「なるほどなるほど。セッコ、それでようやく合点が行ったよ。殺人も写真も君の恰好ではなく、そのチョコラータという先生の趣味なのだな」
「おうおうおう! チョコラータはすっげえんだよォ! そんでよ、上手くビデオに撮れてると甘いのたくさんくれるんだよォ!!
やっぱ写真じゃダメかなあ!? チョコラータ甘いのくれないかなあァァ――――!?」
「大丈夫だとも。さっきも言っただろう? お前の写真はなかなかのものだ! このDIOが言うのだから間違いない」
「うへえええ!! やっぱり? やっぱりそう!? DIO! お前やっぱりいい奴だなぁぁ!!」

会話を初めて5分も経たぬうちに、セッコはすっかりDIOのことが好きになっていた。
彼がチョコラータ以外の人間に懐いたのはこれが初めてだ。
いや、甘い物という絆が無くともセッコはDIOのことを気に入っている。セッコの中での単純な順位は、いまやDIOがチョコラータを抜き去っているかもしれない。
それはやはり、チョコラータには無いDIO独特のカリスマ性によるものだろうか。

セッコはすっかり上機嫌になり、組織のこと、自分のこと、チョコラータのことなど様々な情報をDIOにべらべらと話す。
そんな話を、DIOは相槌を打ちながら面白そうに聞き浸っていた。

「連続殺人鬼というものは自分の殺した人間の死体から何か『戦利品』を得ようとすることが多い。それは『物』だったり、『行為』だったり、個人によって様々だ。
20世紀中盤を代表する殺人鬼、(『悪魔のいけにえ』の)レザーフェイスのモデルとなった事で知られるエド・ゲインは死体の皮を剥いで縫い合わせ、衣服や家具などを作成していた。
テッド・バンディは殺した女性の死体を性的に痛み付ける、いわゆる死姦を趣味としていた。
そして、あのジェフリー・ダーマーは人間の肉を喰っていた。カニバリズムというやつだ。
どいつも異常な行為だが、チョコラータ先生にとっては、恐怖の映像を記録する行為がそうなのだろう」

「おおうおうお! 何言ってんのかわかんねえよォ! 誰だよそれェェ~~!? あんた社会科の先生かよォォ―――!?」

「社会科? いいや、これは精神医学という分野だよ。いや、犯罪心理学と言った方が近いかな?
君の主人のチョコラータ先生という人物に興味を持ってね。プロファイリングを行ってみたのだ。
是非とも会って友達になりたいよ。君の先生にね」

「うひひーー! オレも会わせてあげたいぜぇぇ!! DIOならよ、きっとチョコラータと気が合うと思うぜぇぇぇ!!」


特にDIOの気を引いたのはチョコラータの話だ。
組織の話も重要かもしれないが、話を聞く限り、セッコの所属していた組織というのはマッシモと同じパッショーネのことだろう。
その組織については興味がないし、知る必要が出てきたとしてもまずはマッシモに聞いたほうが手っ取り早い。

チョコラータという人間について、大雑把に聞いただけでも非常に面白い人物だとわかる。
現在のDIOの部下である『灰の塔』グレーフライ、『悪魔』呪いのデーポ、『黄の節制』ラバーソール、『吊られた男』J・ガイル、そして直属の部下、『9栄神・セト神』アレッシーらは、中でも特に残忍な殺人者だった。
だが、本質はスポーツ・マックスと同様の打算的なチンピラに近かった。
使える手駒ではあったが、DIOの好みのタイプとは程遠い。
打算的、野心家の人物ならホル・ホースやプッチ、それにマッシモのような狡猾かつ聡明な人物ではないと興味がそそられない。
先に話に上がったバンディやダーマーも服役中の刑務所に出向き面会したが、彼らは100年前のジャックを彷彿させる、紛う方無き『狂人』だった。
非常に、DIOの好みのタイプだ。だが、DIOのメガネには適わなかった。
彼らにはスタンド使いの才はなかったからだ。

チョコラータは、DIOにとっては初めて知った『スタンド使いの狂人』。
是非とも会ってみたい。配下に加えたい。友達になってみたい。







「動くなッッ!!」


セッコとの話に花を咲かせていたDIOに、この場にいるもうひとりの少年から強い言葉が投げかけられる。
ポコだ。
自らの支給品である回転式拳銃を握り締め、DIOを狙っている。
セッコにやられて脚を怪我しているポコは逃げることもままならない。
だからといって、こんな事をしてもDIOやセッコを倒せるとは到底思えない。
それでも、少しでも一矢報いなければ、死んでいったエンポリオや重ちーに顔向けできない。

