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小さな夏祭り

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匿名ユーザー

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 時期は夏真っ盛り。
 窓の外に見える景色は、アスファルトより上昇する熱気のせいでゆらゆらと形を変える。
 元気に鳴くセミ達の声が、壁1枚を隔てた、この部屋の中にまで聞こえてきた。
 窓を開けると、それはもう一種の騒音ともいえるほどにけたたましい。
 私は健康のことを考えて、クーラーではなく扇風機で過ごしている。
 しかし、今日はこの夏一番の暑さと言われているだけあって、扇風機だけでは
 流れる汗が止まることはない、聴覚的に暑さをもたらすセミの声もあいまって……
 扇子を持ち出し片手で仰ぐ、もう一方の手では、本のページを捲る。
 しかし、首を振る扇風機が風を送ってくるたびに、勝手にページが捲れてしまう。
「泉さん…遅いですね」
 誰もいない部屋で独り言を呟いた。
 今日はなぜ部屋でじっとしているか、それはあの方を待っているため。
 これは一昨日のこと……

『ねぇねぇみんな、今度の日曜、みゆきさん家行こうよ!!』
『え?』
 泉さんはそんなことを言いだした。
『はぁ?いきなりなによ』
『だってぇ、みゆきさんの家だけ行ったことないんだもん』
『そりゃそうかもしれないけど、まずはみゆきの家の事を考えてから言いなさいよ』
『私は……別に構いませんが』
 確か今週の日曜日は何も予定は……なかったと思います。
『よし!決まりだね!!』
 泉さんが、机に両手を突いて立ち上がる。
『悪いけど、私は無理よ』
『あ、私もちょっと無理かも』
『ふぇ?なんで?』
『うちのクーラーの調子が悪いみたいだから、家族全員で電気屋さんに行くのよ、新しいの買いに』
『むぅ……そっかぁ…それじゃあ仕方ないか』
 意気消沈といった感じで、両手をぷらーんと力なくぶら下げる泉さん。
 そして目を瞑り、腕を組みながらこう言う。
『仕方ない……日曜はみゆきさんと2人でフォーリンラヴするとしますか』
『みゆきに何かしたら、月曜日ひどいことになるわよ?』
 かがみさんが、背後にメラメラと炎を携えて、拳を鳴らした。
 さすがの泉さんも、おずおずと後づさる。
 手を前に翳して、防御の体勢をとりつつ言った。
『か、かがみぃ~ただでさえ熱いのに萌えないでおくれよぉ~』
『いま燃えるの漢字が違かったような気がするんだけど』
『気のせいさね』
 いまだ眉間に皺を寄せて、睨みつけてくるかがみさんを軽く流す泉さん。
『そんなわけで、日曜日みゆきさんの家行くね?』
『あ、はい…何時頃がよろしいでしょうか』
『みゆきさんの都合のいい時間でいいよ』
『日曜は特に用事がないので何時でも構いませんよ』
『じゃあ午後でいいかな?1時くらい』
『はい、ではそのくらいでお願いします』
 楽しそうに予定を決める私達を見ながら他のお二人は
『……』
『お姉ちゃん、やっぱり行きたいの?』
『え!?いや別に、こなたと一緒に行きたいわけじゃ!!』
『え?いや誰とじゃなくて、ゆきちゃん家に……ていうか「こなちゃんと」なんて、一言も言ってないんだけど』
『あぅぇ!!い、いや、その……』
 つかささんの発言に言いよどみ、顔を赤くするかがみさん、泉さんはそれに全く気がついていない様子。
 泉さん、肝心な時にタイミングが合わないようですね。
『そんじゃ、そんな感じでいいかな…そろそろ授業始まるし』
『はい、それでお願いします』
『かがみも早く戻らないと遅れるよ?』
『ふぇ!?あ…そ、そうね』
『なんで顔赤いの?』
『し、知らないわよ!!』
 更に顔を赤くしながら教室を出て行くかがみさん。
 つかささんはクスクスを笑いながら見送る。
 そして狙ったかのように、午後の授業が始まる合図が鳴った。
『あ~午後の授業めんどくさいなぁ~』
『ふふふ』
 そんなことを言いながら、泉さんは自分の机へと戻っていった。

