*
「危ない!」
なのはの頭上に光る三日月型の鈍い光。
暗がりに紛れるように現れた黒い影が暗殺者の如く彼女の命を刈り取ろうとする――!
「カズマ君っ!?」
だがそれを遮る者が一人。誰もが反応出来なかった中、彼だけがその身を持って彼女を庇う。
その者――カズマは文字通り身を盾にして彼女を守り通す。その背中に、鋼の鎌を突き刺されながら。
蛍光色じみた発光をする緑の血が吹き出す。その光景を、暗闇と血相を変えたなのはが傷口を隠した。バリアジャケットに血が付くことも気にせずに。
「カズマ!?」
「カズマさん!」
ティアナとスバルもようやく動き出したが――
「早く追って!」
「「は、はい!」」
なのはが一喝。それに気圧され、二人は慌ててガジェットを追っていった。
なのはは血の気の引いた顔を傷口に向けながら必死に回復魔法で治そうと、その白い手を緑色に染めながら傷に当てる。
その手首をカズマは掴み、ぐいと押し退けた。
「このくらい大丈夫だ。それより汚れるだろ?」
「大丈夫、なの?」
「俺は――アンデッド、だからな」
カズマは苦笑しながらそう言い、立ち上がる。口から吹き出した血を拭いながら。
そしてチェンジデバイスとカードを取り出す。
「なのは、行くぞ」
ぺたんと座り込んだなのはに手を差し伸べるカズマ。先程まで緑に染まっていた手は、もう肌色になっていた。
なのはの体に付いた血が、しゅうしゅうと音を立てて蒸発していった。
リリカル×ライダー
第十六話『刺客』
なのはを突き刺そうとした犯人、奴の正体はガジェットⅣ型だと本人は推測していた。
「ステルス能力、みたいなものがあるのか」
「うん。それに、あの特徴的な鎌もね」
ガジェットⅣ型はガジェットシリーズの中でもかなり特殊な位置付けで、どうやらスカリエッティの発明品ではないらしい。
そもそもガジェットはスカリエッティがJS事件で掘り出した古代兵器を現代技術で復元したもので、Ⅳ型はその原型となった古代兵器なのだそうだ。
そのため増産は不可能、しかもJS事件で全て壊してしまったのでもう現れないと思い、訓練にも出さなかったのだそうだ。
今頃悔やんでも仕方のないことだが、ここでⅣ型との実戦経験があるのがなのはだけなのは惜しい限りだ。
「あのガジェットは、わたしの天敵なの」
それはそうだろう。
遠距離砲撃型のなのはにとって音もなく忍び寄るⅣ型は脅威に違いない。もちろん戦えないことはないだろうが、それでも苦手なのは確かだと思う。
ヴィータ達ヴォルケンリッターのような近接型、もしくはフェイトのようなオールラウンダーなら話は別だが。
そんな俺の思考を読んだのか、俺の顔を見てなのはは笑いを浮かべた。
「相性もあるけど、ちょっとね」
笑み、というより苦笑するなのは。
もしかしたらなのはほどの強者でも苦戦した記憶があるのかもしれない。敢えてそれを聞いたりはしなかった。
フォワードメンバーと合流するべくビル内を散策する俺となのは。
付かず離れず、微妙な距離を保ちつつ、俺達はビルの三階に当たる鉄骨の上を歩いていた。
組み上げ中のビルだからか足場が少ない。かと言って飛行魔法を使えるほどの空間的余裕もなかった。
その時、空間に鈍い輝きが一瞬刷り込んだ。
「くっ!」
『Panzerschild』
直後に迫る黒鋼色の刃。それを俺は右手に発生させた極小のトライシールドで受け止めた。
青い輝きを放つシールドで拮抗し合う。俺はシールドを爆破し、敵と距離を取るべく別の鉄骨に乗り移る。
「アクセルシューター!」
その隙を突くように別の鉄骨に立つなのはが吼え、レイジングハートが応える。
四発の桜色に輝く光弾は瞬時にガジェットⅣ型に迫り、その体をひしゃげた鉄塊へと変えた。
「凄いな」
「カズマ君もね」
俺となのは、二人で笑い合う。そして自然と、ガジェットを警戒するために互いの背中を触れ合わせた。
そんな一瞬の一時が嘘のように。
その周りには数十体ものガジェットⅣ型が、ひしめくように蠢いていた。
・・・
