「最悪」の向こう側 ◆sUD0pkyYlo
「今が最悪」と言える間は、まだ最悪ではない。
―― ウィリアム・シェイクスピア 「リア王」
とうに疲れきった身体に鞭打って、才賀勝は駆ける。
坂道を駆ける。脇目も振らずに駆け下りる。山小屋の方を振り返りもせずに、ただ駆ける。
(最悪だ――! なんで、こんなことに――!)
何度目になるかも分からぬその思いは、しかし荒い息に紛れて声にならない。ただ胸の内で繰り返す。
最初、与えられた3つの「強力な」支給品を確認した時にもそう思った。
ヴィータたちに襲われ、その支給品がバラ撒かれてしまった時にもそう思った。
それらの武器を一旦奪われてしまった時も。
気絶した彼女たちを山小屋まで運んで、そこで第二ラウンドが始まってしまった時も。
その度ごとに、「最悪だ」、と思った。前に思った時よりもなお悪い、これぞ本当の「最悪」だと思った。
けれど――
「はッ、はッ、はッ……ま、待ってっ!」
炎の剣フランベルジュを右手に、ペットボトルを左手に、勝はひたすらに相手を追う。追いかけ続ける。
駆ける彼の姿が妙に身軽に見えるのは、その背中にランドセルが無いからだ。
彼の視線の遥か先には、逃げる人影。
日光江戸村にでもいそうな忍者服に身を包んだ、小柄な体躯の人物。
そしてその背には、揺れるランドセルが実に3つも――!
勝は駆ける。青い忍者を追って駆け続ける。
「高町なのはに、あんなこと、言ったのに……! 今、あれを逃がしたら……!」
坂道を駆ける。脇目も振らずに駆け下りる。山小屋の方を振り返りもせずに、ただ駆ける。
(最悪だ――! なんで、こんなことに――!)
何度目になるかも分からぬその思いは、しかし荒い息に紛れて声にならない。ただ胸の内で繰り返す。
最初、与えられた3つの「強力な」支給品を確認した時にもそう思った。
ヴィータたちに襲われ、その支給品がバラ撒かれてしまった時にもそう思った。
それらの武器を一旦奪われてしまった時も。
気絶した彼女たちを山小屋まで運んで、そこで第二ラウンドが始まってしまった時も。
その度ごとに、「最悪だ」、と思った。前に思った時よりもなお悪い、これぞ本当の「最悪」だと思った。
けれど――
「はッ、はッ、はッ……ま、待ってっ!」
炎の剣フランベルジュを右手に、ペットボトルを左手に、勝はひたすらに相手を追う。追いかけ続ける。
駆ける彼の姿が妙に身軽に見えるのは、その背中にランドセルが無いからだ。
彼の視線の遥か先には、逃げる人影。
日光江戸村にでもいそうな忍者服に身を包んだ、小柄な体躯の人物。
そしてその背には、揺れるランドセルが実に3つも――!
勝は駆ける。青い忍者を追って駆け続ける。
「高町なのはに、あんなこと、言ったのに……! 今、あれを逃がしたら……!」
恐怖に駆られて、摂津のきり丸は駆ける。
坂道を駆ける。草原を駆ける。広い道路を横断しながら、彼はチラリと後ろを振り返る。
(最悪だ――! なんで、こんなことに――!)
何度目になるかも分からぬその思いは、しかし荒い息に紛れて声にならない。ただ胸の内で繰り返す。
赤ん坊を抱えた少年に見つけられそうになった時にも、一瞬そう思った。
眼鏡の少年に泥棒扱いされた時にも、そう思った。
そしてその彼に逃げられてしまった時にも。山に入って、完全に見失ってしまったのだ、と気づいた時にも。
その度ごとに、「最悪だ」、と思った。前に思った時よりもなお悪い、これぞ本当の「最悪」だと思った。
けれど――
「はッ、はッ、はッ……か、勘弁! 勘弁してくれっ!」
3つのランドセルを担いだまま、きり丸はひたすら逃げる。逃げ続ける。
逃げる彼が妙に必死なのは、追っ手が見るからに凶悪な武器を振りかぶっているからだ。
振り返れば後方には、しつこく追ってくる人影。
これまでどんな修羅場を潜ってきたのか、全身に無数の生傷が刻まれた、上半身裸の人物。
そしてその手には、禍々しく捻じ曲がった刀身を備えた、燃える剣が――!
きり丸は駆ける。赤い剣から逃げて駆け続ける。
「いくらゼニもうけって言ったって、殺されたら元も子もねぇからな……!」
坂道を駆ける。草原を駆ける。広い道路を横断しながら、彼はチラリと後ろを振り返る。
(最悪だ――! なんで、こんなことに――!)
