kairakunoza @ ウィキ

嘘には嘘を 涙には涙を

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匿名ユーザー

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「うーん、どうしようかねぇ」
私は勉強机に座り開かれたノートの上に頬杖を突きながらはぁ、と一つため息をつく。
ため息をつくと幸せが逃げるなんてよく言うけれどホントなのかしら。
まぁ今は幸せなんか逃げてしまってもいいからその代わりに誰か私に入れ知恵でもしてくれないかしらねぇ。

こなたに私の人生の汚点ともいうべきドッキリを仕掛けられて早一月。
こなたがアメリカに引越してしまうということで、お酒の力も手伝って私はわあわあ泣きながらこなたを止めようとした。そんなエイプリルフールの出来事。
それは今思い出しても頭が痛くなる忌々しい記憶。
勿論こなたは引っ越すはずも無く現在陵桜学園の三年生として在学中だ。
そんなこんなで私はこなたに仕返しをしようと企んでいる。あのドッキリを凌ぐどでかいのを。

ああでもないこうでもないとぶつぶつ独り言を言っていると
「お姉ちゃんご飯だよー」
とつかさの声がドア越しから聞こえた。
え? もうそんな時間?
私はひーらぎ最恐伝説の発端となったボロボロの目覚まし時計に目をやり時間を確認する。
かれこれ一時間以上人を陥れる作戦を考えていたのか。心が段々薄汚れてきてるわね……。
「はぁ……まぁ一先ず休憩ね」
続きはご飯のあとにしよう。宿題片付けながら考えますか。
私は部屋の電気を消しながら今行くわよ、とつかさに返事をしながら部屋を後にした。

夕ご飯を食べ終えそのまま居間でダラダラとテレビを見た。
「世界の驚愕映像ベスト100! ねぇ……」
一緒に見ていたつかさは映像の一つ一つに分かりやすく驚いていた。ホント製作者冥利に尽きる有り難い視聴者ね……。
私はというと何番煎じか分からない程この手の番組をきっと今日のようにダラダラとしながら見てきた記憶がある。
散々見てきた衝撃映像とやらに飽き飽きしながら私は例のドッキリについて考えていた。

しっかし何にも浮かんでこないわね……。
つかさがいる以上私が引っ越すなんて有り得ないし、まず嘘泣きなんてできっこないわ。
嘘をつくにもマンガやアニメに関してはこなたの知識量に敵うはずもないし、かといってそれ以外の分野は殆ど知らないも同然だからなぁ……。
あっ、どうせならグルだったつかさとみゆきにもお返ししておきたいわね。
あの二人も途中までわんわん泣いていた(のはつかさだけか)ってのに結局全部知ってたなんてね。
いっそ三人セットで女優にでもなればいいんじゃないかしら。
となるとみゆきもいることだし嘘をつくってのは却下ね。
それこそあの知識量には逆立ちしたって勝てないもの。
……ますます困ったわね。
案がない上に三人まとめて、となるとホントに難しいわ。


『――が、次の瞬間っ!』
キキーッ ドカッ
「「!」」
ふとテレビに目を向けるとこういった番組でありがちな乗用車同士の事故の映像。そして二人に浮かんだ感嘆符。
一つ目はつかさのもの。けたたましいスキール音と二台の車の衝突音にビクッとし目を見開き背筋をピンと張らせている。
二つ目は私。勿論事故に向けられたものではなく突如浮かんだ名案に対してだ。

これよ! カーアクションよ! これなら三人一気に驚かせることが出来るわ!
「ひっ! ど、どうしたのお姉ちゃん!?」
気がつくと私は立ち上がっていた。左手を腰に当て右手はガッツポーズという今にもよっしゃ、と言わんばかりのポーズで。いや多分言った。無意識のうちに。
つっかえがとれた私の頭の中に様々なカーアクションのシチュエーションが浮かんでくる。
例えばジャンプ台を一気に駆け上がりその向こうに置かれた横並びの車を飛び越えるシーン。
勿論ジャンプ台の横には火花が出る細工もしてある。火の中をくぐる、ってのもいいわね。
はたまた車のドアが突然壊れてしまいながらを悪路を右に左に車を振りながら走行するシーン。

