限りなく純粋に近いワインレッド  ◆JEMTQAOagI


流れた物は戻らない。
一度流れた物はどんなに手を伸ばしても掴むことは出来ない。

練習で流した汗も時間が経てば消えてしまう。
流れた物は形を変えて残ることも在る。
流した汗は努力の結晶となり自分を成長させてくれる結果に変わる。
人は流して流されて成長していく生き物。
中学生である彼等も数多の流れを経験し大人になるだろう。

流れた物は戻らない。
一度流れた物はどんなに手を伸ばしても掴むことは出来ない。

ならどうしてだ――教えてくれよ。

何でこんなに涙を流しているのに――。





俺の哀しみは流れないんだ





流れた物は戻らない。
一度流れた物はどんなに手を伸ばしても掴むことは出来ない。


引っかかってしまった物だけが形として残る。
それは良い物なのか悪い物なのか、正義なのか悪のなのか。
それは解らないし試す方法もない。
一つだけ、一つだけ言うこととしよう。


切原赤也の記憶から真田弦一郎の存在は消えない。


例えその生命が尽きようとも彼の脳裏に深く焼き付いていた。

ただ泣き叫ぶ声が残響となり響いているだけの空間。
死体に口なし、誰も赤也を宥めることは出来ず彼の感情は外に流れていく。
理解が出来ないししようとも思わない。
死んだ。真田弦一郎が。あの副部長が死んでしまった。

理解する必要がない。
彼はこの事実を受け入れる気がないのだ。


振り返れば尚更、この場面、いや、始まりから全てが可笑しいのでは無いのだろうか。


あのファンタジーな出来事も。
ホームセンターの死体も。
二度と見たくないあの映像も。
目の前に広がる地獄絵図も。
全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部――。


現実とは限らない事だって有り得る可能性もあるかも知れない。
それか嵌められている、ドッキリの一種だとそろそろ言ってもいい頃だろう。
出るならば早く、彼の精神が壊れる前に出て来てくれれば有難いが夢模様。
そんなこと有り得ないこと等彼自身理解している。


涙は止まること無く溢れ続け無残に響く苦痛の悲劇。
枯れる、だけど永遠に溢れ出る涙は何処から生まれるのか。

もう戻らない。

あの日々はもう戻らない。
苦しい練習に耐え、先輩の厳しい教えにも耐え……それでも楽しかったあの日々に。
もうあの時と同じテニスは出来無いということに。
声には出さない。
それぐらいしかこの現実に抗えないから――。




振動が響く。
魂が心が震えているのだ。

違う。

振動の正体は始まりの携帯電話である。
つまり定期放送の開始を告げる着信であり――。

目の前に在る死体の名前が呼ばれる事になる。
勿論損傷が酷い死体や会ったことも無い死体の名前など分かるはずが無い。
だが出会って――同じ時を過ごした死体の事なら深く理解している。


「やめろ」


『ゲーム開始からおよそ半日が経過した。
これより、二回目の定時放送を伝える。
まずは前回と同じく、この六時間で新たに死亡した者の名前を読み上げよう。』


「やめろ」


『相沢雅――赤座あかり――』


「やめろ」


『跡部景吾――』


「やめろ――え」


時が止まる感覚とはこの事だろうか。
跡部景吾――この名を聞いた時赤也の時間は一瞬だが確実に静止した。
あの男が死んだ?氷帝の頂点に君臨するあの男が死んだ?
あの絶対君主制の男がこんな所で死んだ――こんな音声で信じられる筈がない。
そうだ、これは嘘であって真実ではない。
醜い幻想、絶望の悪夢、仮想の出来事で在って全ては元に戻りあの日々が始まる。
青学の手塚部長や放送で流れる氷帝の王者跡部。
真田副部長とも肩を並べるこの人達が簡単に死ぬ事など想像できないしする必要もない。


「そうですよね?」


だから。


「あの人達がこんな事で死ぬなんて事は」


だから。


「信じられないっすよね――」


お願いだから。




「――何か言ってくださいよ……ッ」




反応を求めようにも何も返ってこない。
認めたくない事実も一人では不安になってしまうから同意を求める。
後輩が伸ばす救いを求める手を真田は掴まない、掴めない。


『真田弦一郎』


死人に何を求めろと言うのだ。

呼ばれた。
誰が。
呼ばれてしまった。
誰が。
認めたくない。
真田。
これは現実ではない。
弦一郎。
信じる事なんて。
副部長。


「う――ッああああああああああああああああああああああ」


分かっていた。
これが現実だなんて最初から分かってはいた。
だけど頭が理解しない、拒否反応を起こしている。
どんな強豪のテニスプレイヤーだろうと赤也は、参加者は全員中学生である。
人間の死など簡単に受け入れられる程大人ではない――彼等はまだ幼い子供。
突然入ってくる情報はとても厚くパンクしてしまう程熱い。


