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さよなら魔法使い

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「あんたって小学生の時からあんまり変わってないわねー、でもこの頃のほうがちょっとは素直そうね」
「む、失礼な。私のどこが素直じゃないっていうのかな、かがみんや」
重々しいアルバムのページをめくりながらかがみが呟いた。
小学校の卒業アルバムにうつるこなたはわずかな違和感をかがみに与えた。なんとなく何かが足りないような気がするのだ。
「このこなちゃんかわいいね、割烹着着てるよー」
「つかさも意外にマニアックだね、スパッツでもスク水でもなく割烹着とは」
「ええっ?私そんな変かなぁ……?」
おしゃべりに興じるこなたとつかさを横目にかがみは黙っていた。
「あ、今日夕飯の買い物頼まれてたたんだった。もう帰らなくっちゃ」
アルバムに夢中になっていたつかさが、時計を見て慌てて鞄を手に取った。
それに釣られて立ち上がろうとしたかがみをつかさが制する。
「今日はそんなに荷物ないから私一人で大丈夫、お姉ちゃんはゆっくりしてていいよ」
「そう?じゃあお言葉に甘えるとするわ。もし大変だったら携帯に連絡してくれればすぐに行くからね」
「うん、それじゃあこなちゃんばいに~」

つかさが帰るとかがみは俯せに寝転がってアルバムを読み出した。こなたも椅子からベットに腰を移す。つかさの前でだらしない格好をしたがらないかがみも、こなたと二人きりの時は姿勢を崩しがちになる。
「なーんか今のこなたと雰囲気違うのよねー、何が違うんだろ?、目つき?」
「そりゃ私も成長したんだよ、そういえばかがみは小学校の頃からツリ目だったね、ぷぷっ」
「あんたは口が減らないな。ねえそういえばあんたって中学のアルバムはとってないの?まさか教科書と一緒において来ちゃったんじゃないわよね?」
「あー、まあちょっと……」
「え?まさかほんとに置いてきたの?」
こなたの表情が固い。
いつもの穏やかな二人の時間が、急によそよそしいものになってしまったような気がしてかがみは慌てた。
「中学のアルバムはね……え~っと」
「別に無いならいいんだけど……」

しばらく気まずい沈黙が続いた後、ゆっくりとこなたが顔を上げた。
「ちょっと嫌な思い出があってさ、あ、そんなたいしたことじゃないんだよ、でもなんとなく話しづらくて」
「そんな喋りたくないなら無理に話さなくてもいいのよ?」
これは嘘だった。それがこなたにとって思い出したくないことでも、かがみはこなたのことをもっと知りたかった。
そんなかがみの意思を知ってか知らずかこなたは首を振った。
「まあかがみには話しておこっかな、って言っても人に話すのは初めてなんだけどね」
そう言うとこなたは、寝転がるかがみの横に腰を下ろして語り出した。

「前にさ、魔法使いの話をしたの覚えてる?ただ仲の良い友達としか言わなかったけど、あれって実は男で……まあ半ば彼氏みたいなもんだったんだよ」
きっかけはとても些細なことだった。
三年時のクラス替えで一緒になった男子が、こなたの趣味を知ってオタ話を振ってきたのだ。
「いや~、あん時は嬉しかったね。オタクな女友達もいたけどいつの間にかBLにはまっちゃってて疎遠になってたから、その時はそっち方面の話をできる人がいなくてさ。
放課後みんなが帰ってからも、延々二人だけで盛り上がっちゃってね」
二人は放課後になるとよくアニメイトや本屋に出かけて、特に目的もなくダラダラと時間を費やした。
そしてそんな関係が半年も続いた頃、こなたはその男から離れられなくなっていた。
「あんたが男に夢中なるなんて意外ね。ちょっと想像できないんだけど」
「いや~……まあ若さゆえの過ちってやつでして」
その男子はオタクではあったものの、そこそこに顔が良かった。話が合ってしかも顔も悪くない。今まで一人の男と長い時間を過ごしたことのないこなたがはまりこむには、それで充分だった。
しかし冬になって卒業が近づいても、二人の関係に変化はなかった。
二人で会うのも決まって、いつものアニメイトや近場の似たような店だけ。
こなたがイベントに誘ってみたりしても、男は面倒がって来ることはなかった。
そうして二人の間にはいつしか倦怠感が漂いだし、受験が終わった頃男はこなたに
別れ話を切り出した。
「笑っちゃうよね~、私はその時まで付き合ってるなんて全然思ったことなくてさ。ただ二人でアニメとマンガの話ししてゲームやってただけだったんだもん」
それでもその時のこなたは冷静だった。
二人の関係の終わりは少し前から、どうしようもなく見えていたのだ。
こなたが大きな失望感を味わったのは卒業式の日のことだった。

