ブラフォード恐竜との戦いが終わると橋沢育朗は再びバイクを押して歩きだしたが、幾重にも分かれた地下道にはもはや何の気配も感じる事ができなかった。
そのまましばらく当てもなく歩き続けるもやはり人と出会う事は無く、後ろ髪を引かれながらも育朗は地上に出ることを決断した。
もちろんビットリオを心配する気持ちはあるが、今のままでは移動速度が遅すぎるし、ワムウやカーズの事もある。
奴等とビットリオが出くわしてしまわないように、新たな犠牲者が出ないように――――こちらから打って出るのだ。

ほとんど勘を頼りにして、どうにかシンガポールホテルの地下から地上へと出た時、すでに空は燃えるような黄昏色に染まっていた。
頬に当たる光と風は変わらず温かいものだったが、石畳には生々しい痕跡が残されていた。

(この血液の量……それに、かすかに感じる"悲しみ"のニオイ。ここで誰かが亡くなって、誰かが泣いたんだ……)

ずっと自分の戦いだけで手いっぱいだった育朗だが、この会場で行われている『殺し合い』というものを改めて実感した。
スミレのようにか弱い者、戦いを望まぬものがどれだけいたかわからないが、わずか一日でこんなにも多くの人が死んでいるのだ。
感覚を研ぎ澄ませれば、血と煙の匂いに混じって腐臭さえ漂ってくる。思わず口を押さえそうになるが、ぐっと堪える。
これもまた全て己の肉体と同じ、背いてはならない『現実』なのだから。



ドドドドド……



遠くからエンジン音が聞こえてくる。音の方を向くとと二人乗りのバイクがこちらに近づいてくるのが見えた。
運転しているのはスーツの男。そして後ろには……女の子。
育朗の存在に気付いた男は20メートルほど離れた位置でバイクを停め、遠巻きに育朗の様子を伺ってくる。
女の子の方は中学生か、高校生か……制服姿からして自分とそう変わらない年頃だろうとは思うが、ドレスの刺客と言われても納得しそうなくらいに
鋭い空気を纏った男との組み合わせは不自然で不釣り合いだ。もしかして無理矢理連れまわされているのか?
だとすれば助けなければならないが、それにしては雰囲気が違う様な気もする。

育朗が困惑していると女の子が男に何か話しかける。
二、三言葉を交わすと男が育朗の方を軽く指差して視線を促す。女の子の顔がこちらに向けられ、ああ、と育朗は納得した。
おそらく荒れた地面や血だまりと自分を関連付けたのだろう。できることなら話をしてみたかったが仕方がない。
ダメもとで片手を挙げると声を張って自己紹介し、敵意がないことを示してみる。決めかねているのか男は無反応のままだ。
再び女の子が話しかけるが、男は首を振って再びバイクのエンジンをかける。
どうやら完全に誤解されてしまったようだが、この状況だ。むしろ慎重に行動してきたからこそここまで生き延びてこれたのなら尚更自分が無理に
追いかける事もないだろう。そう結論付けて彼らの無事を心で祈りながら背を向け歩きだしたところで、


「――――話してみたいんです!」


女の子の予想外に大きな声に思わず振り返ると、男もなぜか目を丸くしていた。
さらに強気な口調で続ける彼女に男は少しの無言ののちエンジンを止めて女の子を降ろすと、駆け寄ってくる彼女の後ろからバイクを押してきた。
主導権を握っているのは男じゃなかったのか?まさか彼女がスタンド使い……



「こ、こんにちは橋沢さん。私は双葉千帆といいます!」

愛らしい顔をあからさまに緊張させ、胸に手を当てて真っ直ぐ自分を見つめてくる女の子の姿は、育朗がさっきまでの思考が取り越し苦労だったと
苦笑するのに十分なものだった。



◆ ◆ ◆



(それにしても、不思議な二人組だったな……)

改めて三人が互いに自己紹介を済ませた後、双葉千帆が育朗に申し込んできたのは『取材』という名の情報交換だった。
なぜ取材かというと彼女は小説家を目指しており、ここでの経験を基にした小説を書くためだというのだ。この非常時に、という気持ちもなくはないが
その真剣な眼差しに押される形で育朗から口を開くことになった。
近くの家で拝借したという表紙が可愛らしいノートに万年筆で育朗のこれまでの軌跡が記されてゆく。
カーズ、億泰……廃ホテルの大男……ビットリオ、アバッキオ……ドレスを逃亡してからの数日間も含めた全てを話したが、
改めて今日一日の密度の濃さに驚かされる。
特に億泰とスミレへの気持ちは言葉では伝えきれないほど大きなものだが、千帆は熱心に耳を傾けて書き取ってくれた。
語り終えた後で聞いたのだが、億泰は千帆と同じ学校の生徒で、校内でも有名な不良だったのだそうだ。
また、千帆とは個人的な接点は無いが、参加者の中に東方仗助という億泰の友人がいる事も知った。どんな顔をして何を話せばいいのかわからないが、
会いたい人が増えた。

千帆から得た危険人物の情報も貴重なものだった。地面を泥のように泳ぐ狂人セッコに刀の男、謎のトランプ使い。
どういう訳か彼女の兄は彼らと共に行動しているそうで、遭遇したらできる限り戦わずにいて欲しいとも頼まれた。
プロシュートからは時空と時間軸の違いについて。千帆と違い自身の事は何も語らなかったが、それとなく二人の関係を尋ねた際
迷いなく出てきた『仲間だ』との言葉は信頼に値するものだったので、それ以上は聞かない事にした。