抑えきれない衝動と感情を破壊に変換。
壊れる前に周りを壊し己に掛かる負担を軽くする。
手頃な残骸を広いラケットで弾きホテルを支える支柱を破壊していく。
子供の八つ当たりであった。


どうせこんなボロボロに壊れているロビーならもう変わらない。
ホテルとしての機能が働かないのなら壊してしまって問題無い。
問題が在ったとしても関係無い、壊されなければ自分が壊れてしまう。
ホテルの上階等に他の参加者がいる可能性も十分に在る。
だが頭が回らない、今は破壊するだけ。





爆発によって無残な状態になっていたロビーに新たな破壊が加わった。
今にも崩れそうで崩れない。
ここで崩れたら死体が――真田までもが潰れてしまう。
その感情が赤也を止める一つの材料になった。
そしてもう一つ。


『――たとえ、すでに亡き者の『蘇生』でさえも』


この言葉が耳に残る。
蘇生――そせい?
つまりだ。最後の一人になれば願いが叶う。そして死人も生き返る事が出来る。つまりだ。
切原赤也が他の人間を破壊尽くせばあの日々が元に戻る事が可能であることを示す。


「はは、はっ……ハハハハ!ハーハッハハハハハハ!!」


「簡単じゃねえか!簡単過ぎるぜぇ!どうせ『こんな事』をするロクデナシしかいねえなら!殺しても問題無いなぁ!!」


導き出された一つの答え。
それは破滅の道を辿り最後に全てを精算する悪魔の覇道。
殺されかけたこともある。なら自分が加害者に回ればいい。
人殺しとか、窃盗とか。今更そんな小さい罪を気にする必要はない。
こんな殺し合いを止められない警察や政府に自分を咎める権利など無い。

清々しい。
重い物が全て無くなった感覚だ。錘を外した感覚とよく似ている。
身体が軽くなり自分に不可能などないという自身が底から湧いてくるのだ。


切原赤也その瞳に濁りはない。

全てを決意した悪魔は息を整えると足を進める。
こんな所に留まる必要はなく一刻も早く他の人間を殺しに回らなければならない。
ホテルに破壊を施したが度を超す衝撃がなければ崩れることはないだろう。
真田の死体はそのまま――全てを終えてまた会う時まで別れの時。


一箇所大きく壁に風穴が開いており太陽の光と風が入ってくる。
死体を照らし、死体を靡かせるように室内に侵入。
まるで死者を弔うかのように――本当に死んでしまった。


「そんじゃ行ってきます真田さん――ん?」


深い永遠の眠りに付く真田に一礼をした時に頭から何かが落ちる。
それは拝借した真田の帽子。
彼の生きた証であり守るべきあの日々のお思い出が床に落ちる。


「もう帰ってこないんすよね」


言葉を掛けても何も返ってこない。


「俺はもう行きますよ。容赦は無い」


以前変わらず。


「そんでもって全て元に戻してまた皆でテニスっすよ!王者立海の――」


その時死体である真田から気迫を感じた。


本気で言っているのか、と。


そんな訳ない――間違ってることなど初めから理解しているさ。


「ならどうしたらいいんすか!?みんな、みんな死んじまって!!」


解らない事が有れば他者に救いの手を伸ばし協力を求める。
中学生というまだ成長途中である赤也は当然の如く疑問を放つ。
まだ己の力で道を切り開ける程大人ではない。


「立海も青学も氷帝も――もう『あのチーム』ではないんすよ!?もう別モンになっちまった!!」


仲間。
その誰か一人でも欠けてしまえば以前のチームと同じとは呼べない。
それも真田、手塚、跡部クラスのプレイヤーになればチームに与える影響は尋常ではない。


「――仲間?」


一緒に練習を通して信じあえる存在となった掛け替えの無い大切なもの。
人を殺したと仮定してまた同じように笑顔で会えるだろうか。
無理だ。罪悪感が己を包みあおの頃と同じようにはならない。


「ハッ!……そう云うことですか副部長」


何も優勝することが全てではない。
あいつらがそんなファンタジーを可能にするならば。ならばの話だ。
その方法だけを聞き出しこちらの物してしまえば誰も悲しむことはない。
つまりだ。


