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ひよりんのHappy Happy Birthday

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
 二年生。
 そう呼ばれるのにも少し慣れてきた五月初頭、
 私達四人はいつものように教室でとりとめのない話題に花を咲かせていた。
「そういえばひよりちゃん、今月誕生日だったよね」
 花のように笑顔をぱっと咲かせ、ゆーちゃんはそう言って私のほうを向いた。
 ゆーちゃんは二年生になる少し前くらいから、体調を崩すことが少なくなった。
 心なしか背も少し大きくなって、今では体育の授業にもみんなと同じように出ていることが多い。
 成美さんに会うたびに「どれもこれも三人のおかげだよっ。本当にありがとうね」なんて言われるけど、
 きっとそれはゆーちゃん自身が強く成長したからだと思う。
「うん、よく覚えててくれたね」
「もちろんだよっ! 一年生の時はひよりちゃんもパティちゃんもお祝いしてあげることが出来なかったからね」
「Yes, デスからこの前のワタシのBirthdayは、みんなでとてもセイダイなお祝いをしてくれましたネ」
 記憶にも新しい四月十六日、私達四人はゆーちゃん家、もとい泉先輩の家でパティの誕生日祝いをした。
「あの日は本当に楽しかったでス。アリガトね、みんな」
 みんなでプレゼントを渡したり、お菓子を食べたり、ゲームをしたり……
 それは何てことのない時間だったかもしれないけれど、すごく楽しかった。
「あの時はいいモノも見られたしね、パティ」
「ソウソウ、あの時のユタカとミナミはvery very cuteでしたネ、ヒヨリ」
 何の話かというと、トランプで負けたゆーちゃんとみなみちゃんが、勝ったパティにさせられた罰ゲームの話だ。
 あの時はパティが私のほうを向いて何やらニヤニヤしていたから、何の罰ゲームを出すのかと思ったけど、
 まさか「デハ、二人は抱き合ったママ、一分間見つめ合ってクダさいネ♪」なんて言いだすとは思わなかったから、
 私はそれだけで立ちくらみを起こしてしまうほど舞い上がってしまった。
 実際に二人が抱き合っているところはそれはもう至高の光景で、
 スケッチブックを持ってきていなかった自分を真剣に悔いたけれど、
 おかげで目を閉じればいつでもその光景が思い出せるほどしっかりと網膜に焼き付けることが出来た。
 そう、もちろん今でも…………って駄目だめ、今は自重しなきゃっ。
「あうぅ、忘れてくれると嬉しいんだけどな」
「うん……恥ずかしいから、あんまり思い出さないで……」
 二人はあのときみたいに顔が真っ赤だ。
 ここだけの話、抱き合っているときの二人は本当に『お似合い』で、
 放っておいたらそのままキスしちゃいそうなくらいだった。
 あの泉先輩も、「むぅ、これは確かにひよりんが自重できなくなるのも分かるかも」って言ってたし、
 これはますます今後の二人に目が話せないかも?
 ちなみに私は帰ってからこのことをネタに30Pの漫画(もちろんモデルは言わずもがな)を書いた。
 すいすいペンが進んで、気付いたら出来上がっていたみたいな感じだったけれど、
 さすがにこの時ばかりは自分の行動に嫌気がささざるを得なかった。
 あの漫画は、これからもずっと机の奥底に眠らせておこう……。
「そ、それで、今回もこなたお姉ちゃんの家でパーティーをやりたいんだけど、どうかな?」
 私とパティにニヤニヤと見つめられる気恥ずかしさをうち破くようにゆーちゃんはそう切り出した。
「Oh,very niceなideaでスね!」
「うん、すごくいいと思う……」
「ありがとうゆーちゃん。でも、またお邪魔しちゃっていいのかな?」
「うん、こなたお姉ちゃんもOKって言ってたし、そうじろうおじさんも大歓迎だって」
「パパサンらしいでスね」
「あの時も勝ち組がどうのこうのですごかったもんね、泉先輩のお父さん」
 泉先輩は「いつものことだから気にしないで」なんて呆れてたっけ。
「でも、そういうことなら、今回もよろしくね、ゆーちゃん」
「うん! じゃあさっそくプレゼントとか用意しなきゃね」
「ひよりのプレゼント……何がいいかな」
「ヒヨリのタメに、精一杯愛情コメるからネ」
「ちょ、ちょっと、そんなみんなして張り切らなくてもいいよっ。
 でも、ありがと。楽しみにしてるからね」


