Mole Town Prisoner ◆7VvSZc3DiQ



夜闇に包まれた街の中で、煌々と黄白色の光を灯し続ける建物があった。
その店舗から漏れ出る機械音、効果音が、静まり返る夜更けの街に違和をもたらす。
店頭に突き出す小看板に掲げられているのはGAMEの四文字。
地図ではH-2と示される南西の繁華街の一角に、そのゲームセンターはあった。
店舗は三階建て、ビデオゲームにクレーンゲーム、メダルゲームなどといった様々な種類の遊技盤が揃えられている。
深夜だというのに電源も落ちずに電子音を響かせる店内の一角に、三人の男女が座っていた。
吉川のぼる、鈴原トウジ、歳納京子の三人である。

「それじゃみんな、ここに連れてこられた理由に心当たりはないってことでいいんだね?」
「うん。このアドレス帳には私の友達の名前もあるけど、多分みんなもわけわかんないまんまここにいると思う」
「ワイも歳納と似たようなもんやな。ただ、シンジたちならなんか知っとるかもしれんけど……」

三人が三人とも、はぁ、とため息をついた。誰一人として今の状況を理解できていないのだ。
殺し合えと命令され、気付けば見知らぬ街の中。出会えたのは見ず知らずの他人で、彼らもまた状況に流されているだけ。
どうして自分たちが殺し合いなんて――と問うたところで答えは誰も返してくれない。
この状況で不安にならないほうがおかしいのだ。
三人の心に、早くも暗い影が立ち込めていた――が、

「でもさー、逆に考えれば、こういう機会でもなきゃ私たちって会えなかったわけじゃん?
 キミと出逢えた運命に、感謝っ!」

丸めた両手をぐっとくっつけて、ハート型を作ったのは歳納京子だ。
上下が一体になったえんじ色のスカートに清潔感溢れる白のセーラーを纏う制服は、のぼるもトウジも見慣れないものだった。
チャームポイントらしい頭のリボンを揺らしながら、彼女は、どや? どや? と上手いこと言ったつもりで二人の反応を伺っていた。
すこし鼻の穴を膨らましてぴくぴくさせている京子の様子を見るに、彼女はどうやら根っからの芸人体質らしい。

(くうっ、ツッコミたい……! せやけどあんな低レベルな、ネタにもなっとらんネタにツッコミ入れるなんてワイのプライドが……!)

どや? どや? 鼻の穴ぴくぴく。ぴくぴく。そしてもう一度の――

「感謝っ!」

(アホッ……! 繰り返しは笑いの基本やけどジブンのそれはただ傷口を広げてるだけやないかいっ!)
ツッコむべきか、否か。トウジが悶々とした気持ちを抱えていた、その時。

「クスッ……あはは、歳納さんって面白い人だねー」
リアクションは、のぼるの微笑。
生まれた笑みは場の空気を緩ませ、場を満たしかけていた悲壮や不安はいつの間にか鳴りを潜めていた。

「――うん、確かに会えたのが歳納さんと鈴原くんで良かったよ。もし僕ひとりだったら、今ごろ不安でしょうがなかっただろうしね」
「でしょでしょ? ほら、よく言うじゃん。三人寄ればムンクの知恵って!」
「それを言うなら文殊の知恵や! ムンクやったら叫びやないかい!」
「あ、ごめーん間違えちゃった☆ てへぺろー」

少しの雑談を交えたのち、三人の話題は再びこの殺人ゲームに関するものになっていった。
少なくともここにいる三人は、友達を含む数十人を殺してまで生き残ろうというつもりはないという。
かと言って、むざむざと殺されるつもりも、勿論ない。
生きたままみんなで帰る方法を探し、それを実行することが三人の最終的な目標となるのにそう時間はかからなかった。
先ほどの京子の言ではないが、三人寄れば文殊の知恵という言葉もある。
一人ひとりでは平凡な中学生に過ぎない彼らでも、力を合わせれば脱出の可能性だってきっとあるはずだ――

幸いにもアドレス帳には頼りになる仲間の名前も記されている。
特にのぼるのクラスメイトである菊地善人、神崎麗美の二人は極めて聡明な頭脳を持っており、脱出の方策を考えるにあたって大きな力になってくれるはずだ。

「んじゃ、まずは菊地と神崎の二人を探すっちゅーわけか?」
「勿論他にも仲間を集めなきゃいけないけどね。この二人と合流できたら、きっと脱出の方法も見つかると思う」
「えらい信用しとるんやな、その二人のこと」
「うん――なんせ、僕が人に誇れる数少ないもののうちの一つ――大切な、クラスメイトだからね」

