だけど、しあわせギフトは届かない ◆jN9It4nQEM
革命家は自分にできる範囲内で人を助けようとしました。
しかし、革命家は否定されました。
全員助けないのはおかしい、と。
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「ここが海洋研究所か……」
七原秋也は目の前に建つ近未来の建物を前に軽くため息をつく。
ロベルト・ハイドンの襲撃から無事に逃げおおせたことで張り詰めた緊張が途切れたのか。
それとも、桐山和雄という協力者を失ったことで、一段と辛くなったこれからを憂いたのか。
どちらにせよ、七原の心身に溜まった疲労は大きく、速やかな休養を欲していた。
「さてと、次の放送まではここで待機……か」
背中にいる白井黒子は未だに目を覚まさない。
自分の正義が通用しなかったのがショックなのだろうか。それとも、佐天涙子の死が、未だに彼女の心を縛っているのか。
最も、七原には知る由もないので、下手な憶測は考えても無駄である。そう判断して即座に破棄。
今は、休養に専念する。
(かといって、油断はできない。この状況で襲われでもしたら……考えたくもないね)
今の七原は武器こそ充実しているが、状態は極めて悪い。
気絶している黒子を護りながら戦えると自尊できる程、彼は楽観的ではない。
加えて、自分の状態もベストコンディションには遠すぎる。
こんなざまでまともに動けるなどあり得ない。結論を言うと、放送までこの海洋研究所で待機することに決めたのだ。
(お願いだから誰も出てきてくれるなよ。無敵のヒーローではないんだからよ、ワイルドセブン様は)
七原はグロックを握りしめながら、慎重に海洋研究所に入っていく。
丁寧に。かといって、ゆったりとはせず迅速に。
殺し合いでは流れに乗りきれない者から死んでいく。
一度、プログラムを経験した七原にはそのことが痛い程わからされている。
それ故に、こんな所で初歩的なミスは許されない。
(女の子を守る王子様は……三村や杉村の方が似合うんだけどな。
全く、俺じゃあ何もかもが足りなすぎるんだよ)
七原には三村達のように突出した力は存在しない。
杉村のように、拳法という武の力も。
三村のように、ハッキングという知の力も。
あるのはプログラムを勝ち残った経験のみ。
それだけが、この場でアドバンテージといえる唯一の武器だった。
(生きるって辛いなぁ……愚痴の一つでも言わせてくれよ? そうでなきゃ、やってらんなくなっちまう)
心中で愚痴りながら、七原がようやくの休息を取る頃にはそれなりの時間が経過していた。
この殺し合いが始まって以来、始めてとも言える気の休まる休憩かもしれない。
今思えば、これまでの道筋には余裕が全くなかった。
その原因に、桐山がいたこともあるが、心から信頼出来る仲間がいないというのも原因に上げられる。
(川田がいてくれたらどんなに心強いか……死んじまった奴は蘇らない。そんなこと、知ってるはずなのに)
川田章吾のような冷静かつ、安心できる仲間がいてくれたらどんなに楽だったことか。
最も、前のプログラムで川田に迷惑をかけていた自分が言えたことではない、と自嘲する。
(今の俺は未熟なままではいられないんだ。典子を護れるだけの男にならないといけないしな)
プログラムに巻き込まれた初期の自分はもういない。
あの頃のような理想を追い求められる程、七原は綺麗でいられなかった。
無邪気に信頼を預けることは、できない。
(……典子。無事でいてくれ)
そんな七原がこの場で一番信用できる人間といえば、一緒にプログラムから脱出した中川典子であろう。
共に生きていくと誓った彼女は、今何処で何をしているのだろうか。
不安で怯え、泣いていないだろうか。
(他人の心配よりも自分のことを心配しろよって話か。
それでも、心配なもんは心配なんだ。願わくば、俺と合流するまで生きていて欲しいな……)
自分がいなくなったら誰が彼女を護るのか。
協力者を死なせてばかりの情けない革命家様は、未だ五体満足で生き残っている。
まだ終われない、下を向くにはこの程度の絶望じゃあ足りないぜ、と唸りを上げている。
(反撃は、ここからだ。典子よりは先に死ねないしな。やってやるさ、やってやる……!
