非エロ:提督×鳥海「思い出の中のもの、今ここにあるもの」18-56

55 :名無しの紳士提督:2015/10/25(日) 08:50:02 ID:454W76Xo

非エロですけど投下します
今回も独自設定要素が出まくっている感じです
なおこの話はフィクションです
実在の人物や出来事とは一切関係ありません

56 :思い出の中のもの、今ここにあるもの:2015/10/25(日) 08:51:26 ID:454W76Xo

「今日は何の日ー?」

子日の元気な声が響く。摩耶も仕事のかたわら子日に答えていた。

「矢矧と黒潮の誕生日だな。それと軽巡洋艦矢矧と駆逐艦黒潮の進水日だ」
「艦娘はやっぱり運命にひかれた存在なんだな」
「あっ、提督だー」
「提督!?お前、出張じゃなかったのか?」
「いやあ、ちょっと早く終わったからな。摩耶、私の代わりにご苦労さん」
「あ、気にすんなって」
「子日も頑張ったよ」
「ああ、子日もご苦労さん」
「やったー、褒められたー」

「しっかし、艦娘ってそういう運命なのかねえ。
 アタシも重巡洋艦摩耶の進水日と同じく11月8日か誕生日だしさ」
「誕生日と進水日が一緒だったらもしかしたら沈んだ日と…」
「子日!」
「あっ……ごめんなさい……」

俺は不安な言葉を口走りそうになった子日を制した。

「……提督、今日の仕事はアタシ達に任せてよ」
「いいのか?」
「心配すんなって。子日達も頑張っているからさ。
 だからさ……久しぶりにアイツに……鳥海に会いに行きなっ」
「ああ…わかったよ」

俺は部屋を出て再び外へ出かけようとした。

「提督、どこへ行くの?」

隼鷹が俺を呼び止めた。

「ちょっと墓参りに行って、ついでに実家にも寄ろうと思ってな」
「だったらこのお酒を持ってって」
「隼鷹…これは高い酒だろ…」
「いいよ。前に提督に迷惑かけちゃったから、そのお詫びだよ」
「そうか」

俺は隼鷹の厚意を素直に受け取った。


10月25日は俺の大切な人がこの世を去った日だ。
その人がいなければ、今俺はここにいなかっただろう。
俺は大切なその人に何が出来たのだろうか。
むしろその人を傷つけてしまったことしかなかったのではないだろうか。

もしあの時ああしていれば…………

そんな後悔が俺の心の中に蘇る。
根拠なんて何もなかったけど。そう思った瞬間はあった。
だけど、何もせずにいつもと変わらぬ日常を過ごしていた。
その後に深い悲しみが待っているなんて思うことはなく…………

もし…あの時……どこかで訴えていた何かに応えていたのなら……

自分の直感。それを信じて行動していれば
取り返しのつかない事に後悔する事もなかったかもしれない。
動かなかった事が俺を幸せから遠ざけ、
そして多くのものが俺の手の届かないところへ行ってしまった。
……今となっては何の意味もない後悔だ。
俺が今、成すべき事は、今俺をここにいさせてくれた過去の人達を想い、
感謝し、そして今を生き、未来へと歩いて行く事……
俺は様々な想いを胸に抱きながら、大切な人の墓参りへと出かけた。


大切だった人が眠る地に着いた。ここは山の方とはいえ昔と全然変わってないな。
いや、少し賑やかになったかな。海沿いの街は結構変わっていたから。
俺が小さい頃によく遊びに行っていた所は海に接する街だった。
海に接している事なんて全く意識していなかったけど、沢山の人達がいた事は覚えている。
だが今は街から活気が消えていた。明らかに人が少なくなっていた。
駅前の商店街は元々さびれつつあったが、深海棲艦の出没以降それが更に加速した。
深海棲艦を恐れた人々は内地に移り住み、様々な商業施設を作っていった。
昔からあった街への通り道が新しい街となり、昔からあった街は少しずつ街ではなくなっていく……
街も、通り道も、どちらもすっかり変わってしまった。
今街にいるのは昔から代々受け継いできたものを守り続ける年寄りがほとんどだ。
大きな駅も、田舎から大都会へと乗り継ぐ為だけの場所となっていた。
………っとと、ちょっと物思いに耽ってしまった。墓参りに来たというのに全く関係ない事を……
俺は大切だった人が眠るお墓へ向かった。
そして、そこにいた俺の大切な人に声をかけた……


