「ん~……さくらちゃんとモコナちゃんは問題ないにして。
後の三人……特にファイさんは、どない誤魔化そうかな……?
幾ら魔法は使わんって言っても、魔道士に変わりはないんやし……」

機動六課隊舎、部隊長室。
六課の若き部隊長―――八神はやては、六課の部隊表を見直していた。
話は、遡る事数十分前。
このミッドチルダに突如として、五人(正確には、四人と一匹)の来訪者が現れた。
それが全ての発端であった……




ツバサ-RESERVoir CHRoNiCLE- ~ミッドチルダ編~
第1話「必然の出会い」



「八神部隊長、失礼します」
「ん、なのはちゃん?
はいはい、どうぞ~」

はやてはドアをノックする音を聞き、なのは達に中へと入るよう促す。
すると部屋へと入ってきたのは、彼女にとって見慣れぬ者達であった。
見た所、スバルやティアナと同世代程度の少年一人と少女一人。
いかにも達人と言う風格をした目つきの悪い男に、笑顔を浮かべた好青年。
それに加えて、うさぎが丸っこくなったかのような謎の生物ときた。
当然ながら、はやては目を点にせざるをえない。
そして、一方小狼達はというと……こちらも驚いている。
彼等が驚いている理由は、部隊長であるはやてが、想像に反して若かったから……というのもあるが。
それ以上に大きな要因として、はやてのすぐ隣にある小さなデスクに座っていた、リィンフォースの姿にあった。
一応、小人が海底に住む世界というのは以前に一度見た事があるのだが、それを直接目にしたのは小狼のみ。
他のメンバー、特に黒鋼は免疫が全くない為、これには大いに驚いている。

「えっと……なのはちゃん、フェイトちゃん、そちらの人達は?」
「うん、この事で相談に来たんだ。
実は……」

早速なのはとフェイトは、はやてへと事情を説明する。
フォワード四人の訓練の最中、突如として小狼達が自分達の目の前に現れたこと。
彼等には一切敵意はなく、こちらと事を構えるつもり等は全くないということ。
そして、彼等が異世界から現れたということである。
詳しい事情に関しては、部隊長であるはやてと共に聞くべきであると感じ、まだ聞いていないのだが。
まずはと、小狼達は自己紹介に移る。

「小狼です、よろしくお願いします」
「さくらです、よろしくお願いします」
「黒鋼だ」
「ファイ=D=フローライトだよ、よろしくね~」
「モコナだよ♪」
「私は、リィンフォースです♪」
「私は八神はやて、この機動六課の部隊長です。
えぇと、皆さん異世界から来たって事らしいですけど……詳しい事、聞かせてもらえます?」
「はい、勿論そのつもりです」

一同を代表し、はやての問いに小狼が答える。
まず小狼達は、自分達が異世界を旅することとなった理由について話し始める。
各々が旅する目的は、驚く事に全くのバラバラだった。
まず黒鋼は、自分がいた世界―――日本国へと帰る為である。
ちなみにこの日本国というのは、なのは達がミッドチルダに来る以前に住んでいた場所とは同名だが、しかし違う場所。
日本国と言う名の、とある次元世界の事である。
黒鋼は、一行の中でも文句なしに最強の実力者。
彼がいた国においては、誰も彼に敵う者はいなかったのだが……

「俺が仕えている主……知世姫は、俺にこう言いやがった。
俺は本当の強さって奴を知らない。
だから異界を旅して、本当の強さを学んで来いってな」

黒鋼の主にして、日本国に聳える白鷺城が姫巫女である知世。
彼女こそが、黒鋼を秘術によって異界に飛ばした張本人である。
黒鋼は確かに強い。
しかし知世は、それが真の強さではないと感じていた。
何故ならば彼は、無益な殺生をしすぎるからだ。
今でこそ、そういう事態は無くなったものの……かつての黒鋼は、言うなれば修羅。
強くなる為に、ただ強敵との戦いを求めていたのだった。
それを見かねた知世は、黒鋼に真の強さが何たるかを学ばせるべく、彼に異界を旅させる事を決意したのだ。
そしてそれを可能とする次元の魔女の元へと、彼を己が秘術で送り届けたのである。
勿論、旅先で無益な殺生をしないように予防をしておいて。

「呪なぁ……うちらの使ってる、非殺傷設定に近い代物やね。
まあそっちのは、デバイスやなくて直接戦闘する人にかけるって違いもあるけど……」
「非殺傷なんて便利な代物じゃねぇよ。
……やろうと思えば、やれるんだからな」
「でも、やらないんだよね?」
「今の所、やるような場面に立ち会ってねぇだけだ」

