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月の綺麗な夜に

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匿名ユーザー

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深夜。
どこからかふくろうの鳴き声が聞こえてくるような、そんな錯覚を覚えるような、月の綺麗な晩でした。
深夜独特の空気はどこかピンと張り詰め、静寂が辺りに立ち込めていました。
その中で女の子が涙を堪えようとして、それでも嗚咽を噛み殺しきれていないような泣き声だけがかすかに響いていました。

ネトゲに夢中になっていた私は、その声が聞こえる方へと足を運びました。
白状すると、その時点で私はその泣き声の正体が分かっていました。
その泣き声は小さい頃から何度か聞いたことのある、ある意味で聞きなれた――こう言うと不謹慎かも知れませんが――可愛らしい泣き声でしたから。
私は、泣き声がする部屋の前へと立ち、中の少女を驚かせないように軽くノックをしました。
ややあって、部屋の内側からノックが返ってきました。
「入っても良い」という意志の表れと私は判断して、ドアのノブを回しました。

そこには、私がプレゼントした大きなぬいぐるみを抱いた少女がベッドに腰掛けていました。
赤い髪に私と同じ緑色の瞳を持った、それはそれは可愛らしい少女でした。
しかし勿体無いことにその目は少し赤く腫れ、少女からその愛らしさを少しだけ奪っているような気もしましたが。
少女は私を見て、困ったような、申し訳ないような……悲しいような顔をして、こう言いました。
「ご、ごめんねお姉ちゃん……。やっぱり泣き声、うるさかったよね?迷惑だった?」
それに対して私は彼女の隣に腰掛けた後、うるさいという程の事でもない事、それと、迷惑などではないが心配だ、という旨の返事をしました。
少女は私に心配をかけた事、それと泣いていたという事実を私に知られた事を恥じている様子でした。
私は、彼女にどうして泣いていたのかを問いました。
本当はその答えは予想出来ていたのですが、それでも確認の為に、敢えて問いました。
「いや、あのね……。やっぱり、家を離れたら心細いなぁ……って。
 こっちでもみなみちゃんや田村さんみたいな友達も一杯出来たし、お姉ちゃんやおじさん達みたいな家族だってちゃんといる。
 それは分かってるんだけど……頭では分かってるんだけど……
 やっぱり、実家を離れて……お母さん達と離れて暮らすのは……寂しいよ……。
 お母さんに……会いたいよっ……!!」
ぐじぐじ、と目元に涙を滲ませ、私の胸に顔をうずめながら少女は吐き出しました。
彼女の言う通り、現状に不満はないのでしょう。それに私は胸を撫で下ろしました。
しかし、彼女は泣いています。
家が恋しいと。母親が恋しいと。彼女は泣いています。
私には、それをどうすることも出来ませんでした。
私には、彼女に謝ることしか、出来ませんでした。

しかし彼女は私の謝罪を聞いて、慌てて手を振って言いました。
「お、お姉ちゃんのせいじゃないよ……!
 お姉ちゃん達はすっごい良くしてくれてるし、本当にお姉ちゃんのせいなんかじゃないから……!
 私が、私が弱いから駄目なだけなんだから……。」
彼女はそう言って自分を責めました。
しかし、誰にも彼女を責める権利などありません。例え、彼女本人であろうとも。
昔からの友人が一人も居ない土地で、心細くないはずがありましょうか。
自分を育ててくれた両親から離れて、寂しくないはずがありましょうか。
彼女が泣いているのは、彼女のせいなどでは決して無いのです。

では、一体彼女が泣いているのは誰の……何のせいなのでしょうか?
分かっています。何のせいでもないのでしょう。責任を在処を求める事自体、愚かしい事なのです。
分かっています。ですが、ではこの怒りはどこへぶつければ良いのでしょうか?
こんな可愛い、か弱い子が泣いている。それだけで、私の怒りが沸き立つには充分です。
しかし、その怒りはどこにも向けられないのです。私は、どうすれば良いのでしょうか?

そんな私の心情を汲み取ってくれたのでしょうか。彼女は私に、
「お姉ちゃん?せっかく今ここに居てくれるなら、一つお願いしてもいいかな?」
そう、本当に可憐な笑みを浮かべてお願いをしてきました。
私は、もちろんどんな願いだって聞いてみせる事。遠慮なんかしなくていいという事を伝えました。
すると彼女は少し申し訳なさそうに、可憐な笑みを照れ笑いに切り替えてこう言いました。
「今夜はね。私と一緒に寝て欲しいんだ。一人じゃちょっと……寝れそうにないから。
 それでね。お母さんみたいに……ぎゅって、してくれると嬉しい、な?」
それだけでいいの?私は問いました。
それだけでいいの。彼女は答えました。
すぐに私たちはベッドに入り、互いに抱きしめあいながら眠りにつきました。

ベッドに入ってから眠りに落ちるまでの間。
彼女の優しい髪の香りを愉しみながら、私は少し前に感じた怒りが霧散していくのを感じました。
誰のせいでも、何のせいでも、ない。
さっきまでは文字上の意味でしか理解していなかったその事を、全身で理解していくのを感じました。
ああ、そうだ。誰のせいでも、何のせいでも、ないんだ。
そんなどうでもいい事じゃなく。
こうやって、抱きしめてあげるだけでいいんだ。
これだけで、いいんだ。

私は、物凄く幸福な気分を味わっていました。
胸元の彼女を見ると、安らかな寝顔で規則正しい寝息を立てていました。
少しだけ力を込めて、彼女の華奢な躯を抱きしめました。
柔らかな体はそれだけで折れてしまいそうなほどか弱く、私はこれからずっと彼女を守っていくことを誓いました。


深夜。
どこからかふくろうの鳴き声が聞こえてくるような、そんな錯覚を覚えるような、月の綺麗な晩でした。
深夜独特の空気はどこかピンと張り詰め、静寂が辺りに立ち込めていました。
その中で女の子が二人、仲良く抱き合いながらベッドの中で寝息のハーモニーを奏でる音だけがかすかに響いていました。




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  • 理想的な こなゆたか -- 名無しさん (2011-04-14 04:51:26)
  • ゆーちゃんが普通に可愛い -- 名無しさん (2009-11-27 23:15:44)
  • ゆうちゃんが色んな愛情に囲まれて暮らしていることを
    タイトルからも表現されていて心が和みました -- 名無しさん (2008-12-29 00:49:02)
  • 絵本風だねっ -- アイマイ (2008-12-28 23:50:50)

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