Gong Down ◆7VvSZc3DiQ



走る走る走る。夜闇の中を少年が二人、走る。
何処かへ向かうためではなく、その逆。彼処から離れるための逃走を二人は続ける。
鬱蒼と茂った樹々が二人の行く手を遮るも、飛び出た枝葉が手足を裂くも、二人は走り続けた。

十分ほど走り続けた後だろうか、後ろに続く者が誰もいないことを確認し、彼らはその場にへたり込んだ。
大きく息を吐き、吸うと、夜の冷たい空気が肺に刺さる。痛さが――しかし今は、生きている証だ。

秋也とヒデヨシは、口に出さぬまま、今は冷たくなっているだろう少女のことを思った。
佐天涙子と名乗った彼女は、二人がこの殺し合いの場に呼ばれた後、最初に出会った人間だった。
彼女には秋也が経た殺し合いの経験も、ヒデヨシの持つ超常の力も、何もなかった。
ごくごく普通の女子中学生でありながら、胸中に渦巻いていたであろう恐怖を殺し、必死に笑顔を浮かべていた。

しかし佐天涙子は、その笑顔を崩さぬまま、突然の襲撃により秋也とヒデヨシの目の前で命を落とした。
張り付いたままの笑顔が血の紅に塗れ、佐天の身体がゆっくりと崩れ落ちたあの光景は、未だ二人の脳裏に焼き付いている。
あの殺人を止めることは、不可能だったのだろうか。悔やんでも悔やみ切れぬ思いが胸を満たし、溢れ、涙となって地面に落ちた。
ちくしょう、とヒデヨシが小さく呻いた。己の無力を、ヒデヨシは悔やむ。

「……おかしいだろ、あんなの。どうして……! 佐天が死ななきゃいけなかったんだよ……!」
「あまり、自分を責めるな。宗屋がどうしたところで、あの凶行は止められなかった」
「――っ、何言ってんだよ七原ぁ! お前は……佐天が死んだことを、仕方ないで済ますのかよ!」

憤慨したヒデヨシは、秋也の学生服の襟元を掴み、叫ぶ。
確かに佐天とはあの場所で初めて会った、殆ど他人のようなものだった。
佐天が死んだところで、七原にとってはそうショックはないのかもしれない。
だがヒデヨシには、そうやって佐天の死を割り切ることなど出来ない。

「――七原。ぶっちゃけ、オレは怖いんだよ……人が死ぬところなんて初めて見たんだ。
 ……もしもあの部屋から最初に出てたのがオレだったら……きっと、死んでたのはオレだ。
 もしオレが死んでたとしても……お前は、仕方ないって言っちまうのか……?」

ヒデヨシの感情の高ぶりの根源にあるのは、死への恐怖だった。
ヒデヨシが巻き込まれていた、神様候補と中学生によるバトルロワイアル――それの脱落は、必ずしも死を意味しない。
戦闘による気絶や本人のリタイアでも敗北するそのルールは、ある意味で敗者に優しい。
事実、ヒデヨシはあの戦いの中で死者が出たという話を聞いたことがなかった。
死にそうな目にも何度となく遭遇したが、仲間と力を合わせ危機を脱してきたのだ。
だからきっと今回も、みんなで力を合わせればきっと誰も死ぬことなく生きて帰ることが出来ると信じていた。
しかしそれがとんだ甘えた考えだったということを、佐天の死によって突き付けられたのだ。
秋也の襟を掴む手は、怒りに震えていたのではない。忍び寄る死への恐怖に震えていたのだ。
対する秋也は、掴まれた襟元からヒデヨシの手を外しながら、しかし瞳は真っ直ぐにヒデヨシを見据え、答えを返す。

「俺は――目の前で人が死んだのを見たのは、あれが初めてってわけじゃない。
 言っただろ、俺はこんなクソッタレな幸せゲームは、一度クリア済みだってな。
 ……あのとき生き残ったのは、俺を含めて二人だけだった。俺のクラス42人のうち、40人が死んだんだ。
 ……お前の気持ちは、痛いほど分かるさ。仕方ないなんて言葉で片付けることは出来ない。
 だけどな、現実として、俺たちは神様なんかじゃない。ただの中学生なんだ……出来ないことだって、たくさんあるんだ」

