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大宮のツインテール(前編)

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 一週間程前だろうか。気象庁によって全国で梅雨が明けたことが発表された。事実7月の下旬に入った頃から、急に日差しが強くなり、朝こそ比較的涼しい気候が続くとはいえ、一日でもっとも暑くなる1時から2時ごろになると、気温は優に30度を超える毎日である。先日は岐阜県の多治見市で39度を観測している。昨年の40.7度という観測市場もっとも高い気温を熊谷で記録したことは、記憶に新しい。
 天気が崩れやすい時節であり、夕立が頻繁に起こる。
 今日は予報の上では降水確率は0%だ。予想最高気温は相変わらず猛暑日と名づけられた35度を達しているが、そんな夏の炎暑にもかかわらず、柊かがみと泉こなたは大宮駅の、通称「豆の木」で待ち合わせをしていた。
 JR大宮駅の待ち合わせスポットとしては、知名度も十分だ。埼玉限定だが。
「やほー」
「おーす……てゆーか遅いぞ」
「いやー、朝は忙しくて」
「もう昼じゃないっ、たくもう」
 かがみがきちんとインターネットで、鷲宮神社から最寄り駅である東部伊勢崎の鷲宮神社から久喜駅で宇都宮線に乗り換える時刻表を事前に調べ、律儀に待ち合わせのきっかり五分前に着いたが、一方のこなたというと前日はギャルゲーのきりのいいところが見つけられず徹夜、結局床に入ったのは6時だった。そこから13時までたっぷり7時間寝た後、そうじろうのかがみからの電話が来ているとのしらせを聞いて、やっと起きたのであった。寝ぼけ眼のまま階段をのぼり、リビングにある受話器を取り出し、そのときになって初めて今日他約束があったことを、こなたは思い出した。ちなみに誘い主はこなた自身である。
 たまには息抜きででかけよーよーかがみ様!……と。

「…・…あんた、私が電話していなかったらまるっきり忘れていただろ」
「そ、そんなことよりまずはお昼食べよっか。かがみんの好きなところでいいよ」
 ……あからさまな話題そらしにかがみはやれやれとため息をついたものの、かがみ自身もまだ昼食をとっていなかったのでその案にさして反論はなかった。むしろお腹が鳴って、こなたに笑われることのほうがかがみには心配なのだ。
 午後3時。朝食は食べたとはいえ、そろそろ限界に近い。
 待ち合わせは2時半であったが、こなたの家電から「ごめん! やっぱ3時!」とあったので、順延することになった。電話があった時点で既に家を出ていたかがみは、仕方なく大宮の町を歩きながら時間を潰すのであった。

 大宮駅には東口と西口がある。東口にはLOFT、高島屋といったデパートや、多くの銀行支店が軒並み連ねており、またいくつもの商店街が迷路のように入り乱れていて旧市街といった様相をみせている。
 かがみ達は、旧市街とは対照的に、開発が進んで近代的な西口を出た。西口から左側を突っ切り、階段を降りるとマクドナルドが見える。駅周辺にはファストフードが随所にあり、マクドナルドにほぼ隣接しているSOGOの1Fにロッテリア、突っ切って横断歩道をわたり、スターバックスの先にもうひとつのマクドナルド、そのそばにはfirstkichenが出店している。
 買い物客、サラリーマン、学生の手軽な休憩所として、お昼時ともなると店内は大繁盛である。

「どこで食べる? マックでいっか?」
 西口から連結しているベデストリアンデッキを通る最中、かがみに聞いた。かがみも特に食べたいものはなかったので、特に反対することもなく頷いた。
「かがみさ、携帯もってきてる?」
「そりゃあ、一応――」
 そういいながらポケットから取り出すと、こなたは関心関心、といった風に首を縦に振っている。
「なんだ、また忘れたのか」
「いやさ~、もともと習慣じゃないし? 人間なれないことはするもんじゃないよ」
「まあケータイ依存になるよかましだけどね……つかさみたいに」
「あー、あの子は、なんとなく新しいものを持つと、いてもたってもいられない性格っぽいよね。まあつかさん場合は、依存というよりかは、浮かれちゃっているだけなんだろうけど」
「ケータイ代だって安くはないのよね。私はまあ、料金確認して気をつけているけど、つかさはそういうところ甘いから」
「でも、かがみんのお父さんは優しそうだからあんまり怒る姿は想像できないなー」
「とはいえ、一万を超えるとさすがにね。やんわりと、『もう少し考えて使おう』と諭されていたわ」
 階段を下りる。
 そのまま直進すれば、マクドナルドであり、また左折してずうっといった先には、こなた御用達のアニメイト大宮店、メロンブックスがある。こなたが一度立ち止まり、名残惜しそうにその方角を見つめていたが、かがみは「……せめて、昼食後にしてくれ」と呆れながら言うのでしぶしぶ従った。