上で呑気に観覧してる奴等に言ってやる! 戦場に――観覧席はねぇんだってことをなぁっ!!)
決意を新たにし、かねてより考えていた首輪について詳しく触ってみようとしたその時。
「……味方か、敵か。さてとどっちが出てくるかねぇ」
七原の耳に聞こえてきたのは少女二人の話し声。
そっと、ドアをあけて後ろについてみるが、殺し合いに乗っている雰囲気ではない。
むしろ、ここが殺し合いだと理解しているのかと言わんばかりの和やかさである。
(ま、油断はしないけど)
二人の少女が角を曲がり姿が見えなくなった瞬間。
七原は勝負に出る。
右手にレミントン、左手にグロックを持ち、角から飛び出した。
片方の少女が手に持ったスコップで銃を弾こうとするが、遅い。
その前に二つの銃口が少女達に照準を定めている。
「おいおい、睨まないでほしいね。この程度は殺し合いなんだ、やって当然だろ?」
「貴方は……」
「アンタ達はあの時の奴等だな。改めて自己紹介しておくよ。七原秋也、職業、学生……って言いたいところだけど」
クルクルと銃を回し腰に収める姿は、七原の容貌と合わさって様になっている。
最も、この動作にも一応の考えはあるのだ。
殺る気なら、いつでも殺れるぜと証明することで余裕を見せる。
殺らないなら殺らないで相手を落ち着かせるおどけた行為としても意味を持つだろう。
さておき。七原は口を釣り上げて右手を差し伸べる。
「ここは革命家ってことでよろしく。うん、クールだな」
願わくば、ヒデヨシや黒子みたく甘い理想だけを持つ少女達ではないようにと、思いを込めながら。
############
「さて、それじゃあ積もる話を消化しようじゃないか」
三人の会話の主な語り手は、七原だった。
レナ達が話すことと言えば、秋瀬或と遭遇したことに加えて、結衣と一致団結して脱出しようと決めたことぐらいである。
故に、話す側の主は七原になる。
「まあ、アンタ達にとっては安心だよな。桐山が死んだ訳だし。
園崎詩音の仇は死んじまったってことも加えてな」
「……そういう言い方は無いと思うよ」
「だが、事実だろ? アドバンテージとディスアドバンテージを比較してもな。
園崎の仇討ちっていう個人的な感情を抜かしてもだ。アンタ達だって殺られたくはないだろ。
もし、桐山がここにいたら……わかるだろ?」
桐山はレナ達を排除すべき存在だと認識していた。
そんな桐山がレナ達と遭遇したら――。
みなまで言わなくてもわかるだろう。
殺戮。虐殺。圧倒的な力による蹂躙。
そこには血溜まりしか存在しない。
「それでも。人の死は哀しいんだよ。
例え、どんな人であろうとも……死んだら駄目だよ」
「駄目、ねぇ……それが会う参加者を殺して回る殺人鬼でもか?」
「……私はそう思うけど。よくないよ、殺したら終わりなんだよ!」
「レナと同意見だな。殺して、殺されて、殺して。そんなの、悲しすぎるじゃないか」
レナに追従して、結衣も賛同の意を示す。
七原には、二人の姿が黒子、ヒデヨシに重なって見える。
こいつらも人を殺すことを是としないのか。
まだ、理想を語れるのか。
二人の目を見ていると、胸の奥がチクリと痛む。
まるで、自分が間違っていると糾弾されているかのようだ。
「オーケイオーケイ。もういいさ、否定はしない。アンタ達はこの上なく正しい。
そういうことでいいさ。だけど……その考えを俺には押し付けないで欲しい。俺は敵は殺す。
取り返しがつかない失敗を冒す前に、始末をつける」
「駄目だよ! それじゃあ、また……悲しい思いをする人が増えるだけだよ!」
「おいおい、聞いてなかったのか? 俺もアンタ達のことを否定しない。
その代わりにアンタ達も俺にその『理想』を押し付けるなって」
七原は、普段通りに軽口を交えながらも、冷静な観点から事実を見据える。
あの時、ロベルトを迅速に殺していれば、このような事態にはならなかった。
後悔しても遅いが、敵はやはり殺すべきなのだ。
味方、敵をひっくるめて助けるなんて少なくとも七原には不可能だと、先の戦闘では改めて気付かされた。
「あれもこれもって救える程に、アンタ達は強いのかい?
