後戻りはもうできない ◆MagAZ1nAUA


「ったく! なぁにが殺し合いだよ!! ふざけやがって!!」

桑原和真は苛立っていた。
茶色に染めた髪をリーゼントに纏めた学ラン姿の男である。
彼は一人夜道を歩く。
考えるよりも行動の人間だ。
とりあえず、目の前にで煌々と明かりを灯している建物(地図ではホームセンターと表示されている)を目指していた。
参加者の中には浦飯や螢子の名があった。
ふざけている。
螢子がこんな場所に連れてこられているのも腹が立つが、浦飯の名前が載っているのが気に入らない。
アイツはもう死んだ人間なのだ。
葬式だって昨日行われたばかりだ。
本当にふざけている。

「おーい! 誰かいるかー?」

来店を告げる音共に自動ドアが開き、ホームセンターに入った和真が大声をあげる。
しかし、返事はない。

「ちっ。誰もいねえのかよ」

もう一度大声を出したが、いくら待ってもやはり返事は返ってこない。
他の場所に行くか、とも思ったがホームセンターの陳列物が桑原の目に入った。
鋸や鉈、斧に金槌、それにバール。
凶器に使えるものが一通りどころか充分過ぎる数がそこにはあった。

「あっぶねーな」

こんなものを殺し合いに乗ったヤツが手に入れたら大変危険である。
とりあえず、自分が回収しておくのが良いだろう。
桑原はそこらにある商品を片っ端からバッグへと放り込んで行く。

「おおっ! なんだこりゃ!? いくらでも入るぜ!!」

いったいどういうわけなのか、バッグにいくら物を入れても一向に中身が一杯になる気配がないのだ。
不思議だったが、次々にバッグに物が入る感覚が面白く、つい夢中になってしまった。

『ちょ、ちょっと! それは窃盗罪ですよ!』

堂々とした万引きに夢中になっていた桑原に向けて、店内アナウンスが響いた。
女の声だ。

『あっ』

そしてしまったとばかりの声を発すると、アナウンスはプツリと途切れてしまう。

「おい! 誰だ! 出てきやがれ!!」

返事は無い。
アナウンスということは事務所かどこかから防犯カメラででも見ているのだろう。
何度かお世話になったことがあるため、そういう場所はどこにあるか把握している。
桑原は走り出すと、関係者以外立入禁止の表示のされている扉を抜け、その先の奥にある扉を勢いよく開け放った。

「きゃあ!?」

「あ? なんだガキじゃねェか」

蟲寄市の不良と、学園都市の風紀委員は、こうして出会ったのだった。





────────────────────────




「それにしてもびっくりしましたよ。殺されるかと思いました」
「誰がオメエみてェのを殺すかよ」

二人はお互いに殺し合いに乗っていないことを話し、一息ついていたところだった。
学園都市に住む初春飾利の知り合いは三人連れてこられており、いずれも殺し合いに乗るような人物ではない。
蟲寄市に住む桑原和真の知り合いは二人だが、雪村螢子は殺し合いに乗るような女ではないが、浦飯幽助は喧嘩っ早いのでもう一人くらい殺しているかもしれないと冗談めかして桑原は言っていた。
というかもうすでに浦飯は死んでおり、葬式も済んだ後だと言うのだ。

「う~ん。ブラフ、なんでしょうか。例えば、第一放送まで生き残らせて、そこで死者の発表をします。
 そして、友人が死んだのを知らされて、その友人を生き返らせるために殺し合いに乗らせるといった思惑があるのかもしれません」

そう、瞬間移動(テレポート)なら学園都市の技術で実現可能ではあるが、流石に神の力や死者蘇生は荒唐無稽過ぎた。
だが、桑原が見せたいくらでも物が入るバッグは初春の目を見張らせた。
能力者の能力かもしれないが、これだけの事ができるとなればレベル5になってもおかしくない。
何せ物に空間の拡張能力を加える能力である。
もしかして、この事件に学園都市も絡んでるのではないか。

「そんなことで簡単に人を殺すかよ。つーか神の力なんてうさんくさすぎて信じらんねーっての。
現にほら、交換日記だか絵日記だか知らねェけど未来がわかるとかいう電話番号が書いてあったんだけどよ、それ使ったって俺の携帯には未来のことはなーんも書かれてないんだぜ?」

