kairakunoza @ ウィキ

時差呆け

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匿名ユーザー

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「うわぁぁぁああああ寝坊したぁぁぁああああ!!!!!!」
築35年3DKの公団住宅に奇声が響き渡る。
両親はとっくに起きていたが、まだおれと同じ部屋で寝ていた妹のみさおは、この声で目を覚ます。

恥ずかしながら、この奇声の主はおれだ。
母親が迷惑そうな顔でおれを見る。
「一体朝から何なの?騒々しい。」
「まだ早いんじゃないのか?」
「せ、説明しているヒマは無いよ!!」
「……むにゃむにゃ、おあよ、あさからうるせーよなんだよアホ兄k…うわっ
すまん、急いでいるあまりにみさおをどついてしまった。帰ったらご機嫌取りに忙しいなぁ。
おれが勤めている会社は作業着なので、会社までは私服で出勤。それが救われた。
3分で支度を終えたおれはバッグ背負って家を飛び出す。
「いってきまーす!!」
「「「行ってらっしゃーい…」」」
家族はのんきなもんだ。てか、みさおも早く行かないと遅刻するぞ
「いや、まだ早えーから……って行っちまった」
「あの子があんなに慌てるのも珍しいねえ。最近はみさおの方が遅いのに」
「みゅ~部活引退する前は早起きだったんだぜ」


通勤用のタルタルーガ(自転車)に跨り、ペダル鬼漕ぎでわし宮団地を出る。
家から会社まではおれの自転車で1時間。今日はどうも間に合いそうにない。
車は免許を持っていないので運転出来ず、仕方がないので途中から電車で行くことにした。
駅前の交差点を右折して、駅前ロータリに入る。近場の有料駐輪場に自転車を止め、鷲宮駅の階段を登る。

そこで、おれはとんでもない勘違いをしていたことに、やっと気が付いた。
「あれ…??」
改札口を通り、電光掲示板を確認する。
そこに表示されている列車の時刻は、どれも7時台だ。会社の始業時間は9時。普通に間に合う。
だから父親は「まだ早いんじゃないのか」と訊いたのか。
「参ったなぁ。取り敢えず行くとするか」
よくよく考えたら陽の高さがいつもより低い。

おれはとぼとぼとホームへの階段を下りた。

東武電車はいつもおれが1時間半(信号待ち含む)かけて走っている区間を、わずか15分で走ってしまった。各駅停車とはいえ、やっぱり電車は速い。
下り列車なので車内は比較的空いている。

会社の最寄り駅に着いた。ここから会社までは歩いて10分。
つい最近新しい駅舎が出来たばかりの小さな駅。こう見えても地方私鉄と接続するターミナル駅であり、この街の中心でもある。
駅前にカフェなどといった洒落た店は無いので、おれは会社の前にあるコンビニで朝食を買い、会社へ向かう。
おれが勤めている会社は、埼玉県内にある某大手ブレーキメーカの子会社。従業員30人の町工場で、社屋は親会社の敷地内にある。
親会社の方は有名デザイナが設計したガラス張りの立派な建物だが、こちらは鉄骨2階建ての古い建物。
断熱材が無いので、この時期は達磨ストーブをフル稼働させても尚寒い。
おれはこの小さな会社で技術開発をしている。技術開発部はわずか5名。いつも親会社のメンバと共同で仕事をしている。
つまり、おれの仕事場は、実は親会社だったりする。

「おはようございまーす」
しーん。
案の定、うちの会社の社内には誰もいない。
タイムカードを切ってまずは更衣室へ向かい、作業服に着替える。
更衣室は人がいても暖房は無いので、一日中冷凍庫の様な寒さだ。
着替えを済ませて技術開発室に向かう。現在、おれの机は2箇所ある。
1箇所はここで、もう1箇所は親会社の方にある。普段は向こうで仕事をしているため、
こちらにはノートパソコンが1台置かれているだけだ。

暇だ。暇過ぎる。
一服したいとこだが、おれは生憎煙草は吸わない。
書類の整理も昨日帰る前にやっておいたのですることがない。
うーん、何をしよう。取り敢えず、席に着こう。


……………
…………
………
……

───かべ、日下部ー!!