人を探して取材をするのだと言う千帆に同行を求められたが、育朗は丁寧に断った。
ビットリオの時とは違い、自分はこれから人知を超えた化け物と対峙しようとしている。何の力も持たない彼女を守りきる自信は無いし、
億安の二の舞は避けたかった。その代わり荷物を無くしてしまった千帆の為に育朗は所持品のいくつかを彼らに渡すと、一度別れる事にした。

自然な笑顔をかわしてバイクに乗り込む二人の姿に、もしかしたら有りえたかも知れないスミレとの未来を一瞬重ね合わせ
心の奥に少しばかり切ない風を感じながら育朗は小さくなる影をただ、見送っていた。



◆ ◆ ◆



「ここはマンハッタン・トリニティ教会、と。元々ローマにある教会なんですか?」
「マンハッタンはニューヨークだボケ。中に入るぞ」

石畳の小道など無視して墓石の間を突っ切るプロシュートに続き、千帆もメモをとりつつ教会内へと入ってゆく。内部は思ったよりひんやりとしていて、
特に誰かが立ち入った形跡も見受けられない。二人はひとまず長椅子に腰を下ろすと育朗に貰った地下地図を広げて地上の地図と照らし合わせてゆく。

「俺が最初に飛ばされたのはあの病院の地下だ。長居はしなかったが飛行機の残骸が丸ごと入る位には広い空間だった」
「みたいですね。で、同じように広い空間がコロッセオの地下とドレス研究所の地下。カーズのアジトというのも結構広そうです。
 私達が最初に集められたホールがこの内のどれかって事はないでしょうか?」
「それこそ安っぽい小説だな。仮にそうだとしてもそこから主催者どものアジトに辿り着けるかはまた別の話だ。俺が主催者だとして、誰も来て欲しくなけりゃ
 最初から会場の外にアジトを構えるな。会場内でなけりゃならない理由があるとしたら、迷い込んだ奴をどうこうするための罠辺りが鉄板だ」
「うーん、そう甘くはないですね。じゃあ予定通りこの教会の地下に行きましょうか。橋沢さんの話では細い道でもバイクを押して歩けるくらい
 幅があったみたいですし、人に会えるかもしれませんね」
「ああ。昼間はバイクの機動力があったが、暗闇の中ライトを点けて走っていたら目立って狙われやすくなる。夜になる前に
 この地図を手に入れたのはデカいぞ。まずは軽く探索だ、結果次第で日没後の行動を決定する」

ステンドグラスに気を取られがちな千帆を尻目にプロシュートは素早く聖堂内を探索したが地下への階段が見当たらず、外に出て裏門に回ったところで
ようやくそれらしき入り口を見つけて下りてゆく。



「え……これって……」



それほど広くない地下室の奥で二人を出迎えたのは、ネオゴシック様式の荘厳な聖堂とはかけ離れた近代的で無機質な金属製の扉だった。
銀行強盗の前に立ち塞がる大金庫の扉というのがイメージとしては近いのだろうが、開いたままの扉の奥には人一人が『横たわった』状態で
ようやく入れそうなスペースしかない。地図に記された『地下シェルター』という言葉と剥離した目の前の設備に千帆はむしろ、火葬場の炉の扉を
連想してしまった。

「死体安置所か、近年流行のロッカー式墓地にも似てるな」
「怖いたとえをしないでください! 怖くなるじゃないですか……」
「今更何言ってんだ。ったく、大見得切ったはいいが根っこはまだマンモーナか?」

口ではそう言いながらも年相応に怖がる千帆の様子にプロシュートは内心で安堵した。
スペイン階段での宣言からこっち、千帆はよく喋り、行動も積極的なものとなった。一見良い変化に思えるが、それが危ないこともある。
恐怖を乗り越えたり、我が物とするのは並大抵のことではないのだ。異常な状況に適応しようと知らず精神を過剰に昂ぶらせてしまうことで
視野も狭くなり、結果危機への対応力が低下してしまう。それを危ぶんでここまで観察していたが、この様子ならまだバランスは保てているようだ。
自分が死ぬかもしれないのと、幽霊とオバケは怖さの種類が違うんですとぶつぶつ言っている千帆に背を向け、(他の建物に変わってなければ)近くにある
サンタマリア・デッラ・コンチェツィオーネに連れて行っていたらきっと愉快なものが見れたに違いないと口端を上げて地下道への入り口を探し始めた。

(もうプロシュートさんてば……でもこのシェルター? どうしてか気になるかも)

扉に近づくと中心部分には刺さったままの鍵とダイヤル。おそらくこれを回せば施錠され、扉は閉じるのだろう。
シェルターと言うからにはいざとなったらここに避難できるかもという希望も持ってはいたが、これではプロシュートの言った通り、生きた人間ではなく
遺体を安置するくらいにしか使えそうもない。

「中は空っぽかな……あ、奥に何かある」

シェルターのかなり奥に干からびた果実のような丸い物体があった。身を乗り出せば届く距離だ。
千帆は身体を半分ばかり突っ込むと手をうんと伸ばし、掴み取る。







                              「 ! ? 」








「――――はっ!! ハァ……ハァ……い、今のは!?」


一瞬、ほんのわずか一瞬だが、今確かに何か、誰かの存在を『感じた』。
大きくて光り輝く……恐ろしい。いや、畏ろしい。全身から嫌な汗が吹き出し、衆人環視の中裁きを待つ罪人のようないたたまれない気持ちが
千帆の身体をその場に縛り付ける。