秋也がいた城岩中学校三年B組の生徒は、七原秋也と中川典子の二人を除いて、全員死んだ。
秋也の目の前で死んだ人間だって、何人もいた。……そしてその中には、秋也自身が手にかけた人間も含まれている。
はっきりとした殺害の意思があったわけではなく、もみ合っているうちに殺してしまった、半ば事故のような殺人だったが――人を殺したという事実に変わりはない。
分かったことがある。人は簡単に死んでしまうし、死んでいく人間を救うことは難しいという、言葉にしてしまえば単純で、ゲロを吐きたくなるような現実だ。

「それでも立つんだよ、宗屋。俺たちは立ち上がらなきゃいけない」

七原秋也は音楽が好きだ。とりわけ、ロックを愛している。どうしてか? ロックは自由の音楽だからだ。
あのクソッタレな国で、人々は僅かな自由を甘受しながら政府の言うことをすっかりそのまま受け入れていた。
政府に不利益になりそうな思想、言葉は弾圧された(ロックももちろん。国中の音楽店はありふれたアイドルソングに占領されていた)。
しかし秋也は、自由を謳うロックをこっそり聴きながら、その力を強く感じていた。ロックには力がある。世界を変えてしまうような力が。
ディランやレノンは歌っている。スタンダップ。立ち上がれ。自由はその先にあるんだと。

だが――ヒデヨシの顔は、秋也の言葉を受けた今でも下を向いたままだ。
興奮は冷めていた。今はただ、恐怖だけがはっきりとした形をとってヒデヨシの心を蝕んでいる。
ヒデヨシは自分が弱いということを自覚している。だからこそ事態に正面からぶつからず、搦め手を使う。
もしもその搦め手が通用しないときは、すぐに逃げ出していた。それでどうにか上手くやれていた。

「悔しいんだよ……こんなこと言いながら、あのとき動けてたのはオレじゃなくて七原のほうだ。
 オレはただブルブル震えてただけだ……七原がいなかったら、オレも死んでたはずだ。
 どうしてオレァ……こんなに弱いんだ……!」

もし自分に、仲間である植木耕助や佐野清一郎のような力があれば、佐天の仇を取ることだって出来たかもしれない。
いつだって口ばかりが先に立ち、行動が伴わない自分の無力さが、悔しさを通り越して、憎い。

「宗屋……」

ヒデヨシの気持ちもまた分かるからこそ、秋也はかける言葉を見つけられない。
経験者であるからこその助言も、いきなり殺し合いの場に放り込まれた人間にとっては逆効果になりかねない。
しかしいつまでもそんな精神状態のままでいては、この殺人ゲームでは致命傷になりかねないのだ。
慎重に言葉を探す秋也は、かつて自分を導いてくれた男のことを思い出していた。

(川田……お前もきっと、今の俺と同じ心境だったんだな)

川田章吾――秋也と典子の二人が生きて前回の殺し合いから脱出できたのは、更にその前の年のプログラムを勝ち抜いた川田の指揮があったからだ。
あのときの秋也は川田の言う脱出プランに乗っただけで、自分では殆ど何も考えずに生き残るためだけに行動するだけで良かった。
今の秋也とヒデヨシの関係は、あのときの川田と秋也の関係とよく似ている。

(俺に……出来るだろうか。川田と同じことが)

いや、いま求められているのは川田以上の意志と行動だ。
なんせこの二度目の殺し合いってやつは、大東亜共和国が行ったプログラムとはまた別――まったく得体のしれないものだからだ。
川田がついたプログラムの弱点(なんとあのときの首輪は、川田がその気になればものの数十秒で解除できるものだった)も、ここではまず通用しないだろう。
生き残るということに関しては前回の経験が生かせるかもしれない。だが、脱出となるとまったくのゼロからのスタートだ。
そしてもう一つ、本当にこのゲームは暇を持て余した神様が仕組んだんじゃないかと思わせることがある。
慣れない手つきで触った携帯電話に載っていた名前は、本来ならばもうこの世には存在しないはずの――
そのとき、秋也とヒデヨシはきぃんという金属をひっかいたような音を聞いた。

