「…………」
「…………」
「――――」
「…………」
「――――」
三点リーダを飛ばし続け沈黙する俺たちに対抗しているのか、九曜はダッシュを放出し辺りの空間と同化し始めた。
まさかまさかの登場人物に驚いたってのもあるが、九曜の格好にも戸惑いを隠せないと言うのもある。
彼女――周防九曜は髪の毛と同じ漆黒のローブを身に纏い、同様に黒色のヴェールで頭を覆っている。胸元には宝石で作られたロザ
リオ。勿論黒い宝石で作られたもので、燈篭の光を浴びてレインボーのような輝きを見せている。
全身黒ずくめの彼女だが、しかし唯一顔の部分のみ白い肌を露出させている。黒の衣装とは真逆のそれが、彼女の顔立ちをよりくっ
きりと現していた。
と、俺がここまで説明する間、誰も喋らず動かず。まるでこの空間のみ時が止まったかのような挙動に駆られる。しかし燈篭の光が
揺らいでいることから実際はそんなこともなく、単に硬直しているだけに過ぎない。それに橘を見ると、何かを言おうとして口をもご
もごさせている。九曜は言わずもがなのマネキン状態。
このままでは時間だけが過ぎ、何も解決しない。そう考えた俺は乾いた口を何とか動かした。
「……どうしてここにいる?」
ギギギという効果音が入りそうなくらい不器用に目線を動かした九曜は、
「――――観測する…………ため――――」
何を?
「綺麗な…………瞳を――――」
ザッツオーライ、意味不明過ぎる。もっと分かり易い言葉で喋ってくれ。
すると九曜は幾分考えるような素振りを見せて、
「――――勇者の――来訪を…………待っていた――――」
「ゆ、勇者ってもしかして!」
唇のグリスの補充が終わった橘がようやく言葉を口にする。
「……あなた――――」
俺を指差した。
「やっぱり……うんうん」
右手をあごにかけて何やら考え出した。
「ということは、九曜さん。あなたは魔王打倒の鍵をご存知なのですね!?」
「――さっきの…………言葉――――五行を…………見つける――――」」
五行? そう言えばさっきの不思議な声が、そんなことを言ってたような……っていうかあの声は誰の声だ? 九曜の声じゃなかっ
たし、他に誰かがいる気配もないし。
「天の――声――――」
天の声? ああ、電池が切れるとバックアップデータが吹っ飛ぶ恐怖の記憶機器のことか。
「違うに決まってるでしょ。九曜さんが水晶の力を借りて、ご神託を受け取ったのでしょ。言わば神の御声を代弁してくれたのです」
「そう……」
そうかい。「で、その五行とやらは何なんだ?」
「五行は――陰と……陽――――2つの………存在意義から――――生まれた………五大元素――――」
「なるほど、陰陽五行説ですか。陰と陽の力を束ねるには、それと同等の力、すなわち五行の力を持って制する。そう言うことです
ね」
どういうことなんだろうな。俺にはさっぱり理解不能だ。
「簡単に説明しましょう。この世界の因果律は古代中国の思想によって成り立っていると考えられます。その理由は、先程九曜さんも
仰った陰と陽の力です。陰と陽と言うのは、簡単に言えば相反するもの同士のこと。光と闇、天と地、寒と暖、男と女……様々な例え
がありますが、そう言ったもののことなのです。混沌より生まれしそれは、どちらかが存在することでもう一方も存在する。相反しな
がらも一心同体の力なのです。そして五行とは、そこからさらに派生した概念です。陰と陽の力が分極化し、火、木、土、金、水と言
う五つの存在が形成され、これも陰と陽と同じく相互作用しながら世界のバランスを保っているのです。あ、ファンタジーの世界だと
地水火風の四大元素の方が有名だと思いますが、あちらは西洋の思想です。話はそれましたが、つまり五行の力を借りることは、即ち
陰と陽の力と対等になると言うこと。暴走しつつある陰と陽の力を食い止める唯一の手段なのです」
まるで水を得た古泉のようにまくし立てる。二人とも超能力者と言うことだし、この辺の蘊蓄はお手の物なんだろう。俺にとっては
ウザイ事この上ないが。
で、その陰と陽の暴走ってのが大魔王の力の源ってところか?
「……あ、はい。そうです。だいたいそんな感じです」
何となく橘の返答が遅れた気がしたが、まあいい。
「だがどうやって五行とやらの力を手に入れるんだ?」
「五行の――精霊に…………授けてもらう――」
まさかまさかの登場人物に驚いたってのもあるが、九曜の格好にも戸惑いを隠せないと言うのもある。
彼女――周防九曜は髪の毛と同じ漆黒のローブを身に纏い、同様に黒色のヴェールで頭を覆っている。胸元には宝石で作られたロザ
リオ。勿論黒い宝石で作られたもので、燈篭の光を浴びてレインボーのような輝きを見せている。
全身黒ずくめの彼女だが、しかし唯一顔の部分のみ白い肌を露出させている。黒の衣装とは真逆のそれが、彼女の顔立ちをよりくっ
きりと現していた。
と、俺がここまで説明する間、誰も喋らず動かず。まるでこの空間のみ時が止まったかのような挙動に駆られる。しかし燈篭の光が
揺らいでいることから実際はそんなこともなく、単に硬直しているだけに過ぎない。それに橘を見ると、何かを言おうとして口をもご
もごさせている。九曜は言わずもがなのマネキン状態。
このままでは時間だけが過ぎ、何も解決しない。そう考えた俺は乾いた口を何とか動かした。
「……どうしてここにいる?」
ギギギという効果音が入りそうなくらい不器用に目線を動かした九曜は、
「――――観測する…………ため――――」
何を?
「綺麗な…………瞳を――――」
ザッツオーライ、意味不明過ぎる。もっと分かり易い言葉で喋ってくれ。
すると九曜は幾分考えるような素振りを見せて、
「――――勇者の――来訪を…………待っていた――――」
「ゆ、勇者ってもしかして!」
唇のグリスの補充が終わった橘がようやく言葉を口にする。
「……あなた――――」
俺を指差した。
「やっぱり……うんうん」
右手をあごにかけて何やら考え出した。
「ということは、九曜さん。あなたは魔王打倒の鍵をご存知なのですね!?」
「――さっきの…………言葉――――五行を…………見つける――――」」
五行? そう言えばさっきの不思議な声が、そんなことを言ってたような……っていうかあの声は誰の声だ? 九曜の声じゃなかっ
たし、他に誰かがいる気配もないし。
「天の――声――――」
天の声? ああ、電池が切れるとバックアップデータが吹っ飛ぶ恐怖の記憶機器のことか。
「違うに決まってるでしょ。九曜さんが水晶の力を借りて、ご神託を受け取ったのでしょ。言わば神の御声を代弁してくれたのです」
「そう……」
そうかい。「で、その五行とやらは何なんだ?」
「五行は――陰と……陽――――2つの………存在意義から――――生まれた………五大元素――――」
「なるほど、陰陽五行説ですか。陰と陽の力を束ねるには、それと同等の力、すなわち五行の力を持って制する。そう言うことです
ね」
どういうことなんだろうな。俺にはさっぱり理解不能だ。
「簡単に説明しましょう。この世界の因果律は古代中国の思想によって成り立っていると考えられます。その理由は、先程九曜さんも
仰った陰と陽の力です。陰と陽と言うのは、簡単に言えば相反するもの同士のこと。光と闇、天と地、寒と暖、男と女……様々な例え
がありますが、そう言ったもののことなのです。混沌より生まれしそれは、どちらかが存在することでもう一方も存在する。相反しな
がらも一心同体の力なのです。そして五行とは、そこからさらに派生した概念です。陰と陽の力が分極化し、火、木、土、金、水と言
う五つの存在が形成され、これも陰と陽と同じく相互作用しながら世界のバランスを保っているのです。あ、ファンタジーの世界だと
地水火風の四大元素の方が有名だと思いますが、あちらは西洋の思想です。話はそれましたが、つまり五行の力を借りることは、即ち
陰と陽の力と対等になると言うこと。暴走しつつある陰と陽の力を食い止める唯一の手段なのです」
まるで水を得た古泉のようにまくし立てる。二人とも超能力者と言うことだし、この辺の蘊蓄はお手の物なんだろう。俺にとっては
ウザイ事この上ないが。
で、その陰と陽の暴走ってのが大魔王の力の源ってところか?
