ここは、次元の狭間に存在する時の庭園。
この庭園に残ったグロンギは、最早残り少ない。
リニスが知る所、ジャラジを除いた残り人数は僅か二人しか居ない。
現在ゲゲルを実行中のジャラジも、恐らくは次でクウガに倒されるだろう。

(多分、プレシアももうジャラジには期待していない筈)

あのプレシアが、本当の意味でジャラジを助ける為だけに傀儡兵を送り込んだとは考え難い。
そもそも、戦力で言えばジャラジは既に倒されたバベルにも劣るのだ。
そんなグロンギが一人殺された所で、プレシアの計画に支障があるとは思えない。
なれば、何の為にジャラジは生かされたのだろうか。

(クウガを、怒らせる為……?)

リニスなりに思考する。
ジャラジのやり方は、勢力的には味方である筈のリニスにまで嫌悪されているのだ。
それを考えれば、敵であるクウガが怒らない筈が無い。
前回のジャラジとクウガの戦いからも、クウガが激怒していたのは明らかだ。
あのタイミングでの傀儡兵の増援は、単なるクウガへの嫌がらせか、はたまた別の目的があるのか。
それはリニスには解らない。
だが、リニスも知っている事実が一つある。
それは、ジャラジのゲゲルのタイムリミットが迫っている事。
ジャラジのゲゲルに許された時間は、12日だ。
内、子供に刺した針がカギ状に変わるまでに掛かる期間は4日。
実質的なタイムリミットは、8日しかないのだ。

「――ラビガグバ」
「え……!?」

不意に掛けられた声に、振り向いた。
そこに居たのは、カーキ色のジャケットを着こんだ、赤いマフラーの男。
庭園の廊下の壁にもたれ掛りながら、親指でコインを弾いては掴み、という動作を繰り返していた。
コイントスがこの男の癖の一つなのだと言う事は、既にリニスも承知している。
ただし、言葉の意味は理解出来なかった。

「あの……ここでは、リントの言葉で話して下さい」
「……ジャラジのゲゲルは、間に合うのか?」
「ああ、どうでしょうね……それはジャラジ次第としか」

苦笑いを浮かべながら答えた。
そう。今日、この日がタイムリミットである8日目なのだ。
今日中に針を刺さなければ、4日後にはジャラジのバックルに仕込まれた爆薬が起爆する。
ゴまで勝ち進んだジャラジのバックルに仕込まれた爆薬の威力は、それこそ戦略兵器並の威力だ。
ジャラジのバックルが爆発すれば、半径3km圏内は木っ端微塵に吹き飛ぶだろう。
だけど、リニスはジャラジがそんな最期を遂げるとは思わない。
ジャラジが相手にしているのは、管理局の魔道師と、戦士クウガなのだ。
間違い無く次は対策を固めて来るだろうし、その状況で後の無いジャラジが撤退するとも思えない。
恐らくジャラジは、クウガによって倒される。
そんなリニスの考えを知ってか知らずか、男は歩を進めた。
リニスに背中を見せて、告げる。

「俺のゲゲルの準備を進めておけ」
「え……ジャラジのゲゲルは」
「必要無い。次は俺の番だ」

コインを弾きながら、男は歩いて行く。
この男の場合は、端からジャラジに期待していなかったのだろうという理由も勿論ある。
が、それ以上にこの男は自分のゲゲルの番を、今か今かと待ち侘びているのだ。
バベルやジャラジに先を越されて、苛立ちを感じていたのはリニスにも伝わっていた。
この男が最も望む物は、ゲゲルの成功と、クウガへのリベンジ。
グロンギにとって最も重要とされるゲゲルに並ぶ程に、クウガとの再戦を強く望んでいたのだ。
この男の場合、それを果たすまでは死んでも死に切れないのだろう。
ならばリニスに出来るのは、言われた通りにゲゲルの準備を進める事だけだ。