 そんな会話があったのももう半月ほど前で、今日は五月二十四日、土曜日。つまり、私の誕生日だ。
 空は快晴。誕生日に晴れも雨も関係ないけれど、
 やはりこういう特別な日は気持ちいいくらい晴れていてくれたほうがありがたい。
 朝起きて一番にする日課も今日はお預け。
 部屋を出て洗面所に足を運び、冷たい水で顔を洗ってタオルで拭いて台所へ。
 そして冷蔵庫から私専用の牛乳を取り出し、コップには注がずに直飲みする。
「ふぅ」
 朝はこうすれば大抵目が覚める。もちろん締め切り前とかで徹夜とかじゃなければだけれど。
 ちなみにこうして毎日牛乳を飲んでいるのにも関わらず早くも私の成長は打ち止めになったらしく、
 この前の身体測定でも一年前とほとんど変わらない数値を見ることになった。
 あのときはみなみちゃんと慰めあったっけ。
 今思うとあれもいい思い出……
「なわけないじゃん……はぁ」
 それでももうパティやこうちゃん先輩に「小ぶりだねー」とか言われるのにも慣れたし、
 それに偉大なる泉先輩の言葉を借りるならば、
「そーゆう需要もあるんだもんね」
 そんな誰に対して言ったのか分からない言い訳を呟いて、私は牛乳パックを冷蔵庫にしまった。
「さて、遅刻しないうちにさっさと支度しちゃいますか」
 今日のパーティーの主役は私。
 もちろん『主役は遅れてやってくるもの』なんていう言葉もあるけど、
 さすがにみんなを待たせるのは忍びないからね。
 今日はちょっと大人目の白のロングスカート。
 麦わら帽子もかぶったら清楚な感じに見えるかな。
 服装が決まったら朝食を取って、荷物を持って玄関に。
「じゃあ、行ってきまーす」
 今日は一日、きっと楽しい日になるだろうな。


「う、しまった……早く着きすぎたかも」
 遅刻しないように、とは言ったものの、さすがに一時間近く早く着いてしまってはやりすぎだと思う。
 はやる気持ちが抑えられなかったというのもあるけど、これは大失敗だ。
 迷惑かなぁと思いつつも、近くで暇を潰せるようなところもなかったので、
 私は泉家のインターホンを小さく押した。
「はーい、って、ひよりちゃん? ずいぶん早く来たんだね」
 扉の先に出てきたのは私服姿のゆーちゃんだった。
 最悪着替えてないかな、と思ったんだけど、そんなことはなくて良かった。
「うん、ごめんね。ちょっとばっかし急ぎすぎちゃったみたいで……」
「ううん、いいよ~。私も準備できてたし。じゃあ、あがってあがって」
「ありがとゆーちゃん。おじゃましまーす」
 そう言って玄関に上がって靴を脱いだあたりで、見慣れた姿が見えた。
「おー、ひよりん。お誕生日おめでと」
 いい意味で力の抜けた声で私を祝ってくれたのは、ついこの前まで同じ高校に通っていた泉先輩だ。
 卒業してからもここやアキバで何度か会っているから、卒業生という実感はないけれど。
「泉先輩、ありがとうございますっス。今日はお出かけですか?」
「うん、ちょっとねー。あ、プレゼントは用意できなかったけど、
 今度私のバイト先のメイド喫茶においでよ。特別サービス付きでおごっちゃうよ~」
「いやいやっ、悪いっスよ、そんな」
「まぁまぁ遠慮しないの。いつもいい本読ませてもらってるお礼ってことで。
 んじゃまー、また後でねー」
 パタン、とドアが閉まる音と、それに続いてタッタッタと駆けていく音が聞こえ、
 私はその軽快で楽しそうな足音に今朝家を出て行くときの自分を重ねた。
 きっと、泉先輩も大切な友達に会いにいくんだろうな。

