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かがみはそれをがまんできない 前編

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 状況証拠




 そろそろ帰ろうかな……。
 少しの集中力の低下と、かなりの空腹をこれ以上放置するわけにもいかず、読んでいた本から顔を上げた時、かがみの嗅覚は秋の味覚の匂いを捉えたのだった。




 週末。
 土曜日。
 かがみは自転車でこなたの家へと来ていた。
 「朝も早よからご苦労だねー」
 出迎えたこなたが言う。これは歓迎の意を表しているのかどうか、かがみは疑問に思わずにはいられない。
 「いや、あんたが呼んだんだろ?」
 かがみが泉家の敷居をまたいだのは午前九時。確かに早い。
 「いやー、かがみの家だと色々と主導権を握られちゃってねー」
 「宿題を写させてもらうのに支障が出ると?」
 「あ、あははは……」
 こなたときたら、誤魔化し笑いのついでにあくびまでサービスする。
 「あんた、ちゃんと寝たの?」
 「うん一応」
 「一応ね……」
 来客の予定に自重する程度には、といったところだろうか。
 「ほら、さっさと始めるわよ。私だってまだ手をつけたばっかなんだから」
 そう言って廊下を先に歩くかがみ。こなたは靴を揃えてやってからそれに続く。
 「つかさは?」
 「まだ寝てる」
 「だよねー。宿題は大丈夫かな? 私が心配するのも変だけど」
 「帰ったら尻拭い確定ね」
 「大変だね~。家出しちゃえば?」
 「極端なこと言うな。むしろ誰かさんが自助努力して、負担を軽減してくれれば助かるんだけどね」
 こなたの部屋のドアを開けるかがみは、横顔の目が座っている。
 「むう~、かがみのためとあらば、頑張らねばなるまい」
 そんなこなたの一大決心(?)とともに始まった対宿題戦は、思いの外早く午後1時には片付いてしまった。こなたの奮闘ぶりを珍しくかがみが褒める。
 「さすがに一夜漬けが得意とあって、短時間の集中力はなかなかね」
 「ふっふっふ、本気を出せばこんなもんよ。問題は長続きしないことと、覚えた事をすぐ忘れちゃうことなんだよね」
 「それは問題だ。大いに問題だ。断じて改めろ」
 そう言いながらかがみはふと、努力は惜しまないがなかなか結果に繋がらないつかさとの比較をしてしまう。そもそも、もう起きているだろうか?
 「つかさにも見習ってほしいわね。あんたもあんたで、つかさを見習ってほしいんだけど」
 「また謎なことを言うね~。じっちゃんの名にかけて、その意味するところを解けというんだね?」
 「『こなちゃんのくせに』って言われない程度にはなりなさいってことよ。さて……」
 かがみ、妙にそわそわした様子を見せる。
 「お昼かい、かがみ?」
 「もう一時よ。当たり前でしょ」
 「クラッカーにする?」
 「いや、まともなものが食べたい。ていうか、あんたはお腹減ってないの?」
 「かがみとは生活のサイクルが違うし」
 「そうだったわね。ごめんね、私のサイクルに合わさせちゃって」
 「いーえぇ。それに元々小食だし」
 「コロネ一個でもつものね」
 「寝食を忘れちゃうこともしばしばだし」
 「勉強と宿題もな」
 「自分より、ゲームキャラの食糧確保に奔走したり」
 「さしあたり、私の食糧確保に助言してくれるとありがたいんだけど」
 「かがみを操作できる?」
 目を星だらけにして握り拳のこなたが迫る。
 「だとしたら何をさせたいんだ?」
 「アンナコト、コンナコト、イケナイコト」
 「帰っていい?」
 丁度ノートや教科書をバッグに戻したところだったかがみが、立ち上がって言った。
 「あ゛~~、タンマタンマ」
 こなたは抱きついてでも止める。
 「宿題終ったんだし、私は用済みでしょ」
 少しとがらせ気味の唇が、拗ねたように言う。
 「も~、分かってないなあ」
 肩や二の腕にすりすりしながら、こなたが言う。
 「かがみと遊ぶ時間がほしくてかんばったんじゃないか」
 そう言ったらかがみの顔に朱が差した。
 ツンデレキタ!?
 「私がいないとなれば、つかさが一人で頑張るかもしれないからね」
 「そうだねー」
 「べ、別にあんたのためじゃないんだからね」
 「お約束通りのセリフをありがと」
 というわけで二人は昼食を買い求め、泉家を出る。
 秋めいてきた空と街と空気が、外歩きにはこの上なく心地よい。
 夏よさらば。悲しいかな、出会いの季節は去った……。
 まあ、退屈だけはしないからいいんだけどね。
 隣で揺れるアホ毛を見ながら思う。
 「弁当じゃないんだ」
 視線に気付いたこなたが問う。
 「まあ、ね。途中で買うこともできただろうけど、どれくらいお腹が空くか予想がつかなくて」
 「それって今年何度目かの……」
 ……ダイエット?
 声に出さず、口だけ動かして言うと、かがみの顔に悲壮かつ壮絶な表情が浮かぶ。
 「体重計が秋を先取りしちゃったか」
 「どうせ私は馬よ……」
 肩を落として、怪談シーズンに遅れてやってきてしまった幽霊のように生気のない顔で歩くかがみが気の毒になってしまったので、こなたはこう言う。
 「わ、私もやろうかな」
 幽霊がこちらを見る。
 「あんたに必要なのは、縦方向の逆ダイエットでしょ」
 「それが出来れば苦労しないよ」
 「私も同じよ」
 「なるほど」
 こなたには初めてダイエットに関する実感のようなものが湧いた。
 「よく分かった」
 「まあいいじゃない。需要あるんでしょ」
 「アレは自分で言うから慰めになるんだけど……」
 コンビニの前を通り過ぎ、スーパーの方へ歩き続ける。軽食ならそちらの方が安くて量も多いものが、惣菜コーナーに置いてある。
 「値段はともかく、量は別にね……」
 そう言うかがみは、小食のこなたをして「これだけ」と思わしめるほどしか購入しなかった。