「……あ、はい。そうです。だいたいそんな感じです」
何となく橘の返答が遅れた気がしたが、まあいい。
「だがどうやって五行とやらの力を手に入れるんだ?」
「五行の――精霊に…………授けてもらう――」
ほほう、精霊とはこれまた大きく出たものだ。ははあ、分かったぞ。精霊とやらに会って『我が力を使いこなせるか確かめてやる』
とか言って戦闘を挑まれたり、敵の手に落ちた精霊が襲い掛かって正気に戻した辺りで『我が力を授けるにふさわしい』とか言って受
け取ったりするんだな。
「――――それは…………あなた――次第――――」
九曜が言うには、五行の力はその源である『賢者の石』と呼ばれる宝石(高純度高密度の偏向エネルギー凝集体が規則正しく配列し
た結晶構造体だとか何とか説明してくれたが今回はパス)を手にすることでその力を発揮できるらしい。どのような力が発揮するかは
分からないが、世界を創造するパワーの源となった力だ。例え五分の一に減じているとは言え、恐るべきものであることは想像に難く
ない。
ただ残念なことに、その『賢者の石』をどうやって授かるかはよくわかってないそうだ。第一精霊とやらに会って実際に手にした人
がいるわけでもない。そりゃそうだよな。世界を崩壊しかねない力を持つものをポンポンと人に渡していたら今頃この世界は塵と芥の
山か、あるいは既に混沌へと帰しているか……そんなところだろう。
だから、ここから先は手探りの状態が続く事になる。面倒くさそうなことこの上ないが、やらなければいつまで経ってもこの世界か
ら抜け出せそうにない。先にも行ったが、俺はこの世界で天寿を全うしたいとは思わない。せめて自分の生まれた星で自分の生まれた
時代で生涯を閉じたいものだ。この辺朝比奈さんならよーくわかってくれると思う。
「わかったよ。それじゃさっさとその精霊とやらに会って賢者の石を貰おうぜ。で、どこが一番手っ取り早い?」
九曜はキキッと首を傾げ、
「――そこ」
九曜は意外な方向を指さした。それは、俺たちの会話を暫くうんうんと頷いて聞いていたツインテール。
「まさか、橘が持っているとでも?」
「――――」
数ミクロンには及ばないが、数ナノ単位で頷いたように見えた。
「え? あたしそんなもの持ってないですよ?」と対照的にあたふたとざわめくのは橘京子。あまり裏表の無い奴だから、嘘をついて
いるようには見えない。それに嘘をついてこの世界からの脱出方法をひた隠しする理由もこいつにない。
だが、九曜も嘘をつくような人間には見えないわけで。
「九曜、どこに隠し持っているか教えてくれ」
「――――」
俺の言葉に、九曜は沈黙を保ったまま橘京子の目前まで迫った。
「う……」
少々ビビッた様子の橘と、全く怖じけつかない九曜がそれぞれ対面し、そして九曜は指を差した。
――橘京子の下半身を。
「へ?」
「まさか……そこあると言いたいのか?」
「――――」
再び数ナノ単位で首を動した。
「え? え? どういう事? まさか体の中に埋まっているってことは……いえ、そんなはず無いわ。改造人間になる手術なんて受け
てないもの。じゃあ一体どこに……?」
当の本人が解らないのに俺が解るわけ無かろう。こうなったらどこにその賢者の石があるのか、九曜に取って貰う以外に他はない。
「――わかった」
黒尽くめの占い師は両手を上げ、橘京子の肩を掴んだ。橘京子の体がビクンと小さく揺れた。
「く、九曜さん、取り出すのは構わないですけど痛いことはしないでくださいね! あと流血もゴメン被りたいのです!」
「大丈夫――痛くない…………引っかかっているだけ――」
「な、なんだ……九曜さんのことだから体の中に埋まっているソレを無理矢理取り出すかと思いましたよ」
ビビリまくりの橘の顔を見て、
「それは――――あり得ない…………」
何だか悔しそうな顔をする九曜。したかったのだろうか? 屠殺場じゃないぞ、ここは。
「――――ちょっとした……冗談――これからが――本番…………取り出す――――」
長門以上に喜怒哀楽が乏しいこいつが一世一代のギャグを言い放ったのはそれもかなりの事件なのだが、それをも上回る事件は俺の
目の前で勃発した。
「ちょ、九曜さん! 何をするんですか!」
何と九曜は、橘の貫頭衣をやおら捲し上げたのだ。必死になって抵抗する橘だが、九曜の超人類的パワーに圧倒出来るわけもない。
「……どこに手を入れ……ううっ! ……そこ……はぁん!……らめぇ!」
俺の位置からは九曜の豊満な髪の毛に阻まれてよく分からないが、橘が苦痛のに顔を歪めた事だけ分かった。顔中真っ赤である。
そして。
「取れた――」
九曜が取り出したのは、卵くらいの大きさをした、深緑色の宝石。
「これが賢者の石なのか?」
とか言って戦闘を挑まれたり、敵の手に落ちた精霊が襲い掛かって正気に戻した辺りで『我が力を授けるにふさわしい』とか言って受
け取ったりするんだな。
「――――それは…………あなた――次第――――」
九曜が言うには、五行の力はその源である『賢者の石』と呼ばれる宝石(高純度高密度の偏向エネルギー凝集体が規則正しく配列し
た結晶構造体だとか何とか説明してくれたが今回はパス)を手にすることでその力を発揮できるらしい。どのような力が発揮するかは
分からないが、世界を創造するパワーの源となった力だ。例え五分の一に減じているとは言え、恐るべきものであることは想像に難く
ない。
ただ残念なことに、その『賢者の石』をどうやって授かるかはよくわかってないそうだ。第一精霊とやらに会って実際に手にした人
がいるわけでもない。そりゃそうだよな。世界を崩壊しかねない力を持つものをポンポンと人に渡していたら今頃この世界は塵と芥の
山か、あるいは既に混沌へと帰しているか……そんなところだろう。
だから、ここから先は手探りの状態が続く事になる。面倒くさそうなことこの上ないが、やらなければいつまで経ってもこの世界か
ら抜け出せそうにない。先にも行ったが、俺はこの世界で天寿を全うしたいとは思わない。せめて自分の生まれた星で自分の生まれた
時代で生涯を閉じたいものだ。この辺朝比奈さんならよーくわかってくれると思う。
「わかったよ。それじゃさっさとその精霊とやらに会って賢者の石を貰おうぜ。で、どこが一番手っ取り早い?」
九曜はキキッと首を傾げ、
「――そこ」
九曜は意外な方向を指さした。それは、俺たちの会話を暫くうんうんと頷いて聞いていたツインテール。
「まさか、橘が持っているとでも?」
「――――」
数ミクロンには及ばないが、数ナノ単位で頷いたように見えた。
「え? あたしそんなもの持ってないですよ?」と対照的にあたふたとざわめくのは橘京子。あまり裏表の無い奴だから、嘘をついて
いるようには見えない。それに嘘をついてこの世界からの脱出方法をひた隠しする理由もこいつにない。
だが、九曜も嘘をつくような人間には見えないわけで。
「九曜、どこに隠し持っているか教えてくれ」
「――――」
俺の言葉に、九曜は沈黙を保ったまま橘京子の目前まで迫った。
「う……」
少々ビビッた様子の橘と、全く怖じけつかない九曜がそれぞれ対面し、そして九曜は指を差した。
――橘京子の下半身を。
「へ?」
「まさか……そこあると言いたいのか?」
「――――」
再び数ナノ単位で首を動した。
「え? え? どういう事? まさか体の中に埋まっているってことは……いえ、そんなはず無いわ。改造人間になる手術なんて受け
てないもの。じゃあ一体どこに……?」
当の本人が解らないのに俺が解るわけ無かろう。こうなったらどこにその賢者の石があるのか、九曜に取って貰う以外に他はない。
「――わかった」
黒尽くめの占い師は両手を上げ、橘京子の肩を掴んだ。橘京子の体がビクンと小さく揺れた。
「く、九曜さん、取り出すのは構わないですけど痛いことはしないでくださいね! あと流血もゴメン被りたいのです!」
「大丈夫――痛くない…………引っかかっているだけ――」
「な、なんだ……九曜さんのことだから体の中に埋まっているソレを無理矢理取り出すかと思いましたよ」
ビビリまくりの橘の顔を見て、
「それは――――あり得ない…………」
何だか悔しそうな顔をする九曜。したかったのだろうか? 屠殺場じゃないぞ、ここは。
「――――ちょっとした……冗談――これからが――本番…………取り出す――――」
長門以上に喜怒哀楽が乏しいこいつが一世一代のギャグを言い放ったのはそれもかなりの事件なのだが、それをも上回る事件は俺の
目の前で勃発した。
「ちょ、九曜さん! 何をするんですか!」
何と九曜は、橘の貫頭衣をやおら捲し上げたのだ。必死になって抵抗する橘だが、九曜の超人類的パワーに圧倒出来るわけもない。
「……どこに手を入れ……ううっ! ……そこ……はぁん!……らめぇ!」
俺の位置からは九曜の豊満な髪の毛に阻まれてよく分からないが、橘が苦痛のに顔を歪めた事だけ分かった。顔中真っ赤である。
そして。
「取れた――」
九曜が取り出したのは、卵くらいの大きさをした、深緑色の宝石。
「これが賢者の石なのか?」
「そう――――『木』の力が…………宿っている――」
先程よりも滑らかに首を動かした。しかし、何でまた橘が……?
「先の戦闘――――その際……先兵が――隠し持っていた……その時に得たもの――――」
「……あ、そう言えば……」肩で息をつき、「先程の戦闘の際……はあはあ……ある一本の触手を……切り落としたら……何かがあた
しの中……に……んん……潜り込んだというか……そんな気が……くはぁ…………今の今まですっかり忘れてました……」涙目の橘が
言葉を続けた。中々な大事をすっかり忘れる奴である。
「……いえ、基本草食性ですし……寄生すること……もないですし……単に先端部分が……残ってたのかなーと……思って……」
だとしても普通その場で取り除くだろ。
「だって……直ぐに他の触手が……攻めて……きましたし……第一あんなところに……」
橘の顔はさらに赤くなった。
「しかし、何であの触手が賢者の石を持ってたんだ?」
「精霊――――を――――食べた…………から――」
マジでか!? そんなに凄い奴だったのかあの触手!?
