六月も半ば、梅雨真っ只中ではあるが、その日だけは初夏のように爽やかだった。
俺は敵対組織の橘京子に呼び出されてSOS団御用達の喫茶店にいた。俺の頼んだコーヒーも『機関』の奢りらしく、何の心配も無く
飲めるっていうのはいいね。まぁ相手が橘っていうのはいろいろと危ない匂いがするが。
橘はストローから口を離すと、こう話を切り出す。
「キョンさん、あたし思うんです」
何をだ。佐々木が神という話ならもう聞き飽きたぞ。
「その話じゃないの。えーっと…… その……」
ちなみに今日の橘の服装は胸元の大きく開いたノースリーブで、こいつが前屈みになるたび少しばかり谷間が見える。普通に考えれば橘のサイズで
谷間が出来ることなど考えられないんだが、最近はブラも進化してるらしい。つけるだけで谷間ができるなんていうのもあるみたいだしな。
とかなんとか俺が冷静に橘の(主に胸の)観察をしていると、彼女はいつに無く真剣な表情で俺の目を見た。なんだ。まさか何か起きるってのか。
勘弁してくれ、俺は今現在不思議に巻き込まれたいとは思ってないぞ。
「えっと……あまりにも大きくて無駄なものよりも小さくて無駄の無いものの方がいいと思いませんか?」
……何を言い出すんだ唐突に。訳が解らん。
しかも主題をぼかした質問ってのにはトラウマがある。朝倉が俺に質問してきた時のことを思い出して背筋が寒くなった。あの時は確か
現状がジリ貧だとかなんとかだったっけ。じゃぁ今回はどういうことだ。
必死になって考える。俺はまだ死にたくは無い。大きくて無駄なものより小さくて無駄の無いもの……そんなものはこの世の中に山ほどある。
無駄に大きいレジャー施設や無駄に広い公園なんてどこの県にもあるだろう。だけど今はそういう話をしてる訳が無い。じゃぁ何の話だ。
「……悪い、その質問じゃよく解らん。もう少し解りやすく説明してくれないか?」
俺と橘の距離は朝倉の時よりも圧倒的に近い。宇宙的干渉が無いにしてもこの距離では逃げることは難しいだろう。だったら少しでも時間を稼いでいろいろ考えなきゃならん。
橘は俺の問いに「うー」だの「あー」だの唸ってから、
「じゃぁ……手に余るものと自分の手に収まるものだったら? 手に収まるものの方がいいと思わない?」
俺は敵対組織の橘京子に呼び出されてSOS団御用達の喫茶店にいた。俺の頼んだコーヒーも『機関』の奢りらしく、何の心配も無く
飲めるっていうのはいいね。まぁ相手が橘っていうのはいろいろと危ない匂いがするが。
橘はストローから口を離すと、こう話を切り出す。
「キョンさん、あたし思うんです」
何をだ。佐々木が神という話ならもう聞き飽きたぞ。
「その話じゃないの。えーっと…… その……」
ちなみに今日の橘の服装は胸元の大きく開いたノースリーブで、こいつが前屈みになるたび少しばかり谷間が見える。普通に考えれば橘のサイズで
谷間が出来ることなど考えられないんだが、最近はブラも進化してるらしい。つけるだけで谷間ができるなんていうのもあるみたいだしな。
とかなんとか俺が冷静に橘の(主に胸の)観察をしていると、彼女はいつに無く真剣な表情で俺の目を見た。なんだ。まさか何か起きるってのか。
勘弁してくれ、俺は今現在不思議に巻き込まれたいとは思ってないぞ。
「えっと……あまりにも大きくて無駄なものよりも小さくて無駄の無いものの方がいいと思いませんか?」
……何を言い出すんだ唐突に。訳が解らん。
しかも主題をぼかした質問ってのにはトラウマがある。朝倉が俺に質問してきた時のことを思い出して背筋が寒くなった。あの時は確か
現状がジリ貧だとかなんとかだったっけ。じゃぁ今回はどういうことだ。
必死になって考える。俺はまだ死にたくは無い。大きくて無駄なものより小さくて無駄の無いもの……そんなものはこの世の中に山ほどある。
無駄に大きいレジャー施設や無駄に広い公園なんてどこの県にもあるだろう。だけど今はそういう話をしてる訳が無い。じゃぁ何の話だ。
「……悪い、その質問じゃよく解らん。もう少し解りやすく説明してくれないか?」
俺と橘の距離は朝倉の時よりも圧倒的に近い。宇宙的干渉が無いにしてもこの距離では逃げることは難しいだろう。だったら少しでも時間を稼いでいろいろ考えなきゃならん。
橘は俺の問いに「うー」だの「あー」だの唸ってから、
「じゃぁ……手に余るものと自分の手に収まるものだったら? 手に収まるものの方がいいと思わない?」
笑顔でそう言った。だがその笑顔の裏では着々と俺を殺す準備をしてるかもしれない。これで急に「じゃぁ死んで」とか言われたら俺はどうすればいいんだ。
齢十六年、三度も殺されかける人間なんてそうはいないだろう。ついでに三度目の正直なんて言葉もある。これはマズイ。
橘は"大きいもの"と"小さいもの"を比べてて、その"小さいもの"を選ぶように言っているように聞こえる。俺としてはどっちでもいいんだが、
ここで橘の機嫌を損ねればどっかで待機してる『機関』のスナイパーに頭を撃ち抜かれるかもしれん。それだけは避けたい。
俺は生唾を飲み込むと、不自然に前屈みで上目遣いの橘に向かって、
「そう……だな。手に収まる無駄の無いものの方がいいな。うん、そりゃ。大きくったって邪魔なだけだと思うし」
言った。言ってしまった。間違ってたら即アウト、人生最大の選択かもしれない。ごめんなさいオトウサンオカアサン、息子はこんな喫茶店で脳漿撒き散らして死ぬかも――
思考の海の中、突然に手を取られた。顔を上げればそこには満面の笑みの橘京子。はい?
