酒井昭伸氏・関連発言

Mixi


Mixi内「氷と炎の歌」コミュ内「乱鴉の饗宴」トピックにおいて、酒井昭伸氏本人と名乗るRetief氏の発言が数度あったので該当発言のみを収録。
確認は不可能ですが、レスが翻訳者本人でしか知り得ない内容なので本人と断定していいと思います。

26 2008年07月22日 21:51 Retief  翻訳者の酒井です。いろいろご迷惑をおかけします。

 名前変更の件、お怒りはごもっともです。
 ここ数カ月、表記を変更するかどうかは、それはもう、ほんとうに悩みました。
変えてしまえばお怒りになる方が続出するのは十二分に予想がつきましたから、
できることなら変えたくはなかった、というのが本心です。

 そもそも、定着している名前を変更するのは、常識で考えれば無謀もいいとこ
ろで、当初、固有名詞だけは変更しないつもりでした。昨年秋、1カ月半かけて
2000名以上の人名データベースを作ったのも、名前を既訳分のまま引き継ぐのが
最大の目的だったわけです。それなのに、なぜ変えたかというと……。

 やっぱり翻訳というのは、作者の意図をできるだけ忠実に伝えるのが第一の役
割だと思うんですよ。作者が「これはこう読む」といっている名前を、それとは
大きく異なる形で表記することには、作者の代理人である翻訳者として、どうし
ても抵抗があった……ということです。

 たとえば Brienne は、既訳では「ブリエンヌ」ですが、「ブライエニー」と
読むんだそうです。ずいぶん差があるでしょう? この落差をどうするのか。そ
知らぬ顔をしてそのままブリエンヌとするのか。この作者は、音の響きにものす
ごくこだわる人で、名前にはそうとう吟味したあとがうかがえるんですが、「ブ
ライエニー」には、この作者ならではの、独特の響きが感じられます。それを無
視してでも、定着した表記をとるべきなのか?

 もうひとつ、「ブリエンヌ」はフランス語読みですが、ウェスタロスにはどう
もフランス語の概念はなさそうで、英語読みが基本です。その世界観のなかでは、
フランス風に「ブリエンヌ」とする必然がない、という問題もありました。

 以上、作者自身の読み方、作者ならではの音の響き、世界観との整合性、この
3点がそろった時点で……それでも延々と迷いましたが……「ブライエニー」に
変えようと判断にたどりつきました。

 変更した名前については、一件一件にこうした事情があり、懊悩がありました。
だからといって許容していただけるとは思いませんが、せめて背景を知っておい
ていただければと思い、書きこみをさせていただくしだいです。


28 2008年07月23日 11:17 Retief >Castillaさん

 ごもっともです。
 しかし、そこのところは編集部判断ですので、わたしにはなんとも……。

29 2008年07月23日 11:22 Retief  その他の表記変更についても、かいつまんでご説明します。
 読むのも不愉快でしょうが、やはり説明責任はあると思いますので。

 ジェイミーの表記は、じつは見切り発車です。作者に確認している最中ですが、
まだ返事がきていません。前回は返事がくるまで2カ月かかりましたし、いまは
第5部の追いこみでしょうから、もっと時間がかかりそうです。いずれにしても、
作者の意向が確認できていないため、確実にこれは「ジェイミー」とはいいきれ
ないのがつらいところです。
 正直なところ、はじめのうちは訳者も抵抗があって、ジェイムのまま残す方向
で検討しました。が……結局、ジェイム説をとるべき理由が見つかりませんでし
た。

 Jaime は向こうの読者にも難読名のようで、ジェイム、ジェイミー、ハイミー、
ハイメイなど、諸説出ています。「ハイ」ミー等はヒスパニック系の読み方です。
あちらではそうめずらしくない名前のようで、作者の頭にはそれもあったかもし
れません。

 じっさい、中世アラゴンには、Jaime という王がいます。作者はわりと実在の
名前を引っぱってくる傾向があって、ナマのままの形で流用することもあれば、
Edward の w を d に変えて Eddard にするといったぐあいに、ちょっとひねる
場合もありますが、一から名前の系統を創りだすということはあまりやりません
(ターガリエン系は別)。作者自身がいうように、「このシリーズは純然たるフ
ァンタジーというより、多分に現実の歴史をベースにしたファンタジー」である
ことからも、これが元ネタである可能性はそれなりにあると思います。
 この Jaime 王の、日本で定着している読み方はハイメ。ウェスタロスでの発
音の原則にしたがって、これを英語式に読むとしたら……とくに「メ」という語
尾の特徴が英語でも伝わるように発音したら……「ジェイミー」になるのではな
いでしょうか。推測でしかありませんが。

 diff.さんは「ジェイミー」が可愛らしくなちゃったといっておられて、じっ
さい、字面だけを見るとそう感じますが、この末尾の「ミー」は、愛称的な語尾
ではなくて、元ネタが「ハイメ」であることを、英語式発音で伝えるためなので
はないかという気がしています。だからといって、印象が変わるわけではないで
しょうけれど。