『香川県城岩町立城岩中学校三年B組の桐山和雄だ』

 ◆

桐山和雄と佐野清一郎は携帯を握りながら対峙する。
場所は山小屋の前の開けた土地。二人の視界を遮るものは殆ど存在しない。
響くのは耳に障る不協音。二人の未来が変わる音だ。
ざ、ざ、ざと連続と不連続を繰り返すノイズが途切れたとき――両者は同時に動き始めた。
桐山は右に、佐野はその逆に。距離は変わらず、ただ位置関係だけを変える動き。

その動きの最中、両者は共に握られた携帯電話の画面を覗いた。二人が持つ携帯電話には、二人が行う未来の殺人が表示されている。
殺人日記――その記述の通りに行動すれば、必ず標的を殺害することが出来る、悪魔のような未来日記だ。
佐野が持つ、オリジナルの殺人日記。コピー日記の能力を用い複製された、桐山の持つコピー殺人日記。
片方は贋作とはいえ、その能力に優劣はない。どちらの殺人日記も、相手を確実に殺す術が記されている。
佐野は見た――己の、『手ぬぐいを鉄に変える』能力を使えば、桐山を殺すことは可能だ。
鉄のブーメランを三撃、うち二撃をフェイントに使うことにより最後の一撃が相対する男の頭を割り、男は死ぬ。

しかし。
殺人日記が表示するのは、あくまで殺人という行為そのもの。佐野自身がどうなるかまでは記載されていない。
神様の座と空白の才を巡る戦いの中で培った戦闘経験が、佐野に危険を報せる。
目の前の男――桐山和雄は、とびきりに危険な男だ、と。

その根拠は直感だけではない。桐山は先程、佐野の持つ殺人日記の能力を言い当てた。
そしてその直後、殺人日記の記述は耳障りなノイズと共に書き換えられたのだ。
殺人日記を契約したそのとき、ムルムルは言っていたはずだ。未来日記の記す未来を変えられるのは、同じく未来日記を持った所有者だけだと。
ならば桐山もまた、未来日記を所持している可能性が高い。その証拠に、桐山も携帯電話を片手に戦闘に挑んでいる。
生命線となる機能が多く搭載された携帯電話を、破損の可能性が高い戦闘時まで握っているというのは不自然甚だしい。
十中八九、桐山の支給品の中にも未来日記が入っていたと考えていい――

佐野は桐山の出方を伺いながら、桐山の持つ未来日記の能力を推測する。
何よりも警戒すべきは、殺人日記の能力を見破ったという事実だ。
能力を知っただけなのか、記述の内容まで見通されているのかまでは分からないが、下手に殺人日記の通りに動けばその逆をかかれる可能性がある。
桐山を殺すことに成功したが、自らもまた深手を負った――など、本末転倒だ。
佐野の目的は、無作為な殺人ではない。優勝すること、生き残ることが最優先事項なのだ。
劣勢を感じたならば即座に退却する準備も出来ている。

だが、少しでも多くの参加者を落としておきたいのも事実。
桐山の実力を見極める意味でも、ここで一度ぶつかっておいて損はないはずだ。
手ぬぐいを両の手に握ると、佐野は大きく息を吸い込んだ。

「ほな……こっちから行くで!」

佐野の投げた手ぬぐいが空中で鉄に変わり、ブーメランの軌道を描き桐山を襲った。
しかしその軌道は、殺人日記が予知したものとは違う。投げられた手ぬぐいの数は一。
桐山は容易くその軌道を見切り、横飛びでかわした。続く攻撃は――ない。
桐山は右手に握った短機関銃を構えると、佐野へと向けて掃射する。
ぱらららと飛来する弾丸を、佐野は広げた鉄板でガード。ここまでは、先ほどの攻防と同じ――
変わるのは、ここから先の展開だった。射撃を防がれながら、桐山は佐野へ向かって走った。
より近距離からの射撃により、鉄板ごと撃ち貫くつもりだ。

