非エロ:提督×響「響のマフラー」7-318

318 :響のマフラー:2014/02/06(木) 00:09:24.68 ID:lwZwtEvb
ヒトニイマルマル、鎮守府近海の演習海域。

小型の高速ボートの上で、響は演習の出番を待っていた。すぐ隣では、姉妹たち第六駆逐隊による
射撃演習の様子を、提督が見守っている。
「司令官?」
「何だあ、響」
一面灰色の曇天の下、響きは姉妹たちの動きを見つめたまま、静かに提督に問いかけた。
「司令官、寒くは無いのかい?」
薄手の紺色コートに両手を突っ込んだまま、提督がすん、と鼻を鳴らす。
「大したことねえよ」
強がりだ……響は思った。近海とはいえ今日は海風が強い。しかも今は2月だ。
日本の暦の上では春が始まる頃だというが、それが一年で一番寒い時期とは、
何かの皮肉のつもりだろうか。
提督の着古したコートは、潮を含んだ寒風に吹き荒らされてペナペナに傷んでいる。
太陽の出番を待つでもなく、今にも引きはがされそうだ。
「やせ我慢は、良くないと思うよ?」
響が白いため息をつくと、提督がふん、と鼻を鳴らした。
「我慢なんかしてねえよ。つうかお前らこそ、年中そんなカッコで良くもまあ」
「私たちは艦娘だからね。海さえあれば年中元気さ……特に私はね」
「お・そ・ロ・シ・ア、ってか」
「……一段と寒いね。響、出撃する」
愛想笑いを浮かべる気にもならない駄洒落だった。
響はボートの縁を蹴って、姉妹たちが待つ鈍色の海へと降り立った。
頑固な提督にも困ったものだ……手洗い波しぶきの歓迎の中、響は思う。もう少し健康管理を
してもらわないと、じきに風邪を引いてしまう。そうなると困るのは自分達だ。
ひいては海軍全体に影響が波及し、深海棲艦に隙を見せることになりかねない。
――何とかしないとね。
「魚雷、一斉発射! てーっ!」
雷の号令。
横一列に並んだ第六駆逐隊4名の放つ魚雷が、仮想標的目がけて鼠色の海を切り裂いていく。
水面にうっすらと見える白い泡の軌跡。
一本足りないけど、楽譜の五線譜のような。
高空を遊ぶ攻撃機の編隊が曳く、飛行機雲のような。

 灰色の毛糸に編まれた、飾りげないストライプのような――

「そうか」
響がぱちんと指を鳴らすと同時に、仮想標的に命中した魚雷が高々と水柱を上げた。
「どうしたのよ、響?」
「いや、こちらのことさ。さあ、続きを片付けよう」
隣で小首を傾げた暁をよそに、寒空の中、響は艤装を高く鳴らして前進した。

319 :響のマフラー:2014/02/06(木) 00:12:10.53 ID:lwZwtEvb
同日、フタサンマルマル、駆逐艦営舎。

同室の第六駆逐隊の面々が寝静まる頃、パジャマ姿の響はごそごそとベッドを抜け出した。
冷たい床に白く小さな足を降ろし、小型の懐中電灯で暗い部屋を照らす。
まん丸の光に照らし出されたのは、滅多に開けることのない自分の引き出しだった。衣
服やら手紙やらが雑多に押し込まれた奥底をまさぐると、ふわりとした感触があった。
響はふわふわを掴み、引き出しから引っ張り出す。編み棒の刺さった毛糸玉だった。
響がこの鎮守府に配属されたとき、何かの役に立つかもと持ってきていたものだった。
毛糸玉は3つ。紺色に、赤に、グレー。どれも無難な色だと思う。
響は両手に毛玉を抱えると、ととっとベッドに戻った。

これで提督にマフラーを作ろう……響は頷いた。

あの紙みたいなコートは見ていられない。襟元さえ温かければ、人は十分に暖をとることができる。
季節感のある装いは、紳士の嗜みだとも思う。自分たちの提督が、相応の身なりでいてくれることは、
一部の艦娘にとっては士気高揚にも結びつくだろう。

しかし、それより何より、自分の気持ちを、ひと針ひと針込めたマフラーを提督が……

しんと冷えた営舎の空気の中、響は耳元がぽっと熱くなるのを覚えた。
――いやいや、私は何を考えている。
ぷるぷると銀髪のロングヘアーを振って、響は編み棒を構えた、が……。
その姿のまま、響はしばし硬直した。
――提督は、何色が好きなんだ?
紺、赤、グレー。紺、赤、グレー……皆目見当がつかない。
――わ、私は……そんなことも知らないでこんな事を……。
響はがっくり肩を落とし、毛糸玉を見つめた。
当る確率は三分の一、いやいや、そんなことはない。黄色が好きかも知れないし、
あの偏屈な性格からしてピンクが好みだとか言い出す可能性は十分にある。
提督が素直であることを祈り、響は再び手元の毛糸玉に集中した。普段使いを考えるなら紺色だ。
でもそれだとペラペラのコートと同じ。全身紺色ってどうなの? オシャレって言えるの?
そこいくとグレーは最強。どんなファッションにも合わせられる。
私服だってコートだって、難なくマッチするだろう。

でも、でも、でも!
さんざん迷った挙句、自然と響の右手に収まっていたのは、赤い毛糸玉だった。
響は心の中で納得していた。

――これは私の色……不死鳥の、色だと思う。

この際、ちょっと派手だっていい。目立ったっていい。響はそう思った。
もしも気に入ってもらえなくても、こんな突飛なマフラーだったら、きっと冬が来るたびに
自分の事を思い出してくれるに違いない、と。
それにもしも、もしも気に入ってくれたとしたら。
冬の海のから帰ってきた時、一番最初に目に留まるのが、赤くて目立つ姿だったら。
響はどんな困難も超えて帰ってくるだろう……文字通り、不死鳥のように。
今度は顔全体がぽぽぽっ、と熱くなった。よく分からないけど、頬が緩んだ。
響はきょろきょろと部屋を見回し、聞き耳を立てる。規則正しい寝息がみっつ。進路ヨシ。
「さて、やります、か……」
小さくつぶやいて、響はベッドサイドの読書灯に毛布を掛けて手元だけを照らした。
そして毛糸のカーディガンに袖を通すと、静かに編み棒を動かし始めた。

320 :響のマフラー:2014/02/06(木) 00:13:07.68 ID:lwZwtEvb
思いつきで始めたぜ。
続くぜ。多分エロもあるぜ。
最終更新:2014年02月06日 14:54