「精霊――――数万年を……生きた――大木…………それが枯死し――――彼の者が――――摂取した……」
ああ、そう言えば生きてない植物を食べるんだったな、あの触手。たまたま摂取した植物が精霊……いや、元精霊で、その時に賢者
の石も一緒に食べてしまったと言う訳か。
しかし、パワーの源たる賢者の石を、そんなに簡単に人様に手渡して良いものだろうか?
「それは……恐らく同じ『木』に属する仲間だったからでしょう」と橘。息を整え終えたのか、いつも通りの口調に戻っていた。
「賢者の石を守護するのは、何も絶対的な力持つ者や、長寿の存在である必要はありません。頻繁に他の者に譲り渡すことでその存在
を眩ませていたのかも知れませんね。今思えば、あたし達を必要に攻撃したのも、あの宝石を守るためだったのかも知れませんね」
さて、どうだろうね。あれはどう見ても橘に踏まれて怒っただけのように見えたが……
「……もうっ! それより九曜さん、わざわざ取り出してくれて有り難うございます。でもよーく洗ってから持って行ってください
ね」
「ん? どうしてだ?」
「だっ! だって……ほら、あまり綺麗とは言えないじゃないですか」
よく見ると、半透明の液体が緑色の宝石にまとわりついているのが分かった。先程の触手が吐きだした粘液だろうか?
「検討……する――」
ところで、橘のどこから出てきたんだ、それは?
「それは――「言わないでください!」」
先程よりも滑らかに首を動かした。しかし、何でまた橘が……?
「先の戦闘――――その際……先兵が――隠し持っていた……その時に得たもの――――」
「……あ、そう言えば……」肩で息をつき、「先程の戦闘の際……はあはあ……ある一本の触手を……切り落としたら……何かがあた
しの中……に……んん……潜り込んだというか……そんな気が……くはぁ…………今の今まですっかり忘れてました……」涙目の橘が
言葉を続けた。中々な大事をすっかり忘れる奴である。
「……いえ、基本草食性ですし……寄生すること……もないですし……単に先端部分が……残ってたのかなーと……思って……」
だとしても普通その場で取り除くだろ。
「だって……直ぐに他の触手が……攻めて……きましたし……第一あんなところに……」
橘の顔はさらに赤くなった。
「しかし、何であの触手が賢者の石を持ってたんだ?」
「精霊――――を――――食べた…………から――」
マジでか!? そんなに凄い奴だったのかあの触手!?
「精霊――――数万年を……生きた――大木…………それが枯死し――――彼の者が――――摂取した……」
ああ、そう言えば生きてない植物を食べるんだったな、あの触手。たまたま摂取した植物が精霊……いや、元精霊で、その時に賢者
の石も一緒に食べてしまったと言う訳か。
しかし、パワーの源たる賢者の石を、そんなに簡単に人様に手渡して良いものだろうか?
「それは……恐らく同じ『木』に属する仲間だったからでしょう」と橘。息を整え終えたのか、いつも通りの口調に戻っていた。
「賢者の石を守護するのは、何も絶対的な力持つ者や、長寿の存在である必要はありません。頻繁に他の者に譲り渡すことでその存在
を眩ませていたのかも知れませんね。今思えば、あたし達を必要に攻撃したのも、あの宝石を守るためだったのかも知れませんね」
さて、どうだろうね。あれはどう見ても橘に踏まれて怒っただけのように見えたが……
「……もうっ! それより九曜さん、わざわざ取り出してくれて有り難うございます。でもよーく洗ってから持って行ってください
ね」
「ん? どうしてだ?」
「だっ! だって……ほら、あまり綺麗とは言えないじゃないですか」
よく見ると、半透明の液体が緑色の宝石にまとわりついているのが分かった。先程の触手が吐きだした粘液だろうか?
「検討……する――」
ところで、橘のどこから出てきたんだ、それは?
「それは――「言わないでください!」」
「わたしも――――あなた達とと……行動を共にする――――」
一頻り話をし終えた後、九曜は突然言い出しやがった。
「行動するって……もしかして仲間になってくれるんですか!?」
「そう…………あなた達だけでは――心許ない…………」
悪かったな。
「それでは――次の目的地に……向かう――――次は……ここから――南の……場所――――港町…………」
「港町……ですか? 確かにここから南に行ったところにそう言った町があるのは確かですが、でもこの村の南には切り立った山がた
くさん連なっています。それを迂回してたら何十日とかかっちゃうわ」
「心配……いらない――――」
九曜はおもむろに水晶を手に取った。
「―――羯諦……羯諦――――波羅羯諦………波羅僧羯諦――――sicut et nos…………dimittimus debitoribus……nostris―――
―sed libera――nos a malo…………Amen――――」
呪文のようなお経のような祈りのような……ともかく、小声で何やらブツブツ言った後、水晶がまばゆい光を放った。
「なっ……」
「何……?」
光はほんの数秒で消え去ったが、その光を直視したためか、俺の視界は先程の暗闇と同等なまでに低下した。
「九曜、何をした!?」
「――次の……目的地まで――移動した…………」
何!?
「……あっ……ここは……もしかして!?」
先に視力が回復したのだろうが、橘京子の驚愕の声が響き渡った。俺の視力も徐々に回復しているが、まだ全体を見渡せるほどでも
ない。それでも先程の様子とは打って変わり、明るい場所に出没したことだけは分かった。
そして先程と全く異なるのは他にもある。深緑の匂いが消失し、入れ替わるかのように感じたのは潮の香り。波の音とカモメが鳴く
声が聞こえることから、海が近いことは間違いない。
「こっち――――」
手招きをする九曜がぼんやりと見えた。様子のつかめない俺と橘は、取りも直さず九曜の指さす方向へと歩幅を広めた。
一頻り話をし終えた後、九曜は突然言い出しやがった。
「行動するって……もしかして仲間になってくれるんですか!?」
「そう…………あなた達だけでは――心許ない…………」
悪かったな。
「それでは――次の目的地に……向かう――――次は……ここから――南の……場所――――港町…………」
「港町……ですか? 確かにここから南に行ったところにそう言った町があるのは確かですが、でもこの村の南には切り立った山がた
くさん連なっています。それを迂回してたら何十日とかかっちゃうわ」
「心配……いらない――――」
九曜はおもむろに水晶を手に取った。
「―――羯諦……羯諦――――波羅羯諦………波羅僧羯諦――――sicut et nos…………dimittimus debitoribus……nostris―――
―sed libera――nos a malo…………Amen――――」
呪文のようなお経のような祈りのような……ともかく、小声で何やらブツブツ言った後、水晶がまばゆい光を放った。
「なっ……」
「何……?」
光はほんの数秒で消え去ったが、その光を直視したためか、俺の視界は先程の暗闇と同等なまでに低下した。
「九曜、何をした!?」
「――次の……目的地まで――移動した…………」
何!?
「……あっ……ここは……もしかして!?」
先に視力が回復したのだろうが、橘京子の驚愕の声が響き渡った。俺の視力も徐々に回復しているが、まだ全体を見渡せるほどでも
ない。それでも先程の様子とは打って変わり、明るい場所に出没したことだけは分かった。
そして先程と全く異なるのは他にもある。深緑の匂いが消失し、入れ替わるかのように感じたのは潮の香り。波の音とカモメが鳴く
声が聞こえることから、海が近いことは間違いない。
「こっち――――」
手招きをする九曜がぼんやりと見えた。様子のつかめない俺と橘は、取りも直さず九曜の指さす方向へと歩幅を広めた。
「……で、九曜、ここはどこなんだ?」
「――港……町……」
「それは分かってるよ。だが問題なのは何故酒場でまったりしているか、っていうことだ」
俺たちが九曜に連れてこられたのは、港町にある、船着き場にほど近い酒場だった。船を利用する観光客が行き交うと言うより、水
兵だか船乗りが仕事前後に利用する、場末感たっぷりの酒場である。昼間だというのに酒の匂いがやたらと鼻についた。
「ここに、次の賢者の石の手がかりがあるんですか?」
「そう…………それと、もう一つ重要な事が――ある…………」
重要な事?
「――もう一人の……仲間を――見つけ出す……事――――」
もう一人の仲間!?
「どうやって見つけるんですか?」
「これが…………存在を――教えてくれる……」
九曜は右手に持った木の杖を掲げた。杖の先端には水晶が当てはめられていた。九曜のいた部屋に置いてあった水晶を、丁度小さく
したようなもので、こちらも不思議な光に包まれている。
「先程の――水晶を…………小型化――凝縮した――――」
便利な技を使う奴だ。「それで、その仲間とやらはここに現れるってのか?」
俺の言葉に九曜はキキキッと腕を上げ、杖の先端で扉の方を差した。
「あそこから――来る…………もうじき――――」
その扉は、この酒場の入り口であり、言うまでもなく俺たちが入ってきた扉でもある。
「それまで待ってろ、てことか」
「そう」
「どのくらいかかるんだ?」
「直ぐに……来る――――」
そうか、それじゃ少し待つことにしようか。
「いいえ、あたし探してきます! だって少しでも早く見つけた方が良いですもの! 行ってきます!」
俺の言うことを完全無視した橘京子は、脇見もせず扉の向こうに走り出す。
「……いいのか、九曜? あのまま行かせても?」
「…………構わ――――ない…………無駄骨を――折るのは……彼女――――」
「そうだな、わざわざ付き合う必要もないか」
などと橘京子を除く俺たちが待ったりモードに入ろうとした瞬間、事件は起こった。
「――港……町……」
「それは分かってるよ。だが問題なのは何故酒場でまったりしているか、っていうことだ」
俺たちが九曜に連れてこられたのは、港町にある、船着き場にほど近い酒場だった。船を利用する観光客が行き交うと言うより、水
兵だか船乗りが仕事前後に利用する、場末感たっぷりの酒場である。昼間だというのに酒の匂いがやたらと鼻についた。
「ここに、次の賢者の石の手がかりがあるんですか?」
「そう…………それと、もう一つ重要な事が――ある…………」
重要な事?