他にもいくつか過激なカーアクションを思いついた、だがしかし私の脳味噌はこの一連の案に瞬時に却下を命じた。
車どうすんのよ……それ以前に運転免許持ってないわよ……。
その最も重要な点に気付き私はへなへなとその場に座り込む。我ながらに忙しいやつだと思う。
「お、お姉ちゃん大丈夫? 悩みでもあるなら相談に乗ってあげるよ?」
ありがと、つかさ。でもあんた等をハメる為の案を練っていたなんて言える訳ないじゃない……。
私は何でもないわよ、とつかさに返すのが精一杯でがっくりと肩を落としながら逃げるように自分の部屋へと向かった。


ベッドに四肢を投げ出し仰向けに寝転がる。気持ちは晴れないが心地は良い。このまま眠ってしまいそうになる。
睡魔と闘いながら私は再びドッキリ作戦について考える。

今日も収穫なし、か。

ここ最近は委員会の仕事に加え進学者対象の大学模試などが重なり、忙しさは去年の今頃の比ではない。
勉強の難易度も否応なく高まり、自宅での勉強の時間は増えてきている。
しかし忙しいからといって宿題が減るわけでもないし、予習復習を怠っていいわけなどない。

三年生って忙しいわね。
私はこの一ヶ月で身を持ってそれを感じた。
ホント、疲れたわー……。
そう思えば思うほど徐々に瞼が重くなり視界に映る物の輪郭が曖昧になる。
少し、だけ……寝ようっと……。
最初は抵抗していた筈の、体が浮くような不思議な感覚に今度は身を委ね、私はゆっくりと目を閉じた。


――そこにはこなたがいた。
オタクグッズに囲まれた賑やかに映る部屋。
この部屋には私以外にこなたしかいなかった。
窓の向こうに見えるのは、抜けるような青空とそこに浮かんだ申し訳程度のちぎれ雲。
小鳥のさえずりと風が吹き無数の葉を擦りあわせ合う木々のせせらぎ。
何も変わらない平凡で平穏な一日。ただ私の前に佇む彼女を除いては。
こなたが泣いている。静かに静かに涙を流している。
緑色の瞳を真っ赤に腫らし、ただ黙ってポロポロと滴を落としている。

「私じゃダメなの?」
彼女は涙声でそう言った。
分からない。全く分からない。
一体何がダメなんだろうか。一応周りを見渡してはみたが、ヒントになるようなものは無さそうだった。
夢というのは往々にして理不尽だ。設定や展開やその他もろもろ全てが理不尽である。
何故こんなものを私に押し付けるのだろうか。
そういえばこの前も変な夢見たわよね。たしかわたしが立ち並ぶビル並に巨大化し、ひたすら街をぶっ壊す夢。
あれは驚いたわ。あまりにも飛躍しすぎていて目が覚めた後も暫く頭が痛かったわ。あの時はストレスとかがたまってたのかもしれないわね。


話を戻そう。
どうやらこなたが泣いているのは私に何か原因があるようだ。あくまで推測ではあるが。
さて、原因とは何だろうか。
そんなもの分かるはずもない。
私が無意識のうちに見せられている世界のことだ。こちらの事情なぞ知る由もない。
疑問符が浮かんでいるような顔をしていると
「かがみは私の嫁なんだよ? 彼氏なんか作らないでよ……私を一人にしないでよ……」
とこなたは私に哀願した。

どうやらこちらの世界の私には彼氏が出来たようだ。うーん、どんな人か見てみたいわね。
べ、別に現実世界でその人に近づこうってわけじゃないんだからね!
と、からかってくる相手もいないっていうのに余計な注釈を入れる私は心底ツンデレなのだろうな、と若干自分に悲しくなった私はここであることに気付く。

