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彼女は遷移状態で恋をする-みゆきside-(1)

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  • 彼女は遷移状態で恋をする みゆきSide(1)


 天才。
 そう呼ばれたのは何時くらいからですって?
 ふふっ、そんなの覚えていませんよ。
 だって貴方も覚えてないでしょう? 初めて喋った時のことなんて。
 母は優しい人でした。
 愉快な人でした。
 よく笑う人でした。
 私が一つ字を読めばそれはもう、踊りながら喜んでくれました。
 問題を一つ解きました。
 テストで100点をとりました。
 クラスで一番になりました。
 その度に見せてくれる母の笑顔が、堪らなく好きでした。
 そうやってそれを繰り返していけば、ほら。
 後は勝手に周りが呼んでくれるんです、簡単でしょう?
 その所為もあってか、知識を広げることも一つの趣味になりました。
 あれを知った。じゃあ、次はあれを。
 これも知った。じゃあ、次はこれを。
 じゃあ、次はどれを?
 ……いつからでしょう、そうやって知識に固執して、人との付き合いを疎かにしてきたのは。
 人付き合いなんて、簡単なものです。
 人付き合いなんて、単純なものです。
 なぜなら、そういう知識があるからです。
 笑顔を見せる。
 笑顔を返される。
 挨拶をする。
 挨拶を返される。
 そうするだけで手広く、薄い関係を築く事が出来ます。
 だってほら、大体皆さん同じ反応をされますから。
 ほら、いいですか?
「こんにちわ」
 はいこんにちわ。
 挨拶をされれば返しましょう。
 それも笑顔で。
 ほら、返ってくるのは笑顔。
 誰にでも良い顔をしましょう。
 それならほら、誰もが良い顔を返してくれますよ。
 私の言う人付き合いなんて、そんなものです。
 それだけで、特に深く関わる必要なんてありませんよ。
 そんな事をするよりももっと、知識を蓄えたいんです。
 一つ覚えればまた、母が褒めてくれますから。
 100点をとればまた、母が笑ってくれますから。
「高良君ってさ」
 そんな中でした。
 ピョコンと飛び出たアホ毛を振りかざして、私の前に現れました。
 青いロングの髪を棚引かした、一人の少女が。
 ふふっ、なんでしょうか。
 いくら話しかけても結構ですよ?
 笑顔で返してみましょう。
「メガネっ子で、委員長だなんて……萌えキャラだよね!」
「……」
 こんにちわ。はいこんにちわ。
 こんばんわ。はいこんばんわ。
 それぞれ対応した言葉がありますね。
 では突込み所満載のこの言葉に、私はなんて返せばいいんでしょうか。
 ここで面食らう、という言葉を始めて体験したわけです。
「一般人にそんな言葉が分かるか!」
「んぎゃ!」
 次の瞬間、そのアホ毛が揺れました。
 もう一人現れました。
 これまた、何の変哲もない男子生徒。ちょっと人相が悪いですね。
「いきなり悪いな、こいつは病気なんだ」
「うわっ酷っ! かがみは分かってないなー」
 そこで私の前でもめ始めます。
 そのまま男性が泉さんの首根っこを掴んで連れて行ったわけですが……。
 これが所謂、私たちの出会いだったわけです。


 その日の昼食、学食での出来事でした。
 母はお弁当を作らないので、いつもは自分で作ります。
 それがうっかり、家に忘れてきてしまったわけで。
 恐らく母の昼食になってるでしょう……そういう人ですから。
「おーい、高良君。こっちこっち」
 その時、一度聞いたような言葉が右から左に。
「ここ開いてるよ、座んなよっ」
「ええどうも、ありがとうございます」
 学食はいつも人気ですから、そうそう開いてる席なんてありません。
 もちろんいまいち要領の悪い自分には嬉しいお誘いです。
 要領については文献には載ってないんですよね、これが。
 まぁでも助かりました。
 これも八方美人の効果でしょうか?
「泉さん」
「うん、何ー?」
 人気のB定職を食べながら、泉さんが顔を上げます。
 隣りの席だったので意外と顔が近かったのは、後になっても覚えてるものですね。
「萌えって、何ですか?」
「ぉぉう! い、いきなり凄いこと聞いてくるねっ!」
 いえいえ、貴方ほどではありませんよ。
 メガネっ子。これは分かりました、メガネかけてますからね。
 委員長。うん、これも分かります。
 でも……萌えキャラ?
 ここにまた一つ、知識の一つが転がってるわけで。
 もちろんそれを逃す手はありませんよね?
 キャラ、これは恐らくキャラクターの略称でしょう。
 そしたらやっぱり、問題になるのはその接頭語。
「うーん、何ていうのかな。高良君は萌え要素で溢れてるわけだよ!」
「萌え要素って何ですか?」
 要素、は分かります。
 でもそこにまた、気になる接頭語が。
「ふむ、そこは……謎だね」
 ビシッと指を私に突きつける泉さん。
「萌えっていうのはね……人類が未だ解決出来ていない謎の一つなんだよ!」
「そ、そうなんですか?」
 思わずメガネの奥も光ります。
 そんな謎が、私にあるそうです。
 つまり、また一つ私には解くべき問題が増えたわけですね。
「大丈夫大丈夫、私がしっかり教えてあげるよ! これからは萌え師匠と呼ぶように!」
 人類が解けない謎なのに、泉さんは知ってるらしいです。
 それはご教授願わないといけませんね。
 あぁ、それと後で本当にクラスで呼んでみましたが、真っ赤になって訂正されました。
 どうやら冗談だったようです。いやはや、そういうのはなかなか分からなくてすいません。
 その日からでしょうか、彼女と少し打ち解けだしたのは。