「――もう一人の……仲間を――見つけ出す……事――――」
もう一人の仲間!?
「どうやって見つけるんですか?」
「これが…………存在を――教えてくれる……」
九曜は右手に持った木の杖を掲げた。杖の先端には水晶が当てはめられていた。九曜のいた部屋に置いてあった水晶を、丁度小さく
したようなもので、こちらも不思議な光に包まれている。
「先程の――水晶を…………小型化――凝縮した――――」
便利な技を使う奴だ。「それで、その仲間とやらはここに現れるってのか?」
俺の言葉に九曜はキキキッと腕を上げ、杖の先端で扉の方を差した。
「あそこから――来る…………もうじき――――」
その扉は、この酒場の入り口であり、言うまでもなく俺たちが入ってきた扉でもある。
「それまで待ってろ、てことか」
「そう」
「どのくらいかかるんだ?」
「直ぐに……来る――――」
そうか、それじゃ少し待つことにしようか。
「いいえ、あたし探してきます! だって少しでも早く見つけた方が良いですもの! 行ってきます!」
俺の言うことを完全無視した橘京子は、脇見もせず扉の向こうに走り出す。
「……いいのか、九曜? あのまま行かせても?」
「…………構わ――――ない…………無駄骨を――折るのは……彼女――――」
「そうだな、わざわざ付き合う必要もないか」
などと橘京子を除く俺たちが待ったりモードに入ろうとした瞬間、事件は起こった。
入り口まで駆け足で走る橘京子は扉を開こうとした瞬間、それよりも早く開く扉の気配を察知した。
「……!」
寸でのところでドアの開閉による攻撃を喰らわずやり過ごした。さすがは組織の一員。
しかし、である。
「きゃん! いったーい!」
咄嗟の回避にも拘わらず、何かに接触した橘は勢いに押されてその場に尻餅をついてしまった。
「……!」
寸でのところでドアの開閉による攻撃を喰らわずやり過ごした。さすがは組織の一員。
しかし、である。
「きゃん! いったーい!」
咄嗟の回避にも拘わらず、何かに接触した橘は勢いに押されてその場に尻餅をついてしまった。
「ってーだろーが! どこに目をつけてやんだこの野郎!!」
図太い声が響き渡った。
「ん? よく見たら女じゃねーか」
続いて甲高く細い声が聞こえる。
「くひっ……しかも中々の上玉……ひゃひゃひゃ」
さらに聞こえるダミ声。
橘はその場に座り込んだまま、焦燥感を露わにした表情で彼らを見ていた。
「よう、姉ちゃん。人様にぶつかっておいてお詫びの一つも名無しか?」
「いえ、その……ご、ごめんなさい……」
「ごめんなさいだぁ? まさかそれで謝ったつもりか? へっ、ガキじゃあるまいし」
「ふへへへ……それ相応の責任を取って貰おう、かなっと」
続々と扉から入ってくる男三人。
最初に入ってきた野太い声の主は禿頭姿のゴリマッチョ。元は白色なのだろうが、長いこと着続けているのだろう、灰色くくすんだ
タンクトップと同じ色のクオーターパンツを着ている。甲高い声はひょろ長く長髪ストレートヘア。襟を立てたシャツと、ジーンズに
似た素材のパンツに手を入れにひひひと笑ってやがる。そして最後に入ってきたダミ声は、チビデブバンダナ姿。縞々のTシャツと短
パン、そして丸いサングラスが似合っていない。
三者三様の格好だが、この三人には共通点があった。それは、いわゆる「ごろつき」だと言うことだ。
「あ……あの……あの……それ相応の責任って……」
よせばいいのに聞き返す橘。泣きそうな顔を見て三人は
図太い声が響き渡った。
「ん? よく見たら女じゃねーか」
続いて甲高く細い声が聞こえる。
「くひっ……しかも中々の上玉……ひゃひゃひゃ」
さらに聞こえるダミ声。
橘はその場に座り込んだまま、焦燥感を露わにした表情で彼らを見ていた。
「よう、姉ちゃん。人様にぶつかっておいてお詫びの一つも名無しか?」
「いえ、その……ご、ごめんなさい……」
「ごめんなさいだぁ? まさかそれで謝ったつもりか? へっ、ガキじゃあるまいし」
「ふへへへ……それ相応の責任を取って貰おう、かなっと」
続々と扉から入ってくる男三人。
最初に入ってきた野太い声の主は禿頭姿のゴリマッチョ。元は白色なのだろうが、長いこと着続けているのだろう、灰色くくすんだ
タンクトップと同じ色のクオーターパンツを着ている。甲高い声はひょろ長く長髪ストレートヘア。襟を立てたシャツと、ジーンズに
似た素材のパンツに手を入れにひひひと笑ってやがる。そして最後に入ってきたダミ声は、チビデブバンダナ姿。縞々のTシャツと短
パン、そして丸いサングラスが似合っていない。
三者三様の格好だが、この三人には共通点があった。それは、いわゆる「ごろつき」だと言うことだ。
「あ……あの……あの……それ相応の責任って……」
よせばいいのに聞き返す橘。泣きそうな顔を見て三人は
「なに、晩酌の相手でもしてくれればそれでいいさ」
「そ、それくらいなら……」
「おお、してくれるのか。それはありがたい」
「分かってるとは思うが、酒を注いでハイ終わりじゃないからな。酒に溺れて野獣と化した俺たちのモノの処理も含めて、だぜ」
「ひっ……! そ、そんな……」
「おいおい、連れないこと言うなよ。自分から了承したんだ。今更イヤだとは言わせないぜ? 所謂和○ってやつだ」
「ぐひひ……久しぶりの女だっぜ……溜まりまくってるから俺は三発はいけるぜ」
「なら俺は五発だ」
「おいおい、サカリの時期はまだ早いぜお前ら」
『ぐはははははっ!』
低俗な笑い声が辺りにこだました。その笑い声に橘の顔が蒼白になっていくのが分かった。流石に何をされるのか分かったのだろう
いくら強気に振る舞っても、いくら弓矢の扱いが上手くても、大の男三人に羽交い締めにされれば元も子もない。その絶望感からだろ
う、橘はへたりこんで身動き一つ取らなくなってしまった。
ちっ、これだからお嬢様ってのは……いや、別に橘がお嬢様って訳ではないが、気分的にな。
それはともかく、いくら場末の酒屋とは言え、こいつらの非道さに誰も口を出さないのも気になる。船着き場の近くと言うこともあ
り、カタギの人間も少なからずいるはずなのだが……あいつらか、あるいはあいつらの親玉が余程力を持っているのか?
だが、俺たちにはそんなことは関係ない。ここで橘があいつらの良いようにされるのは面白くない。人数的に不利だし、如何ほどの
力を持つかは知らないが、こっちは九曜もいるし、魔法も使える。何とか対等の立場に持って行けるはずだ。
よし、と気合いを入れて席を立った瞬間、九曜もまた同時に立ち上がった。
「――大丈夫……あなたは…………見ていて――」
そう言い残すと、九曜はからくり人形並みにぎこちなく橘とごろつき三人の前までゆっくりと移動した。
「そ、それくらいなら……」
「おお、してくれるのか。それはありがたい」
「分かってるとは思うが、酒を注いでハイ終わりじゃないからな。酒に溺れて野獣と化した俺たちのモノの処理も含めて、だぜ」
「ひっ……! そ、そんな……」
「おいおい、連れないこと言うなよ。自分から了承したんだ。今更イヤだとは言わせないぜ? 所謂和○ってやつだ」
「ぐひひ……久しぶりの女だっぜ……溜まりまくってるから俺は三発はいけるぜ」
「なら俺は五発だ」
「おいおい、サカリの時期はまだ早いぜお前ら」
『ぐはははははっ!』
低俗な笑い声が辺りにこだました。その笑い声に橘の顔が蒼白になっていくのが分かった。流石に何をされるのか分かったのだろう
いくら強気に振る舞っても、いくら弓矢の扱いが上手くても、大の男三人に羽交い締めにされれば元も子もない。その絶望感からだろ
う、橘はへたりこんで身動き一つ取らなくなってしまった。
ちっ、これだからお嬢様ってのは……いや、別に橘がお嬢様って訳ではないが、気分的にな。
それはともかく、いくら場末の酒屋とは言え、こいつらの非道さに誰も口を出さないのも気になる。船着き場の近くと言うこともあ
り、カタギの人間も少なからずいるはずなのだが……あいつらか、あるいはあいつらの親玉が余程力を持っているのか?
