古代の戦士は、その胸に誓った。
これ以上、誰の笑顔も奪わせないと。
これ以上、誰にも悲しい涙は流させないと。

過去も現在も、その思いだけは決して変わる事は無い。
揺るがない思いを受け継いで、戦士は蘇る。
使命と約束を守る為に、その宿命をも受け継いで。
されど、ただ単純に受け継ぐだけでは無い。
二千年の時を越えて、戦士の伝説は塗り替えられる。
二度と憎しみに捉われる事無く、邪悪から人々を守る盾になる。
二度と憎しみに捉われる事無く、邪悪を打ち倒す剣になる。
全ては、守る為に。

殺されたから殺すのでは無い。
罪の無い人々の命を守る為に。
優しい笑顔を奪わせない為に。
その思いを胸に、邪悪を倒す為に、雄介は戦う。
何度決意したか解らないその思いを、再び胸に刻み込んで。
雄介は、変身した。


EPISODE.20 決意


封時結界内、バニングス邸―――10:28 p.m.
この封時結界は、現実世界から隔離された世界にある。
時間信号をずらした事で、結界内の出来事が、現実世界に干渉する事は無い。
勿論、術者がこの結界を解かない限りは、内部の者が外に出る事は不可能。
外から内部へと侵入する事も、基本的には不可能だ。
ゴウラム捕獲時や、対45号戦時。
また、前回の42号との戦いでの、外部勢力の乱入。
それらを踏まえて、今回の結界は抜かり無く用意されている。
だから、最早何の憂いも存在し無い。

「――バスタァァァァァァァァァァァッ!!」

少女の咆哮。
桜色の奔流が、バニングス邸を撃ち貫いた。
如何に頑丈な建造物であろうと、高町なのはの砲撃を受けて只で済む訳が無い。
先程までアリサ達が居た筈の室内から、テラス側へと撃ち出された光は、全てを飲み込んで消滅させた。
なのはに穿たれた屋敷の壁は、無骨な鉄骨を剥き出しにして。
そこから美しい月の光が差し込んだ。

「42号は……!?」
「いない……!」

目標は、42号。
逃げ回る敵を狙うなら、その一体を纏めて薙ぎ払う。
それが今回なのはが実際に使った戦法であった。
相変わらず凄まじい威力だな、と心中でクウガは思う。
テラスへ飛び出し、確認するが、やはり42号の影は無い。
奴はまた、その身を隠したのだ。

「もう逃げ道なんか何処にも無い。逃げても無駄だよ!」

なのはが叫ぶが、返事は無い。
一瞬だが、42号らしき影がテラスを伝って他の部屋へと侵入する姿が見えた。
幸か不幸か、42号は魔法という技術について碌に理解出来ていない。
目に見えるサーチャーは下調べで対応出来たとしても、結界は違う。
実際に自分が使われる側にならなければ、その存在すら未知のものだった。
事実、結界を展開された現状でも、それについて理解しているとは思えない。
となれば、42号からしてみれば、標的である少女達が突然消えたと言う認識になる。
そんな42号が取った行動は、屋敷内への更なる侵入。
クウガからその身を隠し、同時にアリサ達を探すつもりなのだろう。

「そこかァッ!」

部屋に留まっていたフェイトが、その手を翳した。
それはさながら稲妻のように駆け抜ける、金の閃光。
ばちばちと電撃を走らせて、穿たれた壁から奥の部屋が見えた。
一同の視界が捉えたのは、次の部屋へと移動する42号の影。

「42号……!」
「あれは……!」

気付いた様に、クウガが叫んだ。
注目したのは、今し方放たれたフェイトの攻撃。
ばちばちと音を立てるそれは、クウガの目には確かに雷撃に映った。
まさか、と思う。
あの時45号がビリビリの力に目覚めつつあった理由は――

「そうか……だからあの時!」
「何、五代さん……!?」

駆け出し、叫んだ。
クウガの想像が正しければ、フェイトの力は雷の力。
だとすれば、フェイトにこれ以上戦闘をさせるのは得策ではない。
全ての謎が解けた様な気がして、クウガは告げる。