「てめえ!!」と身を乗り出して威圧するセッコを手で制して、DIOはポコに話し始める。


「ジョナサンと一緒にいた小僧だな? 名は何といったか…… あの気丈な娘の弟くんだ。私のことはわかるか?」
「ポ ポコだ! そしてお前はディオ! 僕の町をひどい目に合わせた吸血鬼… 余計なことは喋るな! これを撃つぞ!!」

震えた手で拳銃を構えるポコに対し、DIOは余裕で受け答えをする。
DIOがセッコたちのやり取りをいつから見ていたかはわからないが、結果的にポコを助けるようなタイミングで割り込んできたことは単なる偶然じゃあない。
DIOはセッコの他に、このポコにもひとつだけ用事があったのだ。

「やはりそうだったか。記憶違いかとも思ったが、確認が取れてよかった。私の感覚だとお前はとっくに死んでいるか、生きていても100歳を超える超高齢になっているはずなのだが…
まあ、そんなことはお前に聞いても無駄なこと。聞くべき相手はこのゲームの主催者たちよ」
「―――――?」

マッシモの薬の被検体に選んだ女。DIOは彼女を知らなかったが、彼女はDIOの事を知っていたようだ。ケース1。
スポーツ・マックスの記憶の中に登場したプッチ神父は、自分の知る10代後半の青年ではなく、40歳前後の男だった。これがケース2。
そして、いま目の前にいる小僧は、間違いなく100年前に出会った子供であった。ケース3。
おっと番外。最初の会場で吹っ飛ばされた一人目の男はJOJOの若き日の姿。おそらくジョセフだろう。ケース0だ。
この短い時間の中で、時代的矛盾点が4つも発見された。
主催者のことを知るためには重要なカードかもしれない。あとでマッシモにも鎌を掛けてみるか、と思った。



さて、この小僧への用事も済んだ。
ジリジリ…と、DIOはポコに向かって一歩詰め寄る。

「う…動くなって言っただろ!! いいのかッ!? 本当に撃つぞッ!?」
「ああ、撃ちたまえ。撃たないのか? お前に従って、私が動きを止めたとして、それでお前はその後どうするつもりなのだ?
このままゲームが終わるまでの残り66時間弱、時間を稼ぎ続けるとでも言うのか? そんなことは不可能だろう。
お前が今やるべきことは、脅迫ではない。その拳銃でこのDIOの息の根を止めることだ」

うう……、と小さくすすり泣く声をあげ、ポコは震えている。

「そんな拳銃では私を殺せないか? ならばこうしよう。これでどうだ?」

DIOは頭を上に向け、首をわかりやすく露出させる。
そして指先を首筋に置き、さらにポコを促す。

「ここだ。この『首輪』を狙ってみてはどうだ? この首輪を破壊してしまえば、私の首は爆弾で木っ端微塵になるかもしれんぞ?
どうせだったら試してみろ? お前が撃つまで私は動かない。このDIOを殺す、これほどのチャンスはないぞ?」

ポコは震えている。
この拳銃を撃つということは、タルカスの檻の中へ飛び込んだ時よりも勇気が必要だ。

「ただし、拳銃で誰かを撃つという行為を行うときは、自分も殺されても仕方がないという覚悟を持つことだなッ!?」
「うわあああああ!!」


ねえちゃん! 明日っていまさッ!!


拳銃が低く唸り声をあげる。
ポコの拳銃から発射された弾丸は、DIOの首輪に目掛けて向かっていく――――――



―――しかし軌道は逸れ、首輪の数センチ横を通過し、後ろの壁に小さな銃痕を作るだけに終わってしまった。









「――――――残念だったな?」


次の瞬間、DIOは一瞬でポコとの距離を縮め、2発目を発射させる隙も与えずに銃を叩き落す。
そのまま胸ぐらを掴み、掛け時計のように壁に叩きつけた。

「うぐっ!」

さらに、今度は手近な位置にあった房の一室の鉄格子から冊を1本へし折り、さらに二分割して2本の鉄杭を作成した。
そして叩きつけられたポコが落下するよりも素早く、彼の両の手首を鉄杭で突き刺し、壁に磔にした。

