kairakunoza @ ウィキ

ミッド・サマー・ナイト

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
「……暑い」
 私の口から思わず声が漏れる。
 部屋の人口密度は二人でも、パソコンから漏れる熱が温度を上げてるに違いない。
 まったく、何であんたのパソコンはいつもつけっぱなしなのよ。
 省エネって言葉を知らないの? まぁ、人の家の事だからいいけど。
「あははゴメンねー、クーラー壊れちゃっててさ。扇風機で我慢してよ」
 そう言って部屋の主――こなたが寂しく首を振っている扇風機を叩く。
 夏休みだというのに、こんな狭い部屋でこなたと勉強会。
 といっても、例のごとく私のを写すだけなんだけど。
「ふひー疲れたー、もう駄目休憩ー」
 そして例のごとく、集中力が続かず机に項垂れるこなた。
 まったく、相変わらずなんだから。
 まぁ私は終わってるから、あんたの宿題が終わるのが長引くだけなんだけど。
「でも確かに熱いねー、ちょっと風強くしよっか」
 と立ち上がり、扇風機のつまみを回す。
「あ、ついでになんか持って来るよ。麦茶でいい?」
「んー、あーお願い」
 確かにこう熱いと、こなたじゃなくてもやる気が出ないか。
 群馬かどっかではもっと酷い事になってるとかニュースで言ってたっけ、想像もつかないや。
 こなたもちょっとは戻ってこないし、扇風機の首も固定。
 そのまま教科書を枕に寝転がる。
 首振りを固定に変えただけでも、まるで違うもの。
 肌を打つ風は心地よく、眠気も襲ってくる。
 ああ、そういえば昨日も遅くまでラノベ読んでたっけ。
 少しぐらいはいいか、どうせこなたが写してるのを待ってるだけだし。
 ……。
 なんだろう。
 少し、息苦しい。
 というか、息が上手く出来ない。
 口の中を何かが暴れてる感覚は、そこから痺れていくような錯覚を覚える。
 ああ、分かった。
 今……キスされてる。
 目が覚めてるのに……夢の中みたい。
 少しして、その口の感覚が消える。
 それと同時に目を開けると、こなたが居た。
 まぁ……今この家には、他に誰も居ないのだけど。
「目、覚めた?」
「……おかげさまで」


 軽く嫌味を言ってやる。
 もうちょっと長くても、とか思ったのは絶対言ってやるもんか。
 体を起こすと、妙に距離が近かった。
 もう本当に、目と鼻の先。
「じゃあ、改めて」
 何が『じゃあ』なのか突っ込む前に、私の唇が奪われた。
 汗と唾液が混じりあい、体は痺れていく。
 もう、暑さなんてどうでもよかった。
 むしろ扇風機の風が、邪魔なくらいに。
 ただこの快楽に、身を任せていたかった。
 でもその時間は、有限。
「あ……」
 また彼女の唇が離れ、未練がましく口から声を漏らす。
「さすがにあっついねー」
 と、また自分の所定の位置に戻るこなた。
 何時の間にか机には、二人分のコップが置かれていた。
「ん、まだしたかった?」
「……別に」
 こなたが悪戯に笑う。
 絶対言ってやるもんか。
 もうちょっとしたかった、なんて。
 まだ、体の奥が熱い。
 部屋の気温の所為だけじゃない、今のキスに決まってる。
 麦茶でその熱を誤魔化すが、そう簡単には行かない。
 私はそんななのに、目の前で黙々と宿題を写してるこなたが気に入らない。
 大体今日だってそう。
 宿題写させて、って言うから家に来たらおじさんも居ないし。
 ゆたかちゃんは実家の方に帰ってるらしいし。
 つまりは二人きり。
 そんな所に「勉強しに来ない?」と誘われたらどうする?
 結果はそれごらんのとおり。
 その状況に、こなたは……人の気も知らないで、せっせと宿題を写してる。
 私は慌ててばっかりで、馬鹿みたい。
「ねぇ、こなた」
「うんー?」
 せっせと宿題を写しながら、返事だけはする。
 顔ぐらいこっち見てもいいのに。
「私が男だったら……良かった?」
「ふぇ?」