「それで」
 マクドナルドに入り、こなたが「ちょっと並ぶ前に言いたいことが」というので壁沿いに移動し、列を成して注文している客を横に見ながら、かがみがたずねた。
「ケータイがなんたらってどういうわけよ? それにどうしてすぐ並ばないの」
「いや、せっかくだからクーポン使おうかなって」
「クーポン?」
「うん。まあちょいとお姉さんに貸してみなって」
 子犬にお手をさせる飼い主のようにこなたが手を差し出すので、しょうしょうためらいながらもかがみはケータイを手渡した。かがみに取っては残念ながら、隠したくなるような仲の友達もいるはずもなく、見られたくない着信履歴やメールの大部分はつかさからであるが……。
「メールとか見るなヨ」
 こなたが変なことをしないように、しっかりと自分の携帯を見つめる。その視線に少しやりにくそうにしながらも、インターネットにつないで、マクドナルドのケータイサイトを開いた。
 順にボタンを押していくと、メニュー名と金額がかかれたページになる。
「ふーん、最近は携帯でクーポンなんかもあるのね。よくうちの郵便ポストにも、割引券が入っているけど」
「ああいうのって大抵忘れるよね」
「あんたは何でも忘れるだろ。宿題とか。今日の約束とか」
「――ま、まあそれはともかく。んじゃ私は『ダブルチーズバーガーセット』でいいや。かがみは?」
「ん、私も」
「かがみんはビックマックとか、メガマックが似合いそうだよね。食い意地的に考えて」
「うっさいな。どーせ私はそういうイメージですよ」
 かがみが不満げに顔を背けるのを見て、無邪気に笑った。

「ダブルチーズバーガーセット二つ、あ、ケチャップつけてください」
「ケチャップ?」
 かがみが料金分の小銭を持ち合わせていたので、それをこなたに渡してまとめて注文することにした。こなたが付け加えた言葉に、かがみは不思議に思って小声でたずねた。
「うん、言えばケチャップつけてくれるんだよ」
「初耳ね」
 かしこまりました、と、販売員の事務的な笑顔、注文を告げる声が厨房に響く。
 「お願いします」とこなたが携帯電話を店員に見せると「26番のクーポンご使用ですね」と確認を取りながらレジスターを売っていく。
 会計を終えた後、ほとんど待たずに二つのトレイに同一商品が置かれ、それぞれトレイを受け取った。
 階段を上り、適当なあいているところに座る。二人とも特に煙草に縁があるわけではないので禁煙席を選んだ。
「いや、今日も暑いね」
 席に座り、まずはストローをさしてジュースを飲みながらこなたは言った。
「そうね。まあ、夏だし、仕方ないんだろうけど」
 ポテトを頬張る。
「これだけ暑いと私も溶けてしまいそうだよ」
「わけわからん……」

「それにしても、ケチャップつけて食べるポテトもおいしいわね」
 ケチャップを無料でもらえることに感心しながら、容器から取り出しては、ケチャップを付け口に運ぶ。
 ほかほかのポテトに、少しひんやりとしたケチャップは、お互いを引き立てあっているわね――なんてかがみは評論家きどりに思ってみたりもした。
 食が進む、空腹が満たされ至福の表情を見せて。
「まあ、業界も競争が激しいからね。こうしたサービスはどこでもしてくれるんじゃないかなあ」
「いきなり生々しくなったな……」
「まあ私の主観だけど。マックは、コーヒーもおかわり自由だしね」
「そうなの? うちのところだと、書いていないわよ?」
「たぶん大丈夫だと思うよ。上尾――だったかな? そこではきちんと看板にコーヒー無料と書いてあったし、前にみゆきさん家に言った後、みゆきさんと一緒に入ったマックだと、丁寧にも店員さんが『コーヒーはおかわり自由ですのでお気軽にどうぞ』といってくれたしね」
 知らない人も多いが、たいていのマクドナルドでは自由である。
 ただし、県、店舗、場合によっては店員によって対応が異なる可能性があることを、付け加えておく。
「でも、なんだか気まずいわよね。コーヒーだけおかわりって。私は、なんか頼むついでじゃないと無理そうだわ」
「そう? 私は気にしないけどなー」
「あんたは妙なところで肝が据わっているからね」
「まあ、ほめ言葉として受け取っておくよ。さすがに何杯も、という勇気はないけど」
 一旦話がきれ、しばしの間お互い、食べることに集中する。
 すぐにまたどちらかが話を切り出し、たわいのない世間話が繰り広げられる。ひとつの話題について延々と議論すると言うよりかは、どんどん話が切り替わっていくことはいまどきの女学生の特徴なのかもしれない。
 二人とも、それが楽しくてたまらないわけだが――。

