「お~ゆ~を~、か~け~る~少女~♪」
こなたは歌いながら、急須に電気ポットのお湯を注いだ。緑茶の芳しい香りが、部屋に広がる。
「あ、この間やっていた『時をかける少女』の替え歌っスか?結構面白かったっスね」
そんなこなたに、ひよりは湯呑みの用意をしながら、感想を語る。
「むー」
流石に古かっただろうか、こなたは少しだけ後悔する。
ひよりの言う事は間違ってはいないのだが、こなたの歌っていたのは少し違っていたのだ。
こなたは歌いながら、急須に電気ポットのお湯を注いだ。緑茶の芳しい香りが、部屋に広がる。
「あ、この間やっていた『時をかける少女』の替え歌っスか?結構面白かったっスね」
そんなこなたに、ひよりは湯呑みの用意をしながら、感想を語る。
「むー」
流石に古かっただろうか、こなたは少しだけ後悔する。
ひよりの言う事は間違ってはいないのだが、こなたの歌っていたのは少し違っていたのだ。
こなたはひよりの部屋にお邪魔していた。お茶をひよりの持ってきた湯呑みに注ぎながら、みかん箱の上の本を見る。
――妄想同人誌が、こなたとひよりに一冊づつ用意されていた。そう、ついに完成してしまったのだ。
ひよりの『甘苦酸っぱい同人誌』が黒歴史なら、これは間違いなく暗黒銀河級であろう。
ちなみにクオリティは、コピー本とは思えない程で、本文には普通のコピー紙ではなく上質90kg紙を採用、
カラー口絵部分もあるという凝りようであった。無論、売り物では無く、世界に二冊だけだ。
――妄想同人誌が、こなたとひよりに一冊づつ用意されていた。そう、ついに完成してしまったのだ。
ひよりの『甘苦酸っぱい同人誌』が黒歴史なら、これは間違いなく暗黒銀河級であろう。
ちなみにクオリティは、コピー本とは思えない程で、本文には普通のコピー紙ではなく上質90kg紙を採用、
カラー口絵部分もあるという凝りようであった。無論、売り物では無く、世界に二冊だけだ。
二人はみかん箱を挟んで向かい合った。別に普通の机はあるのだが、『雰囲気が欲しい』と、こなたが持ち込んだ物だった。
「えー、それでは同人誌の完成披露会を行いたいと思います」
「わー、ぱちぱち」
ひよりの開会宣言に、こなたは気のない拍手を声で贈る。
「もうちょっと乗って欲しいっス……」
そんなつぶやきが聞こえたが、こなたは黙殺する。乗れる気分では無かったし、緊張していたのだ。
お茶を一口含み、口の乾きを癒す。そして手元に置かれた妄想同人誌に目をやった。
「正直ここまでやれるとは思っていなかったよ」
こなたは思わず声に出した。
見た目だけなら、ひよりの手により描かれた、かわいらしい絵の全年齢向けに見えるが、中身は以下略。
ちなみに隅の方に『これはフィクションであり、実在の人物との関連は一応ありません』との文がある。
これはこなたとひよりが、自分達に対する言い訳として用意した物である。
「それじゃ早速先輩の小説を」
ひよりがわくわくしながらページを繰るが、
「いやっ、ちょっ、おまっ、待っ」
こなたが訳の分からなくなった言葉と態度で遮った。
「えー。何を今更恥ずかしがってるんスか?」
ひよりの言うとおり今更である。
こなたの小説は、ひよりとの共同作業の形で進んでおり、レイアウト、編集、挿し絵等々、
全てにひよりの手が入っているのだから。
「いやー、目の前で自分の書いた物を見られるのって、恥ずかしくない?」
「狼狽する先輩は、なかなかの萌えっスね」
ひよりは余り気にならないようだが、これはこなたが作品を見られるのに慣れていないからである。
だがこれが普通の同人誌なら、恥ずかしいのは変わりないが、これほどにまでは狼狽しない。
どちらかと言えば、喜ぶはずだ。
――問題は中身だ。
「ひよりん、とりあえず順番に見てこうよ」
「……あー。確かに恥ずかしいですねー」
思わずひよりはこなたから目を逸らしてしまう。ページトップはひよりの四コマだったのだ。
「いーじゃん。ひよりんのは最初は普通のなんだから」
最初は軽いギャグで、つかみはOK、というわけである。売らないけど。
「あー、うん。最初は、ね」
