「どうだ?」

虹村形兆のその言葉にシーザー・アントニオ・ツェペリは首を振った。ヴァニラ・アイスは何も言わず、それどころか視線すらこちらに向けなかった。
形兆は最初から期待していなかったのか、苦笑を浮かべ首をすくめると、スタンドを撤収させた。
ジョースター邸中に広まっていた緑の兵隊たちが一人、また一人彼の元へと戻ってくる。
案の定、参加者も、参加者がいたと思われる痕跡も見つけることは出来なかった。
形兆はスタンドたちに、御苦労、そう呟くと彼らをひっこめ、目線をあげた。
目の前に立つ伊達男、壁にもたれる眼光鋭い狂信者。形兆は二人の男に向け、問いかける。

「ってわけでジョースター邸は空振りだ。人一人、猫一匹おりゃしねェ。
 情報交換の時に打ちたてた通り、当分は情報収集兼協力者探しのためにもなるべく多くの参加者に接触したい。
 となると次の目的地は市街地、刑務所、公園のどれかにしようと思うわけなんだが……何か意見はあるか?」
「俺が今あがった候補から選ぶとしたら……まぁ、実際刑務所じゃなけりゃどっちでもいいぜ。あんなカビ臭くて辛気臭い所に行くのは気が進まねェのさ。
 それに、刑務所なんてところには確実に! レディがいない!
 太陽のように美しく、野花のように朗らかな女性たちってのは刑務所なんかにはいやしねェさ。
 これだけは間違いないからな。それならわざわざなら行く意味なんてねェ。
 東に進路をとって市街地か、北上して公園か。これっきゃないだろ、そうだろ?」
「ヴァニラ・アイスは市街地からこっち、地図で言えば西側に進んできたわけだろ?
 なら効率的に考えれば北上したほうが俺としてはいいと思う。
 それに地図の端から埋めていくのは気持ちがいい。だれだって几帳面に色塗りしていくのは気分がいいものだ。
 そうだろ?」
「…………」

シーザーが言い、形兆が賛成するように意見を付け加える。ヴァニラ・アイスはなおも黙ったままで、興味なさそうに頷くだけだった。
二人の男は互いに見つめ合い、そして頷いた。
ヴァニラ・アイスは選択を放棄、北上という点で二人の意見は一致。ならば行き先は決まったも当然だ。
二人の指がこれからの行く先を同時に指さした。三人がこれより目指すは、ドーリアパンフィーリ公園。






一陣の風が吹き、公園中の木が優しく揺れた。気持ちの良い葉擦れの音が男たちを包み、そしてやむ。
形兆は足元でうずくまるシーザーを何の感情の籠らない眼で見つめていた。
シーザーは今は固く動かなくなった少女を抱え、泣いていた。決して大きく叫ぶことはせず、涙も見せはしなかった。
だが肩を震わさせ、歯を食いしばり、彼は一人泣いていた。

何の罪もない少女が殺されという事実に。その少女を助けることができなかった自らの愚かさに。
シーザーは怒っていた、嘆いていた。自分自身が許せなかった。間にあわなかった自分を、彼は呪っていた。

悔しさに震える男を、形兆はただ見つめ続ける。
目線はシーザーに向けられていて、あたかも傍目からみればシーザーの感情が落ち着くのを待っているように見える。
しかしそうではなかった。形兆はこれ以上ないほど神経をすり減らし、辺りの気配を探っていたのだ。
眼だけではなく耳を最大限まで活用し、木の葉一枚舞い落ちる音さえ見逃すまいと集中力を高めていた。
スタンドを展開、『バッド・カンパニー』たちが気配を消しゆっくりと進んでいく。足音を殺し、兵士たちは偵察のために陣形を広げていった。

形兆が探しているのは少女を殺した何者か……ではなく、いつの間にか姿を消したヴァニラ・アイス。
ジョ―スター邸を出発した三人は予定通りドーリアパンフィーリ公園にやってきた。
二人はそこで見つけた少女の遺体に気を取られ、そして気がつけばヴァニラ・アイスの姿は見えなくなっていた。

形兆が真っ先に思ったのは、いつの間に、そしてなにゆえにという疑問。
彼が忠誠を誓うのはDIO一人にして、唯一無二。彼が行動するのはDIOのためであり、DIO以外に理由はない。
最悪の可能性を形兆は考える。もしもヴァニラ・アイスが気づかぬところでDIOと接触していたら?
そしてもう既に形兆たちを始末するよう、命令されていたら?

