第四話「懸念」
12月2日  2136時
海鳴市   セーフハウス

「どーーーーなってんのよ!」

先ほど起きたことに対してメリッサ・マオ曹長は困惑していた。
人が空を飛び、ASと切りあい、変な光線が空に向かって放たれたらヴェノムも
空を飛んでた護衛対象も姿を消した所を目撃したのだから当然と言えば当然だ。

「分からん。俺も目撃はしたが常識を超えていた。」

マオ・クルツ・宗介の3人はもう5回ほどお互いの頬をつねった。
その痛みが、これが紛れも無い現実だと伝えてくる。

「正直言って、この街でなにが起きてるか分からないわ。ただ確実に分かることは
 私達の常識外のことが起きている事とアマルガムが絡んでるということだけね。」

空を飛ぶ人のことや夜空に放たれた光線は置いといて、現実的な問題はヴェノムについてのことだ。
ラムダ・ドライバ搭載型ASが現れた以上、M9でも荷が重い。
あと3機、それに装備が充実していればの話である。
今回の護衛任務には40ミリライフル砲と単分子カッターしか持ってきていない。

「対抗するには、アーバレストを寄越してもらうしかないのではないか?」

「そうねぇ。一応言ってみるとするか。」

支援要請のため衛星通信機に向かうマオ、宗介とクルツはまたお互いの頬をつねっている。

「ソースケよ。M9の映像記録を見なけりゃ誰も信じないだろうな。
 いや加工された映像だと思うだろうぜ、普通」

「肯定だ、現在圧倒的に情報が不足している。この街で何が起こってるか知る必要がある。」

つねったまま今日の戦闘の映像記録のことを話し合う2人

「ところで、そろそろ手を離せよ。」

「そっちこそ離したらどうだ?」

お互い一向に離す気配は無い、むしろつねる力が強くなってきている。

「止めな。状況がよく分からないし、提出した映像も訳わかんないものであることは事実よ。
 アーバレストについては追って返答するだって、なんか研究部の連中が来てるらしいわ。」

「研究部がかよ。あいつらの研究は俺達の生存率を上げる為のものじゃねえのかよ。
 率先して足引っ張りやがって。」

「仕方ないわよ。ラムダ・ドライバの研究はミスリル全体の生存率を上げることになるんだから
 それに先日の香港の事件のときにラムダ・ドライバが複数回発動したでしょ?
 機体への影響とかについてじっくり調べたいんだって」

アーバレストは、確かに香港事件でも上層部は出し惜しみをした。
ミスリル唯一のラムダ・ドライバ搭載機である、あれを失うことは出切るだけ避けたいのだろう。
もしくは、失っても代替が利くように研究しておく必要がある。

「そうか。しかし、あの無人地帯ができない限り奴等もそう簡単に手を出すこともできんだろう。
 気をつけるべきは、日常生活における拉致だ。」

貧しい装備で戦うことは慣れていたし、M9でも戦い方次第ではヴェノム相手であっても何とかなる。
宗介の言葉に他の二人は頷き、この場の議論はそれで終了した。

同日    同時刻
海鳴市  八神家

「いや、明日の朝に入ることにする。」

シグナムはそういって風呂の勧めを断り、リビングルームに残った。

「今日の戦闘か?」

「聡いな、その通りだ。テスタロッサと言う魔導師に、あの傀儡兵・・・」

上着と長袖を捲り上げると、そこには痣ができていた。

「魔導師にしては、いいセンスをしていた。良い師に学んだのだろうな。武器が違ったならどうなったか・・・
 それにお前達は見ていなかっただろうが、あの傀儡兵には妙な機能がついていた。」

「妙な機能?」

「完全に決まったと思われた攻撃がギリギリで見えない壁のようなものに防がれた。
 しかもご丁寧にそれを使って逆襲してきた。」

「大型の傀儡兵に装備されているバリア機能ではないのか?」

「違う、通常のやつは防御一辺倒のものだ。あれは明らかに攻撃の機能も備わっている。
 それに恐らくあれは管理局の物ではない、ヴィータの話では警告なしで攻撃してきた聞く。
 管理局なら質量兵器は使わない上に攻撃する前に決まり文句を必ず言う。」

あごに手を当て考え込むシグナム
管理局でもないなら傀儡兵は、やはりこの世界のものか?
しかし、よくニュース番組に出てくる傀儡兵―――この世界ではASというのだったか?
と今日見たものは、かなり相違点があったが・・・。

「言ってなかったが、あの場所、いやあの傀儡兵から昼間に話したのと同じ臭いがした。」

ふと、ザフィーラは思い出したように言った。

「お前が言う刺激臭か?」

ああ、とザフィーラは頷いた。
この近くにやつが潜んでいるということか・・・?