 昼食が済んでしまえば、やることもない。
 二人して漫画を評論したり、ゲームをしたり。やがてこなたの一人プレイとなり、かがみは持ってきた本を開く。異変らしい異変といえば、かがみがおやつをつままなかった事くらいだろうか。
 やがて夕刻となり、かがみが立ち上がる。
 「そろそろお暇するわ」
 「ああ、もう?」
 こなたはゲームを止め、時計に目をやる。
 6時35分。夕焼け小焼けでまた明後日といった感じの時刻だ。
 「あれ?」
 読んでいた本をバッグに仕舞ったところで、かがみは嗅覚が捉えた秋の味覚が、やはり錯覚ではないことに気付く。
 「いい匂いがするわね」
 窓を開け鼻で深呼吸し、左右を見渡す。
 「どこかの家が松茸ご飯を炊いてるみたいね」
 「ああ、それウチ」
 「え?」
 自分の顔を指差すこなたは、ずっとゲームをしていた。ということは……。
 「準備はおじさんがしてるの?」
 「うん。先月出した本が予想より売れてね。国産モノを奮発したんだって」
 「へー」
 いいわね、と言いかけた言葉を慌てて飲み込む。それではまるでご相判預かりたいと言わんばかりではないか。
 「よかったわね、いっぱい売れて」
 松茸ご飯ではなく売り上げに対して言うことで、これを切り抜ける。あ~、お腹減った……。
 「お父さんの場合、趣味に消えるお金が増えるだけなんだけどね」
 「あんたがバイト始めた動機も同じようなものだったわね」
 「松茸は買わなかったけどね」
 廊下に出てもなお話す。
 「手伝わなくてよかったの?」
 「かがみが来るって言ったら、俺がやるからいいって」
 「あー、そうか……」
 ありがたいし、悪いとも思うのだが、何か微妙にウラがありそうに感じるのは気のせいだろうか?
 「おじゃましました」
 泉家は二階にキッチンがあるという特異な構造なので、階段のところで二階にいるであろうそうじろうに辞去を告げる。すると慌てたような足音とともにそうじろうが階段の上の現れ、手招きする。
 「かがみちゃん、ちょっとちょっと」
 「何ですか?」
 和服の上にエプロンで頭巾という奇妙ないでたちのそうじろうについてキッチンまで行くと、それがあった。
 「?」
 二重にしたボウルの間に氷水を入れ、内側のボウルには炊きたての松茸ご飯が湯気を立てていた。冷凍保管するための処置のようだが……?
 「いやー、炊きすぎちゃってね。邪魔にならないなら持って帰らないかい?」
 「い、いいんですか?」
 声が震える。味覚と嗅覚と消化器系の全てが疼く。食べたい! 食べたくて仕方ない!
 「じゃあ……いただきます」
 「そうかそうか。確かかがみちゃんのところは、今日は三人なんだよね」
 両親は神社・仏閣を巡るため東北へ旅行中。長女は出張というわけで、柊家は学生ばかり三人である。夕食の準備はまつりとつかさに任せてある。
 それにしても腑に落ちないのは、そのことはこなたが話したんだろうけど、いちいち覚えている必要はあるのだろうかということだった。
 「たらふく食べるのには足りないけど、中ぐらいのおにぎりして食べるくらいなら三人分あるから」
 「あ、ありがとうございます」
 深々と頭を下げる。
 「じゃあ、冷えるまで待っててねー」
 こなたはそう言って、しゃもじでことさら冷却中の松茸ご飯をかき混ぜ、香りを散らす。虫が鳴かないよう、かがみは慌てて腹を押さえた。
 「つまみ食いはダメだよ」
 「誰が! こ、子供じゃあるまいし」
 「ダイエット中の女の子と、減量中のボクサーほど手癖の悪い生き物はいないって言うけどねー」
 サラダ用のプチトマトのヘタをとっていたそうじろうが、手を滑らせそうになる。女子高生の生な会話(??)、ええなー。
 冷却が終るまでの間、かがみは椅子の一つに座り、人が変わったようにじっと松茸ご飯を見つめていた。まるで湯気が出なくなる過程を観察するかのように。
 「食べたくてしょうがないって顔に書いてあるね」
 そう言うこなただが、五感のうちの二つはおろか、消化器系まで疼いたといったらどんな顔するだろうか。
 「俺にも見えるぞ」
 そうじろうは、かがみがどれほどの苦痛に耐えているかを想像してみる。ダイエットに加え、普通に腹が減る夕刻時。その上ご馳走を前にしてのお預け状態だ。
 そうじろうはそれを、実に彼らしい言葉でこう例えた。
 「イキたくてしょうがないのに、寸止めされてイカせてもらえない時の顔みたいだな……」