「ちょっとおじさんに挨拶してくるね」
 ゆーちゃんにそう告げ、二階に上がってリビングに入ると、
 おじさんはいつも見る作務衣姿で、パソコンに向かって何か作業をしているみたいだった。
「おじゃましまーす」
 私がそう言うと、背を向けていたおじさんは振り返って、
「いらっしゃい。ひよりちゃん、だったよね。お誕生日おめでとう。
 今日は遠慮なくゆっくりしていきなさい」
 おじさんはそれだけ告げるとまた背を向けてパソコンのキーボードを打ち始め、
 私は邪魔にならないように簡単なお礼だけ言い、すぐに階段を下りた。
 ゆーちゃんのおじさんはとても良い人だと思う。
 だから、泉先輩とゆーちゃんの名誉を守るためにも、
 後から聞こえてきたメガネっ娘がどうのこうので萌えとかいう声は気のせいだったことにしよう。

「そしたらお姉ちゃんがね……」
「ふふ、泉先輩らしいね」
 二人だけでパーティを始めるわけにもいかないので、
 ゆーちゃんの部屋に戻ってからは、いつもみたいにおしゃべりをして時間を潰した。
 といっても、多分みんなが来てからもこうしておしゃべりだけでほとんどの時間が過ぎていくのだろう。
 でも、私はそんな時間が好きだからみんなと一緒にいるんだと思う。
 そしてそれはきっと、すごく素敵なことなのかもしれない。
「それでひよりちゃんは、」
 そんな調子で話していると、ふとゆーちゃんの言葉がそこで切れた。
「どうしたの、ゆーちゃん」
「んーん、何かいつ頃から私ってひよりちゃんのこと、『ひよりちゃん』って言うようになったんだろうって思って」
 ゆーちゃんはそう言ってはにかむように笑って、
「前は私、ひよりちゃんのこと『田村さん』って呼んでたでしょ?」
「そういえば、私もゆーちゃんのこと、前は『小早川さん』って言ってたなぁ」
「ね。いつの間に変わったのかなぁって。
 どうでもいいことなのかもしれないけど、何かちょっと気になっちゃって。
 前に、今仲良くしてる人と話すようになったきっかけって
 何だったかなって話をしたことがあったでしょ? あれと似た感じかも」
「そういえばそんなことも話したね」
「あのころはまだ私もひよりちゃんも、お互いのことを名字で呼んでたよね。
 実を言うと私、早くひよりちゃんのこと名前で呼びたかったんだ。
 みなみちゃんとパティちゃんと同じ友達なのに、ひよりちゃんは一人だけ名字なのはおかしいなって」
「ふふ、そんなの気にしなくて良かったのに」
「ううん、きっと私にとっては重要なことだったんだと思う。
 だから何度か呼び方を変えてみようと思って頑張ったんだけど、一度定着した呼び方って変えづらいじゃない?
 結局上手くいかないまま、ずっと『田村さん』のままだったんだよね」
「でも気付いたら、」
「うん、気付いたらいつの間にか名前で呼んじゃってた。
 不思議だよね、そういうの。
 意識して何度やろうとしてみてもなかなかできないのに、意識しないでいたほうが上手くいっちゃうんだもん。
 だからそんな風に大切な人との関係は、"作る"っていうよりは"なっている"ものなのかもしれないって、そう思ったんだよね」
 部屋に穏やかな静寂が漂う。
 私はゆーちゃんの言葉に心打たれていた。
 私がゆーちゃんへの呼称を変えたのはいつだっただろうか。
 ゆーちゃんが私への呼称を変えた後? それとも先?
 はっきりと思い出せないけれど、それはほとんど同時だったのだろう。
 気付かないほど自然に、私達はそれまでよりも絆の深い関係に"なっていた"のだから。
「あ、あははっ……やっぱりこういう話って改めてすると恥ずかしいよね」
 ゆーちゃんはいつかのときと同じように、恥ずかしそうに笑った。
 それにつられて私も笑顔になる。
「あ、みなみちゃん達来たのかな。行ってみよ、ひよりちゃん」
 そうしているうちにチャイムが鳴り、私達は玄関へと急いだ。