「ザフィーラ、その臭いは今でもしているのか?」

「今はしない。するようになったら報告する。」

「そうか・・・今日は、もう動かないのかも知れんな。明日にでも調べるとしよう。」

シグナムは闇の書を持ち窓から外を眺め、これからどうするかという事に思いを廻らした。

同日   同時刻  
時空管理局医療ブロック

ずきりという痛みでなのはは目覚めた

「ここは・・・?」

辺りには見たことの無い機械が、ずらりと並んでいる。
規則正しくリズムを刻むこれは心電図だろうか?
どちらにしても触らないほうがいいと判断し、しばらくぼうっとする。

(レイジング・ハート大丈夫かな?)

相棒を自らの弱さで傷つけてしまった後悔が脳裏をよぎる。
そんなことを10分ばかり考えていると部屋のドアが開き、白衣を着た男の人が入ってきた。

「おお、目が覚めたかね。どこか痛むところはあるかい?」

「ええと、肩がちょっと・・・じゃなくて、ここどこですか?」

「ここは時空管理局本部にある医療施設だよ。・・・ふーむ、肩か。」

時空管理局本部、なのはにとって初めて訪れる場所だ。
話に聞くアースラのみんなの職場である。
フェイトちゃんも今はここでお世話になってるはずだ。

「うむ。リンカーコアは、もう回復を始めているね。若いからかな?」

耳慣れない単語が出てきて、なのはは少し首を傾ける。
後で、聞いて分かったことだが魔法を使う者なら誰もが持っている魔力の源であり
魔力吸収器官でもあるらしい、自分はそれが極端に小さくなっていたそうだ。
しばらくして、検査が終わり出て行く医者と入れ替わりにフェイトちゃんが入ってきた。

「なのは、大丈夫?」

「うん、私頑丈だから・・・でも」

でも、レイジング・ハートが・・・

「レイジング・ハートは大丈夫だよ。今、エイミィが部品を発注してる。
 それに、私もバルディッシュを」

辺りになんとも言えない雰囲気が流れる。
いけない、そう思い話題を変えるなのは

「久しぶりだね、こんな再会になっちゃったけど」

フェイトは、うんと答え二人の話題はこの半年間のことに移った。

同日  同時刻
時空管理局医療ブロック休憩所

ユーノとアルフは、休憩所でジュースを買っていた。

「それにしても、あいつら何者なんだい?クロノはなんか心当たりがあったみたいだけど」

「文献で見たことがあるけど彼女達はベルカの騎士だよ。
 武器の形状をしているデバイスに、あのカートリッジ・システムは間違いない。」

「ベルカって、あのベルカかい?最近になって古代技術の復元作業が進んでる、あの?」

「うん、そのベルカだよ。実の所、復元の8割は終わってミッドチルダ式との
 ハイブリットである近代ベルカ式も一応完成してるらしいけど
 最大の特徴であるカートリッジ・システムの安全性に関するデータが揃って無いから
 一般にはまだ出回ってないらしい・・・。
 なんで彼女達が失われたベルカ式を使ってるのか知らないけど、とても厄介な相手だよ。
 集団戦法に優れたミッドチルダ式に徐々に駆逐されていったけど1対1なら無類の強さを誇ると文献にはあった。」

ジュースを片手にアルフに相手の正体を推測するユーノ、実際に相手をして彼女達の強さは痛いほど分かる。
自分より明らかに強いなのはを倒し、フェイトを追い詰めたと言う事実だけで証拠は充分だろう。
そして一定の自負がある自分の防御魔法も危うく破られかけた。
なのはがSLBで結界を破壊してくれなければ全滅していただろう。

「なのはだけじゃなく、フェイトまで傷つけるなんて・・・!」

主とその親友が、傷つけられたことを思い出したのか
ギリっと握り拳を作りアルフは近くの壁を殴る。
幸い手加減はしているらしく壁は、へこまなかったがそれでも大きな音はした。