「二人は外で待ってて。俺がアイツを外に出すから!」
「え……う、うん。了解!」
「それから、ビートチェイサーを俺の所に転送して欲しいんだ!」
「わかった、すぐに転送して貰う……!」

迷い無く、フェイトが答えた。
二人にしても、未確認と直接肉弾戦をするのが拙いという事は解っているのだ。
だからこそ、未確認を最も理解しているクウガの指示には、素直に従う。
二人がテラスから外に飛び出したのを確認し、クウガは部屋の窓を蹴破った。
視界の先、何処までも続く長い廊下は、何処かの城にでも居る様な気分になる。
長い廊下の壁には、一定間隔で設けられた部屋へと続くドア。
数えるのも億劫になる程の数。

そんな中、真っ先に目に入ったのは、開け放たれたままのドア。
42号が移動したであろう、フェイトが壁を穿った部屋だ。
この部屋に既に42号が居ない事は解っている。
ならばとばかりに、クウガが開け放ったのは、その向かい側のドア。

「……!」

進入し、構える。
されど、そこは何の変哲も無い一室。
綺麗に掃除された部屋で、ここに42号が居る気配は無かった。

――パチン

「……ッ!?」

音が、聞こえた。
静寂が支配するこの屋敷内に響く、乾いた音。
ぱちん、と。それは指を鳴らした際に鳴る音。
42号が、クウガ相手に遊んでいるのだ。
音が聞こえた方向へ、窓を突き破り、テラスに飛び出る。
硝子の破砕音と、飛び散った硝子の欠片。
それ以外は、何も見当たらなかった。
否、そんな筈は無い。
奴はまた、別の部屋へと逃げ込んだのだ。

硝子を突き破って、隣接した部屋へと突入。
されど、何も無い。未確認が居た痕跡も無い。
何度硝子とドアを突き破っても、そこに42号の影は無い。
音が聞こえる方向へと駆け出しても、42号は既に別の部屋へと移動しているのだ。
こんな時、部屋の多いバニングス家の屋敷は非常に面倒だと感じた。
最も、こんな状況になる事はそう無いのだが。

「……これはっ!」

壁に掛けられていたモノに、クウガは興味を惹かれた。
バニングス家程の豪邸ともなれば、成程と頷ける。
壁に掛けられていたライフルに手を取り、それを眺める。
趣味で集めて居たのか、狩猟用の物なのか、用途は不明だ。
だが、用途が何であろうと、クウガにとっては無関係だ。
銃の形をしている。ただそれだけで、十分。

「……ッ!」

銃を片手に持ち直し、歩を進めようとした時、異変は起こった。
クウガの隣に、突如として魔法陣が展開されたのだ。
何事かと構えるクウガであったが、しかしそれは杞憂に終わる。
魔法陣の中央に現れたのは、クウガにとって最も心強い味方であった。
白銀のボディに、青のラインが描かれたそれの名は、BTCS2000。
またの名を、ビートチェイサー2000。
先程なのは達に頼んでおいた、クウガにとって最高の戦力だ。

『注文通り、確かに届けたよ、五代君!』
「ありがとうございます、エイミィさん!」

ビートチェイサーに跨り、アクセルを握り締める。
無公害エンジンの轟音が響いて、変化するヘッド部分。
ヘッドの青は金へと変わり、車体の銀は黒に変わる。
青のラインが赤へと変色し、最後に“クウガのマーク”が刻まれた。

『ゴウラムもすぐに転送できるけど、どうする?』
「はい! 必要になった時は、お願いします!」
『了解、いつでもOKだよ!』

安心した。
これで、ゴウラムを戦力に入れて考える事が出来る。
ビートチェイサーの後部にライフルをくくり付けた。
そして、集中。
クウガが求めるは、更なる超感覚。
アマダムに念じ、感覚を研ぎ澄ませ。

「超変身ッ!」

刹那、クウガの色が変わった。
二つの複眼が、緑色に煌めいて。
金で縁どられた赤が、同じく金で縁どられた緑へと。
左の肩には、緑と金の肩当て。
右の腕には緑と金のリング。
手甲には、「疾風」を司るリント文字。