「え……しれ…あ…あなた!?」

そこにいた彼女―伝説の重巡洋艦鳥海の力を使える艦娘であり、俺の愛する妻―は驚いていた。

「出張が早く終わったからな。摩耶の厚意もあってここへ来たんだ。
 ったく……久しぶりに会ったらどうだとか言うが精々一週間程度じゃないか」
「一週間でも寂しかったですよ……」
「すまない……」

俺が出張に行く時に鳥海と離れ離れになったのにはわけがある。
俺達には子供がいたが、その子は艦娘の子供だった為色々と調査の対象となっていた。
現在艦娘の子供というものは俺達の子供以外にはいない。
艦娘の活動行為が胎児に悪影響を及ぼさないかという心配もあったし、
艦娘として一度は力を行使した時点で普通の人間とはほんの少し、
だけど僅かでしかない程度に遺伝子に変質があったらしい為
艦娘から生まれた子供がどんな存在になるかという不安も広がっていた。
だから俺達の子供を調査する事によって、問題なければそれでよし、
問題あってもハッキリと諦めはつける。
だから他の艦娘の為に俺達は証明をしようとした。
そして小さな子供を長時間母親と離すわけにもいかなかった為、
俺は出張に鳥海を連れて行かなかった。

「お墓の掃除も君がしてくれたんだね」
「はい」
「ありがとう」

俺は感謝した。

「俺の父方の祖母は13年前の今日亡くなった。
 その前日、いつもは行こうとは思っていなかった病院にお見舞いに行こうかとふと思った。
 だけどお見舞いには行かなかった。そして……」
「…………」
「もしあの時行っていれば……ボケてしまって俺の事がわからなくなっていたとしても、せめて…………」
「……重巡洋艦鳥海も71年前の今日沈みました。でも私は沈みません…死にません。
 私が重巡洋艦鳥海の進水日と同じ4月5日に生まれた艦娘だとしても!」
「ああ、そういう運命だけはお断りだな。
 俺の大切な人の一人である父親は重巡洋艦鳥海の進水した4月5日に生まれ、
 俺の祖母は重巡洋艦鳥海が沈んだ10月25日に亡くなった。
 こんな事を言うのは変かもしれないけど…
 『鳥海』は俺の大切な人と何かしら繋がりがあるから、
 鳥海の艦娘である君も大切な人と思ったかもしれないって……」
「でも私を好きになった最初の理由は私があなたのお母様や初恋の人と似ていたからでしょう」

そう言われると少しすまない気持ちになってくる。
似ているといっても、母親は眼鏡をかけていて、初恋の人も眼鏡をかけていて、
結局安心出来るものを外見から求めていただけなのかと思ってしまう。

「でも…でも、だからこそあなたが私を選んでくれたのだと思います。
 あなたの心の中に刻まれた、あなたが安らげる女性像、それを持つ私を……
 だからあの人達に感謝しなければいけませんね。
 あの人達がいなかったら今こうして幸せでなかったかもしれないから……」
「俺にとってもそうだな。クレオパトラの顔付きが少し違っていたらって話を聞くけど、
 もし俺の大切な女性達が眼鏡をかけてなかったら、また違った運命だったかもしれないな」
「運命ってわかりませんね」
「…………考えてみれば俺達が今こうしていられるのも、
 俺達に直接関わった人達だけじゃなく、
 俺達が生まれる前からずっと頑張っていた人達のおかげかもしれない。
 あの戦争では、散っていった人達も、生き残った人達も、
 みんな大切な人を守る為、幸せの為に頑張っていたはずだ。
 それがたとえ、どんな形だろうとな……」
「ええ……」