何度目になるかも分からぬその思いは、しかし荒い息に紛れて声にならない。ただ胸の内で繰り返す。
赤ん坊を抱えた少年に見つけられそうになった時にも、一瞬そう思った。
眼鏡の少年に泥棒扱いされた時にも、そう思った。
そしてその彼に逃げられてしまった時にも。山に入って、完全に見失ってしまったのだ、と気づいた時にも。
その度ごとに、「最悪だ」、と思った。前に思った時よりもなお悪い、これぞ本当の「最悪」だと思った。
けれど――
「はッ、はッ、はッ……か、勘弁! 勘弁してくれっ!」
3つのランドセルを担いだまま、きり丸はひたすら逃げる。逃げ続ける。
逃げる彼が妙に必死なのは、追っ手が見るからに凶悪な武器を振りかぶっているからだ。
振り返れば後方には、しつこく追ってくる人影。
これまでどんな修羅場を潜ってきたのか、全身に無数の生傷が刻まれた、上半身裸の人物。
そしてその手には、禍々しく捻じ曲がった刀身を備えた、燃える剣が――!
きり丸は駆ける。赤い剣から逃げて駆け続ける。
「いくらゼニもうけって言ったって、殺されたら元も子もねぇからな……!」
= = = = = = = =
きっかけは、僅かな不注意と大いなる不運だった。
「さて……そろそろ、行かないと……」
高町なのはに置き去りにされ、山道に迷い、疲れ果てて休憩を取っていた才賀勝。
並大抵の子供よりは体力のある彼だったが、流石に限界があった。
無理して進んでも身体が持たない。その判断自体は、そう間違ったものでも無かったのだろうが……。
不幸は、彼が再び歩き出そうと立ち上がった瞬間に訪れた。
「あッ……!?」
水の入ったペットボトルを、ランドセルに戻そうとして――疲れていた彼の腕は、うっかりそれを倒してしまった。
休憩していたその場所は、険しい山道の途中。1歩踏み外せば谷底に転げ落ちそうな斜面のすぐ側。
バランスを失ったランドセルは、すぐに斜面を転がっていく。とても人間が降りれない急斜面を転げ落ちていく。
「い……いけない!」
勝は慌てた。あのランドセルの中には、「ドラゴンころし」がある。あの凶悪な大剣が収まっている。
もし、あれが誰か邪悪な者の手に渡ったりしたら……! 考えるだけでも恐ろしい。
しかし彼には空は飛べず、この斜面を駆け下りて無事でいられるような能力もない。
慌てて手元にあったフランベルジュと、飲みかけの水の入ったペットボトルを手に、山道を駆け下り始めた。
岩の向こうに見えなくなったランドセルを追い、才賀勝は斜面を降りられる場所を探しながら、駆け始めた。
高町なのはに置き去りにされ、山道に迷い、疲れ果てて休憩を取っていた才賀勝。
並大抵の子供よりは体力のある彼だったが、流石に限界があった。
無理して進んでも身体が持たない。その判断自体は、そう間違ったものでも無かったのだろうが……。
不幸は、彼が再び歩き出そうと立ち上がった瞬間に訪れた。
「あッ……!?」
水の入ったペットボトルを、ランドセルに戻そうとして――疲れていた彼の腕は、うっかりそれを倒してしまった。
休憩していたその場所は、険しい山道の途中。1歩踏み外せば谷底に転げ落ちそうな斜面のすぐ側。
バランスを失ったランドセルは、すぐに斜面を転がっていく。とても人間が降りれない急斜面を転げ落ちていく。
「い……いけない!」
勝は慌てた。あのランドセルの中には、「ドラゴンころし」がある。あの凶悪な大剣が収まっている。
もし、あれが誰か邪悪な者の手に渡ったりしたら……! 考えるだけでも恐ろしい。
しかし彼には空は飛べず、この斜面を駆け下りて無事でいられるような能力もない。
慌てて手元にあったフランベルジュと、飲みかけの水の入ったペットボトルを手に、山道を駆け下り始めた。
岩の向こうに見えなくなったランドセルを追い、才賀勝は斜面を降りられる場所を探しながら、駆け始めた。
そして、数分後――才賀勝は、ランドセルを拾って一目散に逃げ出す、摂津のきり丸を目撃することになる。
きっかけは、僅かな幸運と大いなる不注意だった。
「もう追いつくのは無理かねぇ……」
野比のび太に逃げられ、山道で見失い、どちらに進むべきか迷っていた摂津のきり丸。
並の人間よりは追跡などの心得もある彼だったが、所詮は落第忍者だ。