私に彼氏が出来る=こなたは悲しむ

この方程式が成り立つということに。
私はこのシリアスな夢の状況に明らかにそぐわない喜びの気持ちで一杯になった。
なるほど、彼氏ですか。こなたさん、私を独り占めしたいのですか。
これはとてもいいヒントをもらったわね。
そして都合よくジリリリリと耳障りな音が聞こえてくる。
――ありがと、こなた(夢Ver.)
と、心の中で泣き顔の彼女に別れを告げゆっくりと瞼を落とした。


再び目を開くとそこに映るのは部屋の天井。
目覚めはここ最近でもベスト3に入るほどの良さだった。
まずベッドの横にある騒がしいそれの朝の役目を優しく終わらせてあげる。
いつも起きる時間だわ。かれこれ10時間近く眠っていたことになるわね。
体を起こし一つ伸びをする。そして忘れることはないだろうけど一応夢での方程式をノートにメモする。
夢ってのは突然始まり突然終わる、というのが良くあるのだが、今日は都合の良いところで終わってくれて良かった。
そういえば何故目覚まし時計が鳴ったのだろう。夢こなたがセットしておいてくれたのかな。
でも、布団もきれいに羽織られていたし……うーん、つかさかな?
そんなことを考えていると目覚まし時計の下敷きになっていた一枚のメモ。それには
『毎日毎日お疲れ様。目覚まし時計はかがみがいつも起きてくる時間にセットしておきます。勉強も良いけど息抜きや休息だって必要だからね みき』
と書いてあった。
お母さん……本当にありがとう。
あ、そういえば宿題やってなかったわ! まぁ日下部に馬鹿にされるの我慢しながら峰岸に聞こうっと。

台所で朝ごはんの用意をしていたお母さんにありがとう、とお礼を言い急いでお風呂場へと向かう。流石にこのままで学校に行くことが出来ないからね。
朝のシャワーはやっぱり気持ちがいい。眠気が一気に吹っ飛ぶし、一日頑張ろうって気にもなれる。

いつもの四倍速くらいのスピードでシャワーを浴びた私は髪をタオルでわしゃわしゃしながら食卓の席に着く。
暫くするとパンの香ばしい香りがし、直後にチンとトースターが音を発した。
朝のニュースを見ながら私は焼き上がったトーストにイチゴジャムを塗りそれに噛り付く。
オリンピックが近づいているということもあってかどのチャンネルを回してもスポーツの話題ばかりでちょっぴりうんざりした。
たしかにこなたの言う通りで、オリンピック専用チャンネルみたいな番組で一日中ニュースを流していればいいのに、と思った。珍しくこなたに同意できたな。
朝ご飯を食べ終え席を立った時に、よりトロンとした目をこすりながら何で誰も起こしてくれなかったの~、と呟きながらつかさが下りてきた。
何も変わりない平凡で平穏な日常。桃色の花びらを落とし一転一面を緑に染めた桜が窓の向こうで風に揺れる。


学校の支度を終え再び居間に入り、テレビを流し見ながらつかさを待つ。
あっ、かに座一位じゃない。
番組を締めくくる占いコーナーで見事かに座は一位に輝いた。
神様を祀る我が家にとっては余りにも場違いだが、私は神様とか占いの類のものを私は信じてはいない。
それでも占いコーナーで自分の正座や誕生月が上位になっていた場合は気分良く一日を送れる。
勿論下位に沈んでいた場合はこういうの信じないから、と都合良く捉えている。
そうこうしているうちにドタバタとつかさがやってきて私を急かす。
私はあんたを待ってたっていうのに……とそれでもそんなことで気を悪くするでもなく、つかさが忘れそうになった弁当箱を持ちながら私は学校へと向かった。




















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  • 超面白いです! -- チャムチロ (2012-09-04 12:44:13)
  • これは続編として是非ともお願いしたいですな!!! -- ワンブリッジ (2008-09-13 17:11:20)
  • 続編に期待 -- 名無しさん (2008-09-13 15:30:34)
  • 期待wktkr
    -- 九龍(九重龍太)くーろん (2008-05-27 21:47:59)
  • これは続きに期待せざるを得ないwww -- 名無しさん (2008-05-13 20:16:14)

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