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聖夜の過ごし方

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匿名ユーザー

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それは、ある日の休み時間、私がこなちゃんと二人で談笑していた時のことだった。
「そういやこの前、かがみが『つかさと教会で讃美歌を歌ったことがある』って言ってたけど、
 何かキッカケとかあったの?」
「うん。えっとね、私が中学の時だっけ? 私がね、お姉ちゃんに行こうって誘ったの。
 私の中学の時のお友達がね────

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.     らき☆すた Another Story
.       ~聖夜の過ごし方~
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それは、私が中学2年の時のことだった。
「つかさちゃん、帰ろ!」
「うん、ちょっと待っててね。みずちゃん」
私はやっと教科書とノートをバッグに入れ終えて教室を出る。
鈍くさいのは今も変わらないけど、いつもこの調子だった。

みずちゃんとは、私の中学時代のお友達。本名は野田みずき。
中2の夏に千葉県から来た転校生。
帰り道が同じ方面なので、私がお姉ちゃんと一緒じゃない時は、みずちゃんと一緒に帰ることが多い。

「────で、それが臭くってさっ」
「ねぇ、あれはちょっと臭いよね」
他愛もない話をしながら住宅街を抜けると、駅前の大通りに入る。
大通りと言っても小さな田舎町なので、ただ道路の幅が広いだけの道だ。
今の時期、駅前の商店街はそれなりにクリスマスムードで溢れている。
どのお店もクリスマスツリーや「クリスマスセール」と書かれたPOPがあって、
街灯の柱には手作りのイルミネーションが色んな色で輝いている。

そんな景色を見て「もうすぐクリスマスなんだぁ」と感じた所で、私はみずちゃんのことが気になった。


「そういやさ」
みずちゃんの方から話題をふってきた。
「つかさちゃんの所ってクリスマスとかってやるの?」
「うん、やるよ~。夜ご飯がちょっとだけ豪華になるだけだけど」
「へぇ~。でも、大丈夫なの?」

私の家は大きな神社で、お父さんはそこの神主を務めている。
だから、柊家ではクリスマスはさっぱり縁が無い。
お父さんは立場上、クリスマスがどんなものかは知っていても、お祝いする訳にはいかない。
けれども、「子ども達のために」ということで
我が家はサンタクロースが毎年何かしらプレゼントをくれる。
そのサンタさんがお父さんだって事にはとっくに気付いているけど、
それでも毎年のクリスマスプレゼントは私の楽しみのひとつだ。
高校生のまつりお姉ちゃんと、大学生のいのりお姉ちゃんは恥ずかしがっているけどね。
「神主さんがサンタクロースか。一度見てみたい気もするなぁ」
「えへへ、あんまり聞かないよね」

「ところで、みずちゃんのお家ってどんな風にクリスマスを過ごすの?
 多分、私が聞いたことのあるクリスマスとは違うと思うんだけど」
「うちも『普通に』過ごしてるよ。
 本来のクリスマスはサンタクロースがプレゼントを配るなんて事は無いけど、
 ウチには毎年サンタクロースが来ているみたいだね」
「そうなんだ~。意外だね」
「そんなこと無いよ」
「あるよ」
「無い」
「ある!」
「無い!」
「ある!!」
「無い!!」

お互いに目を合わせて言い合いになる私たち。
しばしの間の後、人通りもまばらな商店街でお互いに大笑い。
お陰で後で恥ずかしい思いをしちゃった。


言い忘れたけど、みずちゃんのお家はクリスチャンホーム。
日本の場合、クリスチャンどころか宗教に無関心な人が多いので、
私やみずちゃんのような家庭で育った子は、特に公立の学校ではある意味目立つ存在となる。
私がみずちゃんと話せるようになったのも、宗教は違えど互いに神さまを信じているからだと思う。
私の場合、信じる云々の前に『そういうものだ』と教えられてきたから「何となく信じてる」って感じだけどね。
お姉ちゃん達は全然信じてないし。