無理して進んでも追いつけない。その判断自体は、そう間違ったものでも無かったのだろうが……。
幸運は、山脈地帯を越え、山を3分の2ほども下った頃に訪れた。
「おっ……?!」
何か物音がする、と斜面の上の方を見上げて――目ざとい彼の目は、それを見つけてしまった。
彼が歩いていたのは、枯れ沢の跡に出来た天然の道。険しい斜面が両側に切りたつ谷の底。
小石と共に転がり落ちてきたランドセルは、そして岩に引っ掛かって停止する。きり丸の目の前で停止する。
「こりゃ、儲けものだな」
きり丸はほくそえんだ。このランドセル、どう見ても参加者に渡された共通支給品だ。なら、何か入ってるはず。
もしかしたら、ゼニになるような高価な品物が入ってるかもしれない……! 考えただけでもワクワクする。
もちろんこれが落ちてきた経緯は気になったし、本来の持ち主のことも気になったが。
慌てて2つのランドセルを背負いなおすと、落ちてきた新たなランドセルに手を伸ばした。
野比のび太に逃げられ、山道で見失い、どちらに進むべきか迷っていた摂津のきり丸。
並の人間よりは追跡などの心得もある彼だったが、所詮は落第忍者だ。
無理して進んでも追いつけない。その判断自体は、そう間違ったものでも無かったのだろうが……。
幸運は、山脈地帯を越え、山を3分の2ほども下った頃に訪れた。
「おっ……?!」
何か物音がする、と斜面の上の方を見上げて――目ざとい彼の目は、それを見つけてしまった。
彼が歩いていたのは、枯れ沢の跡に出来た天然の道。険しい斜面が両側に切りたつ谷の底。
小石と共に転がり落ちてきたランドセルは、そして岩に引っ掛かって停止する。きり丸の目の前で停止する。
「こりゃ、儲けものだな」
きり丸はほくそえんだ。このランドセル、どう見ても参加者に渡された共通支給品だ。なら、何か入ってるはず。
もしかしたら、ゼニになるような高価な品物が入ってるかもしれない……! 考えただけでもワクワクする。
もちろんこれが落ちてきた経緯は気になったし、本来の持ち主のことも気になったが。
慌てて2つのランドセルを背負いなおすと、落ちてきた新たなランドセルに手を伸ばした。
そして、数十秒後――摂津のきり丸は、燃える剣を振りかざして追って来る、才賀勝を目撃することになる。
= = = = = = = =
才賀勝は、ランドセルを手に逃げていく摂津のきり丸を、支給品狙いのドロボウだと思った。
だから、ただ「ドラゴンころし」を誰にも渡したくない一心で、その「ドロボウ」を追いかけた。
だから、ただ「ドラゴンころし」を誰にも渡したくない一心で、その「ドロボウ」を追いかけた。
息はとっくに切れていた。疲れ切って休憩を余儀なくされて、一息入れただけでこの追跡劇である。
大声でドロボウに呼びかけようと思っても、掠れた声しか出ない。逃げる相手には届かない。
自分が手にした抜き身のフランベルジュが、どういう誤解を生んでいるのかも気付かない。
彼にできることは、ただ体力の続く限り、ドロボウを追うことだけだった。
大声でドロボウに呼びかけようと思っても、掠れた声しか出ない。逃げる相手には届かない。
自分が手にした抜き身のフランベルジュが、どういう誤解を生んでいるのかも気付かない。
彼にできることは、ただ体力の続く限り、ドロボウを追うことだけだった。
摂津のきり丸は、剣を手に自分を睨み、駆けて来る才賀勝を、殺し合いに乗った殺人者だと思った。
だから、ただ誰にも殺されたくない一心で、その「殺人者」から逃げた。
だから、ただ誰にも殺されたくない一心で、その「殺人者」から逃げた。
冷静さは一瞬にして吹き飛んでいた。慎重過ぎるほどに慎重に、他参加者との接触を避けてきた彼である。
武器を構えた人物に追いかけられては、ひとまず逃げることしか思いつかない。相手の呼びかけも聞こえない。
自分が手にしたランドセルが、相手に追われる理由になっていることにも思い至れない。
彼にできることは、ただ体力の続く限り、殺人者から逃げることだけだった。
武器を構えた人物に追いかけられては、ひとまず逃げることしか思いつかない。相手の呼びかけも聞こえない。
自分が手にしたランドセルが、相手に追われる理由になっていることにも思い至れない。