EPISODE.19 約束


海鳴市、バニングス邸―――00:34 p.m.
昨日の未確認との戦いから一日。
未確認生命体に襲われるかも知れないという恐怖心を除けば、それは至って平穏な日常だった。
家主であるアリサ・バニングスに、その友人達四人。それから、五代雄介。
五人で一つのテーブルを囲み、昼食を摂っていた。

「――じゃあ、昨日の赤だったり紫だったりするのがクウガっていうのね」
「そうそう、だから言っただろ、クウガは絶対に来てくれるって!」

嬉しそうに、雄介が答えた。
現在の話題は未確認と、それに対抗するクウガという戦士についてだ。
なのは達魔道師の他にも、クウガという戦士がアリサを守ってくれている。
あの時、雄介はアリサに「クウガは絶対に現れる」と言った。
当初は半信半疑であったが、実際に現れてくれた以上、信じざるを得なかった。
クウガは本当に、誰かの命を守る為にこの世界にも現れてくれたのだ。

「でも、それにしてもひっかかるのよねぇ」
「え、何が……?」

怪訝そうな表情を浮かべた。
聞き返すなのはに、いや、と切り出す。

「助けに来てくれたのは嬉しいんだけど、クウガは一体何処から現れたのよ?」
「あー……」

純粋な疑問だった。
フェイトが未確認を庭に叩き落してから、自分が目を離していた僅かな時間がある。
ほんの僅かな時間の間にクウガは駆け付け、気付いた時には未確認と戦っていたのだ。
疑問をぶつければ、なのは達も答えられないのか目を逸らした。
直感的に、怪しい、と感じた。

「え、えっと……空から、じゃないかな……」
「空から? 落ちて来たっていうの……?」
「う、うん。確かそうだったと思うよ……私は良く見ていなかったけど」

なのはをフォローする様に、フェイトが言った。
そりゃあフェイトは未確認と取っ組み合いをしていたのだから、見て居ないのも仕方が無い。
だけど、なのはまで知らないと言うのは何かが可笑しい。

「あんた達、もしかして何か隠してない?」
「ううん、皆の言ってる事は本当だよ。クウガはあの青空から降りて来たんだ」

と、言うのは雄介。
怪訝そうな表情を浮かべるアリサと、爽やかな笑顔の雄介。
二人の視線が交差する。

「空に我で、空我(クウガ)……ま、簡単に言えば、青空になるって意味だね」
「だから、青空から降りて来たって言うの……?」
「そういう事。青の姿になって、空から降りて来たんだよ!」

視線を逸らさずに、雄介は告げる。
アリサの預かり知る所ではないが、雄介の言う事はまんざら嘘という訳でもない。
実際にあの時クウガは青になって、上空から降下し、未確認を襲撃したのだから。
少し引っ掛かる気はするが、雄介の言葉には妙な説得力があった。

「ま、まぁ五代さんがそう言うなら、信じないこともないけど……」

信じる事にした。
何にしても、自分を助けてくれるのなら悪い奴ではないだろう。
何処から現れようと、それは変わらない。
自分に出来るのは、親友達とクウガを信頼する事だけだ。
心の底から彼女らを信頼しているからか、不思議と恐怖は感じなかった。
怖いと言えば怖いのだが、ここで殺される気は全くしない。
これだけ心強い仲間達に守って貰える自分は、本当に幸せ者なのだ。
もしも皆がいなければ、きっと今頃は恐怖に押し潰されていただろう。

「――ありがと」

気付けば、口から言葉が漏れていた。
それは誰にも気付かれない程の小さな声。
誰にも気付かれない程の表情の変化。
俯いたまま、心の声を漏らしてしまった。
咄嗟に恥ずかしくなって左右を見渡すが、どうやら誰も気付いていないようだった。
さえど、ただ一人、アリサの右隣に座るすずかだけは違っていた。
ふふ、と。おしとやかな微笑みを浮かべて此方に視線を向けて居た。
もしかすると気付かれたかも知れない、と、顔が赤らむのを感る。
アリサは改めて思った。自分の周囲は、至って平和なのだと。