だが、俺たちにはそんなことは関係ない。ここで橘があいつらの良いようにされるのは面白くない。人数的に不利だし、如何ほどの
力を持つかは知らないが、こっちは九曜もいるし、魔法も使える。何とか対等の立場に持って行けるはずだ。
よし、と気合いを入れて席を立った瞬間、九曜もまた同時に立ち上がった。
「――大丈夫……あなたは…………見ていて――」
そう言い残すと、九曜はからくり人形並みにぎこちなく橘とごろつき三人の前までゆっくりと移動した。
「ん? 何だお前?」
「お、ねーちゃんも俺たちのパーティに参加してくれるってか?」
「ふへへへ……それいい! 乱交だ! 乱交パーチーだ!」
「――――」
ごろつき共のヤジに怯えることもなく(というか何とも思ってないのだろうが)、九曜は橘の方に赴き、今だ座り込んでいる彼女を
何とか立たせ、そして担いで俺がいるテーブルまで移動し始めた。
「……おい。どこに行く? まさか逃げる気じゃないだろうな?」
そんな言葉でビビる九曜じゃない。
「待てよ!」
だから言うだけ無駄だって。
「くひゃ! まちやがれぇ!!」
ついにチビデブサングラスが九曜の肩に手をかけた。
瞬間。
「…………っ!!!」
九曜が手にした気の杖が、サングラス野郎の後頭部にクリティカルヒット。声すら出さずごろつきの一人はその場に倒れ込んだ。
『なっ……』
あまりの事に驚愕の声を上げる残りのごろつき二人。
「――――ここに……」
その二人を尻目に、パニック寸前の橘をゆっくりと椅子に座らせた。
「……あたし……危ない目に……九曜さんも……危ない……」
「大丈夫――――」
九曜は手のひらをそっと橘の顔に置いた。すると橘はまるで操られているかのようにスッと目を閉じ、そして眠りに陥った。パニッ
クになりつつある橘の気を鎮めるための配慮だろうか。
「くー……くー……」
寝息を立てる橘を確認した後、九曜は再びごろつき達と向き合った。
「野郎!」「テメエッ!!」
二人は腰に差していたダガーを取り出し、九曜に向かって斬りかかる! 禿頭は上段から、長身は中段よりやや下から、それぞれク
ロスさせるかのようにダガーを振るった。
「――!!」
九曜は寸でのところでかわしたものの、その風圧のため右袖が切り落とされ、ローブの左足部分にが綺麗なスリットが入った。
「なかなかやるじゃねえか、お前」
「普通の奴ならあの一撃で全身ズタズタのボロボロになるだがな、ヒヒヒヒ!」
こいつら……ただのごろつきと思ってたが、そこそこ腕があるようだ。なるほど、この界隈ででかい顔をしているだけある。
「だが……今度はどうかな?」
長身の方が懐からさらにダガーを取り出し、それを投げつける!
九曜は難無くかわし、隙だらけになった長身に攻撃を加え……ない?
「お、ねーちゃんも俺たちのパーティに参加してくれるってか?」
「ふへへへ……それいい! 乱交だ! 乱交パーチーだ!」
「――――」
ごろつき共のヤジに怯えることもなく(というか何とも思ってないのだろうが)、九曜は橘の方に赴き、今だ座り込んでいる彼女を
何とか立たせ、そして担いで俺がいるテーブルまで移動し始めた。
「……おい。どこに行く? まさか逃げる気じゃないだろうな?」
そんな言葉でビビる九曜じゃない。
「待てよ!」
だから言うだけ無駄だって。
「くひゃ! まちやがれぇ!!」
ついにチビデブサングラスが九曜の肩に手をかけた。
瞬間。
「…………っ!!!」
九曜が手にした気の杖が、サングラス野郎の後頭部にクリティカルヒット。声すら出さずごろつきの一人はその場に倒れ込んだ。
『なっ……』
あまりの事に驚愕の声を上げる残りのごろつき二人。
「――――ここに……」
その二人を尻目に、パニック寸前の橘をゆっくりと椅子に座らせた。
「……あたし……危ない目に……九曜さんも……危ない……」
「大丈夫――――」
九曜は手のひらをそっと橘の顔に置いた。すると橘はまるで操られているかのようにスッと目を閉じ、そして眠りに陥った。パニッ
クになりつつある橘の気を鎮めるための配慮だろうか。
「くー……くー……」
寝息を立てる橘を確認した後、九曜は再びごろつき達と向き合った。
「野郎!」「テメエッ!!」
二人は腰に差していたダガーを取り出し、九曜に向かって斬りかかる! 禿頭は上段から、長身は中段よりやや下から、それぞれク
ロスさせるかのようにダガーを振るった。
「――!!」
九曜は寸でのところでかわしたものの、その風圧のため右袖が切り落とされ、ローブの左足部分にが綺麗なスリットが入った。
「なかなかやるじゃねえか、お前」
「普通の奴ならあの一撃で全身ズタズタのボロボロになるだがな、ヒヒヒヒ!」
こいつら……ただのごろつきと思ってたが、そこそこ腕があるようだ。なるほど、この界隈ででかい顔をしているだけある。
「だが……今度はどうかな?」
長身の方が懐からさらにダガーを取り出し、それを投げつける!
九曜は難無くかわし、隙だらけになった長身に攻撃を加え……ない?
「ほう、今のもかわしたか!」
九曜に向かって投げたはずのダガーは、再び長身の手の中に収まっていた。三本目のダガーを取り出したから、ではない。長身が投
げたダガーを禿頭が受け取り、間髪入れず投げ返したからだ。
「ほら、ほら、ほら!」
「それ、それ、それ!」
一人が投げつけたダガーはそのままもう一方の元まで届き、すぐさま投げ返す。二人でやるお手玉状態だ。九曜は差し迫るダガーを
何とか交わしているものの、これでは攻撃も出来ない。
「そうら、もう一本追加だ!」
合計三本となったダガーの攻撃はさらに凄まじさを増す。そしてその影響が九曜にも現れ始めた。
即ち、ローブが少しずつ切り裂かれているのだ。
「へいへい! ねーちゃん! ストリップとは色っぽいねえ!!」
「言っとくが、真っ裸になっても謝るまで止めねえからな!」
くっ、このままでは九曜が不利だ。そろそろ俺も加勢に……
「――大丈夫……と――言ったはず…………」
必死でよける九曜の胸元にダガーが掠めた。
「大丈夫って言ってもな! お前その状態で反撃すらできてないじゃないか!」
「ちょっとした……ウォーミング――――アップ……これから――――反撃する」
右手にした杖を手にし……うおっ!?
九曜に向かって投げたはずのダガーは、再び長身の手の中に収まっていた。三本目のダガーを取り出したから、ではない。長身が投
げたダガーを禿頭が受け取り、間髪入れず投げ返したからだ。
「ほら、ほら、ほら!」
「それ、それ、それ!」
一人が投げつけたダガーはそのままもう一方の元まで届き、すぐさま投げ返す。二人でやるお手玉状態だ。九曜は差し迫るダガーを
何とか交わしているものの、これでは攻撃も出来ない。
「そうら、もう一本追加だ!」
合計三本となったダガーの攻撃はさらに凄まじさを増す。そしてその影響が九曜にも現れ始めた。
即ち、ローブが少しずつ切り裂かれているのだ。
「へいへい! ねーちゃん! ストリップとは色っぽいねえ!!」
「言っとくが、真っ裸になっても謝るまで止めねえからな!」
くっ、このままでは九曜が不利だ。そろそろ俺も加勢に……
「――大丈夫……と――言ったはず…………」
必死でよける九曜の胸元にダガーが掠めた。
「大丈夫って言ってもな! お前その状態で反撃すらできてないじゃないか!」
「ちょっとした……ウォーミング――――アップ……これから――――反撃する」
右手にした杖を手にし……うおっ!?
『何っ!?』
チン、チンと金属音が床に響いた。
九曜は手にした杖をバトン宜しく回転させ、ダガーの猛追を振り払ったのだ。あまりのことに攻撃することも忘れたごろつきの一方
に九曜が迫る!
「ぐふっ!」
杖の先端をみぞおちにめり込ませ、そのまま数回突く。たまらず長身はその場に膝を突いた。
「ぐ……やるな……だが……この杖を封じれば…………攻撃……でき……まい……」
長身は最後の力で杖を奪い、そのまま覆い伏せるかのように倒れ込んだ。
「よくもっ! 俺の相棒を!!」
間髪置かず禿頭が九曜の元に攻め込む。いつの間に用意したのか、両手に携えたダガーが九曜に襲いかかる!
チン、チンと金属音が床に響いた。
九曜は手にした杖をバトン宜しく回転させ、ダガーの猛追を振り払ったのだ。あまりのことに攻撃することも忘れたごろつきの一方
に九曜が迫る!
「ぐふっ!」
杖の先端をみぞおちにめり込ませ、そのまま数回突く。たまらず長身はその場に膝を突いた。
「ぐ……やるな……だが……この杖を封じれば…………攻撃……でき……まい……」
長身は最後の力で杖を奪い、そのまま覆い伏せるかのように倒れ込んだ。
「よくもっ! 俺の相棒を!!」
間髪置かず禿頭が九曜の元に攻め込む。いつの間に用意したのか、両手に携えたダガーが九曜に襲いかかる!
しかし、この後俺はとんでもないモノを目の当たりにした。
「死ねえぇぇ!!」
頭に血が上ったのか、なりふり構わず突っ込む禿頭。
「――――」
対する九曜はその場でじっと……いや。その場から足を一歩引き、両手を軽く上げ、ファイティングポーズを取る。
そして獲物が間合いに入る瞬間跳躍した!?
