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彼女は遷移状態で恋をする-かがみside-(7)

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  • 彼女は遷移状態で恋をする かがみSide(7)


「あ、そろそろ始まりますよ」
 みゆきの言葉に、全員が空を仰ぐ。
 そして破裂音や空を上る音をBGMに、空に花が咲く。
 そういやこれを見に来たんだっけな、とそこでようやく思い出した。
 両手の感覚ですっかり忘れてたというのが本音かな。
 しかし……本当に何なんだこの状況は。
 どうして右側に峰岸が居て、左側に日下部が居るんだ?
 いや、居るのはいいよ居るのは。
 誰が何処にいようが俺の知ったこっちゃないさ。
 でも何で……手なんか繋いでるんだろ。
 やばいな、峰岸ファンに見つかったら殺されるぞ
 ってか日下部強く握りすぎだろ。
 そろそろ千切れそうで痛いんだが……まぁ悪い気はしないな。
 そうやって、俺は浮かれていた。
 だから……偶然だった。
 空に広がるのは、満開の花火。
 耳を連続で劈いていく破裂音に軽く眩暈を覚えながら、偶然俺の視界は『それ』をとらえた。
 両手にあるクラスメイトの温もり……それが少し気恥ずかしかったのかもしれない。
 そいつらの顔も見れなかった所為で、俺の視線は『彼女』に向けられた。
 ……最初言っておく、あくまで『偶然』だからな。
 その、後の事も。
「こなた?」
 俺の眼に、今呼んだ名の『彼女』が映った。
 他の奴らは全員、空の花火に目を奪われている。
 なのにそいつは……違った。
「あ……」
 俺の声に気がつき、こなたと視線があった。
 だけどすぐに、俺から顔を背ける。
 一瞬、何が何だか分からなかった。
 何て言うのかな、花火が俺の頭の中で爆発した気分。
 耳に反響する炸裂音が、妙に邪魔だった。
 ……。
 眼があったのは、一瞬だった。
 顔をあわせたのも、一瞬。
 なにせすぐに顔を背けられたから。
 だけど見た。あれは……泣いてた? いや、そう見えただけ?
 でも確かに花火に反射して、こなたの顔に何かが光ったのを俺は見た。
 ……気がする。
「どうかした? 柊君」
 峰岸が俺の視線に気がつき、空から視線を俺に移す。
 手を繋いでた所為もあってか、思いのほか顔が近かった。
「やっ、いや……」
 その峰岸ドアップに動揺して、俺も慌てて視線を空に戻す。
 だけど、空に映る満開の花火も何処か眼に入ってこない。
 入ってくるのは……さっきのこなたの顔。
 やっぱり泣いてた、のか?
 何で? 理由は? そうだ、泣く理由がないだろ。
 あいつが泣くのなんて滅多にないし。
 そうそう、ないないありえな……ん?
 なんだろう、今頭の中で盾と矛がすんごい勢いでぶつかり合った気分。
 その衝撃の余韻が俺の脳に届いて、痺れるような快楽が脳みそをゆっくり抉っていく。
 ……。
 ああ……そう、だ。
 あったじゃないか……それもつい最近。
 今頃になってようやく思い出した。
 俺……泣かせたんだっけ。
 よく分かんないまま怒って、酷いこと言ってそれで……。
 て、ちょっと待て。
 ……なんてこった、俺まだ謝ってすらないじゃないか!
 何を呑気に、浮かれてるんだ?
 そんな事してる場合じゃないだろ?
 一番最初に言うべきだっただろ?
 ……ごめん、って。
「悪いっ、峰岸。日下部」
「へっ?」
「ふぇっ?」
 二人と繋がっていたそれぞれの手を離す。
 空の花火に気をとられていたから、二人とも眼を丸くする。
 だけどそれも気にせずに俺は、二人から離れる。
 そのまま日下部の目の前を通り抜けそして……。
「こなたっ」
「!」
 そのまま、こなたの手を……掴んだ。
 馬鹿をやってる自覚はあった。
 何を皆の前でやってるんだと心も自制の声を叫ぶ。
 でも体が勝手に動いたんだ……仕方ないだろ。
「来いっ!」
「ふぇ……えっ?」
 そのままこなたの手を引く。
 もちろん俺のそんな行動に、他は呆気にとられるだけだ。
 ……約一名を除いてはな。
 振り向かなかったけど、憎たらしい笑顔は見えてるぞ……ったくお前はそういうやつだよ。
「悪いが後を頼む……みゆき」
「はい、任されました」
 最初に言っただろ?
 そういうもんなんだよ……親友ってのはさ。