 そして今日が、その日曜日。
 泉さんが来るはずの時間から、40分ほど経っている。
 そういえば前にかがみさんが、泉さんは時間にルーズだと言っていました。
 もう少し待ってみて来ないようでしたら、電話をかけてみることにしましょう。
 そう思った矢先
 ピンポンと、家のチャイムが鳴る。
 泉さんでしょうか、本を閉じて玄関へと向かった。
「あ、いま開けます」
 夏の暑さにも関わらず冷たいままのドアノブに、少しだけ涼みながら扉を開ける。
 そこには、ノンスリーブにミニスカートという、ラフな格好の泉さん。
 その顔には汗の粒がキラキラと光を反射させていた。
 左手にはかばん、右手にはお菓子が入っているであろう袋、泉さんが持つにはどちらも少し大きいような気がした。
「みゆきさんこんちゃ~、いや~今日も暑いねぇ」
「こんにちは泉さん、本当暑いですよね」
 お決まりであろう挨拶を交わす私達。
「はやくクーラーのある部屋で涼みたいものだよ」
「あ、申し訳ないのですけれど……クーラー自体はあるのですが、つけていなくて」
「な、なんですとぉ~~~~!!」
 泉さんは相当驚いた状態で固まってしまっている。
「私、普段は扇風機だけで過ごしていますので」
「この暑さを扇風機だけで過ごせるなんて……さすがみゆきさん」
 何が流石なのかは分かりませんが、取り合えず家に上がってもらうことにしました。
 お菓子の袋を受け取り、部屋へと案内する。
 うぅ~…などと唸りながら私の後をついてくる泉さん。
 しかし部屋に入るなり
「おぉ~、ここがみゆきさんの部屋!!予想通りの知的な部屋だぁ!!」
 などと発言……やはり泉さん、こんなときでもリアクションは忘れないんですね。
「にしても暑い……」
 すぐに意気阻喪、泉さんの特徴でもある、頭のてっぺんに跳ねる髪の毛もフニャフニャと
 だらしなく垂れてしまっている。
「クーラーつけましょうか?」
「いや、大丈夫……せっかくみゆきさんが、エコに取り組んでいるというのに、私が邪魔してはいけない!!」
 いえ、別にエコというわけでは……
「取り合えずみゆきさん、飲み物を……水分を失いすぎて、枯れてしまいそうだ」
「は、はい」
 部屋を出て、台所へと向かい、冷蔵庫の中に作り溜めしてある麦茶を取り出す。
 お盆にコップ2つと麦茶を乗せて部屋へと向かう。
 ドアを開けると、泉さんが私のベッドで寝転がっていました。
「ん~~、みゆきさんのベッドいい匂~~い♪」
「い、泉さん」
 体を伸ばしたり丸めたりする泉さんは、まるで子猫のよう。
 その様子を見ていると、体が妙にうずうずします。
「……」
「みゆきさん?」
 泉さんは、仰向けの状態から、ゴロンと半回転してうつ伏せになり、肘で上半身だけを起こす。
 こちらに顔を向けてかわいらしく首を傾げた。
「い、いえ…その、麦茶をお持ちいたしましたので」
「お~サンキューみゆきさん」
 テーブルの上にお盆をおくと
 泉さんは、麦茶をコップに並々と注ぎ、一気に飲み干した。
「ゴクッゴクッ……っぷはー、汗かいたあとの麦茶は格別だねぇ~」
「ふふ、おじさんみたいですよ泉さん」
「いやぁ父子家庭だと、どうもお父さんの影響か、こんな風になってしまうのだよ」
「そういうものなんですか?」
「そういうものなんです!!」
 人指し指を私の鼻先にビシッと突きたてる泉さん。
 そんなに力説しなくてもいいんじゃないでしょうか……
「そういえばおばさんは?」
「母は、今日用事があるようで遠出しています、少し遅くなると言っていました」
「ふ~ん」
 泉さんは特に考えるでもなく、言葉を続けた。
「さてと、何して遊ぼうか……ゲームとか漫画は無理だから…」
 泉さんは、目をギュッと瞑って腕を組み、うんうんと唸りながら考えている。
 ふと、なにかを思いついたように顔を上げた。
「よし、トランプやろう!!」
「トランプ……ですか?」
「そうトランプ!!」
 またもや人指し指を私の鼻先にビシッと突きたてる。
「ババ抜き、ポーカー、スピード、ブラックジャック、神経衰弱なんでもOK!!みゆきさんは何がいい?」
 トランプですか…やるのは久しぶりかもしれません。
「それでは……7並べなどはどうでしょうか?」
「7並べか……いいね、やろう!!」
 早速泉さんはトランプを……と思ったのですが。
「そういえばトランプないや」
「あ、それなら確かこの辺りに……ありました」
 引き出しの奥のほうにしまってあったトランプを引っ張り出す。
 黒を基調としたデザイン、中央には鳥を模ったレリーフが掘ってある。
 少し色あせた表面が、子供の頃の思い出を蘇らせてくれた。
「お、これはまた随分と西洋を感じさせる、アンティークなトランプだねぇ」
「はい、私がまだ幼稚園生くらいだった頃、骨董品を取り扱うお店で、母に買ってもらったものなんです」
「へ~」
 泉さんは興味津々と言った様子でトランプと見つめる。
「ねぇみゆきさん……」
「なんでしょうか?」
「みゆきさんの子供の頃の話……聞かせてほしいな」
「私の……子供の頃、ですか?」
 突然、私の昔話を聞きたいと言いだした。泉さんの顔を見ると、いつもは見せることのない
 真剣な眼差し、そして少し微笑んでいるような表情で私を見ていた。
 じっと見つめていると、吸い込まれてしまいそうな瞳。
 心の中を見透かされているような感覚がした。
 何でも話してしまいそうになる、思わず触れてしまいそうになる……
 私は泉さんから、目を離せないでいた。
「はい」
 無意識に返事をする、まるで洗脳されてしまったように……
「ありがと」
 いつものフニャッとした顔に戻っていた。
 今のは…白昼夢だったのでしょか……
「そうですね…あれは小学校1年生くらいの時でしょうか」
 さっきまでの感覚が嘘のように消え、言葉がすらすらと出てきた。

