戦いは、すでに始まっていた。
 アンデッドとこの世界の住人の初戦闘。だが、やはりアンデッドに勝てはしないだろう。
 アンデッドは死なない。封印能力を持つジョーカーかライダー、または統制者の力が無ければアンデッドは決して止められないのだ。
 案の定、あの守護獣はものの見事に打ち倒されていた。
 そしてあの獣人を受け止める二人の女性ににじりよるアンデッド。
 そこに、ようやく奴は現れた。
「遅いぞ、剣崎ぃ!」
 思わず歓喜の叫びが漏れる。そうだ、今こそ奴の力を解放するときだ。俺が倒すべき力を。仮面の力を!
 俺は煙幕を兼ねたステルス結界を展開しながら、奴の元に接近していった。



     リリカル×ライダー

     第十話『ライダー』




「俺は、『仮面ライダー』だ!」
 カズマから溢れ出す力。封印されていた力が解放され、細胞の一片までも余すところ無く活性化される。
 銀色に光るアーマーの各部に穿たれたスペードの刻印、ハンドガード部に展開式のカードホルダーが設けられたことで本来の状態に戻った醒剣ブレイラウザー。
 ライダーシステム二号機、ブレイド。
 これこそが、カズマの刃だった。
「そうだ、それだ! その力こそ僕が打倒したかったものだ!」
 イーグルアンデッドは空から地上の煙幕越しにカズマを見つめる。その鋭い瞳は、最高の獲物を見つけたことによって輝いていた。
 カズマは空を見上げる。未だ煙幕は濃く、視界には白い煙しか映らない。だが彼の視線は正確にイーグルアンデッドに向けられていた。
 そんなときだった。
『久しぶりだな、剣崎君』
「えっ!?」
 突然チェンジデバイスから声が発生する。
 その声が、台詞が、カズマの様々な記憶を揺さぶる。
(剣崎……そうだ、俺の名字だ。そうだ、俺はこんなもので仮面ライダーに変身したりはしなかった。何故? それにこの男は……)
『剣崎君、今は目の前のことに集中したまえ』
 その台詞にはっとする。そうだ、今はこの上級アンデッドの封印が先決だ。
『手短に説明するが、そのチェンジデバイスには魔導師モードとライダーモードがある。
 今はライダーモードを起動しているが、ライダーモードは全機能を解放するモードだからその状態でも魔法は使用可能だ。すぐに飛行魔法を使用したまえ』
「待て、アンタは一体――」
『君の恩人であり、君を苦しめる者。忘れているだけだよ、君は。さぁ、急げ。剣崎君』
 それきりチェンジデバイスは何の反応もしなくなった。
 カズマは嘆息をつきながら両脚に力を込める。そう、今はそんな瑣末なことを気にしてはいられない。戻った力を使って、目の前の脅威を振り払わなければならない。
「フライブースター!」
『Fly booster』
 力強く地面を蹴り上げ、カズマは飛翔する。
 イーグルアンデッドの待つ、蒼空へと。



     ・・・



 ついに憎きライダーが本来の力を取り戻した。
 欠けていた刻印とカードも戻り、かつて戦ったときと同じ姿になった。ベルトだけは違うが、それはどうでもいいことだ。
 そう、これでかつての雪辱を晴らすことができる……!
「ライダーァァァッ!」
「うあぁぁぁあぁっ!」
 俺は鉤爪を振るい、奴は醒剣を奮う。
 激しい摩擦音と火花。
 パワーは同じだが、技のキレは増している。やはり記憶も連動して戻っているのだろう。前回の野獣そのものの戦い方とは別人のようだ。
 互いに力を入れて相手を吹き飛ばし合いながら一旦間合いを取る。
 そして僕は自らの鉤爪を遠心力がかかるように振り回しながら奴に叩き付ける!
「ぐっ!?」
 だが奴はそれを剣で受け流し、あまつさえ反撃としてこちらの腹を蹴飛ばした。
「うあぁぁぁっ!」
 更なる連撃。
 こちらが怯んだ隙を突くように斬撃を放ってくる。それは滝のような激しさと流麗さ。
「調子に乗るなっ!」
 僕はそれを鉤爪で受け止めつつお返しに奴のヘルメットを左手で殴り飛ばす。
 勝負は全くつかない。
 僕は戦術を変えるために翼を羽ばたかせ、高度を一気に上げた。
「食らえ!」
 奴の上空から羽根を展開し、奴に撃ち込む。数十の魔弾はそれぞれが独自の軌道を描きつつ、ライダーを射抜かんと迫る。
『――SLASH』
「でやあっ!」
 同時に奴は剣の側面にあるカードリーダーにカードをスラッシュさせ、アンデッドの力を引き出す。
 互いの渾身の一撃がぶつかり合い――その余波が僕を襲撃する。
「何っ!?」
 両翼を畳んで盾としながら何とか防ぐ。
 信じられなかった。
 いくら奴がアンデッドの力を操る能力を持っているとしても、上級アンデッドが放つ精魂の一撃を容易く破れるはずがない。
(何故、だ……?)
 奴を見る。
 その無機質な仮面に付いた複眼からは、今までとは違う澄んだ力が感じられる。そう、目の輝きが以前より増している。
 だがそんなことはどうでもいい。僕は、勝たねばならないんだ!
「ライダァァァアァァァッ!」
 奴に向かって突撃する。己の信じる得物に全てを託し、身体中の細胞を躍動させ、自らの全てを懸けて。
『――KICK』
 奴はカードをスラッシュさせた後、足元に魔法陣を展開させ、その上で独特の構えを取りつつ剣を魔法陣に突き刺す。
「僕は、カリスと決着をつけるんだ!」
「俺は皆を、全ての人々を守るんだ!」
 互いが誇る最強の攻撃。
 僕の突きと奴の蹴り。
 原始的で単純で、それ故に最強足り得る攻撃が衝突する――!
「……が、はっ」
 結果、アンデッドの力を纏ったライダーの蹴りは僕の腹に直撃し、僕の突きは奴の剣によって受け止められた。
「がほっ、ごっ」
 身体から力が抜けていく。敗者の証明として、アンデッドバックルが開かれる。
 たかが低級アンデッドの力を纏っただけの、人間の一撃。しかしそれはこの僕を確実に貫いた。
(これが、奴の――人間の、力……)

