さて、とある初夏の週末。
こなたとみゆきは、柊家で開かれた勉強会へと足を運んでいた。
勉強会といっても、こなたとつかさにとっては一方的に恩恵を預かるためのもので、分からないところがあるとみゆきの手元へ首を伸ばし、あるいはこなたなどは図々しくも、絨毯をめくる要領でみゆきのノートの前のページを覗き込んだりする始末だった。かがみは常識家と良識人の名に恥じず、そんな二人に苦言を呈したりもしたのだが、みゆきはというと気を遣っているのか、眼中にないのか、はたまた持ち前の集中力で脳が別世界旅立ってしまったのか、一向に気にも留めない様子でそれらの暴挙を看過したばかりか、土産として全員分のケーキまで持参してきていた。単にみんなで、ケーキしてお茶したかっただけなのかもしれない。
夕刻を迎えて程なく宿題も片付き、少し遅いおやつの時間と相成る。
「持ってくるね」
冷蔵庫に一時預かりとなっていたケーキを取ってくるべく、つかさが部屋を後にする。
「あ、私も行きます」
みゆきもそれに続く。
「かがみは行かないの?」
こなたが四人掛けの座卓の左から聞いてくる。かがみから見て右がつかさで、対面がみゆきである。これはずばり、恩恵享受班の二人がみゆきの手元を見やすくするための配置である。この点でみゆきは、かがみをも凌いで圧倒的な信用と信頼を勝ち得ていた。鬱陶しくなくていい、とかがみは思うのだが、自分を客観的に(悪く言えば他人事のように)見る事に長けたB型の血で稼動する脳には、それが負け惜しみっぽく映ったため、口にはしなかった。
「こういうことは、つかさに任せとけばいいのよ」
「そだねー」
こなたは、含むところあるように笑う。
「かがみは、ケーキも爆発させるタイプ」
「させるか! ていうか、しないだろ!」
「飲み物とって来るね」
つかさが再び部屋を出て行く。みゆきは皿を並べ、もって来たイチゴのショートケーキを乗せていく。
「いただきます」
かがみは早速フォークでケーキの一角を崩し、口に運ぶ。鼻まで抜けるほどのふんわりとした生クリームの甘みが、口に広がる。冷蔵庫一時預かりだったためケーキらしからぬ冷んやり感があったが、初夏の暑気ゆえかえって心地よい。それらを抜きしにしても旨いケーキだ。どこで買ったのか聞こうとみゆきを見ると、かがみは変なものを目撃することになってしまった。
「はい、みゆきさん、あ~ん」
つかさが戻るのを待ちケーキに手をつけないでいたみゆきの口元に、こなたがケーキを掬ったフォークを持っていく。
「泉さん……?」
「こなた……?」
二人は、まるで異次元からの来訪者(まあ、たぶんに二次元世界の住人であるが)を見るような目をしていたが、しかしこなたは至って真剣だった。
「あ、あ~ん」
みゆきはおっかなびっくり口を開き(他人が手にしたものを口に入れるのは、歯医者の治療台の上にいる場合と同じなので、怖くて仕方がない)、ケーキを迎え入れる。
「おいちい?」
こなたが聞く。
「は、はい」
歯痛に襲われたような顔でみゆきが肯く。
「それは良かったでちゅね~」
こなたは満足げに笑い、みゆきの頭をなでなでする。なぜこなたは赤ちゃん言葉なのか?
「こなた……」
つっこもう。非難しよう。やめさせよう。何とかしよう。
かがみは、頭で考えるよりも早く、直感でそう思った。たぶん、みゆきが危険だ。
だが唇が言葉をつむぐより早く、つかさが戻ってきた。新たな危機がやってきた!!