それから、数時間が経過した。
日は完全に沈み切り、今日も一日が終わろうとしている。
されど、それでも未確認が現れる気配は無かった。

「ねぇ、もしかしてあの未確認……標的を変えたんじゃ」
「ううん、そんな筈無い。あの未確認は絶対に、もう一度アリサちゃんを狙うよ」

不安に表情を曇らせるなのはに、雄介は告げた。
確証を以て言える。あの未確認は、何よりもクウガを憎んでいる筈だ。
そのクウガが守ろうとしている少女を、ましてや一度標的と定めた少女を、諦めるとは思えない。
執念深い42号は、絶対にもう一度アリサ達を狙う筈だ。
だから今度は、絶対に逃がす訳には行かない。
次で決着を付けて、少女達との約束を守る。
絶対に守り抜くと決めた、アリサとの約束。
怒りに捉われないと誓った、なのはとの約束。

「今度は結界もきちんと用意してるから、逃げられる事は無いと思うけど」
「そっか……結界があるって事は、金のクウガで戦っても大丈夫なんだよね?」
「大丈夫だ。結界内の建造物はいくら破壊しても構わない
 未確認の爆発にも確実に耐えられるだけの結界を用意しておく」

雄介の疑問に答える様に、眼前にモニターが浮かび上がった。
空間モニターが映し出すのは、管理局の心強い仲間――クロノ・ハラオウンだ。
クロノの説明通りならば、これで二つの問題をクリアした事になる。
ありがとうと告げた雄介に対して、クロノのは首を横に振った。

「悔しいけど、僕達には未確認と戦うだけの力は無い。出来る事と言えば、これくらいしか無いからね」
「その“当然”が、俺にとってはありがたいんだよ。
 確かに未確認を倒すのは俺にしか出来ないかも知れないけど、
 皆の協力が無かったら、きっともっと多くの被害者を出してしまうと思うから」
「五代さん……」
「皆が居るから、俺は戦えるんだ。だから、そんなに謙遜する事ないよ」

笑顔で、サムズアップを送った。
サムズアップとは、本来“納得の行く行動をした者”に贈られるもの。
クロノ達管理局の皆は、まさしく納得の行く行動をしている。
誰かを守る為に奮闘する、雄介にとって大切な仲間達が、今は管理局の皆なのだ。
だから、雄介がサムズアップを送るには十分過ぎる程の理由であった。
クロノはそれに軽い微笑みで返し、すぐに次の話題を切り出した。

「さて、それじゃあこの辺りで、もう一度確認しておく。
 まずは屋敷の周辺に設置したエリアサーチ用のサーチャーだ。
 これは前回の反省も踏まえて、サーチャーの数を増やしてある」
「うーん……でも、前回だって普通に突破されちゃったから、サーチャーにはあまり期待しない方がいいかも」
「……そうだな。その分、なのは達も警戒は怠らないで欲しい」

42号とは、まさしく神出鬼没の怪人だ。
本来ならば、サーチャーの監視を掻い潜って浸入する事は至難の業。
それをこなして現れた以上、サーチャーに頼り過ぎるのは避けたい所だ。

「サーチャーを掻い潜って未確認が現れたら、針を撃ち込まれる前になのは達が迎撃
 同時に、屋敷の周囲に外側からの干渉不可能の封時結界を展開する」
「それはアルフさんに手伝って貰うつもりだけど……」

なのはが表情を曇らせた。
フェイトとアルフは、昨日から少し様子が可笑しい。
その理由を雄介が知る所では無いが、恐らくは昨日の戦いで現れた傀儡兵がその原因なのだろう。
それに関しても、後から話を聞いてみた方がいいかも知れない。