――邪悪なる者あらば、その姿を彼方より知りて、疾風の如く邪悪を射抜く戦士あり――

視覚や聴覚、あらゆる感覚が人間の数万倍に跳ね上がった形態。
緑の金のクウガ、またの名をライジングペガサスフォーム。
だが、持続時間はそう長くは無い。
赤の金状態での変身時間は無制限になっている様だが、恐らくこの形態では話は別だ。
変身が強制解除されて白になる前に、決着をつけなければならない。

「………………」

感覚を研ぎ澄ませる。
外に居るなのはとフェイトの声が、まるで傍に居る様に聞こえる。
だが、求めている声は少女達のそれでは無い。
集中し、標的を探る。

――パチン

また、指が鳴った。
だが、今度は今までとは違う。
何処から聞こえたのか。それが何処に移動するのか。
42号の向かう方向まで、全てがはっきりと聞き取れた。
ビートチェイサーのアクセルを握り締め、クウガは加速した。
ドアを突き破り、廊下で旋回。
クウガから逃げるように遠ざかって行く足音が聞こえる。
テラスを走って、別の部屋へと移動しているのだ。
それに平行して、ビートチェイサーが廊下を走る。
ぴったりと、離れない様に。
幾つかの部屋を跨いで、42号は一つの部屋に入った。
ようやく見付けた。もう、逃がす事はない。
一瞬の判断で緑から赤へと戻り。

「おりゃぁぁぁッ!」

ビートチェイサーの前輪を持ち上げて、ドアを突き破った。
いよいよ以て目視出来る距離まで迫った42号は、酷く驚いている様子だった。
ヤマアラシの怪人は、頭の針を揺らしてクウガに向き直る。
すかさず42号の眼前まで迫り、再び前輪を持ち上げた。
ウィリー走行で以て繰り出された前輪は、42号の顔面を殴打。
声にならない嗚咽を漏らして倒れこむ42号。
再び前輪を持ち上げ、42号に迫る。

「クッ……ギヅボ、ギンザジョ……クウガッ!」
「はぁぁぁッ!」

ごろごろと床を転がる事で回避。
前輪は、何も無い床を打っただけだった。
そのまま42号が廊下へと飛び出た。
すかさず追跡し、今来た廊下へと飛び出た。
廊下を走って逃げる42号の姿が目に映った。

「エイミィさん、ゴウラムをお願いします!」
『了解、すぐに転送するよ!』

それだけ告げて、クウガは視線を背後へと向けた。
クウガが視線を向けるは、先程ビートチェイサーに取り付けたライフル。
それを携えて、再び念じる。
42号を撃ち抜くだけの力が欲しい、と。

「超変身!」

再びクウガの身体の色が変わった。
赤から緑へ。複眼が、装甲が、そのスタイルを変えて行く。
それに呼応する様に、手に持ったライフルが形を変えた。
黒と緑に変わったそれは、さながらボウガンの様で。
やがてボウガンに稲妻が走って、金の装甲が追加される。

「……はっ!」

ライジングペガサスボウガンを構え、発射。
三連撃で、クウガの腕に振動が伝わった。
一度の攻撃で、発射された矢の数は、三発。
その全てが稲妻を纏い、標的へと向かって駆け抜けるが。

「……かわされた!?」

42号は、その反射神経で以て素早く床を転がった。
結果、一発目と二発目はそのまま通過。
奥の壁に突き刺さって、封印のリント文字と共に、消えた。
されど、その全てが回避された訳ではない。
三発発射された内、最後の一発のみが、掠っていた。
最後の矢は42号の太ももを掠めて、微かに封印の文字を浮かばせて居た。
本来のライジングブラストペガサスは、未確認を死に至らしめるには十分な威力。
それが掠っただけでも、未確認からすれば十分な脅威に成り得るのだ。
緑による疲労がピークに達する前に赤のクウガに戻った。

「よしっ」

息と共に、言葉を吐き出した。
両手でハンドルを握り締め、加速。
まるでタイミングを見計らったかのように、疾走するクウガの真上に魔法陣が現れた。
そこから現れるは、漆黒の装甲騎ゴウラム。
クウガの頭上で、ゴウラムは真っ二つに割れた。
二つに割れたゴウラムは、装甲としてビートチェイサーと融合。
ビートゴウラムへと進化した事で、自然とマシンの速度が上昇する。