黒鋼は次元の魔女の元へと送られる寸前に、知世に『呪』と呼ばれる術をかけられた。
その呪の効力は、人を一人殺すごとに強さが減っていくという物である。
流石に、肝心な強さが無くなるのではどうしようもない。
その為黒鋼は、これまで誰一人の命も奪わずに戦い抜いてきたのだった。
尤も、相手を殺す気で挑まなければならない程に危険な状況に追い込まれたことは、何度かあったのだが。

「で……その後は、こいつ等と一緒に旅するハメになった。
色んな異世界を巡っていけば、いつかは日本国に帰れるだろうってあの魔女に言われてよ」
「そうなんですか……それで、その本当の強さというのは……?」
「……さあな」
「さあなって、黒鋼さん……」
「まあまあ。
黒ぽん、そういうの説明するの苦手だしね~」
「……黒ぽん?」
「ああ、他にも色んなあだ名があるよ。
黒様とか、黒りんとか……」
「テメェ、あだ名付けるのやめろっつってるだろ!!」

ファイの言葉に対し、黒鋼は思い切り怒鳴り散らす。
今現在、ファイとモコナは、黒鋼に対して40個以上のあだ名を付けている。
そして当然の反応ながら、その全てを黒鋼は嫌がっていた。
一番悲惨な時には、そのあだ名を偽名として使わされた事もあった。
その為、毎回二人に対して黒鋼は怒っているわけなのだが、マイペースなファイはそれを全く意に介さず。
見事にスルーして、自分の事に関して説明を始めた。

「俺は、セレス国って場所にいたんだ。
そこで君達と同じように、魔術士やってたんだけど……色々あってね。
セレス国にだけは帰りたくないし、あまり一つの世界に留まりすぎると、ばれちゃうからさ」
「え……ファイさんって、魔道士なんですか?」
「うん、君達とは全く術式とかは違うけどね。
……まあ、もう魔法は使わないって決めてるし、あまり関係ないかな?」
「使わない……?」
「本当、色々あってさ~……期待させちゃって、ごめんね」

ファイは、セレス国という異世界からやって来た魔道士。
実はここになってやっと話したのだが、ファイだけは唯一、なのは達が魔道士である事に最初から気付いていたらしい。
彼が旅立った理由は、セレス国にだけは絶対に帰りたくないから。
そして、あまり一つの世界に長居しすぎていると、いつセレス国の追っ手がくるかも分からない。
だから様々な次元世界を渡って、逃げに徹したいというのが、彼の願いである。
何やら物騒な話なのだが、ファイはそれに関しては「とても怖い人がいる」とだけ言い、後は話そうとはしなかった。
真偽を確かめようにも、セレス国についてなのは達は何も知らない。
その為、これ以上の質問は無意味であると感じ、ここで話題を打ち切った。
ちなみに彼は、自分で転移魔法を使い次元の魔女を訪れているのだが、それが今現在、彼が最後に使った魔法である。
何故、彼は魔法を使わなくなったのか。
その理由に関しても……先程と同様、彼は話そうとしない。

『なのはちゃん、フェイトちゃん……どう思う?』
『何か、私達……というよりも、小狼君達に言えない秘密があるのは間違いないと思うけど……』
『でも、悪い人には全然見えないよね。
……話をしてる時、凄く悲しそうな顔してたし……』
『……まあ、どんな人にも触れて欲しくない過去ってのはあるもんやしね』

なのは達は念話を使い、ファイに関する不信感について話し合っていた。
彼が悪人には見えないというのは、三人の共通意見である。
尤も、自分達に対して、隠し事をしているのは間違いないが……どうやらそれは、仲間である小狼達に対しても同様らしい。
いや、寧ろ……小狼達にばれてはならない事を抱えているようにも見える。
彼は何か、重大な闇―――例えば、かつてのPT事件や闇の書事件の様な辛い過去―――を持っている様に感じられたのだ。
しかし小狼達は、そんな彼を信用している。
ならば……少なくとも今は、自分達がどうこう言う問題ではないのかもしれない。
何か大きな事件に繋がるようであれば、勿論手出しをせねばならないが、今は要注意ということだけでいいだろう。
そういう形で、三人の中で決着がついたとき……小狼とさくらが、自分達の境遇について話し始めた。
そして彼等の話こそが、一行の旅の根幹ともいえる物である。

