- 16.お家に帰ろう!
「お、おはようございます!」
「?」
緊張して声をかけたゆたかちゃんの声が、辺りに響く。
それに、その女性……みなみちゃんが振り向く。
「……おはよう」
「あ、えっとえと」
透明な表情と視線が交わり、さらにゆたかちゃんが緊張する。
人のポイント使ったんだからミスなんかしたら許さないわよ……天使を。
「うぅ……かがみがぶったぁ」
「次やったら、あんたの体から飛び出てるところ全部……削ぎ落とす」
「丸っ!? 丸にする気ですかっ!?」
まぁ今回はゆたかちゃんに免じて許してあげるわ(散々殴ったけど)。
今は若い二人の仲でも見守りましょうかね。
「わ、私っ。幽霊なんです!」
おお、それはまた思い切ったわねゆたかちゃん。
ちなみに私の第一声は「僕ふじ吉」……駄目だよな、そりゃ。
「……」
だけど、向こうのほうの反応はイマイチ。
いきなり現れた小学生(本当は同い年だけど)が言う妄言なんか、聞き流すわよね普通は。
「そっ、それで、あ、貴方にとり憑いちゃったんですっ」
「?」
そこで首を傾げる。
まぁ、その辺はもう勢いよね。
「つまりえっと……よろしくお願いしますっ!」
「……よろ、しく」
その勢いに負け、ゆたかちゃんが差し出した手にわけも分からず手を伸ばす。
握手のつもりらしいが……もちろん、無理なわけで。
「あ……」
伸ばした手が目標を失い、空気を掴む。
それと彼女の言葉を反芻しているのか、黙り込む。
……思ったより驚いてないな。
というかあんまり感情の起伏が多くない。
まさに透明少女、こりゃ美人になるわ。
「本当に幽霊……なんだ」
確認するようにもう一度ゆたかちゃんの体に手を伸ばす。
その手ももちろん、空を切る。
「あんまり、驚いてないですね」
「……ううん。凄く、驚いた」
眉一つ動かさないでよく言うわ。
まぁ驚いて騒がれるよりはマシよね。
「とり憑いた……って?」
「は、はいっ。すいません、勝手に……」
初対面で緊張してるのか、なかなか見事に腰が低い。
一応同い年なんじゃなかったっけ?
「でも私、貴方に憑いてないと……消えちゃうらしくて」
「消える?」
「なんかえっと……ジョーブツ、する? みたいです」
意味がよく分かってないのか曖昧に単語を並べるゆたかちゃん。
いやいやいや、結構重要だよそれ。仏に成ってるから。
「……そう」
でも向こうの表情に少し、緊張感が混じる。
向こうには伝わったらしいから、まぁいいか。
「じゃあ貴方の所為じゃない」
「えっ?」
「だから、謝らなくてもいい」
必死に謝るゆたかちゃんを、なだめるように諭す。
な、なんと男前な……。
私の時なんか「いい迷惑!」と罵倒されたのに……月ツポ! 尿サファ!
「まぁ、ファーストコンタクトは上手くいったんじゃない?」
「ですね、なによりです」
天使も安心して笑顔をこぼす。
まぁ私のを見た後だとどれも良く見えるか。
今はなんか必死にその他もろもろを説明してる。それも健気で可愛らしいし……なんかずるいな!
「あんたはどうするの? 私にばっかり付き添ってるわけにもいかないじゃない」
ゆたかちゃんがポイント使いたい時はどうするのよ。
まぁ……何もしないでも溜まる気がするが。
「ゆたかちゃんの傍に居てあげたら? 敬ってくれるわよ」
「いいえ」
皮肉気味に言ってやる……が、断られる。
あら、喜ぶかと思ったのに。
「私は……貴方の傍にいますよ」
私にも、笑顔を向ける。
なっ、何よそれ。同情でもしてるわけ?
ふんっ、勝手にすれば!