彼女も頷く。彼女が知った重巡洋艦鳥海の記憶から
俺の想像が少なくとも大きくは間違っていないと裏付けたからだろう。

「それに戦場で戦っていた人だけでなく、日本に残された人達も
 戦場で戦っている人達がいつか帰ってくる場所を守る為に生きていたはずだ。
 その人達か頑張って生きて、そして生き残り、
 死んでいった人達の想いを継ぎ、帰ってきた人達と共に再び歩き出していき、
 戦いで全てを壊されたこの国を復興させていった。
 俺達が今ここにいる事をその人達に感謝しなければならない」

俺は墓に改めてお参りをした。戦争を生きた人達、
そして、今まで命を繋げてくれた全ての人達への感謝の気持ちを伝える為に……


ブルルルッ!!

マナーモードにしっぱなしだった電話が鳴った。
慌てて電話に出た俺の耳に摩耶達の声が響いた。

「提督、大変だ!深海棲艦の大群が港街を狙って進軍して来ている」
「深海棲艦の大群が!?」
「今は何とか沖の方でせき止めているけど…」
「このままだと突破されちゃいそう!」
「落ち着け子日!そう簡単に突破されはしないだろうけど、
 もしもの事があったら大変だ。
 鳥海と一緒にいるなら今すぐに帰ってきてくれ!」
「ああ、今鳥海と一緒にいるからすぐに戻る!」

そう言って俺は電話を切った。

「…ええ、タクシーをお願い」
俺が電話している最中に鳥海はタクシーを呼んでいた。

「タクシーを呼んでおいたわ。10分くらいかかるみたいだけど…」
「そうか…」
「ところでこのお酒は…」

俺は隼鷹からもらった酒の事を忘れていた。
父親への土産に持っていこうと思ったが、そんな暇はもうなかった。

「仕方ない、親戚の家に預けて来る。タクシーが来る前に戻れるはずだ」

俺は全力疾走した。


「今帰ったぞ!」
「鳥海、ただいま戻りました!」
「二人とも、戻って来てくれたんだね!」

子日が明るく迎えてくれた。

「ごめん提督。アタシがもうちょっとしっかりしていたら…」
「気にするな。人々の為に戦うのが俺の…俺達の役目だ。それより状況は?」
「なんとか均衡状態だよ」
「ありがとう、摩耶」
「鳥海……迷惑かけてごめんよ」
「いいのよ。それよりも出撃準備は」
「出来てる!」
「それじゃ行くわよ!摩耶と私の二人が揃えば、勝てない相手なんていないわ!」
「ああ!」

先程まで落ち込み気味だった摩耶が戦いで挽回出来るからか元気を取り戻して答え、出撃した。


「提督、子日達がもっとちゃんとしていたら提督達の休日を潰さなかったかも…」
「無理してくれなくてよかったよ。俺達の都合の為に犠牲者が出たら、
 今まで命を繋いできてくれた全ての人達に申し訳が立たないからな」
「????」
「説明は後だ!」
「はいっ!」


俺達が今ここにいるのは、沢山の人達との出会いと別れがあったからだ。
だけどそれだけじゃない。自分も、他の人達も、
みんな誰かから命のバトンと様々な想いを受け継いできた。
そして俺達に繋いでくれた人達も、また別の誰かから受け継いでいる。
過去の人達が頑張って生き続けていたからこそ今の俺達も生き続けている。
そして俺達も生き続け、過去の人達が次の世帯へ命のバトンと想いを渡したように、
次の時代を生きる若い者達に命のバトンと想いを渡そう。
俺達は守り続ける。命のバトンを落とす事なく受け渡せる世界を。


―終わり―

+ 後書き
62 :名無しの紳士提督:2015/10/25(日) 09:05:40 ID:454W76Xo

以上です。今回はちょっといい話的なものを書くつもりで書きました
書いている時に改めて過去作を読んでいたら
矛盾してしまう場面もあったのでちょっと書き直しました
シリーズものは整合性のために見直すのも大切ですね
ちなみに俺はここまで立派な人間に離れてません
もっと立派な人間になりたいです……


これが気に入ったら……\(`・ω・´)ゞビシッ!! と/

最終更新:2016年07月24日 06:01