「は~い、ジューチュでちゅよ~」
つかさも赤ちゃん言葉である。それだけならまだましであるが、彼女が持ってきたのは、“愛媛の真面目なジュース”のボトルと、グラスがなぜか三つ。そして哺乳瓶が一本、盆の上に乗っていた。
かがみとみゆきが呆気に取られる眼前で、つかさは哺乳瓶に愛媛を入れていく。後でわかったことだが、これはつかさのお古である。
「は~い、ゆきちゃ~ん。たくちゃん飲みまちょうね~」
つかさはみゆきの背後に回り、哺乳瓶を口元へ持っていく。呆然として動けなかったみゆきだが、うっかり口を開けていたため、哺乳瓶の吸い口を咥えさせられてしまった。仕方なしにというよりは否応なしに、みゆきはチュッチュッと音を立てながら、愛媛を飲み干すこととなった。
「おいちかったでちゅか?」
「は、はい……」
みゆきは、声も表情も怯えていた。
「そうでちゅか~、よかったでちゅね~」
つかさはみゆきをぎゅうぎゅうと抱き締め、頬ずりをする。
「ちょ、ちょっと!」
ようやく行動に出ることの出来たかがみが、座ったままのみゆきを引きずるようにして、二人から引き離す。
「何やってんのよ、あんたたち!」
こなたとつかさは、叱られても悪びれずにこう言う。
「何かみゆきさんから、甘い匂いしてね~」
「ウズウズしちゃったの。母性本能じゃないかな」
「匂い?」
よせばいいのに、かがみはへたり込んで目をθみたいにしているみゆきを嗅ぎまわる。
「するわね、甘い匂い」
かがみは納得し、そして暴挙に出る。
「よいしょ」
かがみはお姫様抱っこで、みゆきを持ち上げた。
「か、かがみさん!?」
びっくりしたみゆきは、かがみの首っ玉に抱きつく。
「あ~、ごめん。何か急にみゆきを乳母車に乗せたくなっちゃって」
「乳母車って……ベビーカーって言おうよ、かがみん」
「まだあったっけ、ベビーカー?」
「そういえばなかったかもね」
かがみは仕方なく、みゆきをベッドの上におろした。
「ないのに乗せたくなったんですか~?」
どうやらみゆきの甘い匂いに中(あ)てられ、かがみも母性本能(?)が発動してしまったようである。ではその原因は何か?
「汗ばむ季節になりましたから」
「「「うん」」」
三人は、母というよりはむしろ子のようにみゆきに寄り添い、油断なく嗅ぎ回っていた。
「それでですね……あせもが出来ないように使っているんですよ。シッカロール、いわゆるベビーパウダーを……お恥ずかしながら」
「それで赤ちゃんの匂いがしたんだね」
哺乳瓶の、特に吸い口をいじりながらつかさが肯く。こなたとつかさが先に発動したのは、みゆきの手元を覗き込むたびに嗅いでしまったからだ。
「どこにあせもが出来ちゃうのカナ?」
こなたが聞く。
「か、体です」
「体の?」
みゆきが誤魔化し笑いを浮かべるが、なればこそ三人は、有無をいわさずに言わせようとする。
「「「体のどこ?」」」
「はわわわ……」
みゆきは後じさりするが、ベッドの上なのですぐに壁に背中がついてしまう。三人はベッドに手を駆け足をかけ、なぜか服を脱ぎながらみゆきに迫る。
「「「体の?」」」
「ここここ、ここ、ここです」
ニワトリのように震えながら、みゆきは恐る恐るその手を、たわわに実った自身の胸の下張りへ持っていく。
「胴体と接する部分がこすれて、あせもになってしまうんです……よ?」
上衣をほぼ脱ぎ終わりつつあった三人に訪れた変化は、苛烈かつ劇的だった。
「「「あははははははは!!」」」
バカ笑いしたのである。
「笑っちゃうよね~」
「ね~」
「あせもか~」
そして三人三様に肩を落とし、どよーんとなる。このアップ・ダウンの差は、まるで中毒症患者のようだ。何の?
「あの、みなさん?」
「いやー、空しくなっちゃってね~」
代表してこなたが答える。
「だってさ、私らみゆきさんに赤ちゃんを嗅ぎ取って、母性本能がフェチったわけじゃん」
「はあ」
「んで、授乳しようと思ったわけよ」
そのために脱ぎ始めたのだ!