 食品用の小さいポリ袋に入った冷却済みの松茸ご飯とともにかがみが辞去すると、泉家では夕食が始まる。親子二人きりの食卓も早十数年。今さら寂しさもないものだが、かがみが帰った直後だけに、食べてけばいいのにと思うところがないわけではない。帰るのが遅くなっちゃうし、まつりさんとつかさが待ってるもんなあ……。
 「かがみちゃんとは何したんだ?」
 そうじろうが何かを期待して尋ねる。
 「宿題やったりゲームしたり、かがみは本も読んでたよ。おとーさんが期待・妄想するようなことは何もなかったから」
 目を輝かせるそうじろうに、こなたは釘を指す。本当にぶっ刺したろかと思うほどに。
 「そーか……。あの顔に伏線があるのかと思ったけどなあ」
 「私がそうさせたとでも?」
 「ん~、んなわけないか~」
 娘に睨まれ、誤魔化すように手を振る父。白状してどうする?
 片付けはこなたが一人でやる。髪をまとめ、食器を水に漬け、スポンジを持ち、洗剤をつけ……。
 「今日はいい番組がないな。録画でも見るか」
 テレビをつけたそうじろうがぼやく。
 「それなら私、BGMにしたいのがある」
 未鑑賞のDVDを聞きながら皿を洗おうと、こなたは自室に向かった。
 「あれ?」
 目当てのDVDを手に部屋を出ようとすると、ベッドの上に見慣れぬ文庫本が転がっているのを見つけた。かがみの忘れ物のラノベだった。
 時計を見る。そろそろ家に着いた頃だろう。こなたも自転車で柊家に行ったことがあるから、所要時間は大体分かっている。よし、電話してたまのドジッ娘ぶりをからかってやるか。
 「もしもし、泉ですけど」
 「あ、こなちゃん」
 柊家の電話を取ったのはつかさだった。
 「あ、つかさ? かがみ帰ってる? そろそろ着いてる頃だと思ったんだけど」
 「お姉ちゃん? まだだけど」
 『つかさー、出来たよー』
 まつりの声が聞こえてきた。
 「あ、ごめんね。そっちはこれからなんだ」
 「うん。お姉ちゃんを待ってたんだけど……」
 仕方ない、ドジッ娘ぶりは諦めるか。
 そう思ってつかさに伝言を頼もうとした時……。
 『ただいまー』
 かがみの声がした。
 「あ、お姉ちゃんだ。替わるね。(声が少し遠くなる)お姉ちゃんお帰り。こなちゃんからだよ」
 『ええ!? こなたから?』
 かがみはやけに慌てている様子である。さては空腹が限界で、早く夕食にありつきたくて焦ってるな。
 そう思ったこなたは、誘拐犯からの電話に臨む被害者家族のように、引き伸ばしてやろうとした。いやむしろ、イキたくてしょうがないのを焦らすように?
 「何?」
 かがみが電話口に出る。
 「やあ、かがみん」
 「うん」
 「ごきげんうるわしゅ」
 「うん」
 反応がなんだか淡白だ。ツンデレで空腹ならもっとこう……。
 「無事にお着きのようで、お慶び申し上げます」
 「そうじゃなきゃ電話になんか出ないわよ」
 おー、これこれ。こんな感じ。
 「ではかがみ様。バッグの中をご覧ください」
 「え!?」
 かがみはまたもや、やけにうろたえたような声を上げる。
 「何かが足りないはずだよ」
 「うう……」
 今度は呻く様な声。そんなにお腹が減っているのかな?