「ぎゃあああああああああああ!!!」

絶叫するポコ。
自由を奪われたポコの姿は、両腕を広げて磔にされたキリスト。もしくは自由を求めて翼を広げるも、決して飛び立つことのできない哀れな鳥のようだった。
一連の作業を瞬きする間に終えてしまったDIOは、悦に浸るクラシック指揮者のように両手を掲げて目を瞑っていた。
そして、それらの様子を呆然と見ているだけだったセッコに質問を投げかける。

「セッコ……… 君はこの少年の叫び声を聞いて、どう思う?」
「なんだ? どういう意味だ? DIO……」

質問に質問で返すセッコ。
DIOはそれを咎めることもなく、息をひとつつき、さらに話を始める。

「私はここ数年間で何人もの女性と関係を持ってきた。実験のため無理やり襲うこともあったが、相手の女性から求めてきた方が多かった。
女やデキた子供はほとんど死んでいるだろう。3~4人は生き残っているかもしれんが興味はない。
だが、それ以前に、ハイスクールやカリッジにいた頃に女を抱いた時のような性的興奮は、一度たりとも感じたことはなかった」

「あんた何が言いてえんだよォ? 前から思ってたけど話長いぞおまえぇ!」

「フフフすまんな。つまり、吸血鬼になったこのDIOから見て、人間たちは既に自分とは別の存在だということだ。
もちろんお前やチョコラータ先生のように気に入った相手もいるが、大半の者はただの『食料』にすぎない。
人間の血を啜る事は、お前たちが仔羊の肉を喰らっている事と同じようなものだ。
殺人自体もただの『屠殺』に過ぎず、大した感慨もわかない。基本的にはな」

DIOの指がポコの心臓の上を撫でる。
ついさっきまで対話していた相手が、DIOにとっては既に『物』だ。

「殺人はチョコラータ先生にとって、快楽のための行為なのだろう。また、小僧がこのDIOを殺そうとしたのは、生き残るための手段だった。
ならば、お前にとって『殺人』とは何だ? この小僧のあげる悲鳴は? 絶叫はなんだ?
ただ先生に喜んでもらうためのものなのか? 甘いものをもらうことだけが、お前にとっての全てなのか?」
「おっおっ オレに、とってぇ………!?」

セッコはそんなこと考えたことすらなかった。
人を殺せば、チョコラータが喜ぶ。チョコラータが喜べば、角砂糖が貰える。
セッコにとっての殺人はそのための行為に過ぎなかったし、大した理由があるわけでもなかった。




ウンウン唸りながら頭を抱えるセッコに時間を与え、DIOはポコに向き直り顔を近づける。


「気分はどうだポコ? 痛いか? 怖いか? 生きたいか? 助けて欲しいか? どうだ、答えろ」
「い……い……生ぎだい! 殺ざないで!! だずげで!!!」
「うんうん、素直でいい答えだぞポコ。元人間のDIOの経験から言わせてもらうと、人間は普段生きていることに感謝しない。
真に死を恐怖した者でなければ、平穏無事に生きていることの幸せさという物がわからないのだ。
だからこそ、かつてのオレは、のんきな毎日を過ごし何不自由なく暮らしてきたジョナサンが気に入らなかったのだ! 我慢ならなかったのだッ!
スピードワゴンの糞野郎はオレのことを『生まれながらの悪』と表現したが、オレは幼少期の辛い体験こそが今の自分を形成したと自己分析している! いまさらだがなッ!!」

次第にDIOの口調が荒くなる。
これまで誰に対しても紳士的な対応を貫いてきたDIOが、初めてその本性の片鱗を見せた。
過去の人間であるポコに、昔の自分の話をした事が原因だろうか?
大泣きしながら首を上下させるポコに、DIOはひとつ息を付き、冷静さを取り戻しながら話を続ける。

「………要するに、死の恐怖に直面した事がない人間は生きる資格すらない。そういうことだ。
お前は違うだろうポコ? 何度も死ぬ思いをした。ジョナサンとは違う。生きたいか? 助かりたいか?」
「い……生ぎだいッ!!!」

何度も何度も首を上下させ、ポコは命乞いをする。
こんなに怖いと思ったことはこれまで無い。
ゆっくり、じっくりと殺されていく。拷問殺人の恐怖、他者には到底理解できない。
「そうか……」と、DIOは小さく息を漏らす。
必死の懇願が実を結び、もしかして助けてもらえるのでは?という希望の光がポコの中に芽生える。