桑原が真っ白な携帯画面を初春に見せた。

「『交換日記』? それって」
「まっ、ここでいつまでも考え込んでたってしゃーねーな!
 オレはここにあるモン片っ端からバッグに詰めてっから、アンタはここで他のヤツが入ってこねェか見ててくれ!」

『交換日記』という言葉に反応した初春であったが、桑原の言葉に遮られてしまった。
桑原は店の物を全部盗って来ると宣言して走り出していた。

「ダ、ダメですよ! 万引きは窃盗罪に当たります!!」
「今は非常事態なんだからんな固いこと言うなって」
「ですけど………」
「物盗んだくれェで警察が来たら、それこそ願ったりかなったりじゃねェか、な?」
「う~ん………」

確かに今は非常時である。
だけれどそれで犯罪行為を正当化しても良いのだろうか。
正義感の強い初春は悩む。

「んじゃ、行ってくるぜ」

そんな初春を置いて、桑原はさっさとバッグを持って部屋を出て行ってしまった。

「はあ………」

一つ溜め息を吐き、仕方がないと初春は自分の携帯をいじりだした。

初春が得意とするのは情報処理である。
だがここにはパソコンはなく、仮にパソコンがあったとしても中に主催者の情報があるわけもなく、ネットに繋がっていなければ助けを呼ぶこともできない。
唯一使えそうなのは支給された携帯電話だけである。
それを調べていく内に、通話機能とメール機能、そしてネット機能が使えそうだということまでは突き止めた。
しかしそこで詰まってしまってしまった。
ネットにアクセスするにはロックを解除しなければならないが、携帯の処理能力ではパスの突破は不可能であった。
学園都市で使われているようなパソコンがあれば携帯の詳しい解析やパスの解除も可能となるのであるが………

「ふぁあ……」

大きな欠伸を一つする。
今は深夜だ。
何もすることがないと今にも眠ってしまいそうである。
初春のいる事務所から見ることのできる監視カメラの映像には、手当たり次第に物を詰め込む桑原の姿があった。
ここならば駐車場の映像も見えるので、外から誰かが来ればすぐにわかる。
それに入口が開くと来店音も鳴る。
三十分程経過していたが、桑原は一階の物を四分の三詰め込んだところで、あと二階の物も詰め込む事を考えるとかなり暇だ。

(このままだと眠っちゃいそうです………そうだ!)

初春は自分の支給品の中を漁ると一つの物品を取り出した、
それは前時代で使われていた記録媒体、VHS。
ビデオという名称が一般的だったそのラベルには、『黒の章』というタイトルが書かれていた。

「何かの映画なんでしょうか………?」

説明書には今まで人間が行ってきた最も残酷で非道なものが何万時間も記録されているとだけ書かれている。
あまり見たいとは思えない。
だが桑原は未だせっせとバッグに物を詰め込んでおり、外からの来訪者の気配もない。
ここの監視システムは新しい物ではないようで、録画した監視映像の記録はビデオにされ、その映像を見るためのテレビも備えられている。
初春は眠たい目をこすりながら、テレビの電源を点けてビデオデッキに『黒の章』を入れた。
画面には黒の章の中身が映し出された。
いきなりだった。
映画のスポンサーや会社のロゴ等一切映らず、いきなり本編が始まった。
明日殺されることがわかっててオモチャにされる人間。
それを見て笑っている人間。
母親の目の前でその子供を殺して、その死体で遊ぶ人間。
ビデオ媒体であるにも関わらず、その映像はブルーレイディスクのように鮮明にテレビに映し出された。
その映像はVFXやCGが使われているようにはとても見えない。
初春はその映像をそれ以見たくないと思った。
だが体が硬直して動けない。
目も見開いたままテレビ画面に釘付けだ。
映像は次々と切り変わり、人間の最も残酷で醜い所業を映し続けている。
映像を見ていて、初春は理解した。
これは映画等ではなく実際に行われたものなのだ。
今まで人間が行ってきた最も残酷で非道なものが何万時間も記録されているという説明文は、映画の説明ではなくそのままの意味だったのだ。
黒の章を再生してから、七分が経った。
精神の限界を疾うに超えてしまった初春は、ふらふらと事務所を出て行き、そして胃の中の物を床にぶち撒けた。
げえげえと胃の内容物を全て出し尽くすと、その場にばたりと倒れてしまった。