「出ないと思いますよ」
「それはみゆきさん次第でしょ。上手に吸ってくれれば、こう……」
「全く自信がありません」
「それなのにさ」
三人は、みゆきの胸を恨めしそうに見る。
「みゆきさんの方がよっぽど母乳出そうで、やる気なくなっちゃった」
「やる気の問題なのでしょうか?」
「「「やってらんないよね~」」」
そして三人は笑う。壊れたように。
ていうかむしろもうすでに……。
こなたとみゆきは、柊家で開かれた勉強会へと足を運んでいた。
勉強会といっても、こなたとつかさにとっては一方的に恩恵を預かるためのもので、分からないところがあるとみゆきの手元へ首を伸ばし、あるいはこなたなどは図々しくも、絨毯をめくる要領でみゆきのノートの前のページを覗き込んだりする始末だった。かがみは常識家と良識人の名に恥じず、そんな二人に苦言を呈したりもしたのだが、みゆきはというと気を遣っているのか、眼中にないのか、はたまた持ち前の集中力で脳が別世界旅立ってしまったのか、一向に気にも留めない様子でそれらの暴挙を看過したばかりか、土産として全員分のケーキまで持参してきていた。単にみんなで、ケーキしてお茶したかっただけなのかもしれない。
夕刻を迎えて程なく宿題も片付き、少し遅いおやつの時間と相成る。
「持ってくるね」
冷蔵庫に一時預かりとなっていたケーキを取ってくるべく、つかさが部屋を後にする。
「あ、私も行きます」
みゆきもそれに続く。
「かがみは行かないの?」
こなたが四人掛けの座卓の左から聞いてくる。かがみから見て右がつかさで、対面がみゆきである。これはずばり、恩恵享受班の二人がみゆきの手元を見やすくするための配置である。この点でみゆきは、かがみをも凌いで圧倒的な信用と信頼を勝ち得ていた。鬱陶しくなくていい、とかがみは思うのだが、自分を客観的に(悪く言えば他人事のように)見る事に長けたB型の血で稼動する脳には、それが負け惜しみっぽく映ったため、口にはしなかった。
「こういうことは、つかさに任せとけばいいのよ」
「そだねー」
こなたは、含むところあるように笑う。
「かがみは、ケーキも爆発させるタイプ」
「させるか! ていうか、しないだろ!」
「飲み物とって来るね」
つかさが再び部屋を出て行く。みゆきは皿を並べ、もって来たイチゴのショートケーキを乗せていく。
「いただきます」
かがみは早速フォークでケーキの一角を崩し、口に運ぶ。鼻まで抜けるほどのふんわりとした生クリームの甘みが、口に広がる。冷蔵庫一時預かりだったためケーキらしからぬ冷んやり感があったが、初夏の暑気ゆえかえって心地よい。それらを抜きしにしても旨いケーキだ。どこで買ったのか聞こうとみゆきを見ると、かがみは変なものを目撃することになってしまった。
「はい、みゆきさん、あ~ん」
つかさが戻るのを待ちケーキに手をつけないでいたみゆきの口元に、こなたがケーキを掬ったフォークを持っていく。
「泉さん……?」
「こなた……?」
二人は、まるで異次元からの来訪者(まあ、たぶんに二次元世界の住人であるが)を見るような目をしていたが、しかしこなたは至って真剣だった。
「あ、あ~ん」
みゆきはおっかなびっくり口を開き(他人が手にしたものを口に入れるのは、歯医者の治療台の上にいる場合と同じなので、怖くて仕方がない)、ケーキを迎え入れる。
「おいちい?」
こなたが聞く。
「は、はい」
歯痛に襲われたような顔でみゆきが肯く。
「それは良かったでちゅね~」
こなたは満足げに笑い、みゆきの頭をなでなでする。なぜこなたは赤ちゃん言葉なのか?
「こなた……」
つっこもう。非難しよう。やめさせよう。何とかしよう。
かがみは、頭で考えるよりも早く、直感でそう思った。たぶん、みゆきが危険だ。
だが唇が言葉をつむぐより早く、つかさが戻ってきた。新たな危機がやってきた!!
「は~い、ジューチュでちゅよ~」
つかさも赤ちゃん言葉である。それだけならまだましであるが、彼女が持ってきたのは、“愛媛の真面目なジュース”のボトルと、グラスがなぜか三つ。そして哺乳瓶が一本、盆の上に乗っていた。
かがみとみゆきが呆気に取られる眼前で、つかさは哺乳瓶に愛媛を入れていく。後でわかったことだが、これはつかさのお古である。
「は~い、ゆきちゃ~ん。たくちゃん飲みまちょうね~」
つかさはみゆきの背後に回り、哺乳瓶を口元へ持っていく。呆然として動けなかったみゆきだが、うっかり口を開けていたため、哺乳瓶の吸い口を咥えさせられてしまった。仕方なしにというよりは否応なしに、みゆきはチュッチュッと音を立てながら、愛媛を飲み干すこととなった。
「おいちかったでちゅか?」
「は、はい……」
みゆきは、声も表情も怯えていた。
「そうでちゅか~、よかったでちゅね~」
つかさはみゆきをぎゅうぎゅうと抱き締め、頬ずりをする。
「ちょ、ちょっと!」
ようやく行動に出ることの出来たかがみが、座ったままのみゆきを引きずるようにして、二人から引き離す。
「何やってんのよ、あんたたち!」
こなたとつかさは、叱られても悪びれずにこう言う。
「何かみゆきさんから、甘い匂いしてね~」
「ウズウズしちゃったの。母性本能じゃないかな」
「匂い?」
よせばいいのに、かがみはへたり込んで目をθみたいにしているみゆきを嗅ぎまわる。
「するわね、甘い匂い」
かがみは納得し、そして暴挙に出る。
「よいしょ」
かがみはお姫様抱っこで、みゆきを持ち上げた。
「か、かがみさん!?」
びっくりしたみゆきは、かがみの首っ玉に抱きつく。
「あ~、ごめん。何か急にみゆきを乳母車に乗せたくなっちゃって」
「乳母車って……ベビーカーって言おうよ、かがみん」
「まだあったっけ、ベビーカー?」
「そういえばなかったかもね」
かがみは仕方なく、みゆきをベッドの上におろした。
「ないのに乗せたくなったんですか~?」
どうやらみゆきの甘い匂いに中(あ)てられ、かがみも母性本能(?)が発動してしまったようである。ではその原因は何か?