「文集を見た時にはへこんだね。かがみん魔法使いって言葉の意味知ってる?ネット用語でずっと童貞でいる男のことを言うんだよ」
「なっ、いきなりなんて話するのよ!」
「いや~、そんな顔されてもほんとなんだからしょうがないじゃん。それであいつのほう見たら男子何人かでそのネタで盛り上がっててさ、あいつが、俺もう少しで魔法使いの資格失う所だったぜーとか言ってたんだ」
「うわ……最低。そいつあんたのことを彼女だと思ってたんでしょ?それなのになんなのよ、その態度は?それであんたはどうしたの?」
落ち着いて話しを聞いていたかがみも、二人の関係を自分勝手に解釈する男に怒りを露わにしたが、その反応にこなたは少し気まずそうにうつむいた。
「それがな~んもできなかったんだよね、怒るより先に一人で熱くなってた自分が嫌になっちゃってさ。それでアルバムもその場に置いて帰って来ちゃったんだ」
「どうしてこなたが、そんな気持ちにならなきゃならないのよ!こなたは悪く無いじゃない、それなのに……」
「まあ、実際そうだったんだから仕方ないじゃん。それにさ、あいつはオタ話のできる女友達が欲しかっただけなんだよね、それにさっさと気付かない私もバカだったんだよ。この話はそれでおしまい」

こなたの語りはまるで教科書を音読するかのように淡々としていたが、それがかえってかがみにはもどかしかった。
こなたが涙でも見せてくれれば、優しく慰めることもできた、今からでも関係者になれた。
けれど終わってしまった事に手を出すことはできない。
体温すら感じ取れるような距離に座っているのに、二人の視線は交わらない。
「どうしたのかがみん?、ぼけっとしちゃってぇ、あれかな?子供だと思ってた幼なじみがいつの間にか大人になっててびっくり!みたいな?ギャルゲーだと良くあるよね、そういうの」
「正直そんな気分よ。ゲームでしか恋愛したことないくせに、とか今まで好き勝手言って悪かったわね。でも何で今まで言わなかったんだ?話す機会は何度もあったじゃない」
「あの時の自分を思い出すと恥ずかしくてさー。ま、中二病みたいなものだよ」
「それなんか違くないか?そういや私もラノベ読んでる時に、オタクっぽい男子に声掛けられたことあったわよ。全く……あんなのに引っかかるなよ」
「もうその通りです、かがみ様。でもそういう自分はどうなの?それ以外で何かないの?」
「……実は何人か誘われて二人で遊びに行ったことあるんだけど、そこで終わっちゃって。なーんか距離を置いちゃうのよね」
「やっぱりかぁ、絶対かがみはモテると思ってたんだよね。でも付き合えないってのはなんなんだろう?みんなデレ期に入るまで待てないのかねぇ」