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「それにしてもこのバッグは便利だな。お持ち帰りしたいぜ」

時計の針が二時を大きく回ってようやく桑原はホームセンター内の物を全てバッグの中へと入れ終えた。
この会場に来てから二時間半が経過していたが、自分達以外はまだホームセンターに来ていない。
広い会場なのだ、仕方ないと言えば仕方ない。
すっからかんになった店内を歩いて事務所まで歩いていると、事務所近くの廊下で初春が倒れているのを発見した。

「おい! どうした!?」

慌てて駆け寄り抱き起こす。
吐いた形跡が廊下にあった。
具合でも悪くなったんだろうか。
事務所の方から何か音が聞こえるが、それどころではない。

「しっかりしろ! 大丈夫か!?」
「う………ん………」

初春は生きている。
そのことにほっとしながら、桑原は初春に呼びかけ続けた。
初春が目を開ける。

「おお、気がついたか! ビックリしたぜ、戻ってきたらお前が」
「きゃああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

桑原の姿を認めた初春が突然叫び声をあげて暴れ出した。
初春は抱えられていた桑原の手を振りほどき、店内に向かって走りぬけてしまう。

「おっ、おい!」

桑原は初春を追い掛けた。
明らかに様子がおかしい。

「来ないでください!! いやです!! ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

黒の章で人間の醜悪な部分を見てしまった初春は錯乱していた。
早く左天さんと美坂さんと白井さんを見付けないと。
こんな『人間』だらけのところにいたらみんな死んじゃいます。
あれ? でも三人も『人間』ですね?
あれ? 私も『人間』でした。
ごめんなさい。
映像の中で殺された子供に謝った。
ごめんなさい。
血のプールに浮かぶ夫婦に謝った。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
あんなことを平気でできる『人間』でごめんなさい。

謝っても仕方がない。
謝罪したところで殺された人達の命は戻らない。
だけど贖罪しなければいけないという気持ちが溢れてきた。
頭が痛い。
気分が悪い。
眩暈がする。
早く『人間』である罪を償わなければ。

「おーい! どこいったんだよ!」

後ろから桑原の声が響いてくる。
あんな不良こそ真っ先に殺さなければならない。
不良でなくても、黒の章には善人面した『人間』が笑いながら残虐な行為を楽しんでいる光景もあった。
『人間』は生きてちゃいけない。
この世に存在してはいけないおぞましい生き物だ。
初春は携帯にとある番号を入力し、通話ボタンを押した。

『ムルムルじゃ!』

人の声に嫌悪したが、とにかくやるべきことをやる。
後ろから来る声が近付いている。
ムルムルと名乗る少女と言葉を交わし、目的を達成した。
と同時に、桑原と初春二人の携帯からノイズが鳴り響いた。

「あ? なんだ!?」



ザザ…ザー……


02:42
桑原和真は初春飾利に焼かれて死亡する。

DEAD END



「はぁあ!?」

デアディー・エンディーという英語の意味はわからないが、桑原和真は初春飾利に焼かれて死亡するという文章はわかった。
今の時刻は02:39。
携帯に表示されている文章の時刻は今から三分後の02:42。
どうやら今更になってようやく携帯が未来の事を予知し始めたらしい。

「くそっ! どうなってやがんだよ!!」

携帯には桑原のDEAD ENDの文以外に初春の行動を予知したものも記されている。
それによると、現在初春は雑貨コーナーで支給品の火炎放射器の準備をしている最中らしい。
そして三分後には火炎放射器を背負った初春飾利が桑原和真を焼き殺すのだ。

「なら、アイツが火炎放射器を背負う前に奪っちまえば未来は変わるんだろ!!」

桑原が駆けた。
初春の居場所は携帯に表示されているためわかる。
残された猶予は後二分。
雑貨コーナーに着いた桑原の前には、取り出した火炎放射器を背負おうとしている初春の姿があった。
まだ火炎放射器は背負われていない。

