あっ! やせいの ガンリキーが とびだしてきた! ◆wKs3a28q6Q



「あーん?」

不快感。
その三文字を顔いっぱいで表現し、跡部景吾は呟いた。

一体何故こんなことになっているのか。
殺し合いとは何なのか。
そして何故、自分は観覧車に乗っているのか。
疑問は尽きなかった。

「なるほど、こいつがその大事な携帯電話とやら、か」

携帯電話を弄り回す。
そこには、見知ったテニスプレイヤーの名が数名ほど見受けられた。

「……樺地はいない、か」

便利な従者がいないことに不満を漏らし、顔を上げる。
丁度観覧車が、最下点を通過し下降から上昇へと切り替わった所だった。
要するに、降りるタイミングを完全に逃したということだ。

「………………」

もう1周。
退屈な時間を潰すため、跡部様(何故だか分からないが、様付けをしなければならない気がしたので、こう表記する)は地図を広げた。
どうやら自分がいる遊園地は、南西にあるらしい。
なかなかどうして不便な場所に位置している。

「あーん……?」

それから再び携帯をいじり、そして――その後に、再び観覧車を降り損ねた。
顔を上げると、地面が遠ざかり景色が下へと移動している。

そんなことを2~3回繰り返し、ようやく観覧車を降りた。
そこで、バッタリ出くわした。学生服の、小柄な少年に。
その少年は、観覧車の降り口の数メートル先に立っている。
向こうもこちらに気付いたようで、こちらに足早に駆けてきた。
そして――――

「あーん?」

跡部様は、露骨に眉毛を釣り上げた。
目の前の小柄な少年が、あまりにも不可解な行動を取ったからだ。

「あの、俺、思うんです」

しかし相手は、いきなり荷物を放り投げ、両手を上げてきた。
ガクガクと、その足は震えている。
だから、聞いたのだ。
「あーん?(和訳:何のつもりだ)」と。
殺し合いの参加者として、少年の行動はあまりにも趣旨から掛け離れていた。

「こういう状況だからこそ、信じ合わなきゃいけないんだって」

……まあ、殺し合いというくらいなのだから、近場に誰かを配置するくらい普通するだろう。
遭遇自体は、そういうことで納得しておいた。
だから今考えることは、何故遭遇したかでなく、どう対処しようかだ。

「俺……俺、信じてもらえないかもしれないけど、殺し合い、前にもやらされてるんです」

経験者。
その自己申告に、跡部様が反応した。
その言葉が真実なら、彼は大いに役に立つということになる。

「……ってーと、殺し合いで勝ち残った殺人鬼、というわけだ」
「ち、違っ……俺、途中で連れて来られちゃって……」
「途中? 脱出不能なんじゃあないのか?」
「えっと……それは……」

別に、目の前のちまっこいのが殺人鬼だとは思っていない。
跡部様の眼力(観察力を含む。なお、インサイトと読む)を持ってすれば、その程度くらいすぐに分かる。
この怯え用は、捕食される側のそれだ。

「それで。そのことが何の関係が?」
「あ、えと……前の時、俺、怯えてて最初あんまり動けなくって……」

じゃあ何故わざわざ話の腰を折ったのか。
俺様だからか。
……いや別にそういうわけではないだろう(ああ、でも、そういう理由もちょっぴりあったのかもしれない)

理由はズバリ、主導権を握るためだ。
いきなり武器を手放され、呆気に取られた所で自己紹介を始められしまった。
ペースを握り返すには、一度話の腰をへし折り再開を促す形がいいだろう。
そこまで計算してやったのか天然でやったのかは、定かではないが。

「でも、勇気出したら、集まったんだ。平常話さないクラスの奴とかが……
 だから、思ったんだ。もっと早く勇気出せばよかったって」
「なるほど……それで俺に声をかけたと」
「う、うん。俺、今度は最初から勇気出して、皆を集めようって」

眼力(インサイト)を発揮し、注意深く観察する。
その怯え、勇気に嘘はなさそうだ。

「それに、その――えっと」
「……名前か?」
「あ、はい」
「跡部だ。跡部景吾。氷帝の王(キング)だ」

「は、はあ……」と言わんばかりのリアクションを取られるが、跡部様意外でも何でもなくこれをスルー。
この程度のリアクション慣れっこである。
特に腹を立てることもない。
ザ・王(キング)の貫禄。

