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最高のプレゼント

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
「おはよう、みさちゃん」
「おっ、あやの。おはよ」
「みさちゃん、お誕生日おめでとう! はいっ、プレゼント」
「……あっ、今日誕生日か!」
「忘れてたの? とにかく開けてみて」

あやのから手渡された小さな白い箱。開けてみると、
「おお、可愛いなこれ!」
中から出てきたのはシルバーのネックレス。そのチェーンに通されたペンダントは、クリスタルのストーンで作られていた。
シンプルな作りではあるが、決してありふれているわけでもない。きっとあやのがよく行くお店で買ったのだろう、どことなく彼女が好みそうなネックレスだ。
控えめというか、気品があっておしとやかというか……うーん、よく分かんないけどたしかにこれはあやのの選んでくれたものだ。
「元気なみさちゃんはモチロン好きだけど、そろそろ大人なみさちゃんもいいかなー、なんてね」
「たしかに大人っぽいなーこれ」
「でもね、それだけじゃないのよ、みさちゃん。ストーンを覗いてみて?」
「この中か? ん、どれどれ……」
あやのに促されてストーンを覗くと、中には黄色い細かな装飾が施されているようで、ストーンの中に差し込んできた光が中を通って屈折し、それを受け黄色はまだらに光る。
それはまるで万華鏡のようで、幻想的にキラキラと鮮やかに輝いている。
「うわぁ、きれい……」
「でしょ? 私もついおんなじの買っちゃおうと思っちゃったくらいだし」
「あやのぉ……ありがと……」
「どういたしまして、みさちゃん」

「おいっす、何見惚れてんだー日下部?」
私があやのからもらったネックレスに見入っていると、柊が教室に入ってきた。
「あっ、おはよ」
「おはよう、柊ちゃん」
「ほらほら、柊も見てみ!」
「お、ペンダントか。中? んー……」

すご……と声を上げ、それから見入りっぱなしの柊。そんな柊を見てあやのと顔を見合せ、頬を緩める。
つい先日梅雨が明け、いよいよ灼熱の太陽が大活躍の季節。
今日も朝から熱い日光が照りつけており、教室にいるみんなはハンカチで額の汗を拭っていたり、下敷きで扇いでいたりしている。
開けっ放しの教室の窓からは時々生ぬるい風が吹きこんできて、その度に誰もが鬱陶しそうに顔を顰める。

夏。私の生まれた季節。
ギラギラと燃える太陽だとか、涼しかったりぬるかったりする風だとか、それに揺れる風鈴だとか、その音を聞き青く突き抜ける空を眺めながら食べるスイカの味だとか。
夏には私の好きなシーンがたくさん散りばめられている。それを探すのは、楽しくて仕方がない。そして、そのシーンを見つけた時、嬉しくて跳び上がってしまいそうになる。

だから、何をするにもやる気がみなぎってくる。
――だって、夏は私の大好きな季節だから。

「まぁいかにも夏生まれっぽいもんな日下部は」
「へへっ、そうかー?」
「みさちゃんは夏休みになるとさらに活発になるっていうか、ね」
「まぁ夏は私のためにあるみたいなもんだしなー」
「ははは、そうだよなー」
冗談はよせ、とでも言いたそうな顔で柊は興味無さげにはいはいと受け流す。
なんだよー、茶化すなよー。私は結構本気なんだからさー。
「そんなにむくれるなよ」
「うるさいなー」
「まぁまぁ2人とも……」
「ごめんごめん」
ふーんだっ。私はぷいっとそっぽを向く。
「……んじゃこれなら許してくれる?」
そう言って柊がぶっきらぼうに淡いピンク色の丈夫そうな作りの紙袋を私に差し出す。
「ふぇ?」
「お、お誕生日おめでとう」
え……私の誕生日、覚えててくれたのか……?
「ま、まぁね。峰岸が教えてくれたのよ」
「え? あぁ、あの時ね……」
「うれしい……ありがとうな柊!」
ちょっぴりはにかみながらどういたしまして、だって。
かわいいなぁとつい口に出すと、うるさいなぁと頭を掻きながら柊は私に微笑んだ。