「させるかい!」

最初に飛んだブーメランが、戻る二の太刀で桐山へと再度飛来する。
しかし――桐山は一瞥さえも向けず、風を切る音と空気の流れだけで軌道を把握し、横へ1メートル動いただけで鉄の刃をかわした。
二人の距離は縮む。最初の20メートルは、既にその半分、10メートルに。そこでM&K MP5SDの銃口が上を向いた。
フラッシュマグと同時、十を超える弾丸が熱を持ち、佐野の頭部を狙う。
命中――しない。距離は半分になったが、鉄板の厚さもまた二倍に。今度は二枚の手ぬぐいが防護壁の役割を果たしていた。

「ふぅ……日記の言うとおりにしとったら、ここで終わりやったかもしれんな」

もしも三枚の手ぬぐいを全て攻撃に回していれば、桐山は仕留められたかもしれないがその反撃までは防げなかったに違いない。
殺人日記――確かに便利やが、こいつに頼り切るのもいかんっちゅうわけか、と佐野は実戦における殺人日記の有用性を評価し直す。
攻め手の一つとしては非常に有効だが、殺害そのものが目的でない佐野にとって必ずしも良好な結果を残すとは限らない。
たとえどんなに強力な能力を有していたとしても、それが戦闘の結果を決定づけるわけではないのだ。

バトルにおいて最も重要なのは的確な戦術だ、というのが佐野の持論だった。
手ぬぐいを鉄に変える能力は、能力者全体で見れば決して強力な能力ではない。
攻撃力だけでいうなら、金属バットや鉄製のブーメランを持っている一般人となんら変わりないくらいだ。
佐野が名だたる能力者たちを相手に勝利を収めてきたのは、類稀なる戦闘センスを十二分に発揮し、不利を有利に変える創意工夫を繰り返してきたからなのだ。

銃弾を弾き返した鉄板を手ぬぐいに戻し、棒状にしたのち再びくろがねに。
距離は縮み、既に接近戦の様相を呈している。振りかぶった鉄槍を、桐山へ向け振り下ろす。
桐山は、鉄槍を避けなかった。右手で受け流すも、捌ききれなかった衝撃がみしりみしりと骨に響く。
佐野は桐山が短機関銃を取り落としたのを見て、更なる追撃を敢行。覇気と共に突きを繰り出さんとする。
しかし、佐野の槍撃は止まる。呻いた佐野の左目には、桐山が左手で投擲したコインが刺さっていた。
傷は浅い。失明には至らない。しかし決定的な隙だ。その隙を見逃す桐山ではなかった。

「……が、はぁッ……!」

佐野の胸部に、桐山の右足が刺さった。肺の中の空気全てを強制的に排出させられるほどの、強力な蹴り。
たまらずに息を吸い、距離を取ろうとした瞬間。意図せぬ呼吸によって限定条件が解かれ、ただの手ぬぐいに戻ったその瞬間を狙われた。
桐山は手ぬぐいを掴むと、佐野の手から強引に奪い取ったのだ。
途端、桐山の興味は佐野から手ぬぐいの方へと変わっていた。佐野が桐山から距離を取り、再び戦闘態勢に入ろうとも手ぬぐいの観察を続けている。
いくらか検分した後、何の変哲もないただの手ぬぐいなのだと分かったとき、桐山はようやく口を開いた。

「――この手ぬぐいは、お前に支給されたものなのか?」

佐野は答えない。答える義理などない。黙ったままでいると桐山は表情も変えぬままに手ぬぐいを足元に放った。
つい先程までの興味が、まるで嘘のように。思えば桐山は、佐野が見る限りではまったく感情というものを表に出していない――
最初に出会った時からそうだ。口をついて出てくるのは、事実確認とコイントスの結果を受けた意思表示だけ。
そこに、桐山の意思はまったく存在していない。殺し合いに巻き込まれたことによる恐怖も、怒りも、何も見えてこない。