ん?声がする。
「おい、日下部起きろ。予鈴鳴ったぞ」
うわっ、
同僚に起こされ、慌てて顔を上げる。今の時間は……8時57分。
どうも机に突っ伏したまま寝てしまったようだ。
眠たい目をこすりながら部署ごとにやっている朝礼に出て、朝イチの会議に出る。

いつもより早く来たせいか、なんだか調子が狂う。
でも、こういう日があっても悪くないと思った。明日からはこの時間に出勤しようかな?
何よりも、始業前の時間に余裕が持てるからね。


夕方。いつもよりも早いペースで仕事を終えたおれは、珍しく定時に退社した。
(現場の装置が吹っ飛ばなかったのがせめてもの救いだ)
慣れない上り列車を降りて、駐輪場に停めていた自転車を出す。
良かった、持って行かれなくて。
手に持っていた荷物を確認する。良かった、お土産は無事だ。
何となく買った家族で食べられるケーキ。東武ストアで買った安物だが、買いたくなってしまったので買ってしまった。


「ひゃーはっはっはっは、兄貴ホントドジだなぁ~、ひゃーはっはっはっは、
 あっはっはっはっは、げほっ、あっはっはっはっはっは」
むせるほど笑うな。おれだってドジ踏む事くらいはある。
おれのお土産のケーキを頬張りながら、みさおは大爆笑する。
さて、こいつの頭のネジは一体何処へ飛んでいったんだ?
「でも兄貴、1時間『後』じゃなくて良かったな。マジでアウトになるんだぜ」
「うー、そうだな。あまりこういうこと話すなよ。恥ずかしいから」
「えー、あやのと柊と柊妹とチビっ子とその従姉くらいなら話してもいーだろ?」
「さて、この前ぶっこわしてくれた自転車の件がまだ片づいていないんだが」
「うぅ………わ、わかったよ、黙ってるよぉ」


その翌日──────
「あっにきー!!起きろー!!」
折角の心地よい夢が、大音量のハスキー声でかき消される。
せっかくあやのといい雰囲気になれると思ったのに何てことしやがるんだ!!
「遅れるぞ~!!もう昼だけど」ニヤニヤ
昼?……ってまさか?
「!!!!!」
最後の一言で飛び起きる。時間は?今何時だ?まだ間に合うのか?
「『あれ?日下部さんは何処だ?』『あー遅刻か、あいつはクビだな』」
上司を創造して物真似をするみさお。リアルだったら最悪だ。
おれは2段ベッドの上から下へ飛び降り………
「う、うそ、ちょ、待て、うわっ!!」

がたーん
一瞬宙に浮いたかと思いきや、一気に視界がぐるりとまわり、おれの身体は四畳半の畳に叩きつけられる。
つまり、慌てて飛び降りようとしたらそのまま下に転落したという訳だ。
幸い床は畳なので怪我をせずに済んだのだが、正直、痛い。

みさおは間抜けな格好で畳の上でひっくり返るおれを見て、けらけらと笑っている。
お前、少しは兄貴を心配しろよ。ってそんな場合じゃない!!
「きゃはははははっ、やーい引っ掛かった引っ掛かった~♪」
「え?!」
「引っ掛かった引っ掛かった~♪今日は祝日なんだぜ」
「……あ、そうか」
部屋のカレンダを確認する。今日は確かに金曜日だが、「23」と書かれた数字は日曜日と同じ赤色だ。

全く、朝っぱらから(もう昼か)心臓が止まるかと思った。
いつもの事だけどな。
洗面台はお湯が出ないので、風呂場で顔を洗い、朝食を済ませる。


さて、今日は久しぶりにみさおと出掛けるか。
古着屋に行きたいと言っていたから、今日は柏まで行くとしよう。

あの、みさおさん、二番街の梅林堂だけはあやのと行きましょうね。
店の外で待ってるだけでも凄く恥ずかしかったぞ////
でもまぁ、ヨーカドーの裏で買って2人で食べた今川焼きが美味しかったので、これはこれで良しとしよう。













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コメント:
  • 梅林堂? -- 名無しさん (2010-03-15 02:17:44)
  • 梅林堂はやばいwww -- 名無しさん (2007-12-12 06:55:49)

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