「よっしゃあ! 間に合ったぜ!!」

即座に火炎放射器を奪いにかかる。
その行動と同時に桑原と初春の携帯からノイズが上がる。
未来が変わったのだ。

「やめてくださいよしてください触らないでください!!」
「うるせェ! こんな危ねェもん持たせられっか!!」

桑原は初春から火炎放射器を取り上げようとするが、初春は必死になってそれを阻止している。
当然だった。
これを奪われたら、殺されるのは自分なのだ。
『人間』とはそういう生き物なのだと初春は知っている。
それにそんな汚らわしい『人間』に触られているのがたまらなく嫌だった。
近くに居るのもおぞましい。
揉み合っている内に、初春の指が火炎放射器の引金を引いた。
すると火炎放射器の発射口から着火した液体燃料が噴出した。
発射口は、桑原和真の顔を向いていた。

「ぐぁ………」

一瞬だけ叫び声が聞こえた。
しかし叫び声はすぐに終わった。
噴射された炎は桑原の顔を焼き、皮膚を焼き、眼球を溶かし脳へと達していた。
鼻腔からも炎が体内に侵入し、桑原の頭の中を完全に焼きつくす。
この時の時刻は、02:42だった。


ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!

警報と共にスプリンクラーが作動した。
初春の手はもう引金から離されている。
天井から降り注ぐ水に濡れて、初春は床を見た。
そこには頭をこんがり焼かれた人間の死体があった。
溶けた肉の間から白くて固い物が見えた。
やってしまった。
人を殺してしまった。
やっぱり私も『人間』なんだと思った。
両目から、スプリンクラーの水とは違う透明な液体が流れた。
胃の中にはもう何もないというのにまた胃が押し上げられる感覚が襲った。
下を向いて口を開けたが、蛙のような呻き声と、唾液しか出てこなかった。
後戻りはもう出来なくなった。

十分程して、ようやく吐き気も収まった。
転がる死体を見ないようにしながら、桑原のバッグと携帯を持ち上げ初春は歩き始めた。
背中には火炎放射器を背負っている。
濡れた床を歩いて、ホームセンターの入り口まで移動する。
そこで桑原の携帯を確認してみた。
自分のことが書かれている。
桑原和真のDEAD END表示が書かれている。
02:42以降には何も表示されていない。

DEAD ENDフラグとは、不可避な死の予告である。
日記の予知で回避可能な死亡状況ではフラグが立つ事は無い。
日記所有者が足掻いても避けようのない死。
それがDEAD ENDの表示なのだ。
このフラグを回避するためには、1st天野雪輝のように奇跡を超える奇跡を起こすしか方法は無い。
桑原和真はその奇跡を起こせなかった。
6th春日野椿しかり、7th美神愛しかり。
彼女たちは死への過程を変えることは出来ても、死の結果を覆すことはできなかった。
DEAD ENDフラグとはそういうものなのだ。

初春飾り利は二つの携帯を比べて調べている。
機種は違うが、機能に違いは見られない。
プロフィール画面には、メールアドレスと電話番号が表示されている。
試しに赤外線通信でアドレス交換をしてみる。
そして交換したアドレスの電話番号へと電話をかけた。

『プルルルル。ガチャッ。
 ムルムルじゃ!
 参加者間の通話はまだできないのじゃ! もうしばらく待ってほしいのじゃ!
 ムルムルじゃ!
 参加者間の通話は………』

録音らしく、参加者同士の通話ができない旨が繰り返し流された。
電話を切り、次はメールを送信してみる。
メールも又、まだ使用できないという文章が書かれたメールとなってすぐに送り返されてきた。
だがこれでわかったことがある。
参加者間で連絡を取り合うことは可能であるようだ。
参加者の動向を見て通信手段を解禁するのか、それとも技術的にまだ準備できていないのか。
後者の線は主催者の技術力の高さから可能性は低い。
放送の区切りで解禁されるのならわかりやすいが、いつの間にか解禁されている事もあるかもしれない。
定期的に確認してみるのがいいだろう。
相手のアドレスを知らなければ無駄な機能であるため、初春には不必要なものとも言えたが、情報は多いに越したことはない。