ようやく――佐野は気付いた。
佐野がこの男に感じていた恐れの正体は、佐野と並び立つ卓越した戦闘センスなどではなかった。
桐山には、己の意思などない。彼の奥底には、何事もを飲み込む深く暗い無が存在している。
およそ人間離れした精神は、規格外のスペックを持った肉体に乗り込み何を為すつもりなのか。
それが、拡声器で宣言した『協力者を募り、脱出する。非協力的な者は殺す』に集約するのであれば。

(間違いなく、こいつはそれをやり切る……たとえ、自分以外の全員を敵に回し、殺すことになったとしてもな)

なら、自分が取るべき行動は――と、そのとき。

「そこの二人――止まれっ! 止まらなければ、撃つ!」
「おおぉぉぉぉぉっ! 佐野ぉぉぉぉぉ!」

現れたのは、二人の男。一人は学生服に身を包み、もう一人はタンクトップにロングパンツのラフな格好をしていた。
そしてタンクトップのサル顔は、佐野の名前を呼んでいた。しかし佐野はそのサル顔に見覚えはない。
とはいえ、佐野は能力者たちの中では注目されている強者の一人だ。
天界のデバイスなどを通して名前と顔を覚えられていたとしても不思議ではない。

(つまりあのサル顔も能力者っちゅーことか……? しかし、もう一人のほうは)

もう一人――学生服に身を包んだ少年、七原秋也はまっすぐに桐山和雄を見つめていた。
秋也の額に冷や汗が流れる。桐山、和雄――秋也が参加した大東亜共和国製幸せゲームで、最後まで立ちはだかった城岩中学三年B組最強の男。
その桐山が短機関銃を構え、秋也と正対している。
秋也も丸腰ではない。支給品の一つだったポンプアクション式のショットガンを構え、銃口を桐山へと向けている。
試し撃ちはしていないが、前回のゲームで川田が使っていたものと同型のものだ。この距離ならば撃ち損じることもない。
秋也は桐山の顔をじっと見つめた。確かに間違いない。桐山和雄だ。だが――

「桐山……お前は本当に、桐山和雄なのか?」
「――どういう意味だ?」
「俺の知っている桐山和雄は、第六十八プログラムで死んだ……俺の、目の前で」

そうなのだ。あのプログラムの中で、七原秋也と中川典子を除いた40名は、みんな間違いなく死んだはずだ。
なのに名簿には、秋也と典子の他に、死んだはずの桐山たち四人の名前も載っていた。
最初は何かの間違いか、悪質な冗談かとも思った。だが――実際にこうして、生きた桐山の姿を見れば。
もしや本当に、この殺し合いを仕向けたヤツってのは神様なんじゃないのかと思ってしまう。

「答えろ、桐山。お前は……『プログラム』に、『参加』したか?」
「……俺は最初、プログラムに巻き込まれたのかと思った。だが、違うと気付いたんだ。
 七原。お前のその質問に答えるなら――答えは、ノーだ。俺はプログラムには参加していない」

なんてこった神様。あんた本当に、時間でも何でも自由に操っちまうのかい?
吐き捨てるように心のなかで毒を吐き、秋也は桐山との距離を縮めた。銃口は、勿論桐山に向けたままだ。

「なら桐山、お前が言っていたことは本当か? 仲間を集め、脱出する――」
「だが、殺し合いに乗った者は殺す。協力しない者も殺す」
「お前は俺を――殺すか?」
「言ったとおりだ。協力するつもりがないのなら、誰だろうと俺は殺す」
「俺はお前が脱出派になるというなら、邪魔をするつもりはないさ。協力するつもりだってある――」


秋也と桐山が会話を続けていたと同時、ヒデヨシと佐野の二人もまた、言葉を交わしていた。
しかし会話は噛み合わない。ヒデヨシは佐野のことを仲間だと思い込み、佐野はそんなヒデヨシのことをまったく知らない。
冗談はやめろよとヒデヨシが声を震わせても、佐野は取り合わない。

「何度言われてもオレはお前のことなんて知らん。大方、天界のデバイスか何かでオレらを見て勘違いしとるんやろ」
「何言ってんだよ佐野ォ! オレらで……絶対にコバセンか犬丸を神様にするって約束しただろ!?」
「……お前が情報通なんは分かった。せやけどなぁ、約束も何も、オレはお前のことなんて知らんのや」

頑なに否定する佐野を相手に、ヒデヨシは言葉もない。思考は混乱し、得意のはずの弁舌がまったく役に立たない。
こうなったら知っている情報を手当たり次第にぶちまけて、無理矢理にでも信じさせるしかない……!