「待ってて、すぐ戻るから」
「えっ……あっ、はい」
そうドタバタしてる間にも、話が続く。
どうやらゆたかちゃんを置いて、一人家に戻ったらしい。
「何、どうしたって?」
「もうすぐ学校だから、準備してくるそうです」
そっか、もうそんな時間か……。
そろそろこなたも起こしておげなきゃ、最近は朝も起きてくれるようになったし。
「えっ、天使様行っちゃうんですか!?」
「はい、この人についててあげないといけないんです……私がついてないと駄目な人なんで」
誰がよ!
……っとと、ゆたかちゃんの前だった。
危うく削ぎ落とすところだったわ。
「いつでも見守っていますから、大丈夫ですよ」
「は、はい……」
まだ少し不安そうにしているゆたかちゃん。
そうよね、まだ右も左も分かんないようなもの。
さっきの女の子だってまだ上手く打ち解けてないみたいだし。
「やっぱり付いててあげたら? 私は一人でも平気よ」
「でも、かがみ……」
心配そうに私を見る。
また、私が一人で落ち込むんじゃないかと思ってるわけ?
まぁそりゃ……あんたが騒いでる時ぐらいは、自分の状況を忘れられた。
それがあんたなりのやり方かは知らないけど……感謝はしてるつもり。
怒って、怒鳴って……自分のこの境遇を悲しむ暇なんてなかったもの。
でも今は大丈夫よ……こなただって居るし。
それにゆたかちゃんだって一緒よ。
心細いのは、私がよく分かってる。
「そうですか、分かりました」
渋々納得したのか、ようやく折れる。
「じゃあ私は家に戻るわ、あいつ起こしてやらないと」
最近はバイオリズムもようやく戻ってきたのよね、つってもここ三日ぐらいだけど。
ああ、でも昨日は遅くまでゲームしてたから起きないかもなぁ。
まぁ少しくらいなら寝かせてやっても……。
「あ、か、かがみっ」
「? 何よ」
踵を返したところで呼び止められる。
「……どうか、気をつけて」
「? ええ、うん」
心配そうに見る天使に、軽く返事をしてやる。
この天使の不審の理由は、すぐに分かることになる。
今頃になって、今朝の電話の音が妙に耳に響いてきた気がする。
「?」
緊張して声をかけたゆたかちゃんの声が、辺りに響く。
それに、その女性……みなみちゃんが振り向く。
「……おはよう」
「あ、えっとえと」
透明な表情と視線が交わり、さらにゆたかちゃんが緊張する。
人のポイント使ったんだからミスなんかしたら許さないわよ……天使を。
「うぅ……かがみがぶったぁ」
「次やったら、あんたの体から飛び出てるところ全部……削ぎ落とす」
「丸っ!? 丸にする気ですかっ!?」
まぁ今回はゆたかちゃんに免じて許してあげるわ(散々殴ったけど)。
今は若い二人の仲でも見守りましょうかね。
「わ、私っ。幽霊なんです!」
おお、それはまた思い切ったわねゆたかちゃん。
ちなみに私の第一声は「僕ふじ吉」……駄目だよな、そりゃ。
「……」
だけど、向こうのほうの反応はイマイチ。
いきなり現れた小学生(本当は同い年だけど)が言う妄言なんか、聞き流すわよね普通は。
「そっ、それで、あ、貴方にとり憑いちゃったんですっ」
「?」
そこで首を傾げる。
まぁ、その辺はもう勢いよね。
「つまりえっと……よろしくお願いしますっ!」
「……よろ、しく」
その勢いに負け、ゆたかちゃんが差し出した手にわけも分からず手を伸ばす。
握手のつもりらしいが……もちろん、無理なわけで。
「あ……」
伸ばした手が目標を失い、空気を掴む。
それと彼女の言葉を反芻しているのか、黙り込む。
……思ったより驚いてないな。
というかあんまり感情の起伏が多くない。
まさに透明少女、こりゃ美人になるわ。
「本当に幽霊……なんだ」
確認するようにもう一度ゆたかちゃんの体に手を伸ばす。
その手ももちろん、空を切る。
「あんまり、驚いてないですね」
「……ううん。凄く、驚いた」
眉一つ動かさないでよく言うわ。
まぁ驚いて騒がれるよりはマシよね。
「とり憑いた……って?」
「は、はいっ。すいません、勝手に……」
初対面で緊張してるのか、なかなか見事に腰が低い。
一応同い年なんじゃなかったっけ?