しばらく考え、初春は桑原のバッグを漁ってみた。
不思議な事に、欲しいものを思いながら手を入れると、目的の物をすぐに見付けることができた。
これで桑原の三つの支給品を確認する。
一つは自分と同じく交換日記の説明書。
交換日記は二つ揃って機能する未来日記だ。
片方の所有者の未来を、もう片方の交換日記が予知するのだ。
二つ目の支給品は宝の地図と書いてあった。
宝の数は十個。
島中に点在していた。
何か得となる支給品なんだろうか。
全部回るには時間がかかりそうだ。
三つ目の支給品も確認し終えると、初春は携帯電話で電話をかけた。
相手は勿論ムルムルだ。

「初春飾利です。ムルムルさんに質問があります」
『なにかの?』
「この交換日記は所有者が死亡しましたけれど、それで契約は破棄されたんですか?」
『その通りじゃ。所有者が死亡すると未来日記の契約は白紙に戻るぞ』
「でしたら、この交換日記と私が契約する事はできますか?」
『は?』

ムルムルが初春の問いかけに目を丸くした。

「複数の未来日記を所有する事を禁止するとは説明書にありませんけれど………」
『いや、確かに複数の未来日記を持つ事は可能じゃ。じゃがお主はすでに交換日記を持っておるじゃろ? ……それも交換日記じゃぞ?』
「ええ、わかっています。ですから早く私と契約して交換日記の所有者にしてください」
『…………………了承したのじゃ』

しばらくの沈黙の後、ムルムルが契約を受理する旨を伝えた。
それを聞いて、初春は自分の携帯──交換日記を確認する。
そこには、もう一つの交換日記の所有者、つまり『初春飾利』のことが予知されていた。
初春の思惑は当たったのだ。
交換日記が『もう一台の所有者』の未来しか予知できないのだとしたら、二台共自分が所有者になってしまえば自分のことを予知することができる。
反面、周囲の予知はできないが、そこの対策は考えてあった。

契約がちゃんと成されたことを確認すると、初春は自分の携帯に電話番号を入力していく。
桑原和真に支給された交換日記の説明書に書かれていた番号とは違う、初春飾利に支給された説明書に書かれていた電話番号である。
複数の参加者からムルムルに電話があった場合どうなるかを確認する必要があったのだ。
電話の向こうのムルムルは『交換日記じゃぞ? 一人で二つ持っても意味ないんじゃなかろうか? 一人交換日記?』などとぶつぶつ言っている。
初春の意図が未だにわからないらしい。
そのため、初春が別の携帯で電話をかけている事に電話の向こうのムルムルはまだ気付いていない。
桑原の携帯の向こうで電話が鳴る音がする。
そしてその電話を取る音と同時に初春の携帯が繋がった。

『初春飾利、お主は二つの交換日記の日記所有者となるが……こんなことして何を』
『はいもしもしムルムルじゃ』
『考えておるのえ?』
『え?』

初春の携帯と桑原の携帯。
二つの携帯電話から聞こえてきたのはどちらもムルムルの声だった。

『受話器の向こうからムルムルの声がするのじゃ。おい、お主誰と電話しておる!』

電話の向こうの声がくぐもる。
声を拾う部分に手を当て、初春ではない誰かに話しかけているのた。

『わしは今初春飾利から電話が来たところなのじゃ』
『わしも初春飾利と通話中なのじゃ!』
『なんじゃと!?』
『ちゃんと確認しとかんかバカ者!』
『誰がバカ者じゃ! お主の方こそ……あ』