そう言ってはにかむのぼるの顔を見て、トウジも自身の友達――いや、親友のことを思い出していた。
鈴原トウジと碇シンジが出会ったのは、ついこの前――シンジがトウジの通う第壱中学校に転校してきた時だった。
当時、トウジの心中は荒れていた。
彼の住む第3新東京市を襲った謎の怪物――使徒と、使徒を撃退した人型汎用兵器エヴァンゲリオンの戦闘の余波によってトウジの妹が怪我を負い、入院する羽目になっていたのだ。

そんな時に転校してきた男が、噂のエヴァンゲリオンのパイロットらしい――それを知ったトウジは、シンジを呼びつけ一方的に殴りつけた。
シンジそのものに恨みがあるわけではない。それでも、トウジはシンジのことを妹を傷つけた存在として、殴らずにはいられなかった。
妹がどれだけ怯え、傷ついたと思っている? パイロットだなんだと祀り上げられて浮かれているのを見ると、反吐が出る。
あの戦いで傷ついた人間のことも知らんで、調子に乗るんやない――!

だがトウジは、それが自身の精神的な幼さ故の間違いだったということに気付いた。
シンジだって――ヒーロー気取りで考えなしに戦っていたわけじゃない。
多くの人の命が己の双肩にかかっているという現実を受け止め、必死に戦っていたのだ。
何も考えず、何も知らないでいたのは自分のほうだった。
それにようやく気付いた時、トウジとシンジは――親友に、なっていた。

のぼるはどことなくシンジに似ている。
もちろんのぼるは、世界の命運をかけた戦いなんかには縁がないだろうし、これからもそんなものとは無縁に生きていく筈だったのだろう。
エヴァンゲリオンパイロットとしてではなく、第壱中学のクラスメイトとしての碇シンジと、吉川のぼるはよく似ているように感じる。
だからきっと、トウジはのぼるとも仲良くなれる。そんな予感があった。

「んじゃ、これからよろしくな、のぼる」
「うん、よろしく、鈴原くん」
「トウジでええで。ワイものぼるって呼ばせてもらうからな」
「……へへ。うん、よろしく、トウジ。……あれ? そういえば歳納さんは?」
「ん、そういやいつの間にかいなくなっとったな……おーい、歳納!」

トウジとのぼるが話し込んでいる間に、歳納京子は消えていた。
まさか誰か他の奴に襲われたんじゃ――!?
焦る二人の呼ぶ声に、しかしあっさりと京子は返事を返す。
声のしたほうに二人が近づくと、そこにはクレーンゲームに勤しむ京子の姿があった。

「へっへー……よっし、ミラクルんコスプレセットげーっと!」
「オマエなぁ……もうちょっと危機感っちゅーもんを持たんかい」

呆れ顔で京子に近づくトウジとのぼるは、ここでふとした疑問に行き着く。

「ねぇ歳納さん。ここのゲームって、ちゃんとお金入れないとプレイ出来ないよね?」

このゲームセンター、ゲームの種類も多く24時間休まずに営業しているようだが、さすがにゲーム代は取られる設定になっていたはずだ。
殆ど着の身着のままで拉致されていたはずの自分たちではプレイすることが出来ないはずである。
二人の疑問に、京子は何気ない仕草でバッグに手を入れ、何かを取り出した。
京子の手に握られ出てきたのは、札束だった。それも生半可な厚さではない。
おそらく千枚――つまり一千万円ほどはあるのではないだろうか。

「お、おおおおま、オマエなんでそんな金持ってんのや!?」
「なんかこれが私の支給品みたいだよ? 一千万円。あと銃も入ってたけど」
「で、そのお金使ってやることがゲームって……歳納さんって、やっぱり面白い人だね。
 あ、もし良かったら僕にも少し貸してくれないかな? 実は僕もさっきからゲームやりたくってしょうがなくってさー」
「お、のぼるっちもイケるクチかい? んじゃこれどーぞ、はい」

恐ろしきかな金銭感覚の麻痺。京子がさっと万札を渡すと、のぼるは早速両替をしてコインをクレーンゲームに投入。
数回の試行錯誤の末――景品がぽとりと景品取り出し口にイン。のぼるの手際の良さに見ていたトウジは思わず拍手。

「おお、上手いモンやなぁ……って、ちゃうやろ!? のぼる、なんでオマエまでゲームやってんのや!」
「いやー、実はさ、僕、ゲームと見ると思わずやりたくなっちゃうんだよね……あ、あっちのほうにダンレボも置いてるや」
「おいおい………………ま、エエか。しかしただ見とくっちゅーのもなんやし……おーい歳納、せっかくやからワシにも回してくれやー」