「スバル! そっち!」
「はぁぁあぁぁぁぁ!」
私の指示で的確にガジェットを殴り飛ばすスバル。
右手に装着されたリボルバーナックルのスピナーが高速回転し、空間を揺るがす衝撃を発生させる。
Ⅳ型は洗濯機に放り込まれた衣服のように装甲を変形させ、まもなく爆散した。
私とスバルを囲む数十のガジェット。突如現れ、攻撃を仕掛けてきたガジェットは、想像以上に厄介な敵だった。
「スバル、後ろを! 私が前を押さえる!」
「分かった!」
AMFを発生させて魔導師の能力を減衰させるガジェットは確かに危険だ。
けれど今はその対策もある程度だが施され、苦戦するような相手ではなくなっているはず。その手強さに、私は違和感を覚えていた。
これでも六課の一員であり、フォワードメンバーのリーダーなのだ。ガジェットになんか苦戦するはずがない。それが何故――
「ティアナ――!」
――そんなことを考えていた私は、背後の存在に気付けなかった。
背中に突き刺さろうと振り下ろされる鎌。その鈍い輝きを見て、私は戦慄を覚えた。
「カズマ!?」
その一撃を遮ったのは、鎧のようなバリアジャケットを纏い、一振りの剣をかざしたカズマだった。
「大丈夫か!?」
相手の鎌を弾き飛ばし、その胴体に切っ先を突き刺しながらこちらを振り替えるカズマ。
炸裂した爆炎の朱で彩られる鎧。無表情に見える紅い大きな目をした仮面。
その姿が、ふいに頼もしく、また怖く感じた。
「だ、大丈夫。でも数が減らないのよ」
「みたいだな。スバル、こっちに来てくれ! 二人とも一旦なのはの所まで撤退しよう!」
「分かったわ」
撤退を指示したのはなのはさんで間違いない。ということは、退路を確保してくれているのだろう。
なのはさん自身は指揮とか苦手だと仰っていたけど、実際は戦術的判断の優れた人だ。大丈夫、何とかなる。
私もこちらに走り込んできたスバルの上に飛び乗った。
「うわぁ!?」
「文句言わない。走って!」
カズマが手当たり次第に敵を倒してくれている今の内に。
そう考え、インラインスケート型のマッハキャリバーを持つスバルに肩車してもらおうと思ったのだ。
「二人とも、早く行け!」
「アンタも早く来るのよ!」
数体のガジェットが細い鉄骨の上で戦うカズマに襲いかかるも、それは容易く吹き飛ばされる。危なげなさは欠片も感じられなかった。
置いていくのは申し訳ないと思う。でもカズマは近接戦では隊長陣に次ぐ実力を持っているし、飛行魔法もある。離脱も可能だと私は判断した。
そう私は、自分の心を説得するしかなかった。
・・・
俺はティアナとスバルがここを去るのを見届けていた。
ティアナがこちらを何度もチラチラ見ていたが、それも暗いビル内では次第に見えなくなる。
これで、準備は整った。
『カズマ君、よく聞いて』
提案したのは、なのはだった。
『わたしが入り口を確保するから、先行してるスバルとティアナを引き返させて』
本来の彼女ならこの程度の敵、すぐにでも片付けることが出来る。しかしこのビル内で砲撃を行えば、崩落を起こしかねない。
また、暗い室内でステルス能力を使う敵に対し、近接戦闘能力をほとんど持たないなのはは奇襲でやられかねない。
もちろんスバルは近接戦のエキスパートだが、何が起こるか分からない状況では無理はさせられない。
『そうすれば、二人にバレずにカードの力を使える』
一方の俺は近接戦でこそ最大の実力を発揮する。特にこうした狭い室内なら距離を取られにくい分、かえって都合が良い。
何より、俺は決して死なないのだから。こんな状況にはおあつらえ向きだ。
『ごめんね。ここはカズマ君に、お願い出来るかな?』
今はデバイスモードだが、あのカードに限ってなら使用は可能であることはすでに検証してきた。これなら奴らにも負けはしない。
むしろ本来の力ではない分、リィン無しでも制御可能なはずだ。
『……わたしがこんなこと頼める立場じゃないのは、分かってるけど』
何より、俺はなのはに悲しんでほしくなんかない――!