「ハッ……クウガ……ァ!?」

42号が、太腿の痛みを振り払い、立ち上がった。
だが、もう遅い。反応するのが遅過ぎたのだ。
ビートゴウラムに備わった二つの大顎が、42号を挟み込む。
すかさず針を構える42号だが、そんな攻撃をまともに受けるクウガでは無い。

「超変身!」

叫びは一瞬。
42号が投擲した針がクウガの身体に触れる前に、クウガの身体は鎧に覆われた。
強固たる紫と金の装甲は、42号の攻撃を一切受け付けない。
紫の瞳が、針を投げ続ける42号を捉える。
だけど、それは無駄な攻撃でしか無く。
針は全弾鎧によって弾かれて、床へと落下。
それを加速し続けるビートゴウラムが、踏み付けて駆け抜ける。
そんなクウガの視界の先に待ち受けるは、何も無い、只の壁。

「おりゃぁぁッ!!」

咆哮と共に、廊下の突き当たりに突貫。
ビートゴウラムの加速力で衝突されれば、如何に頑丈な壁であろうと一たまりも無い。
結果、屋敷の壁はビートゴウラムによって粉々に粉砕。
加速による勢いで、42号とクウガは、外へと飛び出した。

「グッ……ァア――」

二階の壁を突き破り、外へと放り出された42号。
ふらふらと立ち上がり、クウガへと視線を向ける。
ビートゴウラムから足を下ろしたクウガの身体は、元の赤に戻っていた。

「五代さん! 大丈夫ですか!?」

空から掛けられる、声。
クウガは歩きながら、右腕を横に突き出した。
親指を立てて、自分は大丈夫だ、と伝える。
それは、身体面でのみの大丈夫では無く。
精神面も併せて、大丈夫だ、という意味。

「ドブパ……ドブパ・キュグ・キョブン・ジャリ――」
「ふんッ!」
「――グゥッ!」

真っ直ぐに突き出された赤の拳が、42号の胸を捉えた。
嗚咽と共に、42号が後ずさる。
それでも、42号はまだ負けるつもりは無いのだろう。
今度はクウガに向かって、駆け出した。

「ハァァァァァッ!」
「ぇぇおぉぉりゃッ!!」

身を翻して、後ろ回し蹴りの要領で足を突き出した。
クウガの右脚が、42号の胴体に打ち付けられる。
後ずさり、今度は両手に大量の針を掴み出した。
すかさずそれを、投擲、投擲、投擲。
投げて投げて、投げまくる。

「はぁッ!」
「――!?」

しかし、それは全て空振り。
42号の針がクウガに届く前に、クウガの身体は変わった。
青の複眼に、青の装甲。それを金で縁どった、青の金のクウガ。
余分な生体鎧を省いたスリムなスタイルから繰り出される機動力は、生半可では無い。
一瞬で跳躍し、42号の背後を取る事に成功した。

「……ボンバドボソゼ! ボンバジャヅビ!!」

何事かを叫ぶが、それは誰にも理解されない。
赤に戻ったクウガの拳が、再び42号の顔面を殴り付けた。
地面を転がって、それでも起き上る。

「ギンゼ・ダラスバ……ボンバドボソゼ……ドブパ……ッ!」

今度は、後方に向かって走り出した。
この期に及んでの逃走。戦闘の放棄。
そうまでして生きたいのだろう。
誰だって二度死にたくはあるまい。
しかし、逃がす訳には行かない。
こいつを逃がせば、また多くの人が泣く。
優しい笑顔が奪われて、その周囲の人々が、連鎖的に涙を流す。
そんな光景は、もうこれ以上見たくない。
だから。

「「今度は逃がさない!」」

なのはとクウガの声が、重なった。
上空から降り注ぐ桜色の光弾は、42号の行く手を阻むには十分だった。
足元で爆ぜたスフィアを無視して、そのまま逃げられる奴などそうそう居る訳も無く。
アクセルシューターの爆発でバランスを崩した刹那、42号を突風が襲った。