「地下道の入り口を見つけたぞ。……おい、どうした」

このまま石に変わってしまいそうな千帆の精神の戒めを解いたのは戻ってきたプロシュートの姿と声。
筋肉が一気に弛み、今度は立ち続ける為に力を入れ直す必要があった。

「何かあったな。話せるか?」

少し柔らかくなった口調と軽く添えられた手はもちろん感情的な心配からではなく、自分を刺激せず話しやすくさせるための効率の良い手段なのだろう。
いらぬ手間を掛けさせてしまったのだと、千帆は自分を恥じた。
ここで怖い夢を見た子供のようにすがり付いておいおい泣くのはこの人の仲間として最もふさわしくない行為だ。
涙がこぼれないように目にも力を込め、震える口をゆっくり開くと先程の異変を説明する。

「『干からびた丸い何か』と『誰か』か。物はまだシェルターの中か?」
「ここに……え?」

確かに掴んだはずのそれはいつの間にか消え失せていた。シェルターの中や床を探してもどこにもない。
自分は白昼夢でも見てしまったのか?

「スタンドの罠という可能性もあるが、今のところ異常はなさそうだな。何故俺を呼ばなかった」

全くその通りだ。スタンドに対処できるのはプロシュートだけ、不審なものがあればまず彼を呼ぶべきだったのに。
なのにあの時はそんな考えが全く浮かばなかったのだ。ただ引き寄せられるように手を伸ばした……

「地下道に行くぞ」
「え? あの……い、いいんですか? 何か起こったりしたら……」
「現時点でこれから何が起こるかなんて予測は俺にはできん、何も見ていなかったからな。なら今は目の前の事を片付けるべきだ。
 お前を一人にした俺の責任でもある、もう気にするな」

額を軽く小突かれて瞬きすると、プロシュートはもう地下道へ向かっていた。後ろをついていくと、男性にしては歩幅が狭い事に気が付く。
自分に合わせてくれているのだ。本当は冷徹な暗殺者だとわかってはいるが、こうした細やかな気遣いや面倒見の良い人柄を千帆は素直に好ましく思った。



◆ ◆ ◆



シェルターからさらに地下に降りて地下道に入るといきなり三方向に道が分かれていたが、とりあえず東側の道からぶらぶらと探索して
安全を確認することにした(千帆がその辺に落ちてた棒を倒して決めた)。そのまま5分ばかり進んだところでふいに風の流れが変わる。
何者かが、来る。


「ふむ、見た事のない顔だな」

現れた男はただありのままに言い放った。
眼中にないという程ではないが、特段興味を引かれる程でもない。いつもの散歩に出たら見ない顔の犬に出会ったといった調子だ。
プロシュートもまたこの男とは初対面だ。だが、この異装と巨躯、ただならぬ雰囲気に心当たりはあった。
つい先程育朗から入手した危険人物に関する情報と一致している。が、――――どっちだ。


「お前の名は、カーズか?」

男の表情は変わらない。こちらの次の一言を待っている。

「お前が戦った化け物から伝言がある」

そこでようやく、ほう、と男の口が動いた。何とかとっかかりを掴めたようだ。

「だが、お前さんが『どちらか』わからない限り伝える事はできない。今一度問うぞ、お前の名はカーズか?」
「我が名はワムウ……もっとも、あの化け物には名乗っておらぬがな」
「いや、十分だ」

(聞いた限り、より危険度が高いのはカーズの方だった。とりあえず賭けには勝ったな)

育朗から得た情報のうち最も危険な参加者とされるカーズとホテルで戦闘になった男の二人。共通点の多さから仲間もしくは何らかの形で
繋がっている可能性も排除できないが、聞いた限りそれぞれの性格や態度には正反対と言っていいほど顕著な違いがあった。
片や不意打ち・挑発、片や誇りある闘争。万が一目の前にいるのがカーズだった場合は即撤退も選択肢にあったが、ワムウは理性的な交渉が
できると男と見たプロシュートはあらかじめ育朗から聞いていた伝言をそのまま伝えることにした。

「化け物の名は橋沢育朗、伝言は『自分はあの時とは違う。一対一の再戦を望む』という事だ」
「なるほど、橋沢育朗か」

片方の口端を吊り上げ、ニヤリと笑う。ワムウにとってもまたこの状況は望ましいことなのだろう。
ならばと次の交渉に移る。

「橋沢は放送毎にある場所でお前を待つ予定だ。場所を教えてやるが、条件がある」
「ふん、このワムウ相手に交渉か……言ってみろ」
「橋沢はこうも言っていた。再戦が果たされるまで自分以外の誰とも殺し合わず、傷つけるな。もちろんこの俺たちも含めて、だ」

内容自体は本当に育朗のセリフだ。いざとなったら自分との再戦を餌に切り抜けて欲しいとも言われていた。
育ちの良さそうだった育朗はそれで上手くいくと思っている節があったが、プロシュートはそんな楽観的な思考など持ち合わせてはいない。

(コイツの次のセリフはこうだ……『今の話、保証はどこにある?』)