――人間は弱い。けれど強い。

 過去が一瞬フラッシュバックする。
 カリスと決闘の約束を交わした後、残ったアンデッドの掃討をしている時の記憶。

――僕らには、守るべき者がいるから。

 そう、自分を倒した存在。カリスではないただの下級アンデッド。
 ヒューマンアンデッドの記憶。
(そう、か。奴には……)
 それを理解した数瞬後、僕は一枚の紙切れに吸収されていく自分を感じた。



     ・・・



「ようやく、ここまで来たな。剣崎君」
 広大な広間に広がる機械群。空中に展開される無数のモニター群。たった一人の人間には広すぎるはずの空間は、それらによって狭くすら感じる場所となっていた。
 その一枚には、緑の光になりながら一枚のカードに封印されていく一体の上級アンデッドが映っていた。
それを封印するのはブルーのインナースーツにスペードの刻印があしらわれた銀色の装甲に身を包む仮面の戦士。
「いよいよ奴も、そして橘君も動き始めたようだし、これから忙しくなるよ」
 一人の男がデスクに腰を下ろしてコンピューターを操作する。壮年の皺が入った頬を引き締め、紫の短髪をかき揚げながら彼は機械を操作し続ける。
「頼むよ、剣崎君。あの偽物を追い詰めてくれたまえ。私があの男を殺すために。そう、過去に清算を付けるために」
 モニターに四人の女性に囲まれた白衣を着た長髪の男が映る。その画面を注視しながら、男はキーボードを力強く叩いた。
 そこに映し出されるのは膨大な量の文章。正確には一つの物語。
 だがそれは彼が書いたものではない。周辺のモニターに映る数値に合わせて更新されている、いわば計画書。
「これは、私のケジメなのだからな」
 男は静かに、画面に映る白衣の男を睨み付けた。



     ・・・



 結局、煙幕もとい妨害結界のせいで戦いの一部始終を見ることは叶わなかった。
 後方支援部隊のロングアーチも妨害によって今回の戦闘を記録することができなかったと報告している。指揮官自ら戦場に出向いたのもミスだったかもしれない。
「しかしどうやってあの怪物を倒したんやろう……」
 最後に見た緑の閃光を発しながら消えていく怪人の姿が思い出される。あの現象が何なのかも分かっていない。
 すでに染み付きつつあるため息を漏らす。まだ19歳なのにどないしよー、となのはちゃんやフェイトちゃんに相談する始末だ。せめて皺などは入らないようにしなければ。
 閑話休題。
「フェイトちゃんとティアナが帰ってきてくれて良かったわ」
 ちょうど戦闘が終了した一時間後に二人は捜査を終えて帰ってきていた。ザフィーラが重傷を負った時だったので心強い限りだ。お陰で六課の防衛は二人に任せることができる。
 なのはちゃん達はまだ二日ほど帰ってこられないのもあって、二人の存在は想像以上に六課の皆を安心させている。というより、私が安心しているのだが。
 かつてJS事件のときに一度隊舎を破壊されたことがあるので、その安心感は何よりも欲していたものだ。私は広域殲滅魔法が専門だから迎撃などは向いていないし。
「カズマ君も元気みたいやしな」
 あの戦闘後、今までとは打って変わって明るく元気になったカズマ君は、今はフェイトちゃん達と夕食を取っている。
 本当は私も行きたかったのだが、今回の事後処理にザフィーラの通院申請と、やることが山ほどあったので諦めた。
「私はいつも退け者やぁ……」
 独り言が増えたのは内緒だ。