自分の注意力のなさに彼は舌打ちをした。“たかが”少女の遺体一つで動揺しすぎた。
スタンドたちから発見情報はいまだ届かない。自身の目や耳でも、ヴァニラ・アイスの痕跡は捕えられなかった。

形兆はヴァニラ・アイスの落ち窪んだ眼光を思い出し、首筋の産毛が反り返るのを感じた。
協力関係を組んだとはいえ、手をかまれる危険はいつだってある。
そう、何か不都合があれば。ヴァニラ・アイスの琴線に触れるようなことがあれば。
形兆が父親を処分するよりも前に、自分が消される危険性だってある。自分の置かれてる状況を改めて実感し、彼は身震いした。

柔らかな風がもう一度吹き、森がまたゆっくりと囁いた。静まり返る森の中、形兆は神経を研ぎ澄ます。
シーザーの嘆きを聞き、なだめる様に傍らに寄り添いながら、彼はひたすらに待つ。
気配を探り続け、どこからでも、何が起きてもいいように…………。臨戦態勢で、彼は待ち続けた。



 ……―――うわァァァアアッッッ!



叫び声が静寂を切り裂く。
形兆は弾かれたように走りだした。少し遅れてシーザーが動き出し、男たちは声の元へと向かっていく。
森を裂き、大地を蹴り、辿りついた場所は森の中で開けた広場のような場所。
男たちはそこではたと足を止め、目の前の光景に言葉を失う。

ヴァニラ・アイスと一人の男がそこにはいた。正確に言えば、『半分』の男がそこにいた。

「くッ……う、ううゥ…………!」
「もう一度、もう一度だけ聞いてやろう。DIO様、あのお方について僅かで情報があるならば洗いざらい吐け。
 どんな些細な事であろうといい。今すぐにだ。知っているならば……言え、言うのだ…………ッ!」
「か、は……、はァ……………ッ!」

鮮やかな赤が目に眩しい。まるで地面に広がる真っ赤な絨毯のようだ。
男の右半身はスプーンで刳りぬいたかのような、なめらかな切断面を見せていた。
脇に転がるメキシカン・ハットを踏みつけ、再度ヴァニラ・アイスが迫る。
虫の息の男が荒い呼吸を繰り返し、その音だけが沈黙を破っていた。

「知らない……! ほんとに、俺は、何も知らねェんだッ!
 チクショウ、チクショウ……! なんだってんだ! なんだって、俺がこんな目に……!
 ディオ? なんだそりゃ! クソッたれ、知るかよ、そんな野郎の事!
 ディエゴ・ブランドーのことじゃねーのかよ! クソ…………クソ、痛ェ……痛ェ!
 俺の身体が、身体がァ…………ッ!」
「……そうか」

髭面の男が最後まで言い切らないうちに、ヴァニラ・アイスは囁いた。
その声の冷たさに、思わず後ずさりかける。隣で何かを察したシーザーは、まさか、と眼を見開き一歩足を踏み出した。
ヴァニラ・アイスがその場にしゃがみこむ。傍らに出現したのは彼のスタンド。
シーザーが走る。叫び声をあげ、彼は男を止めようと、飛ぶようにかけた。しかし彼はまた間にあわなかった。
血も凍るような、無慈悲な音が森に響く。


 ―――ガオン…………ッ!


右半身しか残っていなかった男は右腕を残し、消えた。ヴァニラ・アイスは何事もなかったように立ち上がる。
男の支給品であろうライフルをもぎ取り、残った腕をその場で放り捨てる。
ゴミ掃除を終えたささやかな満足感がその眼を満たしていた。今しがた男がいた場所を怒りの表情で見つめ、彼はこう言った。

「DIO『様』だ……。何者であろうと私の前であの方を侮辱するのは許さん……ッ!
 ただ、一つだけ感謝してやろう。ディエゴ・ブランドー……DIO『様』の名を借りる不届きもの名を知れたのは収穫だ」
「てめェ…………ッ!」

