*



 クラナガンの朝は騒々しい。何故って、ミッドチルダの中心都市だから。
 電気駆動車だから騒音もないのに、街は五月蝿い。僕の耳が良すぎるのもあるんだろうけど。でも空気は意外と綺麗で住みやすい。
 ベッドから起き上がる。これがなかなか、寝心地が良いのだ。人間って凄いね。こんなものが作れて。以前もそれは実感したけど。
 ま、腐葉土のベッドの方が僕の一族は喜ぶんだろうけどさ。
「さて、開店準備でもしますか」
 今日も変わらない毎日。だけど悪くない。なかなか楽しいと思う。まともに"人間"として生きるのも悪くはない。
 僕は思念で下僕に命令を送る。開店準備なんて雑務は自分でやるものじゃない。人に見られない仕事は全部押し付ける。
 さぁ、今日はどんな面白い客が来るのかな。開店が楽しみだ。



   リリカル×ライダー

   第十五話『ガジェット』



「大変です、はやてちゃん!」
 甲高い小学生の女の子みたいな声が耳に入る。こんな声を出せる者は六課には一人しかいない。
「リィン曹長、部隊長って呼びや」
「あっ、ごめんなさい! はや――八神部隊長!」
 慌てふためきながら手足をばたつかせるリィン。二度目も危うく言いかけてる辺りリィンらしいと思うけど。
 可愛らしいが公的な場ではもう少ししっかりしてほしい。一応地上本部のロビーなんやから。それこそ連れてる私の品格が疑われる。
「実はガジェットを発見したってロングアーチが――」
「そのことなら知っとるよ」
 リィンがくりくりした大きな瞳をぱちぱちさせる。そう言えばリィンにも伝えていなかった。彼女は車で待機してたし。
 そう、私がわざわざ地上本部を訪れていたのもその件だ。正確にはそれを予想しての行動だが。
 遂に出現したスカリエッティ、そして呼応するように各地で出没するガジェット。スカリエッティの仕業なのは間違いない。
 クラナガンに被害は幸いにも出ていないが、その目的は皆目検討もつかない。
 けれどあの男が意味もなく行動を起こしたりはしないはずや。調べれば必ず手掛かりは掴める。
 情報が少ない今、私達にはガジェット捜査の許可が必要だった。そしてそれを今取得した訳だ。
「リィン、なのはちゃんに連絡して。それとカズマ君も呼び出すよう、なのはちゃんにも言っといてな」
「はいです!」
 地上本部から出て車に乗ると同時に指示を出す。これから六課も忙しくなるだろう。私も頑張らなあかん。
 あの男との因縁、ここで断ち切る。
「はやて、六課に戻るの?」
 前席から声がかかる。フェイトちゃんだ。実はわざわざ迎えにきてくれていたのだ。
 ただ車はお世辞にもセンスが感じられないゲテモノスポーツカーやけど。
 いくら給料が有り余っているとしても、私はこんな無駄遣いはしないなぁ。本人には言えないけど。
「頼むわ、フェイトちゃん」
 車が緩やかに動き出す。振動も騒音もない車内で、傾けたリクライニングシートに深く腰掛けながら、私はこの先のことを考え始めた。



     ・・・



 そこは砂塵舞う戦場だった。
 砂漠の中に作られた、土壁の家が立ち並ぶ小さな街。そこで薄汚い衣服を纏った者達が小銃片手に暴れまわる。
 彼らが浮かべる表情は、恐怖。
 先程まで狂気と狂喜で染められていた顔にべったりと塗り付けられているそれは、俺に向けられたもの。
 そう、化け物である、俺に。
 パン、パン、と。乾いた銃声が響く。体に衝撃。胴に突き刺さった鉛玉によって緑の血が流れ出す。その血に彼らはまた恐怖を深める。
 だがそんな鉛球では効き目はない。瞬く間に傷口が修復されていく。何発当たろうと、意味はない。ただ、痛いだけ。
 俺の姿、能力を目の当たりにした兵士は皆一様に表情を歪め、先程まで争い合っていた者同士でこの場を逃げ出す。