『Barrel Shot』

なのはが持ったレイジングハートが、その術名を告げた。
バレルショット。大技を使用する際に、相手を拘束する為に使う魔法だ。
吹き抜けた突風によって、42号の身体は“大の字”で固定される。
何とかして抜け出そうともがいてはいるが、それは無駄な足掻きでしか無い。

「五代さん!」
「わかってるよ、なのはちゃん!」

赤の複眼と青の視線が、交差した。
二人の間に、最早それ以上の言葉は不要。
境遇の違いはあれど、同じ思いで戦う二人だからこそ。

「ふんッ!」

右手を突き出し、構えた。
迸る金の雷が、クウガの右脚でばちばちと音を立てる。
そのまま両の手を左右に広げ、腰を深く落とした。
右脚に力を込めて、足裏で地面を捻る。
足裏で発生された炎が、地面に焼き付くようだった。

「全力……全壊ッ!」

クウガの上空。
なのはが突き出した杖が、変形した。
金の矛先から、美しく煌めく桜色の翼を展開させて。
桜色の魔法陣が、なのはの足元に展開されていた。

「エクセリオン……――」

一歩一歩、地面を踏み締めて。
その度に、炎と雷が、クウガの右脚を焼くようだった。
42号とクウガの距離が縮まって行く。
上空で集約されて行く桜色の光が、その光度を高めて行く。
殺す為の技では無く、守る為に使う技。
人々が、優しい笑顔で笑っていられる世界にする為に。
悲しみの連鎖を繰り返させない為に。

「――バスタァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

放たれるは、極光。
夜の闇を吹き払う程の光が、奔流となって押し寄せる。
夜空に輝く星の光よりも眩く、気高く、美しく。
それは42号を飲み込んで、凄まじい轟音を響かせて。
さながら、神の裁きとでも言わんばかりに、一点に向かって照射されていた。

「ふんッ!」

右脚に宿るは、炎と雷。
それらは極限まで高められて。
クウガの身体は、声と共に飛び上がった。
全力で、跳躍する。
高く、高く。
夜空に舞い上がる様に。

「おぉぉりゃぁぁぁぁぁぁああああああああああああああッ!!!」

咆哮と共に、一回転。
燃え盛る右脚を突き出して、光の中へと飛び込んだ。
重力に引かれて落下するクウガの身体を、桜色の閃光が押し出す。
それはまるで、クウガに更なる力を与えるようだった。
紅蓮の炎と、迸る稲妻と、眩き星光。
凄まじい加速で以て打ち出された右脚は、確かに標的を撃ち砕いた。

それは、五代雄介と言う人間が最も嫌う感覚だった。
どうしても好きにはなれない、“壊す”という感覚。
だが、それでも。
そこに、一切の迷いは存在しない。
大好きな人間を守りたいという思いがある限り。
皆の優しい笑顔を守り抜くという決意がある限り。
そして、人々の“愛”の前に立つ限り。
雄介は、もう二度と立ち止まりはしない。




爆発。轟音。爆煙。
その三大要素が、封時結界の中で同時に巻き起こった。
庭の草は全て焼き払われ、バニングスの屋敷も、最早見る影も無い。
だけど、それでも、彼らは変わらずそこに居た。
無言で親指を突き出すのは、赤の鎧を纏った戦士。
笑顔で親指を突き出すのは、白装束の魔法使い。
二人の約束は、ここに果たされた。
そんな充実感に満ちた二人とは裏腹に。
ただぼんやりと、夜空に向かって上って行く爆煙を見詰めている少女が居た。
金髪を揺らして、先程まで爆発の中心部に居た未確認に、思いを馳せる。

(母さん……そんな訳、ないよね)

気付けば、赤の戦士が――クウガが此方に視線を送っていた。
はっとする。折角敵を倒したのに、自分がこんな顔をしていては心配させてしまう。
それは少女の優しさ故の反射的な行動か。
慌てて微笑みを作って、サムズアップを送っていた。


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最終更新:2010年03月01日 05:55