 言ってやった。
 ずっと聞けなくて、聞けなかった事。
 私たちではどうにもならない、ただの妄言。
 それに反応して、素っ頓狂な声と共に手が止まる。
「そしたら、ほら。キスだけじゃなくて、色々……その、出来るし」
 ゴニョゴニョと語尾が消えていくのが自分でも分かる。
 駄目だ、顔を見れなくなってきた。
「んー、確かに男っぽいかがみも面白そうかなー」
 とか笑われる。
 うう、人がかなり勇気振り絞ったっていうのに。
「でも、そんなのかがみじゃないじゃん? 私はかがみがかがみだから、好きなんだよ」
「へっ……?」
 またこなたが作業に戻る。
 私の頭を沸騰させたままで。
 い、いや。そりゃまぁ、何回か言われてきたけどさ。
 今の不意打ちはなんていうか……ずるい。
「どったの? 急にそんなこと」
「だ、だって……」
 人の顔も見ないで今度はこなたから。
 まだ頭の中が混乱してるため、言葉が上手く出て行かない。
 だから、思わず言ってしまった。
 ……本音を。
「だって、私ばっかり……好き、みたいでさ」
『あの日』、私が言った。
 好きだと言った。
 そしてこなたは言ってくれた。
 好きだと言ってくれた。
 キスをしてくれた。
 だけどそんなんじゃ……分かんない。
 一緒に居るだけじゃ、分かんない。
 キスするだけじゃ、分かんない。
 そう……男の人だったら分かるのに。
 だって、確かに結ばれることが出来るから。
 確かに……繋がることが出来るから。
「ははぁ、なるほど」
 と、そこでシャーペンを置く。
 そしてようやく私の顔を見る。
 うっ、しまった……もう目を離せない。
 ちょっと怒ってるように見えるのは、気のせいじゃないと思う。
 そしてそのまま私の目の前に。


「えいっ」
「んがぁっ!」
 思いっきり指で額をはじかれた。
 地味に効くんだ、これ。
 てゆーか、何を突然……。
「いい? 一回こっきりしか言わないかんね」
「!」
 思いっきりこなたの顔が顔の前に。
 さっきも近かったけど、それの比じゃない。
 しかも逃げられないように顔を両手で掴まれた。
 眉間にシワが寄ってるのは、やっぱり怒ってるらしい。
 てゆーか息がかかってるって!
 鼻息も!
「わ、私はかがみより……」
 私の目の前で、私の目を見て……こなたがゆっくりと呟いた。
「かがみが思ってるより……かがみのこと、好きだから」
「え……」
 それが耳に入って、脳に届くまで時間があった。
 その隙にもう一度……唇が交わった。
 さっきよりは短く、優しいキス。
「……そんだけ」
 そしてまた、踵を返して自分の場所に戻るこなた。
 その表情は私と同じで……真っ赤だった。
 そうだ。
 私は何を迷っていたんだろう。
 何てことはない、彼女も……一緒だったんだ、私と。
 想いが届いてるのかただ心配で、冷静を装って。
 何だかそう考えると、可笑しい。
 どちらも探り探りで……何も出来なかったなんて。
「残念だったわね、こなた」
「?」
 もう一度、こなたが視線をあげる。
 大丈夫。
 もうまっすぐに、彼女が見える。
 あとは――言うだけ。
「私のほうが、あんたの事好きだから」


 それは恋という喜劇。
 愛という戯曲。
『あの日』現れた妖精は、私の瞳にオーベロンの媚薬を塗っていった。
 それは花の汁から作られた、魔法の媚薬。恋の媚薬。
 それをつけたらもう、彼女しか見えない。
 そのまま私は、こなたに告白した。
 さながら私はタイターニア。さながらこなたは……ロバでいいや。
 だけど、その媚薬を作ったのは私――どうして? 私がそれを望んだから。
 だけど、その媚薬を塗ったのは私――どうして? 私がそれを望んだから。
 さながら私はオーベロン。
 さながら私はパック。
 だから、物語は終わらない。
 タイターニアの恋は、終わらない。
 だって魔法を解けるのはオーベロンだけだから。
 ――どうして?
 私がそれを……望んだのだから。
 それは恋という魔法。
 愛という物語。
 物語はハッピーエンドとは限らない。
 物語はバッドエンドとは限らない。
 それを決めるのは、私――私たち。
 そう、これは私たちの物語。私たちの時間。私たちの夢。
『あの日』から始まった、終わらない夢物語。
 永遠の――ミッド・サマー・ナイト。

――ねぇ、『貴方』には分かる?
――私の瞳に、私が、私の媚薬を塗った『あの日』がいつか。
――ふふ、それが私からの宿題。
――オーベロン妖精王からの、タイターニア妖精王妃からの、その弟子からの……柊かがみからの課題。
――さぁ舞い踊れ妖精たち、妖精王の名の下に。
――永遠の夏の夜の夢が、終わるまで。














コメントフォーム

名前:
コメント:
  • 言い回しがすごい綺麗
    GJです -- 名無しさん (2008-08-15 12:25:21)
  • GJの一言につきます! -- 将来ニートになるかも (2007-10-23 00:18:11)

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー