リニアレール車両内のレリック回収後―――時空管理局 遺失物対策部隊 機動六課隊舎

「あーくそ面倒だな……なんで俺はこんなことやってるんだっけ」

乾巧は共同宿舎(簡単に言えば寮)内の掃除をしていた……丁寧に清掃服まで着用して
聞いた話では巧は傷が深すぎてかなり危ない状況、というよりは常人なら死んでいるはずだったらしい
生きていることがありえないと言われたのが少しだけ癇に触ったがまあ仕方ないと思ったが……

(普通じゃないのはわかってるからいちいち言うなってんだよ、あー苛つく!)
「あいつファイズのミッションメモリーに妙なことしてねえだろうな……?」

前に啓太郎から店の周辺や中は常に綺麗にするように言われていたので清掃は手馴れている
それ以前にバイトを多くこなしているうちに自然に身についていた技能だった。
心の中で愚痴を少しずつ溢しながら通路をすべて磨き終え一息ついた、その数時間前……


つまり朝、医療室のベッドで眠りから覚めた時はあの時の戦いからすでに2日が経っていたらしい。
一度は外に出ようとしたがなぜか服は大半が脱がされていたため迂闊に動けなかった。
やることもないのでしばらく寝ていたら突然誰かが入ってきたので身を起こしてみたら……

「あっ、目覚めていたのですか……?」
「いやまだ寝るとこ」
「も、申し訳ありません騎士ファイズ!」
「いや別に謝ることじゃねえだろ……なんだよ騎士って」

礼儀正しくて堅苦しそうな眼鏡男がその手には袋に包まれた服を握られていた。
後ろにいたもう一人も眼鏡だ……しかも女でロングヘアー、こっちも服を持っている。
息が詰まりそうな顔をしている男とは違って幾許か話し易い雰囲気がある。
かといって巧が自分から話しかけることがあるのかと言われると……答え辛い。

「お初にお目にかかります、騎士ファイズ。私は時空管理局本局古代遺失物管理部
 機動六課所属ロングアーチ、グリフィス・ロウラン準陸尉です」
「おいちょっと待てなんだ今の早口言葉は」
「はい、私は時空管理」
「誰が繰り返せって言ったんだよ、え?」

怒る気など始めからなかったのにしつこい眼鏡の青年につい怒気を含んだ声を発してしまう
自分の対応の拙さに苛立ちを覚えながらも目の前で頭を下げる青年に話しかけた

「申し訳ありません!」
「だから謝ることじゃねえって、息苦しいやつだな……で、そっちは誰だよ?」

巧の荒唐無稽な言動と突っ込みを受けても真面目に返答してばかりの眼鏡の男。
ほんの少しだけ木場勇治に似たものを感じたが今は考えないことにする
そして横に立っていた眼鏡の女……こちらは長田結花に似ていたが全然違う。

(それ以前にまずあいつは言葉すら喋れなかったみたいだからな)
「おはようございます騎士ファイズ。私は時空」
「いい、その辺りは飛ばせ」

巧の意見を組んで省略する眼鏡の少女はいたって表情を崩さずに明るい顔で続けた。

「執務官の補佐を務めていますシャリオ・フィニーノ一等陸士です、気軽にシャーリーって呼んでください」
「わかったシャーリー」
「わぁー、順応が早いですね」
「じゃあやめるぞ眼鏡2号」
「いえいえちょっと待ってください! その反応とあだ名は有り得ませんから!」

しかもノリがいい、ちょっとうるさそうだがこんな場所ではそれが憂鬱な気分を飛ばしてくれる。
そしてこの雰囲気についていけない眼鏡1号を眺めるのが少しだけ面白かったがさすがに悪いと思い
巧は慣れない助け船を出すことにした、他人のフォローに回る巧など聞いたことはないが……

「眼鏡2号はシャーリーでいいとして……おい眼鏡1号、おまえはなんて呼べばいいんだ?」
「あなたの呼びかたに合わせます。できればその呼び名は遠慮したいのですが・・・」
「じゃあロウランって呼ぶよ。あと俺には敬語を使わなくていい、こっちが疲れる。」
「ですが聖王教会騎士団でも有数の力を持つと言われる騎士ファイズに」
「それだよ! なんで俺が騎士ってことになってるんだ!?」

そこでで眼鏡1号もといロウランから詳しい説明が入ったが細かく話すのが有り難くもあり……
簡単に纏めるとカリムとシャッハが手を回して一先ずそういう扱いにしていたらしい。
巧にはそういうことにしておかなければいろいろと面倒になるということしかわからなかったが