「今の話、保証はどこにある?」
「目に見えてわかるような形で、と言う意味でなら、無い」
「ああ、お前たちが橋沢育朗と会い、このワムウについて聞いた。そこに偽りは無かろう。しかし伝言はお前たちがこの場から逃れたいが故の
 方便という可能性もある。俺はまだ奴を戦士として認めてはいないのだ。保証もなしにお前らを見逃すわけにはいかんな」
「なら同行してやるから今すぐにでもアイツのところに行くか? 別れてからそれ程時間も経っていないし、まだその辺りにいるかもしれんぜ」

やはりと思ったが、対決が実現するまでの間の同行を暗に求めてきた。しかしそれはそれで問題ない。
育朗との戦いに巻き込まれさえしないかぎり、逆に安全でいられるのだから。
ワムウは少しだけ考える素振りを見せた後、ひとつ頷いて了承の印とした。

「よかろう、貴様の話に乗ってやる。ただし俺にも都合があってな、今すぐに地上に出るわけにはいかん。よって
 一人は今から指定する場所に橋沢を連れてこい。もう一人は保証としてここに残れ」
「チッ……わかった、交渉成立だな。次の放送時、アイツはシンガポールホテル前に現れる。どこに連れて行けばいい?」
「その場所から北に2エリア、古代環状列石だ。時間は放送後30分以内とする」

できれば今すぐに移動したかったが、分断ときた。これでも上々な結果だろうが、人質役はもちろん千帆しかいない。


「じゃあ私が残りますね。バイクを運転できるのはプロシュートさんだけですし、私が外にいても危険なだけですから」
「千帆」
「任せてください、プロシュートさんも気をつけてくださいね」

この得体の知れない男と二人きりだ、不安でない筈がないだろうに明るく振る舞う千帆を見て、プロシュートは自分が無意識に
保護者気取りな思考をしていたのを恥じた。ペッシよりも幼く力もない。だが状況の変化に対応できる分度胸は上回っている。
亡き弟分とどこか正反対なこの少女とをどこかでダブらせていたのか?

(千帆は自分の役割を分かっている。なら俺も『仲間』として、自分の役割を果たすべきだ)


それでも、千帆に背を向けて歩き出したとき、プロシュートの心臓はドクリと大きく脈打った。




◆ ◆ ◆



「た、助けてくださってありがとうございました!」
「礼を言う必要は無い。お前が死ねば約束を違える事になってしまう。こちらの都合だ」

プロシュートと別れてからしばらく経っただろうか。突然ワムウが千帆を抱えると素早くその場を離れた。
驚いた千帆が悲鳴を上げようとしたところ、辺りが大きく震えると共に、天井が崩落したのだ。さっきまでいた場所は完全に埋もれてしまい、赤い空が見えた。

「西の方……大きな戦闘か、建物の崩壊か。いずれにせよ地下も広範囲で崩落しているかもしれんな」

戦いならば自分も行きたくてたまらないといった表情だ。

「で、さっきの続きなんですけど」
「断る」
「そんなあ。約束の時間までまだ結構ありますし、簡単にでもいいですから!」
「わからんな……ただの情報交換ならまだしもなぜ俺の行動を細かく知る必要がある?」
「さっきも説明しましたけど、小説を書くためです。物語を作るのならば、書くべきは『現実(リアル)』じゃなくて、それを土台とした『現実感(リアリティ)』です。
 そして現実を集める為に必要なのは取材なんです」

とりあえず合流するまで身の安全は保障されている。その安心感からか千帆は早速時間を活用すべく、無くしてしまったメモの分を改めて書いてしまうと
続けてワムウに対して取材を試みた。が、状況を読めない阿呆と思われたのだろうか、すげなく断られてしまったのだ。

「私はこの通りスタンドもないし、生き残っているのが奇跡なくらい私は弱いんです。できる事と言えばこれぐらいですから」
「だろうな。あの男もお前を庇うがゆえに戦うという選択肢を放棄せざるを得なかった。参加者があらかた淘汰された今の状況ではお前はただの足手まといだ」

おそらく千帆にとって最も残酷な事実を突きつけた。無力なお前ごときが何をしても無駄な事なのだ、だから大人しくしていろと言外に込めて。

「私なりに受け継いだんです」

しかし千帆は顔色一つ変えなかった。いや、より強い意志を瞳に宿していた。

「いろいろ、後悔しました。私が無力で甘ったれで臆病なせいで死なせたり、死に目に会えなかったり、人一人説得できなかったり。
 大切なはずの人から逃げ出したり……」
「……」
「でも、こんな私に露伴先生は言葉をくれたんです。厳しくてあたたかい言葉を。それを、やっと本当の意味で受け止める覚悟ができました。
 受け継いだものを抱えたまま隠れているなんてできません」

誰の事を思い出しているのかはわからない。
だが受け継ぐという事が人の成長にどのような影響を与えるのか、少なくともワムウはその実例を一つ知っている。




「私は小説家です。命がある限り人と会って、取材をして、小説として書き上げてみせる。それが私の『戦い』です」




ワムウは千帆の瞳の奥をただ静かに伺う。降りしきる雪の下、懸命に咲き誇る花のような生命の強さがそこにあった。
自分はかつて無力なものに対し、このように向き合ったことがあっただろうか。