「大丈夫、アルフだって立派な術者なんだ。本番でヘマはしない筈だ」
「そうだなぁ……今はアルフさんを信じるって事で、話を進めよう」

なのはが頷いた。
こうなれば後は話が早い。
結界内での戦闘を担当するのは、戦士クウガに変身した自分自身。

「――後は、俺がクウガに変身して、あいつを倒す」
「今度は憎しみ無しで、だね」

なのはに言われた雄介が、力強く頷いた。
今度は、憎しみに捉われずに42号を倒して見せる。
それが出来なければ、本当の意味での勝ちとは言い難い。
そしてそれは同時に、雄介となのはにとってのもう一つの戦いでもある。
お互いを激励する様に視線を交えた、その瞬間であった。

『――未確認が現れました! 私が抑え付けるから、結界を早く!』
「やはりサーチャーには引っかからないか……了解した、すぐに準備する!」

念話で聞こえたのは、フェイトの声だった。
予想通りとは言え、悔しくないと言えば嘘になる。
奥歯を噛み締めごちた後、眼前に浮かんだモニターが一瞬で消えた。
結界の展開準備に入ったのだ。自分達も、こうしては居られない。
視線を交差させ、頷いたなのはと雄介。
二人は戦場に向かって、駆け出した。




フェイトは俯いたまま、思考を巡らせていた。
ある程度の会話は出来るが、あまり真剣に他の事を考える事は出来なかった。
昨日、自分達の戦いを邪魔したのは、確かに見覚えのある傀儡兵。
かつてプレシアが使っていた、量産型の傀儡だ。
たまたま同じ傀儡兵を使っている者が未確認に手を貸しているだけかも知れない。
しかし、そんな偶然があるとは思えない。

(もしかしたら、母さんが未確認に……いや、そんな筈無い。母さんはもう――)

死んだ、とは思いたくなかった。
だけど現実は虚しく、プレシアが虚数空間に落ちたのは紛れも無い事実。
娘であるフェイトの目の前で、プレシアはその命を落としたのだ。
それが、今更になって現れる訳が無い。
そう信じたい。

「――ェイト、ねぇちょっと、聞いてるの?」
「え……あ、ごめんアリサ……どうかしたの?」
「どうしたもこうしたも、アンタ昨日から様子が可笑しいわよ? ずっとぼーっとしちゃって」

心配するように、アリサが言った。
それに対して、ごめんと一言告げながら、笑って誤魔化す。
本来ならばアリサを心配しなければならない立場でありながら、逆に心配されるとは。
そうだ、今はこんな事を考えている場合では無い。
傀儡兵の事なら、42号を倒した後に皆で考えればいい話だ。

「ちょっと考え事があって……あ、でも、アリサの事は絶対に守るから、安心して……!」
「本当に大丈夫なんだか……考え事しててうっかり、なんてやめてよね?」
「もう、アリサったら……それはないよー……!」

軽口を言い合えるだけ、まだ余裕がある方かも知れない。
アリサもこんな事を言いながらも、フェイトを心配してくれている。
それが理解出来ないフェイトでは無いからこそ、絶対にうっかりミスなんてあっては成らない。

「相変わらずアリサちゃんは優しいね?」
「は、はぁ……!? 別に心配したとかそんなんじゃないし、何言ってんのよ!」
「わかってるよ、アリサちゃん」
「わかってない! そのわかってるは絶対にわかってない!」

すずかが、からかうように微笑んだ。
やはりアリサの扱いに最も長けているのはすずかだと感じた。
図星を疲れたのか、顔を赤くして怒るアリサを見ていると、フェイトも微笑まずには居られなかった。
しかし、微笑みも束の間。
窓の向こうに、フェイトが目撃したのは。

「――未確認ッ!?」
「え!?」

フェイトの声に、アリサとすずかが固まった。
笑い声が止み、途端に部屋はしんと静まり返った。
確かに目撃したのだ。窓の向こうで、こちらを見詰める不気味な影を。
あれは以前目撃した未確認生命体第42号に他ならない。
すぐにバリアジャケットを展開し、戦闘態勢に入った。