と、電話の向こうのムルムルB(後から初春が電話をかけた方)が、まだ初春と電話が繋がっている事を思い出す。

『げ、現在この電話は通話中なのじゃ。御用のある方は時間を置いて電話をして欲しい……のじゃ。………………さらばじゃ!』

がちゃんと一方の電話が切れる。
そしてもう一方の電話も。

『あ、電波の状況が……ごにょごにょ……悪いようじゃごにょごにょ……良く聞こえながちゃん!!』

大声と共に通話が途切れた。
二つの携帯からは、つー、つー、という音しか聞こえない。

「どうやらムルムルさんは二人いるみたいです。もしかしたらもっといるのかもしれません」

確認することは終わった。
次は宝の地図に記されている場所にでも行ってみよう。
携帯には、初春が今言った台詞が表示されている。
次に表示されている台詞は「ホームセンターの自動ドアが開きました。周りには誰もいません。今のところは安全です」だ。
これが初春が周囲を予知するために考えた方法だった。
交換日記を二つ所持したおかげで自分のことが交換日記に表示される。
自分の行動や状況がひょうじされるというのは便利だが、周囲の予知も欲しいところだ。
なので、周囲のことは自分の口で言うことにしたのだ。
特定人物の行動を常に予知する交換日記ならば、どんな小言だろうときちんと表示してくれることだろう。
初春が何を言ったかが予知できるのなら、その口で周囲の状況を言えばいいだけなのだ。
それがきちんとなされているのを確認し、初春は予知通りに歩き出した。

「ホームセンターの自動ドアが開きました。周りには誰もいません。今のところは安全です」

彼女の前に広がっているのは───闇だ。


【桑原和真@幽☆遊☆白書 死亡】


【6-E/ホームセンター前/一日目・黎明】

【初春飾利@とある科学の超電磁砲】
[状態]:肉体的には健康
[装備]:火炎放射器@現実、交換日記(初春飾利の携帯)@未来日記、交換日記(桑原和真の携帯)@未来日記
[道具]:基本支給品一式×2 、宝の地図@その他、ホームセンター内で調達した品物(大量)@その他
     桑原和真の不明支給品1(確認済み) 、火炎放射器の予備のボンベ(二つで十回分の液体燃料と噴射に必要なガスボンベ一つ)
基本行動方針:『人間』であることの罪を償う
1:『人間』は生きてちゃいけない
2:左天さん……御坂さん……白井さん……。この三人は………
[備考]
初春飾利の携帯と桑原和真の携帯を交換日記にし、二つの未来日記の所有者となりました。
そのため自分の予知が携帯に表示されています。
交換日記のどちらかが破壊されるとどうなるかは後の書き手さんにお任せします。
『黒の章』を観たために考えが大幅に変わってしまいました。
自身も含めた『人間』に対して激しい憎悪と嫌悪を抱いています。


【ホームセンターの状況】
店内は商品がすっからかんです。
全て桑原のバッグに入っています。
店内はスプリンクラーで水浸しです。
桑原和真@幽☆遊☆白書の死体が放置してあります。
事務所では今も『黒の章』は再生中です。
監視カメラは正常に作動中です。


【黒の章@幽☆遊☆白書】
初春飾利に支給。
今まで人間が行ってきた最も残酷で非道なものが何万時間も記録されている。
数分でも視聴すれば人間に対する考えが逆転してしまう。

【交換日記@未来日記】
桑原和真と初春飾利に支給。
未来日記七番目の所有者「戦場マルコ」と「美神愛」の日記。
その日記には互いの未来が十分刻みで予知されている。
例えば日記所有者Aの交換日記Aには日記所有者Bの未来が。
日記所有者Bの交換日記Bには日記所有者Aの未来が予知される。

【火炎放射器@現実】
初春飾利に支給。
二つの液体燃料を入れたボンベと一つのガスボンベを背負う。
射程は三十メートル。
液体燃料に点火して炎を噴射する。
一秒に一回使うとすると、十回くらいは使える。
液体燃料を噴射して標的を燃料まみれにしてから炎を噴射する戦法もある。
モヒカンになって肩パット付けてバギーに乗れば汚物を消毒できる。

【宝の地図@その他】
桑原和真に支給。
宝の在り処を示した地図。
宝は会場内に十箇所存在する。
ハズレもあるかもしれない。

【ホームセンター内で調達した品物@その他】
桑原和真が調達。
ホームセンター内にある物を片っ端からバッグに詰めるという豪快な窃盗行為の果てに入手した(所要時間僅か二時間)。
ホームセンターで手に入る物なら大抵ある。



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最終更新:2012年08月05日 20:53