ひよりの目が宙を彷徨う。
「……後ろ向いて読まない?」
「……そっスね」
向かい合わせで読むには余りに恥ずかしすぎて、二人はお互い背中を向けた。
「えー、それでは同人誌の完成披露会を行いたいと思います」
「わー、ぱちぱち」
ひよりの開会宣言に、こなたは気のない拍手を声で贈る。
「もうちょっと乗って欲しいっス……」
そんなつぶやきが聞こえたが、こなたは黙殺する。乗れる気分では無かったし、緊張していたのだ。
お茶を一口含み、口の乾きを癒す。そして手元に置かれた妄想同人誌に目をやった。
「正直ここまでやれるとは思っていなかったよ」
こなたは思わず声に出した。
見た目だけなら、ひよりの手により描かれた、かわいらしい絵の全年齢向けに見えるが、中身は以下略。
ちなみに隅の方に『これはフィクションであり、実在の人物との関連は一応ありません』との文がある。
これはこなたとひよりが、自分達に対する言い訳として用意した物である。
「それじゃ早速先輩の小説を」
ひよりがわくわくしながらページを繰るが、
「いやっ、ちょっ、おまっ、待っ」
こなたが訳の分からなくなった言葉と態度で遮った。
「えー。何を今更恥ずかしがってるんスか?」
ひよりの言うとおり今更である。
こなたの小説は、ひよりとの共同作業の形で進んでおり、レイアウト、編集、挿し絵等々、
全てにひよりの手が入っているのだから。
「いやー、目の前で自分の書いた物を見られるのって、恥ずかしくない?」
「狼狽する先輩は、なかなかの萌えっスね」
ひよりは余り気にならないようだが、これはこなたが作品を見られるのに慣れていないからである。
だがこれが普通の同人誌なら、恥ずかしいのは変わりないが、これほどにまでは狼狽しない。
どちらかと言えば、喜ぶはずだ。
――問題は中身だ。
「ひよりん、とりあえず順番に見てこうよ」
「……あー。確かに恥ずかしいですねー」
思わずひよりはこなたから目を逸らしてしまう。ページトップはひよりの四コマだったのだ。
「いーじゃん。ひよりんのは最初は普通のなんだから」
最初は軽いギャグで、つかみはOK、というわけである。売らないけど。
「あー、うん。最初は、ね」
ひよりの目が宙を彷徨う。
「……後ろ向いて読まない?」
「……そっスね」
向かい合わせで読むには余りに恥ずかしすぎて、二人はお互い背中を向けた。
―――
――
―
――
―
真夜中/ある少女の部屋。
ベッドの軋む音と、少女達の吐息が聞こえる。
「おねぇ、ちゃん?」
少女はベッドに押し倒され、手首を拘束されていた。
戸惑う声は届かなくて。
――ただ、くちびるで塞がれた。
「んっ……うぅっ」
抵抗出来ない少女の歯列を舌でなぞり、強引に口の中へ進入する。
無意識か、舌と舌が絡み合い、淫らな音を立てる。
息が出来ない。全てが目の前の姉で一杯で、消えてしまいそうで。
消える前に姉のくちびるが離れた。唾液が二人を繋ぐ。それもすぐに切れてしまった。
とても苦しい。
苦しいのは息が出来なかったせいだろうか。
――否。
「……つかさ」
姉が……双子の姉であるかがみが、少女の名を呼んだ。
「お姉ちゃん……どうして」
妹であるつかさが理由を問う。
「それは……」
「んんっ!?」
再びかがみにくちびるを塞がれる。激しく、そして切ない口づけ。
たっぷりとつかさを味わい、ゆっくりと離れていった。
「つかさが、欲しいの」
本気だった。今まで見たことが無いほどに真剣で、だけど悲しくて。
――怖かった。
「お姉ちゃん、痛いよ……」
痛いのは手首か、それとも胸だろうか。それすらわからなくて。
「……痛い……」
ただ、涙を流していた。
「……っ」
かがみが息を飲むのが見えた。瞳に戸惑いの色が浮かび、不意に拘束の手がゆるむ。
その隙につかさはかがみの手を振り払い、部屋から駆けだした。
「待って! つかさ」
かがみの声が聞こえる。でも振り向くわけにはいかなかった。
自分の部屋に入り、鍵を掛けて耳を塞いだ。
何故?
その言葉がつかさの中で渦巻いていた。
何故、優しい姉が。
何故、こんな事を。
――何故、私なの?