「命がある限りと言ったな。ならば小娘よ、お前の覚悟を言葉だけでなく行動で見せてみろ」
「覚悟、ですか?」

突然ワムウが右腕を自分の胸に突き立てる。拳がすっかり胸に埋まってしまった。

「腕を一本、このように突き立ててみせろ。腕は痛みも無く消化される。それができたならお前を認め、取材とやらに応じてやろう」

突然の事に千帆は絶句する。つまり腕一本とワムウへの取材、天秤にかけられるかという事なのだから。
ここで『どうした、やらないのか?』などど陳腐な発破はかけない。ワムウはただ静かに千帆の決断を待つ。
おそらく彼女にとっては怖ろしく長い十数秒が過ぎると、左腕を名残惜しそうに一撫ですると一気に伸ばした。




「確かに見せてもらった」




温かい指先が触れたところでワムウの指が千帆の手首を止めていた。



◆ ◆ ◆



DIOの館の前、C-2とC-3の丁度境目に当たるティベレ川の川岸で育朗は教会の崩落を目撃した。
本来の育朗ならすぐさま教会へと助けに向かっただろう。しかし彼は動けない。


(くそ、どうなっているんだ僕の体は……)


育朗の体は腕のみならず足や胴体、顔面に至るまで硬質化、いやウロコ状に変質していた。
崩落の前から感じていた、この距離でもはっきりとわかる邪悪なにおい。しかし近づけば近づくほどウロコは身体を浸食し、思考を奪ってゆく。
途中からバイクを降りて何とかここまで来たが、ついに一歩も動けなくなってしまったのだ。




「橋沢育朗……で合ってるよな。まあ合ってなきゃ困るんだが」


背後から近づかれていたことにも気付けなかった。慌てて飛び退くと四足をついた前傾姿勢で構えを取る。

バル…………バル…………

「ガ、ギャ!?」
「おいおい、別れてからそれ程経ってないってのにもう声変わりか? その牙と尻尾もイメチェンだとしたらダサイにも程があるぜ」

牙と尻尾?何を言っているんだコイツは。というか『誰だ?』
訳が分からない。とりあえず攻撃しておくか。


……バル………………バ…………

「そう来たか。悪いがマトモに取り合うつもりはない、さっさと終わらせるぞ」

言うなり男は懐から何かを取り出し投げる。二人の丁度中間に落ちた二つの手榴弾は激しく黒い煙を噴き上げ、視界が奪われる。
が、目くらましなど振り払ってしまえ。育朗は煙を払おうと 尻尾を大きく振り上げるが、異形の手がそれを受け止める。

「ギギャグガガガッ!!」

一声鳴き、鋭い爪で切り裂かんと自身の腕を伸ばす。体格の割に腕が短いのと指の本数が少し気になるが問題ない。
何度か打ち合うと相手の力量を見極める。どうやらパワーは大したこと無いようだ。このまま噛み砕いてしまえ。

…………………………バ…………………………

自分を睨み付けてくる無数の目に向かって限界まで開いた顎を勢いよく振り下ろすと――――

「!?」

急に異形の姿が消えた。


「――――直は素早いんだぜ」


全身から急激に力が抜け、干からびてゆく。育朗は成すすべもなくその場に崩れ落ちたのだった。



◆ ◆ ◆



「何のこっちゃない、煙の目くらましとスタンドをおとりにして匍匐前進で足元に近づいただけだ。バオーとやらに変身すると
 あんなのに引っ掛かるほど理性がぶっ飛ぶのか? あれじゃ獣以下じゃねえか」
「本当にすみません……」

二人は今、ダービーズカフェにいる。あの後すっかり干からびて軽くなった育朗恐竜をプロシュートがここまで移動させたのだ。
ちなみに育朗のバイクはそのまま置いてきた。

事前に向かう方面を聞いていたおかげで、実はかなり早い段階でプロシュートは育朗を探し当てていたのだ。だが移動手段がバイクの割にほとんど
進んでいなかったのが気にかかったプロシュートは念の為しばらく尾行していた。
そして案の定、と言うか勘が的中してしまった。どんどん姿が変わっていく育朗を見てバオーに変身したのだと勘違いした彼はどこかに敵がいるかと
警戒しつつ声を掛け……逆に襲われてしまったというのが事の全容である。

元に戻った育朗に恐竜の姿になっていたことを告げると、確かに本人にも心当たりがあった。
二人と出会う前に地下道で恐竜と遭遇し、倒したものの傷を付けられたそうだ。それならば説明がつく。

「つまりお前はその恐竜から、『自分の意志に反して恐竜化する』という現象をうつされた可能性が高いな」
「スタンドによる現象が感染するなんて事があるんですか?」
「あってもおかしくはない。が、お前が倒した恐竜に比べると変身も半端な上に知性が低すぎたのが気になる。
 心当たりがあるなら今のうちに全部吐け、また襲われてもかなわんからな」

そう言われても育朗には心当たりなど思いつかない。バオーの事ですら自分でもよくわかっていないのだ。
知っているのは自分の身に危険が起こるとバオーに変身する事と、異常な再生力や能力があるという事くらい。
ロボットやサイボーグにされた訳ではないらしいが、こんな事ならドレス研究所に出向いて何をされたのかだけでも調べておけばよかったと思った。



『虫と言えば貴様も頭に蟲を飼っているようだな』
『なるほど、その蟲が貴様の躰を作り替えているのか?』



―――――――?