「フン! だがな、私の2人目の父の口癖は、『逆に考えてみろ』だった。お前もよ~~~く考えてみろ。
死を恐怖しない人間を殺すことに大した意味はない。お前のように、生きたい、死にたくないと必死で願うものを殺すことこそ、最高に意味のある殺人だとは思わないか?」

「ッ!!!? ――――ァァァアア ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」


それはポコへの死刑宣告だった。
生きる希望を与えられ、希望から絶望へと叩き落とされた。
こんなことならば、ひと思いに殺された方がマシだった。
拳銃で撃つべきものは、DIOではなく自分の頭だった。
ポコは絶望し、泣き叫ぶ。発狂して自我を失う。




「セッコ。そろそろ答えは出たか? これがお前にとっての『最初の殺人』となる。じっくり考えて、お前の思うように、このポコを殺してみろ」

セッコはウンウン頭を捻らせる。
DIOに言われて考えた、自分にとっての『殺人』。
自分なりに考えて、辿りついた一つの疑問。セッコはDIOに問うてみる。

「あのよぉ――― あんたは人間じゃなくて吸血鬼なんだよなあァ? だがらそいつを喰っても、それはただの食事であって、普段通りの生活の一部なんだって言ったよなぁ~?」
「ああ、その通りだ。それがどうかしたか?」
「でもよォぉぉ! あんたがさっき話したジェフリーなんとかって奴は、人間なのに人間を喰ってたのか? それって意味あんのかよォ―――?」

ほう、とDIOは感心する。セッコは実に面白いところに着眼したものだ。
自分なりに『殺し』の意味を考え、その疑問にぶち当たったわけだ。
DIOの話の内容も、聞いていないようでいてしっかり頭には残っている。
やはりこのセッコ、頭の出来は悪くない。うまい使い方を知らないだけだ。

「カニバリズムとは一般的に『食人恰好』、『人肉嗜食』のことを指すが、生物学的には『種内捕食』、要するに『共食い』を意味する。
が、それはその生物としての性質である場合がほとんどだ。生存のためのエサであったり、縄張り争いのためだったり、繁殖や配偶行動の一環だったりと様々だが――――
人間は生きてゆくために人間を喰う必要性はない。当然だ。無論ダーマーも人肉から栄養を採取して生きていたというわけではない」
「おうっ! おうっ! それでっ? それでっ!?」

セッコの態度も、この数分間で大きく変わった。
以前のDIOの話は半分に聞いていたような態度だったが、今のセッコは話の続きに興味津々だ。
初めて自分で頭を使ったことで、セッコに知識欲が身に付いてきている。
DIOはその変化を面白がり、ニヤリと笑う。

「なら、彼の食人には何の意味があったのか? そこまでは、既に人間をやめたこのDIOでは理解しきれないかもしれない。
そこでだセッコ…… お前が自分で試して、やってみてはどうだ――――――?」
「!? うひぃいぃいいぃぃぃぃ―――――!!」

DIOに言われて、セッコは目を輝かせる。
そうか、わからないならばやってみればいい! 簡単なことじゃないか。
さすがDIO! オレに考えつかないことを平然と教えてくれる!
そこが大好きだ! かっこいい!!

DIOはセッコの手からポラロイドカメラを奪い取る。
撮影は私に任せて、お前は思う存分やれ。という意味だ。
子供のように笑いながら、セッコは磔にされたポコに歩み寄る。


「ぐひっ うひっ げひぃぃぃ~~~っ!!」
「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! 来゛る゛な゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」
「諦めて覚悟を決めろポコ! 覚悟は幸福だぞ!?」