ベッドの軋む音と、少女達の吐息が聞こえる。
「おねぇ、ちゃん?」
少女はベッドに押し倒され、手首を拘束されていた。
戸惑う声は届かなくて。
――ただ、くちびるで塞がれた。
「んっ……うぅっ」
抵抗出来ない少女の歯列を舌でなぞり、強引に口の中へ進入する。
無意識か、舌と舌が絡み合い、淫らな音を立てる。
息が出来ない。全てが目の前の姉で一杯で、消えてしまいそうで。
消える前に姉のくちびるが離れた。唾液が二人を繋ぐ。それもすぐに切れてしまった。
とても苦しい。
苦しいのは息が出来なかったせいだろうか。
――否。
「……つかさ」
姉が……双子の姉であるかがみが、少女の名を呼んだ。
「お姉ちゃん……どうして」
妹であるつかさが理由を問う。
「それは……」
「んんっ!?」
再びかがみにくちびるを塞がれる。激しく、そして切ない口づけ。
たっぷりとつかさを味わい、ゆっくりと離れていった。
「つかさが、欲しいの」
本気だった。今まで見たことが無いほどに真剣で、だけど悲しくて。
――怖かった。
「お姉ちゃん、痛いよ……」
痛いのは手首か、それとも胸だろうか。それすらわからなくて。
「……痛い……」
ただ、涙を流していた。
「……っ」
かがみが息を飲むのが見えた。瞳に戸惑いの色が浮かび、不意に拘束の手がゆるむ。
その隙につかさはかがみの手を振り払い、部屋から駆けだした。
「待って! つかさ」
かがみの声が聞こえる。でも振り向くわけにはいかなかった。
自分の部屋に入り、鍵を掛けて耳を塞いだ。
何故?
その言葉がつかさの中で渦巻いていた。
何故、優しい姉が。
何故、こんな事を。
――何故、私なの?
早朝/誰もいない教室。
つかさは一人で登校していた。今はまだ、かがみに会えないとわかっていたから。
昨晩は眠れなくて、涙が止まらなくて……そして寂しくて。
今になってようやく眠れる、ホームルームまで休もうか、そんな時だった。
「いぇーい、一番乗りっと」
ぴょこん、とアホ毛が踊る。両手をあげたポーズで「グリコー」などと言っていた。
つかさの級友であり親友の泉こなたが現れた。
「おはよう、こなちゃん」
つかさは思わず吹き出しそうになるのをこらえ、こなたに挨拶をする。とても『らしい』登場に、心が和らいだ。
「お。おはよう、つかさ。今日は早いねー」
「こなちゃんこそ、今日はどうしたの?」
こなたがこんなに早く現れるのは珍しい。普段ならネットゲームや深夜アニメによる徹夜等で、遅刻寸前まで寝てしまう事が多いからだ。
「んー、ゆーちゃんが日直でいろいろやることがあるから、一緒に来たんだ」
そう言うと同時に「ふわぁ~眠っ」と盛大にあくびをした。
「つかさも眠いの? 目が赤いけど」
つかさは思わず目をこする。大丈夫だと思ったのだけど。
「えっ、あ、うん、そうなの。昨日眠れなくて……」
そこまで言うと、昨日の事が頭をよぎった。
「……あれ?」
「つかさ?」
涙が、こぼれる。どうしても止まらない。
「ご、ごめんね、こなちゃん。何か、悲しくて……」
そんなつかさをこなたは優しく抱き寄せた。
「我慢しないで、つかさ」
――とても暖かい。全てを話してしまいたい。
「喧嘩、したの?」
『誰と』とは言わなくても、こなたにはわかっているだろう。
「う、ん。でも、ごめんね。まだ自分でも……わからないの」
こなたの腕の中でしゃくりあげながら、つかさは告白した。優しく髪を撫でられ、心が落ち着いていくのを感じていた。
「無理はしないで。話したくなったらでいいからさ、楽になるかもよ」
「……ありがとう、こなちゃん」
こなたの温もりに包まれ、目の前が霞んでいく。そして、
「? つかさ?」
その腕の中、つかさは安らかな眠りについていた。
「おやすみ、つかさ」
こなたは優しくつかさを横たえ、膝にのせた。穏やかに眠るつかさをじっと見ていたのだが――
「ぐー」
いつの間にかこなたも眠ってしまっていた。
つかさは一人で登校していた。今はまだ、かがみに会えないとわかっていたから。
昨晩は眠れなくて、涙が止まらなくて……そして寂しくて。
今になってようやく眠れる、ホームルームまで休もうか、そんな時だった。
「いぇーい、一番乗りっと」