 もっとも、ジェイミー説をとった最大の理由は、「向こうのオーディオ・ブッ
クでそう発音している」からです。
 もちろん、オーディオ・ブックがかならずしも正しいとはかぎりません。ただ、
第三部まではロイ・ドトリスという人が朗読しているんですが、このひとは作者
に読み方を確認していて、わりと作者の意図どおりの発音をしているそうです。
このドトリスが、「ジェイミー」と発音している。ゆえに、準オフィシャルなも
のと見なしたというわけです。

 なお、第四部からは、原文どおり、ジェイミーが「弟」、サーセイが「姉」と
なります。既訳のとおりに「兄」と「妹」とすると、もう話が成立しなくなっち
ゃうんですよ。じつは、こういう例がたくさんありまして……それもまた、既訳
を引き継げなかった理由の一端ではあります。


30 2008年07月23日 11:28 Retief  Daenerys デナーリスは、これもオーディオ・ブックのみでの確認。

 作者によれば、ターガリエン家の名前に多用される ae は、たいていの場合、
「エイ」と読むそうです。同じ綴りのものをバラバラに表記するのは、校閲上の
観点から抵抗がありますし、作者の意図からもはずれることになりますので、オ
ーディオ・ブックを参照しつつ、Aerys はエリス→エイリスへ、Baelor はベー
ラーからベイラーへと、表記の統一を行ないました。

 ただし、「たいていの場合」といっているように、これには例外があります。
たとえば作者は、Jaehaerys は「ジェヘアリーズ」と読むといっています。既訳
では「ジェフリース」。タイプミスが定着してしまったのか、これを「ジェフリ
ース」とはちょっと読めなくて、なんらかの補整が必要とは思っていましたが、
「ジェヘアリーズ」はまったくの予想外でした。

 この例においては、 ae =エイのルールが通用しません。どうも理屈が見えま
せんが、ターガリエンの場合、一定の文字の組みあわせにおいて(多分に作者の
気分かもしれません)、こういう特殊な読み方になるようです。
 この特殊例を、ドトリスは正しく「ジェヘアリーズ」と読んでいます。
 そして、Daenerys のことも「デナーリス」と読んでいます。最重要キャラで
すから、この読みを作者に確認していないことはないでしょう(推測ですが)。
そこから、作者の期待する読みは「デナーリス」であると判断したしだいです。
これは勘ですが、この発音にはわりと作者好みの響きを感じます。
31 2008年07月23日 11:48 Retief  ドーラン・ナイメロス・マーテルについては、ひとつにはオーディオ・ブック
に合わせたというのがありますが、綴りからも、そのほうが筋が通っているよう
に思えたからです。おそらく彼の親である先代当主は、「Dorne に冠たる者」、
「ドーンの象徴となる者」「ドーンの長」という意味でこの名をつけたのでしょ
う。
 そして、Dorne が「ドーン」であるのなら、Doran も「ドーラン」であるべき
ではないかと思うのです。

 なお、巻末の「用語解説」にも書きましたが、彼を【大公/プリンス】(プリ
ンスはルビ)としたのは、プリンス・オブ・ウェールズやモナコ公国の元首の意
味のプリンスだから。王子、公子の意味のプリンスではありません。『七王国の
玉座』文庫版でも【君主/プリンス】となっています。ただ、君主は国王の意味
ですので、一般的な訳語に合わせて「大公」としました。ドーンはいろいろな意
味で別格あつかいなので、問題ないと思っています。

「用語解説」では、これまで説明のなかったボイルド・レザーや、〈氷と炎〉世
界独自の武器の解釈、投影されている元ネタなどについて書いておきました。よ
かったら、そこだけでも見てやってください。