「――さーて、食べた食べた」
 マクドナルド店を出、照りつける太陽に体を伸ばしながら、こなたは「どうしよっか?」と聞いた。
「うわ、もう4時だよ」
「いやいやかがみん。『まだ』4時の間違いでしょ? 私なんてまだ3時間しか起きていないよ?」
「威張るなっ!」
 突っ込みどころは逃さない。
「……もう。まあ、いいけどさ」
「どうするよ?」
「私に聞かれてもなあ……そもそも、呼び出しのはあんただし」
「いや、別に私だって用があったわけじゃないし。ただかがみんと一緒にいたかったから、だけだもん」
「……う」
 かがみはあまりにも直球の物言いに、顔を真っ赤にしながら、そっぽを向いてしまった。
 なな何を言っているんだこいつは?
「――あれ」
「な、何よ?」
「いやさ、フラグ的には『そりゃあ、私だってあんたと一緒にいたくないわけじゃないけど――か、勘違いしないでよね! 別にあんたなんてどうでもいいだから! 調子に乗るな云々』となると思うわけで。ツンデレアイドル的に考えると』
「……本気で妄想と現実の区別は付けろよ……。てゆーか誰がツンデレだアイドルだ!」
「そういうところは、テンプレもばっちりにたっているんだけどなあ」
 結局いつものようにからかれただけか。
 別に嬉しいなんて気持ちは、うん、決してない! そう思いながらかがみはごまかすように花を高く鳴らした。

「結局ここなのね」
「いやーこれでも譲歩したつもりだよ? かがみんだって嫌いじゃないでしょ?」
「別に好きでもないわよ。ゲームなんて、家で十分だし」
 一度階段を上りなおし、駅のコンコースまで戻る。そこから正面にある建物1Fと地下1Fがソフマップだ。地下のほうはまあ、今は触れずにおくとして、ベデストリアンデッキから直接入るとすぐ右手にエスカレーターがあるので、そのまま二人は地下まで行った。
 地下にはゲームセンターや書店などが設置されている。
「いつも思うけど、この手の店ってやたら音楽が五月蝿いよね」
「まあ、あんまり静かなゲームセンターっていうのも気味が悪いと思うよ?」
 あまり大規模な店ではないので、大型の体感型ゲームなどが設置されているわけではないが、休日ともなると全国津々浦々、百戦錬磨の兵どもが集まり腕を競う戦場と化す。
「適当に回っててよ。私はそこにある『アルカナハート』でもやってるからさ」
「あんたも相変わらず格ゲー好きだな。FATE?だっけ。あれなんてまだ稼動してから大分たってないし、そっちのほうが楽しめるんじゃない?」
「あれもいいんだけど、私的にはなー、ストリートファイター世代としては、まずは肩慣らしには2Dと決めているわけで」
「別にストリートファイター世代でもないくせに……」
 可愛らしい(こなたから見て、だが)キャラクターの刺繍がされた財布からワンコインを取り出して、慎重に投入する。デモ画面から切り替わり、キャラ選択画面に。
「女の子ばっかね」
「まあそういうゲームだからね。でも、ゲームとしては、結構楽しいんだよ? ちょっと見た目があれで敬遠されているところもあるけど」
「あんたは大好きそうだな」
「あ、わかる?」
「わかるもなにも普段のあんただろ……」
 スティックを左のほうに動かしていく。少しの間悩む姿を見せた後、メイド服にぶっそうな大剣を抱えた、いかにもな少女――フィオナ・メイフィールドを選んだ。取扱説明書によると、「イギリスの上級階級の家庭(爵位持ち)に生まれ育った良家のお嬢様。天然ドジだがひとあたりは良く努力家で、周囲から好かれている」とのこと。
『私なんかで……いいんですか?』
 とフィオナ。
 このゲームでポイントなるのは、弱中強のほかにもうひとついわゆるアルカナボタンである。左下に表示されるホーミングゲージを消費して、攻撃をキャンセル、吹き飛ばした相手を追撃、受身――このシステムを上手く使いこなせることは、対人戦では絶対条件であろう。
 もうひとつの特徴となる、アルカナ選択。詳しいことは割愛するが、数あるアルカナ(聖霊)から、ひとつを選ぶことができる。こなたは、フィオナのデフォルトのアルカナである鋼、オレイカルコスを選んだ。
 アルカナは基本攻撃力にプラスマイナス補正、固有の必殺技などの特徴がある。鋼で言えば、多くの格闘ゲームに共通する超必殺技ゲージが、自キャラの攻撃では上昇しないことが第一に挙げられよう。代替手段として、特定コマンドを入力することで手動で上昇させることが可能であるが、当然その間は無防備になるので、ゲージを上げるためには立ち回りを工夫する必要がある、