「うわ、何?今の音。」

「なにか、すごい音がしたぞ。」

「クロノにエイミィさん・・・。どうですか?レイジング・ハートとバルディッシュは」

「フレームはひどいことになってるけど、基本構造にはダメージが及んでないから
 部品交換すれば元に戻るよ。あ、ちなみに部品は来週来るみたい。
 ・・・・それからフェイトちゃんは、どこ?
 担当の保護観察官の人との面接の時間だから呼びに来たけど」

それを聞きアルフは急いでフェイトを呼びに行った。
保護観察官の心証を悪くしてもいい事なんて無いからだ。

同日   2156時
ギル・グレアム提督の執務室

グレアムは自分の方針を述べ、フェイトに自分との約束を守れるか聞き
なのはには自分の昔話を話した。

「さて、フェイト君が約束を守ってくれると確約してくれた以上、面接は終了だよ。
 そういえば、今回の事件の担当はアースラになるんだって?
 現場はいろいろと面倒なことになってると聞くが」

グレアムは、なのはやフェイト後ろで控えていたクロノに尋ねる。

「はい。もう知っていると思いますが今回の事件には、あの闇の書が関わってます。
 さらに現地世界の傀儡兵・・・いえASという兵器が出現しました。」

「そうか、あまり熱くなってはいけないよ。」

「大丈夫です。折り合いはもう着けましたし、提督の教えは守ります。」

クロノが部屋から出て行くと、それになのはとフェイトも続いていく。

「クロノ、ASってなのはを助けた傀儡兵のこと?」

「ああ、なのはに聞いた所によるとアーム・スレイブという人が搭乗する兵器で
 第97管理外世界の各国に配備されてるらしい。」

「うん。忍さんが詳しいから知ってたけど本物を見るのは、あれが初めてだよ。」

クロノの言葉に頷く、なのは

「ASについての情報はエイミィたちが収集してくれてる。
 現実問題は第1級捜索指定ロストロギア『闇の書』についてだ。」

「『闇の書』?」

なのはとフェイトは同時に聞き返す。

「闇の書は魔力収集型のロストロギア、他人のリンカーコアを吸収してページを埋めていく。
 666ページがすべて埋まったら完成するというものだ。」

「完成すると、どうなるの?」

「少なくともいいことだけは起きない。」

とだけクロノは答えた。

12月3日  1007時
海鳴市   市立図書館前

ザフィーラの散歩ついでに、はやて、シグナム、シャマルは図書館に寄る。
ちょうど、はやても返却しなければならない本があった。
ちなみにヴィータは家でまだ寝ており、お留守番である。

「しかし、珍しいなあ。シャマルも調べ物があるって、何について調べるん?」

答え難いことを聞いてくる主に、どう答えたものか迷うシャマル

「ええと、最近ヴィータちゃんがロボットアニメに嵌っちゃって
 それで、この世界にもASって言うロボットがあるって言ったら興味心身で・・・
 だからヴィータちゃんのために図鑑みたいなものを探してるんですよ。」

嘘は言っていない。事実、月曜日のゴールデンタイムに放送しているロボットアニメ番組をヴィータは、はやてと一緒に見ていた。
その嵌り具合を知っているはやては、なるほどと納得してしまう。
しかし、実際は昨日の戦闘に現れたASについて調べるためだ。

「では、私はしばらくザフィーラとここの周りを散歩してきます。」

図書館に動物の立ち入りは厳禁なのである。
ではなく、調べ物はシャマルに任せ散歩と称した付近の見回りをするためだ。
それに・・・・

(シグナム、例の臭いだ。)

ザフィーラが、家を出る際にシグナムに警告してきた。
だが殺気の類は全くなく、主の前でもある。一応、いつでも対応できるようにしていた。
しかし監視者がいるなら情報を得る絶好の機会だ。
そうして、ザフィーラが言う臭いの中心に向かって進んでゆく。

(ここら辺だ。)

流石にここまで来れば、ほんの微かだがシグナムにも臭いを感じることができる。
辺りを見渡しても、それらしい臭いの元になるものはない。
しかし臭いと気配を感じる虚空をシグナムとザフィーラは、じっと見つめ続けた。

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最終更新:2007年08月14日 12:06