「どれどれ柊のデレも見たことだし、何貰ったのかなー私」
「こなたに毒されてんなぁ、って今開けんなよ!」
「えー何でだよ、何か見られちゃいけないもんなのか?」
「そ、そういうことじゃないわ! って言ってるそばから開けるなぁ!」
柊の忠告を無視して紙袋をひっくり返すと、中から透明な袋に詰まったクッキーと丁寧に折りたたまれた手紙が出てきた。
「お、うまそうなクッキーじゃん!」
「あらあら……」
「だからやめろって言ったのに……」
「これ、柊が作ったのか?」
「まぁね。今回はつかさの助言なしで作ったのよ」
両手を腰にやり、どうだ、すごいだろ? と胸を張る柊。
……あ、怪しい。柊の料理の腕は調理実習とかを思い出す限り……ねぇ。
「だ、大丈夫かぁ……?」
「うるさいわっ!」
「みさちゃん、そんなこと言わないのっ」

「まぁとにかく柊、プレゼントありがとう!」
「クッキーは家に帰ってから開けるんだぞ」
「あいよ。手紙もその時読むよ」
「……クッキー以上に念を押しとくわ」

昼間の日差しもすっかりと影を潜め、空はもう茜色に色づいている。
朝にあやのと柊からプレゼントをもらった私は、背景コンビの一角とは思えないほどのもてはやされっぷり。
昼休みにちびっこにつかさ、高良さんの3人がうちのクラスにやってきて、それぞれ心のこもったプレゼントをくれた。
まずは高良さん。スポーティさとゴージャス感を兼ね備えたようなTシャツ。私に不相応な位に良いものだろう、きっと。
つかさがくれたのは、柊と同じくおいしそうなクッキー。でもつかさのは、まるでお店に置いてあるかのような出来だ。……柊には悪いけどね。
最後にちびっこがくれたのはコスプレの衣装。なんか色々そのキャラの説明をしてたけどいまいち覚えてない。ただ一つ言えることは、学校内で中身を見るのを憚られるようなものらしい。……エロいのだな、確実に。
プレゼントを貰ったついでにみんなで一緒にお弁当を食べることに。柊も久々にうちのクラスで弁当食べたことになるわけだ。
他のクラスメートからも沢山祝福を受けた。プレゼントも一杯貰った。それはもう、両手では持ちきれないくらいに。
ということであやのに少し持ってもらい、今日を振り返りながら帰り道を歩く。
「みさちゃん、一杯プレゼント貰ったね」
「ホントだよな! 今までで最高の誕生日だよ!」
「みさちゃん、それ毎年言ってない?」
「そうか? まぁ毎年最高が更新されていくからなー」
「ふふ、みさちゃんったら」

「ところで、いつ聞かれたんだ?」
「え? 何を?」
「私の誕生日、柊に教えたんだろ?」
「あぁ、その話ね。実はね、そんな話柊ちゃんにしてないよ?」
「……へ?」
「覚えてたんだよ、柊ちゃん。みさちゃんの誕生日」
柊が私の誕生日を……? そ、そうなのか……?
「当たり前じゃない。みさちゃんが柊ちゃんを想っているように、柊ちゃんだって同じくらいみさちゃんの事、想ってるはずよ?」
「……う、うれしいや。なんか、ちょっと泣きそう、かも……」
「だって私たち、ずーっと一緒にいたじゃない。だから誕生日くらい覚えていてくれて当然よ?」
「へへっ、そうだよなー」
「泉ちゃんたちと仲良くしていたって、私たちはいつまでも友達なんだから。だから大丈夫よ」
そう言ってにこりとしながら汗臭かったらゴメンね、と私にハンカチを渡してくれる。

たしかに、私はちょっと不安だったんだ。もしかしたら柊が私たちの事、どうでもいいとか思ってるんじゃないかって。
でも、そんなことなかった。私の思い違いだった。柊はちゃんと私たちの事、想ってくれてる。
ホント、正真正銘の最高の誕生日だ。そして、最高の友達を持ったなぁ、とあやののハンカチで涙を拭いながらそう思う。

「お疲れ、この辺でいいよ。ありがと、あやの」
「ううん、私こそありがとう」
「?」
「私と友達になってくれて、ってこと」
「……それなら私も思ってるよ。ホント、ありがとう」
「やっぱ、みさちゃんにはその笑顔が一番だね♪ それじゃあまた明日!」
「プレゼントありがと! ハンカチも荷物持ってくれたことも、友達でいてくれることもありがと!」
そして私はあやのの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。目を細めてしまうのは、眩しい夕日のせいじゃないと確信していた。