ぴょこん、とアホ毛が踊る。両手をあげたポーズで「グリコー」などと言っていた。
つかさの級友であり親友の泉こなたが現れた。
「おはよう、こなちゃん」
つかさは思わず吹き出しそうになるのをこらえ、こなたに挨拶をする。とても『らしい』登場に、心が和らいだ。
「お。おはよう、つかさ。今日は早いねー」
「こなちゃんこそ、今日はどうしたの?」
こなたがこんなに早く現れるのは珍しい。普段ならネットゲームや深夜アニメによる徹夜等で、遅刻寸前まで寝てしまう事が多いからだ。
「んー、ゆーちゃんが日直でいろいろやることがあるから、一緒に来たんだ」
そう言うと同時に「ふわぁ~眠っ」と盛大にあくびをした。
「つかさも眠いの? 目が赤いけど」
つかさは思わず目をこする。大丈夫だと思ったのだけど。
「えっ、あ、うん、そうなの。昨日眠れなくて……」
そこまで言うと、昨日の事が頭をよぎった。
「……あれ?」
「つかさ?」
涙が、こぼれる。どうしても止まらない。
「ご、ごめんね、こなちゃん。何か、悲しくて……」
そんなつかさをこなたは優しく抱き寄せた。
「我慢しないで、つかさ」
――とても暖かい。全てを話してしまいたい。
「喧嘩、したの?」
『誰と』とは言わなくても、こなたにはわかっているだろう。
「う、ん。でも、ごめんね。まだ自分でも……わからないの」
こなたの腕の中でしゃくりあげながら、つかさは告白した。優しく髪を撫でられ、心が落ち着いていくのを感じていた。
「無理はしないで。話したくなったらでいいからさ、楽になるかもよ」
「……ありがとう、こなちゃん」
こなたの温もりに包まれ、目の前が霞んでいく。そして、
「? つかさ?」
その腕の中、つかさは安らかな眠りについていた。
「おやすみ、つかさ」
こなたは優しくつかさを横たえ、膝にのせた。穏やかに眠るつかさをじっと見ていたのだが――
「ぐー」
いつの間にかこなたも眠ってしまっていた。
昼休み/3年C組。
かがみはいつものように、あやの、みさおとともに昼食をとっていた。
「……はぁ」
ため息一つ。
「おーい、柊」
みさおはつんつんとかがみをつついた。反応がない、ただのしかばねのようだ。
「かなりの重傷ね」
あやのの声も沈んでいた。
ずっと『心ここにあらず』といった感じのかがみを二人は心配していた。
授業中も上の空。先生の狙い撃ちを受けても気づかない。
そんな状態だからさらに先生に狙われて。
その度にみさおが「私がやるよ!」と飛び出し、そのフォローにあやのが行ったり。
それはそれで、自分達が好きでやっているのだから、かがみが気に病む事などないし、
突っ込みを入れてくれるのを待っていたのもあった。
それでもかがみは虚ろな目をしていて。
――気持ちが届かなくて。
「……寂しいな」
みさおは思わずつぶやいていた。
そんな時だった。
「あら、高良ちゃん」
あやのがみゆきに気づいて、見に行った。
みさおはそれを見送りながら、かがみの頬を引き延ばす。
「こんだけ心配させたんだから、これぐらいいいよな」
「……ひゃにすんにょよ」
「おお、ようやく返事が聞けた」
みさおが満面の笑みを浮かべる。かがみも思わずつられて笑った。
「痛いじゃないの」
でも、とても優しい気持ちが伝わってきて。
「……二人とも、ありがとう」
素直に言えた。
そしてあやのが戻ってきてかがみに言う。
「柊ちゃん、高良ちゃんが話があるって」
「え? みゆきが?」
「ほら、行ってきなよ」
みさおに押されて、席を立った。
かがみはいつものように、あやの、みさおとともに昼食をとっていた。
「……はぁ」
ため息一つ。
「おーい、柊」
みさおはつんつんとかがみをつついた。反応がない、ただのしかばねのようだ。
「かなりの重傷ね」
あやのの声も沈んでいた。
ずっと『心ここにあらず』といった感じのかがみを二人は心配していた。
授業中も上の空。先生の狙い撃ちを受けても気づかない。
そんな状態だからさらに先生に狙われて。
その度にみさおが「私がやるよ!」と飛び出し、そのフォローにあやのが行ったり。
それはそれで、自分達が好きでやっているのだから、かがみが気に病む事などないし、