人と距離を置きたがる自分の例外が、目の前のこなたであることにかがみは気付いていた。
こなたが恥ずかしい思い出を打ち明けてくれたのも、本当は嬉しい。
しかしそれと同時にこなたが誰かに一時でも心を預けていたと思うと、軽い嫉妬を感じずにはいられなかった。
「あんたみたいな奴でも恋したことがあるってのに、どうして私はダメなのかな?デートの時だって楽しくなかったわけじゃないんだけど」
「かがみは私といる時が一番可愛いから、しょうがないよ」
「何言ってるのよあんたは。私はあんたといる時の私が一番可愛くないと思うけどな」
こなたは横目でかがみを見ながら、いつものように猫口で笑っている。
かがみは友人のこういう物言いが少し苦手だった。
自分の感情が見透かされているようで、なんとなくいらついてしまうのだ。
「自分のクラスにいる時のかがみって表情が堅いんだよね。もっとリラックスしてさ」
「やっぱりそうなのかなぁ?私はうまくやってるつもりなんだけど」
「それがダメなんだよ、たまには素を見せてあげないと攻略意欲が湧かないじゃん」
「言いたいことはわかるがギャルゲーに例えるなよ。そもそもあんただって一回経験があるだけじゃない」
「ま、そういうこと。本当に助言が欲しいならあのデコっ娘にでも聞いたほうがいいよ。私の経験なんて大したことないしね」
「結構ヘビーな話だった気がするけど……本当にもう気にしてないのね、なんだかこっちが拍子抜けよ」
「もう二年以上前のことだよ。それに女は昔を振り返らないのさ」
こなたにとって魔法使いはすっかり過去の人間だった。最初はそれがかえって寂しく感じ
たかがみも落ち着きを取り戻した。冷静に考えれば、こなたが今でも昔の彼氏を想っていて都合の良いことなんてかがみには一つもないのだから。
「二年前かぁ、しかしオタ話とゲームとアニメイトって、今私とやってることと全然変わらないわねー」

「全然違うよ!」

こなたの声は失恋体験を語った時よりよほど真剣だった。
いつもの調子に戻って気安く話しかけたつもりだったかがみが、驚いてこなたのほうに向き直ると二人の目が合った。
「あいつとかがみは全然違うよ、かがみとはそういうことだけじゃなくて、一杯色んな所に遊びにいったじゃん」
「そりゃそうだけど、なにむきになってるのよ」
「だってかがみはああ言って欲しかったんじゃないの?わざわざあいつと自分を比べたりしてさ」


比べてなんてない、その一言がかがみは言えなかった。
しかしこんな風に否定してもらいたいと思ったわけでもなかった。
ただ、そうだね、あいつと同じだね、と軽く同意して欲しかっただけだった。
「コミケだって二人で行ったよね、海にだって遊びに行ったじゃん。全然私の趣味とは違うけどすっごく楽しかった」
「本当にどうしちゃったのよ、悪い物でも食べたの?」
かがみはどうにかして空気を戻そうとしたが、こなたはとりあわなかった。
「こういう時かがみはずるいよね、だから折角男子に誘われたって進展しないんだよ。普通の人はツンデレとか言って先回りしてくれないよ」
「……なんなのよ、私がいつツンデレって呼んで欲しいって言った?あんたが勝手に言ってるだけじゃない!」
かがみがツンデレと呼ばれることに安心感を覚えていたことは、事実だった。
ツンデレは楽なのだ。どれだけ失礼なことを言っても、相手が勝手に自分の好意を受け取ってくれるのだから。
口調を荒げても、かがみの声にはまるで迫力がなかった。
対してこなたの目は、かがみを真っ直ぐ見据えて離そうとしない。
「かがみは自分の気持ちに自信がないんだよ。もっと……」
「ちょっと黙ってよ!私こなたが何を言いたいのか全然わかんない……もう帰る!」
かがみはこなたの視線を無理矢理振りほどくと、逃げるようにして立ち去った。














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コメント:
  • ↓そう?可愛いと思うよ -- 名無しさん (2011-04-20 03:49:57)
  • このかがみ性格悪いな -- あ (2008-01-14 03:40:29)

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