彼にできることは、ただ体力の続く限り、殺人者から逃げることだけだった。
2人はそのまま、焦燥と恐怖に駆られるままに、山を降り、平原を抜け、道路を渡り……
そのまま、黒く広がる森の中へと突入した。
そのまま、黒く広がる森の中へと突入した。
= = = = = = = =
「はぁ、はぁ……。どこに行っちゃったんだろ……」
森の中、才賀勝は荒い息をつきながら周囲を見回していた。
完全に見失ってしまっていた。全身を青色の服で覆った姿だったから、目立つだろうと思ったのに。
加えて、森に入ってすぐに、勝の体力は再度の限界に達してしまっていた。
もう、走れない。フランベルジュを地面に突き刺し、崩れ落ちるように木陰に腰を下ろす。
左手に握ったままだったペットボトルから、水をラッパ飲みして一息つく。
「そういえば……この剣のせいで、誤解されちゃったかな……?」
ようやくながらも気が付いた彼だったが、しかし後悔先に立たず。今さらどうしようもない。
思い出すのは、高町なのはのこと。ミニ八卦炉を彼女に預ける際に交わした会話のこと。
「あの子にあんなこと言ったのに、当の僕がドラゴンころしを奪われちゃうなんて……」
ドラゴンころしを悪用されることは、何としても避けねばならないが……さて、これからどうするか。
山小屋に残してきた仲間たちのことも気になる。戻らぬ勝のことを、彼女たちも心配しているかもしれない。
この先、森の中に逃げたドロボウを追うべきか。それとも、一旦山小屋に引き返すべきか。
まずは落ち着いて考えようか、と思った彼は、そしてふと、森の奥、断続的に聞こえてくる物音に気がついた。
よくよく見れば、森の木々の隙間を縫うように舞う2つの影が見える。そして、レーザーのような火線も。
「あれは……!?」
勝は思わず息を飲む。彼には、その人影の双方に見覚えがあった。
森の中、才賀勝は荒い息をつきながら周囲を見回していた。
完全に見失ってしまっていた。全身を青色の服で覆った姿だったから、目立つだろうと思ったのに。
加えて、森に入ってすぐに、勝の体力は再度の限界に達してしまっていた。
もう、走れない。フランベルジュを地面に突き刺し、崩れ落ちるように木陰に腰を下ろす。
左手に握ったままだったペットボトルから、水をラッパ飲みして一息つく。
「そういえば……この剣のせいで、誤解されちゃったかな……?」
ようやくながらも気が付いた彼だったが、しかし後悔先に立たず。今さらどうしようもない。
思い出すのは、高町なのはのこと。ミニ八卦炉を彼女に預ける際に交わした会話のこと。
「あの子にあんなこと言ったのに、当の僕がドラゴンころしを奪われちゃうなんて……」
ドラゴンころしを悪用されることは、何としても避けねばならないが……さて、これからどうするか。
山小屋に残してきた仲間たちのことも気になる。戻らぬ勝のことを、彼女たちも心配しているかもしれない。
この先、森の中に逃げたドロボウを追うべきか。それとも、一旦山小屋に引き返すべきか。
まずは落ち着いて考えようか、と思った彼は、そしてふと、森の奥、断続的に聞こえてくる物音に気がついた。
よくよく見れば、森の木々の隙間を縫うように舞う2つの影が見える。そして、レーザーのような火線も。
「あれは……!?」
勝は思わず息を飲む。彼には、その人影の双方に見覚えがあった。
「はぁ、はぁ……。上手く撒けたかね……」
森の中、摂津のきり丸は荒い息をつきながら背後を何度も振り返っていた。
どうやら相手はこちらを見失ったようだ。元々、忍者服は森の中での迷彩効果を狙ったものだ。
加えて、森に姿を隠してすぐ、90度進路を変えて走りもした。
もう、大丈夫だろう。3つのランドセルを地面に下ろし、安堵の溜息と共に木陰に腰を下ろす。
手に入れたばかりのランドセルの中身を確かめようとして、ふと思い至る。
「ひょっとして……あれって、コイツの持ち主? だとしたら……」
ようやくながらも気が付いた彼だったが、しかし後悔先に立たず。今さらどうしようもない。
思い出すのは、野比のび太のこと。2つめのランドセルを手に入れた時のこと。
「商売のきっかけ掴むつもりが、また泥棒扱いか……まいったね」
商売の妨げになる悪評を広げられることは、何としても避けねばならないが……さて、これからどうするか。
未だ出会えぬ落第忍者仲間のことも気になる。彼らは無事だろうか。まさか死んではいないと思うけど。
この先、ドロボウ疑惑を晴らすことを最優先すべきか。それとも、仲間探しに方針転換するか。
まずは落ち着いて考えようか、と思った彼は、そしてふと、森の奥、断続的に聞こえてくる物音に気がついた。
よくよく見れば、森の木々の隙間を縫うように舞う2つの影が見える。そして、レーザーのような火線も。
「あれは……!?」
きり丸は思わず息を飲む。彼にも、少なくともその片方には見覚えがあった。
森の中、摂津のきり丸は荒い息をつきながら背後を何度も振り返っていた。
どうやら相手はこちらを見失ったようだ。元々、忍者服は森の中での迷彩効果を狙ったものだ。
加えて、森に姿を隠してすぐ、90度進路を変えて走りもした。
もう、大丈夫だろう。3つのランドセルを地面に下ろし、安堵の溜息と共に木陰に腰を下ろす。
手に入れたばかりのランドセルの中身を確かめようとして、ふと思い至る。
「ひょっとして……あれって、コイツの持ち主? だとしたら……」
ようやくながらも気が付いた彼だったが、しかし後悔先に立たず。今さらどうしようもない。
思い出すのは、野比のび太のこと。2つめのランドセルを手に入れた時のこと。
「商売のきっかけ掴むつもりが、また泥棒扱いか……まいったね」
商売の妨げになる悪評を広げられることは、何としても避けねばならないが……さて、これからどうするか。
未だ出会えぬ落第忍者仲間のことも気になる。彼らは無事だろうか。まさか死んではいないと思うけど。
この先、ドロボウ疑惑を晴らすことを最優先すべきか。それとも、仲間探しに方針転換するか。
まずは落ち着いて考えようか、と思った彼は、そしてふと、森の奥、断続的に聞こえてくる物音に気がついた。
よくよく見れば、森の木々の隙間を縫うように舞う2つの影が見える。そして、レーザーのような火線も。
「あれは……!?」
きり丸は思わず息を飲む。彼にも、少なくともその片方には見覚えがあった。
そう、2人の居る位置は、距離は離れていても地図の上では共にA-4。北西部に広がる森の、南西の端近く。
時刻は夕刻、陽も傾き始めた頃合。
必死の追いかけっこを演じていた2人は、知らぬ間に、激しい戦闘へと近づいていたのだった。
この島でも有数の実力を持つであろう、恐るべき2人の少女の戦いに。
時刻は夕刻、陽も傾き始めた頃合。
必死の追いかけっこを演じていた2人は、知らぬ間に、激しい戦闘へと近づいていたのだった。
この島でも有数の実力を持つであろう、恐るべき2人の少女の戦いに。
= = = = = = = =
「なんで、あの子がこんな所で……!」
遠くで繰り広げられている戦いに、才賀勝は思わず呻き声を上げた。
足から翼を広げ、ビームと光球を放っている少女は、間違いない、高町なのはだ。
なんで彼女がこんな所に居るのか。山小屋のみんなの所に戻っているのではなかったか。
そして、そのなのはが戦っている敵は、あのリリスだ。ニケたちが戦ったとは聞いていたが、まだこんな所に!?
状況が良く掴めない中、それでも勝は必死に頭を巡らせる。
「加勢するべきかな……でも、この剣だけじゃ……!」
経緯がどうあれ、リリスが彼らにとっての敵であることは間違いない。
できればなのはと共闘したいところだが、しかし今の彼の手元にあるのはフランベルジュ1本きり。
これでは、あの高速空中戦闘には手が出せない。下手すれば、今は優勢な彼女の足を引っ張ることになる。
勝は、心を決める。
「もうちょっとだけ、様子を見よう……。もしもあの子がピンチになったら、その時は……!」
そして――その判断こそが、彼の運命を決めた。
遠くで繰り広げられている戦いに、才賀勝は思わず呻き声を上げた。
足から翼を広げ、ビームと光球を放っている少女は、間違いない、高町なのはだ。
なんで彼女がこんな所に居るのか。山小屋のみんなの所に戻っているのではなかったか。
そして、そのなのはが戦っている敵は、あのリリスだ。ニケたちが戦ったとは聞いていたが、まだこんな所に!?
状況が良く掴めない中、それでも勝は必死に頭を巡らせる。
「加勢するべきかな……でも、この剣だけじゃ……!」
経緯がどうあれ、リリスが彼らにとっての敵であることは間違いない。
できればなのはと共闘したいところだが、しかし今の彼の手元にあるのはフランベルジュ1本きり。
これでは、あの高速空中戦闘には手が出せない。下手すれば、今は優勢な彼女の足を引っ張ることになる。
勝は、心を決める。
「もうちょっとだけ、様子を見よう……。もしもあの子がピンチになったら、その時は……!」
そして――その判断こそが、彼の運命を決めた。
「なんで、あいつがこんな所に……!」
遠くで繰り広げられている戦いに、摂津のきり丸は思わず呻き声を上げた。
きり丸には、足から翼を広げ、ビームと光球を放っている少女の方には面識がない。
しかし、蝙蝠の翼を持ち、果敢に接近戦を挑む少女は知っている。最初の広間に居たジェダの部下・リリスだ。
なんで彼女がこんな所に居るのか。ジェダの所に居るのではなかったのか。
状況が全く掴めない中、それでもきり丸は必死に頭を巡らせる。
「今は高みの見物かね……巻き込まれないようにしないと……!」
経緯がどうあれ、あの激しい戦いに首を突っ込むのは賢明とは言えない。
さりとて、ただ尻尾巻いて逃げるのは勿体無い。戦国の常として、戦場跡にはお宝が転がっているものなのだ。
どっちが勝ったとしても、あるいは共倒れになったとしても、きっと何か利益を生み出せるチャンスがある。
きり丸は、心を決める。
「もうちょっと、様子を見るか……。ケリがついたら、その時は……!」
そして――その判断こそが、彼の運命を決めた。
遠くで繰り広げられている戦いに、摂津のきり丸は思わず呻き声を上げた。
きり丸には、足から翼を広げ、ビームと光球を放っている少女の方には面識がない。
しかし、蝙蝠の翼を持ち、果敢に接近戦を挑む少女は知っている。最初の広間に居たジェダの部下・リリスだ。
なんで彼女がこんな所に居るのか。ジェダの所に居るのではなかったのか。
状況が全く掴めない中、それでもきり丸は必死に頭を巡らせる。
「今は高みの見物かね……巻き込まれないようにしないと……!」
経緯がどうあれ、あの激しい戦いに首を突っ込むのは賢明とは言えない。
さりとて、ただ尻尾巻いて逃げるのは勿体無い。戦国の常として、戦場跡にはお宝が転がっているものなのだ。
どっちが勝ったとしても、あるいは共倒れになったとしても、きっと何か利益を生み出せるチャンスがある。
きり丸は、心を決める。
「もうちょっと、様子を見るか……。ケリがついたら、その時は……!」
そして――その判断こそが、彼の運命を決めた。
= = = = = = = =
「えーいっ!!」
リリスの叫びと共に、木々が吹き飛ぶ。メリーターンで森を破壊しての、派手な目晦まし。
――リリスは気付いていない。森の中に2人の少年が潜んでいることに、気付かない。
リリスの叫びと共に、木々が吹き飛ぶ。メリーターンで森を破壊しての、派手な目晦まし。
――リリスは気付いていない。森の中に2人の少年が潜んでいることに、気付かない。
「やったよ、グリーン! あたしちゃんとできた!」
舞い上がる粉塵の中、リリスが抱え上げた1匹の豚が、彼女を褒めるように鼻を鳴らす。
――グリーンも気付いていない。森の中に2人の少年が潜んでいたことに、気付かない。
舞い上がる粉塵の中、リリスが抱え上げた1匹の豚が、彼女を褒めるように鼻を鳴らす。
――グリーンも気付いていない。森の中に2人の少年が潜んでいたことに、気付かない。
「全力、全開ッ!」
森の中、高町なのはの高らかな宣言が響く。眩い光の魔法陣が、彼女の真剣な表情を照らす。
――なのはもとうとう気が付かない。森の中に2人の少年が潜んでいたことに、気付かない。
森の中、高町なのはの高らかな宣言が響く。眩い光の魔法陣が、彼女の真剣な表情を照らす。
――なのはもとうとう気が付かない。森の中に2人の少年が潜んでいたことに、気付かない。
「『魔砲』!」
それでも、それがそのまま放たれていたとしたら。なのはの狙い通り、リリスとグリーンを飲み込んでいたら。
その「気付かれざるギャラリー」たちには、何の影響も無かったはずなのに。
それでも、それがそのまま放たれていたとしたら。なのはの狙い通り、リリスとグリーンを飲み込んでいたら。
その「気付かれざるギャラリー」たちには、何の影響も無かったはずなのに。
「―――― フ ァ イ ナ ル ・ スパァァァァァァァァァァクッ ! ! 」
光は放たれ、そして――
光は放たれ、そして――
= = = = = = = =
「なのはちゃ――!」
その時、才賀勝は、彼女の所に近づこうとした。
派手に吹き飛ばされた木々、そして途絶えたレーザーの光。
勝の居た位置からは、何かなのはの側に不利なことが起こったと思えても不思議ではなかった。
しかし。
彼が何かをするより先に、極大の閃光は放たれ。
タイミング悪く瞬間転移してきた人影が、楔のようにその流れを変えて。
2つに分かれた光の奔流の片方が、逃げる間もなく、勝の方に飛んできて――
(――君はそのミニ八卦炉を何に使うつもりなんだい?)