それならいいさ。皆が笑顔で終われるハッピーエンドを目指せばいい。好きに、夢物語を語ればいい。
だけど、俺は弱い。理想を追い求められないくらいに、弱いんだよ」
肩をすくめて、七原は自分の思ったありのままを言葉にして告げる。
もしも、彼がロベルト・ハイドンのような強力な力を持っていたら話は違っただろう。
だが、実際の所は七原に異能はない。
異能を何一つ持ち合わせていない七原にとって、今回の殺し合いは前回よりも格段に恐ろしいといえる。
「信じることが大事だってのはわかる。だが、その範囲は敵にまでは向かないってことさ。
これ以上話しても埒があかない、一旦は区切ろうじゃないか」
いくら議論をしても考えは交わらず、平行線になるだけだ。
そう判断した七原が話題を変える。
相手に主導権は握らせない、このような駆け引きも時には重要である。
川田からは短い時間ではあったが、たくさんのことを学んだ。
この会話の進め方もその一つである。
そして、流れがレナ達に引き寄せられる前に――ここで畳み掛ける。
「さてと、船見だっけ? 先延ばしにするのもどうかと思うしハッキリ言わせてもらう」
「……な、何?」
「赤座あかりは死んだよ」
「……ぇ?」
「先に言っておく。嘘じゃない。仮に幸運が重なって生きていたとする。
だけど、それは普通とかけ離れていることは確かだ。要するに、死に損なってるだけだ」
「う、そだ……」
「俺は逃げも隠れもするけど、嘘は言わないってのが流儀でね。さてと。これで、俺が話すことは終わりだ。
視線を落とし体を震わせる結衣の姿は、見ているだけで痛々しかった。
嗚咽混じりの声が室内に響く。
そんな沈黙の中、七原は淡々と真実を述べる。
「……ただ一つ言えることは、赤座あかりはどうしようもないくらいにお人よしで。俺には眩しいくらいに輝いていた。
そんないい娘が死ぬこの世界は狂っちまってる。あの娘が死ぬのは、俺だって嫌だった」
言いたいことは言えた。
主導権をこちら側に引き寄せることもできた。
これ以上話すことはないと言わんばかりに、七原は立ち上がり部屋の外へと出て行こうとする。
「どこに、行くの?」
「ちょっと、一人になる。これ以上話すことはないし、アンタ達には休息が必要だ」
「それは秋也くんの方こそ……!」
「俺のことを心配するぐらいなら自分のことを考えた方がいいぜ。
それと、俺はアンタ達に嫌われてるだろうしな。ここにいても、逆効果で迷惑だろ」
七原は、ガチャンとドアを閉じてその場から立ち去った。
残ったのは茫然自失となってふらふらになった結衣と。
未だ目を覚まさない黒子と一方的に会話を打ち切られたレナ。
「結衣ちゃん……」
何も見えない、聞こえない。
絶望の暗闇に落とされた結衣の為に、今のレナができることといえば。
彼女の華奢な体をぎゅっと抱きしめることだけだった。
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「……はぁ」
ドアの向こう。レナ達から少し離れた場所で、七原は腰を下ろしていた。
表情は疲れきって憔悴し、数分前に見せたエネルギッシュな顔つきはどこにもない。
「マジで、愚痴でも言わなきゃやってられねぇな……」
七原は、彼女達と円滑な関係を気づけるとは最初から思っていなかった。
数時間前の黒子達との議論のように、いくら理論を持って説明しても否定されるのは目に見えていたからだ。
それは、詩音をかばった時から半ば理解していた。
そのようなレナと共に行動している結衣もきっと同じ考えなのだろう。
(どんなに真面目に喋っても、宗屋達みたいな奴等は理解してくれない。
あの時の俺のように。殺すな、絶対に殺すなって。そんなの、理想論に過ぎないのに)
ついさっきまで仲良く話していた奴等が発狂した。
ギラついた目を自分に向けて襲いかかってきた。
人は、狂うのだ。そして、狂ってしまった人達に説得など意味を成さない。
殺すことで自分を護るしか道はないのだ。
相手を思うことで自分が殺されては意味が無いのだから。
(もう少しで放送か。もしも、典子が呼ばれたら……いや、もしもじゃない。呼ばれてもいいように、心の準備をしておかないとな。