「俺はただ、皆を守りたいだけだ!」
剥き出しの鉄筋で組まれたビルを四つ足でカマキリに似た無数のガジェットⅣ型が這い寄る。
それを尻目に、俺は二枚のカードをラウズアブゾーバーから引き出した。
『Absorb Queen』
その内のカテゴリークイーンのカードを差し込み、アブゾーバーを起動させる。
だがガジェットはそれを許さんと次々迫る。それを切り裂きながら、もう一枚のカードをスラッシュした。
『Fusion Jack』
カテゴリージャックのカードで、力が解放される。そう、上級アンデッドの力が。
「うぉぉぉあぁぁぁぁぁ!」
二体の上級アンデッドとの融合。
今回はカテゴリーエースとの融合がない分、負担は少ない。それでも身に余る力は体を焼き付くさんとする。
変化する体。
持っていたカードホルダーのない剣に黄金の刃が形成され、スペードのマークが塗り潰されたアーマーに黄金の装甲が装着される。
これがラウズアブゾーバーの力、『ジャックフォーム』。
デバイスモードでの強化変身だから、魔導師仕様といったところか。
「うぉぉぉぉぉ!」
背中に形成されるオリハルコンウィング。
俺はそれを展開し、さらに飛行魔法で重力を相殺、その機動力を持ってガジェットに突撃する――!
閃く黄金の刃。
美しい曲線を描きながら、一気に三体のガジェットⅣ型を切り裂く。
「まだだぁっ!」
『――Slash』
青い魔力が纏われ、更に鋭度の増す金色の剣。
瞬く間にガジェットが鉄塊へと変わっていく。
この戦場において、俺はまるで王であるかのように力を奮い続けた。
・・・
『……ふむ、これが彼の力か』
モニター状でガジェットを蹂躙する装甲戦士。無表情の仮面で顔を覆い、戦場を駆け巡る男。
カズマ。不可思議なカードを持って力を奮う者。
そんな彼は今、どんな表情をして戦っているのだろうか。
「ドクター、これが見たかったのですか?」
問い掛けるのはナンバーズ一番、ウーノ。問い掛けられたのは彼女の生みの親、ジェイル・スカリエッティ。
二人はモニターと機械に囲まれた狭苦しい部屋にいた。スカリエッティはチェアに腰掛け、ウーノは彼の後ろに立つ。
それが二人には、自然な構図だった。
「今回のガジェットはね、あくまで実験なのさ」
「実験、ですか?」
「そう。ただ、彼に対しては余り実験にはならなそうだ。ふむ、彼を抑える必要があるかもしれないね」
スカリエッティはウーノが淹れたコーヒーにガムシロップを落とし、口を付ける。
すでに甘く味付けされたコーヒーが更に甘くなるが、彼は気にしない。糖分補給は頭脳労働には必須だと言うことか。
ウーノは空になったガムシロップの容器を盆に載せながら、再度問い掛けた。
「どういった実験なのですか?」
「ふむ。実はね、彼のカードを模して作られたデバイスカード。あれは拾い物だが、それを模して作ったデバイスカードの実験をしたかったのさ」
「しかしそれはすでにライダーシステムで検証なさったのでは?」
少量の起動魔力のみで一定の魔法を発動出来るデバイスカード。オリジナルは拾ったものだが、スカリエッティはすでにコピーに成功していた。
もちろんまだ製作時間が足りなかったため、用意できたのは僅かな枚数ではある。
しかし実際、前回の戦闘でもトーレ達は新世代ライダーシステムの起動、運用で使用していた。
最もこちらは魔法ではなく、戦闘機人達のエネルギーで使用する特殊なもので、厳密には質量兵器なのだが。
だから、非殺傷設定などという甘い攻撃は出来ない。食らえば傷付き、果ては殺す攻撃である。
「いやいや、ウーノ。彼女達に使わせたのとはまた違ってね。こちらはちゃんと魔力運用型だよ」
「そんな、ガジェットにどうやって使――」
「ウーノ。ちょっと出撃してくる。カズマ君を抑える必要がありそうだからね」
まるでウーノの台詞を遮るようにスカリエッティは立ち上がり、羽織っていた白衣を脱いでウーノに投げ捨てた。
紫のカッターシャツに紺のパンツという逃亡者とは思えないスタイルのスカリエッティは、机上のレンゲルクロスを掴む。
その顔は、まるで今から遊園地に行くような無邪気な笑顔で覆われている。だが、目だけは濁りきっていた。
「待ってください、ドクター!」
「じゃあ、後は頼むよ」
まるで散歩にでも行くような気楽さで。
ジェイル・スカリエッティは転送魔法を起動し、部屋から消え去った。
・・・
「おりゃあああ!」
右手に展開したシールドを加速した状態で叩き込み、爆発させる。
ボディを貫通し、内部に浸透した爆発は容易くガジェットを残骸へと変貌させた。
これで二十四体。ただ、この二十四体はやはりただのガジェットじゃなかった。
一見して目立つ特徴があるから気付かなかったが、このガジェット達、どれも異なる性能を有しているのだ。
今のはプロテクションを展開出来る機体だったし、先程のは接近戦用の鎌に魔力強化を施した敵だった。そう、まるで魔導師の如く。
(早く戻らないと……)
嫌な予感がする。俺がここに留まり過ぎれば、何か良くないことが起こると本能が告げてくる。
それは俺の身になのか、それともなのは達になのか。
そしてそれが何なのか、ただの勘では分からないが。
「なのは……」
「待たせたなぁ、カズマ君!」
「――!」
驚きと共に勢いよく後ろを振り向く。
そこには今まで何もなかったはず。だが今は、レンゲルの鎧を纏ったスカリエッティが、悠然と佇んでいた。
「スカリエッティ――!」
「さぁ、その力を見せてくれ!」
奴の言葉に耳を傾けはしない。俺はオリハルコンウィングを展開して加速し、強化された剣を真っ直ぐ振り下ろす。
光刃に見紛う瞬速剣。
しかし奴は素早く錫杖を振り上げ、こちらの斬撃を受け止めた。
「あああああッ!」
「速く、そして重いな。しかし今回は魔力反応しかほとんど感知出来ないな」
俺は一撃目が失敗したすぐ後に左拳にシールドを展開して奴の脇腹を殴り付けた。
魔力爆発を伴う拳撃。奴は殴り合いは苦手なのか、今度はダメージを与えることに成功する。
後退るスカリエッティ。その焦げた脇腹の鎧に追撃の回し蹴りを叩き込む――!