「お誕生日おめでとう、ひよりちゃん(ひより、ヒヨリ)!」
 三人の掛け声の後に、クラッカーが弾ける音がして。
 私は改めて今日が自分の誕生日であることを実感した。
「ホントは玄関で三人でヒヨリを待ち伏せしたかったのでスが……」
「ひよりが来るのが早かったから……」
「う、ごめん……なんか遅れちゃいけないかなと思ったら早く着きすぎちゃって」
「マァ、ヒヨリらしくていいでスけどネ」
 パティはそう微笑うと荷物の中から綺麗な包みを取り出して、
「デハ、さっそくpresent timeにしまスか?」
「そうだね、少し早いかもしれないけど、早めに見てもらいたいしね」
「うん、いいと思う」
 ゆーちゃんとみなみちゃんもパティに続いた。
 二人は手のひら大の包みで、パティは少し大きい薄めの包み。
 三人が三人とも私のために用意してくれたプレゼント。
 一体何が入っているんだろう?
「じゃあ、私からね。はい、おめでとうひよりちゃん」
「ありがとう、ゆーちゃん」
 丁寧なラッピングを解いていくと、出てきたのは指輪を入れるような箱を少し大きくしたような箱だった。
「開けてみて?」
 ゆーちゃんに促されてそれを開けると、中から見えたのは緑色の光。
「わ、綺麗……」
「エメラルド、だよ。ひよりちゃんの誕生石」
 リボンのモチーフに輝くそれは小さいながらも毅然とした、しかし目立ちすぎない光を放っていた。
 エメラルドのネックレス。それがゆーちゃんのプレゼントだった。
「It's a beautiful... 素晴らしいでス」
「本当、すごく綺麗」
「でもこれ、高かったんじゃない?」
「ううん、インターネットで探したら結構安く手に入ったんだよ。
 こなたお姉ちゃんにも手伝ってもらって、どれがいいかなーって。
 いくつか候補はあったんだけど、最終的にはリボンの形のそれにしたんだ。
 リボンは私、エメラルドはひよりちゃんで……その、そんな風に一緒にいれたらいいな、なんて思って」
 ああっ、もう、この子は。どうしてこんなに可愛いんだろう。
 少し照れて赤くなっているその表情なんて、反則だよっ。
 でも、今の言葉、嬉しかったな。
「ありがとう、ゆーちゃん。大切にするね」
 このネックレスが、二人の象徴が壊れてしまわないように、大切に。
 仮に壊れちゃったとしても、私達の関係までは簡単に壊れたりしないだろうけど、
 ゆーちゃんがそういう意味を込めて渡してくれたんだもん、大事にしなきゃね。
「うん、でも、たまに付けてくれるともっと嬉しいかな」
「そ、そだね、ごめんごめん。よ……っと。えと、どう、かな?」
 ネックレスを付けてみると、みんなの顔がみるみる輝いていって。
 私はこれから先何年分かの褒め言葉を一気に浴びることになった。