「信頼出来る仲間と協力して裏で笑ってる奴等を潰せばいい――そうっすね?」


常勝を信念に行動すればいい。

一礼。
今度は帽子を外した姿勢で深く感謝を込めて。
この事が無ければ赤也は人を躊躇いなく殺す悪魔となっていた。
デビルマンなど洒落にも為らない殺人鬼に成り下がる所であったのを止めてくれた。


信念深き覚悟は迷いを吹き飛ばし足を軽くする。
悪魔の血は引いていき見慣れた肌の色が再び現れる。
その色は普段よりも明るく、まるで天使のようだった。


天使化。
大切な存在の死を乗り越えた赤也に訪れた神様の施し。
この力は中学生である彼らが勝利へと辿り着くための大きな力となるだろう。


「ありがとうございます――だから待っていて下さい」


ラケットを背負い踵を鳴らし帽子を被る。
出発の準備は整い足を進め外へと飛び出す。
太陽の光が天使を照らしその輝きは誰も止める事は出来ない。
あのまま悪魔だったならば確実に元には戻れないだろう。


胸を張ってチームに帰ることも出来ない。
ビックスリーに挑むなど資格も持ち合わせないだろう。
だが今は違う。
この力は全ての参加者を導くために使うべきだ。


人は神にも悪魔にもなれない。


ならば天使である赤也が導くのは当然のことである。

「――行ってきます!」


天高く照らし続ける太陽を見上げる。
そこには懐かしい人影が見える気がした。





――あなたはそこにいますか?――


【C-6/ホテル前/一日目・昼間】


【切原赤也@テニスの王子様】
[状態]:天使状態 、固い決意、『黒の章』を見たため精神的に不安定、
[装備]:越前リョーマのラケット@テニスの王子様、燐火円礫刀@幽☆遊☆白書、月島狩人の犬@未来日記、真田弦一郎の帽子
[道具]:基本支給品一式、バールのようなもの、弓矢@バトル・ロワイアル、矢×数本
基本行動方針:あいつらを倒す
1:他の参加者と協力してあの日々を取り戻す。
[備考]:天使化しました。余程の事が無い限り再び悪魔に戻ることはないでしょう。


※ホテルを支える柱に損傷が入りました。強い衝撃を加えると崩壊する可能性があります。

――あなたはそこにいますか?――




「居る訳ねぇだろバァーカッ!!ハハハハハハハハハハ!!」




都合よく天使化など起きるはずもない。
それこそ甘い妄想であり現実逃避の他ならない。
今まで見てきた光景はもしも、所詮もしもの世界。
それも都合のいい事象だけを取り揃えた甘すぎて反吐が出る程の偽善。


人の生命はそこまで軽くない。



差し込む太陽光と入り込む風。
死者を弔うように?何を言っている。
こんなの死体を腐らせる要因になるだけであり寧ろ悪化するだけ。


協力して?
こんな残虐な行為をする奴等と協力出来る筈もなく夢物語。
出来たとしても疑心暗鬼の腹の探り合いを繰り広げるだけ。
何時かは壊れてしまい惨劇に繋がるだけ。


真田副部長が教えてくれた――




「死体が喋る訳ねぇだろォ!!俺はそこまでイカれてないからなァ!!」




悪魔は悪魔らしく行動すればいい。




「全員殺して元通りのハッピーエンドォ!!いいよなァ!!最高だよなァ!!」




もう止まらない。止められない。


大切な存在の消失は中学生には重すぎた――。

【C-6/ホテル前/一日目・昼間】


【切原赤也@テニスの王子様】
[状態]:悪魔化状態 、強い決意、『黒の章』を見たため精神的に不安定、ただし殺人に対する躊躇はなし
[装備]:越前リョーマのラケット@テニスの王子様、燐火円礫刀@幽☆遊☆白書、月島狩人の犬@未来日記、真田弦一郎の帽子
[道具]:基本支給品一式、バールのようなもの、弓矢@バトル・ロワイアル、矢×数本
基本行動方針:知り合い以外の人間を殺し、最後に笑うのは自分
1:全員殺して願いを叶える
[備考]:余程のことがない限り元に戻ることはありません。


※ホテルを支える柱に損傷が入りました。強い衝撃を加えると崩壊する可能性があります。



Back:桜流し 投下順 ルートカドラプル -Before Crysis After Crime-
Back:桜流し 時系列順 四人の距離の概算


悪魔にだって友情はあるんだ 切原赤也 悪魔の証明


最終更新:2021年09月09日 19:49