(まただ、またわたしは逃げてる。偉そうなことばかり言ってて………)
「……よし、レリックは無事回収したわ」
「…………」
「ちょっとスバル聞いてんの?」
「あ、ごめん……車両のコントロールを今から取り戻すってリイン曹長が」

過去のことを思い出し巧から迷惑と言われ意気消沈していたスバルはティアナと合流して車両内を進む
合流した時はティアナから何かあったのかと聞かれたが精一杯笑顔を取り繕ってごまかした。
ティアナは何か言いたそうだったが今はレリック回収の任務が優先だったのでそれに専念。
回収を無事に終了しこれで任務は終了かと思われたが……入った通信が状況を再び変える

「……あ、ティア! エリオとキャロが苦戦してるから援護に向かえって!」
「こっちにも指示が入った……相手は新型らしいわ!」
「新型……もしかしてさっきの!?」


新型ガジェットと交戦していた巧のことを思いだし7両目から飛び出し奥の8両目へと向かうスバル
ティアナも急いでスバルの後を追おうとするがマッハキャリバーのスピードには追いつけず一瞬遅れる
破壊されていた天井から車両の外へと飛び出すがそこで2人が見たのは……
2人が驚愕するほどの巨大な竜を使役しているキャロ・ル・ルシエとエリオ・モンディアル
しかしその外見に見覚えがある2人はすぐさま竜の正体に心当たる

「あ、あの竜ってひょっとして……フリード!?」
「まさか……あれがチビ竜の本当の姿だっていうの……?」

普段はキャロの傍に常にいるはずの小さな竜がいないこと、そして外見がそっくりなことからもわかる
肩に乗っかるほどの大きさしかなかった竜が子供とはいえ人間を2人も乗せていることにまた驚く
唖然としているティアナとは違いスバルはただ純粋にその姿に感心していた。
『かっこいい』と、そう口にしようとした瞬間背後で風が吹いた。

「があぁっ!! ぐはっ、が………あぁ!!」
「え……あっ!!」

風の発生源はⅠ型のガジェット編隊に防御を削り取られ、大型の腕に弾き飛ばされた乾巧だった。
「くそ……あいつら、本当に……ぐっ、鬱陶しいな……!」

乾巧の惨状は先ほどスバルが見たときよりも酷く惨たらしい。
身体の大半を血で濡らしそれでも立ちあがろうとする巧の姿に再び恐怖が走る。
遥か遠距離から放たれてくるガジェットⅠ型の砲撃が迫る

「……マッハキャリバー! お願い!」
“プロテクション”

しかし今度は先ほどとは違う、スバルは巧の前に出て右腕のリボルバーナックルを突き出す
回転したリボルバーナックルから魔力が吹き出しⅠ型ガジェットの砲撃をすべて防いた。

「ちょっと!? ……クロスミラージュ!」
“ヴァリアブルバレット”

ティアナもスバルの背後に回って砲撃を避け複数の魔力弾を直接命中させようとする。
片腕に握った銃型のクロスミラージュが魔力弾を放ち縦一列にならんだガジェットを貫通し破壊した
一度砲撃が止みガジェットが下がったことを確認したスバルは防御魔法を解除して巧に近づく。

「大丈夫!? しっかりして………え?」
「ぎゃあぎゃあわめくな……これぐらいなんでもねえよ」

地面に血の水溜まりを作れるほどの出血をしている巧はなおも立ち上がって戦う。
その光景を見ていたティアナは先ほどのフリードを見た時よりも強い驚愕……というより恐れていた
巧が地面に叩きつけられた場所ほぼすべてに血痕がついているという信じがたい光景

「……まさか君は、わたしを逃がすためにあんなこと」
「さあな、さてと……やるか」
「ダメだよ! 酷い出血なのに……」
「魔力変換ってやつで血は増やしてる……から、大丈夫だ」

巧の出血量を考えるととっくに死んでいる状態のはずだった、それは素人目でもわかる。
しかもスバルとティアナは災害救助の現場を2年間も経験したことから判断していた。
だが信じられないのはそれでいて未だ目は死んでいない、むしろまだ戦意が上昇していること
この怪我ではいつまで持つかわからない……魔力変換も魔力がなければ意味は無いのだ
見るに耐えかねたにスバルは通信機能でスターズ分隊長、高町なのはに救援を求めようとする
「ぐっ……よせ、やめろ!!」
それを止めたのは怪我人であるはずの巧、まるで威嚇するような声だった。