「佐野! お前の能力は――“手ぬぐい”を“鉄”に変える能力! 限定条件は――“息を止めること”!」
「――ッ!」

言って、初めてヒデヨシは気付く。もしも佐野が、本当にヒデヨシのことを知らないように記憶などを操作されていたら?
能力とは自分たち能力者にとって何よりの武器であり、その能力の限定条件を知られるのは、弱点を知られることと同義であり――
ヒデヨシの言葉を聞いた佐野は手元に残った二つの手ぬぐいを掴むと、渦を巻く形で鉄に変える。
スプリングの形に変えた手ぬぐいを足に装着した佐野は、その場から跳び上がり――そのまま、森の中へと消えていった。
突然の事態に、秋也も桐山も対応することは出来なかった。数発ばかり銃を撃ったものの、夜の森に虚しく響くばかり。

「おい、いったいどうしたんだよ宗屋!?」
「オレの……オレのせいだ……」

佐野は、己の弱点を知られ形勢の不利を悟り逃走したのだ。そのきっかけを作ったのはヒデヨシの言葉だ。
ちゃんと話が出来れば、佐野も仲間に出来たかもしれない――だが、今の佐野は、桐山の言葉を信じるなら優勝を狙うつもりなのだ。
つまり、みすみす危険人物を見逃してしまったことになる――事態の重要性に気付いたそのとき。
ヒデヨシの頭に、M&K MP5SDの銃口が突き付けられていた。


【B-6/山小屋前/一日目・黎明】

【桐山和雄@バトルロワイヤル】
[状態]:右腕に打撲
[装備]:M&K MP5SD@ひぐらしのなく頃に、コピー日記@未来日記、メダルゲームのコイン×8@とある科学の超電磁砲(上着のポケットの中)
[道具]:基本支給品一式
基本行動方針:仲間を集め脱出する。非協力的な者や殺し合いに乗った者は殺す
1:佐野を逃がしたヒデヨシを殺す
2:殺し合いに乗った男(佐野清一郎)を殺す

[備考]
基本支給品の携帯電話はiPhonです。
コピー日記が殺人日記の能力をコピーしました。
コピー日記は基本支給品の携帯電話とは別の携帯で支給されています。

【七原秋也@バトルロワイアル】
[状態]:健康
[装備]:スモークグレネード×4、レミントンM31RS@バトルロワイアル
[道具]:基本支給品一式
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1:桐山と交渉する

【宗屋ヒデヨシ@うえきの法則】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~3
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1:佐野と和解したい


【B-6/山小屋周辺/一日目・黎明】

【佐野清一郎@うえきの法則】
[状態]:胸部に打撲
[装備]:殺人日記@未来日記、手ぬぐい×2@うえきの法則
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1、ロンギヌスの槍(仮)@ヱヴァンゲリヲン新劇場版
基本行動方針:神にも等しい力を手に入れ犬丸を救う
1: 優勝を目指す

[備考]
殺人日記の日記所有者となったため、佐野の携帯電話が殺人日記になりました。
殺人日記を破壊されると死亡します。


【レミントンM31RS@バトルロワイアル】
七原秋也に支給。
バトルロワイアルにおいて川田章吾に支給されていた、ポンプアクション式のショットガン。
一撃で元渕恭一(男子二十番)の右腕を消失させるといった活躍を見せた。



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そしてあかりはいなかった 桐山和雄 とある七人の接触交戦【エンカウント】(前編)
カケラ壊し 七原秋也 とある七人の接触交戦【エンカウント】(前編)
カケラ壊し 宗屋ヒデヨシ とある七人の接触交戦【エンカウント】(前編)
そしてあかりはいなかった 佐野清一郎 手ぬぐいを鉄に変える程度の能力/雷のように動く程度の能力


最終更新:2021年12月14日 10:59