「そうですよね! そうよね!! 無駄に大きくて手に余るより小さくて手に収まるサイズの方がいいですよね! キョンさんならそう言ってくれると信じてたのです! よかったぁー。あ、佐々木さんにも連絡しなきゃ」
橘が大声を上げて喜びを撒き散らしながら小躍りし出した。何がこんなに嬉しいのだろうか。それに、佐々木? やっぱり今までの話の流れには佐々木が関係してたのか? つまり本当に俺の命はピンチだったかもしれないのか?
「――そうなのです! やっぱりキョンさんは小さいのの方が好みだって言ってました! あ、ちゃんとICレコーダーにも録音してあるから大丈夫っ。うん……はい、わかりましたぁ。ふふっ、それじゃ」
佐々木に電話したのだろうか。しかもICレコーダーって何さ。
「ICレコーダーは証拠品です。もうこれであなたの未来人とはさようならなのです」
なんだと!? やっぱりこいつら何かしてやがったのか。また朝比奈さんを誘拐でもしたのか!? 許さん!
だが橘は両手を振って否定のジェスチャーをすると、
「ち、違います! ていうか、あなたが自分で言ったんじゃないですか。おっきな胸より小さい方がいい、って……。あ、あなたの宇宙人……長門さんでしたっけ、彼女にも伝えておきますね」
「ふふっ」と微笑んでいるが、正直何を話しているのか解らない。俺が「大きい胸より小さい方がいい」なんていつ言った? それにどの辺りから胸の話になったんだ?
理解しかねている俺のポケットに入っていた携帯が突然鳴った。
齢十六年、三度も殺されかける人間なんてそうはいないだろう。ついでに三度目の正直なんて言葉もある。これはマズイ。
橘は"大きいもの"と"小さいもの"を比べてて、その"小さいもの"を選ぶように言っているように聞こえる。俺としてはどっちでもいいんだが、
ここで橘の機嫌を損ねればどっかで待機してる『機関』のスナイパーに頭を撃ち抜かれるかもしれん。それだけは避けたい。
俺は生唾を飲み込むと、不自然に前屈みで上目遣いの橘に向かって、
「そう……だな。手に収まる無駄の無いものの方がいいな。うん、そりゃ。大きくったって邪魔なだけだと思うし」
言った。言ってしまった。間違ってたら即アウト、人生最大の選択かもしれない。ごめんなさいオトウサンオカアサン、息子はこんな喫茶店で脳漿撒き散らして死ぬかも――
思考の海の中、突然に手を取られた。顔を上げればそこには満面の笑みの橘京子。はい?
「そうですよね! そうよね!! 無駄に大きくて手に余るより小さくて手に収まるサイズの方がいいですよね! キョンさんならそう言ってくれると信じてたのです! よかったぁー。あ、佐々木さんにも連絡しなきゃ」
橘が大声を上げて喜びを撒き散らしながら小躍りし出した。何がこんなに嬉しいのだろうか。それに、佐々木? やっぱり今までの話の流れには佐々木が関係してたのか? つまり本当に俺の命はピンチだったかもしれないのか?
「――そうなのです! やっぱりキョンさんは小さいのの方が好みだって言ってました! あ、ちゃんとICレコーダーにも録音してあるから大丈夫っ。うん……はい、わかりましたぁ。ふふっ、それじゃ」
佐々木に電話したのだろうか。しかもICレコーダーって何さ。
「ICレコーダーは証拠品です。もうこれであなたの未来人とはさようならなのです」
なんだと!? やっぱりこいつら何かしてやがったのか。また朝比奈さんを誘拐でもしたのか!? 許さん!
だが橘は両手を振って否定のジェスチャーをすると、
「ち、違います! ていうか、あなたが自分で言ったんじゃないですか。おっきな胸より小さい方がいい、って……。あ、あなたの宇宙人……長門さんでしたっけ、彼女にも伝えておきますね」
「ふふっ」と微笑んでいるが、正直何を話しているのか解らない。俺が「大きい胸より小さい方がいい」なんていつ言った? それにどの辺りから胸の話になったんだ?
理解しかねている俺のポケットに入っていた携帯が突然鳴った。
『ユニーク』
とっても終われ