最期の瞬間、彼の頭を過ぎったのは、かつて彼が口にした問い。
「最悪だ」、と呟く間も無かった。
その時、才賀勝は、彼女の所に近づこうとした。
派手に吹き飛ばされた木々、そして途絶えたレーザーの光。
勝の居た位置からは、何かなのはの側に不利なことが起こったと思えても不思議ではなかった。
しかし。
彼が何かをするより先に、極大の閃光は放たれ。
タイミング悪く瞬間転移してきた人影が、楔のようにその流れを変えて。
2つに分かれた光の奔流の片方が、逃げる間もなく、勝の方に飛んできて――
(――君はそのミニ八卦炉を何に使うつもりなんだい?)
最期の瞬間、彼の頭を過ぎったのは、かつて彼が口にした問い。
「最悪だ」、と呟く間も無かった。
「なんだありゃ――!?」
その時、摂津のきり丸は、その場から遠ざかろうとした。
派手に吹き飛ばされた木々、そして一瞬にして変わった空気。
きり丸の居た位置からは、それ以上のことは分からない。分からないままに、直感的に逃げようとした。
しかし。
彼が何かをするより先に、極太の閃光は放たれ。
タイミング悪く瞬間転移してきた人影が、楔のようにその流れを変えて。
2つに分かれた光の奔流の片方が、逃げる間もなく、きり丸の方に飛んできて――
(――命あってのゼニ稼ぎ、だよなぁ……)
最期の瞬間、彼の頭を過ぎったのは、彼がこの島で最初に思った真理。
「最悪だ」、と呟く間も無かった。
その時、摂津のきり丸は、その場から遠ざかろうとした。
派手に吹き飛ばされた木々、そして一瞬にして変わった空気。
きり丸の居た位置からは、それ以上のことは分からない。分からないままに、直感的に逃げようとした。
しかし。
彼が何かをするより先に、極太の閃光は放たれ。
タイミング悪く瞬間転移してきた人影が、楔のようにその流れを変えて。
2つに分かれた光の奔流の片方が、逃げる間もなく、きり丸の方に飛んできて――
(――命あってのゼニ稼ぎ、だよなぁ……)
最期の瞬間、彼の頭を過ぎったのは、彼がこの島で最初に思った真理。
「最悪だ」、と呟く間も無かった。
つまり――偶然、あるいは運命というのは、時に信じられないような悪意ある配置を成すものなのだろう。
八神はやてがヘルメスドライブを使ったタイミングも悪ければ、出てきた場所も悪かった。
そして、才賀勝と摂津のきり丸が潜んでいた、その位置も。
はやてとアリサが出現したポイントで、Yの字に切り裂かれた『ファイナルスパーク』の光の帯。
その、南東に向かった進路上に、ちょうど才賀勝が。
その、南西に向かった進路上に、ちょうど摂津のきり丸が。
まるで測ったように、鏡に映したように。左右対称の位置に、それぞれ存在したのだった。
それがどれだけ僅かな確率だったとしても――そうなってしまった以上、2人とも、助かるわけがない。
八神はやてがヘルメスドライブを使ったタイミングも悪ければ、出てきた場所も悪かった。
そして、才賀勝と摂津のきり丸が潜んでいた、その位置も。
はやてとアリサが出現したポイントで、Yの字に切り裂かれた『ファイナルスパーク』の光の帯。
その、南東に向かった進路上に、ちょうど才賀勝が。
その、南西に向かった進路上に、ちょうど摂津のきり丸が。
まるで測ったように、鏡に映したように。左右対称の位置に、それぞれ存在したのだった。
それがどれだけ僅かな確率だったとしても――そうなってしまった以上、2人とも、助かるわけがない。
才賀勝は、右腕だけを残して。
右腕と、右手に握っていたフランベルジュだけを残して。
右腕と、右手に握っていたフランベルジュだけを残して。
摂津のきり丸は、左腕だけを残して。
左腕と、近くの地面に投げ出していた3つのランドセルだけを残して。
左腕と、近くの地面に投げ出していた3つのランドセルだけを残して。
それぞれ、塵も残さず、消えうせた。
= = = = = = = =
……この時点では、まだ高町なのはは知らない。
アリサ・バニングスも知らない。カレイドステッキに宿る人工精霊マジカルルビーも知らない。
グリーンも知らない、リリスも知らない。現場近くに居た者は、誰も状況を正確に把握していない。
唯一、リアルタイムで2人の少年の死を把握していた存在。それは、参加者ではなく――
アリサ・バニングスも知らない。カレイドステッキに宿る人工精霊マジカルルビーも知らない。