「二人はここを絶対に動かないで。もし未確認を見たら、私に教えて」
「わ、わかった……」

それだけ告げて、フェイトはすぐに念話を送った。
アースラで既に結界の展開準備を整えている筈のクロノ達と、戦友であるなのは。
彼らに連絡した事で、最早フェイトの警戒に穴は無い。
今は全てを忘れて、未確認の迎撃に集中する。

「ログ・ジバング・バギ……」
「……ッ!?」

聞こえたのは、不気味な声。
未確認が発する、未確認の間だけに通ずる特殊な言語だ。
そんな物を理解する必要は無いし、これ以上耳を傾ける必要も無い。

「ボンゾボゴ・ゴラゲサゾ・バブジヅビ・ボソギデジャス……」
「うるさい――!」

声が聞こえたのは、フェイトから見て右側の窓だった。
その方向に視線を向けるも、そこに未確認の姿は無い。
今度は左から、声が聞こえた。

「ほらほら、こっちだよ」

まるで嘲るような声に、フェイトが感じるは苛立ち。
幸い、まだ聖祥小学校に入学して間もない為に、42号に殺された被害者にフェイトの知り合いは居ない。
それ故になのは程の悲しみを覚えて居なかったのだが、それでも42号の行動に怒りを覚えない訳が無かった。
これから友達になれるかも知れなかった皆を殺されて、悲しまない訳が無かった。
許せない相手からの挑発に、バルディッシュを握る拳に自然と力が込められる。

「――でも、そうだね。“欠片”を僕に返すなら、君達だけは助けてあげない事もないよ」
「かけ……ら……?」
「耳を貸さないで、アリサ!」

フェイトが怒鳴った。
欠片が何の事を言っているのかは見当もつかないが、話を聞く意味は無い。
あの狡猾な42号に誰かを助けるつもりなど毛頭ないだろうし、聞くだけ無意味だからだ。

「君はいいよね。まだ友達を殺されてないから、他人事で居られる」
「黙れッ!」

右から、左から、不気味な声が響き渡る。
それが何処から聞こえてくるのか捕捉できない分、フェイトにも焦りが募る。
それだけならまだしも、今度は先程よりも解りやすい挑発をしてきたのだ。
苛立ちは判断を鈍らせると解っているからこそ、フェイトはそう簡単に挑発には乗らない。
だけど、それでもバルディッシュを握る力が次第に強くなって行くのは、避けられない事実だった。

「僕はその子を助けてあげるって言ってるのに、君は話を聞こうともしない」
「うるさい、うるさい……ッ!」
「やっぱりどうでもいいんだよね、その子の事なんて」

そんな訳無い、と言いたかった。
単に未確認の言う事なんて信用できないからだ、と言いたかった。
だけど、未確認の問いかけに答えてしまえば、それは挑発に乗った事になる。
そうなってしまえば、敵の思う壺だ。それだけは、してはならない。

「もう一度言うよ。その子の持ってるバックルの欠片を、僕に返すんだ。
 そうしたら、命だけは助けてあげる。それが出来ないなら、君はその子の事なんて――」
「――うっさいのよ、さっきからッ!!」

未確認の声を遮ったのは、甲高い少女の声。
フェイトの傍で、一人の少女が立ち上がった。
怒りに眼光を尖らせて、未確認の言葉を遮った。

「さっきから聞いてれば勝手な事ばっかり言ってくれて……この子はね、私の親友なのよ!」
「アリ……サ……?」

果たして、その少女の正体はアリサであった。
42号の挑発にブチ切れてしまったのは、言われた当人では無く、アリサであった。
落ちついて、と言おうとアリサの肩に手を掛けるも、それは容易く振り払われて。

「そりゃ、フェイトはまだ転校してきたばっかりだし、死んだ皆ともあまり係わりが無いのは認めるわよ
 けど! それでもフェイトは、誰かが死んで悲しまないような子じゃない!」
「お、落ち着いてアリ……」
「アンタは黙ってなさい!」
「え……!? う、うん……」

