々戸惑いもありましたが、今となってはすっかり慣れましたな。」

スプルーアンスは視線をニミッツからラウスに向けた。

「ラウス君は確か、バルランドの首都で働いていると聞きましたが。」
「彼はバルランド海軍の総司令部で参謀みたいな仕事をやらされているようだ。」
「まあ、厳密に言えば、参謀のようでそうなのかな~と思えるような仕事なんすけど。」

ラウスは苦笑しながら言う。
ラウスは、7月末まではアメリカ海軍に派遣された連絡要員として開戦から機動部隊と共に過ごして来ている。
その間、幾つもの海空戦を経験して来たラウスに目を付けたバルランド海軍総司令部は、しばらくの間は彼を司令部の特別要員として働かせる事にした。
ラウスは総司令部派遣されてから、自らが体験した海空戦の模様を海軍のお偉方に教えた。

「僕が体験した事を踏まえた上で言わせてもらうと、これからは飛行物体の時代です。今までは水上艦同士の砲撃戦が全てである
と思われていたようですが、もはや、その考えは既に古い物であります。アメリカ海軍は一定の条件下以外では、空母を用いた
機動部隊を持って相手に向かいます。空母の艦載機は、1機1機は脆弱な存在ですが、纏まれば戦艦以上に強力な物になります。
レアルタ島沖海戦を始めとする今までの海空戦が、その証拠です。」

ラウスはこのような調子で、これからの海軍戦略において水上艦と飛行物体の連携は大事であると熱心に説いた。
このラウスの弁論は、かつて魔法学校に通っていた同期生も聞いて、ラウスの変貌振りに驚いていた。
それまで眠りのラウスというやや印象の悪い渾名を付けられたこの魔道士は、今では近代海軍戦略の数少ない理解者として知られるようになっている。
とは言っても、やはり中身までそうそう変わらないようであり、休日の際は相変わらず家で引き篭もっていると言う。

「でも、結構楽しめながらやっていますよ。僕が体験談を語る時、今までふんぞり返っていた海軍のお偉方が顔色を変えた時は、
正直言って笑いを堪えるのに一苦労しましたよ。」
「バルランド海軍の上層部には、結構頭の固い方が大勢居るようだが。」

スプルーアンスは何気ない口調で聞く。それに対し、ラウスもまた何気ない口調で返事した。

「そうっすね。やっぱ長い間、ワイバーンとかは大した物ではない考えてきた人ばかりですからね。そう言う人達は
僕の説明に難癖をつける事が多いんで、結構苦労しますよ。」
「なるほど。だが、上層部という物は案外そういうもんだぞ。」
「ハハ、まあさほどしつこく突っ込まないんで、あまり気にはならないんですけどね。」

ラウスは苦笑を交じえながらそう言った。

「ところで司令官、今日、私を呼んだ理由はなんですか?」
「ああ。実はな、レイ。つい先日、キンメル長官から電話があったのだ。」

ニミッツはそう切り出してから、スプルーアンスに話の内容を教えた。
その話の内容は、以前、ニミッツとスプルーアンスが、キンメルに頼まれて内密に調査していた事と関係があるものだった。
話が終わった後、スプルーアンスは険しい表情を浮かべていた。

「・・・・・その話は、本当の事なのですか?」
「キンメル長官がレイリー・グリンゲル魔道士から直接聞いた事だ。間違いは無いだろう。ラウス君、君もこの事は知っていたと思うが。」
「ええ。知ってましたよ。」
「しかし、1人の少女に、とんでもない魔法を埋め込むとは。」
「ああ、全くひどい事をする。いくら戦争に勝ちたいからとはいえ、人を人とも言わぬような人体実験を繰り返して人間を爆弾代わりに
するとは、正気の沙汰ではないよ。」
「グリンゲル魔道士はよく、あの少女がその巨大魔法を埋め込んでいると気が付きましたな。」
「僕はグリンゲルさんから聞いたんですが、うっすらと手の露出している部分に魔術刻印が見えたそうです。グリンゲルさんはその魔術刻印が
何であるか調べた結果、大分昔の魔術所に禁忌の術として、大規模な破壊魔法を人体に埋め込む魔法を知ったんです。その時、グリンゲルさんは
かなり驚いてました。なんでこの禁忌の魔法が、あの少女に・・・と」
「問題は、この少女がどこにいるか・・・・だ。」

ニミッツ中将は真剣な表情で言う。

「この少女が南大陸に逃げ込んだから、シホールアンルは馬鹿らしい大義名分を掲げて南大陸に侵攻した。だが、問題の少女フェイレは、
南大陸のどこにいるかも分からない。」