「やめろ……あいつらは呼ぶんじゃねえ……!」
「何言ってるの! その怪我じゃ」
「いいから呼ぶな!!」
「っ!?」
「あんな奴に助けられてたまるか……ぐっ!」

嫌悪感どころか憎悪とも取れるような感情を剥き出しにしてまで止める巧に気圧されて
その手を引っ込めてしまうスバル。再び恐怖に顔を歪めたスバルを見て一言だけ謝罪を口にした。

「……おまえに言うことじゃなかったな、悪い」
「そんな……それじゃどうするの!? 一人であの数なんて……」
「そうだな……どうするか……」

巧の魔力はほとんど残っておらずもはや並の砲撃でも傷ついてしまうほどの防御力しかない
……他のガジェットを相手にしては大型までは倒せない、かといって大型を倒しても
動けなくなったその瞬間に他の連中に取り囲まれて終わってしまう……
つい先ほど『いられても迷惑だ』と口にしてしまったがもうこれしか方法がない


「……おい青髪、おまえの必殺技であいつらを全部潰せるか?」

他人を頼りたくはなかったがもうこれしか手段はない、そう思った巧は再びスバルに聞いた
顔が普通に戻っていくスバルは自信がなさそうな顔をしたので少々言葉を付け加える

「小さいのだけでいい、どうだ?」
「たぶん、大丈夫……でも大きいのまでは自信がない」
「充分だ」
「ちょっと待って、スバルのディバインバスターは前後の隙が大き過ぎるわ」

体力を消費しないためになるべく少ない言葉で伝えようとした巧。
スバルは頷こうとしたがそのやりとりにティアナが割り込んだ。
ディバインバスターの威力はティアナも知っているが放つまでの時間がやや長い
現にティアナも試験の時は放たれるまでにフェイクシルエットを魔力の限界寸前まで使用していたのだ。

「ねえ……あんた、いったいなに考えてるの?」
「……要はあいつらを釘付けにしてりゃいいんだろうが」

顔を傾げる2人に向かって巧は少々面倒くさがりながらの計画を告げたが2人からは即座に反対された。
「なにバカなこと言ってんの!? あんた、あの中に突っ込んで時間を稼ぐだなんて……!」
「しかもそこからわたしのディバインバスターを避けるって……絶対無理だよ!!」
「……これ以外になにか考えがあるのかよ」
「君の負担が大き過ぎる! もし失敗してこれ以上怪我したら、本当に死んじゃうかもしれないんだよ!?」

スバルの『死』という言葉に敏感に反応するティアナとまるで今知ったとでも言うような表情をする巧
巧は元から死ぬつもりなど無かったが普通に過ごすはずだった人生を失い
いつのまにか自分の生死に有り得ないほど鈍感になってしまったが故の反応が先となってしまう。

「ああ、そうかもな」
「そうかもな、って……!」
「まぁその時はその時で諦めるさ」
「―――っ!!」

正直に口にした瞬間吹き飛ばされる巧。敵の砲撃ではない……原因はすぐにわかった
スバルのリボルバーナックルで右頬を殴られ再び頬から出血、もしかしたら骨も折れたかもしれない
しかし全身が痛すぎて巧はもうどこが痛いのかすらわからなくなっているため
吹き飛ばされたという事実しかわからなかったがそれでもスバルを睨みつけようとするが……

「なっ……おまえ、いきなり何するんだ」
「バカなこと言わないでよっ!!」

両肩を鷲掴みにされ大声を上げたスバルの表情に巧は完全に虚を付かれていた
何か言い返そうとするがその迫力に口にしようした言葉はすぐに霧散してしまう

「諦めるなんて、そんな悲しいことは絶対に言っちゃいけない……! 死んじゃったら終わりなんだよ!?」
「別に……そんなことはわかってるよ」
「わかってない! 君は絶対にわかってないよ!!」
「スバル……あんた、やっぱりまだ……」

幼いころの母との死別、受け継いだ右腕のリボルバーナックルとシューティングアーツ。
相棒であるティアナ・ランスターが執務官を目指す理由。
2年間の災害救助活動、そして四年前に自分が魔導師を目指すきっかけとなった事件……
そのすべてに幾人の人の死があったことを知るスバルは巧の反応と発言を認めるわけにはいかなかった
簡単に自分の命を放棄するような言葉を絶対に許すわけにはいかなかったのだ。