 ――それでいい。

 敵味方に別れて争う者達、だけど彼らは相手が憎くて戦っているわけじゃない。敵だから銃を向けているだけだ。
 だからこその、俺。人類の敵。排除すべき化け物。
 近くにいた勇気ある兵士の小銃を叩き落とし、背中を押すように殴り付ける。そいつは鼻水を流しながら必死に逃げていった。
 それでいい。俺を憎み、俺を敵として認識すれば争う理由はなくなる。戦う意思を維持している者は俺が直接銃を奪えばいい。
 それでいい。それで良かった。これで互いに争わずに済む。これで、この戦いは一時的にでも終わらせられる。
 それでいい、と俺は呟き続ける。ジョーカーとなった硬質の頬に、冷たい何かを感じた。


「……夢か」
 最悪の目覚めだった。
 あれは五年ほど前の話か。正確にはは分からない。しかし酷い内容だったのは間違いなかった。
 あの後、俺は戦車砲や爆撃により、木っ端微塵に吹き飛ばされた。それでも死ねないから、彼らは撤退するしかなかった。
 結局、両陣営は俺という不確定要素を前に休戦を決定。一時しのぎかもしれないが、戦いを止めることが出来た。
 俺はそうやって、一時的なレベルでも戦いを止め続けた。
 それを、十年も続けた。
「だから、俺は――」
 雪山、崖、鈍い音、緑の血溜まり。
(……止めよう。思い出しても不快なだけだ。ただでさえ気落ちしているというのに)
 橘さんが死んでしまったことで散々気落ちしたのだ。もうこれ以上は耐えられない。
 そんな電気すら点けずにいた俺の部屋に、一陣の光が射し込む。
「「カズマさん!」」
 射し込んだ光より尚明るい子供の声。聞こえた方向に視線を向けると、そこには可愛らしい来客がいた。
「……エリオにキャロじゃないか」
 六課最年少のフォワードメンバー、エリオとキャロ。二人は丸い頬を綻ばせながら俺に向けて笑顔を振り撒いていた。
 ――あの夢の後に見たくはなかったな。
 そんなことを思う俺を他所に、キャロが薄桃色の頬を膨らまして俺の隣に座った。
「カズマさん、もうお昼なのに寝てちゃダメですよ」
 俺の隣で腰に手を当てて可愛らしく俺を叱るキャロ。その桃色の髪に手をやり、ぽんぽんと軽く叩いた。
「ああ、悪かったよ」
「それよりカズマさん! 今からキャロとクラナガンに行くんですけど、一緒に行きませんか?」
 エリオが目を輝かせながら俺の元に歩み寄る。その目は純粋に遊びに行きたがる子供のそれだ。
 こういったところを見てると、とても二人が強力な魔導師とは思えなくなる。
「でも良いのか? こんな時期に」
 遊びに行くのは俺としては構わないと思うのだが、スカリエッティが出現した以上、そんな休暇があるとは思えなかった。
「フォワードの皆には半日だけ休息を与えることになったんです!」
「だから大丈夫です、行きましょう!」
 そんな心配は無用だとばかりに俺を引っ張る二人に抵抗する術はなかった。
 だから一言だけ、抵抗の言葉を吐くことにした。
「わかったから。取り敢えず――シャワーを浴びさせてくれ」
 二人が仲良く一斉に俺から離れた。



     ・・・



「……ドクター」
 書物と機械にまみれた、油と紙の匂いが充満する部屋。しゅごーしゅごーと蒸気かガスの音が中を彩る。
 本来の広さを全く感じさせないほど歩くスペースすらない場所で、スカリエッティは研究を行っていた。
「なんだね、トーレ」
 そんな彼に来客者が一人。
 トーレは細く引き締まった体を曲げて彼に膝まずく。そんな彼女に、スカリエッティは薄く笑った。
「何故、ガジェットを?」
 彼女は彼を見上げながら、鋭い目を細めて何かを読み取ろうとする。
 相手はスカリエッティ、部下にさえ本意を見せない男なのだから当然だろう。
 それが分かっているのかいないのか、スカリエッティはウーノが持ってきたミルクティーを飲みながらあっさり答えた。
「今回のはよく出来たと思ったんだ。良い実験になると考えてね」
 無表情のまま空になったカップを持っていくウーノ。スカリエッティはウーノを見もせず、トーレを眺めていた。
 一方のトーレはスカリエッティの答えを図りかねているらしく、眉をひそめていた。
 それも仕方ないだろう。彼女は武闘派、故に難解な台詞から真意を読み取るのは得意ではない。
「ではやはり、ガジェットを奴と戦わせるのですか?」
 だが彼女は無能ではない。スカリエッティが作り、そして今なお側に置いている以上、性能が低いはずはない。
 それを分かっているからこそ、彼は答えを"ほどほどに"難解なものとしたのだ。
 スカリエッティはモニターに浮かび上がる暗い空間に潜む影に視線を落とす。その目は愉悦で歪んでいた。
「まぁ、見てみたまえ」
 スカリエッティは、そう短く締め括った。