絶対に呼ばれないなんてことはあり得ないんだ。桐山が死んだ今、典子だっていつ死んでもおかしくはない)
自分は何とかこの時間帯を生き残ることはできそうだが、典子は大丈夫なのだろうか。
客観的に見て、典子もプログラムを生き抜いた経験を持っている。そう簡単には死なないとは考えているが、ここは普通じゃない。
ロベルトのような参加者に襲われたらひとたまりもないだろう。
現に、桐山も既にこの舞台から退場している。
経験があるからと言って、例外扱いには出来ない。
(呼ばれたとしても、竜宮達の前では絶対に動揺しちゃいけないな。厳しいことを言ってる俺が個人的感情に揺らいでどうする。
もう二度とこんなことが起こらないように、始末をつけるまで、俺は振り向かない)
流す涙はもう枯れ果てて。
理想を見ることに疲れた七原にとって、レナ達は眩しく見えた。
そんな眩しい存在と比べて、自分はどうなのだろう。
理想に負けて、妥協を覚えてしまった自分。
この手を血に染め、生き残っている自分。
好きで殺している訳じゃないのに、なぜ否定されなければいけないんだ。
畜生、と小さく呟いて、七原は壁によしかかった。
(それでも、何も護れないよりはいい)
――だけどさ、頼むよ。
声には出さないけれど。七原はそっと心の中で言葉を紡ぐ。
「…………ノブ、三村、杉村、川田、典子」
――どうか、誰も見ていない一人だけの時ぐらい。
「俺、頑張るから。頑張るから……」
――俯くことを許してくれ。
############
その全員に、革命家は入っているのでしょうか?
彼を助けようとする存在は、果たしているのでしょうか?
きっと、彼は一人きりでも戦うでしょう。
なぜなら、彼は――革命家なのですから。
世界を変革することを、友の無念を胸に抱いて。
彼は、走り続けるしか無いのです。
たった一人になっても、彼は振り向かないと。涙を見せないと決めたのですから。
【D-4/海洋研究所前/一日目・昼】
【七原秋也@バトルロワイアル】
[状態]:健康 、疲労(中)
[装備]:スモークグレネード×2、レミントンM31RS@バトルロワイアル、グロック29(残弾9)
[道具]:基本支給品一式 、二人引き鋸@現実、園崎詩音の首輪
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1:放送までは待機。休息を取りたい。
2:今後の方針を練り直す。首輪の分解も試したい。
3:白井については、どこまで同行する…?
【白井黒子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:気絶、精神疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式 、正義日記@未来日記、不明支給品0~1(少なくとも鉄釘状の道具ではない)
基本行動方針:正義を貫き、殺し合いを止める
1:……………。
2:私は、間違えた……?
3:初春との合流。お姉様は機会があれば……そう思っていた。
[備考]
天界および植木たちの情報を、『テンコの参戦時期(15巻時点)の範囲で』聞きました。
【船見結衣@ゆるゆり】
[状態]:疲労(小)、呆然自失
[装備]:The wacther@未来日記、裏浦島の釣り竿@幽☆遊☆白書、森あいの眼鏡@うえきの法則
[道具]:基本支給品一式×2、眠れる果実@うえきの法則、ワルサーP99(残弾12)、奇美団子(残り2個)、森あいの眼鏡(残り98個)@うえきの法則不明支給品(0~1)
基本行動方針:友達と一緒に、元の日常に帰りたい
1:レナと行動。互いの友達をさがす
[備考]
『The wachter』と契約しました。
【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:疲労(小)
[装備]:穴掘り用シャベル@テニスの王子様、森あいの眼鏡@うえきの法則
[道具]:基本支給品一式、奇美団子(残り2個)、不明支給品(0~1)
基本行動方針:知り合いと一緒に脱出したい。正しいと思えることをしたい。
1:結衣ちゃんと行動。互いの友達を探す。
[備考]
※少なくても祭囃し編終了後からの参戦です
最終更新:2021年09月09日 19:35