アリサの剣幕に押されては、うんとしか言えなかった。
それから、すぐにそれでは駄目なんだと首を振るう。
こんな安っぽい挑発に乗ってしまっては、相手の思う壺ではないか。
されど、焦るフェイトとは裏腹に、アリサの傍らに座り込んだすずかは笑っていた。
もうこうなってしまっては、アリサは止められないと解っているからだ。

「アンタみたいに、コソコソ人を殺して回るしか出来ない様な奴には一生掛ったってわかんないでしょうけどね、
 結構滑ってる時もあるけど、この子はいつだって、誰かの為に、周りの皆を笑顔にする為に頑張ってるのよ!」

(え、私って結構滑ってたの……!?)

少し引っ掛かったが、一応良い事を言われているのだろう。
最早ぽかんと口を開けて居るだけしか出来なかったが、嬉しくないと言えば嘘になる。
だけど、それでも警戒は緩めずに、フェイトは周囲に気を配って、42号の襲撃に備えていた。

「そんなフェイトを、私の親友を馬鹿にする事だけは、絶対に許さないわ! 例えお天道様が許したとしてもね!
 未確認生命体だか何だか知らないけど、アンタなんかフェイトに比べたらよっぽどショボいのよ!」
「――もういいよ。君は死ね」

その言葉を最後に、窓を突き破って、数本の針が撃ち込まれた。
全ての針が狙うは、アリサを狙っての軌道。
されど、それがアリサに着弾するよりも速く、フェイトが動いた。
針が撃ち込まれると同時にソニックフォームに変身、その勢いで、アリサを抱えて倒れ伏したのだ。

「ありがとう、アリサ」

抱えたアリサから手を離し、立ち上がる。
その瞬間、微笑みと共に告げた言葉は、アリサにはきっと聞こえたのだろう。
結局アリサには命中せず、壁に突き刺さった針に視線を送り、再びバルディッシュを構える。

『――封時結界、発動!』

一瞬の緊迫の後、声が響いた。
刹那、フェイトの視界から、アリサとすずかが消え去る。
結界が発動し、アリサ達一般人が強制的に結界の外に転送されたのだ。
アリサが逆ギレしたのは、未確認からしても予想外だったでは無かろうか。
実際の所は解らないが、何はともあれアリサのお陰で時間を稼ぐ事が出来た。
最早この空間に居るのは、フェイトと未確認と。

「ようやく捕まえた……今度こそ、逃げ道はないよ、42号!」

不屈のエースと呼ばれる、高町なのは。
白き魔法の杖を構えて、42号へと戦線を布告した。

「これ以上、誰も殺させない……今度こそ!」

それから、戦士クウガの力を持った男・五代雄介が駆け付けた。
外で結界の補助を担当しているアルフも入れると、これで全ての役者は揃った事になる。
気付いた時には、背後に佇む五代さんは銀のベルトを出現させて居た。
左前方に勢い良く突き出した右腕を、ゆっくりと右方向へと動かして。

「――変身ッ!!!」

五代さんが、叫んだ。
たちまち、人間としての五代雄介の姿は見えなくなった。
スーツ状の黒い組織が全身を覆い隠し、その上から赤の外骨格が形成される。
頭部に煌めくは、大きな赤の複眼と、王冠にも似た金の角。
最後に戦士クウガの仮面が雄介の頭部を包みこむ事で、変身は完了した。
しかし、変身はそれだけに留まらず。
クウガの身体に雷が走ったかと思えば、右脚には金の装甲が装着された。
身体を覆う赤の外骨格の縁を彩るように、金のラインが走る。
拳には「炎」を意味するリント文字が刻まれて。
少女達との約束を果たす為。これ以上奴に誰の笑顔も奪わせない為。
五代さんは再び、赤の金のクウガへと変身した。
恐らくはこれが、42号とクウガとの最後の戦いになるだろう。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2010年03月01日 06:09