「じゃあ、次は私……。おめでとう、ひより」
「ありがと、みなみちゃん」
 みんなの興奮と私の戸惑いもやや冷めやらぬ中、
 私がみなみちゃんから受け取ったものは、
 ゆーちゃんと同じくらいの大きさの、けれどゆーちゃんのよりも少し重い箱で、
 中を開けてみると、可愛らしいピンク色のボトルが入れられていた。
 私はそれまでこういうものを持ったことはなかったけれど、
 そんな私でもすぐにこれが何なのかは見当が付いた。
「これは……香水?」
「うん……香り、どうかな?」
 みなみちゃんにそう言われて、キャップを取って香りをかいでみる。
「あ……いい香り」
 それは甘すぎず、爽やかで品のある香り。
 全体的にはバラのような香りで……ん、薔薇?
 まさかみなみちゃん、私の趣味を知っててこれを?
 って、んなわけないでしょ……自重しろ、というか何考えてるんだ私っ!
 そんな私の脱線しかけた思考を知る由もなく、みなみちゃんは優しく微笑んで、
「よかった、気に入ってもらえて」
「うん、すごくいい香りだよ、これ。ありがとう、みなみちゃん。
 でも、私こういうの持ったことないから……どうやって付けたらいいのかな」
「ううん、別に無理して付けなくてもいいから……」
「えっ? でも……」
「その香水の名前を見てみて」
「名前?」
 そういえば何かボトルに文字が書いてあったっけ。
「えーっと、『Forever and ever』?」
「そう……ゆたかと同じになってしまったけれど、その言葉が本当の私からの贈り物」
 『Forever and ever』、それにぴたりと当てはまる訳は今は上手く思いつかないけれど、 
「これからもずっとよろしくね、ひより」
 みなみちゃんの真っ直ぐな気持ち、ちゃんと伝わったよ。ありがとう、みなみちゃん。

「デハ、最後はワタシでスね」
 そう言ってパティが手に持っているもの。
 実は私は既にその中身の大体の予想はついている。
「誕生日おめでと、ヒヨリ♪」
 この大きさ、そして手に持ったときに分かるこの重さ、厚み。
「パティ……これ、『アレ』でしょ」
「Non non,タダの同人誌ではアリませんヨ~?」
 あ、せっかく隠してたのに自分で言っちゃったよ……。
 いやまぁ、隠すことでもないような気もするけどさ。
 それにしてもパティらしいプレゼントだなぁ。
 って、私もパティの誕生日に同じものをあげたから人のことは言えないんだけど……。
 でも、ただの同人誌じゃないって、一体?
「はっ、こ、こここここれはぁっ!!?」
 中身を見て、私は思わず声を張りあげてしまった。
 だって、それは私が欲しくて欲しくて、
 でもお店でもサークルのほうでも在庫がなくなっちゃってるやつだから、
 もうほとんど諦めていた本だったんだもん!
「喜んでもらえましタか?」
「うん、うん! すごいよこれ、超レアなやつじゃん!! どうやって手に入れたの?」
 私は興奮気味、というかあからさまに興奮してパティに聞いた。
「禁則事項でス♪ と言いたいところでスが、
 実はワタシのバイトしているmaid喫茶の常連サンが、ナントそのサークルの人だったのでス。
 いろいろ話しているウチに、ホカン用に数冊取ってあった内の一冊を譲ってもらえることになったのでスよ」
「へぇー、役得ってやつだねぇ。っていうかすごっ! 私も会って話したいよ~」
「デハ今度その人に予定を聞いておきまスね」
「やった! ありがとう、パティっ!」
「Oh,突然のhugなんて、ヒヨリは大胆でスね~」
 まさかこんなことになるなんて。
 泉先輩もおごってくれるって言ってたし、これはもう今から楽しみだっ。
「あ」
 ふと我に帰って横を向いてみると、当然のように困惑の色を浮かべているゆーちゃんとみなみちゃん。
 もしかして、いや、もしかしなくても、また私やっちゃった?
「……ごめん、二人とも……」
「Don't mind ヒヨリ、ソレでこそ立派なA-Girlでス」
 パティの一言が妙に胸に染みた。
「で、でもひよりちゃんがそこまで喜ぶんだから、
 そんなにその本がすごいってことだよね。どんな本なのかな、見てもいい?」
 ちなみに私が今までこの本を手に入れられなかった理由は、ただ単に在庫がないからって理由だけじゃない。
 実は私の年齢的なものも関係しているわけで、つまりそれはどういうことかというと……
「こ、これはだめっ! ゆーちゃんには、その、ダメっ!」
「NO! オナカマを増やすchanceでスよ、ヒヨリ!」
「いやいやいやいや、なに言ってんのパティ! さすがにそれはまずいから!」
 ゆーちゃんには悪いけど、ゆーちゃんのキャラのためにもこれは見せるわけにはいかない。
 ゆーちゃんとみなみちゃんは、
 今まで私達と付きあってきただけあって全てを察したのか、
 顔をちょっと赤くして、さっきと同じように困った表情になっている。
 ごめんね、こんな私だけど、これからも仲良くしてあげて下さい。