クリスマスの話題に入った所で、前々からみずちゃんにお願いしたいことがあった。
変な風に思われちゃうかも知れないけれど、勇気を出して言ってみる。
「ねぇみずちゃん」
「なに?」
「私でも、その、行っても、いいのかな?」
「?」
「その、教会に」
「へ?」

私がこんなこと言うとは思っていなかったのだろう。きょとんとするみずちゃん。
「あの、みずちゃんと会ってね、ずっとずっと気になってたの。
 教会ってどんなトコなのかなって……」
えっと、えっと、次の言葉を探しているんだけど、中々見つからない。
「あ、べ、別にいいんだ。みずちゃんに迷惑かかっちゃうかも分からないし…」
言葉が見つからず、私が誤魔化そうとすると、みずちゃんはニコっと笑顔で答えてくれた。

「別にいいと思うよ。私もこの前、つかさちゃんトコの神社でおみくじ買ったし。
 そうだ、もうすぐクリスマスだから、子ども会のクリスマス会に行ってみない?
 ただ劇やって歌うたってお菓子食べるだけなんだけど…」
「何時?」
「23日……えっと、こんどの火曜日。どうかな?」
「ごめん、その日は神社の行事のお手伝いが………」
「そっか。それなら24日は? 夕方からキャンドルサービスやるけど」
「きゃんどるさーびす?」
「クリスマス・イヴの礼拝って言った方がいいかな? 夜7時からやるんだけど」
「24日なら大丈夫だよ」
「それじゃ、24日ってことで。6時に私の家に集合でいいかな? 一緒に行こう!」
「うん!!」

という訳で、私は12月24日に生まれて初めて教会に行くことになった。
どんなところなんだろう? ワクワクするな。


そして十二月二十四日────。
みずちゃんの家に行って、呼び鈴を鳴らす。
待つこと数秒、みずちゃんが出てきた。
「こんばんは~」
「こんばんは。あ、かがみちゃも一緒なんだ」
「よ…よろしく」
照れているお姉ちゃん。意外と恥ずかしがり屋さんなのがお姉ちゃんなのだ。

そう、折角の機会なので、私がお願いして一緒に行くことにしてもらったのだ。
最初は『ダメ』って言ってたけど、本当はお姉ちゃんも興味があったみたい。
実は、お父さんとお母さんに今日の事でOKを貰うためでもあったんだけど(お姉ちゃん、ごめんね)、
意外なことにお父さんもお母さんもあっさりOKしてくれた。
お父さんはちょっと複雑な顔してたけど。

三人揃ったことで歩いて教会へ向かう。
みずちゃんのお父さんとお母さんは後から行くそうだ。
歩くこと十数分、住宅街の外れにある、十字架の付いた小さな建物に到着した。

「へぇ、こんな所にあったなんて知らなかったわ」
「うん、ドラマや漫画で見たイメージとは全然違うね」
「私はつかさちゃんの家の神社が予想以上に大きくて驚いたけどね」
その小さな建物が、みずちゃんが毎週通っている教会だった。
建物は白壁の木造建築で、柱の部分を茶色いニスで塗っている。
まるでこの前映画で観た、スイスの田舎の教会の様な雰囲気。建物はそれほど古くはないようだ。
敷地はとても狭く、表側にはお庭の様なスペースは一切無い。
いきなり観音開きのガラス戸があるだけだ。

「ささ、どうぞ」
自分の家の様に、中に入る様促すみずちゃん。
全く未経験の空間に足を踏み入れるのは、とても緊張する。
新学期の教室に入る時よりも、ずっと、ずっと緊張する。
入口に入ると受付と聖書や讃美歌やらがずらっと並んだ棚、
おそらくこの教会に通っている人のであろう、名前が書かれた棚がズラっと並んでいる。
見るもの全てが初めて。思わずキョロキョロしてしまう。
そんな私の後から、声が掛かってきた。
「こんばんは、クリスマスおめでとう」
「ひゃっ!!」
ビックリした。
声がしたのは、真後ろの受付カウンタで笑顔で迎えてくれた教会の方。
「つかさちゃん、緊張し過ぎだよ」
「だ…だって、初めてだから……」
全身がガチガチになっていることに今更気が付いた。
お姉ちゃんの方は……同じく緊張はしていそうだけど、私ほどでもなかった。