「でも私、貴方に憑いてないと……消えちゃうらしくて」
「消える?」
「なんかえっと……ジョーブツ、する? みたいです」
意味がよく分かってないのか曖昧に単語を並べるゆたかちゃん。
いやいやいや、結構重要だよそれ。仏に成ってるから。
「……そう」
でも向こうの表情に少し、緊張感が混じる。
向こうには伝わったらしいから、まぁいいか。
「じゃあ貴方の所為じゃない」
「えっ?」
「だから、謝らなくてもいい」
必死に謝るゆたかちゃんを、なだめるように諭す。
な、なんと男前な……。
私の時なんか「いい迷惑!」と罵倒されたのに……月ツポ! 尿サファ!
「まぁ、ファーストコンタクトは上手くいったんじゃない?」
「ですね、なによりです」
天使も安心して笑顔をこぼす。
まぁ私のを見た後だとどれも良く見えるか。
今はなんか必死にその他もろもろを説明してる。それも健気で可愛らしいし……なんかずるいな!
「あんたはどうするの? 私にばっかり付き添ってるわけにもいかないじゃない」
ゆたかちゃんがポイント使いたい時はどうするのよ。
まぁ……何もしないでも溜まる気がするが。
「ゆたかちゃんの傍に居てあげたら? 敬ってくれるわよ」
「いいえ」
皮肉気味に言ってやる……が、断られる。
あら、喜ぶかと思ったのに。
「私は……貴方の傍にいますよ」
私にも、笑顔を向ける。
なっ、何よそれ。同情でもしてるわけ?
ふんっ、勝手にすれば!
「待ってて、すぐ戻るから」
「えっ……あっ、はい」
そうドタバタしてる間にも、話が続く。
どうやらゆたかちゃんを置いて、一人家に戻ったらしい。
「何、どうしたって?」
「もうすぐ学校だから、準備してくるそうです」
そっか、もうそんな時間か……。
そろそろこなたも起こしておげなきゃ、最近は朝も起きてくれるようになったし。
「えっ、天使様行っちゃうんですか!?」
「はい、この人についててあげないといけないんです……私がついてないと駄目な人なんで」
誰がよ!
……っとと、ゆたかちゃんの前だった。
危うく削ぎ落とすところだったわ。
「いつでも見守っていますから、大丈夫ですよ」
「は、はい……」
まだ少し不安そうにしているゆたかちゃん。
そうよね、まだ右も左も分かんないようなもの。
さっきの女の子だってまだ上手く打ち解けてないみたいだし。
「やっぱり付いててあげたら? 私は一人でも平気よ」
「でも、かがみ……」
心配そうに私を見る。
また、私が一人で落ち込むんじゃないかと思ってるわけ?
まぁそりゃ……あんたが騒いでる時ぐらいは、自分の状況を忘れられた。
それがあんたなりのやり方かは知らないけど……感謝はしてるつもり。
怒って、怒鳴って……自分のこの境遇を悲しむ暇なんてなかったもの。
でも今は大丈夫よ……こなただって居るし。
それにゆたかちゃんだって一緒よ。
心細いのは、私がよく分かってる。
「そうですか、分かりました」
渋々納得したのか、ようやく折れる。
「じゃあ私は家に戻るわ、あいつ起こしてやらないと」
最近はバイオリズムもようやく戻ってきたのよね、つってもここ三日ぐらいだけど。
ああ、でも昨日は遅くまでゲームしてたから起きないかもなぁ。
まぁ少しくらいなら寝かせてやっても……。
「あ、か、かがみっ」
「? 何よ」
踵を返したところで呼び止められる。
「……どうか、気をつけて」
「? ええ、うん」
心配そうに見る天使に、軽く返事をしてやる。
この天使の不審の理由は、すぐに分かることになる。
今頃になって、今朝の電話の音が妙に耳に響いてきた気がする。