結局三人とも、一時間ほどゲームに夢中になってしまったのだった。

 ◇

「いやー、遊んだ遊んだ――」
「なんだかんだ言って、結局一番楽しんでたの鈴原じゃん」
「う、うっさいわ!」
「あはは。歳納さんのおかげで、良い気分転換になったみたいだね」

京子の持つ札束は少しだけ薄くなっていた。とはいえ、残額はまだまだ沢山ある。
ゲーム代だけで全部使いきろうとするなら三人がかりでも数ヶ月はかかるだろう。
こんな大金が手に入るなんて、殺し合いといっても悪いことばかりじゃないのかもしれないといえば不謹慎だろうか。
宝くじでも当たったと思って素直に使ってもバチは当たらない気もする。

「そういえばさ、みんなはもし宝くじが当たったらって、考えたことない?」
「あるある! 私はねー、もし宝くじが当たったら毎食デザートにラムレーズン食べるんだ。
 そんでもってミラクルん本を採算無視の超絶装丁で作っちゃたりして……あー、夢が広がるー!」
「宝くじねぇ……ワイは妹の治療費にあててやりたいわ」
「え……トウジ、妹さんもしかして……」
「ちゃうちゃう、別に重い病気っちゅーわけやない。ただ、ちょっと怪我してもうてな。少しでもええ病院に入れてやりたいんや」
「いいお兄さんなんだ。僕は一人っ子だから……そういうのちょっと憧れるなぁ。歳納さんは、姉妹とかいる?」
「私も一人っ子だよー。……あ、もしかして鈴原って……シスコン? 妹萌え?」
「け、けったいなこと言うなアホぉ! ……ま、アレや。妹のためにも、ワシは生きて帰らんといかんのや」

もしトウジがこの殺し合いで死ぬようなことがあれば――妹はどれだけ悲しむだろう。
妹を悲しませたくない。だから自分は、決して死ぬ訳にはいかないのだ。
――って、

「鈴原、それってあからさまな死亡フラグじゃん!」
「し、死亡フラグ? ぅー、なんやそれ」
「えーっと、漫画とかによくある、『ここは俺に任せて早く行けッ!』みたいな……」
「だから鈴原、いきなり私に対して『もっと早く素直になっときゃ良かったなぁ……』とか、『妹のこと、頼むで……』なんて言ったら、ダメ、ゼッタイ!」

そんなことを口走る歳納京子の瞳は真剣そのものだ。
どうやら真剣に、トウジの心配をしているらしい……だが正直なところ、トウジには心配の理由が分からない。
むしろ鬱陶しささえ感じる。というかぶっちゃけ京子はだいぶめんどくさいんじゃないだろうかという気がしている。

「……なぁ、やっぱりジブンら置いて、ワシ一人で行動してもええか?」

「だからそれも死亡フラグだってばー!」
「ええい、うるさいわい!」

なにはともあれ――三人は、ゲームセンターから出ていくことにした。
行き先はまだ決めていないが、ここで誰かが来るのを待つより、人が集まりそうなところを目指すほうが友人たちと合流する可能性は高いだろう。
三人の支給品を全部確かめてみたところ、いささか心許ないが武器も人数分揃っていた。
ひとまず戦闘に役立ちそうな装備だけ手に持ち、出発の準備とする。

トウジが装備しているのは学校の用具入れに入っていそうな草刈り鎌に、上半身に着込むタイプの防弾チョッキ。
のぼるが持っているのは俗にいうクロスボウガン。付属の矢も二十本ほど矢筒に入れ、腰から下げている。
京子が持っているのが三人の装備では一番強力であろう拳銃だ。説明書によると製品名はシグザウエルP226というらしい。

女子に銃を持たせることに男二人は難色を示したが、京子の強い希望によりそのまま持たせている。
特にトウジとのぼるが心配しているのは――

(なぁ……歳納って、ゼッタイ説明書とか読まんタイプやろ)
(あ……やっぱりそう思う?)

いきなり後ろから撃たれたらたまったものではない。
よっぽどの時以外は絶対に発砲しないよう強く言い聞かせ、三人はようやくゲーセンを出た。

 ◇

夜道を進むトウジとのぼるの後ろを、京子はついていっていた。
――二人がこちらを見ていないことを確認すると、一人息を吐き、表情を変える。
思うのは、友達のこと――七森中のみんなのことだった。
京子の知り合いの多くが、この殺し合いに呼ばれている。

(結衣、綾乃、あかり、ちなつちゃん……どうしてるかなぁ)

殺し合いをしろと言われて、彼女たちはどうするだろうか。何の抵抗もなく殺し合いを受け入れられるような子たちではない。
でも――殺さなければ、自分が死んでしまうというようなとき、彼女たちはどちらを選択するだろう。
殺す側になるのか。殺される側になるのか。
分からない、と思う。
みんなとは今までずっと一緒に過ごしてきて、色んな話をして、お互いのことを分かったつもりでいた。
だけどこんなとき、みんながどうするのか分からない。