ふいに覚えのないセリフがカーズの声で再生された。
いや、これは『バオー』としての記憶だ。バオーの力を引き出せるようになったせいだろうか、変身中の記憶の一部が蘇ったのだ。

「僕の頭に……虫?」
「何だいきなり」
「あ、いえ、実は……」

カーズが言っていた蟲の話をするとしばらく考え込むプロシュート。

「お前の脳内に寄生している虫がいて、そいつがバオーとやらに変身させている。それを前提とした仮説だが、まず寄生虫というのは
 宿主から養分をくすねるだけのものや文字通り食い尽くすもの、行動や精神に影響を与えるものといった様々なタイプがある。
 そして大抵の場合……特に宿主の体外での生存が難しい場合、宿主の生命に危険が迫ると守ろうと反応することがある。この性質を利用して
 アレルギーや病気にかかりにくくするためにあえて寄生虫を体に入れるヤツもいるくらいだ」

確かに力を制御できていなかった頃、バオーに変身したのは自分への殺意を感じた時。
生存本能からくる防御と言えなくもない。

「つまり今回寄生虫は、お前が恐竜化する端から細胞レベルでの回復を高速で行い、妨害していたんじゃないのか?
 恐竜化すると理性が失われるのは困りものだろうし、異常な回復力も含めて一応辻褄は合うと思うぞ」
「すごい……」 

これだけの情報ですぐに推理してしまった。
育朗からは感嘆しか出てこない。

「とはいえお前が今後また恐竜化する可能性もあるから油断はするなよ」
「はい。ありがとうございます!」
「……素直かよ」

戦力云々は置いといて、単純に千帆と同じような真面目で甘ちゃんの気がビンビンしていた育朗と行動するのは気が乗らなかった。
一対一なら不足を補い合えるだろうが、二対一だと毒され……染まってしまいそうで怖気がする。
この局面を切り抜けたらとっととオサラバ、つかず離れずが良いとこだなと内心ため息をつくプロシュートであった。顔には出さなかったけれど。


「ところでどうして僕を追いかけてきたんですか。双葉さんは?」
「あーそれについてだが……」



◆ ◆ ◆





結局左手の指の腹の皮が剥けてしまっただけではあるが、血は滲むし痛いものは痛い。
消毒して包帯を巻くと、満を持しての取材が始まった。ワムウが人間とは違う種族である事からここまでの経緯。
生粋の戦士とはいえその知力はやはり人間より高く、簡潔かつ明瞭に要点を絞って話すワムウのおかげでページ数は多いが内容は実にすっきりと
読みやすいものとなっていた。
その中で千帆が気になったのは『ジョースター』について。彼は東方仗助とも戦っていたが、ワムウが最も尊敬する戦士であるジョセフ・ジョースターと彼は
親子なのだそうだ。もしかしたらジョニィ・ジョースターも血縁で、彼らと合流しているかもしれない。
ジョニィも千帆にとってはもう一度話したい人間の一人だ。彼の強さと覚悟を、今度はちゃんと受け止めたい。

一方ワムウは千帆たちの情報にはほとんど関心を向けなかった。カーズの事を除いては。

(やはりカーズ様も居られたのか。しかも俺の前に橋沢と戦っていたとは……)

育朗が自分の前に現れたときひどく怯え、混乱していたのはカーズ様に手ひどくやられたあげくに友をその手に掛けさせられたからだという。
無論それは育朗視点での話であって、実際には違う部分もあるかもしれない。だが、あの方ならそれも有りうるだろう。
人間というものに対する見方が違うのだ。食糧であり、時に道具であり、弱いものはそれこそ路傍の石と同じ、すれ違いざまにうっかり食ってしまったとしても
気に留める必要をまるで感じない……そこまでは同じだ。だが『強い者』や『戦士』に対する考え方が違う。

ワムウは好敵手となりうる素晴らしい戦士には種族の壁を越え敬意を払い、友と呼ぶ。
カーズは戦闘そのものにはワムウ程の執着はない。どんなに強い戦士であろうとも、カーズにとってはただの邪魔者でしかないのだ。

忠誠を誓った主との間に相容れぬ価値観の溝が横たわっている。
戦士として文字通り燃え尽き、朽ち果てるまで戦ったあの充足感を味わった今、その溝はより深く広くなっている。
仮に再会したとして、これまでのように自分はあの方に仕える事が出来るのだろうか?

カーズとの関係についてはプロシュートとの交渉の時点から意図的に伏せていた。主に出会う事を避けるのは当初からの方針だったが、
そもそもそれ自体が主への背信ではないのか。ここまで深く考える事を避けてきた命題がワムウの前に立ちはだかる。



(自分はたとえ主に背いても、敵対してでも己を貫けるのだろうか?)