突っ込みを入れてくれるのを待っていたのもあった。
それでもかがみは虚ろな目をしていて。
――気持ちが届かなくて。
「……寂しいな」
みさおは思わずつぶやいていた。
そんな時だった。
「あら、高良ちゃん」
あやのがみゆきに気づいて、見に行った。
みさおはそれを見送りながら、かがみの頬を引き延ばす。
「こんだけ心配させたんだから、これぐらいいいよな」
「……ひゃにすんにょよ」
「おお、ようやく返事が聞けた」
みさおが満面の笑みを浮かべる。かがみも思わずつられて笑った。
「痛いじゃないの」
でも、とても優しい気持ちが伝わってきて。
「……二人とも、ありがとう」
素直に言えた。
そしてあやのが戻ってきてかがみに言う。
「柊ちゃん、高良ちゃんが話があるって」
「え? みゆきが?」
「ほら、行ってきなよ」
みさおに押されて、席を立った。
入り口でみゆきと向かい合う。みゆきもとても心配そうな顔をしていて。
「……ごめんね」
それだけしか言えなかった。
「つかささんと喧嘩でもなさったのですか?」
「私の、せいだから……」
思わず俯く。
喧嘩とは呼べない。一方的に傷つけて。
「……もし、よろしければ」
みゆきがかがみをしっかりと見据えて言う。
「放課後にお話を伺えませんか?」
「みゆき……」
「私も、かがみさんの力になりたいです」
かがみもしっかりとみゆきの視線を受け止めて。
「ありがとう、みゆき」
放課後、視聴覚室で待っている。そう約束した。
「……ごめんね」
それだけしか言えなかった。
「つかささんと喧嘩でもなさったのですか?」
「私の、せいだから……」
思わず俯く。
喧嘩とは呼べない。一方的に傷つけて。
「……もし、よろしければ」
みゆきがかがみをしっかりと見据えて言う。
「放課後にお話を伺えませんか?」
「みゆき……」
「私も、かがみさんの力になりたいです」
かがみもしっかりとみゆきの視線を受け止めて。
「ありがとう、みゆき」
放課後、視聴覚室で待っている。そう約束した。
放課後/夕日に染まる視聴覚室。
鍵は掛かっていなかった。
かがみは一番前の窓際の席に座り、ぼんやりと外を見る。
どうしようもなく寂しい。いつもそばにいて、とても大切なつかさが、いない。
どうしてあんな事をしてしまったのだろう。
「かがみさん、遅れて申し訳ありません」
みゆきが教室に入ってきて、かがみを現実へと引き戻した。
「ううん、そんな事ないよ。私の方こそ、相談に乗ってもらうんだからさ」
かがみは、そう言ってみゆきに話しかけた。そのままみゆきが隣の席に座る。
「つかさ、どうしてる?」
「泉さんが話を聞いていらっしゃいます」
「……そっか。みゆきは、つかさから何か聞いてる?」
「いいえ」
「聞かないの?」
「つかささんが話したくないのなら、無理には聞きませんし、今は泉さんがいらっしゃいますから」
「みんな……優しいね」
みゆきの話を聞き、かがみはつぶやく。
「私は傷つけてばかりだ」
思わず、目を伏せる。
その時、不意にかがみの視界が暗くなった。
「かがみさん……」
「み、みゆき!?」
みゆきがかがみを抱き寄せた。やわらかいみゆきの髪がかがみに触れる。
「ご自分を責めないで下さい」
「で、でも、私は」
「私では、力になれませんか?」
かがみから表情は見えない。見えないけど本気で、だから、よけいに悲しくて。
「うっ……ひっく、うぅっ」
涙が出た。みゆきにすがりついて、声を殺して泣いた。
「かがみさん……」
みゆきの抱きしめる力が強くなって。不意に緩んで。
「えっ、んんっ!?」
かがみはくちびるを塞がれる。優しく触れて、すぐに離れた。
「私はかがみさんが好きです、だから……」
みゆきがかがみを潤んだ瞳で見つめる。
「かがみさんが、つかささんの事を好きでも」
「!!」
「私はあなたが欲しい」
今度は深く口づけられて。
――昨日とは逆の立場になっていた。
鍵は掛かっていなかった。
かがみは一番前の窓際の席に座り、ぼんやりと外を見る。
どうしようもなく寂しい。いつもそばにいて、とても大切なつかさが、いない。
どうしてあんな事をしてしまったのだろう。
「かがみさん、遅れて申し訳ありません」
