第三話「混戦」
12月2日  1955時
海鳴市   市街地

時間は、なのはとヴィータが衝突する少し前に戻る。
宗介はゴーストタウンと化した市街地を混乱しながら走っていた。

(一体何が起こっている?)

つい先ほど前まで辺りは人で賑わっていた。だが今はどうだ?
自分がよく知った中東の廃墟のように辺りは、がらんとしている。
さらに分からないのは護衛対象が空を飛んでいたことである。

(俺は夢でも見ているのか?)

が、すでに自分の頬を三度もつねった。
これは夢ではない、現実だ。
仕方なく自分を信じて対象が飛び去った方向に走ってゆく。

「ケット・シー、聞こえるか?応答せよ」

別の場所からヴァーチャーを監視・尾行していた情報部員に通信を入れても応答はない。
通信機は先ほどから空しいノイズを垂れ流すだけだ。

(通信機の故障、いやジャミングされている?)

様々な可能性を考えているうちに、オフィス街に差し掛かった。
完全に対象を見失ったか?
そう思っていると突如ビルの外壁が崩れ、巨人が現れた。
あれは・・・


同日   2004時
海鳴市  オフィス街

敵に止めの一撃を刺そうと、アイゼンを振り下ろすヴィータはビルを揺らす衝撃にバランスを崩した。

「な、何だ!?」

突如背後の外壁が吹き飛び、巨大な手が出現する。完璧な奇襲をくらったヴィータは回避する間もなく
その手に捕まってしまい遠くに投げ飛ばされる。そうして、初めて自分に起こったことに気付く。
ビルの三階ほどある高さの巨人が背後にいきなり現れたのだ。
マッシブなシルエットに灰色の装甲、頭部から伸びるポニーテールが異彩を放ち、禍々しい印象を与えていた。
腰に2本の大型ナイフが保持されている。

「何だ、こいつ?管理局の傀儡兵か?」

傀儡兵はゆっくりこちらを向き、大型ナイフ―――ヴィータは知らないがGRAW-3という
名称の30ミリ機関砲つきの単分子を構え、発砲。
ヴィータはすんでの所で回避に成功する。
いきなり警告なしの攻撃は管理局らしくない。そもそも質量兵器を使ってること自体あいつららしくない
が、そんなことを考えているうちに敵の傀儡兵は砲弾をばら撒いてきた。

「く、一体なんだって言うんだよ!」

ビルの中で苦痛に喘いでいるなのは。リアクティブ・パージのおかげでダメージが
最小限になったとはいえ、背後の壁に衝突した痛みは小学三年生には耐え難いものだった。
なんとか立ち上がろうとしたところで天井の一部が崩れなのはの上に落ちてくる。
傷ついた体で避けることもできず、反射的に目をきつく瞑る。
だが、いつまで経っても来るはずの衝撃は来ない。
ゆっくりと目を明けると破片は緑と金色の波紋状の膜によって受け止められていた。

「ゴメン、なのは遅くなった。」

バリアを展開しながら女顔の少年ユーノは、なのはの肩に手を乗せた。

「ここまで来るのに手間取って」

黒い外套、金髪のツインテールの少女フェイト・テスタロッサは申し訳なさそうに言い
バリアの角度を変え、少し離れた場所に建材を落とす。

「急になのはが住んでる地区に大規模な結界魔法が発生して急行したんだけど
 結構離れた場所にいたから遅くなった。ゴメン。」

「ううん。来てくれて嬉しいよ。フェイトちゃん、ユーノ君」

「取り合えず、ここを出よう。また崩落が起きたら厄介だ。」

ユーノは、なのはを担ぎフェイトと共にビルから出る。

(フェイト、フェイト。あの傀儡兵、なのはを襲った奴に攻撃してるよ)

念話を使って、フェイトの使い魔であるアルフがここから少し離れた場所で起きている戦闘を伝えてくる。
傀儡兵は持っている銃剣を襲撃犯に発砲しており、そのせいで襲撃犯はなかなか攻撃のチャンスに移れていない。
脱出するなら今がチャンスだ。

「ユーノ、この結界から今すぐ転移魔法を使って脱出できる?」

「ちょっと待って・・・・・・駄目だ。出る分は、また別の転送魔法を編まなきゃいけないみたいだ。」

「どれくらい掛かりそう?」

「アースラのバックアップが無いから何とも言えないけど、20分以上かかるよ。
 邪魔が入らなければの話だけど。」

「分かった。それまで私とアルフでなのはとユーノを守る。」

宗介は、それを見るとすぐ様物陰に隠れた。

(なぜヴェノムがここにいる?)

