カケラ壊し ◆jN9It4nQEM


思いを貫けるように。私は――――



◆ ◆ ◆



『ということでこの首輪は盗聴されている可能性が高い』

簡素な作りの展望台に少年少女が三人。各々着ている制服が違ったりなどの変化はあるが共通点として見た目が幼い。
四人は展望台の一階に備えられていたそれなりに広い部屋を陣取り情報の交換を進めていた。椅子に座り、机に基本支給品として配られたメモ帳をしく。
そして、全員が無言でボールペンでメモ帳にカリカリと言葉を書き綴っていくその姿は異様だった。

『大事なことは全部このメモを通して会話したほうがいい。もちろん、盗撮の可能性もあるから首元は見えないようにしてな』

筆談の主導権を握っているのはいかにも軽薄そうな少年。だが、それはあくまでも外見だけだ。
その両目は鋭い刃物を連想させる程に尖り、発せられる眼力が他の二人を圧倒させる。
七原秋也。バトル・ロワイアルに参加し、地獄の島から脱出したはずの少年。
この『ゲーム』は地獄からの生還に喜んだ矢先の出来事だった。

『つうか、ぶっちゃけ俺としちゃあこの馬鹿げたゲームに参加しているよりも掴めねえことがある。
 七原や佐天とは住んでる世界がどう考えても違ってる……学園都市、大東亜共和国。
 俺には初耳だぜ、そんな国も場所も聞いたことがねえ』

首輪についての話題を変えたのは七原の正面にいるサル顔の少年だ。
宗屋ヒデヨシ。彼も七原と違っているが『空白の才』を手に入れる戦いに身を置くといった異常を抱えている。
この戦いに参加することでヒデヨシは声を似顔絵に変えるという能力を手に入れた。
だが、それは普通の人生を歩む上では全く必要がないものだ。
加えてこの能力が日常生活に対してあまり役に立つとは言えないが。

『でも、実際にこうしてあたし達は出会っているし、それは確かな証拠だと思うんです』

ヒデヨシの横に座っているのは花のヘアピンをした至って普通の少女だった。
佐天涙子。学園都市という能力開発に特化した都市でレベルゼロという烙印を押された出来損ない。
そんな取り柄もない少女も等しく巻き込まれているこの『ゲーム』。異世界という時空の壁を越えた戦い。
三人にはどうやって多種多様な世界の人間を巻き込んだのか想像もつかなかった。

『ともかくさ、今はもっと仲間集めを優先しよう。俺達だけじゃあこの問題は重すぎる』

筆談による聞かれてはならない情報交換も終わり、ひとまずの結論は先送りとなった。
そして、互いの知り合い、知識の交換をしている間にも時間は刻々と過ぎていく。
早め早めの行動を心がけなければいけない今、情報の交換を終えたときにはここにこれ以上留まっている理由もなかった。
窓からは黒に染まった街並みが一望できる。この眼下では闘いが、生き残る為の闘いが始まっているはずだ。
今も何処かで誰かが死んでいる。そんなことを思うと、鳥肌が嫌でもたってしまう。怖がってる時間はないというのに。

「じゃあ、俺は灯台、港の方面を進む。宗屋と佐天は山小屋、ホテルという道順で最終的には海洋研究所でまた合流しよう。
 時間は……二回目の放送辺りでいいか?」
「俺はぶっちゃけそれでもいいぜ」
「あたしも特に異論はないよ」

話し合った結果、三人は仲間捜しの為に分散して行動するという方針にした。
この広い会場で固まるより、別れて捜した方が互いの捜し人も見つかる可能性が増えるからである。
無論、分散するということは危険との遭遇というリスクも高まる。それを承知の上での決断だった。
事態は一刻を争う。こうしている間にも仲間は地に倒れ伏せている可能性があるのだ、落ち着いてなどいられない。
危険だからという理由で悠長なことをしていられるほど余裕はないのだ。

「じゃあ、生きてまた」
「ああ。七原も。全員生きて脱出しようぜ!」
「あはは……みんな無事で帰りたいね」
「何言ってるんだよ、必ず……必ずみんなで帰るんだ」

ここから始まるのだ、こんなクソッタレなゲームへの反逆の道が。三人全員が死んでたまるかという強い意志を持って。
愛すべき人がいるから。共に笑う友人がいるから。帰ってやらなくてはいけないことがあるから。
今はこうして全員が明るく振舞ってはいるが本心は恐怖でいっぱいなのだ。
死という喪失により生まれる絶望。やるべきこと、やりたいことを成し遂げられずに死ぬことへ強い恐れを抱くは当然である。
ましてや全員が中学生という若さだ、こうして落ち着いていられるだけでも大したことだった。

「じゃあ、おっさきぃ~! あははっ、一番乗りだー!」

死にたくないよ。
佐天が根源とも言える苦悩を無理やり消し去るのごとく我先にと外へのドアを開けた。
そして二人の方へ振り返り「早く来なよ」と笑って。
何の取り柄もない自分だけどこうして笑顔を振りまいていれば誰もが落ち着いてくれるはずだ。
悲しい顔よりも笑顔がいい。佐天なりに足りない頭で考えた結論ができるだけ笑顔でいるということだった。

「――――えっ」

そんな笑顔が、凍りつく。額から飛び出した銀色が赤の肉を貫き、電波塔のように天を指す。
世界が止まったと錯覚してしまうぐらいにゆっくりと佐天が動いた。
リノリウムの床へと、飛び出した肉と血を垂れ流しながら地面へと崩れ落ちていく。

「……!?」

引き抜かれた銀色から流れだす命の証である赤。赤が床を絶望へと染め上げる。
ドサリと倒れ落ちた佐天の身体は既に痙攣も終えて動いてはいなかった。死因は刃物を使った頭部刺殺。
当然、痛みを感じることなく即死である。故に、笑っている。否、笑っていた。
彼女の笑顔は依然とあの心を温かにさせる笑みを浮かべたままだ。

なのに。なのに――怖い。暑くもないのに汗が吹き出して口はブルブルと震えて形が定まらない。

(あ、ああ……嘘だろう、ぶっちゃけありえねえって!!!???)