「ぐっ……」
「まだだ!」
奴にカードを使わせてはいけない。
『――Tackle Protection』
俺はすぐに魔法を発動させ、プロテクションを右肩から半身に広がる程度に展開する。
本来ならカードで使える技だが、今は魔法に頼るしかない。
その強固な壁を向けて、俺はショルダーチャージを奴にぶつける!
「がはぁっ!」
「おりゃあああ!」
真っ正面からタックルを食らい、吹き飛ばされるスカリエッティ。
俺は更に剣に魔力を這わせ、その強化された斬撃を振り下ろ――そうとした剣を、奴に掴まれた。
「なっ……」
「君は、怒ると、怖いな。焦っているからといって、短気になられては、困るよ」
無表情の仮面からくぐもった笑い声が上がる。少々息切れしてはいるが、その余裕は微塵も崩れてはいない。
俺はそれを、本能的に"怖い"と感じてしまった。
「強い、確かに強いなカズマ君。だが、私も同じ力を持っていたら、どうなるかな?」
余裕の感じられる声に不安を覚える。
右手で俺の剣を掴んだまま、左手を見せびらかすように掲げるスカリエッティ。そこには――
「ラウズ、アブゾーバー……」
「くっくっ、君のを参考に開発させてもらったよ。さぁ、どちらが強いかな?」
『Absorb Queen』
俺の腹を錫杖で殴り付けて吹き飛ばし、アブゾーバーから展開したウィングのようなトレイから引き抜いたカードを挿入する。
「さぁ、ゲームの再開だ」
カードを差し込まれ、カテゴリージャックのカードに呼応するように、ラウズアブゾーバーに逞しい猪のレリーフが刻まれた覆いが成される。
スカリエッティは更にもう一枚のカードを引き抜き、側面のスリットにスラッシュした。
『Fusion Jack』
ラウズアブゾーバーから光が溢れ出し、スカリエッティ――レンゲルを包み込む。
浮かび上がるのはエレファントのイメージ。猛々しい力とレンゲルの鎧が融合していき、体が変化する。
胸部には象の紋章が刻まれた金色の胸甲があしらわれ、錫杖の石突き部分にはディアマンテエッジが鋭い刃として形成される。
そして特徴は肩。
そこには象牙を連想させる、雄々しき二対のオリハルコンファングが自己主張するように天に向いて生えていた。
レンゲル・ジャックフォーム。
スカリエッティの、新たなる力だった。
・・・
「くっ……まさかこっちにも!」
「みんな退いて! ――ディバィィィン、バスター!」
ティアナとスバルが飛び退き、剥き出しとなったガジェット数十体に砲撃をぶつける。
桜色の砲撃は容易く敵を一掃する。けれど、それが虚しくなるほどまだ無数に這い出してくる。
数が異常に多い。スカリエッティがどうやって量産したのかと疑いたくなるほどの量だった。
今更ながら、カズマ君と別れたのは間違いだったと痛感した。
「なのはさん! カズマさんは……」
「今は目の前のことに集中して!」
ガジェットに拳を叩き込みながらスバルに話し掛けられる。でもわたしはすぐに指示を出して戦闘に向かわせた。
今のわたしは、まともにカズマ君の話なんて出来ない。
彼と共闘し、背中を任せ合い、そして別れたことでわたしは気付いてしまった。
そう、今のわたしは、カズマ君を受け入れられない。
今のわたしは、戦士を続けられないわたしは、きっと彼を信じきれない。そんな、残酷な事実に。
でも、だからこそカズマ君には生きていてほしい。いつかわたしが昔のように強くなって、彼を受け入れられる日を迎えるために。
そう、わたしはヴィヴィオを守るために臆病になってしまった。
彼女を失いかけ、その代償に深手を負い……今はカズマ君――ジョーカーがヴィヴィオを襲うように感じてしまうのだ。
恐怖の象徴とも思えるジョーカーの外観。全ての生命を否定し、滅ぼす存在を思わせるオーラ。