グリーンも知らない、リリスも知らない。現場近くに居た者は、誰も状況を正確に把握していない。
唯一、リアルタイムで2人の少年の死を把握していた存在。それは、参加者ではなく――
「……マタ、『ゴホウビ』、カ?」
どことも知れぬ薄暗がりの中、その「少女」は小さく呟いた。
いや、少女という表現は適当ではないだろう。その外見は一種の擬態に過ぎない。
魔界に棲む魔性の怪蟲・QBは、小さく触角を揺らす。
どことも知れぬ薄暗がりの中、その「少女」は小さく呟いた。
いや、少女という表現は適当ではないだろう。その外見は一種の擬態に過ぎない。
魔界に棲む魔性の怪蟲・QBは、小さく触角を揺らす。
これで、先ほど「ご褒美」を届けた相手が、さほどの間も置かずに、再びその権利を手にしたことになる。
普通の感性を持つ人間なら、驚いたり呆れたり怖れたりするところだろう。
けれどもQBの表情は変わらない。その精神にも動揺は無い。
低い知性しか持たぬQBには、そんな高度な精神の働きは発生しない。
彼女が考えるのは、自分に課された義務のことのみ。
「……ヨバナイ……。コノママナラ……ホウソウ、ノ、アト……」
どうやら、「ご褒美」の権利保持者は、QBのことをすぐに呼ぶつもりは無いらしい。
権利者自身が気付いてないのだから当然ではあるのだが、QBにはそこまで考えが及ばない。
QBは、ジェダの指示を思い出す。
もしもご褒美を望む声が上がったら、すぐに準備をして届けに行く。
そして、定期放送までの間に要請が無ければ……。
QBはどことも知れぬ薄暗がりの中、ただ時を待つ。
己の出番を、待ち続ける――――
普通の感性を持つ人間なら、驚いたり呆れたり怖れたりするところだろう。
けれどもQBの表情は変わらない。その精神にも動揺は無い。
低い知性しか持たぬQBには、そんな高度な精神の働きは発生しない。
彼女が考えるのは、自分に課された義務のことのみ。
「……ヨバナイ……。コノママナラ……ホウソウ、ノ、アト……」
どうやら、「ご褒美」の権利保持者は、QBのことをすぐに呼ぶつもりは無いらしい。
権利者自身が気付いてないのだから当然ではあるのだが、QBにはそこまで考えが及ばない。
QBは、ジェダの指示を思い出す。
もしもご褒美を望む声が上がったら、すぐに準備をして届けに行く。
そして、定期放送までの間に要請が無ければ……。
QBはどことも知れぬ薄暗がりの中、ただ時を待つ。
己の出番を、待ち続ける――――
1人を殺せば殺人者だが、百万人を殺せば英雄だ。
数が殺人を神聖化する。
数が殺人を神聖化する。
―― チャールズ・チャップリン 「殺人狂時代」
【摂津のきり丸@落第忍者乱太郎 死亡】
【才賀勝@からくりサーカス 死亡】
【才賀勝@からくりサーカス 死亡】
【備考】
A-4の森の中、はやてが死亡した地点から見て、
南西に方角にきり丸の、南東の方角に勝の死体(それぞれ腕だけ)が転がっています。
A-4の森の中、はやてが死亡した地点から見て、
南西に方角にきり丸の、南東の方角に勝の死体(それぞれ腕だけ)が転がっています。
きり丸は左腕を残して消滅しており、傍にランドセルが3つ残されています。
中身は以下の通り。
基本支給品×3(水と食料少々減)、魔晶石(15点分)、テーザー銃@ひぐらしのなく頃に、
ロボ子の着ぐるみ@ぱにぽに、林檎10個@DEATH NOTE、
勇気ある者の盾@ソードワールド、ドラゴンころし@ベルセルク
中身は以下の通り。
基本支給品×3(水と食料少々減)、魔晶石(15点分)、テーザー銃@ひぐらしのなく頃に、
ロボ子の着ぐるみ@ぱにぽに、林檎10個@DEATH NOTE、
勇気ある者の盾@ソードワールド、ドラゴンころし@ベルセルク
勝は右腕を残して消滅しており、
残された右腕に フランヴェルジュ@テイルズオブシンフォニア を握ったままです。
残された右腕に フランヴェルジュ@テイルズオブシンフォニア を握ったままです。
【備考】
高町なのはに、再び3人抜きによる「ご褒美」の権利が発生しました。ただし、まだその自覚はありません。
高町なのはに、再び3人抜きによる「ご褒美」の権利が発生しました。ただし、まだその自覚はありません。
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