壮士呵呵大笑す ◆L0v/w0wWP.



ここは島の南端、辺りに人家はおろか人影無く、ただ整然と並ぶ
千本松原の間を簫簫と吹き抜ける風と寄せては返す波の音を除いては
静寂が闇を支配―

「そぅしぃ~~ぃ、ひとぉたびさりてぇえ~~ぇえ、まぁたあ~~~ああ~あ、かぇぃらぁずぅ~♪」

―していたのは、先ほどまでの話。調子外れの詩吟を詠じ、肩をいからせ浜をのし歩くする巨大な影。
彼の詠じている詩句を読んだとされる、唐土は古の刺客・荊軻もかくありしかと言わんばかりの
傍若無人(実際に周囲に人っ子一人いないのだが)ぶりを示す、大兵肥満の男が一人。
彼こそが、京の都にその名を轟かせる、新撰組筆頭局長にして、神道無念流の達人。
自ら「尽忠報国の士」を豪語する男の名は芹沢鴨と言った。
その魁偉な容貌もさることながら、他の参加者と明らかに異なる様相を呈する点がひとつ―

「ぶべぇええいっぐしゅっ!!!ひゅぁああ…いでででで…。うぅぅ…こりゃあ応えるぜぇ。
 易水の風もここまで冷たくはなかったろうがなぁ。」

くしゃみとそれに伴う激しい頭痛に苛まれる男は、背負った行李と
腰から下げた褌を除いて身に一糸も纏っていなかった。



「ひゅぅぅぅぶるぶる…、おかしいなぁ。昨日は確かに角屋で飲んだ後、また屯所で飲んだだろ…んでその後…
 あぁっ、畜生思い出せねぇ!お梅…他の連中もどこいっちまったんだぁ?」

自分がここに来るまでの間の事を思い出すが、昨日は酷く酔っていたらしくさっぱり覚えていない。
いつものとおり、愛用の鉄扇で頭を掻こうとして――それが手元に存在しないことに気がついた。
夢かとも思ったが、この二日酔いによって齎される頭痛と寒さは明らかに本物だし、白州での一連の
出来事もはっきりと意識の中に残っている。長州の連中にでもさらわれた?いや、そんな事をする余裕が
あるなら、酔いつぶれた自分を始末すれば済む事。首を吹き飛ばされた小僧といい…。

「あの親父、御前試合とか言ってやがったな…。」

白州でのあの身分の高そうな侍は確かにそういった。最後の一人まで残れば望むものを与えるとも。

「なるほど、ここにいる連中を、全員始末して戻るというの悪くねぇ…悪くはねぇ、が…
 あの上からの物言いは気にくわねぇなぁ。」

とにかく、この芹沢という男は上から押さえつけられるのが大嫌いな奔放な男であった。
これが良くも悪くもこの男の持ち味となっているのだが、それゆえに問題を引き起こすことも多々ある。
この事と出身閥と思想の違いもあってか、同じ新撰組の局長・近藤勇率いる武州派は明らかに
芹沢を危険視するようになっていたのだが、彼は意に介さない。いろいろと考えを巡らせている内に、
松の並木が消え、急に視界がひらけた。

「あっちに見えるのは…天守かぁ?…って、いでででで。くそぅ、どうしようもねえなこりゃ。」

体が冷えているという事と、昨日の酒のせいか、目が覚めてから鴨はずっと頭部に響く鈍痛に苛まれている。
だがこういう時どうすればいいか、彼は経験則から心得ていた。

「へへっ、こういう時は迎え酒に限るぜぇ~。体も温まるしな。」

だが、鴨の思惑は外れる。行李の中に入っていた口に入りそうなものは水と餅、僅かばかりの茶葉のみであった。

「けぇっ!しけていやがるというか、気が利かねぇというか…人を無理矢理呼び出したんだぁ。酒ぐらい用意するのがなぁ―!」

行李に向かって悪態をつく。と、ここでようやく、行李の中の得物、地図、人別帖が目に入る。

「あぁ~、そういやもう死合っちまってる連中がいるかもしれんな。今、襲われたら流石の俺でもアブねぇや。」

と、用意された太刀を手にとって―――はて、この柄、鞘、鍔、下げ緒…どこかで見たことがあるような。
鞘から刀身を抜いて、月明かりにおもむろに照らすと。

「ぶっw」

突然、鴨は吹き出した。

「くっ…はっはっはっ…わあはっはっはっはっ!何かと思えばこれは…ひひ…近藤君の虎徹もどきじゃないかぁ。」

腹が捩れそうになるのを堪えながら、鞘に戻したそれは、同志・近藤勇が上洛に際し、
特別にしつらえたという虎徹の銘を持つ刀剣。
何度となく他の隊士に自慢して見せていたが、子飼いの副長・新見錦がいうには
どう見ても真っ赤な贋物という事だった。
まぁ、それを馬鹿正直に信じているのが、百姓あがりの可愛いところ、といったところか
ただ、贋物というわりには、この虎徹は近藤の実力とも相まって、よく斬れた。得物にするには不足はない。

「まぁ、これで、いつどこのどいつが挑んできても心配はあるまい。すまんが、しばらく拝借させてもらうよ、近藤君!
 地図と人別帖は……今はあまり、字は見たくねぇなぁ。酒でも煽りながらゆっくり読むか。」

太刀以外のものを行李に仕込んだ芹沢が目指すのは北。
天守があるという事はおそらく城下、どこかしらに酒はあるはずだ。
まずは、これに限る。頭が痛くては、勝てる試合も勝てないからな。後の事はまた考えよう。

「ああ、あと、着るものもなんとか…うぇ…ふぃっ…ぶぅぃぃっくしゅぅ!!!ずずー…見つけねぇとな。
 俺の採寸に合うのがあるかなぁ?」

とりあえず目の前にぼんやりと見える街道を道なりに行くか。左手に持った虎徹で肩を叩きながら、鴨は行く。

「えっぐしゅっ!あ~いでででで…。ふふ、連中、これだけの思いさせてるんだぁ。
 上等のモン用意してねぇと、承知しねぇぞぉ!グアハハハハハハハハハッ!」

【とノ肆/街道/一日目/深夜】

【芹沢鴨】
【状態】:頭痛。寒い。褌一丁。一人で上機嫌。道なりに城下に向かう。
【装備】:近藤の贋虎徹
【所持品】:支給品一式
【思考】
基本:まず酒と服、他の事はあとで考える。
一:試合に乗ってもいいが、主催者は気に食わない。
二:目ぼしい得物が手に入った後、虎徹は近藤に返す
【備考】
※暗殺される直前の晩から参戦です。
※地図と人別帖は確認していません。


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試合開始 芹沢鴨 一期一会は世の常なれど―

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最終更新:2009年04月27日 22:47