kairakunoza @ ウィキ

ある日

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匿名ユーザー

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「ねえねえ、かーがーみ」
「なに?」
「キスしたいなー」
「ダメだっての」
背中から手をまわしてべたべたしてくるこなたの声は本当にネコみたいだ。
ごろごろ、うにうにと鳴き声みたいのをあげているとそのうち本当ににゃあとか言い出しそうで、
もう見慣れてはいるけど毎度毎度反則的にかわいくて、思わず抱きしめちゃいたくなる。
けどこっちは来週の試験勉強をそれなりに真剣にやっているわけで、そりゃ
正直に言えばキスだってしたいけどそうしたら最後、なし崩し的にアレや
コレやってなっちゃって結局勉強なんて手がつかなくなるに決まってる。
さっきから何度もかわいらしい誘惑(してるつもりなんだろう、こなたとしては)
を仕掛けられてはいるが、ことごとくスルーに成功している自分の精神力を
褒めてあげたい。
「ねー、なんで?一回二回キスしたって勉強に差し支えないじゃん」
「ある。絶対ある。あんたいっつもそういって私のこと押し倒すじゃない」
「かがみが好きだからだよー」
「……」
だから、そういうの反則だってば。
私の肩にあごを乗っけて不満げにごろごろ言う。こなたのあったかいほっぺたが
私のほっぺたにくっついた。
「ねえ、かがみぃ。一回だけ、一回だけだから。ほら、ちゅー」
そのまま顔をすりすりしてきた。
「だーめ!今日はそういうのナシって言ったでしょ!」
こつ、と軽く頭を小突いてやる。
しぶしぶといったようにこなたが手をはなした。
「ちぇ。はいはい、いいですよいいですよー。どーせ私にはかがみがちゅーしてくれる
 魅力なんてないですよー」
すっかり拗ねちゃったこなたはベッドに倒れこみ、ごろごろ転がり始めた。
あいかわらず他人のベッドだっていう感覚が欠如している気がしないでもない。

でもここで妥協しちゃダメなのは経験則でわかってる。こういうパターンは私たちの
間ではそれこそ日常茶メシで、ここでちょっとでも『しょうがないなあ』的な態度を見せると
すごい勢いで抱きついてきて絶対離れなくなる。
前だって一晩中ずっとキスさせられたことあったし。常識なさすぎなのよね、こなたは。
……ま、まあ。そりゃ全然嬉しくなかったとか、イヤだったとか、そんなんじゃない、んだけど……。恥ずかしいし。
かぶりを振ってとりあえず勉強に集中することにする。
こなたは今回も一夜漬けなのかな。
「……んー」
ぷちぷちという音が聞えた。後ろを見るとこなたがベッドにうつぶせのまま携帯をいじくっていた。
珍しい。普段携帯なんて使わないのに。
「なに、メール?どしたの、私とだってあんまりしないのに」
「べ。お勉強好きのかがみんは英語やってりゃいいじゃん」
赤い舌をちろりと出して子供っぽく言う。ああもう、普段なら腹が立つとこだけど
そういうとこもむやみにかわいい。でもちょっと、かわいそうかな……。
いやダメ。ダメだ。ここで折れたらまたいつもと同じだ。うん、今日は毅然とした態度で。
「そう。まあいいけどね」
できるだけ平静を装って言った。
なんとか普通に英語をこなしていると、そのうち集中力が出てきた。

「こなちゃん、来たよ」
「おっす、つかさー」
「つかさ?」
しばらくするとつかさが遠慮がちに部屋に入ってきた。
「おっし、じゃあ行こうか」
「え、ちょっと。こなた、つかさと一緒に出かけるの?」
「そう。かがみがねー、ぜーんぜん相手してくれないんだもん。だから浮気してやる」
「こ、こなちゃん!……お姉ちゃん、あのね、浮気とかじゃなくて。こなちゃんがメールで
 遊びに行こうって……」
浮気だとぅ?……ははん、そういう作戦できたか。ここで私が引き止めるって思ってるんだな。
だが甘いぞこなた。その程度の策略、この私には通用しない!