     ・・・



「次はこっちに行きましょう!」
「あー、わかったわかった」
 キャロに手を引かれてファンシーグッズに囲まれたピンク色の店に入る。いかにも女の子な店にキャロが入るのは別にいい。
 だが俺やエリオは別だ。俺の白いシャツにジャケットと、ジーンズの姿はかなり目立つ。エリオも服装はともかく、目立つのは同様だ。
 エリオも外で待つよりはいいと付いて来ているが、所在ない様子で俺のジーンズの裾を握っていた。
「キャロ、俺達は外で待ってた方が――」
「カズマさん! これとこれ、どっちの方が似合いますか?」
 何とか店から脱出しようと画策するが、キャロはまるで話を聞いていない。楽しそうに二つのペンダントを俺達に見せていた。
 俺は特別子供好きなわけじゃない。嫌いでもないが、十年以上もまともに人と接してないせいか、苦手意識はあった。
 そんな俺に、何故二人はなついてくるのか、実のところよく分かっていなかった。ヴィヴィオもそうだ。俺には何かあるのだろうか。
「み、右の方じゃないか?」
 適当だった。
 その代わりエリオの背中を叩く。俺が答えても大した意味はない。だがエリオが助言するのは意味がある。
「ぼ、僕も右が良いと思うよ」
「ホント?」
「う、うん」
 お互い緊張した物言いの俺とエリオだが、その回答を聞いて、キャロは嬉しそうに笑った。
 エリオが幼いながらキャロに友情以上の感情を抱いていると、俺は思って背中を押したのだが、上手くいっただろうか。
 こういうことも苦手だ。記憶が戻ってから、それがよく分かった。なにせ恋愛経験なんてまるでないんだから。
「じゃあ次は僕の行きたい店に行きましょうよ!」
 ファンシーショップを出て、エリオがそう言った。二人が行きたい場所を順番ずつ回るらしい。
 キャロは買ったペンダントやぬいぐるみを見ていて聞いてないようだったが。
「分かった、行こうか」
 俺は二人の背中を押しながらエリオの行きたい店とやらに向かう。
 幸いエリオのデバイスにナビゲーション機能が付いているので迷うことはなかった。
 そのデバイスから浮かび上がったホログラムモニターには、『KING GAME』と表示されていた。
「ゲームショップ、か?」
「その、ゲームって買ったことないから興味があって」
 話を聞けば、薦めたのはスバルらしかった。
 実は俺もテレビゲームの経験はなかった。
 子どもの頃にあったのはファミコンだったが、幼くして両親を火事で亡くした俺は買うことが出来なかったのだ。
 それからも親の件がトラウマになって遊ぶことにすら抵抗があった。だから当初は義務感でライダーになったのだ。
 しかしエリオくらいの年齢で遊びも知らずに育つのはもったいない。スバルの発案はなかなかの名案に感じた。
「いらっしゃい。へぇ、小さい子に――驚いた。縁でもあるのかな?」
 店主の声。
 その声はごく普通の青年のそれに聞こえる。だが違う。騙されるな。こいつは、人間じゃない――!
 ジョーカーの本能に従い、俺は条件反射でカウンターにまで詰め寄っていた。
「お前、上級アンデッドか!?」
「本当に記憶失ってるんだ。あの人間、なかなかやるんだね」
「……お前、やっぱりアンデッドなんだな」
 すっとチェンジデバイスを抜き取る。左手にはポケットから引き抜いたカテゴリーエースのカード。
 俺は周りも見回さないまま臨戦態勢を整えていた。
「落ち着いたら? 後ろの子達が驚いてるけど」
 はっとして振り返ると、エリオとキャロがきょとんとした表情を浮かべていた。
 しまった。街中の、しかも店内で変身しようとしてしまうなんて。俺は馬鹿か。
「どうしたんですか、カズマさん?」
 二人はカードには気付いていない。俺はそっとカードをしまってから誤魔化すように笑った。
「あ、いや、別に何でも――」
「いや実は彼と僕、友人なんだよね。二人は店のゲーム見ててよね」
「カズマさんのお知り合いなんですか!?」
 エリオが驚愕の表情を浮かべて叫んだ。隣でキャロも目を見開いている。
 そう言えば大体は思い出したとはいえ一応は記憶喪失の身だった。知り合いなんて身の上じゃ変な勘繰りを持たれる。
 俺にしては珍しく頭を回転させ、口を開いた。
「いや、前に外出したときに知り合っただけだ。記憶とは関係ないから」
 それを聞いて残念そうな表情を浮かべる二人。
 この二人は本当に良い子達だ。だから何としても、この二人は守らなければならない。
 俺は改めて、軽薄そうな笑いを浮かべる若者――に擬態したアンデッドに顔を向けた。
「何のつもりでこんなことをしている」
「僕がゲームを売ってちゃ変かい?」
「当たり前だ!」
 小声で怒鳴るという器用なことをやってみせるが、相手は表情も変えない。
 相手は軽薄な表情を変えないまま、その笑みを深めた。
「僕はただ面白いから普通に生活してるだけだよ。人間の生活する場所でね」
 本当に可笑しそうに携帯ゲーム機を取り出して遊び出す若者。その姿はあくまでも擬態なのに、違和感がまるで感じられなかった。
 そんな思考に一瞬陥った頭を振る。この男は危険だ。ジョーカーの本能がそれを告げている。
「お前はアンデッドだ。人間の振りなんて目的がなくてするわけないだろ!」
「人間になろうとしたアンデッドは少なくとも二人は知ってるよ。別に僕がしても不思議じゃないさ」
 人を小馬鹿にしたようにゲームから視線を逸らすことなく答える若者。確かに、こうしているとアンデッドには全く見えない。
 いったいどういうことなのか、だがそれを聞き出す言葉が見つからない。
「ま、僕には構わないでほしいね」
 コイツはそう言ったきり口を開くことなくゲームに熱中していった。
 ちょうど話が途切れたのに気付いたのか、そこにエリオが走り寄ってきた。
「カズマさん! これとか面白そうだと思うんですが、どうでしょう?」
 俺は結局、何も聞き出せないままエリオ達の元に戻るしかなかった。
 そしてそれも間もなく忘れることになる。理由は簡単。
 チェンジデバイスが、にわかに光り出したからだった。