みゆきが教室に入ってきて、かがみを現実へと引き戻した。
「ううん、そんな事ないよ。私の方こそ、相談に乗ってもらうんだからさ」
かがみは、そう言ってみゆきに話しかけた。そのままみゆきが隣の席に座る。
「つかさ、どうしてる?」
「泉さんが話を聞いていらっしゃいます」
「……そっか。みゆきは、つかさから何か聞いてる?」
「いいえ」
「聞かないの?」
「つかささんが話したくないのなら、無理には聞きませんし、今は泉さんがいらっしゃいますから」
「みんな……優しいね」
みゆきの話を聞き、かがみはつぶやく。
「私は傷つけてばかりだ」
思わず、目を伏せる。
その時、不意にかがみの視界が暗くなった。
「かがみさん……」
「み、みゆき!?」
みゆきがかがみを抱き寄せた。やわらかいみゆきの髪がかがみに触れる。
「ご自分を責めないで下さい」
「で、でも、私は」
「私では、力になれませんか?」
かがみから表情は見えない。見えないけど本気で、だから、よけいに悲しくて。
「うっ……ひっく、うぅっ」
涙が出た。みゆきにすがりついて、声を殺して泣いた。
「かがみさん……」
みゆきの抱きしめる力が強くなって。不意に緩んで。
「えっ、んんっ!?」
かがみはくちびるを塞がれる。優しく触れて、すぐに離れた。
「私はかがみさんが好きです、だから……」
みゆきがかがみを潤んだ瞳で見つめる。
「かがみさんが、つかささんの事を好きでも」
「!!」
「私はあなたが欲しい」
今度は深く口づけられて。
――昨日とは逆の立場になっていた。
「っ、はぁっ……みゆきお願い」
「逃がしません」
「んんっ」
みゆきは、無意識に逃げるかがみを追う。壁際に追いつめ、両手を上手に押さえつけ、くちびるを塞ぐ。
これは、罰なのだろうか。かがみはそんな事を思う。
夕日が眼鏡に反射して、みゆきの気持ちが見えない。
「かがみさん……」
切ない声色。見えない気持ち。変わらぬ想い。
みゆきの手が、かがみのリボンに伸び、するするとほどいていく。
かがみは右側のリボンが解けるのを、まるで自分の事で無い様に見ていて。
気づけばそれで両手を縛られていた。
みゆきの手が、頬を撫でていく。
「私を、見て下さい」
「……みゆき」
かがみの気持ちが、みゆきを向いていない事などわかっていて、それでも向いて欲しくて。
――だけど、応えられなくて。
「ごめん、ね」
かがみは、また一筋涙を流した。
その時、不意に拘束の手がゆるみ、リボンが解かれた。
「いいえ。かがみさん、それは私の言葉です」
みゆきは俯いて目を伏せた。
「こんな事をして、かがみさんが手に入る訳、ありませんのに」
「それは……」
――それは、私も同じ。
かがみは言葉を飲み込んだ。
「逃がしません」
「んんっ」
みゆきは、無意識に逃げるかがみを追う。壁際に追いつめ、両手を上手に押さえつけ、くちびるを塞ぐ。
これは、罰なのだろうか。かがみはそんな事を思う。
夕日が眼鏡に反射して、みゆきの気持ちが見えない。
「かがみさん……」
切ない声色。見えない気持ち。変わらぬ想い。
みゆきの手が、かがみのリボンに伸び、するするとほどいていく。
かがみは右側のリボンが解けるのを、まるで自分の事で無い様に見ていて。
気づけばそれで両手を縛られていた。
みゆきの手が、頬を撫でていく。
「私を、見て下さい」
「……みゆき」
かがみの気持ちが、みゆきを向いていない事などわかっていて、それでも向いて欲しくて。
――だけど、応えられなくて。
「ごめん、ね」
かがみは、また一筋涙を流した。
その時、不意に拘束の手がゆるみ、リボンが解かれた。
「いいえ。かがみさん、それは私の言葉です」
みゆきは俯いて目を伏せた。
「こんな事をして、かがみさんが手に入る訳、ありませんのに」
「それは……」
――それは、私も同じ。
かがみは言葉を飲み込んだ。
同時刻/3年B組。
つかさとこなた、二人が残った教室。
「かがみの方は、みゆきさんが何とかしてくれるよ」
「うん、ありがとうこなちゃん」
朝に比べると幾分か落ち着いたつかさと、楽観的なこなたがいた。
「でもさ、つかさとかがみが喧嘩、だなんて信じられないなあ」
こなたの言葉に、つかさは胸が痛む。