39 2008年07月24日 10:47 Retief 坂本市長さんのような反応も予想はしていましたが、じっさいに目のあたりに
すると、なかなかきついですね。われわれにとっては、こんなのは長文じゃない
んですが、長すぎますか?
 当初はサイトかブログでの情報発信も考えたんですが、もう新しいことができ
る齢ではありません。思いついた次善の策としてここを使わせてもらっています。
ここに書いておけば外に波及するという話も聞いたのですが、そうでもないの?
 早川のサイトは、早川の立場があるので、難しいでしょうね。当面、わたし個
人で批判の矢面に立つしかないです。
 2ちゃんは一般人のいけるところではないと聞いています。怖くて覗けません。
もしよかったら、このコミュへの書きこみを転載していただけませんか。mixiの
規約上まずければ、同じ内容をメールで送ります。
40 2008年07月24日 10:51 Retief  名前の表記変更に関してわたしが書いたことについては、たしかに、それは問
題点がちがうぞ、と思われる方も多いでしょう。「正しくはどうあるべきか」「
作者の意図がどうか」ではなくて、「慣れ親しんだ既訳の表記を継承してもらわ
なくては話がわからなくなる。作者の意図がどうあれ、すでにもう日本語として
形になっているんだから、既訳の読者のことを考えてくれ」ですよね。
 それはそうでしょう、苦楽をともにして一心同体となった、思いいれのあるキ
ャラクターたちです。その名前を途中で変えられたら、たまったもんじゃない。
もう読みたくなくなっちゃうでしょうね。

 じっさい、そのへんは、出版社が、そして後継の翻訳者がいちばん苦慮した部
分です。出版社にしてみれば、熱心な読者はだいじなお客ですし、翻訳者サイド
からいえば、物語を通じて苦楽をともにするという点で、ある意味、読者は戦友
みたいなもの。今回の結論を出すにあたっては、おそらく、みなさんよりもずっ
と深く考え、苦しみました。わたしにしても、それが免罪符になると思っている
わけではありませんが、そうとうに苦悩しています。ひところは毎日のように、
変えてはもどし、変えてはもどしのくりかえし……いったいどれだけ置換をくり
かえしたかわかりません。信じていただかなくてもけっこうですが、けっして結
論ありきなんかじゃなかったんですよ。これからはたぶん針のむしろの時期で、
訳者にはつらい日々がつづくことを覚悟していますが、校了するまでだって、そ
れなりに地獄のような日々だったわけです。
 それでは、最終的に、なぜ変えたのか?

 くりかえしになりますが、ひとつには、作者の想いをどうしても無下にできな
かったということがあります。みなさんは、既存の読者のことを第一に考えてく
れとおっしゃる。それはもっともです。
 しかし、立場上、わたしは作者のことも考えなければならないんですよ。第4
部の、いかにもマーティンらしい謝辞からも想像がつくと思いますが、作者だっ
て、それはもうたいへんな苦労をして、工夫を重ね、七転八倒し、妻の愛と友人
たちの助けにかろうじて支えられて、必死に物語世界を構築しているわけです。
その死にものぐるいの努力を、こちらサイドの事情で無視しちゃっていいものか。
懸命の工夫が翻訳に反映されていないと知ったら、マーティンだって泣いちゃい
ますよ。
 かといって、現状を考えれば、一方的に作者のほうを向くわけにもいかない。
日本の読者のことも考えなくちゃならない。あちらを立てればこちらが立たず。
まさに股裂き状態です。落としどころが非常にむずかしい。

 その均衡を破ったのは……原文は内容も世界観も整合している、ということで
した。翻って、既訳分はどうか?

Retief ここから、ちょっと危険な領域に踏みこまねばなりません。
「あとがき」にはあいまいな形で書きましたが、既訳分の世界観は、じつは原文
と離れたものになってしまっています。

 たとえば……ウェスタロスにはひときわ大きな研究者団体と宗教団体があって、
各城に代表を送りこんでいます。整理すると、こんなぐあいです。

  • the Order(既訳では教団)
 医学や実利面から城主やその一族をサポート。基本的に中世の大学がモデル

  • the Faith(既訳では基本的に訳語なし。稀に教団。付録も教団)
 七柱の神々を崇める宗教団体。精神面で城主やその一族をケア。基本的にカト
リックがモデル

  • この両団体は、表面上、対立関係にはなさそうだけれど、前者は「科学」、後
者は「宗教」の象徴であり、本質的に「水と油」の関係にある。

 以上の説明は、みなさんに見えている状況とはだいぶちがうのではないでしょ
うか?
 たとえば、the Order(教団)を宗教団体だと思っている方はいませんか?
 あるいは、上記二団体が母体を同じくすると思っている方はいませんか?
 もしそうだとしたら、そのへんが問題の大きな根っこのひとつです。