「みゆき君はさ」
 いつしか名前で呼んでくれるようになった泉さんのアホ毛が、今日も一段とはねています。
 そして笑顔で、よく分からないことを言ってきます。
「こうメガネをクイッと上げる動作を見につけるべきだよ!」
「こ、こうですか?」
 利き手の中指でメガネのレンズとレンズの間を持ち上げ、位置を直します。
 ……というかずれないように調整は一応してるんですが。
「むむっ、それはいけないね。常に緩めて、ずれるように整備しておくこと!」
「は、はいっ」
 ずれるのに整備とはよく分かりませんが……これも萌えを知るための一つなんでしょうか。
「あはは、こなちゃんまた難しいこと言ってる~」
 その隣りでつかさ君……私のクラスメイトが笑います。
 彼は泉さんと元から親しいらしく、最近は三人で話すことも多くなりました。
「ちなみにつかさは、五回に三回は何もないところで転ぶんだよ! あと携帯はつねにマナーにしないこと!」
「へ、ぇええ?」
 向こうにも無茶な要求をして、また話に花が咲きます。
 もちろん彼女……泉さんにも、笑顔という花が咲きます。
 いつからでしょうか。
 私は……その笑顔に見惚れるようになってきました。
 母に笑って欲しい。
 その感覚が徐々に、彼女に笑って欲しいという気持ちに変わっていくのは……そんなに遅くはありませんでした。
 原因? そんなのは分かりません。
 だって泉さんが言いましたから。
 人類が未だ解けていない謎の一つだって。
 でも私にも少し、分かりましたよ。
 私はきっと……彼女に萌えてるんでしょう。
 ふふっ、可笑しいですね。
 不思議とその気持ちを伝えようとは、思いませんでした。
 その笑顔が凍りつくのを、見たくはありませんでしたから。
 ですから、私はまたいつものように笑顔を見せるわけです。
 八方美人で凝り固まった、作り笑顔ですけど。