 それから私達は、お互いの話をした。
 私の子供の頃の話、泉さんの子供の頃の話、泉さんが私に持つ印象、私が泉さんに持つ印象……
 泉さんは私に対してコンプレックスを持っているようですけど
 私もまた、泉さんにコンプレックスを持っていました。
 小さな体、人懐っこい性格、いつも前向きなところ……
 私にないものをたくさん持っていることが、すごくうらやましかった。
 そして、そんな泉さんが友人であることが、誇らしかった。
 すごく楽しくて、時間が過ぎるのがあっという間で、気がつけば時計の針は7時を指していた。
「7時か……あ」
 泉さんが何かを思い出したように呟く。
「ごめん、結局トランプやらなかったね」
 横に置かれたトランプに目をやる。
「私は、お話をしているだけでも……すごく、すごく楽しかったです」
 私の言葉に少し驚いたような顔をする泉さん。
 しかし、それはすぐに笑顔に変わった。
「そっか、ありがと……みゆきさん」
 お互いに笑顔を向ける2人。
 耳に痛いような静寂、しかしそれは私にとって、とても幸せな静けさだった。
「泉さん……」
「ん?わ……」
 私から視線を逸らし、向こうを向いて、麦茶を片付けようとしていた泉さんを
 背後からやさしく抱き寄せる。
 トクントクンと2人の鼓動がハーモニーを奏でた。
「み、みゆきさん?」
 泉さんは、こちらを向かずに、少し戸惑ったような声で言う。
「少しだけ……このままでいても……いいですか?」
「……」
 少し間をおいて、穏やかに言った。
「うん……いいよ」

 好きだからとか、そういう感情からではなかった。
 ただ触れたかった、抱きしめたかった……

 ――可愛くて、強くて……優しいあなたを

 どのくらいそうしていただろうか
 少しだけと言ったにもかかわらず、実際に抱きしめたその体は
 暖かくて、華奢で、抱きしめているだけで幸な気分へと誘ってくれた。
 私にはない、いろいろなものを持っていた、離してしまうのがもったいなかった。
「泉さん……泉さん?」
 返事がない。
「みふきふぁん」
 なんだか舌が回っていないようです……一体どうしたのでしょうか。
「あふい」
「……!!す、すいません!!」
 急いで手を離す、すると泉さんは、こちらにお尻を突き出すような形で、前向きに倒れた。
 一瞬触ってみたくなる衝動に襲われたけれど、頭を振って意識を戻す。
「ど、どうなさったのですか!?泉さん!?」
「い、いや~……ずっと暑いの我慢してたんだけどねぇ~……なんか今ので限界点を突破してしまったようで……
 私がクーラーっ子だからか、体にこもった熱が抜けなくてさ……なんていうのかなぁ……」
 顔がまるで茹蛸のように真っ赤になっていた。
「ね、熱中症ですか!?そ、それは大変です!!はやく処置を!!」
「いや、さすがにそれはな」
「と、取り合えず氷を!!」
 泉さんの言葉を遮って台所へと向かう。
 さっきまでの雰囲気が嘘のように、高良家には、バタバタと私が走り回る足音だけが響いていた。
 その時丁度帰ってきた母は、普段見せない切羽詰った私の姿に
 驚いたり笑ったり固まったりで、昼間の用事よりも忙しかったといっていた。