セッコがポコの鼻にかぶりつく。
血の味がセッコの口の中いっぱいに広がる。


「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


ポコの衣服を引きちぎり、セッコはポコの首筋に噛み付く。
ポコの絶叫が、セッコの鼓膜を刺激させる。


「い゛や゛た゛あ゛あ゛あ゛! 痛゛い゛い゛!! や゛め゛ろ゛お゛お゛お゛!!!」


ポコの腹に穴を開け、セッコは顔を突っ込んで内臓を貪る。
セッコの興奮は、前にも増して高まっていく。



「や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」










一部始終を写真に収めながら、DIOはセッコの事を考える。

重ちーを殺害したスタンド『オアシス』。
これもDIOにとっては大きな収穫だ。
セッコを味方につけるだけで、DIOの行動範囲は大きく広がる。
地下の地図を見る限り、地下道は全ての施設につながっているわけではない。
だが、このセッコの能力を利用すれば、東の杜王町に至るまでの全ての施設に地下トンネルからの侵入が可能となる。
これで刑務所の下水道などという下品な道を選ぶ必要もない。
吸血鬼となって屍肉の腐敗臭に不快感は持たないようになったが、汚物の悪臭や藻の植物臭さは相変わらず敬遠したいものなのだ。

だがセッコのスタンド以上に、彼の人格形成に携われたことが幸運だった。
チョコラータについてもそうだが、やはりこのセッコも、非常に面白い。
セッコは子供だ。何にでも興味を持つ。教えれば何でも覚える。
早い段階で出会えてよかった。
このセッコ、出会った相手次第では正義のヒーローにも悪魔の使いにもなり得る。





「ぐひひぃぃ!! 終わったぜぇDIO! 写真は撮れてるかあ?」
「もちろんだとも。それでどうだ、セッコ? 実際に人間を喰ってみて、どう感じた?」

ポコは既に事切れている。目から涙を流し、口を半開きにしたまま硬直し、果てている。
最終的な死因はショック死だ。
極度の恐怖心と大量の出血により、ポコはセッコに生きたまま肉を喰われ、死亡していた。
DIOに問われ、口元を血で真っ赤に染めたセッコは、手を頭に添えて考えながらも答えた。

「う~~~ん…… 角砂糖みたいに甘くは無いしぃぃ~~~ 血の味ばっかりでちっとも旨くはなかったかもなぁぁ~~!?
でもよォ―― なんだかわかんないけどすごくワクワクしたぁぁぁぁ―――!!」
「そうか、それは良かったな。 今日、お前は初めて『自分の殺人』を犯した。もっともっと喰ってみると、旨く感じるようになるかもしれないぞ?」
「ホントかァ!? うひぃぃぃ!! また喰いてえなぁあああ!!」
「ただし、私が殺すなと言った人間はだめだぞ。私にも人間の友達はいるのだからな。お前だってチョコラータ先生を喰うのは嫌だろう?」
「うん! うんっ! わかったぁ!!」


DIOは完全にセッコを手懐けてしまっていた。
もはやセッコは、DIOの言うことならばなんでも聞いてしまうだろう。
セッコはすっかりDIOに魅了され、心酔してしまっていた。
『食人恰好』に目覚め、自ら殺人を犯す悦びを覚えてしまった。
お互いがお互いを気に入り、友人とも主従関係とも取れぬ奇妙で恐ろしい二人組が誕生した。

そして、チョコラータ。
まだ出会ったことのない、正体不明の狂人。セッコとは違う、正真正銘の殺人鬼。
彼のことも、DIOは甚く気になっていた。
チョコラータは間違いなく、重度の精神病質を患うサイコキラーである。
そして近年、異常犯罪と脳の『前頭葉』の関係性が医学的に注目されつつあった。
前頭葉とは、外界の情報を整理し組立て判断する機能を有する。
つまり、人間らしさ、人間としての心、人格、自我、意識などが、前頭葉の機能として考えられているのだ。
そして、連続殺人者の脳を調べると、この前頭葉に何らかの異常があるケースが多いというのだ。

DIOは懐に手を突っ込む。
先ほど、この刑務所の階段踊り場に転がっていたデイパックより入手した。
おそらくセッコに殺された3人のうちの誰かに支給されたものだろう。
100年前、DIOの運命を大きく変えた宝物――――『石仮面』がそこにはあった。

DIOとしても、手に取って見るのは100年ぶりである。
石仮面は脳に骨針を突き刺し、人間の獰猛な力を呼び覚まし、吸血鬼へと変貌させる。
前頭葉に異常があるだろうチョコラータに、石仮面を被らせたならば―――
一体どんな吸血鬼を生み出すのか?
もちろん、このDIO以上の力を持つ者が生まれるはずもないが、しかし試してみたい。
そう、DIOの知的好奇心を刺激する。
セッコの話から想像できるチョコラータの性格ならば、彼は自ら喜んで肉体を差し出す可能性も高い。
チョコラータもこのゲームに招かれているといいが。
放送を目前に迎え、DIOは以前にも増して名簿の配布が楽しみになっていた。