そんなことを考えていたが、すぐさまマオに通信を入れる。

「ウルズ2、マオ聞こえるか?こちらウルズ7、応答せよウルズ2」

最初はノイズが走り、またも無反応に思われたが今度は繋がった。

『こちらウルズ2、どうしたウルズ7』

「市街地中心から少し離れたオフィス街でヴェノムが出現した。
 俺の装備では歯が立たない。こっちに来てくれ。」

『何言ってるの?・・・・いや分かった、至急そちらに向かう』

最初は、冗談だと思っていたマオも通信の向こうから聞こえてくる機関砲の砲声を聞き
それが紛れもない事実だと理解した。

『日本の市街地でASって、奴ら正気?この時間帯なら目撃者は膨大な数になるでしょうに』

「それは分からん、辺りには誰もいないんだ。それと敵の主武装はGRAW-3単分子カッターだ。
 早く来てくれヴァーチャーが巻き込まれかねん。」

辺りは崩れたビルの破片で煙が立ちこめ、宗介はヴェノムが発砲している先に
何があるのか確認することはできなかった。

『分かった。ソースケ、アンタは私と交代よ。』

宗介の見立てでは、近くの河川を利用して全速力で移動すれば5分以内に来れるはずだ。
それまでASの注意を逸らしたいが敵の前に出るのは自殺行為だ。
おまけにこちらは、9ミリ拳銃と予備弾倉が3つ、手榴弾が3つ、クレイモア地雷が一つ
アーミーナイフ、投げナイフと各種薬物だけだ。
これで、ASの相手は無理だ。
断腸の思いで宗介は対象を探し離脱する為、その場から離れた。

ヴィータは傀儡兵が放つ砲弾を回避するのに専念していた。
フルオートならば毎分300発、しかも音速並みの速さで飛来する砲弾だ。
当たれば痛いでは済まない。即座に血煙にされてしまうだろう。
今まで避けてこれたのは回避に専念してきた事と相手の狙いが甘い為だろう。
だが、その均衡も長くは続かなかった。傀儡兵が発砲した砲弾がヴィータの背後のビルに命中し
建材の破片がヴィータに降りかかってしまい足が止まってしまう。
その隙を突いて、傀儡兵は一瞬にして間合いを詰めてヴィータに切りかかる。

「しまっ」

回避も弾くことも間に合わない。ヴィータは目の前に迫る白刃を見つめるしかできなかった。
やられる。そう思った瞬間、目の前に白いジャケットを羽織った背中が現れ・・・

「はああああ!」

凄まじい金属の衝突音と共に巨人の刃は弾かれる。

「レバンティン、カートリッジ・ロード」

『Jawhol(了解)!』

薬莢が排出され刀身が炎を纏い、現れた騎士はポニーテールを持つ傀儡兵に突進していく。
傀儡兵は、それを一度手の大型ナイフで受け止めたが刀身が溶けていくの見て後ろ跳びで距離を取った。

「縛れ、鋼の軛 !」

傀儡兵が跳んだ先に突然、白く発光する鎖が現れ傀儡兵の片腕を縛る。
すぐに引き千切ろうとするが、ザフィーラの鎖は異様に頑丈のようだ。

「どうした、ヴィータ。お前らしくない。」

「シグナム・・・。うっせーな、弾切れを待って反撃する予定だったんだよ。」

「そうか、それはすまなかったな。で、あれは一体なんだ?」

シグナムは鎖で腕を拘束された巨人を見る。

「知らねーよ、背後にいきなり現れて襲ってきた。」

「そうか。・・・アレの相手は私がしよう、お前はザフィーラと蒐集を急げ。」

ようやく鎖を大型ナイフで切り裂いた傀儡兵はザフィーラに発砲し、こちらを見る。

「分かったよ。」

「ああ、それと落し物だ。修復もしておいた。」

飛び去ろうとするヴィータにさっき落とした帽子が投げ渡し
シグナムは傀儡兵に向かって突進した。

「来た。アルフ、迎撃いくよ。」

「あいよ、フェイト。」

飛んでくる紅い娘と褐色の男を迎え撃つ為バルディッシュに刃を発現させる。
相手は、あのなのはの装甲を破った相手だ。クロスレンジでの戦闘は避けたほうがいい。
時間稼ぎが第一目標であるのでフェイトはアークセイバーを放ち距離を保ちながら戦うことにした。

(アルフ、本来の目的は脱出までの時間稼ぎだからね?それと出来る限り相手の情報も集めとこう)

(了解だよ、フェイト。)

その言葉とともに空中戦が始まった。


傀儡兵の弾幕を切り抜けながらシグナムは敵に肉薄していた。
ヴィータの速さも決して悪くはないが、スピードで言えばヴォルケンリッターで一番はこの自分だ。

「はあ!」

シグナムは傀儡兵を縦に両断すべく、己の得物を振り降ろす。
傀儡兵はそれに反応し左手の大型ナイフで受け、そのままシグナムを押し飛ばす。
シグナムは後退し、正面から薙いでくる敵の刃に自らの剣を這わす。
火花が飛び散る、お互い立ち位置を変えず激しい攻防が続く。
突き、薙ぎなど様々な傀儡兵の攻撃にシグナムはレヴァンティンを這わせ、軌道を変える。
一息に一回の割合の応酬が二回、三回とスピードを上げていく。

(パワーでは、やはりあちらが上・・・だが小回りは自分のほうが上だ。ならば!)