「みゆきくーん、一緒にご飯食べようよ」
「ええ、かまいませんよ」
 それはある、昼食の時でした。
 彼女は購買で買ってきたチョココロネを持って、私を誘いにきました。
 もちろん、初めての出来事です。
 彼女はよく他の女子とも食べたりするのを見かけていたので、嬉しかったのは覚えています。
 そして誘われた先にいたのは、もちろんつかさ君。
 個人的……超個人的な意見を言わせて貰えれば、彼も私と同じ気持ちなのかもしれません。
 まぁ、勘ですね。
 理論的な私にしては、珍しくですが。
 ですが……もう一人。
「? 誰だ、こいつ」
 人相の悪い男性が目に入りました。
 つかさ君の隣りに座って、踏ん反り返って座っています。
 最初は一瞬誰かと思いましたが、すぐに思い出しました。
 あの乱暴な男性ですね、泉さんを殴っていた。
 ……。
 はて、何でしょう。
 このモヤモヤと感じる違和感は。
「みゆき君、クラスの委員長なんだっ」
「……ふぅん」
 彼の目が私を見ます。
 睨む、というよりは観察すると言ったような目で私を見ます。
「それでねみゆき君。こっちがかがみっ、つかさのお兄さんだよ」
 お兄さん?
 へぇ、そういえば言っていましたか。双子のお兄さんが居るとか居ないとか。
 ……確かに顔は似てるかもしれませんが、雰囲気はちょっと違いますね。
 これもまた泉さんの言う、萌え要素とかってヤツなんでしょうか?
「違うクラスでね、これがまた凄いツンデレなんだよ~」
「誰がだ!」
 ニヤニヤと笑いながら、その彼をからかう泉さん。
 ……なんでしょう、またなんだかモヤモヤです。
 これに該当する感情が見つからないため、悩んでしまいます。
 ああ、でもツンデレは該当しました。
 泉さんがいつか教えてくれましたっけ?
 ええと、ツンツンでデレデレ? 抽象的すぎます!!
「ぶぅ、かがみはもっと女の子に優しくするべきだと思うなぁ」
「誰が女だ? 何処に居る? 俺の目の前に連れてきて欲しいもんだ」
「……」
 その時でした。
 笑って居た泉さんの笑顔に少し、影が入りました。
 それはごく僅かで、微かでしたけど……確かに私には見えました。
 だって私が好きな笑顔はもっと、輝いていましたから。
「も、もうっ。酷いなぁーそんなんじゃ彼女出来ないよ? 相変わらず女子からは怖がられてるのにー」
「うっせーよ!」
 いつものように見える笑顔も、何処か私には無理してるように見えます。
 その理由は多分……この、彼なんでしょう。
 ああ、またです。
 モヤモヤ、モヤモヤ。
 心が絞られるような、不思議な靄が私を襲います。
「……お前、喋らないのな」
「?」
 悩んでいる間に、彼の声が私に飛びました。
 顔を上げると、そのツリ目と交わります。
 泉さんは横で笑ってますが……何処か、元気がありません。
 モヤモヤ、モヤモヤ。
 うう、ゲシュタルト崩壊してきました。
「つまんねーやつ」
 と、手にしていたお弁当から箸でおかずをとりあげます。
 その言葉を聞いたからでしょうか?
 ええ、多分そうですね。
 それをきっかけに、溜まっていたモヤモヤを……発散させてしまいました。
「あいにく」
「?」
 私の言葉に、彼が顔を上げます。
 そして、言ってしまったわけです。
 顔に張り付いた、満面の作り笑顔で。
「言語を介さない猿と喋るほど、私の脳は安く出来ておりません」
 ……。
 それを言い終わった後は、何て言うんでしょうか。
 辺りが静まりました。
 こなたさんの口からチョココロネが落ち、つかささんの口からオカズが飛び跳ねました。
「み、みゆき君?」
「ゆ、ゆきっ?」
「はい、なんでしょう?」
 驚く二人にももちろん笑顔を返します。
 だって、そうすれば笑顔が返ってきますから。
「だ、誰が……猿だって?」
 向かいの男性が睨んできます。
 それにももう一度笑顔を返しましょう。
 でもそこからは、笑顔は返ってきませんが……まぁ要らないですね別に。
「おや、鏡を持ってきましょうか? いけませんね、鏡を見ないと自分の顔も分からなくなったらおしまいです。名前もかがみの癖に」
「ん、んだと!?」
 彼が身を乗り出します。
 何でしょう、モヤモヤが晴れていきます。
 これは所謂、皮肉というヤツでしょうか?
 こうやって口に出すのは初めてですが、スッキリするものですね。
 しかし何処かの文献にも書いてありました。
 皮肉とは相手を不快にさせるもの、だと。
 いやはや、それはいけませんね。
 八方美人が私の特技ですから。
 ではこうしましょう。
 このモヤモヤが出てきた時だけ、私は皮肉を言いましょう。
 それならいいでしょう? おあいこですから。
 だってそのモヤモヤはきっと、私の不快。
 やきもちや……嫉妬。
 ふふっ、おかしいですね。
 私にもそういう感情があったみたいです。
 いえきっと、泉さんが植えつけてくれたんでしょう。
 ……その日から、でしょうか?
 その、初めて皮肉を言ったその日から。
 私の八方美人な笑顔のメッキが……少しずつ、禿ていったんです。

















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  • このみゆきさん、なんか自分とかぶって見えてくる。知識欲旺盛なとことか、人付き合いを疎かにするところとか。
    続きはないのでしょうか? -- 名無しさん (2009-01-04 17:59:31)
  • 子安かぁ……ブハッ!!!い、意外と合うな……www

    このみゆき、リアルの俺に似てるなあ…… -- 名無しさん (2008-12-14 20:25:34)
  • 脳内声優は子安で再生してますww -- 名無しさん (2008-11-04 15:44:57)
  • だがそれがいいwwwww -- 名無しさん (2008-08-17 03:23:14)
  • みゆきうぜぇwwwwww -- 名無しさん (2008-07-01 16:41:31)

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