「レリック、時空管理局……アルハザード。
これも、必然の出会い」

雨が降りしきる昼下がり。
大きな屋敷の庭先で、その屋敷の主人と思わしき人物が、一人空を見上げていた。
その女主人―――次元の魔女こと壱原侑子は、数月程前に己が元を訪れた、ある者達の事を思っていた。
それぞれの目的を胸に、彼等は今も旅を続けている。
一枚の羽根を求めて、ここからは遠き場所で。
そう……遠き異世界で。

「飛王=リード……あなたはこの接触に、何を見出すかしらね。
時空を越える術を持ち、そして時空を統合する彼等を前に……あなたはどう動くのかしら……?」





ツバサ-RESERVoir CHRoNiCLE- ~ミッドチルダ編~

プロローグ


「それじゃあ皆さん、ありがとうございました」
「君達も、頑張ってな」
「はい」

その日、とある異世界を去ろうとしている旅人達がいた。
愛する者の為、その者の記憶を求める若き考古学者―――小狼。
失われし自身の記憶を求め、大切な者と共に道を歩む王女―――さくら。
己が故郷へと帰るために、そして本当の強さを知るが為に刃を振るう剣士―――黒鋼。
忌まわしき故郷を離れ、数多くの異世界を渡り歩く事を望んだ魔道士―――ファイ=D=フローライト。
次元の魔女より彼等四人が授かった、世界を渡る為の力を持つ生物―――モコナ=ソエル=モドキ。
彼等は世話になったこの世界の住人達へと別れを告げ、新たな世界に渡ろうとしていた。
モコナの足元に魔方陣が展開され、そしてその背中から大きな光輝く翼が現れる。

「異世界でも、元気でな!!」
「しっかりやれよ!!」

大勢の者達が、手を振りそして声援を送った。
小狼達はそれに笑顔で答え、そしてその直後。
モコナが大きく口を開き、その体内へと四人を吸い込んだのだ。
そして、モコナ自身もそこから姿を消失させる。
これが彼等の、異世界を渡る術。
五人は今、次なる世界へと繋がる空間内へといる。

「次の世界は、どんな所でしょうね」
「モコナ、美味しいものがあるところがいい♪」
「俺も同じ~。
でも、御寿司は嫌だなぁ……あれはとても食べられなかったし」
「とりあえず、宿とかがすぐに見つかる場所ならいいですが……」
「おい、見えてきたぞ」

空間の出口へと、五人が差し掛かった。
次は一体、どんな世界が待ち受けているのだろうか。
期待や不安といった、様々な思いを胸中に秘め、五人は出口を抜ける。
そして、彼等が現れた場所は……

「……あら?」
「おい……またこれかよ!!」

地上から少しばかり離れた地点……上空だった。
これで、何度目になるのだろうかというパターン。
当然のことではあるが、五人はまっ逆様に落ちるしかない。
とっさに小狼はさくらの手を引き、抱きかかえた。
モコナはそんな彼の肩に、しっかりとしがみ付いていた。
一方、黒鋼とファイはというと、最初は動揺こそしていたものの、既に冷静さを取り戻している。
問題なく着地出来る様、二人は既に体勢を整えていた。
そして、五人は無事着地に成功。
流石と言うべきだろうか、誰一人として怪我一つしていない。

「さくら姫、大丈夫ですか?」
「うん、ありがとう小狼君」
「で、到着して早々なんだが……」
「あれ……ちょっと、厄介な状況になっちゃってるっぽいかな?」

まずは黒鋼が、それに僅かに遅れて四人も、自分達が置かれている状況を即座に理解する。
周囲には、廃ビルらしき建物が立ち並ぶ、しかし廃墟とは思えない街並。
そして……目の前にいる、唖然とした表情の者達。
その内何人かは、明らかに武器に違いないであろう物をその手に握っている。
これも過去にあったパターンだが……いつぞやの様に、戦いの最中に落ち込んでしまったのかもしれない。
即座に、小狼・黒鋼・ファイの三人は臨戦態勢を取る……が。
直後に黒鋼と小狼が、やや遅れてファイが構えを解いた。

「……そうでもねぇみたいだな。
殺気とか、そういうのが全く感じられねぇ……訓練中ってところか?」
「みたいですね……」

戦にしては、敵意や殺意といった類の気配が感じられない。
その為、三人は構えを解いたのだった。
すると……その様子を見て、一人の人物が彼等へと歩み寄ってきた。
制服らしく服を着た、ポニーテール状に髪を束ねている女性。
エースオブエースの異名を持つ、凄腕の魔道士。

「あ、なのはさん……」
「大丈夫、この人達に敵意は無いみたいだから……すみません。
見た所、転移魔法らしきものを使っていましたけど……もしかして、異世界からやって来たんですか?」
「えっ!?」

なのはと呼ばれた女性の言葉を聞き、たまらずさくらが声を上げた。
小狼達も、声こそ出していないものの、それなりに驚いている。
これまでにも、何かしらの方法で自分達が異世界から来たという事を見破ってきた者達はいたが……
それがこんなに早いケースは、初めてである。

「へぇ~……僕達が異世界から来たって、分かるんだ」
「はい、仕事上何度か似たケースを見てきましたから。
私は時空管理局一等空尉、高町なのはです」
「時空……管理局?」
「よかったら、お話を聞かせてもらえませんか?」

次元の魔女の力により、記憶の羽根を求めて異世界を旅する者達。
数多く存在する次元世界の平穏を守ることを務めとする、時空管理局。
目的こそ違えど、様々な異世界を見てきた両者。


今、二つの道が交わる……


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

それは、遠き異世界。
全てを知り、そして裏で暗躍する者達の根城。
黒衣の男―――飛王=リードは、モニターに映し出された光景を前に、仏頂面をしていた。
モニターに映し出されているのは、他ならぬ小狼達の姿。
そして、彼等と共にいる者達―――時空管理局の職員達の姿である。

「時空管理局……ロストロギアの収拾を目的にしている組織と、彼等は出会ってしまいました。
このままじゃ、予定が狂うのでは?」
「確かに、姫の羽根はロストロギアと断定されても何らおかしくはない。
彼等と協力する道を選び、歩みを止めるようならばそこまでになる。
だが……だからといって、彼等はここで止まりはせぬ。
次元の魔女もそれが分かっているからこそ、干渉をしないのだろう。
それに寧ろ、ここで己が魔力の資質に気付いたならば……目覚めが早くなるやもしれん」

飛王は、傍らの女性―――星火の問いに答え、席を立つ。
そして……彼は、すぐ隣の部屋に置かれているあるカプセルへと目を向けた。
その内部は水で満たされており、そして一人の少年がいる。
右目に眼帯を着けた、モニターの向こうの彼と瓜二つの存在……

「なあ……『小狼』」

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最終更新:2008年01月01日 12:29