 騒がしくなってしまったプレゼントの時間も終わり、
 私達はお菓子やジュースをお供におしゃべりをしたり、ゲームをしたりした。
 ちなみにこの日私はさんざんだったわけで……
「サァ、どっちにしまスか?」
(確率は……二分の一! 右か、左か、どっち?)
「てりゃーっ、右だぁっ! だぁーっ、またジョーカーじゃんっ!!」
「残念でシたね、ヒヨリ」
「まだだ、まだ終わらんよ! 今度は私のターン! さぁ、どっちを引く、パティ!」
「Hmm, デハ、こっちをドローしまス! Oh,yes! 私の勝ちでスね~♪」
「うう、これで5回連続負けだよ~……」

 * 

「『仕返し』……誰かを十五マス戻すか、十万ドルもらうか……?」
「ドウしまスか、ミナミ?」
「じゃあ……一番先に進んでいる人を、十五マス戻そうかな……」
「一番進んでる人っていうと、ひよりちゃん?」
「ごめんね、ひより」
「いいよー、ゲームだし、これくらいどうってことないもんね。
 それなら次の私の番で取り返すまでっ! いよっと……やった、十の目!」
「あっ……」
「……ごめん、ひより」
「えっ、どういうこと……? ああっ! 十マス先って、『ピカソの絵を購入、三十万ドル支払う』じゃん!!
 これさっきも止まったのにぃっ……うう、また借金が増えたよ~……」
「子供の数だけは多いんでスけどネ、ヒヨリは……」