待ち時間は突如ゼロ秒、何の合図もなしに殺し合いは幕を開けた。
覚悟も準備も定まらぬ自分。地に伏せる生きていたもの。
ヒデヨシは声を上げることも動くことも出来ずにただ硬直して立っていた。
こうしている間にも、敵は迫りつつあるのに。
視界には倒れ伏した佐天の身体を押しのけて下手人が駆け抜けてくる。
このまま死ぬのか。そんな疑問が浮かび、

「ちっ……くしょうがぁっっっっ!」

横から響いた声がその思考をカットし、ヒデヨシを正常に戻した。
固まった二人の内に真っ先に動いたのは七原だった。
ちくしょうと喚きながらも取る行動には間違いを犯さない。
今の自分にできることを即座に実行。
近くにあった椅子を強く蹴りつけることで走りこんでくる下手人をそのままこちらへと突っ込ませない。
下手人は思わぬ行動に面食らい動きを一瞬止めて、横へと軽くステップ。その一瞬こそが七原にとっては待ち望んでいたものだった。
その一瞬を利用して七原は懐に入れていた黒い塊を下手人に向けて投げつけた。
飛び出して来た下手人は黒い塊が手榴弾とわかると身を翻して後ろへと跳躍する。
数秒の後、ドンっと破裂する音と共に辺りは白い煙が巻き起こる。
スモークグレネード。爆発によリ発生した煙が広がることで視界が白へと染まった。
煙が身を隠している内に二人はこの場から逃走しなければならない。
今の混迷した状況で戦っても大した事はできないし、七原一人ならまだしも、ここにはヒデヨシがいる。
もし、ヒデヨシが死ぬことになってしまったら苦悩しきれない。
そのことのみにならず佐天のようにこれ以上仲間を死なせるわけにはいかなかった。

「逃げるぞっ!」

七原の声と共に足音が下手人の耳にも聞こえてくる。間抜けにも窓の方向からは大きな声が届いたことに下手人はクックッと思わず笑ってしまう。
早く逃げろ、俺が囮になる。
そのような声を出す暇があるのなら黙って逃げればいいものを。

「逃がすものか」

ナイフを強く握り直し、地面を強く踏みぬいて声の響く場所へと勢いよく跳ぶ。
そのまま、ナイフを横薙ぎに振りかざし、心臓めがけて刺突。
これにてまた一人を血の海に染め上げる――!

「殺ったっ!」

来るであろう肉の感触と吹き出す血を想起して下手人は口を釣り上げて笑う。
だが、一秒経っても、十秒経っても。そのような感触は現れなかった。
何故、と思うもすぐに行動を切り替えて闇雲にナイフを振り回すが何かを切ったという感触は感じない。
下手人の顔には困惑の表情が浮かぶ。
そして時間が経ち、煙が晴れた時には七原も、ヒデヨシも、誰一人いなかった。
結局、自分は宙をただ切っていただけだったのだ。
何が起こった? あの時、声は窓の方面から聞こえていたはずだ。

「小細工か……ああやってくれる」

あの声を何かの仕掛けと下手人――園崎詩音は判断を下し、そんな仕掛けにまんまと引っかかった自分に苛立ち混じりに眉をひそめる。
ああ苛立たしい。あの時、冷静に行動していれば残りの二人も殺せたはずなのに。仕掛けに気を取られている間に正面のドアから堂々と逃亡。
実に簡単な策ではある。引っかかった自分が馬鹿だとしか言い様がない。
この抑え切れない怒りを顕にして倒れている佐天を蹴り上げる。

「殺すんだ、そう。圭ちゃんも、レナさんも、お姉も。私は殺す」

優勝すれば神にも等しい力を得られると“声”は言った。
ならば、その力を使うことで叶わぬ願いを叶えられる願いに変えることが出来るかもしれない。
もう一度。そう、もう一度だけでいいのだ。彼に――北条悟史に。

「会いたい……会いたいよ」

会って伝えたい。この胸にある仄かな恋心を。そして、また頭を撫でて欲しい。
その為にも殺さなければいけない。友達や姉を犠牲にすることになったとしても。

「悟史君」

園崎詩音は、迷わない。迷っては、ならない。



【佐天涙子@とある科学の超電磁砲 死亡】



【A-5/展望台/一日目・深夜】

【七原秋也@バトル・ロワイアル】
[状態]:健康
[装備]:スモークグレネード×4
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1:逃げる。

【宗屋ヒデヨシ@うえきの法則】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~3
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1:逃げる。

【園崎詩音@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:健康
[装備]: コンバットナイフ@現実
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2
基本行動方針:優勝する。
1:北条悟史に会いたい。
※佐天涙子の遺体、基本支給品一式、不明支給品0~3が近くに転がっています。

【スモークグレネード】
殺傷を目的としない手榴弾。投げて数秒後に煙が吹き出す。
この煙によって敵の攻撃をかわしたり、注意を逸らしたりする。
五個セット。

【コンバットナイフ】
戦闘用の頑丈なナイフ。




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START 佐天涙子 GAME OVER
START 宗屋ヒデヨシ Gong Down
START 七原秋也 Gong Down
START 園崎詩音 とある七人の接触交戦【エンカウント】(前編)


最終更新:2011年11月15日 09:27