◆ ◆ ◆




「そういう訳でお前の望み通りワムウとの戦いのお膳立てをしてやった。時間になったら古代環状列石に向かうぞ」
「はい、わかりました」

育朗にとってワムウとの対決は願ってもいない事だった。ただ、彼らの交渉の結果双葉千帆を敵の手に残してしまった事には
やはり責任を感じざるを得ない。

「結局巻き込んでしまった形になってしまって……今頃双葉さんも怖い思いをしているでしょう。本当に」
「スミマセンはいらん。それよりお前からの依頼を俺は果たした。つまり、俺もお前に対して何か要求できる権利が生まれたってことになる」
「権利だなんて、そんな事言わなくても僕にできる事なら何でもしますよ」

育朗の気持ちは全て本心からの善意だ。

「俺と千帆は今日一日行動を共にしてきた。命がやベえと思う修羅場もあったが、どうにか切り抜けてきた。
 が、いつまでも無事でいられる保証がある訳じゃねえ。何の力もないアイツは尚更だ」

プロシュートの言わんとする事はわかっている。

「はい。もしあなたの身に何か起こったときは……ぼくが双葉さんを守ります」
「その先だ」

いつの間にか暮れゆく空には星が瞬き始めていた。
窓から夕焼けと夜空の境界線を見つめるプロシュートの厳しい横顔は覚悟を決めた男のそれで、育朗はつられて緊張してしまう。



「俺が死んだら千帆を守れ。千帆が死んだら、あいつの『小説』を守ってやってくれ」



◆ ◆ ◆



「俺はあの主催者の老人を許したわけではない。この俺の誇りある死を汚した罪は必ず償わせてやらねばならん」

そろそろ時間だと準備を始める頃、そう前置きしてワムウは取材の最後をこう締めくくった。

「JOJOとジョウスケ……血統というものの素晴らしさがそこにあった。ツェペリ共との戦いも胸躍る充実したものだった。
 橋沢育朗……奴もまたこの短時間で恐怖を乗り越え、再びこのワムウに挑まんとしている。
 強さのあり方こそ異なるが、貴様と言う戦士の雛にも出会えた」

(そう……それだけを切り取ったなら)



「今日は……佳き日なのかも…………しれんな」



崩落した天井の隙間から見える殆ど光の消えた空を、ワムウは眩しそうに見つめていた。

ワムウの千帆に対する態度は、おおよそ昨日までは有りえなかったものだ。
千帆がワムウの心を開かせた?
それは違う。

ワムウを変えたのはJOJOとの戦いであり、二人のツェペリとの戦いであり、育朗との戦いであり、仗助とJOJOとの戦いであった。
彼等との戦いがワムウを戦士としての高みに押し上げ、結果千帆を認めさせるに至ったのだ。



そんなワムウを見て、千帆もある思いを巡らせていた。

(ワムウさんは戦士として、闘いに生きる事を望んでいる。橋沢さんは悪の組織を倒すために戦うし、プロシュートさんは仲間の為にも任務を遂行する。
 だから脱出するために戦うって言ってた。私は……小説を書きたい。だから戦う)

(みんな、それぞれ信念や目的があって戦っている。強い思いがあるからこそ戦えるのかもしれない)

(だとしたら、主催者の人は何のために皆を戦わせるの?)

(目的、動機……それは善悪に関係なく人を突き動かす何よりのエネルギー。こんな事を始めるような人の気持ちなんてさっぱりわからない。でも、)

(逆に考えれば、それさえわかれば対抗策も立てられるし、皆で協力し合う事だってできるかもしれない)


「日は落ちた。行くぞ」
「はい」


(考えよう、きっとどこかにヒントはあるはずだもの)




【D-4とD-5の境目 地下/1日目 夕方】

【ワムウ】
[能力]:『風の流法』
[時間軸]:第二部、ジョセフが解毒薬を呑んだのを確認し風になる直前
[状態]:身体あちこちに波紋の傷(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:JOJOやすべての戦士達の誇りを取り戻すために、メガネの老人(スティーブン・スティール)を殺す。
0.橋本の成長を見せてもらおう
1.JOJOとの再戦を果たす
2.カーズ様には会いたくない。 会ってしまったら…
3.カーズ様に仇なす相手には容赦しない。
[備考]
※J・ガイルの名前以外、第2回の放送を殆ど聞いていません。


【双葉千帆】
[スタンド]:なし
[時間軸]:大神照彦を包丁で刺す直前
[状態]:左手指に軽傷(処置済)、強い決意
[装備]:万年筆、スミスアンドウエスンM19・357マグナム(6/6)、予備弾薬(18/24)
[道具]:基本支給品、露伴の手紙、ノート、地下地図、応急処置セット(少量使用)
[思考・状況]
基本行動方針:ノンフィクションではなく、小説を書く 。その為に参加者に取材をする
1.プロシュートと合流する
2.主催者の目的・動機を考察する
3.川尻しのぶに会い、早人の最期を伝える
4.次に琢馬兄さんに会えたらちゃんと話をする
[ノートの内容]
  • プロシュート、千帆について:小説の原案メモ(173話 無粋 の時点までに書いたもの)を簡単に書き直したもの+現時点までの経緯
  • 橋沢育朗について:原作~176話 激闘 までの経緯
  • ワムウについて:柱の男と言う種族についてと152話 新・戦闘潮流 までの経緯

※サン・ジョルジョ・マジョーレ教会の倒壊に伴いD-4東部の地下道が崩落しました。他にも崩落している箇所があるかもしれません





◆ ◆ ◆



人の気配を感じてカフェを出たところ、一人の少年が立っていた。
自分たちが出てくるのを待っていたのだろうか。その顔は幽鬼のように白く、確認のためか二人それぞれの顔をちらりと一瞥しただけでさっと目を伏せてしまった。



「…………どいつもこいつも」

挨拶の代わりに吐き捨てられた台詞からは無気力さに苛立ちが混ざったような、如何とも形容しがたいにおいがした。
真意を測りかねた育朗はただ少年を見つめ、プロシュートはスタンドを出す。


「参加者たちに宛てたカーズからの伝言だ。『第四放送時、会場の中央に来た者は首輪をはずしてやる』
 ……来ても来なくても自由だけど。じゃあ」

カーズ? 