 *

「じゃあ、負けたひよりちゃんとパティちゃんは……抱き合って一分間見つめあうことっ!」
 そんな感じで何をやっても負けばかりだった私が、
 ゆーちゃんの罰ゲームの餌食となるのは、そう時間のかからないことだった。
「ツイに来ましたネ、このトキが……」
「うん、こうなるんじゃないかとは思ったけど……ってパティ、なんでそんなにニコニコしてるの?
 ……はっ! パティはこの状況を恥ずかしがるよりも、むしろ逆に楽しむタイプ!
 これって私の公開一人罰ゲームなんじゃ……?」
「さぁさぁ早くぅっ、みなみちゃん、カメラの用意はいい?」
「ゆたか、ノリノリだね……」
「ではヒヨリ、Are you ready?」
 パティが妙に子悪魔チックな笑みを浮かべて聞いてくる。
「い、イエス……」
 待て待て、何でたじろいでるんだ私。
 今からすることだって、パティと抱き合って、み、見つめ合うだけじゃん。
 抱き合うだけならさっき私からもしたし、全然問題ないもん。
 うう、駄目だ、やっぱりなんか緊張する……。
「じゃあ、スタート!」
「わ、わわっ」
 ゆーちゃんの掛け声と共に近づいてきたパティは、
 躊躇もせずに私の腰に手を回し、私の体をぐいっと引き寄せた。
「ち、ちちち近い近いっ! 近いって、パティ!」
 隙間が全くないほどの密着状態。
 身長差があるとはいえ、私とパティの顔は今にも危ないことになりそうなくらいだ。
「ほらほら、ひよりちゃんもパティちゃんに抱きつかなきゃっ。
 それから一分間だからねっ? あと、ちゃんと見つめあうのも忘れずに」
「ゆたか、なんだかキャラが……」
 どうやら私はとんでもない子を敵に回してしまったらしい。
 うう、あのときはごめんね、ゆーちゃん。まさかこんなにこっ恥ずかしいものだったなんて。
 今更謝っても、許しちゃくれないだろうけど。
「こ、これで、いいかな」
「No,ヒヨリ、ちゃんとワタシの目をみないとダメでスよ?」
 なんでゆーちゃんじゃなくてパティがそれを言うのさ。
 仕方ない、意を決して……って、何で私はこんなに身構えてるんだろう。
 単に目を見るだけだよっ。簡単簡単っ。
「うん、そうそう。じゃあ、一分間はじめっ!」
 ゆーちゃんの手にいつの間にか握られていたストップウォッチが動き出し、
 私の長い長い一分間が始まった。
 目の前にはパティの顔。これだけ間近で誰かに見つめられることはないから、ちょっと恥ずかしい。
 ……それにしてもパティ、目ぇおっきいなぁ。吸い込まれちゃいそう。
 きっとバイト先でも人気高かったりするんだろうな。
 改めて思うけど、女目線で見たってすごく可愛いし……。
 うあー、なんでだろ、なんかドキドキしてきた……落ち着け私、相手はパティだぞ~……。
「三十秒経過!」
 やっと三十秒かぁ、意外と長いなぁ……
 ていうかパティ、なんか迫ってきてない?
 き、気のせいだよね? い、いや、なんか心なしかパティの目が私を狙ってるようにも!?
 そんなそんなっ、わわ私まだ心の準備が~ってそういうことじゃなくって!
 ダメだって、二人が見てるんだから! って、そういうことでもなーいっ!
 じ、時間はっ!? もう三十秒くらいたったよねっ? ゆーちゃん、早くコールを! 
 ああああっ、パティ、何ちょっと顔を傾け始めてるのさ! 目を閉じないの! 口も突き出さない!
 誰かっ! HELP! I need somebody!
 ゆーちゃんもムービーとか撮らなくていいから!
 ひあぁ、テンパりすぎて頭がくらくらしてきた……
 とにかく誰かーっ! 助けてぇっ!
「あ、ごめんごめんっ、二分くらい経ってたよ~。じゃあ、お終いっ!」
 え、終わり? ほっ、よかっ……た……
「ひよりちゃん!? 大丈夫!?」
「Oh,no! しっかりシテください! ヒヨリ!!」

 極度の緊張から開放された安心感からその場に倒れこんでしまった私がようやく目をさましたのは、
 それから十数分ほど経った後だった。
「Sorry~、少し度がスギましたネ……」
「もー、あの時はホントにキスされるかと思ったんだから……」
「ね。私達は事前にパティちゃんからそういうことをやるよって聞いてたから
 ある程度は安心して見てたけど……それでも本当にするんじゃないかなって思っちゃったもん」
 私がさんざんあたふたさせられたパティのあの行動は、案の定タチの悪い悪戯だった。
 それにしても、まさかゆーちゃんたちもグルだったなんて……。
 誕生日なのにっ! 今日は一応私の誕生日なのにぃっ!
「でも、ひよりの反応、可愛かったよ……」
「Ye~s,ワタシもヤリがいがありましたヨ」
「そうそうっ、なんだか小さな動物さんを見てるみたいだったもん。
 あ、ムービーあるよ、見る? 特にラスト二十秒くらいがすごく良くってねぇ」
「泣くよっ!? 私もう泣くよっ!?」
 その後、携帯をテレビに出力してのムービー上映会が始まり、
 私は十七の誕生日に一生心に消えないであろう深いキズを残した。
 みんなの笑顔と共に。
「アノ……ヒヨリ? 機嫌直して下さいネ~……」
「うん、ごめんねひよりちゃん、ちょっと調子にのりすぎちゃったかも……」
「誕生日なのに、私の誕生日なのに……」
 体育座りをしてむくれる私の機嫌を直すのは大変だった、というのは、後のパティの談。




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