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嘘と淡い灯火

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 杞憂じゃなかった……
 あの日つかさは私に、ううん家族にも嘘をついた。
 そんな二人の関係を私は拒絶した。
 すべては既に起こってしまったこと。
 認めるなんて出来ないよ
 だけど……それが大好きな二人の幸せを邪魔してる。
 わからないよ、こなたがつかさの幸せを邪魔してるかもしれないじゃない。
 だってあの子はこなたなんかに熱を上げずにいればいつか素敵な彼氏と幸せな恋愛を出来るはずだもの。
 こなただって……
 私はしっかりしなきゃ……
 簡単なことじゃない?
 全ては幻想、時間が解決してくれる、そうでしょ?
 私達みんなきっと戻れるよ。
 その為なら覆水だって必死にすくって盆に返すし、エントロピーの大原則だって悪魔でも召喚して打ち破ってみせる。
 ……私、これで何回似たようなこと考えたんだろ。
 欲しいラノベを探すつもりでか、かがみはこなたがよく行く店に足を運んでいた。

~嘘と淡い灯火~

 夜の部屋。自分の手を覗けば黒一色にその輪郭を知ることが出来る。つかさはベッドに横たわりながら空間的な天井を眺めていた。視覚以外が研ぎ澄まされる。ともしく開いた窓からの涼気、遠くの通りを走る車の音。
 残暑も夜には弱まって心地がいいのだが、彼女は今ある違和感にそれを堪能しきれない。
 つかさは指先で耳に触れる。
 カサカサと繊細な皮膚の擦れる音がした。でも何も感じない。
 それは少し不思議だ。意識はより内面に移っていく。
 指を差し入れる。やはり感じない。
 前ならば、あの時の感触が思い出された。時間が漂って遡る。そう、あの時も薄暗がりの夜。
 こなちゃんが私の耳にしてくれた事……

――――ふぇ!?あっ、いやぁ……」
        ぐちゅぐちゅぐちゅ……
   ――――うぅ……ーーっん!!
 耳の中を舌が唾液を潤沢に纏って、いやらしい大音量で犯す。逃れられない。
    悶えていると、彼女の左手は腹部を通って、
   パジャマに潜り込み………
  薄い絹に………
 絹に差し入れ…………

 それは実感を伴わない文字の羅列の様。六面体の部屋に溶けていく。
 一週間しかたってないのに……
 こんなに薄れていく……
 自分が姉のために必死でそうしたから。その結果だった。
 少しずつ……
 少しずつ……
 違和感がなくなってくる。
 お姉ちゃんと、ゆきちゃんと話すとき。
 私らしさに迷いがなくなる。私の笑顔、私の優しさ、私の素直さ。
 こなちゃんがいても、いなくても変わらないだろう自分に気付いてくる。
 きっとまた前みたいに戻れるね。
 こなちゃんと一緒じゃない三人だとやっぱり寂しい。
 何よりこなちゃんと一緒のお姉ちゃんが見られないのは悲しい。
 前の毎日みたいに戻れたらいいな……
 かけがえのない素敵な宝物みたいな日々だったから……
 ……あれ!?
 ひとしずく、頬を伝う。
 なんで?
 わからないよ……

 ピロン、ピロン

 机の上で携帯が着信した。
 つかさはベッドから起き上がってそれを手に取る。呆然とした。
 なんでかけてくるの?
 つかさの手の平の上で淡彩を帯びて浮かび上がる携帯、部屋のあちこちに仄かな影が生まれる。
 発信元は泉こなた。
 ……出ちゃだめだよ
 つかさはそれを持ったままベッドの上に戻る。
 通話ボタンに指をのせながら、切れるのを待つ。
 携帯は無機質に発信を口ずさんでいる。
 つかさは5コール目でボタンを押し込んだ。