怒りに震えるシーザーが叫んだ。だが彼が拳を振り抜くよりも早く、そしてヴァニラ・アイスが動く隙も与えず、形兆は冷静にこの場を収めるために動いていた。
シーザーがハッと気がつけば、肩に緑の兵士たちが飛び乗っている。
銃口は彼の首輪に向けられていて、見ればヴァニラ・アイスの肩にも同じものが乗っている。
二人の間に立つように、ゆっくりと形兆が歩いていく。両手をあげ、二人をなだめるような落ち着いた口調で言い放つ。

「やめろ、シーザー。お前もだ、ヴァニラ・アイス。二人とも、やめるんだ」

さもなければ首輪を吹き飛ばす。形兆がそう言わんとしていることは明らかであった。
だがそれでも、二人の怒りは収まりそうもなかった。熟練の波紋戦士、狂気の殺人者。
二人の刃物のような視線を受け止めながら、形兆は苛立ち気に声を荒げた。
冷静さが身の上の彼にしては珍しく、感情的な叫びだった。もう一度二人に矛を収める様に叫び、ようやくその場の緊張が薄れる。
ヴァニラ・アイスはスタンドをひっこめ、シーザーは拳を下ろす。形兆は大きく息を吐いた。

「…………」
「おい、どこ行くんだ」
「…………貴様には関係のないことだ。遠くまでは離れない。心配なら貴様のスタンドで見張っていろ、虹村形兆」

森の闇へと溶けていく狂信者を形兆は鋭く睨みつけた。
男は一度として振り返ることなく、仕方なしに何人かの『バッド・カンパニー』を尾行させることにした。
ヴァニラ・アイスの後ろ姿が消えたころ、シーザーが、少しの間一人にしてくれ、そう言った。
断るわけにもいかず、形兆は頷く。シーザーは来た道を引き返し、少女の元へと戻っていった。
きっと彼女を埋葬してやるのだろう。形兆はそう思った。

「…………」

どうやら自分がやろうとしていることは思った以上に大変なようだ。
形兆は大きくため息を吐き、こめかみのあたりを優しく撫でる。頭痛の種は増えていくばかりだ。

シーザーはまだいい。感情的で熱い男で、その本質は優しい善人のものだ。形兆が羨ましくなるほどに気持ちのいい男だ。
ヴァニラ・アイスもそれほど問題ではない。さっきの言葉から自分のことを一応は買ってくれていることがわかる。
心配していたような、すぐに殺される事態はよっぽどのことがない限り、ないだろう。DIOのことを下手に口にしない限りは、だが。

問題なのはこの二人がまっったくもって真逆の人間だということだ。
一人一人ならばいい。一対一ならばそれほど手綱を取ることに苦労はしない。だが三人一緒に行動となると、これはもう無理だ。
必ずどこかで爆発する。どちらかが越えてはいけないラインを破った時……きっと二人は衝突する。
そしてそれを止める自信も、止めるリスクを考えてまで得られるリターンも、形兆にはないように思えた。

ならば……、と形兆は『バッド・カンパニー』に神経を集中させ、二人の男を観察する。
放送まで時間があるのは幸いした。考える時間と情報を元に、彼は決断するだろう。
遅かれ早かれ、『この時』が来るのはわかっていた。だがそれがこんなにも早くとは思っていなかっただけのことだ。

覚悟はとうの昔に済んでいた。慈悲や後悔は、もうどこにもない。
形兆を支えるのは憎しみと意地。それだけあれば、銃口を向けることに躊躇いなんぞ、ない。

シーザー・アントニオ・ツェペリか。ヴァニラ・アイスか。
決断の時は放送の時。その時、この三人は二人になり、そしていつか一人になる時もくるだろう。
開幕を告げるのは形兆のピストル。男は森の中、一人、来るべき時と向けるべき相手を考え、佇んでいた。





                                    to be continue......





