ツバキ◆F0cKheEiqE



辻月丹はヘンな剣客である。
どうでもいいが、辻は「都司」と書くのが本来は正しいらしい。
元の名前は兵内で、無外、一法居士とも言った。
大抵、史実で剣豪として著名な人々の活動時期をまとめてみると、
戦国後期から江戸初期、あるいは幕末の二つの時期に固まっている。
しかし、月丹が活躍した時期は元禄期と、元和偃武どころか、
戦国の遺風を残していた寛永の時代からも遥かに遠い。
江戸中期は剣術の衰退期と呼ばれている時期で、
こんな時代に剣を糞真面目に志したという時点で色々変わった男だ。
変わっていると言えば、この男は剣禅一如を糞真面目に
追求したという点でも変わっている。
剣禅一如を最初に唱えたのは、柳生宗矩と沢庵和尚の二人であるが、
これは将軍家剣術指南役としての体面上の問題を解決するための
方便という側面が強い。
他の流派でも、江戸中期になってからやたら高尚な思想と剣術の融合を
謳う傾向が強まるが、これも実戦から離れた剣術が、徐々にその性質を
武士の精神修養の一方法としての物へと変化させ、そのために後付けで上辺だけ
の道徳論や空理空論を継ぎ足した物に過ぎない。
思索的な傾向の強い幕末の剣客達を除けば、剣と禅に本気で向き合った剣客など、
それこそ宮本武蔵とこの辻月丹ぐらいのものではないだろうか。

月丹の禅の修行は本格的な物であり、
江戸麻布吸江寺に参禅すること19年というから半端がない。
月丹45歳の時についに悟りを開き、その際、禅の師匠の神州禅師に、

一法実無外 乾坤得一貞 吸毛方納密 動著則光清

の一喝をもらって「無外流」を興したのだという。

この時、月丹の剣の方の師匠であり、京都を中心に
上方で著名であった山口流流祖、山口卜真斎がたまたま江戸に
出てきていたので勝負したところ、
三度戦って三度とも勝ったという。

また生来無欲な人だったらしく、
弟子から金や物をほとんど受け取らなかったので
困窮し、その容姿はひどいものであったという。
具体的に言うと・・・・


「いノ捌」地区に存在する伊庭寺の本堂の縁側に、
一人の男が腰かけている。
一言で言ってしまうと実に身なり汚い男だ。
髪の毛は伸ばし放題のボサボサで、まるでヨモギだ。
申し訳程度に、“こより”で無理やりまとめてはあるが、
正直言って不格好なことこの上ない。
顔は垢と埃とだらしなく伸びた髭で覆われている。
服装は浪人風の粗末な物で、色ははげ落ち、綿がこぼれ、
裾は擦り切れている。
膝の上に置いた打刀も、身なりと同じように鞘の朱も色が褪せ、
所々塗がはげ落ちている。
乞食、貧乏浪人、侍くずれ、といった風に評するほかない
しかし、ヨモギみたいな髪と、鬚の間に光る二つの瞳は、
非常に澄み切っており、ただ者ならぬ雰囲気を醸し出していた。

男は、ただただ境内に生えた椿の木をぼーっと見つめていると、
何を思ったか突然本堂の縁側から飛び降り、
刀を腰帯に差すと、ふらふらと椿の木に近づいた。
赤く美しい、見事な椿の木である。
そのすぐ傍を、一本の細い人工の川が流れている。
椿の花は散るのではなく、萼(ガク)ごとボトリと落ちる。
落ちた花弁が、その川を流れていくようにという風流な設計である。

今、正に椿の血のように赤い花が落ちようとしていた。
その時である。
男の右手がゆらりと動いたかと思われた次の瞬間には、
その右手には抜き身の刀が握られていた。
ぼとり、と椿が川に落ちる。
果たして、その花弁は、見事に両断されていた。
二つになった椿の花が、川をゆるゆると流れて行く。
神業といっていい、神速の抜き打ちである。

「たいした腕だな」

男の背中に、野太い声がかかる。
男が振り向くと、それまで本堂の中にいたのか、障子戸が開き、
不精髭の男が顔を出していた。

これまた浪人風の男である。
総髪を後ろに“こより”で纏めているが、
油などはつけておらず、
結いそこなった髪が枝葉のように頭の左右から出ている。
服装はくすんだ色の安すそうな羽織に袴であり、
腰にはやや長めの打刀を一本下げている。
着物の内側で両手を組んで、
中身が無い袖を、ぶらぶらと風にそよがせている。

不精髭、太い眉、力のある瞳をした、
男臭い顔のしている。
けっして醜男では無く、むしろ剽悍な印象を受ける
偉丈夫だが、どことなく土臭い顔だ。

浪人男は本堂の階段を下りると、
乞食男に方へと歩いてきて隣に並んだ。

袂から太い腕が伸びてきて、顎の不精鬚を撫でる。

「あんた、名前は?」

浪人男は乞食男に眼を向けると、そうぶっきら棒に聞いた。
乞食男はしばらく黙って椿を見ていたが、

「甲賀の都司兵内・・・・・号は・・・月丹」

と、呟くように言い、浪人男の方へ初めて眼を向けた。

「お前さんは?」
「俺か?・・・・・俺は・・・・」
乞食男、辻月丹の問いに、浪人男は椿の花を眺めながらこう言った。

「・・・・椿、椿三十郎」
「もうすぐ四十郎だ」
そう言って白い歯を見せて笑った。

【いノ捌/ 伊庭寺境内/一日目/深夜】

【辻月丹@史実】
【状態】:健康
【装備】:ややぼろい打刀
【所持品】:支給品一式
【思考】
1:?
【備考】
※行動方針は次の書き手に任せます。

【椿三十郎@椿三十郎】
【状態】:健康
【装備】:やや長めの打刀
【所持品】:不明
【思考】
1:乗る気はねぇが、どうしたもんか・・・・
2:使い手の男(月丹)と話す
【備考】
※「椿三十郎」、「用心棒」ともに終了後からの参戦です。



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試合開始 辻月丹 椿花下眠翁/刀の銘は
試合開始 椿三十郎 椿花下眠翁/刀の銘は

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最終更新:2009年08月22日 03:48