受付を済ませ(と言っても名前を書いただけ)、プログラムと蝋燭代わりのペンライトを受け取って礼拝堂に入る。
「うわぁ…凄い……」

礼拝堂はこぢんまりとしていて、それほど広くはない。
けど、天井が高く、奥行きがあるので圧迫感は無い。
テレビや漫画に出てくる教会はステンドグラスがあるけれど、この教会には無かった。
照明は電球色の蛍光灯というシンプルなものだけど、ダウンライトやスポットライトも付いていて、
所謂「モダン建築」にありそうな感じ。
オルガンはエレクトーンの様なコンパクトな電子式(?)で、家庭用のピアノもある。

礼拝堂の奥は一段高くなっていて、
真ん中には十字架とその下に台が置かれていて、台の上にはとても大きな聖書が開かれたまま置かれている。
ウチの神社だと、ちょうど神さまがお祀りされている所に当たる。
左側には司会者(「司式者」と呼ぶらしい)や牧師先生が立つ講壇、右側には銀色の杯が台の上に置かれていた。
何を置くのか分からないけど、一枚板の大きくて立派な台が置かれている。何に使うのだろう?

私とお姉ちゃんが礼拝堂の造りにしばし見とれている一方、みずちゃんは同年代の子達とお話をしている。
みずちゃんの教会のお友達らしい。

キャンドルサービスまではまだ時間があるけど、私達は特にすることも無いので、
適当な席に座らさせてもらった。もちろん、みずちゃんの分も開けてある。

10分前になって、チャイムが鳴り始めた。
みずちゃんが戻ってきて、私たちを手招きする。
「二人とも、こっちこっち」
みずちゃんは同年代の子達がかたまっている場所に移動させる。
「私が通ってる中学の、双子の友達だよ」
「あ、姉の柊かがみです」
「い、妹のつかさです」
よろしく、とみんなに挨拶をして、改めて席に座る。
席には8人の子がいて、小学生くらいの子から高校生くらいのお姉さんまでいる。
まるで兄弟・姉妹みたいだな。

「何か、教会ってアットホームな雰囲気だね。もっとカタいとか、何というか…」
「あはは、厳しいトコもあるらしいけどね。ここは結構家庭的だね。家庭的過ぎて困ることもあるけど」
「そっか~」
「つかさちゃん、この雰囲気に慣れてきたみたいだね」
「やっとね~。まだドキドキするよ」

チャイムが鳴り止み、蛍光灯が消されてダウンライトとスポットライトだけが会堂を照らす。
『ただいまより、クリスマスのキャンドルサービスを始めます。
 お手元のペンライトを点灯して下さい』
照明が全て消されて、オルガンの演奏と共に礼拝が始まった……。


クリスマス・イヴのキャンドルサービスは通常の礼拝とは異なるらしい。
それは、受付の時に貰った『はじめての方へ』と書かれた手作りの冊子を見て分かった。

オルガンの前奏が終わり、目を開けると会堂は薄暗くなっていた。
ペンライトの淡い光とオルガンと講壇に備え付けられている照明が幻想的な雰囲気を醸し出す。
プログラムに沿って、キャンドルサービスが始まる。

まずは司会者が聖書の箇所を一段落ごとに読み、その間に私たちが讃美歌を歌う。
プログラムには知らない讃美歌も載っており、戸惑う。

 ♪ ひさしく待ち~~にし、主よとく来た~~りて~

最初に歌った讃美歌は、それまでの華やかなクリスマスのイメージを打ち破るかの様に、
とても『重い』讃美歌だった。
讃美歌『久しく待ちにし』を歌い終えるとまた司会者が聖書を読み、次の讃美歌を私たちが歌う。

 ♪ まぁき~ぃびぃと~ ひぃつぅじを~

これは知っている歌だ。でも、歌詞がちょっと違う。こっちが本来の歌詞なんだ。

聖書の主イェスの誕生の話を聞き終え、お祈りを挟んで、いよいよ『説教』となる。
キリスト教の礼拝では、牧師先生(カトリックは神父)の説教が一番重要となるらしい。
また、みずちゃん曰く、礼拝に参加している人にとっては「睡魔との戦い」となるらしい。

『説教』とは、早い話、聖書のお話をすることだ。別に怒られる訳ではない。
……で、私はこの時間の事を全く覚えていない。
気付いたら礼拝堂の電気が全て付いていて、みな立っていた。

どうやら説教もその後のお祈りも終わり、その次の讃美歌をちょうど歌おうとしている所のようだ。
慌てて立ち上がる……けど、寝ぼけていたせいか、足をベンチに引っかけて「ガタン」と大きな音を立ててしまった。
(は、恥ずかしいよ~)
(つかさ、しっかりしなさい)
小声でお姉ちゃんにも怒られた。

その後は私たちも知っている讃美歌が続いた。二曲目は知らなかったけど。
「諸人こぞりて」「まぶねのかたえに」「荒野の果てに」「きよしこの夜」
献金やお祈りの間に讃美歌を全て歌い終わり、頌栄(しょうえい)と呼ばれる讃美歌を一曲歌い、
キャンドルサービスは終盤に差し掛かる。
プログラムに書いてある『祝梼』(しゅくとう)が終わると、最後にオルガンの演奏……かと思いきや、
全員が再び立ち上がる。私たちにも楽譜が配られる。


キャンドルサービスの最後、私たちは『ハレルヤ・コーラス』を歌った。
国営放送でしか聞いたことのない歌だったけど、まさか自分達が歌うとは予想外だった。
私は良く分からなかったけど一番上のパートを歌った。音が高すぎて大変だった。


「─────それでね、その後にクリスマスパーティに呼ばれたんだけど、
 お母さん達が待ってるから『ごめんね』って言って帰ったの」
こなちゃんは、私の体験談を最後まで聞いてくれていた。
「でも、途中で寝ちゃったってのがつかさらしいね」
「こなちゃんだって授業中寝てて先生に怒られたりするでしょ?」
「う。痛い所を突かれた…」orz
「でもね、私、キャンドルサービスに行って良かったと思う。
 それまでクリスマスってどういうものか分からなかったし、
 何でみんなお家でパーティやったりするのか分からなかったの」

日本のクリスマスの文化は、アメリカから持ち込まれたものらしい。
けど、肝心な所が抜けてしまって、何となく『メリークリスマス』と祝っているように思われる。
馬小屋で生まれたイェスはその後、十字架で処刑された事は中学と高校の歴史の授業でも習ったけど、
『私たち罪人を救うために』という背景がある。イェスの誕生は神さまからのプレゼントだったのかも知れない。
そう話してくれたのはみずちゃんだった。

私はクリスチャンでは無いし、家が神社だからそういう道に行く事は無いかも知れないけれど、
中学二年生の時の体験は、とても良かったと思う。
みずちゃんはその後、公立の高校に進学して、たまに連絡を取り合っているけれど、
今後の教会生活のことはまだ考えていないらしい。まだ迷っていると。
私も将来の事はまだあやふやだ。お料理の勉強をしたいとは思っているけれど、
お母さんの様に本物の巫女さんになることは考えていない。

ともあれ、今年もキャンドルサービスのお誘いがあったので、お姉ちゃんと行こうと思っている。
こなちゃんにも話したんだけど、
バイトがある上、教会は流石に抵抗があるとのことで丁寧に断られた。
私たちも受験生ということで行かせて貰えるかどうかは不安だけどね。
宗教上はとっくにアウトだし(汗)


最後に。私とみずちゃんから一言。
「みなさんも機会があれば、一度だけでもいいから、教会に行ってみませんか?」












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  • 実は自分もサンデークリスチャンだったり(汗)
    自分が行ってる教会もこのSSに出てくる教会と結構似たような感じです。 -- 名無しさん (2008-07-10 08:57:04)

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