――じゃあ私は、どうするだろう。
死にたくない、とは思う。だからといって人を殺せるのかと問われれば、答えに詰まる。
多分その時にならなければ分からないし、その時になっても決め切れないかもしれない。

私がもし死んだら、結衣や綾乃は悲しむのかな。
私がもし誰かを殺したことを知ったら、あかりやちなつちゃんは怖がるかな。
分からない事だらけで、世界と私は繋がってないんじゃないかと不安になる。
途端に、なんだか自分が世界で一人ぼっちになってしまったような錯覚に陥る。

ポケットの中に入れていたケータイをぎゅっと握った。
誰かと話したいな、と思った。メールじゃなくて、電話がいい。
話す相手は、誰がいいだろう。やっぱり結衣かな。
でもちなつちゃんの可愛さも捨てがたいしあかりと話すとなんだか安心する。
綾乃をおちょくるのも楽しいし、千歳や千鶴とも話したい。

(ケータイ、使えたらなぁ……)

ケータイが使えないだけでこんなに不安になるとは思っていなかった。
世界と私を繋ぐものが、一つ減ってしまった。
ケータイだったり、部室だったり、教室だったり、そういうものがないと私は。

「――おい歳納、大丈夫か?」
「歳納さん、ちょっと休憩する? 速すぎたかな」
「あ――ごめんごめん、大丈夫だよ」

多分――二人がいなかったら、私はもっと不安で仕方なかったと思う。
のぼるっちじゃないけど、二人と最初に出逢えて、本当に良かったと思う。

手を丸めてハートの形を作る。小声でこっそり、

「――感謝っ」
「ん、なんか言うたか?」
「んーん、なんにもっ! ささっ、さっさとみんなを探そうよ!」


【H-2/ゲームセンター付近/一日目・深夜】

【歳納京子@ゆるゆり】
[状態]:健康
[装備]:シグザウエルP226
[道具]:基本支給品一式、997万円、ミラクルんコスプレセット@ゆるゆり
基本行動方針:みんなと協力して生きて帰る
1:七森中のみんなに会いたい

【鈴原トウジ@ヱヴァンゲリヲン新劇場版】
[状態]:健康
[装備]:草刈り鎌@バトルロワイアル、防弾チョッキ@バトルロワイアル
[道具]:基本支給品一式
基本行動方針:生きて妹のところへ帰る
1:脱出の仲間を探す

【吉川のぼる@GTO】
[状態]:健康
[装備]:クロスボウガン@現実、矢筒(20本入り)@現実
[道具]:基本支給品一式、スナック菓子詰め合わせ
基本行動方針:仲間を集めて脱出
1:仲間を探す(菊地、神崎優先)


【シグザウエルP226】
歳納京子に支給。
9ミリパラベラム弾を使用し、装填数は15+1である。
非常に耐久性が高く、水に浸漬させたり泥の中に漬けたとしても、多少の傷が生じることはあっても
性能に影響するような故障もなく、命中精度が低下することもない。

【1,000万円】
歳納京子に支給。
見ての通りの現金である。一万円札千枚で構成されている。

【ミラクルんコスプレセット@ゆるゆり】
ゲームセンターの景品として獲得。
ゆるゆり作中作『魔女っ娘ミラクルん』の主人公ミラクルんのコスプレ変身セット。
これで君も今日からミラクルんだ!

【草刈り鎌@バトルロワイアル】
鈴原トウジに支給。
バトルロワイアル作中で相馬光子に支給されていた鎌。
稲刈にでも使われるような普通の鎌であるが、殺傷能力は十分にある。

【防弾チョッキ@バトルロワイアル】
鈴原トウジに支給。
バトルロワイアル作中で織田敏憲に支給されていたものである。
作中では幾度も織田の命を救っており、その防護性能はなかなかのもの。

【クロスボウガン@現実】
吉川のぼるに支給。
簡単な操作で殺傷力の高い矢を射つことが出来るが、一射ごとに弦を張り直さなければいけないため速射性に欠ける。
当ロワでは矢20本と矢筒もセットで支給されている。

【スナック菓子詰め合わせ】
ゲームセンターの景品として獲得。
1000円分相当のスナック菓子がセットになっている。



Back:Boy Meets Girl and Gay 投下順 HOW TO GO
Back:Boy Meets Girl and Gay 時系列順 HOW TO GO

START 歳納京子 放送の時間だああああああああwwwwww
START 鈴原トウジ 放送の時間だああああああああwwwwww
START 吉川のぼる 放送の時間だああああああああwwwwww


最終更新:2012年07月10日 04:43