(やっぱりまだ引き摺ってたのね……お母さんのこと)

ティアナはそんなスバルの気持ちを良く知っているため何も言えなかったが
そういう事情を何も知らなかった巧でさえも何も口にできなかった。
スバルが剥き出しにした感情に完全に面食らっていたのだ、目から流れる粒のような雫に……
「自分の命を軽く扱うなんて、そんなのダメだよ……!」
「まさかおまえ……泣いてくれてるのか? 俺なんかのために……」
「……なんか、じゃない。絶対『なんか』じゃない」
「相変わらず頑固なんだから……あんたの負けよ、こうなったスバルはあたしでも止められないから」

ティアナの言葉が耳に入らない、巧の繊細な心が涙を流して訴えるスバルの声と気持ちで揺れている。
自分の命を軽く扱っている……そうかもしれない。生きてあの場所に帰るとは誓っていた。
だが心の何処かで『ここで死ねたら楽になる』と考えていたのかもしれない
もしかしたらあの場所はもう自分のいるべき場所じゃなくなってるのかもしれないと。
素直に謝ろうとはしたのだがすぐ別のことに気付いてしまった巧が少し慌てる。

「悪かった……ごめん。わかったからもう離れてくれ。」
「……どうして?」
「いや、ちょっと……あの、近いんだけど」
「えっ? 近いって……わぁっ!! ご、ごめ……きゃっ!」

急に両肩から手を離して後ろにさがろうとするがつい滑って尻餅をつくスバルを見て巧は思わず苦笑。
後ろで見ていたティアナも笑いそうになるがガジェットが再び動き出したのを察知して真面目な顔に戻る
そしてスバルも巧も再び戦闘態勢に入る、巧の体力も通常行動には問題無い程度には回復していた
しかし先ほどの作戦が結果的に2人から却下されたことでまた振りだしに戻っている。


「……で、結局どうするんだ? どうやってあいつらを倒す気なんだよ?」
「あたしに考えがあるわ。……とはいっても基本はあんたの作戦をそのまま使うんだけど」
「ティア! それじゃこの人が」
「話は最後まで聞く! あんたは敵陣に突っ込んだらすぐに飛んで」
「? わかった」
「そしてスバルはすぐにディバインバスターを撃って」
「え!? でも避けられるんじゃ……」
「こいつが飛ぶことで一瞬敵の目はそっちに行くわ、それが狙い目」
「……じゃあ撃ち漏らした敵はどうすんだ?」
「あたしが全部撃ち落とす、レリックを持ってて動けないからそれくらいしかできないけど……」
「ううん、充分だよティア! やっぱり頼りになるよ、流石だね!」

ティアナの作戦に満足したスバルは嬉しそうに頷きまた巧もそれに賛同する
そして2人は巧を見て一番の疑問点を口にしたがそれは

「あんたはあの新型……やれるの? そのボロボロの身体で」
「ああ、もちろんだ」
「………」

躊躇いも無く口にしたその言葉に呆れながらも、どこか頼もしいものを感じる。話は決まった

スバルが右腕のリボルバーナックルを振り翳してカートリッジをロードすると同時に
ティアナも持っていたレリックを地面に降ろしてクロスミラージュのカートリッジをロード。
周囲にスフィアが生成されるのを見て2人の準備が整ったことを確認した巧は
残りの魔力の一部をかき集めて右手の中にブラッドスフィアを生成する。

"Faiz Pointer READY"
〔え? スフィアが……物質になった?〕
〔……また変な魔法ね〕

多少の違いはあるとはいえ紛れも無く幾度と無く使用したポインティングマーカーデバイス
高性能なデジタルトーチライトとしての機能も備えたファイズポインターに変形させた。
エナジーホルスターを再現したバリアジャケットの右足部分にセットしたそれの扱いには慣れている
"Faiz Pointer Exceed Charge"
巧は今残っている自分の魔力を振り絞りそのほぼ全てを両足に集中する。
一際強く輝いた真紅の光がバリアジャケットの赤いラインを伝いファイズポインターに装填された。