【ガウチョ 死亡】

【残り 79人】



【E-1 ドーリア・パンフィーリ公園 泉と大木 / 1日目 早朝 放送前】
【シーザー・アントニオ・ツェペリ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:サン・モリッシ廃ホテル突入前、ジョセフと喧嘩別れした直後
[状態]:怒り、悲しみ、不甲斐なさ、二人に対する不信感
[装備]:トニオさんの石鹸、メリケンサック
[道具]:基本支給品一式×2、ジョセフの女装セット
[思考・状況]
基本行動方針:主催者、柱の男、吸血鬼の打倒
0.少女(シュガー・マウンテン)を埋葬してやる。しばらく二人には会いたくない。
1.形兆達についていき、ディオと会ったら倒す
2.形兆とヴァニラには、自分の一族やディオとの関係についてはひとまず黙っておく
3.知り合いの捜索

【ヴァニラ・アイス】
[スタンド]:『クリーム』
[時間軸]:自分の首をはねる直前
[状態]:怒り
[装備]:リー・エンフィールド(10/10)、予備弾薬30発
[道具]:基本支給品一式、点滴、ランダム支給品1(確認済み)
[思考・状況]
基本的思考:DIO様……
0.DIO様……
1.DIO様を捜し、彼の意に従う
2.DIO様の存在を脅かす主催者や、ジョースター一行を抹殺するため、形兆達と『協力』する
3.DIO様がいない場合は一刻も早く脱出し、DIO様の元へと戻る
4.DIO様の名を名乗る『ディエゴ・ブランドー』は必ず始末する。

【虹村形兆】
[スタンド]:『バッド・カンパニー』
[時間軸]:レッド・ホット・チリ・ペッパーに引きずり込まれた直後
[状態]:悩み、憂鬱、覚悟
[装備]:ダイナマイト6本
[道具]:基本支給品一式×2、モデルガン、コーヒーガム
[思考・状況]
基本行動方針:親父を『殺す』か『治す』方法を探し、脱出する
0.放送後、『どちらか』を始末する? まだ考え中。方法と人物も考え中。
1.情報収集兼協力者探しのため、施設を回っていく。
2.ヴァニラと共に脱出、あるいは主催者を打倒し、親父を『殺して』もらう
3.オレは多分、億泰を殺せない……
4.音石明には『礼』をする



[備考]
  • 情報交換をしました。どの程度までかは次以降の書き手さんにお任せします。
  • ガウチョの参戦時期はリンゴォに撃ち殺される直前でした。ガウチョの基本支給品と腕以外の部分はガオンと消されました。
  • それぞれ支給品を確認しました。内容は以下の通りです。
 ベックの支給品……メリケンサックのみ、ヴァニラ・アイスの支給品……点滴と???(次以降の書き手さんにお任せします)
 ガウチョの支給品……リー・エンフィールドと予備弾薬30発、人面犬の支給品……ダイナマイト6本のみ




【支給品紹介】

【メリケンサック@Part2 戦闘潮流】
ワイヤードのベックに支給された。原作ではニューヨークのヤクザが使っていたもの。
実際効果はあるのだろうか。殴ったとき拳が痛くないってジョジョの世界ではなんかそこまで意味なさげに思える、不思議。

【点滴@Part4 ダイヤモンドは砕けない】
原作では仗助が使って噴上戦で勝利をおさめた。
あんな風に即効性があるとはとてもじゃないが思えない。
あと食べても満腹にはならないと思う。多分。

【リー・エンフィールドと予備弾薬30発@現実世界】
全長640mm、重量3900g、装弾数10発、ボトルアクション方式の光景7.7mm。
戦争映画や漫画で出てくる典型的、古典的ライフルといえばイメージしやすいと思う。
設計、製造されたのが1900年代初めだったにもかかわらずその有効射程は約918m、およそ1km。
凄い。

【ダイナマイト6本@Part2 戦闘潮流】
エシディシが腹の中でドムン!と爆発させた、あのダイナマイト。
胃に入れる前なので綺麗です。安心して使ってください。





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前話 登場キャラクター 次話
057:もしDIOがこの『バトル・ロワイアル』に参加していたら シーザー・アントニオ・ツェペリ 130:背中合わせの三つの影
057:もしDIOがこの『バトル・ロワイアル』に参加していたら ヴァニラ・アイス 130:背中合わせの三つの影
057:もしDIOがこの『バトル・ロワイアル』に参加していたら 虹村形兆 130:背中合わせの三つの影
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最終更新:2013年01月26日 21:20