「待ってくれ! 君は今カーズと言ったな!? ヤツは今どこにいるんだ!!」

育朗の必死の問いに少年は答えず走り去ってしまった。
追いかけようとする育朗の腕をプロシュートの腕が掴んで引き留める。

「落ち着け! これからワムウとやり合うって時に無駄に興奮してんじゃねえよ!」
「カーズは億泰君の……ダチの仇だ!」
「そりゃもう聞いた。いいか思い出せ、あのガキはカーズが『第四放送時、会場の中央』っつってたよな? つまり時間になりゃ勝手に向こうから
 現れてくれる。だがワムウはこの機会を逃せば見失うし、俺は千帆をワムウに預けてある。意味は分かるな?」
「……っ!!」

こんな時にヤツの情報を聞いてしまうなんて。
ワムウとカーズ、どちらも育朗にとって倒すべき敵であることに変わりはないが、カーズに対してはハッキリ言って復讐心の方が勝っている。
だが今はプロシュートの言う通りワムウとの戦いに全神経を注ぐべきだ。ぎりりと拳を握りしめ、何とか気持ちを落ち着かせる。

「ありがとうございました。……プロシュートさん!?」

急にプロシュートが胸のあたりを押さえてうずくまっていた。
一体どうしたのか、驚く育朗に向けて腕をどけると、皮膚の下で『それ』が浮き出てきた。

「気にするなと言う方が無理だが、俺に寄生しているこいつは今のところ何もしてはこない……が、どうだろうな」

プロシュートもまた千帆と別れてすぐ、自身の異変に気づいていたのだ。
シェルターに安置されていた干からびた果実……遺体の心臓は今、他の遺体に呼び掛けるかの如く彼の内で瑞々しく鼓動を続けている。

「どうやらこの会場には色んな仕掛けが溢れているようだぜ。お前がこれから戦うのはワムウだが、
 『俺たち』の最終的な敵はクソッタレの主催者だ。忘れるなよ」



(だからぼくに双葉さんとノートの事を……)



「よし、行くぞ」
「はい……待っていろワムウ!」




それぞれの懸念、葛藤、焦燥、思索。だが時間は誰の上にも平等に流れてゆく。



対決の時が、迫る。



【B-2 ダービーズ・カフェ/1日目 夕方】

【プロシュート】
[スタンド]:『グレイトフル・デッド』
[時間軸]:ネアポリス駅に張り込んでいた時
[状態]:健康、覚悟完了。
[装備]:ベレッタM92(13/15、予備弾薬 30/60)、手榴弾セット(閃光弾・催涙弾×2)、遺体の心臓
[道具]:基本支給品(水×3)、双眼鏡、応急処置セット、簡易治療器具
[思考・状況]
基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還
1.千帆と合流後、闘いに巻き込まれないよう離脱する
2.放送毎に橋沢育朗と合流、情報交換を行う
3.自分に寄生しているこいつは何なんだ?
4.残された暗殺チームの誇りを持ってターゲットは絶対に殺害する



【橋沢育朗】
[能力]:寄生虫『バオー』適正者
[時間軸]:JC2巻 六助じいさんの家を旅立った直後
[状態]:健康、恐竜化の兆候
[装備]:ワルサーP99(04/20)
[道具]:基本支給品×2、ゾンビ馬(消費:小)、打ち上げ花火、
    予備弾薬40発、ブラフォードの首輪、大型スレッジ・ハンマー、不明支給品1~2
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルを破壊
1:ワムウと決着を付ける
2:第四放送時にカーズが待っている…本当だろうか
3:放送毎にプロシュート・双葉千帆と合流、情報交換を行う

[備考]
育朗のバイクはC-3の川沿いに放置されています
ブラフォードに接触したため恐竜化に感染しました。ただし不完全な形です
※プロシュートによる仮説
恐竜化した身体をバオーが細胞レベルで上書きする事により完全な発症を抑えているのではないか?



【宮本輝之輔】
[能力]:『エニグマ』
[時間軸]:仗助に本にされる直前
[状態]:左耳たぶ欠損、心臓動脈に死の結婚指輪
[装備]:コルト・パイソン
[道具]:重ちーのウイスキー、壊れた首輪(SPW)
[思考・状況]
基本行動方針:???
0.???
1.カーズの指示に従う? カーズを出し抜く方法を考える?
2.体内にある『死の結婚指輪』をどうにかしたい

※この後どこに向かうかは次の書き手さんにお任せします。
※第二放送をしっかり聞いていません。覚えているのは152話『新・戦闘潮流』で見た知り合い(ワムウ、仗助、噴上ら)が呼ばれなかったことぐらいです。
※カーズから『第四放送時、会場の中央に来た者は首輪をはずしてやる』という伝言を受けました。
※死の結婚指輪を埋め込まれました。タイムリミットは2日目 黎明頃です。



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前話 登場キャラクター 次話
176:激闘 橋沢育朗 188:火蓋
163:星環は英雄の星座となるか? ワムウ 188:火蓋
174:されど聖なるものは罪と踊る プロシュート 188:火蓋
174:されど聖なるものは罪と踊る 双葉千帆 188:火蓋
175:窮鼠猫を噛めず 宮本輝之輔 187:接触

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最終更新:2016年01月18日 22:48