「なっ……!」
禿頭の呆気にとられた顔が、遠く離れたこの位置からでも確認できた。
飛ばれたことで間合いが狂った禿頭は思わずダガーを振るうが当たるはずもない。それどころかスキができる。
勿論見逃す九曜ではなかった。体を捻り、右足を伸ばし、回し蹴りを横っ腹に決める。これだけでも致命傷だろうが、凄いのはここ
からだ。なんと九曜はその反動を利用してもう一回転。左足が禿頭の同じ場所を貫いた。
「ぐへぇ……」
もろカウンターで入った。あの衝撃では下手をしたら骨の一本や二本は折れたかもしれない。
ドサッと重いものが倒れ込む音と、トスッと軽い音がほぼ同時に響き渡った。
その軽い音を立てた方――九曜はゆっくりとその場に立ちあがり、そして俺の方を見る。
スリットから生える白い足が目に焼き付く。それくらい華麗な空中二段回し蹴りだった。
頭に血が上ったのか、なりふり構わず突っ込む禿頭。
「――――」
対する九曜はその場でじっと……いや。その場から足を一歩引き、両手を軽く上げ、ファイティングポーズを取る。
そして獲物が間合いに入る瞬間跳躍した!?
「なっ……!」
禿頭の呆気にとられた顔が、遠く離れたこの位置からでも確認できた。
飛ばれたことで間合いが狂った禿頭は思わずダガーを振るうが当たるはずもない。それどころかスキができる。
勿論見逃す九曜ではなかった。体を捻り、右足を伸ばし、回し蹴りを横っ腹に決める。これだけでも致命傷だろうが、凄いのはここ
からだ。なんと九曜はその反動を利用してもう一回転。左足が禿頭の同じ場所を貫いた。
「ぐへぇ……」
もろカウンターで入った。あの衝撃では下手をしたら骨の一本や二本は折れたかもしれない。
ドサッと重いものが倒れ込む音と、トスッと軽い音がほぼ同時に響き渡った。
その軽い音を立てた方――九曜はゆっくりとその場に立ちあがり、そして俺の方を見る。
スリットから生える白い足が目に焼き付く。それくらい華麗な空中二段回し蹴りだった。
すげえ、その格好からして魔法使いか僧侶系がと思ったのに、見事なまでの格闘タイプかよ。
「これくらいは――――当然…………魔法も――使える――」
九曜はシャランという音を立てながら杖を振るった。瞬間、ボロボロに破けたローブが再生し、まるで新品のような輝きを取り戻し
た。……あ、でもスリットは直さないのな。
「こっちの――方が…………動きやすい――――」
あ、そう。
「これくらいは――――当然…………魔法も――使える――」
九曜はシャランという音を立てながら杖を振るった。瞬間、ボロボロに破けたローブが再生し、まるで新品のような輝きを取り戻し
た。……あ、でもスリットは直さないのな。
「こっちの――方が…………動きやすい――――」
あ、そう。
だがさすがは宇宙人。万能キャラはこの世界でも有効ってわけだ。
「そうでも……ない――」
いや、謙遜はいいぜ。ちったあ俺も橘も見習った方がいいな……そういえば橘はどうした? まだ惚けているのか?
何とはなしに橘を座らせた椅子に目をやると……あれ? いないぞ。どこに行った?
「あそこ……」
九曜が指さした方向を見れば、橘を抱きかかえられ、連れ去られようとしていた。
連れ去ろうとしているのは、一番始めに失神したチビデブ野郎。
「こらぁ! 何してやがる!」
俺たちが気づいた瞬間、ものすごい速さで逃げるチビデブ。俺も懸命に走るが、奴との距離を保つので精一杯だった。混乱した場内
と、入り乱れたテーブルと椅子で思うように動けないためだ。
こうなったら魔法で……って、こんな場所で火の魔法使った日にゃ大火事だ! 水も木も土も辺りに迷惑をかけそうだし、金に至っ
ては何を唱えて良いか分からんし……ええい!
俺が何とか呪文の詠唱を考えているスキに、チビデブは入り口付近まで到達。その場から逃げようとしていた。くそ、焦れば焦るほ
ど呪文を唱える意識が飛んでしまう。どうすればいいんだ!?
「ひゃーはっはっは! この娘だけは俺が預かっていくぜ! 悔しかったら追いかけて来な!」
完全に勝利を確信したチビデブがドアを開けようとした瞬間、
「ぐふっ!」
開いたドアの一撃を食らってその場に倒れ込んだ。
「そうでも……ない――」
いや、謙遜はいいぜ。ちったあ俺も橘も見習った方がいいな……そういえば橘はどうした? まだ惚けているのか?
何とはなしに橘を座らせた椅子に目をやると……あれ? いないぞ。どこに行った?
「あそこ……」
九曜が指さした方向を見れば、橘を抱きかかえられ、連れ去られようとしていた。
連れ去ろうとしているのは、一番始めに失神したチビデブ野郎。
「こらぁ! 何してやがる!」
俺たちが気づいた瞬間、ものすごい速さで逃げるチビデブ。俺も懸命に走るが、奴との距離を保つので精一杯だった。混乱した場内
と、入り乱れたテーブルと椅子で思うように動けないためだ。
こうなったら魔法で……って、こんな場所で火の魔法使った日にゃ大火事だ! 水も木も土も辺りに迷惑をかけそうだし、金に至っ
ては何を唱えて良いか分からんし……ええい!
俺が何とか呪文の詠唱を考えているスキに、チビデブは入り口付近まで到達。その場から逃げようとしていた。くそ、焦れば焦るほ
ど呪文を唱える意識が飛んでしまう。どうすればいいんだ!?
「ひゃーはっはっは! この娘だけは俺が預かっていくぜ! 悔しかったら追いかけて来な!」
完全に勝利を確信したチビデブがドアを開けようとした瞬間、
「ぐふっ!」
開いたドアの一撃を食らってその場に倒れ込んだ。
「ぐっ……誰だっ!!」
「お前如きに名乗るような安っぽい名前は持ちあわせておらん」
ドアの前に立っていた人物……声からして男だ……は、ゆっくりと酒場の中へと入ってきた。
背丈は俺より少し高く、短くも長くもない髪を軽く真ん中分けにしている。古泉とはまた違ったファンがつきそうな整った顔立ち。
ここまでなら酒屋に似つかわしくない好青年で済むのだが、実はそう思えない理由が二つほどあった。
まずはその格好。水色の半着と灰色の袴、そして藍色の羽織を着込んで高下駄を履くという、和を前面に押し出したその格好はここ
がファンタジーの世界だと言っても全く異質な物にさえ感じた。
そしてもう一つ。それは彼の瞳……全てのものに不平不満を言いたげなあの目が、奴のメリットを全面的に押し殺していた。
ああ、もちろん見知った顔だ。
「こんなところで遭うことになるとはな……正直虫が好かん。だがこれも既定事項の内だ。甘んじて受け入れてやる」
愚痴を零すその声は、この時ばかりはありがたく感じた。
「藤原……お前もこちらに飛ばされてきたのか……」
「お前如きに名乗るような安っぽい名前は持ちあわせておらん」
ドアの前に立っていた人物……声からして男だ……は、ゆっくりと酒場の中へと入ってきた。
背丈は俺より少し高く、短くも長くもない髪を軽く真ん中分けにしている。古泉とはまた違ったファンがつきそうな整った顔立ち。
ここまでなら酒屋に似つかわしくない好青年で済むのだが、実はそう思えない理由が二つほどあった。
まずはその格好。水色の半着と灰色の袴、そして藍色の羽織を着込んで高下駄を履くという、和を前面に押し出したその格好はここ
がファンタジーの世界だと言っても全く異質な物にさえ感じた。
そしてもう一つ。それは彼の瞳……全てのものに不平不満を言いたげなあの目が、奴のメリットを全面的に押し殺していた。
ああ、もちろん見知った顔だ。
「こんなところで遭うことになるとはな……正直虫が好かん。だがこれも既定事項の内だ。甘んじて受け入れてやる」
愚痴を零すその声は、この時ばかりはありがたく感じた。
「藤原……お前もこちらに飛ばされてきたのか……」
ふん、と鼻を鳴らしたその男は、
「識別信号で呼ばれるは気に喰わんが、だからといって偽世の礎を確乎不抜とせしめん輩もまた大罪。いいか。忠義によってお前達を
助けてやる」
シャキン、と腰に差してある片刃の長剣を抜いた。あの風体からして、恐らく日本刀の一種だろう。
「失せろ。さもなくば死ぬぞ」
「う…………」
件を突きつけられ、チビデブはすごすごと後ずさりし、その場から立ち去る……と思いきや。
「……へっ、できるものならやってみやがれ!」
中々挑戦的な態度を取りやがった。正面には藤原、後方には俺と九曜が控え、逃げることも反撃することもままならない。頼りのお
仲間は、九曜がさっきふん縛って身動きできなくしている。
この期に及んで自分の優位性を疑わないとは……ついに頭のネジが切れたか?
「うるさいっ! ならこれでどうだ!?」
そうほざいた後、小走りであるポイントまでたどり着き、そして。
「あいたたた……あれ……? あたしどうしたのかしら? 確か暴漢に襲われて……うわ!」
最悪なタイミングで起き上がる。くそ野郎。橘を羽交い締めにしやがって……人質のつもりか?