「喧嘩、だったらよかったのに」
無意識の内に、言葉に出てしまった。
それは、気持ちのすれ違い。『好き』の方向が違いすぎて。
「好きとか嫌いとか、誰がいいだしたのかな……」
「駆け抜けて行く~わったっしのメモリアール♪」
「へ?」
「いや、気にしないで」
残念ながら、こなたの歌に突っ込みを入れられる者はいなかった。
「……ってあれ? つかさ、そういう事だったの?」
ようやく、こなたはつかさの言葉の意味に気づいた様だ。
「あ……うん。お姉ちゃん、私の事が『好き』だって」
好きと言うには激しくて。受け止めるには重すぎて。
「私は……怖かったの」
つかさは俯いてつぶやいた。
つかさとこなた、二人が残った教室。
「かがみの方は、みゆきさんが何とかしてくれるよ」
「うん、ありがとうこなちゃん」
朝に比べると幾分か落ち着いたつかさと、楽観的なこなたがいた。
「でもさ、つかさとかがみが喧嘩、だなんて信じられないなあ」
こなたの言葉に、つかさは胸が痛む。
「喧嘩、だったらよかったのに」
無意識の内に、言葉に出てしまった。
それは、気持ちのすれ違い。『好き』の方向が違いすぎて。
「好きとか嫌いとか、誰がいいだしたのかな……」
「駆け抜けて行く~わったっしのメモリアール♪」
「へ?」
「いや、気にしないで」
残念ながら、こなたの歌に突っ込みを入れられる者はいなかった。
「……ってあれ? つかさ、そういう事だったの?」
ようやく、こなたはつかさの言葉の意味に気づいた様だ。
「あ……うん。お姉ちゃん、私の事が『好き』だって」
好きと言うには激しくて。受け止めるには重すぎて。
「私は……怖かったの」
つかさは俯いてつぶやいた。
―
――
―――
――
―――
「くっはー!」
「うわぉうっ」
背中側から聞こえたひよりの叫び声に、こなたもつられて叫んでしまう。
「何でこんな所で切れてるんスか!」
「いや、ひよりんわかってたじゃん」
「いやー、本として読むと、やはり違いますからねー」
ひより自身の手で編集されているが、改めて読むのとは違うようだ。
「先輩、続「いや無理マジ無理勘弁して」
ひよりが言葉を言い終える前に、こなたは息もつかせず言う。
こなたは最初、ギャグ物を書くつもりでいたのだ。それが、ひよりと相談しながら書いていたら、
いつの間にかこういう物になっていたのだ。
「これからが、泉先輩のいいところなのに」
「ひよりんのは、自分が出てきてる訳じゃないから、そんな事が言えるんだよ……」
こなたは盛大にため息をついた。
いいだしっぺとは言え、自分が友達にアレコレしたりされたりを、自分で書くのは死ぬほど恥ずかしい。
いや、この本を誰かに見られたら、もう確実に死ねる。
「これが、黒歴史を目の前にした、絶望の心なのね……」
すでに元ネタが怪しくなってきたこなたであった。
ちなみに、この本を作ると決めてからのひよりの行動は素早かった。
締め切りを決め、途中までであろうと掲載すると決め、こなたの小説の共同製作もするなどと、大活躍であった。
だからこそ、続きが読みたいのだろうかとこなたは思う。
「よーし、先輩に書いてもらえるように、音読するっスよ」
そんなこなたの思いもいざ知らず、ひよりは最後の一押しにかかった。
「ちょっ、やめっ……よし、こうなったらこっちも音読してやる」
こなたは腹をくくった。負けるわけにはいかない。
「うわっ。先輩恥ずかしいっス!」
「負けるもんかっ」
こなたとひよりは互いの同人誌を奪い合う。そして、互いにもつれ合い、
「うひゃあっ?」
「うぁちゃっ!」
みかん箱の限界とともに、お茶の洗礼を受ける。
勝負は終わりを告げたのだ。
「うわぉうっ」
背中側から聞こえたひよりの叫び声に、こなたもつられて叫んでしまう。
「何でこんな所で切れてるんスか!」
「いや、ひよりんわかってたじゃん」
「いやー、本として読むと、やはり違いますからねー」
ひより自身の手で編集されているが、改めて読むのとは違うようだ。
「先輩、続「いや無理マジ無理勘弁して」
ひよりが言葉を言い終える前に、こなたは息もつかせず言う。
こなたは最初、ギャグ物を書くつもりでいたのだ。それが、ひよりと相談しながら書いていたら、