「汗ばむ季節になりましたから」
「「「うん」」」
三人は、母というよりはむしろ子のようにみゆきに寄り添い、油断なく嗅ぎ回っていた。
「それでですね……あせもが出来ないように使っているんですよ。シッカロール、いわゆるベビーパウダーを……お恥ずかしながら」
「それで赤ちゃんの匂いがしたんだね」
哺乳瓶の、特に吸い口をいじりながらつかさが肯く。こなたとつかさが先に発動したのは、みゆきの手元を覗き込むたびに嗅いでしまったからだ。
「どこにあせもが出来ちゃうのカナ?」
こなたが聞く。
「か、体です」
「体の?」
みゆきが誤魔化し笑いを浮かべるが、なればこそ三人は、有無をいわさずに言わせようとする。
「「「体のどこ?」」」
「はわわわ……」
みゆきは後じさりするが、ベッドの上なのですぐに壁に背中がついてしまう。三人はベッドに手を駆け足をかけ、なぜか服を脱ぎながらみゆきに迫る。
「「「体の?」」」
「ここここ、ここ、ここです」
ニワトリのように震えながら、みゆきは恐る恐るその手を、たわわに実った自身の胸の下張りへ持っていく。
「胴体と接する部分がこすれて、あせもになってしまうんです……よ?」
上衣をほぼ脱ぎ終わりつつあった三人に訪れた変化は、苛烈かつ劇的だった。
「「「あははははははは!!」」」
バカ笑いしたのである。
「笑っちゃうよね~」
「ね~」
「あせもか~」
そして三人三様に肩を落とし、どよーんとなる。このアップ・ダウンの差は、まるで中毒症患者のようだ。何の?
「あの、みなさん?」
「いやー、空しくなっちゃってね~」
代表してこなたが答える。
「だってさ、私らみゆきさんに赤ちゃんを嗅ぎ取って、母性本能がフェチったわけじゃん」
「はあ」
「んで、授乳しようと思ったわけよ」
そのために脱ぎ始めたのだ!
「出ないと思いますよ」
「それはみゆきさん次第でしょ。上手に吸ってくれれば、こう……」
「全く自信がありません」
「それなのにさ」
三人は、みゆきの胸を恨めしそうに見る。
「みゆきさんの方がよっぽど母乳出そうで、やる気なくなっちゃった」
「やる気の問題なのでしょうか?」
「「「やってらんないよね~」」」
そして三人は笑う。壊れたように。
ていうかむしろもうすでに……。
「出そうじゃない?」
ふと、そう言ったのはつかさだった。
「そうね、試してみましょう」
かがみが肯き、つかさに合図すると、二人はみゆきの両腕を押さえてベッドへと押し倒した。こなたがその上に馬乗りになる。
「な、なにをするんですか!?」
「ん~、みゆきさんにやってもらおうかと思ってね。授乳する母親役」
こなたはみゆきの上衣に手をかけた。
「きっと出ませんよ……ご期待に添えなくて申し訳ないですが」
「じゃあ試してみよう」
「え……え……アーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
ふと、そう言ったのはつかさだった。
「そうね、試してみましょう」
かがみが肯き、つかさに合図すると、二人はみゆきの両腕を押さえてベッドへと押し倒した。こなたがその上に馬乗りになる。
「な、なにをするんですか!?」
「ん~、みゆきさんにやってもらおうかと思ってね。授乳する母親役」
こなたはみゆきの上衣に手をかけた。
「きっと出ませんよ……ご期待に添えなくて申し訳ないですが」
「じゃあ試してみよう」
「え……え……アーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
結果やいかに?
おわり
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- ケーキは爆発するものだ。 -- 名無しさん (2009-09-16 19:41:51)
- !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!。
誰か挿絵描いて!! -- 名無しさん (2008-11-09 08:18:52) - ・・・・・・・???!!! -- 名無しさん (2008-06-25 21:44:26)