「俺達は、姫の記憶の羽根を捜して旅をしているんです。」
「記憶の羽根?」
「はい……私の記憶は、羽根の形になって色んな世界に飛び散っているんです。
今は、結構昔の事も思い出せているんだけど……」

小狼とさくらが旅をしている理由。
それは、さくらの失われた記憶を求める為であった。
彼女の記憶は、無数の羽根となって異世界に飛び散っている。
その羽根を手にする事により、さくらは失われた記憶を取り戻す事が出来るのである。
これまでの旅で、それなりの数の羽根を手にする事が出来た。
御蔭で、さくらは記憶の多くを取り戻しているのだが……それまでの道のりは、決して楽なものではなかった。
さくらの羽根の入手は、とてつもない困難が伴うものばかりだったからだ。
何故ならば、彼女の羽根には強力な力があるからだ。
ある世界では、強力な秘術の増幅装置として扱われていた。
ある世界では、極めて強力な電力を秘めた永久機関として存在していた。
ある世界では、仮想空間を実体化させるという離れ業を見せた。
在り方こそ、世界ごとに異なっているが……どの世界においても、羽根が危険な代物であるという事は共通している。

「……それって、ロストロギアにならないのかな……?」
「うん、私もそう思う。
話を聞いてた限りじゃ、ジュエルシード並かそれ以上の危険度が有りそうだし……」
「ロストロギア?」
「ああ、ロストロギアって言うのは、過去に何らかの要因で消失した世界で造られた遺産や、未知の技術で作られた道具の総称や。
使い方次第じゃ、世界を一つ簡単に壊せるほどの危険物も中にはあってね。
そういうのを回収して管理するのも、時空管理局の仕事の一つなんよ」

羽根の話を聞き、もしかしたら羽根はロストロギアに分類されるのではないかという考えが、なのは達の脳裏によぎった。
様々な用途に使える危険物で、しかも様々な次元世界に散らばっているときた。
ならば、ロストロギアと認定されるには十分すぎる。
もしかしたら、管理局が知らず知らずに内に回収している可能性すらもある。

(……でもそれだったら、あの魔女の屋敷にゃどんだけロストロギアって奴があるんだ……?)
(だったら、モコナもロストロギア認定されちゃってるかもしれないなぁ)
「……小狼君、よかったらその羽根ってどんなんか、教えてくれへんかな?
ちょっと、時間がかかるかもしれへんけど……」
「はい、勿論です。
ただその間、姫や皆さん達が……」
「ああ、そやね。
じゃあ、一応皆さんはお客様って事になるし……フェイトちゃん、リィン。
隣の部屋に皆案内して、お茶菓子とか出してあげてくれんかな?」
「うん、わかった」
「はいです♪」
「そんな、私達の事は別に……」
「いいですよ、気にしないで下さい。
それじゃあ、こちらにどうぞ」
「わ~い♪」

リィンが、さくら達を隣の部屋へと案内する。
ちなみに小さい者同士と言う事があってか、いつの間にやらリィンとモコナが打ち解けあった雰囲気の様になっている。
この二人は、性格的にも結構相性がいいらしい。
その様子を見て、さくらやなのは達は、自然と笑みを浮かべた。
……しかし、その一方。
黒鋼だけが真剣な顔をして、一瞬だけ小狼とはやて達の方へと視線を向けた。
その理由は、どうやら二人とも分かっているようである。
そして、さくら達が外へとで、部屋にはなのはとはやて、小狼の三人だけとなる。
ここでようやく、はやてがその口を開いた。

「さて、と……さくらちゃんが席を外してくれたから、話してもらえるかな?」
「はい……最初から、俺もそのつもりでいました」

小狼が一人だけ部屋に残った、その本当の理由。
それは、さくらがいる状態では聞くことが出来ない事に関して、彼から聞くためであった。
黒鋼は確実に、恐らくはファイも気付いているであろうが……実は、小狼とさくらに関して一番重要なことが話されていない。
何故、彼女の記憶が羽根となって異世界に飛び散ったのかである。
小狼は、それについてを目の前の二人へと話し始めた。

「……俺と姫は、元々玖楼国という世界に住んでいました。
そこで俺は、考古学者として生活をしてたんです。
姫とは、幼馴染だったんです」
「……幼馴染の男女で、その片方が考古学者かぁ。
なんか、なのはちゃんとユーノ君みたいやなぁ……」
「にゃはは……って、あれ?
幼馴染『だった』って……どういう事?」
「……姫は今、俺と以前にどういう関係があったのか、何も覚えていません」
「でも、それって記憶が消えたからじゃ……」
「いえ……記憶が戻っても、俺に関係している記憶だけは絶対に戻らないんです」
「え……?」