石仮面を手に入れたことについてはマッシモにとっても喜ばしいことだろうが、DIO個人の意見としては、石仮面の実験はマッシモではなくチョコラータで行いたい。
マッシモには日中のDIOの手足となって欲しいという大切な役割もある。

もうじき放送だ。
ゲーム開始から6時間。
この6時間の間、DIOにとって無駄なことは何一つなかった。







【エンポリオ・アルニーニョ 死亡】
【矢安宮重清 死亡】
【ポコ 死亡】

【残り 81人】



【E-2 GDS刑務所1F・女子監食堂 / 一日目 早朝(放送直前)】

【DIO】
[時間軸]:三部。細かくは不明だが、少なくとも一度は肉の芽を引き抜かれている。
[スタンド]:『世界(ザ・ワールド)』
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×5、麻薬チームの資料、地下地図、リンプ・ビズキットのDISC、スポーツ・マックスの記憶DISC、携帯電話、スポーツ・マックスの首輪、ミスタの拳銃(5/6)、石仮面、不明支給品×0~3
[思考・状況]
基本行動方針:帝王たる自分が三日以内に死ぬなど欠片も思っていないので、『殺し合い』における行動方針などない。
0.基本方針から、いつもと変わらず、『天国』に向かう方法について考えつつ、ジョースター一族の人間を見つければ殺害。もちろん必要になれば『食事』を取る。
1.放送が終了し30分程度でマッシモを呼び戻す。地下を移動して行動開始。彼とセッコの気が合えば良いが?
2.我が友プッチもこの場にいるのか? ポコたちのような時代の矛盾の謎も解きたい。
3.この身体に感じる違和感はなんだ?ジョースターの血統か?
4.方針3の処分を考える。
5.セッコは面白い奴だ。もっと教育させてやりたい。
6.チョコラータ先生とも会ってみたい。彼を吸血鬼にしたらどうなるだろう。
7.もちろんマッシモ・ヴォルペにも興味。
8.首輪は煩わしいので外せるものか調べてみよう。

[参考]
スポーツ・マックスの記憶DISCをどこまで読んだのかは不明です。
少なくとも彼の人格、彼がGDS刑務所に服役している事、2011年時点でのプッチの姿は確認しています。
ミスタの拳銃の予備弾薬の有無、数量は不明です。
セッコから、組織の事、チョコラータの事、セッコの事などの情報を得ました。
それがどの程度のものか(チョコラータのスタンドについてなど)は、先の書き手さんにお任せします。
DIOがセッコに殺人の初等教育を行っている理由は不明です。ただの興味本位か、他に理由があるのか、それはDIOにしかわかりません。


【セッコ】
[スタンド]:『オアシス』
[時間軸]:ローマでジョルノたちと戦う前
[状態]:健康、興奮状態
[装備]:カメラ
[道具]:基本支給品、死体写真(シュガー、エンポリオ、重ちー、ポコ)
[思考・状況]基本行動方針:DIOと共に行動する
1.人間をたくさん喰いたい。今は角砂糖よりも食べたい。
2.DIO大好き。もっと色々なことを教えて!
3.チョコラータとも合流する。角砂糖は……欲しいかな?よくわかんねえ。

[参考]
『食人』という行為を覚え、喜びを感じました。
また、初めて自分の意志で殺人を行った事に達成感を感じているようです。

※2人がこの刑務所内にいる他2人、ホル・ホースとF・Fに気が付いているか、その場合、どの程度まで把握しているかは不明です。

※エンポリオの参戦時期は不明。少なくとも徐倫たちと知り合った後です。
※矢安宮重清の参戦時期は「重ちーの収穫(ハーヴェスト)」終了後です。
※ポコの参戦時期は、ウインドナイツ・ロットでのディオ戦終了後です。

※エンポリオの支給品のひとつは、スモークグレネードでした。
※矢安宮重清の支給品のひとつは、石仮面でした。
※ポコの支給品のひとつは、ミスタの拳銃でした。
※少年たちの支給品があとどのくらいあるかは、先の書き手さんにお任せします。

※GDS刑務所・女子監食堂に3人の遺体があります。
※エンポリオは腹を貫かれ、内臓をぶちまけています。
※矢安宮重清はバラバラに引き裂かれて原型がありません。
※ポコは鉄杭で両手首を貫かれて壁に磔にされています。死体の至る所にセッコが喰いちぎった跡があります。

☆ ☆ ☆



少しでも、稚気を抱いた自分が馬鹿だった。
出会ったら躊躇いなく引き金を引く? そんな事をして、本気で生き残れるとでも思っていたのか?
このDIOを、俺なんかが本気で殺せるとでも?