「おいおい……こんなの一体いつ着ろっていうんだよ……露出が多いってもんじゃないだろこの服……」
私は早速みんなからもらったプレゼントを開けて、あれやこれやと感想を述べていた。
でっかいヒマワリが描かれたうちわとか、黄色のペンケースとか、鮮やかな青のブレスレットとか。あと、ミートボールのキーホルダーくれたの誰だ? 間違えて食べちゃいそうになるってば!
で、今ちびっこからもらった衣装を開けてみたんだが……。
「みさきちにそっくりのキャラがいてさー」とか言ってたけども……。いくらそんなこと言われてもこれは着れないな……。
次に開けたのは高良さんからのTシャツ。見るからに高そうな服だったので、何となく優しく丁寧に袖を通してみる。
おぉ、意外と可愛い! 姿見を前に思わず感嘆の声を上げる。
「お、誕生日プレゼントか? それ。高そうだけど似合ってるじゃん」
と兄貴からも高評価。よしっ、高良さんに今度着て見せに行こうっと♪

最後に柊姉妹からもらった、ピンクの紙袋と水色の紙袋をテーブルの上でひっくり返す。きっと同じ店で買ったんだろうな。色は違えどデザインはほとんど一緒だし。
というわけで、クッキー品評会を開始いたします! 勝ち負け付けるのは間違ってると思うけどね、まぁさせてよ。
まずは見た目。形が一つ一つ違う柊のクッキーに対し、まるでコピー機でも使ったんじゃないかと思うようなほどに均一なサイズのつかさのクッキー。きっと味も違うんだろうな。見た感じで色がどれもこれも違う。
よって見た目はつかさに軍配。さて、味の方はどうだろうね。
まずはつかさのを。いっただっきまーす、さくっ。
……おおお! うまぁい! すげぇ! 口の中でまろやかに広がる甘さ、間違いなくこれだけで商売できる!
……すげぇな。同い年なのにこんだけ美味いのを作れんだもんなぁ。私にはとってもじゃないけど無理だわ。
さて、続いては柊のを。形はちょっといびつだけど、いい匂いだなぁ。どれっ、さくっ。
……おぉ。おいしい。普通においしい。なんかちょっと意外……って言ったら失礼だけど、おいしい。それに……
このクッキー作るのに柊、すごい頑張ったんだろうなぁ。普段からは想像もつかないほどあたふたして作ってる柊が容易に想像できる。
私の事を想って作ってくれた、と思うとなんだかすっごい嬉しい。
味はさすがにつかさが勝ちだけど、やっぱり総合的に見れば柊の、だな。食べた時の嬉しさが全然違うから。

そのまま柊姉妹のクッキーをニヤニヤしながら食べ、そういえば柊から手紙も貰ってたんだっけ、と手紙の事を思い出した。
プレゼントの包装紙やら紙袋やらで、すっかり散らかったテーブル。あのピンク色のすぐ傍にあるそれを手に取り、よくある手紙の折り方で折ってあるこの手紙を開けてみる。
ぱっと見ですぐ分かる、柊が書いた整った文字。どれどれ、どんなこと書いてあるのかな……。


――――――
――――

日下部へ


おいっす、柊かがみです。
まずは確認しておきたいんだけど、これ家で読んでるよな?
手紙自体滅多に書かないから緊張するのよね。だから誰にも見せないでよ、頼むから。

えーっと、まずはクッキーどうだった?
こういうのはつかさの得意分野だし、今までお菓子なんかほとんど作ったこと無かったから、正直自信ないのよね。
出来ないなりに一生懸命作ったけど、もしおいしくなかったらごめんね。

あとこの手紙なんだけど……
私の事だし、きっと面と向かっておめでとうも言えないだろうから書きました。
日下部、お誕生日おめでとう。
書いた文字で伝わるかどうか分かんないけどね。でも、おめでとう。