数ヶ月前……さくらの記憶が羽根となり、異世界に飛び散った日。
小狼は、新たに発掘された謎の遺跡の調査を行っていた。
その遺跡の最深部には、玖楼国では見る事の出来ない謎の文様が見られた。
小狼は、それに関して色々と調べようとしていたのだが……そんな時、遺跡の最深部へとさくらが降りてきたのだ。
さくらは丁度、玖楼国の王である兄桃矢の遺跡視察に同行し、小狼の元へと差し入れを届けにきていたのだった。
そして、その時に……悲劇は起きた。
突如として、遺跡に刻まれていた文様から光があふれ出し、それがさくらを包み込んだのだ。
その瞬間、彼女の背に光り輝く翼が出現し……そして、翼は無数の羽根を散らせながら消えていった。
この羽根こそが、彼女の記憶……この瞬間に異世界へと飛び散っていった、さくらの羽根である。

「その後、遺跡が急に崩れだしたんです。
俺は急いで、姫を連れて外に出たんですが……」
「……ってことは、遺跡の正体は分からずじまいってわけか……」
「はい……けど、問題はそれだけじゃなかったんです」

小狼はさくらを連れて遺跡の外へ出、そして外の光景に言葉を失った。
さくらが記憶の羽根を散らせたのとほぼ同じタイミングで、遺跡の外では信じられない事態が起こっていたのだ。
それは、武装した謎の集団による遺跡の強襲であった。
幸い、敵は桃矢と神官の雪兎、そして玖楼国の兵達が健闘した御蔭ですぐに追い返せたのだが……
さくらの問題は、正反対に深刻なものとなっていた。

「……あの時、姫の体はとても冷たくなっていました。
雪兎さんは、姫は記憶を全て失った所為で、体から心が消えてしまったからだと……
姫を助けるには、飛び散った羽根を手に入れるしかありませんでした」

術で小狼の記憶を読み取った雪兎は、飛び散った羽根はさくらの記憶、さくらの心であると彼に告げた。
そして……心が完全に消えてしまったさくらの体は、このままでは確実に死を迎えてしまうということも。
それを防ぐ方法は、ただ一つ。
異世界へと飛び散っていった羽根を、さくらの体へと戻す事だけだった。
雪兎は一国の猶予もないと判断し、自らの持てる全ての魔力を使い、転移魔法を発動させた。
小狼とさくらを助ける事が出来る、唯一の存在……次元の魔女の元へと、二人を送り届ける為に。

「そこで俺は、同じタイミングで次元の魔女さんの所に来ていた、黒鋼さんとファイさんと出会ったんです」
「ってことは……異世界に渡るっていう目的が一致しとったから、一緒にってこと?」
「はい……次元の魔女さんは、俺達にこう言いました。
『異世界に渡る手段を授ける事は出来るけど、貴方達の一番大切なものを対価としてもらう』と」
「……ちょ、ちょっと待って。
対価って……まさか……?」

なのはとはやてが、ここで全ての事情を把握した。
次元の魔女は、自分の下を訪れる者の願いを叶える代わりに、それに見合った対価を貰う事で力を発揮する。
そして、異世界を渡る術を手にするという三人の願いを叶えるのには、とてつもない対価が必要であった。
次元の魔女は、個人個人の願いを叶えるのには、彼等のいかなるものを対価としても不可能と断言した。
しかし……三人で一つの願いというのであれば、辛うじて可能であると告げたのだった。
その対価は、三人にとって一番大切なもの。
黒鋼は、今は亡き父が持つ物と同じ銘の退魔刀「銀竜」を。
ファイは、自らの魔力を押さえ込む役割をしており、それ無しでは絶対に魔法を使わないと決めた、背中の刺青を。
そして小狼は……さくらとの関係性を、対価として差し出すように告げられたのである。

「じゃあ、小狼君はさくらちゃんを助ける為に……!!」

さくらの記憶が全て戻っても、その中に小狼の姿はない。
彼女のこれまでの記憶の中から、小狼に関する記憶は全て失われてしまう。
それを思い出させようとしたり、また、さくらの方から聞き出そうとしても、その瞬間にその記憶は失われてしまう。
これまでに過ごした全ての日々を、永遠に消し去ってしまうというのが、小狼の代価だったのだ。
最も大切な、愛する者を守る為に……愛する者の心から、自分自身は消えてしまう。
余りに重く残酷な対価だが……小狼は決心を揺るがさず、それを受け入れたのだ。
例え自分がどうなっても、必ずさくらを助けたいと……そう願ったから。
そして、同じく対価を差し出した黒鋼とファイと共に、彼は時空を越える力を手に入れた。
その術を持った生物……モコナを。