「た、助けてぇ! は、早くぅ!! いやぁ! 死にたくないぃぃぃー!!!」
普通こういう場では、『あたしの事はどうでもいいから逃げて!』と言うのがセオリーなんだが……全く以て空気の読めない奴であ
る……ま、そんな冗談はさておき。
チビデブは橘を盾にしつつ、「俺が遠くに逃げるまで、こいつは人質だ! いいな!」と血気盛んにまくし立てる。攻撃することは
容易いが、あれでは橘にまで危害を加えてしまう。魔法を使ったところで巻き添えを食らうだろうし、九曜の格闘術もまた然り。
古風で使い古された手ではあるが、確実な方法だ。
ならば……どうする?
「ここは僕に任せろ」
「何か良い策でもあるのか?」小声で言う俺の言葉を無視し、藤原は二人の前に立ちはだかった。
抜き身の剣を携える藤原に、チビデブは恐怖で仰け反り返っている。
「どどど、どどどうする気だぁぁ……」
「心配いらぬわ。眠って貰うだけだ。永遠に覚めぬ眠りをな……」
カチャリと剣を上段に構えた。
「ひいっ! い、いいのかぁぁ……こいつが、どどど、どおなっても…………いいのかよぉぉぉぉ!!!」
「いやぁぁぁ! 切らないでぇ!」
藤原の脅しに、二人ともパニックを通り越してエクスタシー状態!
「仲良く地獄の夢でも見るが良い」
「識別信号で呼ばれるは気に喰わんが、だからといって偽世の礎を確乎不抜とせしめん輩もまた大罪。いいか。忠義によってお前達を
助けてやる」
シャキン、と腰に差してある片刃の長剣を抜いた。あの風体からして、恐らく日本刀の一種だろう。
「失せろ。さもなくば死ぬぞ」
「う…………」
件を突きつけられ、チビデブはすごすごと後ずさりし、その場から立ち去る……と思いきや。
「……へっ、できるものならやってみやがれ!」
中々挑戦的な態度を取りやがった。正面には藤原、後方には俺と九曜が控え、逃げることも反撃することもままならない。頼りのお
仲間は、九曜がさっきふん縛って身動きできなくしている。
この期に及んで自分の優位性を疑わないとは……ついに頭のネジが切れたか?
「うるさいっ! ならこれでどうだ!?」
そうほざいた後、小走りであるポイントまでたどり着き、そして。
「あいたたた……あれ……? あたしどうしたのかしら? 確か暴漢に襲われて……うわ!」
最悪なタイミングで起き上がる。くそ野郎。橘を羽交い締めにしやがって……人質のつもりか?
「た、助けてぇ! は、早くぅ!! いやぁ! 死にたくないぃぃぃー!!!」
普通こういう場では、『あたしの事はどうでもいいから逃げて!』と言うのがセオリーなんだが……全く以て空気の読めない奴であ
る……ま、そんな冗談はさておき。
チビデブは橘を盾にしつつ、「俺が遠くに逃げるまで、こいつは人質だ! いいな!」と血気盛んにまくし立てる。攻撃することは
容易いが、あれでは橘にまで危害を加えてしまう。魔法を使ったところで巻き添えを食らうだろうし、九曜の格闘術もまた然り。
古風で使い古された手ではあるが、確実な方法だ。
ならば……どうする?
「ここは僕に任せろ」
「何か良い策でもあるのか?」小声で言う俺の言葉を無視し、藤原は二人の前に立ちはだかった。
抜き身の剣を携える藤原に、チビデブは恐怖で仰け反り返っている。
「どどど、どどどうする気だぁぁ……」
「心配いらぬわ。眠って貰うだけだ。永遠に覚めぬ眠りをな……」
カチャリと剣を上段に構えた。
「ひいっ! い、いいのかぁぁ……こいつが、どどど、どおなっても…………いいのかよぉぉぉぉ!!!」
「いやぁぁぁ! 切らないでぇ!」
藤原の脅しに、二人ともパニックを通り越してエクスタシー状態!
「仲良く地獄の夢でも見るが良い」
『いやぁぁぁぁぁ!!!!!』
スチャ、と鞘に剣を収めた藤原は、また下らぬものを斬ってしまったというような、複雑な表情を浮かべてその場に鎮座した。
「…………っっっ、あれ? 何もなってねえ?」
「…………んあ? 本当……?」
二人は自分の体が繋がっていることを確認し、ぷはぁと大きく息を吐き、再びへたり込む。
「刀が名刀である証。どうやって証明するか分かるか?」
『???』
突然の話題に、二人はクエスチョンマークを点灯させた。とてもついて行けそうにないと感じた俺は、二人に代わって藤原の質問に
答えてみた。
「そんなの、切れて丈夫で良くしなって……あと、名匠が作り上げた物だろ」
「違うな」小馬鹿にするように笑った藤原は「切れない刀はなまくらだが、切れるだけの刀も不出来の刀だ。それにいくら名匠が作っ
たといっても、主人や刀匠に徒なすものも少なくない。村正の伝説などはその典型だ。それは最早名刀とは呼べない」
今度は脇差しを抜き、逆手に構え、腕を伸ばした。
「名刀かどうかを判断するのにこんな方法がある。小川に刀を刺し、上流から木の葉を流す。この時、『切れろ』と念じれば葉は真っ
二つになり、『切れるな』と念じれば切っ先が触れても切れずそのまま流れていく。つまり所有者と一心同体の動きをすることが名刀
たる証」
……で、何が言いたいんだ?
「つまり、だ……」ツカツカとへたり込む二人の元まで歩き、手にした脇差しの峰でチビデブの頭をコンッと軽く叩く。
「うひぃ……!」
瞬間、彼の着ていた服が紙吹雪ならぬ布吹雪となって辺り一面に舞っていった。
「いくら強固な鎧で身を包もうとも、いくら人質で身を守ろうとも、この名刀天叢雲の前には無力」
「ひ、ひひぃぃぃぃぃ……」
さらに切っ先を首に向けて、カチャリと鳴らした。今度は峰では無く、刀身。
「もう一度言う。失せろ。さもなくば死ぬぞ」
「…………っっっ、あれ? 何もなってねえ?」
「…………んあ? 本当……?」
二人は自分の体が繋がっていることを確認し、ぷはぁと大きく息を吐き、再びへたり込む。
「刀が名刀である証。どうやって証明するか分かるか?」
『???』
突然の話題に、二人はクエスチョンマークを点灯させた。とてもついて行けそうにないと感じた俺は、二人に代わって藤原の質問に
答えてみた。
「そんなの、切れて丈夫で良くしなって……あと、名匠が作り上げた物だろ」
「違うな」小馬鹿にするように笑った藤原は「切れない刀はなまくらだが、切れるだけの刀も不出来の刀だ。それにいくら名匠が作っ
たといっても、主人や刀匠に徒なすものも少なくない。村正の伝説などはその典型だ。それは最早名刀とは呼べない」
今度は脇差しを抜き、逆手に構え、腕を伸ばした。
「名刀かどうかを判断するのにこんな方法がある。小川に刀を刺し、上流から木の葉を流す。この時、『切れろ』と念じれば葉は真っ
二つになり、『切れるな』と念じれば切っ先が触れても切れずそのまま流れていく。つまり所有者と一心同体の動きをすることが名刀
たる証」
……で、何が言いたいんだ?