 そしてはじまる長い沈黙。長い長い沈黙。長い長い長い沈黙。長い長い長いなg―
 空腹で倒れちゃった? いや、床にぶつかる音とかしてないな。でも音がしないといえば、かがみのお腹の虫……じゃなくて、バッグを漁るような音も聞こえない。
 「おーい?」
 「はう!!」
 大げさに驚くかがみに、こなたの方が手にしたDVDを落としそうになる。
 「あの、かがみ? 本忘れていったよ」
 「え?」
 がさがさ、ごそごそ……。バッグを漁る音が聞こえてくる。やはり最初は探してさえいなかった? それに、かがみが本をしまうところ見なかったっけ?
 「あ、本当だ」
 ようやくという感じで、かがみはほんの事に気付いた。
 「実は二冊持っていったのよ」
 「読むの速っ!」
 宿題が終ったのが午後一時。それから昼食を買って来て食べて、ゲームした後に読み始めたのだから……。
 「それって何て速読法?」
 「いや、片方は読み終わる寸前だったのよ。忘れたのは読み終わった方。うっかりしてたわ」
 なるほど。かがみが本を仕舞うのを見たのは間違いではなかった。
 「萌えないねー、それ」
 「何よ?」
 「いや、その一冊だけ忘れるって言う中途半端なドジッ娘ぶりが」
 「別に、あんたを萌やかすために読んでるんじゃないんだけど」
 「どうせならこう、二冊とも忘れたついでに、私の本を本棚ごと持って帰っちゃったとかさ。そんなのよろ」
 「それはドジッ娘じゃなくて引越し屋だろ」
 「松茸ご飯の香りに惑わされちゃったってっとこカナ?」
 「まあ、そんなとこ……。わるい、月曜に学校に持ってきてくれる?」
 「いいよ」
 「それまでに読んでもらっても構わないし」
 「文字ばかりの本はちょっと……」
 「おもしろいから、読んでみなって」
 「背表紙には<下巻>ってあったような気がするんだけど?」
 「<上巻>を買ってきてでも読む価値あるよ」
 「挿絵だけ堪能させてもらうよ」
 「それが関の山ね」
 「それより、長電話いいの? 凶暴なかがみのお腹が、電話を食べたくてうずうずしてない?」
 「食うか!」
 つっこむ元気はあるらしい。
 「でも、あんたがそう言うのなら切るわよ」
 「あい」
 「月曜、本お願いね」
 「あい」
 「じゃ」
 「あーい」
 受話器を置いてからふと思う。つかさとまつりさんが考えた今日の献立は何だろうか? 松茸ご飯に合うかな? まあ合わなくても保管処理はしてあるから、明日にでも食べてもらえばいいでしょ。
 そんなことを考えながらこなたが皿洗いを再開したのが、土曜の夜のことだった。


 つづく























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  • 我慢できずに全部食べちゃったかがみん萌えw
    -- 名無しさん (2008-06-11 00:12:50)
  • 空腹かがみカワユス -- 名無しさん (2008-06-10 06:26:35)

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