『やほ~』
「こなちゃん!?どういうつもり!?なんでかけてくるの?」
『あれ……?つかさ?』
「……へ?」
『あぁごめんね。私新しいネトゲを試してて、友達を誘おうと電話かけたんだけど、片手でゲームいじってるから間違えてつかさにかけちゃったみたい』
 確かに携帯の向こうからゲームの音楽や効果音が聞こえてくる。でもやたら早口な説明はあらかじめ用意していたと思わせた。
「こなちゃん、嘘でしょ?」
『な……、つかちゃんのくせに~~!!』
 つかさは怒りたかった。自分の覚悟、一生懸命にこなたが答えてくれてないと思ったから。
 なのに、その声を聞いたとたんなぜだかそんな気持ちは消え失せた。
 自分に向けられているその声に素直に嬉しくなった。
「もぅ~、だめだよ。意味なくなっちゃう。お姉ちゃんにバレたら大変だよ」
『むぅ……つかさの癖に生意気だぞ』
「ふぇ!?こ、こなちゃんのくせに~」
『いやぁ、ホントに間違いって事で……うわぁっ!ちょっ!おま!(ズガガガガ)』
「あのぉ、こなちゃん?」
『……うぅ、しんどい』
「あのね、もうかけないでね……あとね、明日学力テストだし、あんまり遅くまで起きてたらよくないと思うよ」
『むぅ……、これでも今回私かなりやったんだよ。だから前日くらい遊びたいの~。なのに黒井先生うるさいから、いつものネットゲームやれないんだよ。つかさはやったの?』
 きゅんとした。ちゃんと名前を呼んでの会話。
「う~ん、それなりに、かな。私は普通の進学とちょっと違うから」
 3日前につかさはななこに呼び出されていた。
 みんなと違う道はそれなりに大変で、あとから進路変えて大学へ行くのも大変だということ。逆に大学でしっかり自分のなりたいものを見極めてから専門学校へ行っても遅くは無いということ。
 そんなことを言われてから覚悟を訊かれた。
 それでもなりたい、そう答えたときにはにっこりして応援をすると言ってくれた。
「こなちゃん。黒井先生はきっと心配してくれてるんだよ」
『ま、そうなんだよね。ただちょっと愛が痛いんだよね。物理的にも』
「ね、早めに切り上げてね」
『うん……』
 ベッドのシーツを掴む。
「じゃあ、切るね」
『待って』
 つかさは目を細めた。
 何か言うためにかけてきてる事、そうじゃなきゃいけない事、わかっているのに悲しくなった。
『つかさ……』
 ゲームの音が消える。さーっという携帯の通信ノイズだけが静寂を繋ぐ糸になる。
「……うん」

『今日は間違えてかけちゃった。……でね、これから二度とかけない。もう間違えたりしない』
「うん」
 構わない……
 つかさはそう覚悟してる。
 でも、そんな言い方、さよならみたい……
『あのね……』
 つかさはかすかな声で相づちを打った。それが会話であると噛みしめるようにそうした。
『私の気持ちって前からずっとなんだよ。だから……きっとかがみの答えはつかさが持ってるんだと思う』
 つかさは辛くなった。自分の答えがわからない。
 さっきまではもう忘れる事が出来る気すらしていたのに、こうしてこなたの声を聴いただけでまた気持ちが戻って来た。
 どうしてもっとシンプルな感情じゃないんだろう……
『私みゆきさんにね、このままじゃいけない気がするって言われたんだ』
 ゆきちゃんが?
 つかさは二人の間にあった会話を想像した。すぐさま浮かんだのは一方的に話しているこなた、その合間に知的な論談を入れるみゆき。ようはいつもの二人。
『それでこの事をずっと考えてた。言っておくけどつかさからは気持ちを離してたよ。約束は守ってるつもり』
 つかさは思わず相づちを打つ。でも本当は履き違えた理屈のような気がした。ただ、守らなきゃいけないのはどこなんだろう。
『きっと私達は1ヶ月後に何か選択しなきゃいけないでしょ?そこで一番良い答えを出して、それからはずっと皆で笑いあいたい。だから私何もしないでいちゃダメなんだと思ったの』
 私は……何にも分かりそうになんか無いよ
『それで、もう一度だけつかさに声を聞かせてあげなくちゃって、今伝えておかなきゃいけないって、で、間違えてかけちゃった。ごめんね。こればっかしは、やっぱ約束破ったことになっちゃうよね』
「……うううん」
 それしか言えない。もう姉との約束なんて破って今の気持ちを言葉にしたい。
 でも、するべきじゃない。つかさはそれを支える何かをこなたがくれた気がした。
『つかさ、私、答えはまだ無い何かだと思う。隠しの選択肢だよ。私はそれを探すつもり。約束の範囲内でそれを探すのが今の私の答えかな……』
 こなたがそう言い終わると、寂莫としたノイズ音だけが残った。つかさは広い部屋の一角、ベッドでうずくまりながら、残された糸のたゆたいに自分の心を重ねていた。
「こなちゃん……」
『……つかさ』
「私も、探すね」
『うん、よろ。……じゃあね、また三週間後、かな?』
 もっと話したい。でも相手だってそうだから。
「うん、おやすみこなちゃん」
『……おやすみ、つかさ』
 それは短い通話だった。







(いったんおしまい)




















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