「本当に南大陸にいるか・・・・・あるいは・・・・・」

スプルーアンスは押し黙った。ニミッツはスプルーアンスの考えている事が分かった。

「南大陸に逃げたと見せかけて、北大陸にいるか・・・・・そうだな?」
「ええ、その通りです。この南大陸には、何万ものシホールアンルシンパのスパイがおります。当然、スパイ達の目は厳しいでしょう。
ですが、そのスパイ達も、シホールアンルの直接の支配権なら派遣されている数は少ないはず。常識的に考えて、わざわざ敵の本陣に
向かう者はいませんからな。」
「だが、逆を言えば、あえて敵の本陣の近くに隠れるからこそ、厳しい監視の目を抜けられるという手もある。いわば、燈台下暗しと言う訳だ。」

ニミッツとスプルーアンスの推理に、ラウスは感嘆した。

「ははぁ。そう言う手もありますね。」
「まっ、探偵の推理に比べたら、雑がありすぎるだろうがね。でも、敵の裏を掻くとすればこれしか方法は無いだろう。」
「レイの言う通りだ。現に、そのフェイレとやらをシホールアンルはまだ捕まえていないようだ。捕まえたらすぐに使えるようにして、
どこかで爆発させているはずだ。シホールアンル側がフェイレを捕まえれば、この戦争は酷い有様になるだろう。」

(今だって酷い有様なのに・・・・・)
ニミッツ中将は、最後の言葉は口に出さず、心中で呟いた。

「鍵を、我がアメリカが手に入れるか、それともシホールアンルが手に入れるか・・・・・これによって、以降の戦局は大きく左右されるだろう。」

その時、待合室に若い士官が入ってきた。

「司令官、カレアント陸軍のラドム・バンドナ中尉とエリラ・ファルマント軍曹がお見えになりました。」
「おお、来たか、通してくれ。」

ニミッツはその2人を通すように命じる。この時、ラウスは覚えがある名前を聞いて一瞬首を傾げた。

「エリラ・・・・・?」

どこかで聞いたことのある名前。ラウスは記憶を探っていく。
その間にも、カレアント陸軍からやって来た2人の軍人が待合室の中に入って来た。

「初めまして。私はカレアント陸軍第92特殊旅団第2連隊に所属しています、ラドム・バンナム中尉と申します。」
「同じく、エリラ・ファルマント軍曹です。」

入って来たのは男と女の軍人である。
共にカレアント陸軍の青色の軍服を付けている。男の軍人は犬のような獣耳を、女の軍人は猫のような獣耳を生やしていた。

「あっ・・・・・」

突然、女の軍人がラウスを見てから、唖然とした表情を浮かべた。

「・・・・・やあ、久しぶり。」

ラウスは何気ない表情で女の軍人に挨拶した。

「あなたは・・・・ラウスさん!?どうしてこんな所に!?」
「どうした。そこの人と知り合いか?」
「はい、大尉殿。以前、ちょっとお世話になった物で。」

スプルーアンスがすかさず、ラウスに聞いた。

「ラウス君。どうやら彼女とは面識があるようだが、以前ビルが言っていた女体化事件の真犯人かね?」
「ええ、そうっすよ。あの時は色々めんどくさい事をさせられましたけどね。」
「ラウス君と、そこのレディは知り合いのようだね。おっと、遅れましたが、私は合衆国海軍南太平洋部隊司令官を務めます、
チェスター・ニミッツ中将です。そこの眠たそうな青年はラウス・クレーゲル、今はバルランド海軍総司令部の特別要員です。
こちらは第5艦隊司令長官を務める、レイモンド・スプルーアンス中将です。まあ、立ち話もなんですから座りましょうか。」

ニミッツはそう言って、2人のカレアント軍人を反対側のソファーに座らせた。

「今回、あなた方カレアント陸軍の方に来てもらったの、ある作戦についての事なのだが。以前、そこのお嬢さんが我が機動部隊の
パイロットをグラマラスなレディに変えたが、我が太平洋艦隊司令部は、今度考えている作戦では、その魔法技術が変装にも使えるのでは?
と思っているのだ。」
「作戦といいますと?」

ラウスがすかさず聞いてくる。

「今度の北大陸侵攻作戦時に、敵の後方深くに侵入してある重要人物を保護する作戦だ。この作戦にはOSSの特殊班も参加する予定だ。」

ニミッツは最初、これだけしか言わなかったが、スプルーアンスはこの時点で、フェイレという少女を救出する作戦であると理解していた。
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