     ・・・



 高い天井と広さを兼ね備えた部屋を橙色の灯りが照らし出す。
 ホテルのロビーのように整っている部屋は、しかしホテルのように誰かを迎え入れるようには作られていない。
 そこは作戦室。
 または闘技場。
 円形のそこは、そのような用途で作られていた。
 そこに現れる影が二つ。
 片方は以前と比べてさっぱりした薄紫の髪と白衣が特徴の男、ジェイル・スカリエッティ。
 もう一人は彼の秘書にして、戦闘機人――スカリエッティの生み出した一種のサイボーグ――でもある妙齢の美女、ウーノ。
 スカリエッティは単に広い場所を求めてここに来ただけらしく、大量の機材をカプセルのような外見をしたガジェットⅠ型に運ばせてきていた。ウーノは彼についてきただけのようだ。
 スカリエッティはある装置の上に以前手に入れた緑を基調に金の装飾の入った箱を置く。装置を起動させると、いくつものモニターが空間に浮かび上がった。
「やはり、偽物だな」
「……はい?」
 突如呟くスカリエッティに、ウーノが戸惑いながらも問いかける。
 スカリエッティが思い付きや考えなしに独り言を言い出すのは今に始まったことではないのだが、ウーノがいちいちご丁寧に反応するのも今に始まったことではない。
「ウーノ。これはね、オリジナルを元に誰かが作り出した贋作なのだよ」
「は、はぁ」
 ウーノとて頭は悪くはない。いやむしろ秀才とすら言っていいほど彼女の頭脳は優れている。戦闘機人故にそれはコンピューターそのものとすら言えるほどだ。
 しかし彼女には柔軟性という人間として決定的なものが欠けていた。
「カードの方も偽物だ」
 憎々しげに吐き捨てる。そう言いながらカードもしっかりと手放さずに握りしめているのだが。
「オリジナルはおそらく何らかの不死生命体のようなものから力を汲み出す装置のようなものだったんだろうが、これは魔力を通せば特定の効果が発動するだけの、ただのデバイスだ」
 デバイスカードといったところか、と漏らすスカリエッティ。
 ウーノにはやっぱりついていけなかった。
「これもレンゲルクロスという名前らしいことは分かったんだがね……」
 偽物なのが残念だ、と言いながら弄り回す。しかし何だかんだ言いながら、スカリエッティはそれをいたくお気に召しているらしかった。
 彼の顔に張り付いた笑みが、それを証明していた。
「失礼します」
 そこに現れる新たな影。
「どうしたんだね、セッテ」
 影の正体は、薄桃色の可愛らしいストレートヘアに似合わない無表情を浮かべた少女だった。
 彼女、セッテはスカリエッティ奪還には参加せずに秘密基地の確保に向かったナンバーズであり、彼女を含めた四名が今スカリエッティの元に残ったナンバーズである。本来は12名もいたため、今は三分の一に戦力が低下していた。
「ラボのシステムが完全に復旧しました。これで全ての部屋に動力が供給されます」
「御苦労、休んでいてくれたまえ。これからまた忙しくなるからな」
「ドクター、これから何かなさるのですか?」
 その言葉に、ウーノが素早く反応した。
「当然だ。良い玩具も手に入ったことだし、ゲームでも始めようと思ってね。機動六課には借りがあるんだし、もうすぐ解散するそうだから、いっそのこと”消してしまえばいい”と思ってね」
 ウーノの言葉に顔を醜く歪めながら答えるスカリエッティ。だが彼の視線はウーノにではなく、レンゲルクロスの横のカプセルに注がれていた。
 そう、レンゲルクロスに似た、三つの機械に。
「ドクター……。いえ、わかりました」
 ウーノは答える。そう、彼女は決してスカリエッティには逆らわない。彼女は他の愛し方を知らないのだから。



     ・・・



 久しぶりに会ったフェイトとティアナとの夕食。それが終わった俺は、外に出て空を眺めていた。
 記憶。
 そう、俺は、重要な記憶をいくつか思い出していた。
 まずは本名。剣崎一真という己の名。
 そして自らの正体、正確には仕事。それが、仮面ライダー。
 最後に、俺が戦う理由。
 それは、イーグルアンデッドとの戦いが思い出させてくれた。
(そうだ。俺は、母さんや父さんの時みたいに後悔したくない)
 脳裏に過る灼熱の業火。明るく弾ける我が家と、光に押し潰される両親。何も出来ずに打ちひしがれるだけだった幼い過去の自分。
 ようやく思い出せた、自らの存在意義。
(俺が例え何者であろうと、人々を守らない理由にはならない)
 それが、ようやく分かった。
 まだジョーカーとして活動していた頃やライダーとして戦っていた頃の記憶は曖昧だが、今はこれで十分だ。アンデッドが発生している原因を突き止め、この世界の人々を守る。それを決意することができたのだから。
 そうして自分の気持ちに整理をつけ、隊舎に戻ろうとした刹那――
「――動かないで」
 凛とした声が、俺を押し止めた。



     ・・・



 ついに本来の力を取り戻したカズマだが、そんな彼に彼女が戦杖を突き付ける。
 そして二人の前にあの男が立ちはだかる――!

   次回『火焔』

 Revive Brave Heart

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最終更新:2009年07月26日 16:23