「跡部さんの目――怖いけど、確かな気高さみたいなものも感じるんだ……
 相馬さん――あ、さっき言った仲間の一人なんだけど、その人にもあった、優しくてどこか確固たる意志を持ってる目」
「ほーう」
「だから、この人は殺し合いに乗ってないって思って……
 勇気を出して、話かけたんだ……一緒に立ち向かおうって、言いたくて」

ただのガキだと思ったが、なかなかどうして人を見る目はあるじゃないか。
跡部様はそんなことを思う。
そして、無駄に格好つけた動作で髪の毛を掻き上げながら、言った。

「合格だ。仲間にしてやる」
「え……っていうことは……」
「一緒に立ち向かってやろうじゃねーの」
「ほ、本当!?」

特にその言葉に返事をするわけでもなく、跡部様はつかつかと少年に歩み寄った。

「名前は」
「あ、俺、滝口。滝口優一郎」
「ちょっとじっとしてな」

そう言って、跡部様は滝口の首筋に顔を近付けていく。
思わず滝口は後ずさった。
当たり前だ、誰だって後ずさる。
すると露骨に跡部様は不快そうな顔になった。

「あーん? 信じるんじゃなかったのか?」
「うっ……そ、そうだけど……なんでこんなことを……」
「その首輪を観察させてみろ。俺がこの“眼力(インサイト)”を持って調べてやる」
「はぁ……」

滝口は思った。「そんなもの、見ても分からないんじゃ」と。
しかしそれでも、信じると言った手前無下に拒絶することは出来ない。

結局滝口は、首筋に鼻息がかかる距離で首輪を観察されるという苦行に数分耐えるはめになった。

「なるほど3DAYじゃねーの」
「サンデイ……? 僕はマガヂン派だけど……」

突如の呟きに、滝口が頓珍漢な答えを返す。
やれやれと溜息をつき、跡部様は携帯電話を取り出した。
それはもうリボルバーを抜き取るガンマンのように無駄のない無駄な動きをもってして。
そして文字を入力(勿論、華麗かつスピーディーに)し、携帯電話をくるりと優雅に回転させディスプレイを滝口の方へと向けた。

『今から入力する内容についてのリアクションを、声に出すんじゃねーぞ』

滝口の頭に疑問符が浮かんでくる。
しかしそれは、すぐに解決することになった。
跡部様は滝口が読んだのを確認するなり手元に携帯電話を戻すと(勿論、無駄に格好つけることも忘れずに)再び文字を入力し、また滝口に画面を見せた。

『結論から言う。この首輪、盗聴器が仕掛けられている』
「…………!?」

滝口は目を丸くした。
彼にとっては、あまりに突飛な発言だった。
そこまでしているなんて、聞いていないと言わんばかりに口をパクパクさせる。

『この目でマイクを“見”たから間違いない。会話は全部筒抜けだろう』

そんな滝口に、ご丁寧にも“”を使って跡部様が解説する。
己の秘技・跡部王国で調べた結果がそれなのだ。
跡部に取って、それは疑いようもない事実。

「雑誌か? 俺が読むのはテニス関連が多いな」

適当な相槌を打つ姿に、滝口もいよいよこれは本当なんだと実感する。
確かに普通に考えれば、戦闘実験と称するなら何らかの監視は行わなければいけないのだ。
カメラだとブれる心配が大きいことを考えると、盗聴器が適役だろう。
何故通常プログラムと違うのかは分からないが、今回のこれは変則プログラムと見てほぼ間違いない。
ならば、首輪の機能もそう大差はないだろう。
それが、滝口の考えだった。

「そ、そうなんだ。俺、スポーツ、よく分からなくて」

辿々しく返しながら、滝口も携帯電話を取り出す。
知識としては持っていたが、滝口は携帯電話を持っていなかった。
――というか、クラスの中でも、江藤恵を始めとする少数の人間くらいしか携帯電話は持っていない。
いっその事携帯電話のようなハイテク機器と無縁だったら『携帯電話に関する知識』とやらの恩恵を受けられていたかも知れないが、
あいにく滝口はオタクと呼ばれる種族故、そのあたりの知識に関しては人並み程度には持ち合わせていた。
だからこそ、その補助は受けられていない。

(跡部くん、打つの早くてすごかったなあ)