それと……
これも、っていうか、これの方がむしろ言えないわね。直接なんて無理だわ、想像しただけで、ね……。

えーっと、私たち中学校から一緒ね。クラス一緒なのももう5年目。今まで色んなこと、あったわね。
中学校の修学旅行、覚えてるよね? 一晩中ホテルの部屋でいろんな話をしたわね。
中3の2学期かしら? 席があんたと前後になって、授業中しょっちゅうちょっかい出してくるんだから。ホント困ったわ。
高校に入ってからもずっと一緒……ってわけでもなかったけども……。
いっつも隣のクラスに行って本当にごめんなさい。
でも日下部や峰岸のこと、嫌いになったわけじゃないのよ。
たしかにこなたたちは大事だよ。でもこなたたちはこなたたち、日下部たちは日下部たち。
うーん……違うのよ。でもあんたたちも同じくらい大事。……わがままなんだろうけどね、こういうの。
だから、これからはもっと日下部や峰岸と一緒にいたいって思う。話したいこと、まだまだたくさんあるからね。

それともう一つ。
出会った時から呼び方、変わってなかったわね。
もちろん、恥ずかしかったからに決まってる。
なんか呼び方変えるのって勇気がいるじゃない。
いつか名前で日下部や峰岸のこと呼んでみたかったけど、あんたたちもずっと柊って呼ぶからいいかな、ってちょっと逃げてた。
……ちょっぴり寂しかったのよ? 名字で呼ばれるのって。でも日下部もそんな風に思ってたんじゃないかな、っても思う。

だから明日から私は日下部じゃなくって、みさおって呼ぶことにする。
みさおも私の事、柊じゃなくてかがみって呼んでね?


って感じかな。手紙からじゃ伝わんないだろうけど、私顔真っ赤っかよ。
でも、この手紙書いて良かった。私の性格からして、こんな風に話をするなんて無理だからさ。
それじゃこの辺で。お誕生日おめでとう、みさお。

かがみより

――――
――――――


心のこもった手紙を読み終え、私は何だか胸の中のモヤモヤが晴れた気がした。
私が感じた、嫌われているかもしれないという気持ち、名前で呼んでくれないことへの寂しさ。そういった感情にけりをつけてくれた。
なぁんだ、そういうことだったのか。良かったぁ……。
安心感に満たされた私は、笑いながら泣いていた。嬉し泣き、ってやつかな。
私の思っていた以上に大切にされていたんだなぁ、私たち。
私たちもそれ以上に大切に想ってたつもりだったけどね、ちょっぴり負けたかも。

……へへっ、うれしいっ。あーもう、うれしいっ!
あやのに言った通り、今までで最高の誕生日だ!
手紙の事誰にも言うなって書いてあったけど、別にこの人にはいいよね?
喜びで一杯の私は手元に置いてあるケータイを手に取り、アドレス帳を開く。
相手はモチロン……
「あっ、もしもしあやの? 今ね、貰ったプレゼント開けてたんだけどね――」



――――――

翌日。昨日よりもさらにパワーアップした陽射しがさんさんと私に降り注ぐ。
ほらね、夏はやっぱり私の季節でしょ? 私の気持ちがしっかりと太陽に反映されてるんだもん!
教室のみんなは、昨日よりもさらに暑い今日をどう送ろうかとか話をしている。
地球に住む皆さん、そして教室の皆さん、今日も暑苦しくてごめんなさい。でも今日だけは許してね。
だって今までで一番嬉しい事が昨日あったんだもん。しょうがないじゃん。
あっ、ってことは今年の夏は猛暑決定だね! でも悪いのは私じゃないよ?
一番悪いのは今教室に入ろうとしているあのツインテールの子。文句があるならあの子によろしく!


教室のドアが開く。それと共に生ぬるい風が教室に入り込んでくる。
私の姿を見つけると、恥ずかしそうに目を逸らしながら自分の机へと向かっていく。
自分の席に着くと、教科書をバッグから取り出し机へと詰め、それが終わると私たちの方へと向かってくる。
くくっ、そんな露骨に横を向きながらこっちに来なくたっていいのに。

開口一番、彼女におはようって言おう、気持ちのこもったおっきな声で。まずはプレゼントのお礼をたっぷりとしなきゃね。
それと、あの約束。モチロン破るつもりなんかないよ?
だって、これからも私たちはいつまでも友達じゃん?
だから、言うんだ。出来る限りの笑顔で――

「――おはよ! かがみ!」



















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  • ほのぼので最高!
    GJ! -- サウス (2010-07-26 23:21:08)

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