「……じゃあ俺は行く、後は頼むぜ?」
「任されたけど……気をつけてね?」
「ちゃんとやりなさいよ!?」

ティアナとスバルが自分を心配するかのような問いかけをする、振り上げた手首が巧の返答だった。
魔力を溜め込んだファイズポインターが赤く光り輝いているのが2人の目に止まった。
すべての準備が完了したと同時に再び動き始める前にガジェットに向かって巧は突撃する
それに反応したガジェットから再度砲撃が放たれるが今の彼には多少の痛みなど些細なことだった。
車両を踏み越え、砲撃に耐えながら奥にいる大型ガジェットに少しでも近づくために走り続ける。

浴びせられる攻撃のせいで先ほど傷ついた頬や腕からまた血が溢れ出してくる。
しかし巧はそれすらも我慢して攻撃を受け続け突撃を続ける。
自分が提案した無茶な作戦を受け入れてくれた2人の少女に応えなくてはならないから

『生きなきゃダメなんだよ、わたしたちは……生きてなきゃだめなんだよ』

それは自分の言葉のせいで泣かせてしまった青髪の少女への、せめてもの償いの意味もあった。

〔スバル! あいつが飛んだのを確認……今!!〕
「OK……一撃、必倒!! ディバイン……バスタァァァァーーーー!!!!」

スバルが生成した青い魔力スフィアに自ら打ち込んだ右拳のリボルバーナックルの魔力が融合する。
2つの魔法力が組み合わされ放たれた魔力の奔流が巧の突然の行動に注意をひかれた。
大勢のⅠ型ガジェットを飲み込んていく……全機には命中せず、だがスバルはすぐさま状況を確認。

〔ティア! 左側に2つ、右に3つ……いける!?〕
「あんたほどじゃないけどよく見えてるわ! クロス・ファイヤァァァ……シューーートッ!!」

周囲に生成した魔力スフィアが誘導操作によって撃ち漏らしたガジェットに向かって放たれる。
やや遠距離なので不安もあったが本番に強いティアナはここでも持ち前の勝負強さを発揮。
一撃も外すことなくすべてのガジェットのAMFごとボディを貫通し撃破していった。

「これであとはあの大型だけ……!」
「……見てティア、あれ!」

2人は空を見上げる、飛んでいた。重傷を負っているはずなのに高く飛んでいる。
大型ガジェットが3体積み上げられていようと飛び越えそうなほどに
空中で回転して足を伸ばすのが見えた。放たれるのは巧の魔力が変換された真紅の光の弾。
光弾は大型ガジェットが発動させたAMFすら易々と無効化して直撃。
直撃した光が広がり円錐の形状となって固定されガジェットの身動きを完全に固める。

「梃子摺らせやがって……こいつをぉ、食らえぇぇぇぇぇぇっ!!!」

巧はそのポイント弾に吸い込まれるかのように右足のみを伸ばしてそれに飛び込んだ。
棒立ちの大型ガジェットに巧の蹴りと一体化したかのように突き刺さる赤い円錐状の光が輝きを増す。
その光はすべてガジェットに吸い込まれ機械の体を瞬時に削り取り円型の風穴を開ける。

「嘘……! ホントに一撃!?」
「まさか……!」

最後にスバルとティアナが見たのは新型ガジェットが機能を停止して爆発を起こしたこと。
その一撃――クリムゾンスマッシュが直撃した瞬間浮かび上がるように刻まれた"φ"の紋章。
そして残ったすべての力を使い果たしたかのように膝を付いている乾巧だけだった。

「やった、か……これでやっと、休める……」
全力を絞って真紅の一撃を放った彼のバリアジャケットが解除され、車両の上に倒れ伏す。
身体を支えようとしてもすでに腕すら満足に動かせなくなっていた巧は顔を打ちつけてしまう。

(……くそっ、あいつに殴られたのが今ごろ痛くなってきやがった)
自分が心から願っていたはずのあの場所でのなんでもない光景は、浮かび上がってこない。
意識が消える寸前に思い起こしたのは目の前で必死に叫んでいたあの悲痛な表情だけ。

身体のすべてが痛すぎて、もう何も感じなくなっていたはずなのに
なぜかスバルに殴られた頬の痛みだけが……その意味を考える前に巧の意識は完全に途絶えた。

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最終更新:2007年08月14日 14:05