「あーもう萌えるね!」
 フィオナは要約すればロリどじっ娘メイド大剣だ。一つ一つの技の隙がやや大目な、大味なタイプである。メイド好きのこなたにはたまらない。
「わかったから大声出すな」
 ふと、反対側の席を見てみると、まだ誰もいないみたいだった。こなたの実力からして、よもやCPUに遅れを取るなんてことはないだろうから、対戦相手待ちといったところか。しばらく眺めていても、序盤の敵には攻撃すら受けず、パーフェクトで2セットとっている。
 格闘ゲームに熱中しているこなたを見ると、水を得た魚というべきか、普段のだらけた学校生活が、まるで嘘のよう生き生きしている。この情熱の1割でも勉強に向けろよ、とかがみは思うのだが。
 ずっと見ていてもしかたないので、こなたにまあ頑張れと言うと、手は休めず口だけで了解の返事をしたのを確認した後、とりあえずゲームセンター周りを歩いてみることにした。

 あまりジロジロと見て変な顔をされるのも困るが、ゲームに熱中している人たちの画面をちら見をする。定番のガンシューティングゲーム、音ゲー、UFOキャッチャー、QMA。かがみ自身はあまり試したことはないが、こなたにつれてこられたおかげで、どういうゲームかは想像がついた。
「それにしても……受験生だよな、私達」
 やめよう。
 こうした時に冷静に考えるのは、とても危険だ。
「あいつは、本当に大丈夫なのか」
 以前に、5月試行の代々木ゼミナールの第一回センター模試を、嫌がるこなたを無理やり説得して連れて行ったことがある。担任教師である黒井も言っていることだが、この時期の模試ほどあてにならないものもない。とはいえ、一応の志望校が、あの判定であったら少しは落ち込むものだが、こなたはそういったことをには全然気にしていない、といった風だった。
 早稲田大学法学部、中央大学法学部、学習院大学法学部――他。さすがに早稲法をA判定とるのは厳しいものがあるが、みゆきには適わないものの全校でも上位に食い込むかがみは、いわゆるマーチ法学部であれば、十二分に狙える判定だった。
 とはいえ、英語で言えば160点取ればほぼ偏差値70に到達するほど、この時期の判定は甘い。特に文型であれば地歴は勉強しているもののにとってはうなぎ登りに高くなる。どうしても4月は英語に力をいれるべき期間であり、高校入試のこなたみたいに終盤になって、実力を伸ばす受験生も数多くいるので仕方ないのだが。
「まあ、息抜き、息抜き」
 そう思おう。
 毎日勉強してばかり、そんな生活は、さすがのかがみでも厳しいものである。

「まあ、これでもやってみようかしら」
 やはり目に留まったのはシューティングゲームだった。虫姫様ふたり、ブラックレーベル、怒首領蜂大復活――弾幕系ゲームの定番のひとつである。
 どれにしようか悩み、今年の5月から稼動したこともあいまって、あまり試したことのない大復活の前に座り、コインいっこいれる。
 経験がないので、オーソドックスなボタンを発して発動できる、ボムモードを選んだ。

「……んー」
 20分程。5面途中で失敗してしまい、ゲームオーバーになったかがみは、画面を見ながらうなだれていた。continue? の表示が出ているが、かがみも「ワンコインでやるもの」と決め付けているため、そのままボタンを連打してランキング場面にまで移行させた。
「やっぱりこういうのは配置を覚えてからだからなあ」
 立ち回りに問題があったかもしれない、とかがみは5面の切り替えしについて回想する。刹那の差でボムボタンを押しそびれて、残したまま一機失ったのが痛かった。
 前作大往生でも2週目までいったことがある(こなたに言わせるとかがみんも十分オタク)かがみは、やはり二週目が存在するのだろうかと、デモ画面を見ながら思いめぐらす。
きょろきょろと周りを見渡すと特にプレイ待ちの人もいないので、もう一度やろうかと思いポケットから財布を取り出した。
「……あ」
 財布を握り締めたまま、ふと顔を横に向ける。格闘ゲームの基盤がある先だ。
「あいつは、どうしてるかな」
 熱中していてすっかり忘れていた。かがみは後ろ髪を引かれる気持ちもありながら、いちど席を後にした。












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  • 続きは、あるのでしょうか? -- チャムチロ (2012-10-15 20:02:20)
  • テラ地元www -- 名無しさん (2008-09-03 19:11:30)

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