「そう。じゃあ、あんまり遅くならないようにね」
堂々と言ってやった。どうだ。
「おっけー。それじゃかがみのお許しも出たし、行こう行こう♪」
「う、うん……」
え。
「ちょっと」
「んー?なに?」
「い、一応聞いておくけど。どこ行くの?」
「そんなの教える必要ないじゃーん。なになに?気になっちゃう?」
こなたがしてやったり、と言いたげなくすくす笑いを浮かべた。
んが。本当に出かけるなんて二重の罠か!
「そう……そうね。い、いいわよ。浮気できるならしてみなさいよ。も、思いっきり遊んできなさい」
「うん、そうするー♪行こう、つかさ」
「こなちゃん、腕痛いってば……」
つかさがちらりとだけこっちを見て、『ごめんね』って小さく言った。謝らないでよ、もう。
こなたがいなくなった部屋はひどく静かに感じられて、勉強なんて全然手につかなかった。

ああああ。ああああー!なんか知らないけどすごくイライラする。
まさか本当にこなたが浮気なんてするとは思わない。私に対するあてつけに決まってる。
決まってるけど、イライラする。もうなんなのよ、これ!
さっきこなたがしてたみたいにベッドの上でごろごろして、私は『ああ』とか『うう』とか声にならない
声をあげていた。我ながら怪しさ千点満点だ。
でもそんなのを気にしてられないほど私の頭の中はぐちゃぐちゃで、胸に去来するすごくイヤな
感情を少しでも誤魔化そうと枕をばふばふしてもちっともよくなんてならなかった。
絶対に……絶対にないとは思うけど、もしかしたらあるかもしれない光景を想像する。
つかさだってこなたのことは嫌いじゃないはずだ。
私が初めてされたときみたいに、思いっきり不意をついてキスしてきたりしたら。
いや、絶対にないとは思うけど!思うけど……でも、もし。
背中に手を回して、どこにそんな力があるのか不思議なくらい強い力で抱きしめて。
背がちっこいから思いっきり背伸びして。なのに唇は本当に優しく、そっと重ねてきて……。

思わず自分の唇に手が伸びていた。
あのとき、生まれてから感じたことがない幸せを感じた。こなたが、それまで見たことないくらい
一生懸命でどうしようもなくかわいかった。
「こなた……」
まさかまさか、本当に浮気なんてしないわよね?
私にちょっと意地悪しただけ、だよね?
もし、もしあんな素敵なキスされちゃったら、つかさだってこなたのこと大好きになっちゃうに決まってる。
こなたも私みたいなかわいくない女の子より、つかさみたいな優しい子のほうが……。
「んんんん、もう!わかった、わかったわよ!!」
イライラが最高潮に達してハンガーにかけてあった薄いブルーのジャケット(買い物に行ったときに
こなたが選んでくれた。なんかのアニメのキャラが着てるのにそっくりなんだって)をひったくり、駆け足で家を飛び出した。
一応言っておくけどね、こなた。私はあんたが本当に浮気するなんてこれっぽっちも思ってないけどね!
あんたは私がいないとダメなの、よーく知ってるんだから。それなのに子供みたいにさ、拗ねちゃったりしてさ、
そりゃかまってあげなかったのは悪かったかなーとは思うけどさ。
でもだからって、本命の彼女の前で浮気してやる、なんて言う?しかもその彼女の妹と一緒によ。
だからそう。そういうこと言うのよくないから、絶対よくないから!説教してやるだけなんだから!
駅前道路を走り抜け、アーケードをぶっちぎり、河川敷を突っ切った。
延々走って走って走り続けて、やっと噴水公園のベンチに座っているあの子を見つけた。
「こお、なあ、たあ!」