 遠くで、花火の音がする。
 少し離れただけで祭りの喧騒も今は遠い
 たまに空に開く花火と、公園の安っぽい電灯が俺達を照らしていた。
「か、かがみ……っ」
 こなたの声に俺も脚を止める。
 何処まで行こうなんて考えてもなかった。
 ただ少し、二人になりたかった。
 それにその何ていうか……ああ、そうだよ、恥ずかしかったんだよ悪いか!?
「どうかしたの?」
 ああ、そりゃそんな質問するよな。
 突然手を掴んで、連れ去ったりなんかしたらそりゃ尋ねるさ。
 悪いがちょっと待ってくれ……今少し、頭を整理してるところだ。
 勢いって怖いよな、普通するか? こんなこと。
 ええい、何でまだ手繋いだままなんだ。
 いやまぁそりゃ……柔らかい、けど。
 うああ余計な事考えてる場合じゃないだろ!
「えと……ごめん」
「……っ」
 熱暴走する頭で、言葉を搾り出す。
 その言葉の意味がこなたにも伝わったのか、繋いでいた手が少し強く握られた。
「まだ、ちゃんと……謝ってなかっただろ?」
 ……全部俺の所為だ。
 俺が浮かれて、忘れてた所為。
 本当は一番最初に、言うべきだったんだ。
 顔を遭わせた、一番最初に。
 なのに、他の事考えてて……こなたの事、全然考えていなかった。
「酷いこと言って悪かった、本当にごめん」
 下げれるだけ頭を下げる。
 それだけの事を俺はやったと思ってる。
 だから、すぐに返事があったのは少し意外だった。
「いいよ」
 声に顔を上げる。
 こなたの顔が目の前にあった。
 花火をバックライトに受けたその笑顔が、栄えた。
 その時、何故だろうな。
 俺の胸の奥で……不思議な音が聞こえた気がした。
 心臓を太鼓に見立てた、祭囃子が。
「かがみが本気であんな事言うわけないって知ってるもん。だから、気にしてないよ」
 こなたの笑顔が網膜に焼きつく。
 ……ん?
 な、なんだ?
 なんでだ?
 手が痺れてきた……こなたと、繋いでるほうの手が。
 胸の奥の音色が騒がしく耳に響く。
 いやいやいや、何を意識してるんだ? 俺は。
 手ぐらい繋いだって普通だろ?
 日下部や峰岸とも繋いでたじゃないか、なぁ?
 だ、だから別に気にすることなんて……。
「あ、そ、そっか」
 なかったのに。
 何故か、その手を離してしまった。
 へ、変だぞ俺。
 暗い所為で見えてはないと思うが多分……今、顔がやばい。
 トマトのほうがまだ何ぼかマシな状態だ。
「あ、ほら。ここからも花火見えるよっ」
 花火の音が聞こえ、こなたが空を仰ぐ。
 公園の木々の間から漏れた花火の光が、もう一度こなたの顔を淡く照らす。
 ……。
 その、笑顔に安心したからかもしれない。
 俺はこなたに聞いてしまった。
 思わず。
 何故か。
 うっかり。
 ……どうしても。
「なぁ、こなた」
「うん?」
 こなたの眼が俺を見る。
 ど、どうしたんだ? 俺は。
 動悸がさっきから、おかしい。
 こんなの、まるで……。
「なんでさっき……泣いてたんだ?」
「えっ……」
 それを直接、見たわけじゃない。
 一瞬だった。
 ほんの一瞬。
 花火の光の反射で僅かに光った、微かな光源。
 でも……確かにあれは、涙。
 今は何故かそれが、確信だ。
「あははっ、何言ってんの? かがみ」
 こなたが俺から、白々しく視線を外す。
 それにまたカッときて。
 頭に血が上って。
 ……俺ってやつは、どうしてこうなんだろうな。
 そのまま俺は、やってしまったわけだ。
 また、な。
「……こっち、見ろよ」
 こなたの頬を俺の手が掴む。
 そして無理矢理、視線を合わせる。
 手が、痺れる理由が分からない。
 動悸が早くなる理由だって分からない。
 でも……触れた頬は、柔らかかった。
「なんで……泣いてたんだ?」
 もう一度、聞く。
 近かったこなたとの距離が、さらに縮まる。
 吐息が俺の鼻をくすぐり、妙にそこだけむず痒く感じる。
「泣いてなんか……ない、よ」
 こなたの震える声が、小さく聞こえる。
 その度に心臓が、張り裂けそうなくらいに暴れる。
「泣くはずないよ。泣くわけ……ない」
 それは俺に言っているようで、不思議な違和感。
 まるでこなたが自分自身に言っているような、そんな感覚。
 そのまま、俺の指に……『また』冷たいものが触れた。
 ……。
 そこまで来て俺はようやく、思い出す。
 この状況が、何を意味するのか。
 これはまるで……あの日と一緒じゃないか。
「こっ、こなた?」
 驚きに手を離し、近かった彼女の顔を遠ざける。
 指に触れた涙が心臓を跳ねさせる。
 泣いてる……こなたが、また。
 また俺は、泣かせたのか?
 またこなたを……。
「ち、違うからっ」
 その心の声に答えるように、こなたが慌てて涙を拭く。
 だけど、それは止まらない。
 目の前でただ零れる涙を見て……俺は立ち尽くすしかできない。
 俺には何も……出来ない、のか?
「違う、違うから、見ないでっ……お願い」
 その言葉が。
 その涙が。
 その……全部が。
 俺の中の何かを……壊した気がした。
「っ!」
 こなたの驚きや嗚咽の混じった声が、耳に届いた。
 まるでゼンマイ仕掛けの日本人形。
 俺の中の壊れた歯車が、俺の体を勝手に動かす。
 気がついた時には、俺の手は――ああくそっ、何をしてるんだ俺は。
 後になって考えれば、自分がおかしかった事に気がつく。
 それでも後の祭りでしかない。
 泣き喚くこなたの手を掴んで俺は――うああ頼むからやめてくれ、頭がどうかなりそうだ。
 なんでだ? 何でこうなった?
 理由なんか分からない。
 でも確かに『居る』。
 ここに、彼女が。
 俺の両腕の中に……こなたが。
「これなら、見えないだろ」
 自分で口走った言葉の意味も、よく分からない。
 いや、意味は分かっても無茶苦茶だ。支離滅裂すぎる。
 両腕が、こなたを支える。
 その中に、彼女の全てがある。
 腕に寄りかかった重さが、彼女の全て。
 俺の腕の中で泣く、彼女の全て。
 嗚咽と慟哭が俺の体の中を通り過ぎていき、両手に力をこめる。
 もう、花火の音は聞こえなかった。
 静寂が支配する中で。
 安っぽい舞台照明の下で。
 俺とこなたは……二つの影を、一つにしていた。

 もう一度言っておく。
 これは……偶然だ。
 色んな偶然が、重なった結果。
 それぐらいしか、今の俺には説明できない。
 この行動の意味も。
 この、動悸の意味も。




















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