     ・・・



「ごめんね、エリオ達といるときに呼び出して」
「いや、俺は大丈夫だ」
 本当に大丈夫だったのだろう、清々しい笑顔でカズマはなのはの言葉に答えた。
 カズマを呼び出したのは、なのはだった。正確にはそう指示したのは、はやてだったが。
 クラナガンに現れたガジェット。
 そのAMF反応をキャッチした管理局は六課に出動命令を出し、はやてはスターズ分隊を向けることに決めたのだった。
 そしてカズマは遊軍として参戦すべく召集が掛けられ、ブルースペイダーによって急行したのが今だった。
「ガジェットはあの中にいるのか?」
「反応ではそうみたい」
 二人が視線を向ける先には、建設中らしく幌に包まれたビルがあった。その高さは優に二十回は越えており、暴れるには十分な広さと言えた。
 その入り口は先が見えないほど真っ暗で、どこか不気味だ。
「スバルとティアナには先に調査に向かわせたから、すぐにわたし達も合流しよう」
「分かった」
 カズマは頷きつつチェンジデバイスとカテゴリーエースのカードを取り出す。
 そのカードをなのはが取り上げた。
「ちょ、おい!」
「ダメだよ、カード使っちゃったら正体バレちゃうでしょ?」
「あ、そうか」
 カードを使って変身する場合、アンデッドの力を行使する。
 そのためアーマーに魔力を使用しない。故にデバイスの魔力探知に引っ掛からないため、嘘がバレてしまうのである。
 カズマもそれを理解したのか、返されたカードをポケットに戻した。
「じゃ、カズマ君も行って」
「ああ」
 カズマはそう言ってチェンジデバイスを腰に装着させながら。
「……やっぱり、怖いか」
「……え?」
 そう呟いて、カズマは虚いビルの入り口へと走って行った。
「…………」
 その背中が遠ざかる。もはや声は届かない。いや、彼女にはそもそも、掛ける言葉が見つけられなかったのかもしれない。
 後ろから、フォワードメンバーと囲むような立ち位置でいれば、急な対処も出来る。自分の退路も確保しやすい。
 そんなことを、彼女は考えたのではなかったか。
「わたし、ヴィヴィオのお母さんに相応しくないかもね」
 自虐的な言葉を呟き、なのはは顔を上げる。
 泣きそうに潤んだその目に映った空は、鈍色の曇天によって包み込まれていた。