そして知識のみしか持ちあわせていない滝口が、文字入力を早くできるわけなどない。
のろのろと文字を入力するのがやっとである。
(ちなみに、文字入力のためメール画面を開くのにも、また少し手間取っていた)

『わかったよそれでぼくらはどうすれば』

平仮名のみの簡素な文章。
それでも、イラつくことなく跡部様は返事をした。
勿論、携帯電話のディスプレイを通じて。

『3日間をやり過ごす。そうすれば、この首輪は効果をなくす』

そしてこれまた、滝口は目を丸くする番だった。
一体何を根拠にそんなことを言うのか、滝口には不思議でならない。

『どうしてわかるの』
『それも“見た”からだ。首輪の動力源――つまり、バッテリーをな』

やや面倒な言い回しを使い、跡部様が勿体ぶるように解説をする。
滝口は、黙ったまま頷くだけだった。

『あの電池、見たことがある。
 生意気にもウチに楯突いてる会社が作ったバッテリーだ。
 複雑な機械に組み込むため超小型だが、3日しか持たないって欠点があってな』
『ほんとうなの』

はてなマークの付け方すら知らない滝口。
しかしそうだろうと察している跡部様は気にもとめない。
今の関心ごとは、自身の解き明かしたことを誰かに伝えることだけだ。

『ああ、間違いない。3日経てば、バッテリー切れで首輪は効力を失うっていうわけだ』
(すごい、すごいよ!)

そこまで分かってしまうことに、滝口は興奮を隠せない。
きっとオタクで目もよくない自分と違って、スポーツ好きそうな彼がしっかり観察すれば分かるのだろう。
だって運動には動体視力が必要だし。
そんなことを思いながら興奮する滝口を尻目に、跡部様は口を開いた。

「スポーツに詳しくないなら、いい。この会話は打ち切ろう」

携帯電話に手間取る滝口への配慮。
……というわけでは別になく、自分も喋る方が楽というのもあって、会話を口頭に切り替えた。

「それより……前にもこの手のヤツに参加したのなら、その時とルールに違いがないか思いだせ」
「違い……?」
「なんでもいい。全く同じなら、そう言えばいい」
「えっと……」

言葉に出していいものか少々悩むも、言葉にしないのも不自然だと考えて、滝口は素直に知っている情報を口に出した。
クラスメート以外の人間がいる所。
最初に一箇所に集められそこからスタートという形式じゃなかった所。
禁止エリアの説明と時間制限(24時間誰も死ななければ全員死亡、というものだ)の説明がなかった所。
それとこれは言うべきか迷ったが、最初にプログラム担当官に教師と生徒が殺されなかった所を違いとして滝口は挙げた。

(なるほど、なかなか興味深いじゃねーの)

この差異を突き詰めれば、今回の目的が滝口の知る『通常の目的』とどう違うのか分かるかもしれない。
そんなことを、跡部様は考える。

(それと、禁止エリアと時間制限か……こっちでも途中から採用されたら厄介だが――
 これだけエリアがあって3日後に全てが禁止エリアになるなんてことはまずないだろう。
 それは、発表された間隔で分かるはずだ)

そして、問題としていた、時間制限。
これは案の定、滝口の知る殺し合いでは設けられていた。
バッテリーに時間制限があるのだから当然だ。
だが――

(24時間死ななければ、というシステムなら問題ない。
 死にすぎないようにしつつ、24時間経つ前に殺人鬼から淘汰すればいい。
 そうしたら、3日くらい逃げ切れるはず)

このシステムなら、3日間の逃げ切りもありうる。
つまり、手さえ取り合えればゴールは見えているのだ。

「あの……ど、どう?」
「あーん?」
「あ、いや、何か役立つ情報はあったかなって」

一人考えこむ跡部様に、滝口が声をかける。
沈黙がやや気まずかったのだろう。
そんな滝口に、跡部様は携帯電話でこの考察を伝え――――なかった。

「いや……特に問題ないことが分かっただけだ」

伝えるだけ手間だし、伝えた所で意味が無いと考えてのことだった。
どうせ問題ないのなら、わざわざ言うこともあるまい。

「そう、よかった」
「……気になってたんだが……年上には敬語を使えと教わらなかったのか?」
「えっ!?」

運動部の一員として、そして何よりヒエラルキーの頂点に君臨する王として、言葉遣いは気になる。
しかし、そんな王(キング)の忠告に、滝口は素で驚いた。

「プログラムって、中学3年でやるものだから、俺、てっきり跡部さんも中3なのかと……」
「あーん? そうだが……ってーことは、お前も……」
「あ、うん。俺、中3」
「……あーん? 全然そうは見えねーぞ」