目の前で行われているのは、悪魔の所業。
吐き気を催す邪悪。狂気の宴そのものだった。
俺だって、ヤクザな世界に生きて長い。人を殺した数だって、両の手のひらじゃあ数え切れねえ。
だが、目の前で行われている奴らの行いは、心臓を握りつぶされるような恐怖を俺に感じさせる。
グロい。グロすぎるっ! 嘔吐を必死で我慢する。
まともじゃねえ。これ以上見せられたら、気が変になりそうだ。
隣にいる徐倫の姿を見ろ。普通の人間の感情すらわからない彼女が、本能で怯え震えている。
関わってはいけない。逃げるしかない。
DIOは化け物だ。死神だ。本物の悪魔だ―――――。

「ど……どうするの…… 逃げる……?」

徐倫が震えながら、俺に声をかける。

「いや…… 待て。慌てるな。今動いたら、DIOに感づかれる。放送まで待つんだ。
あと5分もすれば、第1回放送とやらが始まる。どんな方法で流れるのかはわからないが、放送が始まれば、さすがのDIOでも放送に気が取られて動かないはずだ。
その隙に逃げるんだ……」
「わ…わかった――――」

DIOより先に、俺たちが奴らの存在に気がついてよかった。
あのガキには悪いが、断末魔の叫び声に感謝だ。

いや、DIOが俺たちに気がついていないというのは希望的観測に過ぎない。
DIOは侮れない。顔や動作には見せないが、奴の心の内はわからない。
もしDIOが、俺たちの存在に気が付いていたならば、おしまいだ。

放送まで、あと5分。
生きた心地がしない。
人生でもっとも長く感じる5分間だ。



【E-2 GDS刑務所1F・女子監食堂から看守控え室につながる廊下の影 / 1日目 早朝(放送5分前)】

【H&F】

【ホル・ホース】
[スタンド]:『皇帝-エンペラー-』
[時間軸]:二度目のジョースター一行暗殺失敗後
[状態]:恐怖、(徐倫への興味)←今はそれどころではない
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:死なないよう上手く立ち回る
1.放送と同時にDIOから逃げる。こんな恐ろしい光景は見たことがない。
2.徐倫に興味。ただ、話は全く信用してない。利用した後は……?
3.牛柄の青年と決着を付ける…?

【F・F】
[スタンド]:『フー・ファイターズ』
[時間軸]:農場で徐倫たちと対峙する以前
[状態]:恐怖、(空条徐倫の『記憶』に混乱、『感情』に混乱)←今はそれどころではない、髪の毛を下ろしている
[装備]:空条徐倫の身体、体内にF・Fの首輪
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品1~4
[思考・状況]
基本行動方針:存在していたい(?)
1.怖くてたまらない。早くこの場を逃げたい。
2.ホル・ホースに興味。人間に興味。
3.もっと『空条徐倫』を知りたい。
4.敵対する者は殺す。それ以外は保留。

[備考]
2人とも、思考2以降は現在ほとんど頭にありません。DIOから逃げることのみを考えています。
2人はセッコがポコの肉を喰い漁る様を目撃しました。感想は言わずもがな最悪です。
F・Fの首輪に関する考察は、あくまでF・Fの想像であり確証があるものではありません。
体内にF・Fの首輪を、徐倫の首輪はそのまま装着している状態です。
ホル・ホースはF・Fの話を妄想だと思っています。






投下順で読む


時系列順で読む


キャラを追って読む

前話 登場キャラクター 次話
GAME START ポコ GAME OVER
071:Isn't She Lovely ホル・ホース 105:トータル・リコール(模造記憶)(上)
081:計画 DIO 115:死亡遊戯(Game of Death)1
GAME START 矢安宮重清 GAME OVER
054:心全て引力 セッコ 115:死亡遊戯(Game of Death)1
GAME START エンポリオ・アルニーニョ GAME OVER
071:Isn't She Lovely F・F 105:トータル・リコール(模造記憶)(上)

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2012年12月09日 02:29