機動六課の隊舎を案内してもらっている間に大抵の説明は聞いた。
見回っている最中に何人かの人間とすれ違ったが皆脅えを含んだ目で巧を見ていた。
もう慣れきっている巧は我関せずでもういつもどおりに他人に関わらないことにする。
しかし両隣を歩いているシャーリーとロウランは別のことが気になるらしい。

「あのーところでファイズ君? なんでよりによってその服着てるの?」
「普通に私が持ってきた制服を着てくれれば…」
「冗談じゃねえ! こんなくそ暑い時期にあんな暑苦しいもん着てられっか!」
「私達は着てるけど? 隊舎内じゃ空調が聞いてるのに」
「通気性は良いはずなのですが……」
「見た目が暑いんだよ!」

聖王教会の騎士が無愛想かつぶっきらぼうに言い放つ姿を見てさぞかし滑稽に見えただろう
しかも着てる服がロウランの持ってた制服ではなくシャーリーが持ってた作業着でしかも清掃服……
「騎士にそんな格好をさせるなんて」とロウランは口にしていたが
「いいの、ファイズ君って全然騎士っぽくないから」とあっさり流したシャーリー

「グリフィス君だって思ってるよね? この人が騎士っぽくないって」
「いやそんなことは・・・」
「正直に言っていいぜ、別にわかってるから」
「……はい、正直に言えば全然」

それは当たり前だろう、実際に自分は騎士でもなんでもないのだから。
無理にでっちあげたカリムとシャッハのやり方に無理があると言わざるを得ない。
もし話す機会があればきっちりと問い詰めてやろうと思いながら
……2人は服のことを突っ込んでいたがそれはきっと気遣われていたのだろう。

この世界に来てから1ヶ月・・・既に巧は理解している、自分はここでも異物なのだと。
それはいつものことなのでもう完全に慣れてしまっていた。
しかし誰かに会う度に嫌な顔を見せられたらこっちも気分を害する
だから掃除をするとロウランとシャーリーに言い出したのだ。

(いちいち知らない奴に避けられるよりかこっちのほうがマシだ)

知らない人間と関りを持つのは苦痛でしかないはずのそんな巧の心を解してくれたのは
ロウランの過剰なほどの礼儀正しさとシャーリーの人懐っこさのせいだろうか?

(掃除は自分から言ったんだったな……にしてもあの眼鏡コンビ、やけに仲がよかったが)

巧は他人の恋愛話に関して非常に興味が深い。自分ができないからというのもあるかもしれないが
今日は案内と相手してくれたお礼にいつかは助けてやろうと思ったりもするのである。
……あの2人がそういう関係という前提の話ではあったが。掃除が終わった巧は
自販機で飲み物を買い宛がわれた部屋に帰ろうとしたが途中で部屋に続くドアから話し声が聞こえる

「はいティア、いつものドリンク。」
「ありがと。あれ? あんたは飲まないの?」
「そんなに喉乾いてないからいいよ。」
「水分補給は欠かさない、忘れたの? しょうがないわね……」

どうやら声の主は列車の上で出会った二人らしく飲み物のことで話をしていたらしい
巧が手に持っているドリンクは自販機の当たりで手に入れたものを含め2つ
ちょっと考えたがどうせ2本も飲まないからと思いドアの前に立つ。
一先ず被っていた帽子を目深く被り顔を見せないようにするのを忘れない。

「はーい・・あれ? その服って清掃員さん……って」
「差し入れだ、受け取れ」

自動的にドアが開け放たれた瞬間にでてくる青髪の少女が一瞬で感づく。
顔を見られる前に巧は左手に持ってたスポーツドリンクを放り投げる。
一瞬驚いた顔をしたがすぐに反応して動き、ドリンクをキャッチ。反応速度はかなりいいらしい。

「わわわ……っ!」
「ナイスキャッチだ、じゃあな。」
「え? あ、ちょっと!」

呆然としたまま固まるティアナと貰ったことを素直に喜びながらも追い掛けようとしたスバル。
2人の表情は既にドアの前から離れていった巧の目には写るわけがなく……
別に逃げる必要などなかったのだがただでさえ疲れている奴をさらに追い込むことはないだろう。
そして宛がわれた部屋に戻った巧は無造作に服を脱ぎ投げ散らかして地面に倒れ込む。
ロウラン曰く『私物は部屋に置いておきました』だが巧の私物はアタッシュケースに詰められるほどしかない
例外はいつものようにベッドの下に置かれてあったギターだがこれも持ち歩けないわけではなく