結果として、滝口の予想は当たった。
跡部も滝口も中3であり、同い年の二人である。

「まあいい……言葉遣いは許そう。だが……俺の部下になるからには、あれだけはしてもらう」
「部下って……ていうか、あれって何?」

目薬をさす跡部様に、滝口が問いかける。
そんな滝口の質問を、何当たり前のこと聞いてんだと言わんばかりに鼻で笑って跡部様はこう答えた。

「氷帝コールだ」
「どうて……?」
「氷帝だ」

真顔で振り返り気味に答える跡部様。
ようやく生えきった髪の毛が風にたなびき、一枚絵のような雰囲気を晒し出している。

「それって、一体……」
「とりあえず、『氷帝! 氷帝!』とコールしていればいい」
「はあ……」

流されるままに、頷いてしまう滝口。
それが運の尽きである。
大真面目に氷帝コールのリズムを説明され、結局実践することになってしまった。

「じゃあ、やるよ……?」
「ああ」
「ひょ、氷帝、氷帝」
「あーん? 声が小さいな、もっと大きく」
「氷帝! 氷帝!」
「全然熱意が篭ってねーじゃねーの。本気を出せ」
「氷帝!! 氷帝!!!」

遊園地の中に響き渡る氷帝コール。
次第にどこからか氷帝コールが鳴り響いてきた。
とはいえ、声を張るのに必死で、滝口はその異質さに気がつけない。

(こんなくだらないモノに屈すると思ったら大間違いだ)
「氷帝! 氷帝! 氷帝! 氷帝!」
(見せてやる、俺の氷帝コールを、ここでもな――!)
「氷帝! 氷帝! 氷帝! 氷帝!」
(負けるのは――お前だ。まだ名前も知らないふざけたお前。
 その正体を掴んで、コールに敗者として刻んでやる)

固く誓う、その決意。
ここからの脱出だけでなく、主催の正体も掴むと。
打倒は無理でも、せめて外で訴えたり社会的制裁を加えたりができるように。

「氷帝! 氷帝! 氷帝! 氷帝!」
(そして――――)
「氷帝! 氷帝! 氷帝! 氷帝!」
「勝つのは――――俺だ」



【F-01/遊園地/一日目・深夜】

【跡部景吾@テニスの王子様】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:メ○コンのコンタクトレンズ+目薬セット(目薬残量4回分)@テニスの王子様、基本支給品一式、不明支給品×0~2
基本行動方針:勝つのは――俺だ
1:3日間なんとしてでもやり過ごす

【滝口優一郎@バトル・ロワイアル】
[状態]:氷帝コールでちょっと疲れたし喉が渇いた
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
基本行動方針:今度こそ、最初から皆を信じて積極的な行動に出る
1:跡部についていき、共に3日間をやり過ごす仲間を集める
※参戦時期は、相馬光子合流後、チームが破綻する前です

※どこからか聴こえてきた氷帝コールは新テニスの王子様で跡部様が披露したのと同じ幻聴のようなものです
※氷帝コールが遊園地に鳴り響きました



【メ○コンのコンタクトレンズ+目薬セット】
新テニスの王子様とタイアップした某企業のコンタクトレンズ。
メガネキャラ達がメガネを放り出すくらいのクオリティらしく、目が悪いキャラがメガネを壊してもこれで安心!
コンタクトで目が疲れた人のため、目薬もセットでついている。
これで跡部様はインサイト使用の疲れを癒すことができる。
……が、主催がケチったのか、中身は5回分しか入っていない。



【跡部王国による首輪透視について】
首輪の構造が人体と比べ複雑すぎるため、全体をスケスケにするのには無理があります。
出来たとしてもぼんやりとした構造しか見えないものと思われます。
一部分に集中して透けさせれば、問題なく中を見られます。
しかし、目が疲れるため、あまり時間をかけて全体を見ることは困難です。




Back:HOw TO GO 投下順 残酷な天使のアンチテーゼ
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START 跡部景吾 プライベート・キングダム
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最終更新:2012年03月17日 21:00