『……凄い子だね、小狼君って』
『うん……さくらちゃんも、本当に幸せやろね。
こんな風に、想ってくれる人がいてくれて……』
『……あの時のヴィータやシグナム達も、こんな風に考えてくれとったんかな……』

なのはとはやては、かつてのヴォルケンリッターの姿を、ついつい小狼に重ねてしまった。
彼女等も、はやてを助ける為にと決死の覚悟で動いてくれた。
そんな彼女等を、近くで見ていたからだろうか。
なのは達には、小狼が……いや、小狼達が他人の様にはとても思えなくなっていたのだ。

『フェイトちゃん、リィン、聞こえとるよね?』
『うん……全部、聞かせてもらったよ。
私も、はやての意見に賛成』
『リィンもです♪』
『勿論、私もだよ。
きっとスバル達やヴィータちゃん達だって、分かってくれると思うしね』
『じゃあ、決まりやね♪』
「あの……はやてさん、なのはさん?」
「あ、ごめんごめん。
えっとね、小狼君……君達って、まだ宿泊先とか決めてないんよね?」
「はい、来たばっかりで何も予定なんてないですけど……」
「……もしよかったらさ。
このミッドチルダで、羽根が見つかるまでの間……私達と一緒に六課で仕事してみないかな?」
「え……!!」

なのはの口から出た意外な言葉に、小狼は驚き声を上げた。
まさか、こんな風に誘いがかかるなんて思ってもみなかった。
確かに自分達には、予定と言える予定は何もない。
渡りに船とは、この事であるが……

「でも、どうして……?」
「さくらちゃんの羽根は、ロストロギア認定されてもおかしくない代物だからね。
もしも羽根がミッドチルダにもあるんだったら、私達にも無関係じゃなくなってきちゃうんだ」
「まあ、それにな……困った人を見捨てるなんて、出来るわけがないやんか」

目の前で困っている人がいて、その人を自分達の力で助けられるのであれば、進んで助けたい。
それは、自分達が魔法と出会った頃から今まで、ずっと変わらずに思い続けてきた願いである。
羽根という共通の目的があるという事も手伝って、なのは達は、是非とも小狼達を助けたいと感じていたのだった。

「ただ、六課も六課で仕事があるから、それを手伝ってもらう形にはなっちゃうかな……?
勿論、私達も羽根探しは精一杯協力するよ」
「なのはさん……」
「まあ、いきなり言われていきなり答えを出すってのも無理な話やな。
小狼君一人だけで結論を出す問題やないし……部屋用意しとくから、今日は六課の隊舎に泊まっていくとええよ。
一日ゆっくり相談して、それから答え聞かせてもらえへんかな?
ああ、勿論断ったからって、無下に扱ったりするつもりはあらへんよ。
その時はその時で、ちゃんと宿泊先とかの問題はこっちが何とかするし、羽根っぽい情報も教えてあげるから」

尤もこの場合、与えられる情報は限られる事になってしまう。
やはり、ただの民間人と局員とでは、色々と情報のやり取りには問題があるからだ。
民間協力者・嘱託扱いとあらば、一応は何の問題もない。
最悪の場合、ヴォルケンリッター同様に私兵扱いという事で、上手く誤魔化しとおすことも可能である。

「……なのはさん、はやてさん、ありがとうございます」
「私は、お礼言われる程の事はしてないよ。
部隊長ははやてちゃんなんだしね」
「あはは……じゃあ、とりあえず今日はここまでってことで。
また明日、返事聞かせてな?」
「はい……!!」

小狼は、二人へと深く一礼をする。
そして、部屋を出てさくら達が待つ隣の部屋へと向かっていった。
その姿を見届けた後、なのはもフォワード達へと事情を説明するべく、部屋を出て行った。
こうして、一人残った部隊長はやてはというと……

「さて……それじゃあ、一応準備はしとかへんと」

早速、小狼達の事について検討をし始めていた。
彼等が申し出を承諾したとしても、断ったとしても、どちらにしても色々とやる事はある。
羽根に関する情報について、本局のロストロギア保管庫並びに無限書庫への調査要請。
彼等が今後動きやすいようにする為の、聖王教会への根回し。
その他諸々、やるべき事は多い。

「さあて、結構忙しくなってきそうやなぁ……」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2008年01月02日 09:28