(風呂にはまだ入れねえな…それにそんなに汗はかいてねえし……)

全身の傷は治ったと言われていたが両頬の怪我はまだ治ってないため染みる可能性もある。
……それに古傷に何の影響があるかまだわからないため風呂はやめておくことにした。

こうして巧の夜は、意識のある中で初めて過ごした機動六課の夜は普通に過ぎていく……

「これが生きて動いているプロジェクトFの残滓さ…どうだね? 素晴らしいだろう?」
「嬉しそう・・・いつになっても考える事は変わらないんだね、ドクター?」
「それは君も同じさ。違うのは求めるもの、私は研究資料で君は自分だけの家……それだけさ」

不気味なほどに広い部屋、周囲に設置されているカプセルの奥で機動六課の戦いが映し出されている
ドクターと呼ばれた長髪の男と共にモニターに写る映像を脅えた様子で見守る一人の青年。
心から漏れ出しそうなほどの笑顔で語っている長髪の男から放たれる気に押されているのだろう。

黙りこんだまま動かなくなった青年をモニター越しで見ていた女性が喋り始める

「あなたに朗報よ、ゼストとルーテシアが再び動こうとしているわ。」
「え……ルーテシアにゼストさんが?」
「またあなたに来てほしい、そう伝えてくれと言われたの。」

一瞬驚いた顔をしたがすぐに笑顔になる青年を見て笑みを浮かべる長髪の男
表情を崩さない女性は移ろい易い青年の感情に一瞬不安を覚えたが構わずにドクターが喋る。

「彼らがまた動くのか……うむ、君としては向こうにいたほうがいいだろう?」
「うん……ここにいたらクアットロに苛められちゃうからさ」
「いけない子だなぁ、あとで注意しておくよ」
「助かるよ。それじゃ準備をしてくるね」

その場から離れようとする青年だったが女性がそれを止めて不安の種となっている要因を尋ねた。

「大丈夫なの? あなたのIS【デモンズスレート】はまだ制御が……」
「それがなくても俺には別の力もあるから大丈夫だよ。」
「おやおや、随分と嬉しそうだねぇ?」
「あそこも家みたいなものだから……家に帰れるのは嬉しいし」

嬉しさを押さえ切れないのかドクターから次第に離れていく青年のスピードは速い。
長く一緒に居たくなかったせいもあって即座に離れ数分で支度を整えたところに頭の中に声が聞こえてくる。
昔とまるで変わらない懐かしい声に青年の心は沸き上がった。



〔シュウジ? 聞こえる? 久しぶり……〕
〔ルーテシア! ゼストさんやアギトちゃんはいるの?〕
〔うん。今から道を繋ぐから転送用意ができたら〕
〔大丈夫! いいよ、デバイスも持ったから〕
〔わかった、行くよ〕

銃の握り手を思わせる銀色のデバイスを持った青年は紫色の魔法陣に包まれ自分の家に帰っていく
昔と変化のない感覚だが光が眩しくてつい両目を閉じてしまう。そして光は不意に闇へと変わった
目を開けた彼を迎えたのは、屈強な体つきをした大柄な男に赤い髪をした妖精の少女
そして額に何かのマークを刻んだ紫髪の幼き少女…かつて行動を共にしていた仲間たち。

彼は再び帰ってきた、愛すべき仲間がいる場所。自分の家族がいる暖かい家に……

翌日、機動六課自慢の訓練場でいつものように訓練をする機動六課新人フォワード4人。
いつもなら戦技教導官でありスターズ隊長でもある高町なのはだけが指導しているのだが
今回は執務官でありライトニング隊長のフェイト・T・ハラオウンも立ち合っている。

午前の訓練がラスト一本で終わるその前に突如デバイスマスターのシャーリーから通信が入る。
いきなりのことで虚を付かれたなのはだがすぐにフェイトと共に話の内容を聞き始めた

〔ねえねえティア、いったい何の話かな? ひょっとしてもうリミッター解除だったりして〕
〔いやまだ早すぎるから。このデバイス受けとってまだ3日も経ってないのよ?〕
〔そういえばシャーリーさんから要望を出すって珍しいですね〕
〔普段は訓練を見学しにきてその後にデバイスを改良してるのに……〕