「あ。おっす、かがみ」
ベンチに腰掛けて、こなたがにっこり笑った。
「ん、やっぱり来てくれた」
「やっぱり?」
「うん。ああ言えばぜーったい来てくれると思ってたよ」
「何よ、それ。つかさは?いないの?」
「みゆきさんちで勉強すんだってさ、試験の。途中で別れた。気使ってくれたんだと思うけど」
「気を使うって何よ」
「んー、かがみは私がいないとダメだからねえ」
口元に手をあててくすくす笑った。
つかさとは、何もなかったんだ。そう思うと、胸の奥で安心してる自分に気がついた。
でもなんだかすっごく悔しくて、つい顔をぷいっとそむけてしまった。
「か、勘違いすんじゃないわよ。あんたねえ、ちゃんとした彼女の目の前で浮気宣言とか
 どう考えてもおかしいじゃない?だから」
最後までいえなかった。
こなたが私の腰に手をしっかりまわして、思い切り背伸びして私にそっと口付けた。
あ。これ、あれ?この状況、この子……。
「……へへ。うん、背伸びしてキスってやっぱりシチュエーション的においしいね」
「なななな!?」
屈託なく笑うこなたも、その顔は真っ赤だ。
「かがみさあ、私寂しかったんだよ?そりゃツンデレキャラは大好きだけどさ、やっぱり
 ちゃんと態度に表してほしいじゃない」
「……」
「まあね。本当に浮気する気なんか全然なかったけどね。かがみって結構わかりやすい性格
 してるし、探しに来てくれるーって確信があったね、私には」
「……」
「バカなこと言ってごめんね。でも私もね、かがみがいないとダメだからさ。だからちょっと
 イジワルしちゃったの。来てくれてうれしい」
……あああああ、もう!かわいいなあこんちくしょう!

「わ!?」
たまらなくなって、思いっきり抱きしめた。
相変わらず肩も背中も、ついでに胸もちっこくて、力を入れると折れちゃいそうだった。
「私もごめんね。……正直、気が気じゃなかった。ホントに浮気すんじゃないかって思ったわ」
「しないよぅ……」
「うん、わかってる。わかってるけど。……今度から勉強終わったらちゃんとキスしてあげるように
 するから。もうあんなこと言わないで。心臓に悪いから」
「んー」
私の腕の中でこなたが含みのある笑みを浮かべた。またちょっとした悪戯を思いついた顔。
「今ここでキスしてくれたら、もうしないかも?」
「……そうくると思った」
「そうだろうそうだろう。それじゃ、ほら」
目を閉じて唇を突き出した。もうあんな気分になるのは本当に御免だ。
迷わず、こなたの唇に私の唇を重ねた。こなたがしてくれたみたいに、そっと、優しく。
遠くでセミが鳴いていた。
「ん。……ん。ぷは。かがみのキス、情熱的ぃ」
「たまにはね。私から攻めってのもいいでしょ」
「えへへ。それじゃ、ベッドの中でも攻めてもらっちゃおうかな。タチとネコが入れ替わるのも
 なかなか萌えるしー」
「んな!!バカ言ってんじゃないわよ!!」
「したくないの?」
「…………そ、想像に任せる」
「そか。それじゃ、今度のお楽しみかなー。よし、帰ろ。喫茶店でアイス食べたいな」
「はいはい」
こなたに手を引かれて、ゆっくり歩き始めた。
私はこなたがいないとダメだし、こなたも私がいないとダメ、か。
嬉しいこと言ってくれるじゃない。にやける自分に少しだけ呆れながら、それでもこの
かわいい恋人とのこれからを考えた。
……本当に、攻めちゃおうかな。

おわり



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  • 『思わず自分の唇に手が伸びていた。』んだが -- 名無しさん (2023-02-04 00:43:03)
  • 流石こなた超かわいい!
    かがみのツンデレもなかなか萌える! -- 名無しさん (2010-05-06 21:10:35)
  • 不覚にも一瞬羨ましいと思ってしまった・・・。 -- 名無しさん (2009-10-01 16:12:52)
  • 面白すぎ
    こなた可愛すぎた

    -- 名無しさん (2009-03-30 01:42:57)
  • 心理描写が見ていてすごく面白かったです!!
    GJ!!! -- 名無しさん (2009-02-12 00:30:01)

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