     ・・・



「スバル、ティアナ、大丈夫か!?」
 ビル中に轟くような怒声で呼び掛ける。だがその直後に頭を叩かれた。
「うるさい。ちょっと黙って」
 後ろに振り向くと、グリップで殴り付けた姿勢を直しながら考え込むティアナと、その光景に苦笑するスバルの姿があった。
「殴ることはないだろ」
「今集中してるの。アンタは黙ってスバルと周辺の警戒をしてなさい」
 どうやらすこぶる機嫌が悪いようだ。最近俺への態度が柔化しつつあったティアナだが、今は無効らしい。
 仕方なく、今までの経緯をスバルに聞くことにした。
「で、今どんな状況なんだ?」
「取り敢えず一通り回ってきた所です!」
 小声ながら元気の良いスバルの答えに疑問。だが失礼ながら、俺はその答えに疑問を覚えてしまった。
「ガジェットとは戦ったのか?」
 一通り回ったならガジェットと戦闘を行ったはずだ。にもかかわらず彼女達の姿は無傷であり、戦った形跡もない。
 その答えは、至極単純なものだった。
「それが反応はあるのに見つけられなかったんです」
 一転してしょんぼりと項垂れるスバルの肩を叩きながら、今の状況に納得する。
 おそらくティアナは姿を表さないガジェットへの対応策を考えているのだろう。ティアナはこういった現場の作戦立案に強い。
 逆に俺とスバルはやることがなくなり、所在なげにしていたところになのはが現れた。
「ティアナ、状況を報告して」
「は、はい!」
 さっきまで静かにしろと言っていた本人が声を上げていることには誰も突っ込まない。
 結局、俺とスバルはやることもなく二人を眺めるしかなかった。
「……羨ましいなぁ」
「何が?」
「最近なのはさんと仲が良くて」
 そんな雑談をやるまでになっていた。
「スバルは確かなのはに憧れて管理局に入ったんだっけ?」
 前に聞いた話だが、スバルは過去に空港火災から救出されたことがあるらしい。そして彼女を救い出した人物こそがなのはなのだそうだ。
「私もなのはさんみたいに強くなって、今まで守られてきた自分を変えたいなと思って管理局に入ったんだぁ」
 嬉しそうに笑みを溢しながらスバルは語る。俺は黙って、彼女の言葉に耳を傾けていた。
 口下手な俺には聞いてやることしか出来ない。それで良いと思うし、彼女も何か言ってほしいわけではないだろう。
 ただ聞いて欲しい。言うなれば惚け話みたいなものだった。
「それでそれで――」
「……スバル? ちょっと恥ずかしいんだけど」
 いつの間にか、なのはがすぐ近くに来ていた。
「話、聞いてなかったよね?」
 頬を紅に染めたなのはに、極めて真面目な口調でたしなめられた。
 ティアナなど呆れて物も言えないという表情だった。
「あ……ご、ごめんなさい」
 スバルも今さらながら真っ赤になって頭を何度も下げていた。
 そんなことをしている場合でもないのだが。
「で、なのは。これからどうするんだ?」
 俺の言葉になのはが朱を引っ込め、表情を引き締める。ようやく話が始まろうとした――

 その時、鋼の輝きが暗いビル内に閃いた。



     ・・・



 突如襲い掛かるガジェット。今までにない未知の力と、狭い建物に犇めく数十の数に、四人は翻弄される。
 スカリエッティの実験、四人は如何に対処するのか。

   次回『刺客』

   Revive Brave Heart



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最終更新:2009年12月10日 08:47