 とりあえず、裏づけのための参考資料を。

www.westeros.org/Citadel/
www.towerofthehand.com/
wikipedia も意外に信用できます。

 ついでに、この話と直接関係はありませんが、ファンの作った地図のURLを。
信用するのはまずいですが、読書の助けにはなります。

www.westeros.org/Citadel/Gallery/Entry/782/
icefire.d20.cz/public/agot/svet-bar.pdf
43 2008年07月24日 11:04 Retief  さて、まず the Order についてですが、この実態は怪力乱神をきらう学者の
団体であり、残念ながら、教団という性質のものではありません。第4部で出て
くる彼らの本拠地シタデルも、およそ宗教関係の場所には見えませんよね。これ
はやはり、大学でしょう。この場合、わたしはどうすればいいんでしょう? 旧
来の訳語を引き継ぐ? だけど、それをやると、なんだわけのわかんないものに
なっちゃいます。
 余談ですが、archmaester の arch は、archangel や archbishop の arch で、
「アーキ」ではなくて、「アーチ」と読みます。うしろにつくのが母音の場合は
「アーク」、子音の場合は「アーチ」。それから、鎖の環を「鍛造」するのは、
単位を「取得」するような意味。じっさいに鍛造しているわけではありません。
このあたりで、細かい「ずれ」も蓄積してきています。

 いっぽうの the Faith は、第1部から出てきていますが、既訳では基本的に
名前がついていません。一、二回、教団と訳されていましたが、これはたぶん、
一般名詞的なあつかい。付録では教団となっていて、the Order とまぎらわしく、
両者が同じものと錯覚させる一因となっていますが、じっさいにはまったく別の
組織です。第4部では頻出しますから、まず、この組織に名前をつけるところか
らはじめないといけません。第1部でなされているべきことを、第4部でやらな
くてはならないわけです。

 困ったことに、これまでに the Faith の所属として出てきた訳語は、神官、
女神官、坊主、尼、尼僧、物乞いの坊主、ブラザー、シスター、沈黙の【尼僧/
シスター】、神殿、寺院――。女神官ニステリカとモーデイン尼は、一見、別々
の組織に属しているように見えますが、じつはどちらも同じ団体の聖職者septa
です。物乞いの坊主というのは、托鉢修道士のこと。
 混沌としていますから、これは整理が必要でしょう。

 ところが、さらに困ったことに、第4部では、この団体のカトリック的性質が
全面に出てくるんですよ。そして、それが物語に深く関わってきます。中身を読
んでいただけばわかりますが、あれをカトリック以外の形で訳せば、物語がおか
しなことになります。

 この場合も、わたしはどうすればいいんでしょう? 訳語を継承しようにも、
その訳語がない。既存の訳語から絞りこもうとしても、適訳がない……。

44 2008年07月24日 11:25 Retief  もうひとつ、「あとがき」であげた、ラニスターの双子の例も補足しておきま
しょう。このふたり、原文では長いあいだ、どちらが年上か書いてありませんで
した。どちらでもよかったのでしょう。ところが、第3部の66章で、サーセイが
姉であることが明かされます。

 この箇所、翻訳ではうまくバッチをあてて、サーセイが妹のままとなっていま
す。なにごともなければそれでよかったでしょう。ところが、なにごともあった
んですね。第4部で、それが意味を持ってくるんですよ。けっしてどうでもいい
ことじゃないんです。

 長期シリーズの怖いところはここです。当初、こういう意味だろうとの予想の
もとにつけた訳語がはずれてしまった。これはしかたない。だれでもあることで
す。ただ、上の例のように、バッチをあててその「はずした」訳語を延命させて
しまうと、これは危険です。あとあとどんな影響が出てくるかわかりません。ほ
んとうは、できるだけ早い機会に是正したほうがいい。

 そして、そういう「はずしちゃった」訳語、延命された語、原文からかなり距
離があって、いつ問題化するかわからない訳語というのが、あちこちにかなり埋
まっているんですよ。いわば、いつ爆発するかわからない地雷をかかえているよ
うなものです。
 それをどうするか、というのが今回の大きなテーマでした。名前の表記変更も
それに関わるものです。

59 2008年07月27日 15:43 Retief >トンデモブラウさん

 サーセイたちは、双子ではあります。コバさんのおっしゃるとおり、どちらが
先に生まれたかという問題です。差はごくわずか。一見、たいした問題ではない
ようですが、これはふたつの点において、先々、物語にかかわってくる重要ポイ
ントだと見ています。

 表記の変更については、すいません、途中まで書きかけて放置してしまったの
で、わかりづらかったですね。

 当面の問題は、上で書いた潜在的な地雷にどう対処するか、ということでした。
で、あれこれ相談して、とりあえず、先々に禍根を残しかねないものは作者の意
図する形に近づけようということになりました。近づけるといっても、現状のわ
たしの理解がかならずしも正しいとはかぎらず、さらに逆転もありうるので、薄
氷を踏む思いでしたが、今回を逃がしたらもう変える機会がないという危機感に、
ぐっと背中を押された格好です。