「はーい! みんなちょっと聞いてくれるかな?」

4人が念話でそれぞれの意見を出し合っている間に話が纏まったらしくなのはが声を出す。
訓練開始から1ヶ月ということもあってやや慣れてきたそれに4人は返事をして横一列に整列。

「皆も知ってると思うけど、明日から個人スキルに入るからね?」
「それで最後のシュートイベ―ションで皆の実力を確認するはずだったんだけど……」
「シャーリーが『デバイスのデータを採るためにどうしても戦ってほしい相手がいる』って」
『なのはさん、フェイトさん。そこからは私が説明します』

なのはとフェイトの話を遮って空間モニターで割り込んでくるシャーリー。
新人フォワードの4人も少し驚いたが姿勢は揺るがない。

『実はと言うと……4人のデバイスはまだ接近戦主体の相手とのデータがとれてないんです
 クロスミラージュやケリュケイオンは遠距離や支援主体だからあまり重要視されないんですが……』
『アームドデバイスであるストラーダやリボルバーナックルの動作にも影響して
 なおかつシューティングアーツを使用するスバルのマッハキャリバーはそうもいかないから』
「確かになのはさんは中~遠距離の砲撃戦が主体だから接近戦の訓練はあまり……」

シャーリーの言葉にスバルが呟く、遠くからの攻撃が強力ななのは相手にいつもリボルバーナックルで
殴りかかるのだがその度に防御魔法で弾き返され距離を離されてしまう。
それはストラーダに関しても同様で接近戦同士の戦いはまるでやったことがない。

「ごめんねみんな、私も訓練に参加できてればこんなことには……」
「それはフェイトさんのせいじゃないですよ!」
「それより大丈夫ですか? 事件の捜査で忙しいんじゃ……」
「ふふふ、ありがとうエリオにキャロ。」

年下の2人に気を使わせることを軽く恥ながらも素直に例を言うフェイト。
他人を気遣えるようになった2人を見て内心驚くとともに嬉しい気持ちになったのは秘密
……のはずなのだが表情は隠そうとしていない、フェイトは生粋の親ばかなのだ。

「ところでシャーリーさん、相手は誰なんですか? ヴィータ副隊長やシグナム副隊長はいませんし……」
『ああうん、そうだね。その人は私の近くにいるから……皆、準備はいいかな?』

ティアナの質問にシャーリーが答え、その問いに4人全員が頷く……準備完了の合図だった。

『これで準備完了……それじゃあ見せてもらうよ、キミの実力をすべてをね。』
『いきなり呼び出されたと思ったらこれかよ』
『まぁまぁ愚痴らない愚痴らない、データがとれたらそのデバイスもメンテナンスしてあげるから』
『余計なことするのが好きな奴だな』
(男の人の声? この声、どこかで聞いたような……まさか?)

昔ではない最近知ったような声を聞いてフェイトは考え出すがそれに構わず
話し声が途切れると同時に空間シミュレーターで出来た廃墟ビルの屋上から飛び降りる人影。
地面に着地した瞬間、男の周囲に強風が舞い上がり4人の新人フォワードだけでなく
見守っていたなのはとフェイトも飛ばされないように踏ん張っている。

「うわっ……いったいなんなのよ、この風……!」
「くっ…大丈夫キャロ?」
「う、うん! ……スバルさん? どうしたんですか?」
「……この感じは」
「ちょっとスバル! どうしたの!?」
「わかる、あの人だ……!」
「スバルさん!?」

身を守るのが精一杯なライトニング2人とスバルを気遣うティアナ。
そして風をその身に受けながら感じた気配をティアナにそのまま伝える。
スバルの説明を聞いてティアナは真面目な顔をして全員に伝える

「気をつけてみんな……今から私達が戦う相手は、ここにいる全員より遥かに強いわ」

風が収まりその姿が現れる、昨日突然部屋の中に現れドリンクを投げ渡した青年
3日前のレリック回収任務に先行して空のガジェットを多数撃墜。
ツインブーストの力を得て破った大型ガジェットを瀕死の状態で撃破した男

降り立った青年は、教会騎士団有数の実力を持つ恐るべき青年…
という完全な嘘の認識が刷り込まれていることも知らずに協力している乾巧だった。
巧を確認したなのはとフェイトは心の中で同じことを考えていた。

きっとこの模擬戦は、普通に終わることは絶対にないだろうなぁ……と。

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最終更新:2007年08月14日 14:06