「つまり、だ……」ツカツカとへたり込む二人の元まで歩き、手にした脇差しの峰でチビデブの頭をコンッと軽く叩く。
「うひぃ……!」
瞬間、彼の着ていた服が紙吹雪ならぬ布吹雪となって辺り一面に舞っていった。
「いくら強固な鎧で身を包もうとも、いくら人質で身を守ろうとも、この名刀天叢雲の前には無力」
「ひ、ひひぃぃぃぃぃ……」
さらに切っ先を首に向けて、カチャリと鳴らした。今度は峰では無く、刀身。
「もう一度言う。失せろ。さもなくば死ぬぞ」
「う、うわ、うわあああああああ!!!!!」
一糸纏わぬ姿で一目散に駆け出すチビデブ。仲間の事など歯牙にもかけることもなく。
……ま、悪人の末路などあんなものだな。
一糸纏わぬ姿で一目散に駆け出すチビデブ。仲間の事など歯牙にもかけることもなく。
……ま、悪人の末路などあんなものだな。
ようやく全てが終わり、俺はやれやれと溜息をつき、藤原は脇差しを鞘に収めた。
「大丈夫か?」
「ああ、あの……ありがとう。強いのね」
「……ふん、お前があまりにも不甲斐ないのでな。こんな事ではこれから先が思いやられる」
お、微妙に照れてやがる。横に顔を向けても赤くなってるのが丸わかりだ。さすが元祖ツンデレ。
「……って、これから先ってまさかお前もついてくるのか!?」
「甚だ遺憾だが、これも既定事項だ。お前達の仲間となり、目的を達成しなければならないんだ。言っておくが勘違いするな。こちら
はこちらの任務を遂行するだけだ。馴れ合いをする気はさらさら無いからな」
ったく、素直に『宜しく頼むぜ』位言えばこっちも『期待してる』とかいうのに……
「そうかい、それで結局これからどこに行くんだ?」
俺の問いに、それまで酒場のオブジェと化していた九曜がようやく動いた。
「――――この先……南の――――島――――そこに……賢者の石の…………波動が――感じられる――――」
手にした杖を掲げると、はめ込まれた水晶が蒼く輝いた。色からして『水』の力だろう。
「わかりました。では行きましょ。今回ちょっと情けなかったから、次こそは頑張るのです。人間相手に弓矢を振るうのは気が引ける
けど、モンスターなら全く問題ないわ」
だといいけどな。
「何よ。あなたも見たでしょ。あたしがゴブリンをやっつけたの!」
ぷくっとふくれた顔で怒る橘。まあ……見たことは見たが……
「でしょ? あたしだって役に立つのです。さあ早速行きましょう!」
待て、南の島に渡るには船か何かが必要だろう。まずはそれを用意しないと。
「大丈夫よ。九曜さんの魔法でパーンとあそこまでひとっ飛び!」
「――それ…………無理……」
「え゛?」
「――――魔法障壁が――結界が……張ってある…………」
だそうだ。と言うことはやっぱり船をチャーターするしかないか。
「この町で船を貸してくれそうな人を探すしかないな、まずは」
「そうですか……しゅん」
なぜこんなに悲しいそうな表情をするのだろうかね。
「……うん、できないのなら仕方ありませんね。こうなったらあちこちかけずり回って船をさっさと手配しましょ」
立ち直るのも早い奴ではある。
「大丈夫か?」
「ああ、あの……ありがとう。強いのね」
「……ふん、お前があまりにも不甲斐ないのでな。こんな事ではこれから先が思いやられる」
お、微妙に照れてやがる。横に顔を向けても赤くなってるのが丸わかりだ。さすが元祖ツンデレ。
「……って、これから先ってまさかお前もついてくるのか!?」
「甚だ遺憾だが、これも既定事項だ。お前達の仲間となり、目的を達成しなければならないんだ。言っておくが勘違いするな。こちら
はこちらの任務を遂行するだけだ。馴れ合いをする気はさらさら無いからな」
ったく、素直に『宜しく頼むぜ』位言えばこっちも『期待してる』とかいうのに……
「そうかい、それで結局これからどこに行くんだ?」
俺の問いに、それまで酒場のオブジェと化していた九曜がようやく動いた。
「――――この先……南の――――島――――そこに……賢者の石の…………波動が――感じられる――――」
手にした杖を掲げると、はめ込まれた水晶が蒼く輝いた。色からして『水』の力だろう。
「わかりました。では行きましょ。今回ちょっと情けなかったから、次こそは頑張るのです。人間相手に弓矢を振るうのは気が引ける
けど、モンスターなら全く問題ないわ」
だといいけどな。
「何よ。あなたも見たでしょ。あたしがゴブリンをやっつけたの!」
ぷくっとふくれた顔で怒る橘。まあ……見たことは見たが……
「でしょ? あたしだって役に立つのです。さあ早速行きましょう!」
待て、南の島に渡るには船か何かが必要だろう。まずはそれを用意しないと。
「大丈夫よ。九曜さんの魔法でパーンとあそこまでひとっ飛び!」
「――それ…………無理……」
「え゛?」
「――――魔法障壁が――結界が……張ってある…………」
だそうだ。と言うことはやっぱり船をチャーターするしかないか。
「この町で船を貸してくれそうな人を探すしかないな、まずは」
「そうですか……しゅん」
なぜこんなに悲しいそうな表情をするのだろうかね。
「……うん、できないのなら仕方ありませんね。こうなったらあちこちかけずり回って船をさっさと手配しましょ」
立ち直るのも早い奴ではある。
「ところで橘、さっき藤原に斬られたのに、お前は何もなってないのか?」
ふと思った疑問を投げつけた。藤原が言ったことが本当なのか確かめるためだ。橘は自分の衣服を見渡し、つんつんと触ったり引っ
張ったりして異常が無いことを確かめた後、「んー。そうみたいですね」と言った。
「当たり前だ。僕の腕と天叢雲が、そんな初歩的なミスをするわけがない」
だと良いんだがな。「ところでどこで手に入れたんだ? かなりの一品みたいだが、そんなものがゴロゴロ転がっているとは思えな
いし、縦しんば売られていたとしてもバカ高いだろ」
「ならば教えてやろう。これは僕が立ち寄ったある村の小高い丘に深々と突き刺さっていたのだ。村人曰く、これが抜けるのは真の勇
者のみとされており、ならば僕も挑戦してみようじゃないかとやってみたんだ。参加料を払ってな」
さ、参加料……? それって単なる阿漕な商売じゃ……
「そ、それで抜けたと?」
「ああ」
「因みに村の人、顔が引きつってなかったか……?」
「全くその通りだ。もっと喜んでくれると思っていたのだが、汗を垂らして悲痛な趣を見せていた」
「多分、その刀偽物のような気がする……」
「はっ、そんなわけなかろう」
「なら試してみる。おい橘、こっちに来い」
橘を近くに呼んで俺は剣を抜いた。
「じっとしてろよ」
そして、藤原がそうしたように俺も剣の柄でコツンと軽く小突いてみた。
ふと思った疑問を投げつけた。藤原が言ったことが本当なのか確かめるためだ。橘は自分の衣服を見渡し、つんつんと触ったり引っ
張ったりして異常が無いことを確かめた後、「んー。そうみたいですね」と言った。
「当たり前だ。僕の腕と天叢雲が、そんな初歩的なミスをするわけがない」
だと良いんだがな。「ところでどこで手に入れたんだ? かなりの一品みたいだが、そんなものがゴロゴロ転がっているとは思えな
いし、縦しんば売られていたとしてもバカ高いだろ」
「ならば教えてやろう。これは僕が立ち寄ったある村の小高い丘に深々と突き刺さっていたのだ。村人曰く、これが抜けるのは真の勇
者のみとされており、ならば僕も挑戦してみようじゃないかとやってみたんだ。参加料を払ってな」
さ、参加料……? それって単なる阿漕な商売じゃ……
「そ、それで抜けたと?」
「ああ」
「因みに村の人、顔が引きつってなかったか……?」
「全くその通りだ。もっと喜んでくれると思っていたのだが、汗を垂らして悲痛な趣を見せていた」
「多分、その刀偽物のような気がする……」
「はっ、そんなわけなかろう」
「なら試してみる。おい橘、こっちに来い」
橘を近くに呼んで俺は剣を抜いた。
「じっとしてろよ」
そして、藤原がそうしたように俺も剣の柄でコツンと軽く小突いてみた。
「へ……? キャアァァァァァァ!!!」
……果たして俺の予想通り、橘が来ていた貫頭衣は細かく分断され、辺りを綺麗にはためかせた。
「いやぁぁぁ! なんであたしこんな役回りばっかなのよぉぉ!!!」
キャーキャー叫びながら再三にわたって服をボロボロにされた橘を横目で見つつ、
「藤原、お前もちょっとおかしいと思わなかったのか?」
「……ふん、禁則だ」
目が泳いでいるぞ。こら。
……果たして俺の予想通り、橘が来ていた貫頭衣は細かく分断され、辺りを綺麗にはためかせた。
「いやぁぁぁ! なんであたしこんな役回りばっかなのよぉぉ!!!」
キャーキャー叫びながら再三にわたって服をボロボロにされた橘を横目で見つつ、
「藤原、お前もちょっとおかしいと思わなかったのか?」
「……ふん、禁則だ」
目が泳いでいるぞ。こら。
――次回予告――
こうして、五行の力を求め、悪の大魔王を倒す四人の選ばれし者(?)がそろった。
まず一人。剣と、そして何故かは知らないが魔法を駆使する勇者こと、不肖俺。
二人目。魔法のエキスパートながら、実は格闘技の方が得意という異色の占い師、周防九曜。
三人目。妖刀天叢雲(贋作?)を使いこなす異国のサムライ、ポンジー藤原。
最後。弓矢の精度はイマイチ。頭の中はドンヨリ。その分お色気担当で挽回するわ! 橘京子。
二人目。魔法のエキスパートながら、実は格闘技の方が得意という異色の占い師、周防九曜。
三人目。妖刀天叢雲(贋作?)を使いこなす異国のサムライ、ポンジー藤原。
最後。弓矢の精度はイマイチ。頭の中はドンヨリ。その分お色気担当で挽回するわ! 橘京子。
果たして、この面子で残りの五行の力を借り、悪の大魔王を倒すことが出来るのだろうか――?
「ちょっと! なんであたしがお色気担当なのよ!」
……それは作者の趣向だから仕方ない。
「何であんな野郎のためにあたしがボコスカ肌を露出しないといけないのよ!訴えてやるわ!」
それは構わんが、お前が嫌と言ったところで九曜が代わりにやるだけだぞ。あいつなら喜んで任務を全うするだろうし。
そうすると橘京子の出番はさらに無くなるが、それでもいいのか?
「うう……人の弱みにつけ込んで……妄想フェチ変態野郎……」
……否定はしない。
……それは作者の趣向だから仕方ない。
「何であんな野郎のためにあたしがボコスカ肌を露出しないといけないのよ!訴えてやるわ!」
それは構わんが、お前が嫌と言ったところで九曜が代わりにやるだけだぞ。あいつなら喜んで任務を全うするだろうし。
そうすると橘京子の出番はさらに無くなるが、それでもいいのか?
「うう……人の弱みにつけ込んで……妄想フェチ変態野郎……」
……否定はしない。
ということで、橘さんがこれまで通り(?)お色気担当をしてくれるそうですので、安心して続きを掻きたいと思います。
ただ今のままだと可哀相なのでもう少し活躍させます。
次回、『大海原の死闘!』
橘京子の新たなる力が目覚め…………たらいいなぁ。
ただ今のままだと可哀相なのでもう少し活躍させます。
次回、『大海原の死闘!』
橘京子の新たなる力が目覚め…………たらいいなぁ。
続けたい。