レヴァンティンからカートリッジをロードし、地面に炎を放ち土煙を巻き上げる。
その煙に紛れ背後からの一撃を加え、その攻撃は敵を真っ二つにし―――――
しかし、そこでシグナムは目を疑う。

「なにっ!?」

レヴァンティンの刃が壁にぶつかった様に虚空で止り、逆にシグナムは弾き飛ばされた。
反撃が来る。シグナムは、そう思い身構える。
      • だが、追撃は来なかった。
傀儡兵はシグナムには興味を失ったかのように道路の先を見つめていた。
突如、何もないはずの空間から砲弾が飛び出してきた。
だが、またもや傀儡兵の前で攻撃は防がれ砲弾が弾け飛ぶ。

(なんだ?)

そうシグナムが不思議に思っていると、インクが滲み出してきたように新たな巨人が姿を現した。
色は、目の前の傀儡兵と同じだ。スマートで華奢なシルエットをしているが力強い印象を見るものに与える。
新しく現れた傀儡兵は、こちらを見て一瞬呆然とした感じがしたが
ポニーテールを持つ傀儡兵が攻撃の構えを執るのを見て、そちらに集中したようだ。

(どういうことだ、味方同士ではないのか?)

シグナムは困惑するが、すぐに自分の目的を思い出す。
傀儡兵が自分達を邪魔しないのなら、蒐集を急ぐべきだ。
そう考え、ヴィータとザフィーラの援護に向かう。

上空の戦いを見ながら、なのはは自分の無力感に打ちひしがれていた。
今も、自分を倒した娘と戦っている親友のフェイトちゃん。転移魔法を編んでいるユーノ君、大柄な褐色肌の男を足止めしているアルフさん。

(私は何もできないの・・・?)

レイジング・ハートは中破し、自分もボロボロ・・・でも何か、何かできることがあるはず

「なのは、敵の新手が来たみたいだ。二対三は流石のフェイト達でも不利だ。僕も戦闘に参加してくる。君は動かないで」

敵の来襲を察知したユーノ君が告げ、飛び立つ。
でも、ユーノ君は戦闘向きじゃない。私が何とかしなくちゃという気持ちに拍車がかかる。
そう思っていると、手に握っているレイジング・ハートがなのはに言う。

『マスター。スターライト・ブレイカーを撃ってください』

「それは・・・だめだよ。今、撃ったらレイジング・ハート壊れちゃうよ。」

『このままでは、ジリ貧です。状況を打破するには結界を破壊しなければいけません。』

確かにそうだ。相手には自らの魔力を爆発的に上げる何かがある。
下手をすれば、助けに来てくれた三人も自分の二の舞になってしまう。
だけど・・・・

『私は大丈夫です。信じてください、マスター』

その一言が背中を押してくれた。そうだ、一緒に困難を乗り越えてきた相棒を信じなくてどうするだろうか?
今、この場を何とかできるチャンスがあるのは自分達だけだ。

「行くよ。レイジング・ハート!」

「Yes,master.」

(フェイトちゃん、ユーノ君、アルフさん、私がSLBで結界を破壊するから!)

他の三人はなのはの行為を心配するが、構わずチャージを開始する。
『10』
デバイスの先端にディバイン・バスター以上の魔力が集まりだす
『9』
自分の魔力だけに留まらず、周りの魔力も集める。相手もこちらの狙いに気付いたらしいが、みんなが決死の思いで足止めをしてくれている。
『5』
半年ぶりに撃つ分、制御は慎重に・・・だがダメージを受けてる分、前に撃ったときより負担が大きい。
『3・・・・3』
レイジング・ハートが壊れかかった声を出す。相棒のことを心配するが、レイジング・ハートは先を促す。
魔力は十分に収束し、後は発射するだけだ。なのははデバイスを振り上げる。

「スターライトッ!?」

最後の仕上げである魔法の名前を放とうとしたとき、それは思わぬ痛みによって止められた。
手だ。自分の胸から手が生えている。ホラー映画のワンシーンのような現実に眩暈を起こしそうになる。
その手には光る何かが握られていたが、もうそんな事を気にしている暇はない。
痛みに耐え完成した魔法を放つ為、レイジング・ハートはカウントを再開する。

『2・・1・・0』

「スターライト・ブレイカァァァァァ!」

自身最高の威力を誇る収束魔力砲を放ち、結界が破られるのを確認してなのはは気を失った。

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最終更新:2007年08月14日 12:05