いつの間にかこういう物になっていたのだ。
「これからが、泉先輩のいいところなのに」
「ひよりんのは、自分が出てきてる訳じゃないから、そんな事が言えるんだよ……」
こなたは盛大にため息をついた。
いいだしっぺとは言え、自分が友達にアレコレしたりされたりを、自分で書くのは死ぬほど恥ずかしい。
いや、この本を誰かに見られたら、もう確実に死ねる。
「これが、黒歴史を目の前にした、絶望の心なのね……」
すでに元ネタが怪しくなってきたこなたであった。
ちなみに、この本を作ると決めてからのひよりの行動は素早かった。
締め切りを決め、途中までであろうと掲載すると決め、こなたの小説の共同製作もするなどと、大活躍であった。
だからこそ、続きが読みたいのだろうかとこなたは思う。
「よーし、先輩に書いてもらえるように、音読するっスよ」
そんなこなたの思いもいざ知らず、ひよりは最後の一押しにかかった。
「ちょっ、やめっ……よし、こうなったらこっちも音読してやる」
こなたは腹をくくった。負けるわけにはいかない。
「うわっ。先輩恥ずかしいっス!」
「負けるもんかっ」
こなたとひよりは互いの同人誌を奪い合う。そして、互いにもつれ合い、
「うひゃあっ?」
「うぁちゃっ!」
みかん箱の限界とともに、お茶の洗礼を受ける。
勝負は終わりを告げたのだ。
「あー、びしょ濡れっスね」
「こっちもだよ。こりゃもうダメかね」
お茶は二人ではなく、同人誌に直撃した。ふやけた紙を乾かしても、再起不能であろう。
「うう……頑張ったけど、これも『運命』と書いてさだめと読むって奴ですか」
タオルで本を優しく拭きながら、ひよりは言う。
「そうかもね」
こなたも本を拭きながら答える。暗黒銀河級とは言え、自分達で作った本を駄目にしてしまったのは心が痛んだ。
「……ごめんね、ひよりん」
「何がっスか?」
「妄想同人誌を作ろう、だなんて言ってさ」
気軽に言うべきでは無かった。形にするととても重かった。
「黒歴史の気分がよくわかったよ」
「確かに黒歴史ですけど」
ひよりは拭いていた本から目を離し、こなたを見据える。
「言われなくても、いつかきっと手を出していましたし、作っていて楽しかった気持ちに嘘は無いっス」
「ひよりん……」
「先輩、ありがとうございます」
「ううん、お礼を言うのは私の方だよ。ありがとう」
こなたは一瞬感動したが、
「まあもう一回作り直してもいいっスけど」
「…………勘弁して下さい」
感動損であった。
「こっちもだよ。こりゃもうダメかね」
お茶は二人ではなく、同人誌に直撃した。ふやけた紙を乾かしても、再起不能であろう。
「うう……頑張ったけど、これも『運命』と書いてさだめと読むって奴ですか」
タオルで本を優しく拭きながら、ひよりは言う。
「そうかもね」
こなたも本を拭きながら答える。暗黒銀河級とは言え、自分達で作った本を駄目にしてしまったのは心が痛んだ。
「……ごめんね、ひよりん」
「何がっスか?」
「妄想同人誌を作ろう、だなんて言ってさ」
気軽に言うべきでは無かった。形にするととても重かった。
「黒歴史の気分がよくわかったよ」
「確かに黒歴史ですけど」
ひよりは拭いていた本から目を離し、こなたを見据える。
「言われなくても、いつかきっと手を出していましたし、作っていて楽しかった気持ちに嘘は無いっス」
「ひよりん……」
「先輩、ありがとうございます」
「ううん、お礼を言うのは私の方だよ。ありがとう」
こなたは一瞬感動したが、
「まあもう一回作り直してもいいっスけど」
「…………勘弁して下さい」
感動損であった。
こなた先生とひより先生の次回作にご期待下さい。
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- うっわーマジ百合ですやん! どシリアスやん!
これは読まれる方は恥ずかしい… -- 名無しさん (2011-04-13 22:10:32) - こなた先生の復活まだー? -- 名無しさん (2008-04-02 18:45:05)
- こなた続き続き! -- 名無しさん (2007-07-31 03:14:13)