今までのわたしならそれすら気にもならないと思う。実際、彼に触れることに躊躇いも嫌悪感もなかった。けれど。
あの外観は、あまりにも不吉過ぎた。そう、昨今の殺傷事件と合わさって、わたしはヴィヴィオが殺される夢を何度も見てしまうように。
だから、そんな弱い自分を見限り、戦士を辞めようと思った。ヴィヴィオだけを守るようにしようと。大きくなるまで、ずっと彼女のそばにいようと。
それでもわたしはレイジングハートと共に今も戦っている。どちらにも決められず、なあなあにして。
そんな自分は、嫌だ。
だからわたしはカズマ君を助ける。今いるガジェットを吹き飛ばし、一直線にカズマ君の元へ向かうために。
臆病な自分を吹き飛ばし、わたし自身を取り戻すために!
「エクセリオォォォン、バスタァァァァァァ!」
フルドライブによってエクシードモードへと変形したレイジングハートから、桜色の光線が炸裂した。
――レイジングハートは全てを知りつつ、ただ主人を案じて黙る。彼女は、マスターを信じているのだから。
・・・
「……ふむ、データもこれで揃ったかな」
レンゲルの鎧を纏ったスカリエッティが,ディアマンテエッジが生えた錫杖の石突き部分を突き出す。
ザグン、と黄金の胸甲に数センチも刺さり、その衝撃でブレイド――カズマが吹き飛ばされる。
ふらふらで立っているのもやっとだったカズマの体はそれで容易く崩れ落ちた。
「く、そ……っ」
「君が普段の実力を出していれば厄介だったかもしれないが、今の半端な状態では私には勝てんよ」
そう、デバイスモードのカズマは本来の力を発揮しきれてはいなかった。
カズマの力はラウズカードあってこそのもの。ジョーカーとしての不死性と身体能力があっても、それは副次的なものに過ぎない。
その上、スカリエッティは圧倒的なまでに強かった。不完全とはいえジャックフォームを完膚無きまでに叩きのめせるほどに。
スカリエッティはため息がちな声でそう呟き、カズマに背を向ける。彼の仕事は終了した、ということだろう。
スカリエッティはむしろ、外を映し出す空間モニターに注意を向けていた。
「流石はエース・オブ・エース。後遺症があってこの実力とは恐ろしいな」
桜刃を刀の如く振り回しガジェットを薙ぎ倒すなのはを眺めながらそう呟くスカリエッティ。レンゲルの仮面に阻まれて表情は伺えない。
数多の技を繰り出すガジェットだが、彼女相手では話にならなかった。それほど、彼女は鬼神の如き強さを見せ付けていた。
そんな強敵を見ても、スカリエッティの表情は変わらない。ただただ、天才科学者は嗤い続ける。
「あ、あああ……っ」
絞り出すような苦悶の声を漏らすカズマ。その姿にスカリエッティは目を向けることなく、彼は一枚のカードをホルダーから抜き出した。
そのカードは,クラブ8。
「アアアアアァァァッ!」
『――Gell』
カズマが渾身の力を腕に注ぎ、黄金の刃で先端が覆われた剣を振り下ろす! ――だが。
彼が斬ったスカリエッティは、まるでジェルのように液体になって引き裂かれ、融けるように消えてしまった。
(く……そ……)
全ての力を出し尽くし、意識が朦朧とするカズマ。剣を落としたことにも気付かず、崩れ落ちるように倒れ込む。
薄れゆく意識の中でカズマは。
こちらに走り寄るなのはを幻視した。
…
完膚無きまでに叩きのめされたカズマを看病するなのは。彼女はカズマと向き合い、全てを告白する。大切な人と大切な世界、彼女は何のためにその力を振るうと決意するのか。
そして一方のカテゴリーキングも動き出す。彼は敵か、それとも――
次回『決意』
Revive Brave Heart
最終更新:2010年02月01日 14:58