 では、なにを、どこまでの範囲で近づけるか。この線引きが非常に難しいとこ
ろでしたが……アリオとアリスのような例もあるので、このさい、名前の表記に
ついても、作者の意図する(と思われる)形に近づけよう、ということになりま
した。作者の発音例という、われわれにとっては神の声に等しいものもありまし
たしね。で、いったんオリジナルに近づけておけば、先々なにが起こっても対応
しやすいだろうと考えたわけです。

 ただ、もちろん、もうひとりの神、読者の存在もあります。いちおうの目安は
立てたものの、なかなか腰が定まりません。訳了から納入までのほぼ一カ月は、
前にも書きましたが、あっちにふらふら、こっちにふらふら、延々と置換をくり
かえしていました。じつは、上巻の初校では、名前の表記はほぼ既訳のままで、
ジェイムやブリエンヌになっています。この段階では、かなり無難な路線にあっ
たんです。

 そのあと、またいろいろ問題が出てきましてね。ちょっとパニクってしまいま
した。再校は各巻、それぞれ五日程度しか読む時間がありませんでしたが、その
段階でバタバタっと判断を下したのは失敗だったかもしれません。その日の精神
状態によって、あのときどうするべきであったか、いまだに考えがくるくる変わ
るので、自分でも評価が下せていないんですが。ただ、忸怩たる思いだけは強烈
に残っています。
60 2008年07月27日 15:46 Retief >きむこさん

 これもことばが足りずに失礼しました。
 物語世界にカトリックそのものはありません。あるのはカトリック「的」な宗
教団体です。カトリックではないけれど、カトリックを連想させて、カトリック
的な役まわりをはたす存在。これにはほかにもろいろいろ複合していますが、作
者はカトリックをイメージの中心にすえているそうですし、それを踏まえて物語
が書かれているようにわたしには見えました。その訳語として、神官や坊主はあ
てにくかった、ということです。

 たとえば、物語世界の騎士は、中世の騎士そのものではありませんよね。Sir
じゃなくて Ser ですし、ディテールもちがいます。すごく厳密にいうと、騎士
を連想させて、中世の騎士的役まわりをする存在です。要するに、読者がよく見
知っているものを現実から流用すれば、どういう立ち位置の存在かが一発でわか
るから、こまかい説明をしなくてもいいし、物語のイメージを伝えるが楽になる。
なにかに「材を取る」というのはそういうことなんだと思います。この騎士を、
たとえば武士と訳すと、イメージが大きく狂ってしまうでしょう? 同じように、
the Faith とその関係者にもカトリックを思わせる訳語をあてないと、今回、
作者が描こうとしているものが伝わりにくいのではないか、と思ったしだいです。

 托鉢修道士と言いかたは、背景に托鉢修道会があるみたいでまずかったですね。
ここでは、首に鉢をかけ、喜捨をもとめて街道をゆく、the Faith のブラザーた
ちのことを指しています。これも托鉢する修道士「的」なものだと思うのですが、
この理解は変ですか?

Retief >〓うにょさん

 早川オンラインの件、きむこさんともども、アドバイスありがとうございます。
 おっしゃるとおりですね。いちど話をしてみます。そのへんのところは、つき
つめると、ネットか非ネットか、という問題もあって、出版社は非ネットの読者
のことも考えないといけないので、なにかと難しそうですが、そういう公平な企
業対応を優先していると、too little, too late になりがちなので、相談して
みます。

 ここに書いたことが mixi 外で不快にとられるというのは、やはりそうでした
か。
 じつは、訳語と名前の件で思いつめていたとき、ここへ相談しにこようかとも
思ったこともあって、結局断念したんですが、それは時間がなかったということ
のほかに、「なぜmixiでだけ相談するのか、と思われるのはまずいんじゃ?」と
いわれたのも一因でした。難しいですねえ。つぎの機会がもしあれば、読者の方
たちの意見をぜひ聞きたいんですが……。

62 2008年07月27日 16:03 Retief  暖かいことばをかけてくださったみなさんには心から感謝します。それぞれの
方にお礼をいいたいところですが、かえってわずらしく見えて顰蹙かと思います
ので、これひとつにとどめさせていただきます。ご容赦ください。ちょっとした
ことでも支えになります。ほんとうにありがとうございます。

 また、批判的なみなさんには改めてお詫びします。みなさんがおっしゃること
はもっともですし、判断ミスで痛恨の部分もあります。もしつぎの機会があるの
なら、ある程度やりかたを見なおさねばならないとも思っています。

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最終更新:2008年09月11日 00:20
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