「本当にすみませんでした」
「いやいや、気にせんでいいよみゆきさん、いい経験できたし」
 縁側に腰掛け、泉さんに膝枕をしながら、団扇で扇ぐ。
 庭先では、私が生まれた頃からいる鯉達が、元気に泳いでいた。
 2人で、泉さんが来る時に持ってきたお菓子を啄ばんでいた。
 外はすっかり暗くなって、時間は既に9時半を回っている。
「時間も…こんなに遅くなってしまって……」
「別にいいよ、泊まるつもりだったし」
「え!?」
 泊まるだなんて聞いていない。
 そういえば妙に荷物が多かったような気が……
「やっぱり迷惑かな……帰った方がいい?みゆきさん……」
「……」
 そんな捨てられた子猫のような目で見ないでください。
「構いませんよ、むしろ大歓迎です。母もきっと喜ぶと思います」
「うむ、ありがとう」
 向日葵のような、満面の笑顔を咲かせる泉さん、すると突然、空が輝き始めた。
 ヒューー……パァアアンッ パンパンッ

「お?花火だ」
 夜空に咲き誇る色とりどりの光の花。
 そういえば今日、近くで花火大会が開かれているんでした。
「綺麗ですね…」
「うん…」
 2人で、打ち上げられる大きな花火を見つめた。
 赤、黄色、緑、青、紫
 打ち上げられる花火と同じ色に染まる、空と、私達の顔。
「なんかさぁ」
 花火を見つめたまま、泉さんが呟いた。
 私は、花火の光によってカラフルに染まる泉さんの顔を覗き見る。その瞳は、まるで夏祭りに来た子供のような輝きを放っていた。
「……小さな夏祭りに来てるみたいだよね」
「小さな夏祭り……ですか?」
「うむ……いまここには私とみゆきさんしかいなくて、お菓子食べて、綺麗な花火が見れて……
 だから、2人だけの、小さな夏祭り……ね?ぽいでしょ?」
「2人だけの……夏祭り……」
 窓枠にぶら下がった風鈴を、夜風がやさしく撫でる。
 チリンと、夏を感じさせる音が耳に心地よい。
「……涼しいね」
「……ええ、本当に」
 私達はなにも言わずに、ただただ空に咲き乱れる光の花を、見つめていた。


 最後の花火がおわり、私達の小さな夏祭りは幕を閉じた。
 黙りこんでいた泉さんが、そっと口を開き、言葉を紡ぐ。
「今度は4人でやりたいね、小さな夏祭り」
 ……今度は4人で、ですか……泉さんらしいですね……
 こんなにやさしい泉さんを独り占めにしていたら、きっと罰が当たってしまいますよね……

 ―――……
 泉さんにこのような気持ちを抱いているのは私だけではない。
 きっとあの2人も同じ……同じだからこそ分かる……だからこそ…
 まだ今のままでいい、まだ今のままがいい。
 今日泉さんといて、再び気づいた、自分の気持ち。
 それをごまかすように、大きく返事をした。
「……はい♪」
 でもいつか……いつかきっと、この気持ちを伝えられるように
 そして、この温もりがこれからもずっと、傍にあることを願って
 私は、泉さんの手を確かめるように握る。
 それに気づいた泉さんは、こちらを見ずに、ちょっとだけ驚いた顔をした後
 ニッコリと微笑みながら、答えるように握り返す。
「みゆき、こなたちゃん、降りてらっしゃーい、ご飯食べましょー」
「はい、今行きます」
「おばさんの料理楽しみだなぁ~」
 2人で母の待つリビングへと向かう。

 ――繋いだ手を、握り締めたまま

【 fin 】




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  • 普段二人とも色恋沙汰とは無縁だからか、こういう雰囲気はグッと来る。この二人の組み合わせ結構好き -- FOAF (2014-01-23 22:34:05)
  • 読んでて、とても
    穏やかな気持ち
    になりました。 -- チャムチロ (2012-07-23 01:24:08)
  • こなたの やんちゃで目を離せない言動は、母性本能をくすぐるんでしょうね。 -- 名無しさん (2011-04-14 07:08:11)
  • G!J! -- 名無しさん (2010-06-11 00:32:04)
  • 俺はもしかしたら性行為はいるより好きってことを何となく
    匂わせるような作品の方がすきなのかもしれない。
    これはみゆきもこなたもまともだったから良かった。 -- taihoo (2008-09-28 05:03:35)
  • きれいなお付き合いGJすぎる!
    -- 名無しさん (2008-09-24 08:58:33)
  • GJ!
    壊れてないみゆきさんも良いです -- にゃあ (2008-09-16 06:21:05)
  • 超GJです。むやみに性行為させるよりこういうソフトなほうがうけが良いと思いました
    -- 生足 (2008-03-02 02:19:27)
  • GJ!やっぱり百合は軽くハグぐらいがいいですね! -- 名無しさん (2007-10-05 18:59:08)
  • こ、これは素晴らしい!!
    うちのみゆきさんにもたまにはこのくらいサービスしてあげようと強く心に決めました。
    果てしなくGJ!! -- 名無しさん (2007-10-05 16:41:15)

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